• 検索結果がありません。

南太平洋、ツバル -- 伝統スポーツと近代スポーツのはざまで (特集 途上国・新興国のスポーツ)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "南太平洋、ツバル -- 伝統スポーツと近代スポーツのはざまで (特集 途上国・新興国のスポーツ)"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

南太平洋、ツバル -- 伝統スポーツと近代スポーツ

のはざまで (特集 途上国・新興国のスポーツ)

著者

石原 豊一

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

237

ページ

18-21

発行年

2015-06

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003184

(2)

  この冬に開催されたサッカーの AFCアジアカップは、オースト ラリアの優勝で幕を閉じた。この オセアニアの大国は、代表チーム 強化を理由に、二〇〇六年からア ジアサッカー連盟に属している。 その結果、この国が抜けたオセア ニアサッカー連盟は、すっかり世 界のサッカー界から取り残されて し ま っ て い る。 現 在、 ワ ー ル ド カップ出場枠は〇・五。大陸予選 の後に行われるプレーオフでは、 毎回必ずといっていいほど他大陸 の強豪国に出場権を奪われてしま う。毎年末に行われるクラブワー ルドカップでも、他にライバルと なる国もないため、必ずといって いいくらい出場するニュージーラ ンドのアマチュアクラブは、トー ナメントの初戦に組まれる開催国 枠で出場した地元プロクラブとの

 

南太平洋、ツバル

石原

  豊一

❖特集❖

途上国・新興国のスポーツ

試合に敗れるのが恒例になってい る。このことに象徴されるように、 オセアニアは、グローバル化と商 業化の進む昨今のスポーツシーン から取り残されている感がある。   これまで私はこの地域の国々を 何度も訪ね、その度、南の島々の スポーツシーンを目にしてきたが、 そ の 姿 は、 「 の ど か 」 の ひ と こ と に集約される。赤道直下のキリバ スでは、輪切りにしたドラム缶に コンクリートを流し込んで作った バーベルを、いとも簡単に持ち上 げる女性ウェイトリフターの姿に 驚かされた。太平洋の島々に住ま う 人 々 の 太 い 腕 に 秘 め ら れ た パ ワーが、我々日本人とは全く比べ 物にならないことは、その後年、 トンガやフィジーで町を歩いてい る際、ふらりと立ち寄ったジムで も思い知らされた。彼らが笑いな がら軽々と持ち上げるおもりは、 私が力いっぱい持ち上げようとし てもびくともしなかった。   そういう彼らのパワーが活かさ れるスポーツの定番が、ラグビー に代表されるフットボールである。 この地域の競技場のほとんどには、 その両端に高々とゴールがそびえ た っ て い る。 こ れ に 加 え、 サ ッ カーゴールがそのそばに置かれて い る こ と も 多 く、 ま た、 深 緑 の フィールドの真ん中に芝が刈り取 られた砂場があったりする。これ はクリケットで投手と打者が対戦 するピッチである。   ス ポ ー ツ 社 会 学 の 大 家、 ア レ ン・グットマンは、人類の身体文 化を伝統スポーツと近代スポーツ に大別した。そしてジョセフ・マ グワイアは、規格化された近代ス ポーツは、産業化の波に乗り、は じめ「帝国」の文化事象としてイ ギリスから世界各地に広がり、つ いで商業主義と結びついたアメリ カ 発 の そ れ が 世 界 中 に 普 及 し て いったとする。彼らの論をもとに、 オセアニア、とくに太平洋諸島の スポーツを俯瞰すれば、大英帝国 発のフットボールやクリケットは 普 及 し た も の の、 そ の 後、 マ ー ケットとしての魅力の乏しさから アメリカンスポーツはついにやっ てこなかったと考えることもでき る。バレーボールやバスケットは 現地でもプレーされるが、やはり そ の 人 気 は フ ッ ト ボ ー ル、 ク リ ケットにはかなわない。   ツバル、といえば、地球温暖化 による海水面の上昇により消滅が 危惧されている島国である。南太 平洋にあるこの島嶼国へは、地域 の「 大 国 」、 フ ィ ジ ー か ら の 週 二 便の小型機しか足がない。この地 理的な条件は、この国をある意味 現代文明から隔絶させており、首 都フナフチでもいまだ人々は伝統 の色濃く残った生活を営んでいる。   もちろん、この国にも携帯電話 やインターネットなどのインフラ は整っている。それでも、まとも なスポーツ施設といえば、首都の あるフナフチ環礁の空港ターミナ ル横にある草が生い茂る「国立競 技 場 」( 写 真 1) く ら い し か な い

(3)

という環境は、この国を商業化し たスポーツの影響から隔絶させて いる。   週二回しか使われることのない 滑走路とその周辺の平らな野原は、 夕暮れ時になると、島民のかっこ う の 遊 び 場 に な る( 写 真 2) 。 ど こから持ち込んだのか、ゴムタイ ヤを土台にしたポールに、バレー ボールのネットが張られ、視線を 移 せ ば、 ラ グ ビ ー、 サ ッ カ ー の ボールを男たちが追い回している のを目にすることができる。定期 的に草刈りが行われ、小さなスタ ンドまで付いている競技場の方は、 デコボコだらけのフィールドが嫌 われてか、見向きもされない。週 二回ほど行われるサッカーの「ナ ショナルリーグ」までが、舗装さ れた滑走路の延長上にある原っぱ に白線を引いて行われている。   夜は夜で、滑走路そばにある照 明付きのバスケットコートに若者 が集まる。   みたところ、この国で人気を二 分 し て い る の は、 サ ッ カ ー と バ レーボールだ。サッカーのリーグ 戦は、出身島別の八つのチームが 参加している。現在のところ、こ の国最大の懸案事項は、離島から 主島フナフチへの人口の集中なの だが、その結果として、この島で は、コミュニティは出身島別に形 成 さ れ、 「 ナ シ ョ ナ ル リ ー グ 」 も 離島間を移動することなく首都で 実施できるのである。   この滑走路周辺では、週末にな ると、槍投げや円盤投げ、走り幅 跳びなどの競技測定会やクリケッ トも行われている。いまだユニオ ンジャックを国旗に描いているよ うに、この国は、旧宗主国であっ たイギリスの文化的影響が強いよ うだ。その一方で、冠婚葬祭や国 賓の来訪時には、島ごとの伝統ダ ンスが披露されるなど、いまだ伝 統 芸 能 が 人 々 の 生 活 と 密 接 に 関 わってもいる。   グローバル化を語る時に忘れて はならないことは、グローバル化 とは決して均質化だけを指すもの ではないということである。他文 化との邂逅が触媒となって、ロー カル、あるいはエスニックな意識 が刺激され再活性化することもあ る。そのような「グローカル」な 意識は、スポーツの場においては、 しばしば受容した競技を自己流に 解釈したり、あるいはローカルな 競技に作り替えたりすることで表 象化される。   ここツバルでは、クリケット競 技にそのことが現れていた(写真 3) 。 こ の 地 の ク リ ケ ッ ト は、 本 場イギリス領のそれとは少々ルー ルが異なっていた。通常、打者は、 打撃後、打ったボールがウィケッ ト(投手と打者の対戦が行われる ピッチの両端にある三本の杭。野 球でいうベースに当たる)に戻っ て く る ま で に、 二 つ の ク リ ー ス ( ウ ィ ケ ッ ト の 前 に 引 い て あ る 線。 ここに打者が到達するとポイント 写真2 夕暮れ時のフナフチ空港の滑走路 写真3 ツバル・クリケットの様子 写真1 フナフチ環礁にあるこの国一番のスポーツ施設

(4)

になる)の間を走って往復を繰り 返 し、 得 点 を 稼 ぐ の だ が、 ツ バ ル・クリケットの場合、打撃後は、 二人の打者(クリケットの場合、 打 者 = バ ッ ツ マ ン は 両 方 の ウ ィ ケット上にいる)が走る代わりに、 フィールドの端にいる二人の男が、 長い竿を半円状に往復させること により、得点をカウントする(写 真 4) 。 ま た、 ど ん な ボ ー ル で も 基本的に打ち返さなければならな い こ の 競 技 で は、 ボ ウ ラ ー( 投 手)は、打者が打ち返しにくいよ う、ボールをバッツマンの手前で ワンバウンドさせるのが多いのだ が、ここではむしろ、ボールをバ ウンドさせず、打者が打ちやすい ような球を投げることが多い。   また、独特のボールゲームもあ る。彼らが「トラディショナル・ ゲーム」というその競技の名は、 アノ、またはアヌという。地元民 の話では、主島フナフチの北西四 六〇キロにある離島、ナヌマンガ 発祥の競技らしい。その昔、島の 王の崩御の際に、その王の頭部を 民衆がボール代わりにして海に向 かってトスしあい、海水で清め、 再びそれを浜から海へトスで運ぶ という儀式が行われていたことに 由来するという。にわかには信じ が た い 話 だ が、 「 死 」 と い う も の に対する捉え方が現在とは大きく 違った時代には、そういうことが 行われていたとしても不思議では ないかもしれない。伝統スポーツ が近代スポーツに変容する際、そ の暴力性が軽減されることは、す でに多くの研究者が指摘している ことだが、この古い儀式が由来だ というこの「トラディショナル・ ゲーム」もまた、西洋文明との接 触により暴力性を取り除かれてい るようである。   競技は二つのボールを使って行 われる。なかに何が入っているの かはわからないが、ヤシの葉を編 ん で で き た ボ ー ル は か な り 重 い (写真5) 。大きさは、ハンドボー ルよりひと回り小さいくらい。な るほど人の頭ほどの大きさである。 一チームの人数は厳密には決まっ ていないようだが五〇人ほどだっ た。チームはコミュニティ別に編 成されているようだ。この島のコ ミュニティは国内の離島別に形成 されているので、サッカーと同じ く島対抗戦ということになる。競 技者には、女性も数名混じってい たが、女性の多くは、フィールド 外 の テ ン ト の 下 な ど で 観 戦 に ま わっていた。   両チーム六列ほどに隊列を組ん で一〇メートル程離れて陣取る。 各々の隊列の前には、両軍のから 二人が縦列して陣取る。彼らがこ のゲームの主役であることは、そ の屈強な体つきからもうかがえる (写真6) 。   両チームひとつずつボールが与 えられ、縦列した二人のうち、相 手 チ ー ム へ 向 か っ て 前 の 男( ア タッカーとしておこう)が、その 後ろの男(レシーバー)にパスす ることによってゲームが開始され る。レシーバーからパスし直され たボールを、アタッカーは、ちょ うどバレーボールのサーブの要領 で、相手チームへ投げ込む。   このボールが、六列に並んだ相 手陣形の外へ行けばアウト、なか に入れば、相手はバレーボールの トスの要領で、前方へ回していく こ と に な る。 ボ ー ル が、 受 け 手 チームのレシーバーまで帰れば、 攻撃側のアウトとなり、この場合 は、受け手チームにポイントが与 え ら れ る。 陣 形 の な か に 入 っ た ボールをうまく戻すことができな い場合は、攻撃側のポイントとな 写真4 フィールドの端で竿を往復させる人 写真5 アヌで使用されるボール

(5)

特集:伝統スポーツと近代スポーツのはざまで り、両軍から放たれた二つのボー ルが共にアウトになったところで ワ ン ユ ニ ッ ト が 終 わ る。 有 効 な ボールがなくなれば、次のユニッ トに移り、これが何度か繰り返さ れて、一ゲーム終了となる。   みたところ、ボールを二つ使う 以外は、バレーボールに類似した 競技である。この類似が、偶然の ものであるのか、この競技が、地 元民のいう古来の儀式と、近代ス ポーツとしてのバレーボールの融 合の結果生まれたものであるかに ついては、私にはわからない。   一ゲームが終わると、いったん 休憩となる。この間に、両軍の代 表者数名が順番に演説を行う。言 葉が理解できないので、内容は不 明だが、相手チームを揶揄する内 容であることは、しぐさなどから うかがうことができる。また、そ の内容はユーモアにあふれている ようで、頻繁に笑い声が聞こえる。   ゲームには、競技者と同じくら いの数の観客が集まり、休憩中に は、競技者の一族が、着色料のつ い た 砂 糖 水( 地 元 民 は こ れ を 「 ジ ュ ー ス 」 と 呼 ん で い る ) を バ イクで運んできて皆に振る舞って いる。   三〇分ほどの休憩が終わると、 攻守の場所を入れ替え、二ゲーム 目に入る。計何ゲームするのかは わからないが、三時間ほどしてい るようだ。   このゲームを私は、金曜の夕方 と土曜にみたが、土曜は午前中に クリケット、午後にこのゲームが 行われ、すべてのプログラムが終 わった後は、負けた方に罰ゲーム が課されていた。勝った方が、敗 軍のなかから何人かを、両軍が相 まみえ座っている間に順次引きず り出し、匍匐前進させたり、男性 にシャツを脱がせ、それを胸に巻 いて「女装」させた上でダンスを させられるなどの「罰ゲーム」の あと、木の棒でお尻を数回叩かれ る。 「 罰 ゲ ー ム 」 の な か に は、 「 馬 」 を 作 ら さ れ た 三 人 の 男 の 上 に、勝った方のメンバーの柄の大 き な 女 性 が 乗 っ か る と い う の も あった。いずれにしても罰ゲーム の際には、場内から大きな笑い声 がおこる。   とにかくツバル人はよく笑う。 彼らにとって、この競技の勝敗は 問題ではない。週末を笑って過ご すツールとしてこれらのゲームは 存在するのだ。   ツバル人たちの大きな体をみる と、商業化したスポーツの世界に どっぷりと浸かった私などは、つ いつい、彼らのパワーを相撲やラ グビーに活かしたらビッグマネー が転がり込んでくるのでは、など と思ってしまう。スポーツがすっ かり商業主義に浸りきった現在、 その技能は富へのツールと化して いる。そのため、アスリートの越 境は年々その数を増している。あ る意味それは近代スポーツの行き ついた先の姿なのだろうが、人類 が、労働と余暇の明確な区別を行 うようになった近代を迎えた時に、 余暇を楽しむ手段として生み出し た ス ポ ー ツ が、 「 労 働 」 へ と 変 質 してしまった今、グローバル化す る近代社会から隔絶されたこの南 太 平 洋 の 孤 島 に、 「 余 暇 」 と し て のスポーツの原点が残されている ことに、私はある種のアイロニー を感じてしまう。   この島嶼国家は、この三月にバ ヌアツを襲った巨大サイクロンの 被 害 を 受 け た と い う。 ツ バ ル の 人々の無事を祈るとともに、あの のどかなスポーツシーンが、今後 も続いていくことを心から願う。 ( い し は ら   と よ か ず / ア フ リ カ 学会会員 ) * 記事中に掲載の写真は、すべて 筆者撮影 写真6 アヌの陣形

参照

関連したドキュメント

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

グローバル化における仲裁法制改革とアジア諸国 ( 特集 グローバルなルール形成と開発途上国).

「高齢者の町」の一現実 (特集 新興諸国の高齢化 と社会保障).

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所/Institute of Developing Economies (IDE‑JETRO) .

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

国際図書館連盟の障害者の情報アクセスに関する取

太平洋島嶼地域における産業開発 ‑‑ 経済自立への 挑戦 (特集 太平洋島嶼国の持続的開発と国際関係).

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.