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基調講演 アメリカン・インペリウム下の日本と東アジア (特集 国際シンポジウム 東アジア地域統合と日本 -- 国家・市場・人の移動)

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(1)

基調講演 アメリカン・インペリウム下の日本と東

アジア (特集 国際シンポジウム 東アジア地域統合

と日本 -- 国家・市場・人の移動)

著者

Peter J. Katzenstein

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

164

ページ

4-7

発行年

2009-05

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004752

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.64(2009. 5)― 4   今 、 東 ア ジ ア で 地 域 主 義 が 台 頭 し て い る 。 こ れ は 日 本 、 ア ジ ア 、 そ し て 世 界 に と っ て ど の よ う な 意 味 が あ る の だ ろ う か 。 こ の 問 い に 関 し て 三 つ の 話 を し よ う と 思 う 。 ま ず 、 ア ジ ア の 地 域 主 義 や 地 域 統 合 が ア メ リ カ の 影 響 下 に あ る と い う こ と を 言 い た い 。 次 に 、 地 域 政 策 イ ニ シ ア チ ブ の 歴 史 を 見 る 。 そ し て 最 後 に 、 現 在 起 き て い る 地 域 形 成 の プ ロ セ ス に つ い て 議 論 し た い 。

  ア メ リ カ の 世 界 的 な 影 響 力 は い ま だ 強 い 。 ア ジ ア の 地 域 主 義 や 地 域 統 合 の 動 き も そ の 中 に あ る 。 こ れ が 私 の 主 張 だ が 、 こ こ で 言 う ア メ リ カ の 影 響 力 を 我 々 は ど の よ う に 表 現 す れ ば よ い の だ ろ う か 。 こ れ ま で は 、「 覇 権 」 だ と か 「 帝 国 」 と い う 言 葉 が 使 わ れ て き た 。 し か し 、 そ う し た 言 葉 を 私 は 使 い た く な い 。 代 わ り に 「 イ ン ペ リ ウ ム 」 と い う 言 葉 を 使 い た い 。 イ ン ペ リ ウ ム は 古 代 ロ ー マ 時 代 に は 領 土 的 な 権 力 と 非 領 土 的 な 権 力 の 両 方 を 意 味 す る も の と し て 使 わ れ て い た 。 こ の 、 非 領 土 的 な 権 力 を 含 む と い う 点 が イ ン ペ リ ウ ム を 使 う 重 要 な 意 義 だ 。   現 在 ア メ リ カ は 、 世 界 一 五 三 カ 国 に 軍 事 基 地 を 置 い て い る 。 大 規 模 な も の は 三 八 カ 国 に あ り 、 九 ・ 一 一 テ ロ 後 に は 、 ア フ リ カ に も 軍 事 ヘ リ 用 の 基 地 や 特 殊 部 隊 、 対 テ ロ 戦 争 特 殊 部 隊 用 の 基 地 を つ く っ た 。 こ う し た 軍 事 基 地 の 存 在 は 領 土 的 権 力 の 典 型 例 で あ る 。 他 方 で 、 ア メ リ カ の 権 力 は 非 領 土 的 な 側 面 も 持 っ て い る 。 国 際 的 な 行 動 規 範 を 設 定 し て き た こ と が そ れ に あ た る 。 具 体 的 に は 、 国 際 法 、 所 有 権 、 人 権 、 良 き ガ バ ナ ン ス と い っ た も の だ 。   こ の ア メ リ カ の イ ン ペ リ ウ ム は い く つ か の 地 域 に よ っ て 形 成 さ れ て い る 。 東 ア ジ ア と い う 地 域 も そ の ひ と つ な わ け だ が 、 地 域 と い う 概 念 に も さ ま ざ ま な 定 義 が あ る 。 こ こ で は 三 つ を 挙 げ て お き た い 。   ま ず 、 物 質 的 な 定 義 で あ る 。 こ れ は 海 や 陸 と い う 地 理 に よ っ て 地 域 を 定 義 す る も の だ 。 一 九 世 紀 の 地 政 学 者 た ち が 好 ん で 使 っ た 地 域 概 念 で あ る 。 一 九 八 〇 年 代 以 降 の ヨ ー ロ ッ パ で こ の 種 の 地 域 概 念 が 復 活 し て い る 。 チ ェ イ ニ ー 副 大 統 領 時 代 の ア メ リ カ で も 同 様 に こ の 手 の 地 域 概 念 を 用 い た 。   二 つ め の 定 義 は 観 念 的 な 定 義 だ 。 こ れ は 地 域 と い う 概 念 を 政 治 的 な も の と 見 る 見 方 で あ る 。 例 え ば 、 北 大 西 洋 と い う 地 域 概 念 は 一 九 四 五 年 に は 存 在 し て い な か っ た 。 こ の 地 域 概 念 は 、 ア メ リ カ と ヨ ー ロ ッ パ を 結 び つ け 、 ヨ ー ロ ッ パ で 二 度 と 戦 争 を 起 こ さ な い よ う に す る た め に つ く ら れ た 北 大 西 洋 条 約 機 構 を 通 じ て で き た も の で あ る 。   最 後 に 、 行 動 を 重 視 す る 地 域 概 念 で あ る 。 こ れ は 経 済 学 者 が 好 む も の だ 。 例 え ば 、 物 理 的 な 距 離 が 地 域 間 の 関 与 の 度 合 い を 左 右 す る も の と み な し 、 そ こ か ら 地 域 を 考 え る 。 あ る 地 域 と あ る 地 域 が 二 五 〇 〇 マ イ ル 離 れ て い る と 、 貿 易 が 八 二 % 減 り 、 資 本 の 流 れ が 六 九 % 減 り 、 直 接 外 国 投 資 が 四 四 % 減 る と 言 わ れ て い る 。 北 米 で は 商 業 取 引 が ア メ リ カ 国 内 、 ま た は カ ナ ダ 国 内 で 完 結 す る ケ ー ス が 多 い 。 そ う し た 商 業 取 引 の 広 が り な ど か ら 地 域 を 定 義 す る わ け で あ る 。   以 上 の よ う に 、 地 域 は 、 物 質 的 、 観 念 的 、 行 動 的 と い う 三 つ の 視 点 か ら 定 義 で き る 。 各 定 義 を も と に 、 諸 事 例 の 間 に 相 違 点 や 類 似 点 を 見 い だ す こ と が 重 要 で あ ろ う 。   さ ら に 、 地 域 は 地 域 国 家 に よ っ て 構 成 さ

ピーター・

・カッツェンスタイン

調

演 

ン・

国際シンポジウム

東アジア地域統合と日本

―国家・市場・人の移動

(3)

れ て い る 。 そ の な か に は 、 ア メ リ カ の イ ン ペ リ ウ ム 下 で 地 域 秩 序 維 持 の 担 い 手 と な る サ ポ ー タ ー 国 家 と い う も の が あ る 。 西 ヨ ー ロ ッ パ で は ド イ ツ が こ れ に あ た る が 、 東 ア ジ ア の サ ポ ー タ ー 国 家 は 日 本 だ 。 か つ て ド イ ツ 、 日 本 と も に 英 米 に よ る 支 配 に 挑 戦 し て 敗 れ 、 そ の 後 、 ア メ リ カ の イ ン ペ リ ウ ム 下 で 地 域 を 担 う 国 家 に な っ た 。 西 ヨ ー ロ ッ パ と 東 ア ジ ア を 除 い た 地 域 に は 、 サ ポ ー タ ー 国 家 は 存 在 し な い 。  

  で は 、 現 代 の 東 ア ジ ア の 地 域 秩 序 は ど の よ う に 生 ま れ た の か 。 ア メ リ カ が 現 代 東 ア ジ ア の 地 域 秩 序 の 基 本 を つ く り だ す よ う な 外 交 政 策 を 開 始 し た の は 、 一 九 六 〇 年 代 後 半 か ら 七 〇 年 代 は じ め に か け て で あ る 。 当 時 は ニ ク ソ ン 政 権 下 で 、 ニ ク ソ ン ・ ド ク ト リ ン が そ の 変 化 を 宣 言 す る も の だ っ た 。   ニ ク ソ ン ・ ド ク ト リ ン に は 三 つ の 要 素 が あ っ た 。 第 一 に 、 ア メ リ カ が す べ て の 条 約 に 基 づ く 約 束 を 守 る こ と 。 第 二 に 、 核 保 有 国 が ア メ リ カ の 同 盟 国 を 脅 か し た 場 合 、 ア メ リ カ が そ の 盾 に な る こ と 。 第 三 に 、 核 攻 撃 以 外 の 攻 撃 の 場 合 も 、 条 約 等 に よ っ て 要 請 を 受 け た と き は 、 ア メ リ カ が 軍 事 力 と 経 済 援 助 を 提 供 す る こ と 。 た だ し 、 国 防 は 脅 威 を 受 け た 国 が 一 義 的 責 任 を 負 う 。   で は 、 ニ ク ソ ン ・ ド ク ト リ ン の 結 果 は ど う だ っ た の か 。 東 ア ジ ア に 関 し て は 、 ま ず 、 ベ ト ナ ム に 対 し て ア メ リ カ は 条 約 を 遵 守 し な か っ た 。 ベ ト ナ ム 戦 争 に 敗 れ つ つ あ っ た か ら だ 。 日 本 に 対 し て は 、 一 九 六 九 年 に 沖 縄 返 還 を 約 束 し た 。 そ う す る こ と で 、 日 本 に 東 南 ア ジ ア 地 域 で の よ り 広 範 な 役 割 と 、 自 衛 を 求 め た わ け で あ る 。 韓 国 に は ニ ク ソ ン ・ ド ク ト リ ン が 最 も う ま く 適 用 さ れ た 。 ア メ リ カ は 軍 の 一 部 撤 退 を 実 現 し た か ら で あ る 。 同 時 に 、 韓 国 の 軍 備 の 近 代 化 に も 成 功 し 、 北 朝 鮮 に 対 す る 武 力 の 優 位 を 保 つ こ と が で き た 。 中 国 に は 、 門 戸 開 放 に ニ ク ソ ン ・ ド ク ト リ ン が 重 要 な 役 割 を 果 た し た 。   以 上 を ま と め よ う 。 ニ ク ソ ン ・ ド ク ト リ ン は ベ ト ナ ム で は ア メ リ カ の 面 子 を 守 る た め だ け に 使 わ れ た 。 日 本 、 韓 国 、 中 国 に 対 し て は 結 構 う ま く い き 、 地 域 の 安 定 は 保 た れ た 。 そ れ は 今 も 続 い て い る 。 ブ ッ シ ュ 政 権 を 考 え て 欲 し い 。 ブ ッ シ ュ の 外 交 政 策 は ず い ぶ ん 批 判 さ れ て い る が 、 私 が 思 う に 、 二 〇 〇 五 年 以 降 の ア メ リ カ 外 交 は 東 ア ジ ア で は 成 功 し て い る 。 例 外 は 、 北 朝 鮮 と の 交 渉 再 開 が 遅 れ て い る こ と く ら い だ 。   次 に 、 貿 易 に つ い て お 話 し た い 。 貿 易 に か か わ る 制 度 の 重 要 性 は 一 九 八 〇 年 代 以 降 に 高 ま っ た 。 と い う の も 、 貿 易 に 関 す る 地 域 単 位 の 取 り 組 み は 、 ア メ リ カ が 日 本 の 経 済 的 な 力 の 高 ま り に 対 応 す る た め に 始 め ら れ た 側 面 が あ る か ら だ 。   一 九 九 〇 年 か ら 一 九 九 四 年 だ け で も 三 三 の 貿 易 に 関 す る 協 定 が 結 ば れ た 。 こ れ は 一 九 四 八 年 以 降 、 五 年 間 に 結 ば れ た 協 定 数 と し て は 最 多 で あ っ た 。 そ し て 、 二 〇 〇 二 年 に は 一 七 〇 以 上 の 地 域 貿 易 イ ニ シ ア チ ブ が W T O に 通 報 さ れ 、 さ ら に 七 〇 が 未 通 報 の ま ま 実 施 さ れ て い る 。   こ う し た 多 国 間 の 自 由 貿 易 体 制 は 世 界 各 地 で 構 築 さ れ て い る が 、 東 ア ジ ア で は 、 日 本 、 韓 国 、 シ ン ガ ポ ー ル が と り わ け 二 国 間 F T A を 締 結 し て き た 。 そ し て 、 北 東 ア ジ ア 、 東 南 ア ジ ア 、 ま た そ れ ら と オ セ ア ニ ア 、 ア メ リ カ を 結 び つ け る よ う な ネ ッ ト ワ ー ク を つ く っ て い る 。   安 全 保 障 に つ い て は 、 東 ア ジ ア の 秩 序 は 驚 く ほ ど 安 定 し て い る 。 た だ 、 ヨ ー ロ ッ パ と 比 べ た と き 、 制 度 的 な 秩 序 の あ り 方 が ず い ぶ ん と 違 う 。 ヨ ー ロ ッ パ で は 地 域 統 合 は あ く ま で 政 治 的 な 問 題 で あ る 。 そ の た め 、 E U に 加 盟 す る こ と が 地 域 統 合 を 意 味 し 、 ま た 豊 か な E U 加 盟 国 か ら 貧 し い E U 加 盟 国 に 財 源 を 振 り 向 け る こ と の 方 が ず っ と 重 要 な 課 題 で あ る 。 東 ア ジ ア の よ う に 経 済 的 な ネ ッ ト ワ ー ク に よ る 地 域 統 合 で は な い 。   ま た 、 ヨ ー ロ ッ パ で は 現 在 、 安 全 保 障 面 で 制 度 的 な 激 変 が 起 き て い る 。 東 ア ジ ア と 違 っ て 、 一 九 九 二 年 の コ ソ ボ 紛 争 へ の 対 応 を き っ か け に し て 相 互 不 干 渉 の 原 則 が 放 棄 さ れ た 。 ま た 、 国 内 ガ バ ナ ン ス 、 民 主 主 義 、 人 権 と い っ た 問 題 が ヨ ー ロ ッ パ に と っ て 非 常 に 重 要 に な っ て い る 。 し た が っ て 、 経 済 的 ネ ッ ト ワ ー ク や 技 術 、 国 内 ・ 対 外 的 な 安 全 保 障 、 地 域 的 な 制 度 が 東 ア ジ ア と ヨ ー ロ ッ パ で は か な り 異 な る の で あ る 。   こ の 違 い は 、 ア メ リ カ の 外 交 政 策 が 原 因 ピーター・J・カッツェンスタイン 氏

(4)

アジ研ワールド・トレンド No.64(2009. 5)― 6 だ 。 ア メ リ カ は ア ジ ア と ヨ ー ロ ッ パ を 違 っ た 方 法 で 扱 っ た 。 ア ジ ア に は 二 国 間 主 義 、 ヨ ー ロ ッ パ に は 多 国 間 主 義 で の ぞ ん だ 。 そ の 結 果 、 ヨ ー ロ ッ パ で は N A T O や E U が 生 ま れ た が 、 ア ジ ア で は そ う い っ た も の が 生 ま れ な か っ た 。   こ う し た 扱 い の 差 に は 人 種 差 別 的 な 要 素 も あ っ た だ ろ う 。 例 え ば 、 一 九 四 九 年 か ら 五 〇 年 ま で 国 務 長 官 を 務 め た ア チ ソ ン は 「 ジ ャ ッ プ 」 や 「 チ ャ イ ナ マ ン 」 と い っ た 言 葉 を 平 気 で 使 い 、 在 任 中 、 ヨ ー ロ ッ パ を 一 四 回 訪 れ た の に 、 ア ジ ア は 一 度 も 訪 問 し な か っ た 。 ま た 、 ア ジ ア に は 各 国 間 に 大 き な 国 力 の 差 が あ り 、 国 内 の 武 装 勢 力 と 国 境 を 越 え た 攻 撃 の 双 方 か ら 国 家 を 防 衛 し な け れ ば な ら な か っ た 。   ヨ ー ロ ッ パ と ア ジ ア の 制 度 的 な 秩 序 の 違 い は 、 も っ と 根 本 的 な と こ ろ に も 根 ざ し て い る 。 ア ジ ア の 市 場 に は 民 族 的 な 資 本 主 義 が あ り 、 ヨ ー ロ ッ パ で は 法 律 と 政 治 が 重 要 な 意 味 を 持 っ た 。   日 本 の ネ ッ ト ワ ー ク は 一 九 五 〇 年 代 に 再 興 さ れ た 。 そ れ は 官 と 民 の 協 力 で 再 び ア ジ ア で の 日 本 の 地 位 を 確 保 し よ う と す る 取 り 組 み だ っ た 。 ジ ェ ト ロ や ア ジ ア 経 済 研 究 所 は こ の 取 り 組 み に 非 常 に 大 き な 役 割 を 果 た し た 。   そ の 他 に も 、 赤 松 要 氏 や 大 来 佐 武 郎 氏 、 小 島 清 氏 な ど が 様 々 な 政 治 的 イ ニ シ ア チ ブ を 発 揮 し よ う と し た 。 し か し 、 彼 ら の 取 り 組 み は 失 敗 し て し ま っ た 。 東 南 ア ジ ア 諸 国 が 日 本 の イ ニ シ ア チ ブ に 抵 抗 し た か ら だ 。 そ の 後 、 日 本 は 市 場 の 原 則 に 基 づ い て 役 割 を 拡 大 さ せ た 。 さ ら に 円 高 で 日 本 企 業 の 存 在 感 が 増 す と 、 ア ジ ア の 地 域 統 合 は 進 ん だ 。   一 方 、 中 国 の ネ ッ ト ワ ー ク は 日 本 の そ れ と は か な り 違 う 。 一 九 九 〇 年 代 ま で 中 国 国 内 に 独 自 の 政 治 経 済 制 度 や 一 貫 し た 政 治 戦 略 は 存 在 し な か っ た 。 し か し 、 中 国 の ネ ッ ト ワ ー ク は 非 常 に 強 く 、 経 済 的 に ほ ぼ 際 限 の な い 柔 軟 性 を 持 っ て い る 。 特 に 在 外 の 華 人 の 資 本 力 は 高 く 、 中 華 人 民 共 和 国 に 必 要 な 資 金 を 提 供 で き た 。 こ れ が 中 国 の 経 済 成 長 を 支 え た 。 一 九 八 〇 年 代 半 ば か ら 九 〇 年 代 半 ば に か け て 、 中 国 が 必 要 と し た 外 資 の 三 分 の 二 か ら 四 分 の 三 は 在 外 の 華 人 が 提 供 し た と 言 わ れ て い る 。   こ れ は ヨ ー ロ ッ パ で 起 き た こ と と は 異 な る 。 ヨ ー ロ ッ パ で は 法 律 と 政 治 が 中 心 だ っ た 。 欧 州 司 法 裁 判 所 が 加 盟 各 国 の 裁 判 所 よ り も 大 き な 権 限 を 持 っ て い る 。 共 通 の 通 貨 と し て ユ ー ロ が 誕 生 し た 。 条 約 が 非 常 に 重 要 な 意 味 を 持 っ て 、 主 権 を 一 部 共 有 す る よ う な 状 況 が 生 ま れ て い る 。   東 ア ジ ア と ヨ ー ロ ッ パ の 統 合 の ど ち ら が 深 い の か と い う 質 問 に 答 え は な い 。 統 合 が 市 場 に よ る の か 、 制 度 に よ る の か と い う 違 い が あ る だ け で あ る 。

、中

、ア

  現 代 世 界 で は 国 際 化 と グ ロ ー バ ル 化 が 進 ん で い る 。 こ の 二 つ の 変 化 は 地 域 秩 序 に も 影 響 を 与 え て い る 。 古 い 地 域 主 義 は 非 常 に 専 制 的 か つ 閉 鎖 的 で 、 地 域 の 間 に は 障 壁 が あ っ た 。 し か し 、 現 代 の 国 際 化 と グ ロ ー バ ル 化 の 下 に あ る 地 域 は ス イ ス チ ー ズ の よ う に 穴 だ ら け で あ る 。   こ こ で 注 意 し た い の は 、 国 際 化 と グ ロ ー バ ル 化 は 違 う と い う こ と だ 。 国 際 化 は 国 境 を 越 え た 交 流 が 深 ま る こ と を 言 う 。 他 方 、 グ ロ ー バ ル 化 は 時 間 と 空 間 を 超 越 す る プ ロ セ ス で あ る 。 た だ 、 両 者 は 抽 象 的 す ぎ る の で 、 も う 少 し 具 体 的 に 考 え て み た い 。   ア ジ ア で は ど の よ う な 国 際 化 や グ ロ ー バ ル 化 の プ ロ セ ス が 起 き て い る の か 。 ま ず 一 つ が 日 本 化 で あ る 。 日 本 化 に は 二 つ の 側 面 が あ る 。 ひ と つ は 適 応 に よ る 自 己 強 化 だ 。 一 九 四 五 年 以 降 、 日 本 は 工 業 国 と し て 世 界 の 研 究 対 象 と な っ た 。 日 本 が 輸 出 し た の は 、 そ の 生 産 技 術 、 そ の 柔 軟 性 、 適 応 力 だ っ た 。   も う 一 つ の 側 面 は ポ ピ ュ ラ ー カ ル チ ャ ー の 分 野 で の 強 さ で あ る 。 今 、 日 本 は 国 内 総 生 産( G D P )な ら ぬ 国 内 総 か っ こ よ さ( G D C ) が 高 い と 言 わ れ て い る 。 オ リ ジ ナ リ テ ィ ー の 高 い 製 品 を 生 み 出 し 、 カ ル チ ャ ー 産 業 で ア ジ ア を 中 心 に 世 界 中 で 大 き な 利 益 を 上 げ て い る 。 例 え ば 、 音 楽 、 テ レ ビ ド ラ マ 、 漫 画 な ど で あ る 。   第 二 の プ ロ セ ス は 中 国 化 で あ る 。 現 在 、 こ の 中 国 化 に 関 す る 議 論 が 盛 ん だ 。 た だ 、 中 国 と 言 っ た と き に 、 領 土 を 持 つ 中 華 人 民 共 和 国 だ け を 考 え て は な ら な い 。 も っ と ダ イ ナ ミ ッ ク な ネ ッ ト ワ ー ク 、 す な わ ち 海 外

(5)

の 中 国 系 の 人 々 が つ く る ネ ッ ト ワ ー ク が 東 南 ア ジ ア や 東 ア ジ ア に は あ り 、 そ れ も 含 め て 考 え る べ き で あ る 。 特 に 、 東 南 ア ジ ア の 華 人 た ち は ダ イ ナ ミ ッ ク な 変 化 の な か に い る 。 ア ン グ ロ ・ チ ャ イ ニ ー ズ ・ カ ル チ ャ ー と い う も の も 生 ま れ て い る 。 教 育 の 現 場 、 消 費 の 嗜 好 に つ い て も 変 化 が 著 し い 。 た だ 、 そ の 結 果 、 東 南 ア ジ ア 諸 国 は 均 質 で な く な っ て き て お り 、 中 国 化 が 画 一 化 を 必 ず し も 意 味 し て い な い こ と が わ か る 。   第 三 の プ ロ セ ス は ア メ リ カ 化 で あ る 。 ア メ リ カ 化 は 過 去 二 〇 〇 年 の 世 界 的 な 英 米 優 位 の 政 治 構 造 が 基 礎 に な っ て い る 。 そ れ に は 特 許 技 術 の 多 さ な ど 物 質 的 な 面 も あ れ ば 、 ラ イ フ ス タ イ ル の ア メ リ カ 化 な ど 文 化 的 な 面 も あ る 。 事 実 、 ア メ リ カ の ラ イ フ ス タ イ ル や ポ ピ ュ ラ ー カ ル チ ャ ー は 、 八 〇 年 代 以 降 は 東 ア ジ ア の 人 々 に と っ て か な り 身 近 な も の に な っ て い る 。 同 時 に ア メ リ カ 化 は オ ー プ ン エ ン ド で 柔 軟 な も の で も あ る 。 例 え ば ハ リ ウ ッ ド 映 画 を 考 え て 欲 し い 。 ア メ リ カ に 関 す る 映 画 が ハ リ ウ ッ ド で つ く ら れ て も 、 監 督 は 中 国 人 だ っ た り す る 。   最 近 ま で 東 ア ジ ア で は 日 本 化 と ア メ リ カ 化 と が 融 合 し な が ら 地 域 主 義 の 原 動 力 に な っ て き た 。 日 本 が 東 ア ジ ア と ア メ リ カ の 橋 渡 し の 役 割 も 果 た す こ と も 多 か っ た 。 中 国 の 台 頭 で 中 国 化 が 起 き る と 、 そ れ は 日 本 化 や ア メ リ カ 化 と 混 ざ り 合 い な が ら 地 域 を よ り 豊 か な も の に し て い る 。 一 国 の モ デ ル が 地 域 に 拡 大 す る よ う な こ と は も う な い 。 い く つ か の モ デ ル が 融 合 し 、 予 想 の つ か な い 地 域 化 の パ タ ー ン を 生 み 出 す の で あ る 。

  最 後 に 中 国 の 台 頭 に つ い て 私 の 考 え を 述 べ て お き た い 。 中 国 の 台 頭 が 根 本 的 に 世 界 や 地 域 を 変 え る の か と い う と 、 そ う で は な い と 思 う 。 と い う の も 、 私 は 中 国 を 単 に 領 土 と し て と ら え て お ら ず 、 非 領 土 的 な 部 分 に も 目 を 向 け て い る か ら だ 。 そ う し た 目 で 見 れ ば 、 中 国 の 台 頭 で 何 か 根 本 的 な 変 化 が 起 こ る と い う 可 能 性 は 低 い 。   そ れ は 、 近 年 の 大 国 と 呼 ば れ る 国 々 が ど う だ っ た の か を 見 れ ば よ い 。 七 〇 年 代 に は ド イ ツ モ デ ル と い う も の が 言 わ れ 、 イ ギ リ ス が そ れ を 恐 れ て い た 。 具 体 的 に は ブ ン デ ス 銀 行 の 動 き を イ ギ リ ス は 危 惧 し て い た わ け だ 。 し か し 、 そ れ は 杞 憂 に 終 わ っ た 。 八 〇 年 代 、 特 に 技 術 面 か ら 、 も う す ぐ 日 本 が 超 大 国 に な る と 言 わ れ た が 、 二 〇 世 紀 も 二 一 世 紀 も 日 本 の 世 界 に は な ら な か っ た 。 さ ら に 、 新 し い ロ ー マ 帝 国 か と 思 わ れ た ブ ッ シ ュ の 最 初 の 政 権 の 時 も 、 予 想 さ れ た よ う に は な ら な か っ た 。 そ し て 、 今 は 中 国 で あ る 。 今 後 は イ ン ド も 超 大 国 に な る と 言 わ れ る だ ろ う 。   そ う し た 予 想 が さ れ て も 、 実 現 し な い 可 能 性 が 高 い の は な ぜ か 。 そ れ は 、 地 域 化 の プ ロ セ ス 、 例 え ば 日 本 化 、 中 国 化 、 ア メ リ カ 化 の よ う な 「 ○ ○ 化 」 と い う 現 象 が 必 ず 双 方 向 で 起 き る か ら だ 。 つ ま り 、 台 頭 す る 国 が 一 方 的 に 地 域 を 作 り 直 す の で な く 、 そ の 国 も 地 域 に よ っ て 変 化 を 余 儀 な く さ れ る の で あ る 。 ネ ッ ト ワ ー ク が 再 度 調 整 さ れ 、 再 編 成 さ れ る 。 し た が っ て 、 根 本 的 な 変 化 は 特 に 起 き な い の だ 。 ま た 、 地 域 や グ ロ ー バ ル 化 は あ ま り に も 複 雑 で 速 度 が 速 く 、 一 つ の モ デ ル を 当 て は め る こ と は で き な い 。 だ か ら 、 予 想 や 期 待 を し て も 、 必 ず 裏 切 ら れ る こ と に な る の だ 。   今 、 一 方 で 中 国 の 台 頭 を 賛 美 す る 人 々 が お り 、 他 方 で 恐 れ る 人 々 が い る 。 し か し 、 こ れ は と も に 誤 り で あ る 。 地 域 化 の プ ロ セ ス は 双 方 向 で 進 む 。 中 国 も 変 化 の 中 に あ る 。 そ し て ま た 、 ア メ リ カ の イ ン ペ リ ウ ム も そ う だ 。 現 在 の 金 融 危 機 の 中 で 米 ド ル は ま だ 強 く 、 バ ラ ク ・ オ バ マ が 次 期 大 統 領 に 選 ば れ た 。 こ れ で 、 ア メ リ カ の イ ン ペ リ ウ ム は グ ロ ー バ ル な 枠 組 み と し て 東 ア ジ ア で も 維 持 さ れ る こ と に な る だ ろ う 。 新 政 権 の 誕 生 で 、 ブ ッ シ ュ 政 権 に あ っ た イ デ オ ロ ギ ー を 中 心 と し た 考 え 方 を ア メ リ カ 政 府 が 変 え る 可 能 性 が 高 い か ら だ 。   ア メ リ カ の イ ン ペ リ ウ ム の 下 、 中 国 が 台 頭 し て い る が 、 日 本 は 地 域 で の 重 要 な 役 割 を こ れ ま で 通 り 果 た す こ と で 、 東 ア ジ ア 地 域 の み な ら ず 、 世 界 に も 貢 献 で き る と 思 う 。 ( Peter  J.  Katzenstein / 米 国 コ ー ネ ル 大 学 教 授 )

国際シンポジウム

東アジア地域統合と日本

―国家・市場・人の移動

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