非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント : 正規雇用者との比較から
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(2) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. 〔学術資料〕. 非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント -正規雇用者との比較から- Work Engagement of the non-regular employees 天池雅彦 Masahiko Amaike 要旨. 本論文は,雇用者の 4 割近くを占める非正規雇用者の仕事に関連したポジティブで充. 実した心理状態であるワーク・エンゲイジメントの特徴を検討したものである。60 歳以上の 非正規雇用者,60 歳未満の非正規雇用者及び正規雇用者との 3 者間でワーク・エンゲイジメ ントとその関連要因を比較した結果,60 歳以上の非正規雇用者は正規雇用者及び 60 歳未満 の非正規雇用者と比べて,ワーク・エンゲイジメントを高める仕事の資源は少ないにも関わ らず,ワーク・エンゲイジメントは低いものではなく,同じ水準にあった。この結果は,非 正規雇用者のワーク・エンゲイジメントは低いと一律にみなすことはできなく,正規雇雇用 者と同レベルのワーク・エンゲイジメントを持って,仕事にやりがいを感じて働いている非 正規雇用者の存在もあることを示唆するものである。 キーワード:非正規雇用者,ワーク・エンゲイジメント,仕事の資源,仕事の負担. 1. 問題と目的 (1)問題 現在,わが国では働き方改革について,国,企業などで各種の取り組みが行われている。その 中でも長時間労働の問題は古くから議論されてきた根深い問題である。年間総実労働時間は減少 傾向にあるものの,欧州諸国と比較して年平均労働時間が長いうえに時間外労働を週 40 時間以上 する労働者の構成割合は依然と高い(厚生労働省,2017a)。長時間労働に関して,従業員パネルデ ータの分析から黒田・山本(2014)は,長時間労働がメンタルヘルスを毀損する可能性があるこ とを指摘している。さらに,時間外労働時間が過労死の労災認定基準注 1)に取り入れられているよ うに長時間労働は直接に雇用者の生命を脅かす要因にもなっている。 また,長時間労働だけでなく,「職場の人間関係」「仕事量・負荷の増大」「仕事の責任の増大」 など仕事や職場関連の要因から 6 割以上の事業所でメンタルヘルスに問題を抱えている正社員が 存在している。そして,約 9 割の事業者がメンタルヘルスの悪化が企業パフォーマンスを低下さ せていると認識していることも明らかにされている(労働政策研究・研修機構,2012)。さらに, 共働き世帯を中心に長時間労働が仕事と家庭の両立を達成する上で強いストレスとなっている. 183.
(3) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. (厚生労働省,2017b)。これらから現在の社会では,長時間労働や仕事に起因するストレスが心 身の健康問題,企業のパフォーマンスや労働者個人・家族の生活にも影響を及ぼしている状況に あると言える。 このような状況に加えて,わが国では,労働力人口の減少時代を迎え,従来からの長時間労働 に依存する働き方の改革による生産性の向上,女性,高齢者,障害者さらには外国人材といった 多様な労働力の活用が企業・組織に求められている(島津,2014)。特に,女性,高齢者,外国人 材といった多様な人材の多くは非正規雇用である(たとえば,女性に関しては総務省,2019;高 齢者に関しては厚生労働省,2016;外国人に関しては,労働政策研究・研修機構,2009)。 さらに,経済のグローバル化,IT 技術革新の進展にともなう業務の見直しに加えて,派遣法改 正などの規制緩和の影響も受けて非正規雇用者は増加している(阿部,2010)。現在,雇用者に占 める非正規雇用者注 2)の割合は 2003 年には 30.4%と 3 割超えて,2018 年には 37.8%(2,012 万人) と 4 割近くに迫っている(労働政策研究・研修機構,2019)。 正規・非正規雇用者,女性,高齢者,障害者,外国人材といった多様な人材の活用には問題解 決能力の向上といったプラス面があるものの,コミュニケーション不良や感情的対立などの対人 関係上の問題がある(堀田,2015)。そのため同質性が高いとされる日本の職場環境では,正規雇 用者を中心とした従来からの人材と多様な人材ともに働きづらさがあることが示唆される。 長時間労働問題,非正規雇用者の増大をはじめ,多様化する雇用者などを抱える今日の職場状 況において,すべての労働者が健康でいきいきと働き,生産性を発揮できることが重要である。 そのために,近年,健康と生産性の両立を図る鍵概念として「ワーク・エンゲイジメント」が注 目されている(島津,2018)。 ワーク・エンゲイジメントは,Seligman の提唱したポジティブ心理学注 3)の流れをうけて提唱さ れた仕事関連の概念であり(島津・江口,2012;岡田,2013),「活力,熱意,没頭によって特徴 づけられる仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」(Schaufeli, Salanova, González-Romá & Bakker , 2002)と定義される。ワーク・エンゲイジメントの高い人は,仕事に誇りややりがいを感じ て熱心に取り組み,仕事から活力を得て生き生きとした状態にあると言える(島津,2014)。 ワーク・エンゲイジメントに関する従来の実証研究を概観すると,以下の 2 点が明らかにされ ている。第 1 に,ワーク・エンゲイジメントは仕事の資源(上司の支援・同僚の支援,パフォー マンスのフィードバック,仕事での成長の機会など)や個人の資源(自己効力感,楽観性,組織 での自尊心など)によって高められる。第 2 に,ワーク・エンゲイジメントは,心身の健康,仕 事や組織に対するポジティブな態度(組織コミットメント,職務継続意思など),仕事のパフォー マンスを高める効果を持つ(島津,2014)。 現在,上述のごとく,雇用者における非正規雇用者は4割に迫るまでになっている。そのため, 全ての労働者の健康でパフォーマンス高い働き方に寄与する知見を得るためには,非正規雇用者 を考慮したワーク・エンゲイジメント研究が必要である。ところが,日本人労働者を対象とした ワーク・エンゲイジメントの実証研究は正規雇用者を対象としたものがほとんどである。非正規. 184.
(4) 非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント(天池雅彦). 雇用者を対象とした数少ない研究として,吉岡(2014)をあげることができる。そこでは,派遣 労働者には,派遣労働を選択した理由によってワーク・エンゲイジメントに差はないとしている。 しかし,吉岡(2014)だけでは,非正規雇用者のワーク・エンゲイジメントの特徴が十分に把握 されているとは言い難い。よって,非正規雇用者のワーク・エンゲイジメントの特徴を把握する ことが必要となる。特に,特徴把握のためには,非正規雇用者だけを調査するのではなく,正規 雇用者を含めた調査により両者の比較のなかで非正規雇用者のワーク・エンゲイジメントを捉え ることが求められる。 加えて,現在,定年年齢を 60 歳としている企業が 79.5%と多数を占め(厚生労働省,2017c), 定年以降の勤務は非正規雇用とするケースが多い(藤波・大木,2011)。その上,60 歳以上の継続 雇用者の賃金は定年到達時から 4 割程度下がるなどワーク・モチベーション向上につながらない 可能性がある(藤波・大木,2011)。これらから雇用者の仕事意欲に関連するワーク・エンゲイジ メントは,正規・非正規といった雇用形態や 60 歳以上と 60 歳未満で異なり,雇用形態,60 歳と いう年齢で区分して検討することは特に重要であると考えられる。 非正規雇用者に関する先行研究からは,非正規雇用者は,能力開発の機会に恵まれていない(労 働政策研究・研修機構,2016a) ,組織内で孤立している(日本産業衛生学会政策法制度委員会,2015) など報告されている。能力開発の機会に恵まれないことは成長の機会という仕事の資源が得られ ないことであり,組織内での孤立とは仕事の資源である上司や同僚の支援が得られないことにつ ながっていると考えられる。仕事の資源は,ワーク・エンゲイジメントを高めるだけではなくス トレス反応の低減につながっている(島津,2014)。そのため,非正規雇用者の健康と生産性の両 立を図るワーク・エンゲイジメントを捉える際には,仕事の資源も同時に捉えておく必要がある。 仕事の資源に関して,厚生労働省研究班が提唱する「健康いきいき職場」注4)モデル」(川上, 2017)では,仕事の資源を、次の3水準に分類している。すなわち,1)作業・課題レベル(普段 の業務や作業に関するもの),2)部署レベル(チームや部署の人間関係に関するもの),3)事業 所レベル(組織のあり方に関するもの)という3水準である。これにより,仕事の資源を水準別に 捉えることによって,どの水準の資源を高める必要があるのかより明確に理解できるようになる。 さらに,健康いきいき職場モデルでは,仕事の資源だけでなく,労働者の心身の健康にマイナスの 影響を及ぼす「仕事の負担」が明示されている。仕事の負担を捉えることにより,改善すべき仕 事の負担も明確になり労働者の健康増進につながると考えられる。. (2)目的 以上から,本研究では全ての労働者の健康でパフォーマンス高い働き方に寄与する知見を得る ため,非正規雇用者のワーク・エンゲイジメントを正規雇用者との比較で捉えること,同時に非 正規雇用者と正規雇用者が認知するワーク・エンゲイジメントの促進要因である「仕事の資源」 を水準別にとらえること,加えて,心身の健康のマイナス要因である「仕事の負担」を捉えるこ とを目的とする。. 185.
(5) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. 2. 方法 (1)調査対象者・調査時期 調査対象者. 首都圏に所在する民間企業1社,東海地方に所在する民間企業2社,公立大学1校及. び関西地方に所在する民間企業1社の正規・非正規雇用者を含む社員及び職員の合計275人に質問 紙を配布して214人から回答を得た(回収率77.8%) 。複数の異なる尺度ですべて同じ選択番号での 回答が行われ信頼性に欠けると判断された3人,1つ以上の欠損値があった54人の計57人を除いた 157人を調査対象とした(有効回答率57.0%)。 調査時期. 2018年8月~9月. (2)質問紙の構成 ワーク・エンゲイジメント 日本語版ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版(Shimazu et al., 2008)の活力(例「仕事をして いると活力がみなぎるように感じる」),熱意(例「仕事に熱心である」),没頭(例「私は仕事に のめり込んでいる」)の各3項目,計9項目をそのまま使用した。 「全くない(0)~いつも感じる(6)」 の7件法で回答を求めた。 仕事の資源 厚生労働者研究班によって開発・標準化された新職業性ストレス簡易調査票(川上他,2012) の仕事の資源尺度を使用した。同簡易調査票は従来の職業性ストレス簡易調査票20尺度に22の新 しい尺度を追加したものである。その中で仕事の資源尺度は23尺度63項目と項目数が多く,すべ てを使用した場合,他の尺度と組み合わせて使用する本研究では回答者の負担が大きくなること から,次の3点を考慮して23尺度から6尺度を選択した。まず,第1に,本研究目的の背景にある現 在の職場人材の多様性を反映している内容の尺度を選択すること。第2に,ワーク・エンゲイジメ ント研究での使用実績が多くみられること。または,ワーク・エンゲイジメントの研究動向に関 連していることである。第3に,選択した仕事の資源尺度が,事業所レベル,部署レベル,作業・ 課題レベルの各レベルのいずれかに少なくとも1尺度は含まれること。これらの3点に留意して6尺 度を選択した。その結果, 「多様な労働者への対応」 , 「上司の公正な態度」, 「上司の支援」, 「同僚 の支援」,「成長の機会」,「役割明確さ」の6尺度(すべて3項目)を選択して使用した。 多様な労働者への対応(事業所レベルの仕事の資源)職場における非正規雇用者の割合は4割に 近く,非正規雇用者には女性,高齢者,外国人材などが多いとされている(たとえば,総務省, 2019;厚生労働省,2016;労働政策研究・研修機構,2019など)。そのためこの尺度を選択した。 女性,高齢者,若年者,雇用形態別のさまざまな従業員が,職場の一員として尊重される風土や 方針があるかを問う3項目をそのまま使用した。「ちがう(1)~そうだ(4)」の4件法で回答を求 めた(例「職場では, (正規,非正規,アルバイトなど)いろいろな立場の人が職場の一員として 尊重されている」)。 上司の公正な態度(部署レベルの仕事の資源). 186. 近年,上司の部下に対する公正な態度に着目.
(6) 非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント(天池雅彦). する「対人的公正」と組織における意思決定を生みだすプロセスに着目する「手続き的公正」か ら構成される「組織的公正」に関する研究がみられる(時實・森脇・谷口,2017)。そして,日本 人労働者を対象としたワーク・エンゲイジメント研究にも組織的公正尺度が使用されるようにな ってきている(たとえば,谷口・時實・合田・原野,2016)。そのため,本尺度を選択した。上司 が偏見をもったり独りよがりだったりせず,部下に思いやりと誠実さをもって対応してくれるこ とを問う3項目をそのまま使用した。 「ちがう(1)~そうだ(4)」の4件法で回答を求めた(例「上 司は誠実な態度で接してくれる」)。 ソーシャルサポートは,ワーク・エンゲイジメント研究の仕事の資源のなかで多く使用されて きた変数であり(設楽,2012),職場のソーシャルサポート研究において上司, 同僚はサポート 源として必須のものである(小牧・田中,1996) 。そのため,上司支援,同僚支援を選択した。 上司支援(部署レベルの仕事の資源)上司が話しやすく,頼りになり,相談にのってくれるな ど上司が部下に行う支援を問う3項目使用した。問い方を一部修正し, 「全くそうでない(1)~非 常にそうだ(4)の4件法で回答を求めた(例「上司とは気軽に話ができる」 ,川上他(2012)では, 「上司とどのくらい気軽に話ができますか」との問いに対して「非常に(4)~全くない(1)の4 件法で回答を求めている)。 同僚支援(部署レベルの仕事の資源)同僚が話をしやすく,頼りになり,相談にのってくれる など,同僚同士での支援を問う3項目を使用した。問い方を一部修正し, 「全くそうでない(1)~ 非常にそうだ(4)」の4件法で回答を求めた(例「個人的問題に同僚は相談にのってくれる」)。 成長の機会(作業・課題レベルの仕事の資源)ワーク・エンゲイジメント研究の仕事の資源の なかで成長の機会は上司・および同僚支援,自立性などについで多く使用されている(設楽,2012)。 そのため本尺度を選択した。仕事の中で知識を得たり,その他の自己成長の機会があるかを問う3 項目をそのまま使用した。 「ちがう(1)~そうだ(4)」の4件法で回答を求めた(例「仕事で新し いことを学ぶ機会がある」)。 役割明確さ (作業・課題レベルの仕事の資源)役割明確さは,近頃の日本人労働者を対象とし たワーク・エンゲイジメント研究でも使用され始めている(たとえば,井口,2016;井奈波,2018; 村上,2018;小野内,2019など)。この点に注目して選択した。仕事の上で果たすべき役割が明確 に理解されているかを問う3項目をそのまま使用した。「ちがう(1)~そうだ(4)」の4件法で回 答を求めた(例「自分の職務や責任が何であるか分かっている」)。 仕事の負担 日本人労働者を対象としたワーク・エンゲイジメント研究で仕事のストレッサー尺度として新 職業性ストレス簡易調査票の「仕事の負担」尺度はよく使用されている(たとえば,井口,2016; 井奈波,2018;沖野・池田,2019など)。また,職場での仕事荷重が重いほど,役割曖味性や 役 割葛藤が大きいほどメンタルヘルスの状態は悪くなることが実証されている(小牧,1994)。その ため当該簡易調査票の「仕事の負担」8尺度から仕事過重,役割葛藤に該当する「仕事の量的負担」 「仕事の質的負担」「役割葛藤」の3尺度9項目を選択した(仕事の負担8尺度には役割曖昧性に該. 187.
(7) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. 当する尺度は含まれていない)。「仕事の量的負担」は,仕事の量が多いことや時間内に仕事を処 理しきれないことによる業務負担を3項目で問うものである(例「非常にたくさんの仕事をしなけ ればならない」)。 「仕事の質的負担」は,仕事で求められる注意集中の程度,知識・技術の高さな ど質的な業務負担を問う3項目である(例「かなり注意を集中する必要がある」 )。 「役割葛藤」は, 複数の方針や要求がお互いに相容れないために業務の遂行が困難になることによる負担を3項目 で問うものである(例「複数の人からお互いに矛盾したこと要求される」 )。この尺度については 堀田・大塚(2014)に準じて,仕事の負担の程度が高いほど得点が高くなるように得点化し, 「ち がう(1)~そうだ(4)」の4件法で回答を求めた。 心理的ストレス反応 新職業性ストレス簡易調査票の心理的ストレス反応5尺度から加賀田・井上・窪田・島津(2015) に準じて,ポジティブな心理的反応である「活気」を除いた「イライラ感」, 「疲労感」, 「不安感」, 「抑うつ感」の計4尺度各3項目を使用した。加えて,同調査票を使用した堀田・大塚(2014)に 準じて,ストレス反応の程度が高いほど得点が高くなるように得点化した。全項目逆転項目とし て「ほとんどいつもあった(1)~ほとんどなかった(4)」の4件法で回答を求めた(例「イライ ラしている」 (イライラ感), 「ひどく疲れた」 (疲労感), 「落ち着かない」 (不安感), 「何かをする のも面倒だ」(抑うつ感))。 組織のポジティブなアウトカム パフォーマンス. 世界保健機構の健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(HPQ: the WHO. Health and Work Performance Questionnaire ) (短縮版)日本語版(国立国際医療研究センター,2013) からパフォーマンス尺度を選択してそのまま使用した。本パフォーマンス尺度は, 「これまでの最 悪の仕事のパフォーマンンスを0」,「最も優れた仕事のパフォーマンスを10」とした時の過去4週 間のパフォーマンスを0~10の中から選択するパフォーマンス尺度1項目である。HPQは製造業, サービス業,会社幹部などの多様な職種において,自己記入によるパフォーマンスと上司からの 客観的評価によるパフォーマンスとの間に十分な一致が報告されている(吉村他,2013)。 職務継続意思. 加藤・尾崎(2011)を参考にした1項目(「私は今の仕事を続けたい」)に対して. 「ちがう(1)~そうだ(4)」の4件法で回答を求めた。 その他 職の不安. 非正規雇用者は正規雇用者と比べて雇用が不安定であるなどの状況に直面している. (労働政策研究・研修機構,2016a)。そのため新職業性ストレス簡易調査票の職の安定報酬尺度3 項目から1項目選択して使用した(「職を失う恐れがある」)。 「ちがう(1)~そうだ(4)」の4件法 で回答を求めた。 フェイスシート項目. デモグラフィック変数(性別,年齢,業種,職種,役職,雇用形態)を. 尋ねた。 手続き. 調査票は職場を通じて調査対象者に配布された。無記名で回答され,密封のうえ職場. にて取りまとめ,調査者に返却された。調査は,名古屋市立大学大学院人間文化研究科の研究倫. 188.
(8) 非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント(天池雅彦). 理委員会の承認を受けて実施された。. 3.結果 (1)調査対象者の属性. 調査対象者157人(年齢M=43.43,SD=11.86)を男女別に見ると,男性77. 人(M=41.88歳, SD=10.75,レンジ21-73歳)女性80人(M=44.91歳, SD=12.73,レンジ22-72歳)だっ た。雇用形態別では,正規雇用者66人(M=40.53歳, SD=9.16,レンジ23-55歳),非正規雇用者91人 (M=45.53歳, SD=13.14,レンジ21-73歳) 。業種別では製造業注5)97人,通信サービス業40人,卸売り 業12人,大学法人8人だった。職種別では,事務67人,営業17人,技術8人,製造56人,その他9人 だった。調査対象者の属性をTable1に示した。 非正規雇用者属性の特徴. 60歳以上の雇用者18人は,全員非正規雇用者(パート・アルバイト). だった。平均年齢は非正規雇用者の方が正規雇用者より有意に高かった(t(155)=2.81,p<.01)また, 非正規雇用者内では女性比率が70.3%と高く,雇用形態ではパート・アルバイト,契約社員が,非 正規雇用者の93.4%を占めていた。 Table1 調 査 対 象 者 の 属 性 全体. 正規雇用者 非正規雇用者. 157. 66. 91. 77 80. 50 16. 27 64. 43.43 11.86 21-73 139 18. 40.53 9.16 23-55 66 0. 45.53 13.14 21-73 73 18. 28 38 53 32 5 1. 28 38 0 0 0 0. 0 0 53 32 5 1. 製造業 通信サービス 卸売業 大学法人. 97 40 12 8. 23 40 0 3. 74 0 12 5. 事務 営業 技術 製造 その他. 67 17 8 56 9. 47 7 7 3 2. 20 10 1 53 7. 人数(人) 性別 男性 女性 年齢(歳) M SD レンジ(歳) 60歳 未 満 ( 人 ) 60歳 以 上 ( 人 ) 役職・資格 一般社員 主任・係長クラス パート・アルバイト 契約社員 派遣社員 その他 業種. 職種. (2)尺度の信頼性の検討 各尺度の信頼性を検討するために各尺度の信頼性係数(α係数)とI-T相関を算出した(Table2)。 まず,尺度ごとのα係数に関して仕事の質的負担尺度(α=.56)以外は,役割明確さα=.60から活力α. 189.
(9) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. =.90との間にあり,信頼性係数は.60か.70以上が望ましいとするBagozzi(1994)の基準を上回っていた。 加えて,仕事の質的負担尺度の項目31「高度の知識や技術が必要なむつかしい仕事だ」のI-T相関は.32 と低い水準だった。以上から,仕事の質的負担尺度は使用せず,それ以外の15尺度を使用した。 Table2 尺度の信頼性の検討 尺度. 尺度のα係数. 活力. .90. 熱意. .77. 没頭. .78. 多様な労働者への対応. .74. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30. 仕事をしていると活力がみなぎるように感じる 職場では,元気が出て精力的になるように感じる 朝に目が覚めると,さあ仕事へ行こうという気持ちになる 仕事に熱心である 仕事は,私に活力を与えてくれる 自分の仕事に誇りを感じる 仕事に没頭しているとき幸せだと感じる 私は仕事にのめり込んでいる 仕事をしていると,つい夢中になってしまう 若い人が働きやすい職場だ 女性,高齢者あるいは障碍者が働きやすい職場だ 職場では(正規,非正規,アルバイトなど)いろいろな立場の人が職場の一員として 尊重されている 上司は独りよがりなものの見方をしないようにすることができる 上司は親切心と思いやりをもって接してくれる 上司は誠実な態度で対応してくれる 上司とは気軽に話ができる 上司は困ったときに頼りになる 個人的な問題に上司は相談にのってくれる 同僚とは気軽に話ができる 同僚は困ったときに頼りになる 個人的な問題に同僚は相談にのってくれる 仕事で新しいことを学ぶ機会がある 仕事で自分の長所をのばす機会がある 職場では自分の技能を十分高めることができる 自分の職務や責任がなんであるかわかっている 自分にどれだけ権限があるのかはっきりしている 自分の仕事でなにをすべきかについて説明されている 非常にたくさんの仕事をしなければならない 一生懸命に働かなければならない 時間内に仕事が処理しきれない. 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 43. 高度の知識や技術が必要なむつかしい仕事だ 勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない かなり注意を集中する必要がある 自分が正しいと思うのとは違うやり方で仕事をしなければならない 複数の人からお互いに矛盾したことを要求される 十分な人やモノがないままに仕事を割り当てられる 怒りを感じる 内心腹立たしい イライラしている ひどく疲れた へとへとだ だるい. 12 上司の公正な態度. .86. 上司支援. .81. 同僚支援. .79. 成長の機会. .79. 役割明確さ. .60. 仕事の量的負担. .72. 仕事の質的負担. .56. 役割葛藤. .74. イライラ感. .82. 疲労感. .86. 44 気がはりつめている 45 不安だ 46 落ち着かない 47 憂うつだ 48 .81 何をするもの面倒だ 抑うつ感 49 物事に集中できない ※ I-T相関:当該項目とその項目以外の項目による合計得点との相関係数 不安感. .70. Table3 各変数の基本統計量と相関係数 M SD 1 2 ** 1 ワークエンゲイジメント 3.05 1.08 ― .27. 190. 2 仕事の資源. 2.77. 0.51. 3 仕事の負担. 2.60. 0.58. 4 ストレス反応 1.92 5 組織のポジティブなアウトカム 4.57 ** p <.01. 0.70 1.07. ―. 3 .07 -.29 ―. **. M 3.02 2.76 2.69 3.72 3.16 3.18 2.49 2.75 3.70 2.73 2.71. SD 1.20 1.35 1.44 1.19 1.35 1.37 1.43 1.36 1.25 0.78 0.91. I-T相関※ .81 .81 .78 .60 .66 .56 .59 .68 .59 .53 .55. 2.94. 0.81. .82. 2.96 2.92 3.00 2.51 2.64 2.16 2.78 2.70 2.31 3.09 2.71 2.69 3.31 2.80 2.97 2.90 3.15 2.61. 0.83 2.92 0.78 0.87 0.94 0.81 0.84 0.86 0.80 0.80 0.82 0.74 0.67 0.88 0.78 0.77 0.68 0.90. .70 .76 .76 .66 .67 .65 .64 .60 .65 .60 .65 .63 .44 .41 .40 .60 .50 .56. 2.28 2.64 2.86 2.28 2.20 2.47 1.97 1.83 1.83 2.38 2.11 2.14. 0.90 0.77 0.71 0.73 0.87 0.97 0.91 0.95 0.92 0.86 0.94 0.98. .32 .85 .41 .55 .65 .54 .63 .72 .67 .75 .77 .68. 2.24 1.93 1.62 1.91 1.80 1.64. 0.89 1.00 0.80 0.93 0.90 0.82. .41 .56 .60 .65 .72 .63. 4. 5. -.31. **. .57. -.34. **. .35 -.06. **. .38 ―. ** **. -.37 ―. **.
(10) 非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント(天池雅彦). (3)各変数の基本統計量と相関係数 本研究で使用した変数(上位尺度)の平均値と変数間の相関係数をTable3に示した。 ワーク・エンゲイジメントは,仕事の資源との間に弱い正の相関(r=.27, p<.01),組織のポジティ ブなアウトカムとの間に中程度の正の相関が認められ(r=.57,p<.01) ,ストレス反応との間には弱 い負の相関が認められた(r=-.31,p<.01)。. (4) 雇用形態別尺度得点の比較 先述(3 頁)の如く,非正規雇用者に関する先行研究(労働政策研究・研修機構,2016a;日本 産業衛生学会政策法制度委員会,2015)から,非正規雇用者は正規雇用者と比べ仕事のワーク・ エンゲイジメントを高める仕事の資源が少なく,藤波・大木(2011)からは,雇用者間で 60 歳未 満と 60 歳以上でワーク・エンゲイジメントは異なると考えられた。また本研究では,60 歳以上の 雇用者はすべて非正規雇用者だった。これらから,仕事への意欲に関連するワーク・エンゲイジ メントおよびその関連要因は正規雇用者,60 歳未満非正規雇用者,60 歳以上非正規雇用者の間で 異なると考えられることから,60 歳以上の非正規雇用者の群を設定し,また 60 歳未満雇用者には 正規雇用者のみならず非正規雇用者も存在していることから正規雇用者,60 歳未満非正規雇用者 及び 60 歳以上非正雇用者の 3 者の間で比較を行うこととした。3 者間に各尺度得点の平均値に差 があるかを検討するために 1 要因分散分析を行った。結果を Table4 に示した。 まず,1要因分散分析の結果, 「多様な労働者への対応」 (F(2,154)=10.04,p<.001), 「上司の公正 な態度」 (F(2,154)=14.36, p<.001), 「上司支援」 (F(2,154)=13.21, p<.001), 「同僚支援」 (F(2,154)=3.68, p<.05),「成長の機会」(F(2,154)=9.65, p<.001),「仕事の量的負担」(F(2,154)=6.50, p<.01),「役割 葛藤」(F(2,154)=4.38, p<.05), 「職務継続意思」(F(2,154)=3.07, p<.05),「職の不安定さ」 (F(2,154)=16.06, p<.001)において有意な群間差が見られた。そして, 「ワーク・エンゲイジメン ト」においては有意な群間差は見られなかった。 Table 4雇用形態・年齢別尺度得点の平均(M),標準偏差(SD)および分散分析の結果 ① 正規雇用者 (n=66). ② 60歳未満非正規雇用者 (n=73). ③ 60歳以上非正規雇用者 (n=18). F値. 多重比較結果. M. SD. M. SD. M. SD. 年齢 ワーク・エンゲイジメント 仕事の資源(事業所レベル) 多様な労働者への対応 仕事の資源(職場レベル) 上司の公正な態度 上司支援 同僚支援 仕事の資源(作業・課題レベル) 成長の機会 役割明確さ 仕事の負担 仕事の量的負担 役割葛藤. 40.53 2.96. 9.16 0.91. 40.58 3.00. 9.31 1.12. 66.51 3.62. 3.90 1.33. 64.51 2.96. ***. ①<③,②<③. 2.99. 0.60. 2.75. 0.67. 2.24. 0.65. 10.04. ***. ①>③,②>③. 3.05 2.71 2.74. 0.63 0.72 0.69. 3.07 2.34 2.54. 0.64 0.70 0.69. 2.19 1.81 2.28. 0.74 0.56 0.69. 14.36 13.21 3.68. ***. ①>③,②>③. ***. ①>②>③. *. ①>③. 3.07 3.15. 0.55 0.51. 2.72 2.95. 0.66 0.63. 2.43 2.89. 0.74 0.57. 9.65 2.57. ***. ①>②,①>③. 2.96 2.36. 0.64 0.63. 2.72 2.18. 0.60 0.75. 3.26 2.70. 0.52 0.60. 6.50 4.38. **. ②<③. *. ②<③. 心理的ストレス反応 組織のアウトカム パフォーマンス 職務継続意思 その他 職の不安定さ. 1.91. 0.70. 1.90. 0.69. 2.03. 0.76. 0.24. 6.17 2.85. 1.57 0.81. 6.10 3.08. 1.81 0.83. 6.11 3.33. 1.64 0.69. 0.03 3.07. 1.45. 0.64. 2.18. 0.92. 1.50. 0.71. 16.06. *. *. ***. ①<②,②>③. p <.05, **p <.01, ***p <.001. 191.
(11) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. 次に,分散分析で有意な群間差が見られた尺度得点に関して,多重比較(Bonferroni 法)を行っ た。その結果,以下の要因に関して5%水準で有意な差が見られた(Table4)。 まず,ワーク・エンゲイジメントの促進要因である仕事の資源に関して「多様な労働者への対応」 と「上司の公正な態度」では,正規雇用者の方が,60歳以上の非正規雇用者より有意に高く,60 歳未満非正規雇用者は60歳以上非正規雇用者より有意に高かった。 「上司支援」では正規雇用者は, 60歳未満非正規雇用者より,また,60歳未満非正規雇用者は60歳以上非正規雇用者より有意に高 かった。「同僚支援」は,正規雇用者の方が60歳以上非正規雇用者より有意に高かった。「成長の 機会」に関しては,正規雇用者は,60歳未満非正規雇用者,60歳以上非正規雇用者それぞれより 有意に高かった。 次に,心身の健康に悪影響を及ぼす仕事の負担に関しては「仕事の量的負担」,「役割葛藤」と もに,60歳以上非正規雇用者の方が60歳未満非正規雇用者より有意に高かった。 また, 「職の不安定さ」に関しては,60歳未満非正雇用者は正規雇用者と60歳以上非正規雇用者 より有意に高く,60歳以上非正規雇用者と正規雇用者との間に有意な差は見られなかった。 なお,アウトカムに関して,「職務継続意思」は分散分析で3者間に有意な差が見られたものの 多重比較の結果,正規雇用者,60歳未満非正規雇用者及び60歳以上非正規雇用者の3者間に有意な 差は見られなかった。. 4.考察 本研究は,近年,雇用者の4割近くを占めるようになった非正規雇用者のワーク・エンゲイジメ ントの特徴を検討するために,ワーク・エンゲイジメントおよびワーク・エンゲイジメントの促 進要因(仕事の資源)とアウトカム(パフォーマンス,職務継続意思),加えてストレス反応を高 める要因(仕事の負担)に関して,正規雇用者との比較を行った。. ワーク・エンゲイジメント及びワーク・エンゲイジメントの先行要因とアウトカムおよび仕事の 負担に関する正規雇用者と非正規雇用者との比較 非正規雇用者と正規雇用者との間にワーク・エンゲイジメントとワーク・エンゲイジメントの 先行要因やアウトカムおよびの仕事の負担に差があるかについて正規雇用者,60歳未満非正規及 び60歳以上正雇用者の3者で比較した。1要因分散分析,多重比較の結果,次のことが示された。 第1に事業所レベルの仕事の資源では,「多様な労働者への対応」に関しては,60歳以上の非正 規雇用者が,正規雇用者(全員60歳未満)や60歳未満の非正規雇用者より有意に低くかった。こ の結果は,60歳以上の非正規雇用者は,所属する組織の高齢非正規雇用者を含めた多様な労働者 への対応力を低く評価していることを示唆するものである。現在の日本の職場では,高齢者や女 性の社会進出,雇用市場の流動化,障害者や外国人の雇用が進展している現実があり,上司にと っても,非正規雇用者である部下の属性や価値観は多様となっている。そのため,正規雇用者の 部下を加えた多様な労働者の力を結集して業務を遂行していかなくてはならない。この「多様な. 192.
(12) 非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント(天池雅彦). 労働者への対応」は,職場の上司のみの問題ではなく,事業所(組織)として対処していく必要 のある問題である。守島(2011)によれば,処遇や雇用保障などに関する人事管理ルールの細分化 である「多様な正社員」施策注6)を行っている企業は非正規人材の活用を積極的に行い,そうでな い企業に比べて非正規社員をビジネス上重要な人材として捉える傾向にある。そして,外部人材 や非正規人材を積極的に活用し,同時に非正規社員を正社員に登用する施策を準備している割合 も高いとしている。 「多様な正社員」施策をとる企業の人材活用例は,貴重な事例として多様な人 材への対応問題に直面している企業・組織の参考になると思われる。 加えて,正規雇用・非正規雇用の対立構造から多様で連続した雇用形態への移行は,組織にお いて多様な雇用形態を含めた個人を尊重するマネジメントにより可能になる(日本公衆衛生学会 公衆衛生モニタリング・レポート委員会,2014)。そのため, 「多様な労働者への対応」は各企業・ 組織のマネジメントが問われている問題と言える。「CSR活動として,多様な働き方が可能な職場 づくりを目指す労働のダイバーシティ(多様性)に注目する企業が増えている」 (河口,2006)と 言われて久しい。各企業・組織においてはCSRをお題目にすることなく,多様な雇用形態を含んだ 個人を尊重するマネジメントを実現するための努力が期待される。 第2に,職場レベルの仕事の資源に関して,「上司の公正な態度」では,60歳以上の非正規雇用 者は正規雇用者と60歳未満の非正規雇用者の両者より低く、「上司支援」では3者間で最も低かっ た。この結果は,より高齢の非正規雇用者は職場では上司から公正に扱われておらず,そのため 支援も正規雇用者やより若い非正規雇用者より低いと感じていると考えられる。経営管理は一般 に,「他の人々通じて,ことを成し遂げること」(金井,2000)と定義されるように,職場の管理 者である上司は,多様な人材である「他の人々」を通じて職場目標を「成し遂げる」必要がある。 金井(2000)は,管理には個々の管理者が持っている人間観の影響が大きいと指摘している。そ のため,上司は非正規雇用者を「労務コストの削減」,「景気変動の雇用量調節」や「日や週のな かの繁閑対応」などとして位置づけるのではなく,職場の重要な構成員として捉え直し,より公 正,支援的な態度を取る必要がある。 上司の公正・支援的な態度に関して,組織的公正がワーク・エンゲイジメントを促進するとい う実証研究が国内外で発表されている(Moliner et al. , 2008; 谷口・時實・合田・原野,2016)。日 本人労働者を対象とした谷口他(2016)では,組織的公正は,Inoue et al.(2009)が開発した日本語 版組織的公正尺度(対人的公正尺度と手続き的公正尺度から構成されている)によって測定され た。対人的公正尺度は「上司は私たちの考え方を考慮してくれる。」, 「上司は意思決定やその影響 についてタイミグよくフィードバックを提供してくれる」,「上司は,私たちを親切さと思いやり をもって処遇してくれる」などフィードバックの提供といった上司の支援や部下に対して配慮あ る態度に関する6項目で構成されている。さらに,対人的公正と手続き的公正は上司支援と近い関 係にある(Inoue et al. , 2009) 。これらから,職場の多様な人材のワーク・エンゲイジメント向上に は正規雇用者のみならず非正規雇用者,より高齢の非正規雇用者に対しても上司の支援的,配慮 ある公正な態度が有効と考えられる。. 193.
(13) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. 第3に,作業・課題レベルの仕事の資源に関して, 「成長の機会」では非正規雇用者(60歳以上, 60歳未満の非正規雇用者の両者)が正規雇用者よりも有意に低かった。この結果は,成長の機会 となる教育訓練や能力開発の機会に関して,非正規雇用者は,教育訓練が少ない(日本公衆衛生 学会モニタリング・レポート委員会,2014),能力開発の機会が少ない(労働政策研究・研修機構, 2016a)とする非正規雇用者の成長に向けた教育訓練や能力開発が少ないとする先行研究と同様の 結果を示したものと言える。 第4に,心身の健康に悪影響を及ぼす仕事の負担に関して仕事の量的負担,役割葛藤ともに,60 歳以上の非正規雇用者の方が60歳未満の非正規雇用者より高かった。生産年齢人口(15~64 歳) が将来大幅に減少すると見込まれ、日本の経済社会の活力の維持・発展のためにも高年齢者の活 躍が喫緊の課題となっている(労働政策研究・研修機構,2016b)。このような現状において雇用 者のなかで,より高齢の60歳以上の非正規雇用者が心身の健康のマイナス要因である仕事の負担 を多く感じている状況は,改善される必要がある。そのために,企業や組織には,高齢雇用者の 健康確保措置,設備や作業環境の整備などの一層の対応が望まれる。 第5に「ワーク・エンゲイジメント」とそのアウトカムである「職務継続意思」に関して,60歳 以上の非正規雇用者と正規雇用者及び60歳未満の非正規雇用者の3者間には有意な差がなかった。 60歳以上の非正規雇用者は,より若い60歳未満の非正規雇用者や正規雇用者よりワーク・エンゲ イジメントを高める仕事の資源は低かったことから,60歳未満の非正規雇用者,正規雇用者と比 べて,ワーク・エンゲイジメントやそのアウトカムである職務継続意思は低いと考えられた。そ れにかかわらず,ワーク・エンゲイジメントと職務継続意思は,3者間には有意な差がなかった。 この結果は,職務の目的や意義を見直すことでやりがいを見出す「ジョブクラフティング」 (池田, 2017)から解釈可能と思われる。ジョブクラフティングは, 「個人が自身の仕事やその範囲に関し て物理的,認知的に変化させること」 (Wrzesniewski & Dutton, 2001)と定義され,仕事の意義を高 めるために従業員自らが,仕事を変化させることである(バッカー・江口・原・島津,2013)。そ して,国内外の実証研究から,ジョブクラフティングは,ワーク・エンゲイジメントに正の影響 を及ぼすことが示されている(Bakker, Tims, & Derks, 2012; Sakuraya et al., 2017)。 加えて,高齢者には, 「無理なく働きたい」と顧客,社会や仲間たちの「役に立ちたい」という 2つの就労意欲がある(福島,2007)。そのため,加齢により身体機能や健康状態の低下に直面す る高齢者は,「無理なく働く」ことのできる仕事を選択して,選択した仕事に集中して取り組み, その仕事に「役に立つ」側面を見出し仕事の意義を見直すというジョブクラフティングを行うこ とで,正規雇用者や60歳未満非正規雇用者と比べて仕事の資源が低いことから低下していたワー ク・エンゲイジメントを向上させ正規雇用者,より若い非正規雇用者と同水準のワーク・エンゲ イジメントやワーク・エンゲイジメントのアウトカムである職継続意思を維持していると考えら れる。 なお, 「職の不安定さ」に関して,60歳未満の非正規雇用者方が正規雇用者より有意に高かった。 この点は,非正規雇用者は正規雇用者と比べて雇用が不安定であるなどの状況に直面していると. 194.
(14) 非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント(天池雅彦). する非正雇用者に関する先行研究(労働政策研究・研修機構,2016a)で報告される状況の一端を 示したものと言える。2012年の労働法改正により有期雇用から無期雇用への転換制度注7) を採用する企業が増えている(渡邊,2016)。そのため,有期雇用者(非正規雇用者)の無期雇用 への転換がさらに進展することにより,有期雇用にする関連する「職の不安定さ」は低減してい く可能性が考えられる。. 非正規雇用者の多様性 60歳以上の非正規雇用者は,より若い60歳未満非正規雇用者,正規雇用者と比べて仕事の資源 が低く,60歳未満の非正規雇用者より仕事の負担が高いにも関わらず,ワーク・エンゲイジメン トとそのアウトカムである職務継続意思は,同程度の水準を維持していた。この結果は,仕事へ のポジティブな態度を持った仕事意欲の高い高齢非正規雇用者の姿を示すものと言える。吉岡 (2014)は,派遣社員(非正規雇用者)は,裁量度の低い仕事環境にあり,おしなべて高い仕事 意欲を持ち難いため派遣選択理由にかかわらず派遣労働者全体の従事意欲が一定に低いと論じて いる。加えて,非正規雇用者は,その業務内容の単純反復性・定型性などから仕事意欲は低下し やすいという指摘(関根,2010),職の不安定性から非正規労働者の仕事意欲は低い(読売新聞, 2017)といった意見も見られる。しかし,本調査から浮かび上がったのは,従来から論じられる ことの多い仕事意欲の低い非正規雇用者とは異なる非正規雇用者の姿である。 本調査から示唆されるのは,一口に非正規雇用者といっても一様でなく,その社会的属性や置 かれている状況により,ワーク・エンゲイジメントは決して低いものではなく,正規雇用者と同 じ水準のワーク・エンゲイジメントを示すということである。60歳以上の高齢非正規雇用者が正 規雇用者と同水準のワーク・エンゲイジメントを示したことに関して,年齢以外の社会的属性や 置かれている状況などの要因が示唆される研究がある。笹川(2005)は,大卒専業主婦へのイン タビュー調査から,高学歴の専業主婦は,就業を社会とのかかわりあい及び自分の能力を発揮す る機会ととらえている傾向があることを見出している。同様の指摘は,本調査への協力会社A社 幹部に話を伺った際にも見られたものである。これらのインタビューからは,高学歴の専業主婦 である非正規雇用者の就労意欲(職継続意思)につながるワーク・エンゲイジメントは低いもの でなく,むしろ高いことが考えられる。 以上から非正規雇用者のなかにも就業理由や属性(婚姻状況,学歴,年齢)によってワーク・ エンゲイジメントが高いと考えられる層もいることが示唆される。そのため,非正規雇用者のワ ーク・エンゲイジメントを捉えるには, 「非正規雇用者」と一括りにして一律に考えることでは捉 えきれないと思われる。. 本研究の課題と今後 本研究では,これまでの研究蓄積が乏しい非正規雇用者のワーク・エンゲイジメントの特徴を 捉えるため,ワーク・エンゲイジメントおよびワーク・エンゲイジメントの先行要因(仕事の資. 195.
(15) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. 源)と結果要因(パフォーマンスと職務継続意思)に関して,正規雇用者と比較検討を行った。 その結果,60歳以上の高齢非正規雇用者は正規雇用者と60歳未満の非正規雇用者と比べてワー ク・エンゲイジメントを促進する仕事の資源を低く感じており,さらに,60歳未満の非正規雇用 者より仕事の負担を多く感じていたにもかかわらず正規雇用者や60歳未満の非正規雇用者と比べ ても遜色のない同レベルのワーク・エンゲイジメントと職務継続意思を持っていることなど一定 の結果を得ることができたが,以下のような課題もある。 第1に,分析方法に関しての課題があげられる。調査対象者を正規雇用者と非正規雇用者という 雇用形態と年齢での区分による比較のみの検討である点である。また,ワーク・エンゲイジメン トの先行要因と結果要因の比較検討は行われているが,正規雇用者と非正規雇用者それぞれのワ ーク・エンゲイジメントと各要因の関連までの検討は行われてはいない。今後は,非正規雇用者 のワーク・エンゲイジメントを高める要因をより明確にするために,回帰分析,共分散構造分析 などにより要因間の関連までの検討を行う必要がある。 第2に,調査対象者のなかで製造業従業員が62%と半数以上を占めている点があげられる。調査 対象者は,労働者全体の業種別構成比と大きく異なっているため,結果の過度の一般化はできな い。60歳以上の雇用者は少数であったことも改善点である。これらから,今後は調査対象者を増 やし,調査対象者の所属業種の多様化を図る必要がある。 日本人労働者を対象としたワーク・エンゲイジメント研究は,非正規雇用者に係る研究が少な く,性別や雇用形態によるワーク・エンゲイジメントの相違は十分に検討されていない。このよ うな状況の中で,本研究は非正規雇用者のワーク・エンゲイジメントおよびワーク・エンゲイジ メントの先行要因と結果要因を正規雇用者と比較することでその特徴を検討した。その結果,上 記の課題を持つために,限界のある結果ではあるが,非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント の特徴やワーク・エンゲイジメントを高める方策の示唆を引き出したと言える。それにより,資 料として報告することに意義があると考える。. 注記 注 1)過労死の労災認定基準:過労死は、過労死等防止対策推進法第 2 条に次のように定義され ている。「ア.業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡 イ.業務に おける強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」。過労死の労災認定基準とは 「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」において, 労働時間に関して「長期間の過重労働」として次の基準が定められている。①発症前 1~6 か月間 平均で月 45 時間以内の時間外労働は,発症との関連性 は弱い。②月 45 時間を超えて長くなるほ ど、関連性は強まる。③発症前1か月間に 100 時間又は 2~6 か月間平均で月 80 時間を超える時 間外労働は、発症との関連性は強い」(詳細は平成 13 年 12 月 12 日付け基発 1063 号 「脳血 管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」及び平成 23 年 12 月 26 日付け基発 1226 第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に示されて. 196.
(16) 非正規雇用者のワーク・エンゲイジメント(天池雅彦). いる。) 注 2)非正規雇用者:非正規労働者に複数の定義があることは,労働問題 に携わるものにはすで に共通の知識となっている(神林,2013)。総務省統計局の労働力調査では役員を除いた雇用者の うち,非正規雇用者を「パート・アルバイト,労働者派遣事業所の派遣社員,契約社員,嘱託, その他」を「非正規の職員・従業員」 (非正規雇用者)として定義している。本論文で引用した労 働政策研究・研修機構(2019)では総務省の労働力調査をもとに集計している。 注 3)ポジティブ心理学:ポジティブ心理学とは,伝統的な 4 つの D (病気[Disease],損害[Damage], 障害[Disorder],不具合[Disability])の代わりに,人間の強さと最適な機能を研究する心理学と 言える(Schaufeli & Bakker (2010. 岩田訳 2014))。ポジティブ心理学の研究から幸福感が高い人は. 健康で長生きであること,幸福感が脳や体の機能にも良い影響を持つことなどポジティブな気持ち と健康とが関連を持っていることが報告されている(川上,2017)。Haidt (2006 藤澤・藤澤訳 2011) は,ポジティブ心理学を幸福と人生の意味を見出すことを手助けすることを目指す心理学と評し ている。 注 4)健康いきいき職場:川上(2017)によれば,厚生労働省研究班(主任研究者川上憲人)が経 営団体代表者,労働組合代表者,産業保健スタッフとの議論を経て,打ち出したポジティブ・メン タルヘルスの考え方である。そこでの議論では,従業員をいきいき働けるようにする職場づくり こそが,次の時代の職場のメンタルヘルスの目標となるポジティブ・メンタルヘルスであると結 論され,労働者が健康でいきいきと働き,生産性や創造性を発揮できる理想の職場を健康いきい き職場と呼んだ。健康いきいき職場は,「従業員の健康」 ,「従業員のいきいき」,「職場の一体感」 という 3 つの条件をもち,従業員が活力をもちいきいきと働いていること―ワーク・エンゲイジ メント―を目標としている。 注 5)製造業:製造業は 2 社だった。そのうち 1 社は,証券取引場の区分では「卸売業」となって いるが,自社工場を持ち原材料の加工を行っている。本研究では,この会社の工場部門の従業員 を対象に質問紙調査を行った。そのため本研究では,当該会社を製造業に区分した。もう 1 社は 電気機器製造会社である。 注 6)多様な正社員施策:具体的には,勤務地の制限など異なった雇用形態をもつ正規社員が存在 するような施策である。なお「限定正社員」 (職種の転換がない,転勤がない,勤務地が限定され るなど「従来の正社員とは異なり,包括的な人事権に服することを前提としない正社員」)の制度 を有している会社において,「無期転換ルール」(注 7 を参照)を契機に,パート社員を限定正社 員に転換する動きが始まっている。その背景として企業には,従来の有期雇用者(非正規社員) に,より能力を生かしレベルアップしてほしいとの期待があることが報告されている(日本経済 新聞,2018)。 注 7)有期雇用から無期雇用への転換制度:2012 年の労働契約法の改正により,有期契約で通算 5 年を超えて働いた人が希望すれば無期契約に転換できること(無期雇用への転換権が付与される こと)が定められた。2018 年 4 月から無期転換権の発生が開始している。一般に「無期転換ルー. 197.
(17) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第 33 号. 2020 年 1 月. ル」と言われている。. 引用文献 正浩 (2010). 非正規雇用増加の背景とその政策対応. 阿部. 樋口. 美雄(編)労働市場と所得配分. 慶應義塾大学出版会 Bagozzi, R.,P. (1994). Measurement in marketing research: Basic principles of questionnaire design. In Bagozzi, R. P. (ED) Principles of marketing research (pp.1-49). Cambridge, M. A.: Blacwell. バッカー,A. B.・江口. 尚・原. 明人 (2013). ワーク・エンゲイジメントとジョ. 雄二郎・島津. ブクラフティング:いきいきとした労働者は働きやすい職場を自ら作り出す. 産業医学ジャ. ーナル,36,54-63. Bakker, A. B., Tims, M., & Derks, D. (2012). Proactive personality and job performance: The role of job crafting and work engagement. Human Relations, 65, 1359-1378. 藤波. 栄一 (2011). 嘱託(再雇用者)社員の人事管理の特質と課題―60 歳代前半層. 美帆・大木. 日本労働研究雑誌,No.507/Special Issue,112-122.. を中心にして. さやか (2007). 高齢者の就労に対する意欲分析. 福島. 日本労働研究雑誌,No.558/January, 19-31.. Haidt, J. (2006). The happiness hypothesis: Finding modern truth in ancient wisdom. New York: Basic Books.(藤澤. 隆史・藤澤. 玲子(訳)(2011). しあわせ仮説. 新曜社). 彩 (2015). 日本におけるダイバーシティ・マネジメント研究の今後に関する一考察. 堀田. 広島大. 学マネジメント研究,16,17-29. 堀田. 裕司・大塚. 正泰 (2014). 製造業における労働者の対人援助とソーシャルサポート,職場ス. トレッサー,心理的ストレス反応,活気の関連. 産業衛生雑誌,56,259-267.. 理 (2016). 行政保健師の離職意図に関連する「仕事の要求」と「仕事の資源」 :Job Demands-. 井口. Resources Model による分析. 日本公衆衛生雑誌,5,227-240.. 浩 (2017). ワーク・モチベーション研究の現状と課題―課題遂行過程から見たワーク・モチ. 池田. ベーション理論 井奈波. 日本労働研究雑誌,No.684/July, 16-25.. 良一 (2018). 女性看護師の主観的幸福度と勤務状況,日常生活習慣および職業性ストレス. との関係. 日本健康医学会雑誌,27,294-302.. Inoue, A., Kawakami, N., Tutumi, A., Shimazu, A., Tsuchiya, M., Ishizaki, M., Tabata, M., Akiyama, M., Kitazume, A., Kuroda, M., & Kivimäki, M. (2009). Reliability and validity of Japanese version of the Organizational Justice Questionnaire. Journal of Occupational Health, 51, 74-83. 加賀田. 聡子・井上. 彰臣・窪田. 和巳・島津. 明人 (2015). 病棟看護師における感情労働とワー. ク・エンゲイジメントおよびストレス反応との関連 金井. 壽宏 (2000). ニューウェーブマネジメント. 神林. 龍 (2013). 非正規労働者. 198. 行動医学研究,21,83-90.. 思索する経営. 創元社. 日本労働研究雑誌,No. 633/April,26-29..
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