木質系炭素材料を用いた電気二重層キャパシタ用機能性電極
船橋
翼
†庄子
習一
†佐藤
正倫
††北島
昌夫
†††梅津
理恵
††††水野
潤
†††††a)Functional Self-Supporting Electrodes for Electric Double-Layer Capacitors Using
Film of Lignocellulosic Carbon Material
Tsubasa FUNABASHI
†, Shuichi SHOJI
†, Masamichi SATO
††, Masao KITAJIMA
†††,
Rie Y. UMETSU
††††, and Jun MIZUNO
†††††a)あらまし 我々は,新規炭素材料 “Film of Lignocellulosic Carbon Material (FLCM)” を酸素雰囲気下での
真空紫外線処理(VUV/O3処理)により改質し,材料の表面官能基修飾と賦活を行った.その結果,木質系材 料から自己支持性の電気二重層キャパシタ電極の作製に成功した.VUV/O3処理によって,FLCM 表面に含酸 素極性官能基が増加したことで電気二重層キャパシタ電解液溶媒との親和性が高まり,更に,表面の細孔が発達 したことで比表面積が増加した.これらのことから,FLCM を自己支持性電極として適切に動作させることに成 功し,安価で高機能な電気二重層キャパシタ新電極の実現が期待される. キーワード 電気二重層キャパシタ,炭素,真空紫外線,活性酸素
1.
ま え が き
近年,木質系炭素材料は様々なデバイスに利用されて
いる.その典型の一つが電気二重層キャパシタ(
Elec-tric Double-Layer Capacitor; EDLC
)である
[1]
∼
[3]
.
EDLC
は大電力を高速にやりとりできるデバイ
スとして注目されており,コピー機のドラムの瞬間加
熱や回生電車・自動車のブレーキ時のエネルギーの再
利用などに使用されている
[4]
.このように電気二重層
キャパシタは様々なデバイスに使われており,今後も
更に用途が広がっていくと考えられているため,安価
な電気二重層キャパシタの普及が望まれている.また,
†早稲田大学理工学術院先進理工学研究科,東京都School of Advanced Science and Engineering, Waseda Uni-versity, Shinjuku-ku, Tokyo, 169–8555 Japan
††デュラートカンパニー,所沢市
Durarth Company, Tokorozawa-shi, 359–1141 Japan
†††早稲田大学理工学術院総合研究所,東京都
Waseda Research Institute for Science and Engineering, Shinjuku-ku, Tokyo, 169–8555 Japan
††††東北大学金属材料研究所,仙台市
Institute for Materials Research, Tohoku University, Sendai-shi, 980–8577 Japan
†††††早稲田大学ナノ理工学研究機構,東京都
Institute for Nanoscience and Nanotechnology, Waseda University, Shinjuku-ku, Tokyo, 162–0041 Japan a) E-mail: [email protected]
電気二重層キャパシタの電極には炭素材料が使われる
ことが多いが,これらの多くは粉状である.粉を電極
に成形するためには粘着性のバインダーと混練するこ
とが一般的となっているが,このバインダーが炭素材
料表面のナノオーダの細孔を閉塞させてしまうなどの
問題点がわかっている
[5], [6]
.そこで我々は,粉状で
はなく,バインダーが不要な自己支持性をもった電極
材料の開発を目指す.
一般的に,最も広く用いられている電極用材料は活
性炭である.活性炭は椰子などの植物から作られるた
め非常に安価であるが,通常粉状であるため電極成形
のためにバインダーが必須である.自己支持性電極材
料としてはカーボンナノチューブを金属板上に成長さ
せるなどの手法がとられてきたが,製造プロセスが高
コストであることや大量生産が困難であることから,
「安価」であることと「自己支持性をもつ」ことの二
点を満たす材料としては未だ課題が残っている.
2.
薄膜状木質系炭素材料
我々は自己支持性電極材料への新たなアプローチと
して,新規炭素材料
Film of Lignocellulosic Carbon
Material
(
FLCM
)を開発した
[7], [8]
.これは,自然
の木質材料が有する機械加工では困難な貫通網目構造
図 1 FLCMの写真と微細構造 Fig. 1 Picture of FLCM and its microstructure.
図 2 FLCMの可撓性 Fig. 2 Bendability of FLCM.
を保持したまま炭化した,多孔質な平板状・薄膜状の
炭素材料である.図
1
は
20 mm
角の
FLCM
の写真
とその微細構造を走査型電子顕微鏡で撮影したもので
ある.これを平板状・薄膜状に加工できるためバイン
ダーを必要としない.更に,曲率半径
15 mm
以下の可
撓性をもたせることが可能な点が特徴として挙げられ
る(図
2
)
.いずれの試料も
100 µm
程度まで薄くでき,
最も薄いものでは
50 µm
まで調製できるため,電気
二重層キャパシタにおいては電極間距離を短くするこ
とができるため有利であると言える.本論文において
は,全ての
FLCM
の厚みを
140 µm
以下に調製した.
3.
酸素雰囲気下での真空紫外線照射処理
新たに開発した材料
FLCM
に対し,当研究室で実績
のある
[9]
∼
[11]
,酸素雰囲気中への真空紫外線照射処理
(
Vacuum Ultraviolet/Ozone treatment; VUV/O
3treatment
)を用いて,
FLCM
の改質に取り組んだ.
VUV/O
3処理とは,図
3
のような装置中で,酸素
雰囲気中にセットした試料に中心波長
172 nm
,照度
10 mW/cm
2の真空紫外線を照射することで,酸素分
子を分解して一重項酸素
O(
1D)
やオゾン
O
3といった
有機材料との反応性の高い活性酸素を生成し,試料表
面の改質を狙うものである
[11]
.
FLCM
は約
90%
が
炭素原子から構成されており,その表面に炭素単結
合・二重結合,ベンゼン環などの構造が無数に存在す
る.酸素雰囲気中に置かれた
FLCM
に真空紫外線を
図 3 酸素雰囲気中への真空紫外線照射処理装置 Fig. 3 Equipment for VUV/O3treatment.照射することで,真空紫外線が
FLCM
中の
C-C
など
の低いエネルギーの結合を切断する.また,それらと
一重項酸素やオゾンなどの活性酸素が反応することで
FLCM
表面に酸素を含む極性官能基が増加すると予
想した.更に,長時間・強い条件で処理を施すことで,
FLCM
表面の炭素構造が分解し,表面に微細な穴が
形成されるのではないかと予想した.これらの予測に
ついて実験を行った.
4.
実 験 方 法
4. 1
電解液溶媒との親和性向上
VUV/O
3処理の露光時間を
10 s
から
300 s
まで条
件を振り,
FLCM
に
VUV/O
3処理を施し,
FLCM
の電解液溶媒との親和性の変化を測定した.親和性の
評価には接触角測定を用いた.
FLCM
上に液滴を滴
下し,
1
秒後の接触角を観察・測定することで,液滴
がどれほど
FLCM
と馴染むかがわかる.液滴には,
電気二重層キャパシタの電解液溶媒に一般的に使われ
る純水と炭酸プロピレンを採用した.また,この実
験において,
180 s VUV/O
3処理した試料について,
X
線光電子分光(
X-ray photoelectron spectroscopy;
XPS
)(
PHI 5000 VersaProbe X-ray photoelectron
spectrometer, ULVAC-PHI Inc.
)を用いて
FLCM
表
面の官能基解析を行った.
4. 2
比表面積の向上
VUV/O
3処理の露光時間を両面各
60
,
90
,
120 min
と長時間にした強い条件で処理を行った.比表面積の
測定には,窒素吸着法を採用した.この実験において
も,両面各
60 min
で
VUV/O
3処理した試料につい
て,
XPS
を用いて
FLCM
表面の官能基解析を行った.
4. 3
電極特性の測定
電気化学的特性を測定することで,
FLCM
が自己支
持性電極として実際に利用可能かを検証した.測定は,
図 4 測定用器具
Fig. 4 Instrument for electrochemical measurement.
図 5 FLCMの接触角変化 Fig. 5 Contact angle change of FLCMs.
図
4
のような金属面を露出させた冶具で
FLCM
(電
極)とセパレータ(
TF4030
,東京産業洋紙株式会社)
を挟み込むことで行い,電気化学測定装置(
HZ-3000,
HOKUTO DENKO Corp.
)を用いてサイクリック
ボルタンメトリーという手法で分析した.両極とも
FLCM
にし,参照極には銀
–
塩化銀電極,電解液には
1 mol/L TEABF
4の炭酸プロピレン溶液を用いた.
5.
実 験 結 果
5. 1
接触角測定結果と表面官能基分析
VUV/O
3処理による接触角の変化の測定結果を図
5
に示す.特に純水の場合では,未処理の場合で接触
角
100
度以上と非常に純水を弾く性質をもっていた
が,処理開始直後から純水・炭酸プロピレンともに,
FLCM
との親和性の向上を確認した.また,
100 s
前
後の短時間の処理によって,安定した
FLCM
と電解
液溶媒との高い親和性を達成した.
図 6 処理前後の C1s スペクトルFig. 6 C1s spectra before and after the treatment.
図 7 比表面積測定結果
Fig. 7 Specific surface area measurements.
VUV/O
3処理前後の
C1s
スペクトルを図
6
に示す.
わずか
3 min
の短時間の処理によって,
C-C
単結合を
示すピークが減少し,代わりに,水酸基・カルボキシル
基などを示すピークが表れ,含酸素官能基の存在が示唆
された.これらの含酸素極性官能基の増加により,極性
をもつ電解液溶媒との親和性が高まったと考えられる.
5. 2
比表面積測定結果と表面官能基分析
比表面積の測定結果を図
7
に示す.未処理
FLCM
の比表面積が
216 m
2/g
であったのに対し,両面各
60 min
処理したものは
340 m
2/g
と向上し,更に,処
理時間が長くなるほど比表面積が向上した.最大で未
処理
FLCM
と比較して比表面積を
50%
以上向上させ
ることに成功した.一方で,処理時間を更に伸ばすと,
FLCM
の分解が進行し,強度が低下すると考えられ
るため,電極利用の際は注意が必要である.
FLCM
の両面各
60 min
処理前後の
XPS
スペクト
ルを図
8
に示す.二つのスペクトルを比較すると,一
見して酸素を含む結合の増加がわかる.各スペクトル
を波形分離し,各原子団の比率を定量分析したものを
表
1
に示す.炭素単結合が減少し,カルボキシル基の
割合が大幅に増加していることがわかった.
以上の結果から,
VUV/O
3処理が電解液との親和
性を維持しつつ,比表面積を増加させていることがわ
図 8 処理前後の C1s スペクトルと分離波形 Fig. 8 C1s spectra and separated waveform, before
and after the treatment.
表 1 C1sスペクトルの分析結果 Table 1 Results of C1s XPS analysis.
図 9 FLCMのサイクリックボルタモグラム Fig. 9 Cyclic voltammogram of FLCMs.
かった.
5. 3
サイクリックボルタモグラム
VUV/O
3処理を両面各
60 min
施した
FLCM
のサ
イクリックボルタモグラムを図
9
に示す.三種類の走
査速度で測定したサイクリックボルタモグラムは,ど
れも目立った酸化還元のピークはなく,典型的な電気
二重層キャパシタとしての挙動を示した.グラフから
キャパシタンスを算出すると,最大で
85 F/g (5 mV/s)
という値が得られた.対して,未処理の
FLCM
の場
合では,最大で
52 F/g (5 mV/s)
であったことから,
VUV/O
3処理が
FLCM
の電極性能向上に寄与してい
ることがわかった.また,これらのことから,
FLCM
が電気二重層キャパシタ電極として確かに機能してい
ることが確認できたと言える.
6.
む す び
本研究では,新規炭素材料の開発と
VUV/O
3処理
を用いた炭素材料表面の改質と賦活処理に取り組み,
自己支持性の電気二重層キャパシタ電極の作製に成功
した.本材料には,従来活性炭などに使われているア
ルカリや水蒸気などによる賦活処理
[12]
∼
[14]
が適用
できるため,将来的にそれらによって更なる性能向上
が望めると考えられる.
文
献
[1] H. Aripin, L. Lestari, D. Ismail, and S. Sabchevski, “Sago waste based activated carbon film as an elec-trode material for electric double layer capacitor,” Open Material Science Journal, vol.4, pp.117–124, 2010.
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[8] M. Kitajima, M. Sato, and H. Nishide, “Prepara-tion of flat porous carbon films from paper-thin wood shavings and control of their mechanical, electrical and magnetic properties,” Carbon, vol.61, pp.260– 269, 2013.
[9] H. Shinohara, J. Mizuno, and S. Shoji, “Studies on low-temperature direct bonding of VUV, VUV/O3
and O2plasma pretreated cyclo-olefin polymer,” Sen-sor Actuators, A, vol.165, pp.124–131, 2011. [10] H. Shinohara, A. Nakahara, F. Kitagawa, Y.
Mizuno, “XPS and NEXAFS studies of VUV/O3 -treated aromatic polyurea and its application to microchip electrophoresis,” IET Nanobiotechnology, vol.5, pp.136–142, 2011.
[11] H. Shinohara, T. Kasahara, S. Shoji, and J. Mizuno, “ Studies on low-temperature direct bonding of VUV/O3-, VUV- and O2 plasma-pre-treated poly-methylmethacrylate,” J. Micromechanics and Micro-engineering, vol.21, 085028, 2011.
[12] M.A. Lillo-R´odenas, D. Cazorla-Amor´os, and A. Linares-Solano, “Understanding chemical reactions between carbons and NaOH and KOH: An insight into the chemical activation mechanism,” Carbon, vol.41, pp.267–275, 2003.
[13] K. Kierzek, E. Frackowiak, G. Lota, G. Gryglewicz, and J. Machnikowski, “Electrochemical capacitors based on highly porous carbons prepared by KOH activation,” Electrochimica Acta, vol.49, pp.515–523, 2004.
[14] F.-C. Wu, R.-L. Tseng, and R.-S. Juang, “Compar-isons of porous and adsorption properties of carbons activated by steam and KOH,” J. Colloid Interface Science, vol.283, pp.49–56, 2005. (平成 26 年 2 月 25 日受付,6 月 8 日再受付, 10月 15 日公開)