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絵本を通した“私”の心の成長

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(1)Title. 絵本を通した“私”の心の成長. Author(s). 渡部, 良子. Citation. 学校臨床心理学研究 : 北海道教育大学大学院教育学研究科学校臨床心理 学専攻研究紀要, 第15号: 57-66. Issue Date. 2018-03-14. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9815. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 絵本を通した“私”の心の成長 渡 部 良 子*. A short letter on my growth of mind through picture books. 要 約 幼い時,子どもが母親に温かい声でたくさん絵本を読んでもらった心地よい経験は,幼児期になり, 安心できる身近な対象を仲間や先生に広げ,仲間と共に絵本を通して文化的実践の世界へと興味を持ち, “私(自己)”を成長させていくのではないだろうか.このように絵本は,子ども時代には母親との関 係を築き母親を通して文化的実践にふれていく道具として,成長するにつれ,現実社会を理解する道具 として, “私(自己) ”と他者とをつなぐ重要な役割を担っていくと考えられる.そして,そのように育っ た子どもは大人へと成長するなかで,今度は自分が絵本を通して次世代の成長に積極的に関与するよう になると考える.そこで,本稿では,筆者である“私”の子ども時代,子育て時代,子育てと並行した 中学校国語の教師時代のライフストーリーを描き出し,絵本を通した筆者の心の成長,すなわち“私(自 己)”の成長について振り返っていく.これにより,子ども時代の筆者,教師時代,母親時代の筆者が 絵本とのかかわりの中で他者とどのようにつながり,どのように心を成長させ,またその経験を次世代 の子どもたちの心の成長にどのよういつなげていったかを検討していく.. 1.はじめに. なった. このように筆者は,教師として子どもを育む幼 児教育という次世代育成の場に身を置き,子ども. 筆者は,5年前より私立のA幼稚園の園長とし. て勤務している.3人の我が子の子育てを終えて, たちと保護者との日々のかかわりから絵本と子ど ややしばらく幼児の教育からは離れていたが,A. もの成長に関心を持つようになった.. 幼稚園に勤めはじめて,幼稚園の子どもたちが絵. また,筆者は,3人の子どもを育てた経験の中. 本の読み聞かせをとても楽しみにしている姿や,. からも,絵本が次世代の心を育む大変良い道具で. 一心に絵本を見つめている姿を見て,幼児期の子. あることを感じていた.そしてまた,筆者自身の. どもたちの成長にとって絵本が持つ意味を考えて. 子ども時代を振り返ってみても,筆者の父親,母. いきたいと願うようになった.また,幼稚園を卒. 親の温かいぬくもりと共に味わった絵や文字や言. 園した保護者から,子どもたちが小学校に入学し. 葉の世界,中学校の国語の先生から学んだ奥深い. た後も,自然と学校図書館で本を借りるようにな. 文学の世界,年上の大学生の少し大人びた言葉の. る,ということを聞き,ますます幼児期の絵本と. 世界が,筆者の心を成長させていったと感じるの. の関わりが,小学校に上がってからの本との関わ. だ.. りに影響を与えるのではないか,と感じるように. ところで,佐伯胖は,著書『共感 育ち合う保. *. Ryoko WATANABE:北海道教育大学大学院学校臨床心理専攻・院生. キーワード:絵本 心の成長 世代継承性 ライフストーリー. 57.

(3) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度). 育のなかで―』 (ミネルヴァ書房,2007年)で, 「発. 者の絵本・書籍を通したライフストーリーをあら. 達のドーナッツ論」を提唱している.このモデル. わしていく.ライフストーリーをあらわす際に,. は,Wallon,H. の自我発達論にかかわらせて,. その出来事を豊かに理解し解釈できるように,絵. 自我と他者の相互関係の全体像が分かるように同. 本や書籍の題名,絵本の絵や文字を明示するよう. 心円状に図式化したものである.. 努めた.桜井(2005)はライフストーリー・イン. 「発達のドーナッツ論」では,I(自己)が発. タビューを行う時に,書籍やレコードやCDなど. 達していくとき,YOU的関わり(その人の身に. の購入品はモノ自体としては意味をなさないが,. なってくれるような関わり)を持ってくれる他者. 持ち主のライフストーリーと関連させると意味の. (母親など)との出会いが不可欠であり,その. あるものとして立ち現われてくるとしている.本. YOUを通して,次第にYOUが実際に活動してい. 稿では, “私”が他者と結んでいく絵本史を綴る. る社会・文化の実践世界(THEY)を垣間見られ. ことで,絵本の意味を立ち上がらせることができ. るようになる,というのである.母親(YOU). ると考える.なお,ライフストーリーを綴る際に,. に温かい声でたくさん絵本を読んでもらった心地. ストーリーの流れを損なわないように,体言止め. よい経験を通して,子ども(I)は幼児期になり. 等の表記を用いている.. 安心する仲間や先生にYOUの対象を広げるなか で,仲間と共に絵本を通して文化的実践の世界. “私”の幼少時代 ―父母の愛の中で育つ―. (THET世界)へと興味を広げ, “私(自己)”を. 私は,兄,私,妹3人の5人兄弟の中で育った.. 成長させていくのではないだろうか.このように. 私の父は,自分で仕立てをする紳士服店を経営し. 絵本は,子ども時代には母親との関係を築き母親. ており,母は,結婚前は児童養護福祉施設で保母. を通して文化的実践にふれていく道具として,成. をしていた.父は,中学校2年生で父親を戦争で. 長するにつれ,現実社会を理解する道具として,. 亡くし,夢であった教員の道をあきらめ,中学校. “私(自己) ”と他者とをつなぐ重要な役割を担っ. を中退し,叔父の下で洋服仕立ての職人の道を選. ていくと考えられる.そして,そのように育った. んだ.20代後半に,A教会で宣教師の先生が開い. 子どもは大人へと成長するなかで,今度は自分が. ていた英会話教室がきっかけとなり,二人は結婚. 絵本を通して次世代の成長に積極的に関与するよ. した.両親は結婚時にキリスト教に入信し,私は,. うになると考える.. にぎやかな,そして敬虔なクリスチャン家庭の中. そこで,本稿では,まず筆者である“私”の子. (1) で育った.. ども時代,子育て時代,子育てと並行した中学校. 母は,5人の子どもたちを育てるために,いつ. 国語の教師時代のライフストーリーを描き出し,. も家事に追われていた.そのためか,父がよく私. 絵本を通した筆者の心の成長について振り返って. たちと遊んでくれた.. いきたい.次に筆者のライフストーリーを「発達. 我が家は,両親が中古で購入した,木造の,2. のドーナッツ論」用いて検討していく.これによ. 階部分は屋根の梁がむき出しの,古い住宅であっ. り,子ども時代の筆者,教師時代,母親時代の筆. た.私たち子どもたちは,2階の梁によじ登って. 者が絵本とのかかわりの中で他者とどのようにつ. よく遊んでいた.また父は,1階のビニールカー. ながり,どのように心を成長させ,またその経験. ペットにケンケンパや相撲の土俵の円をマジック. を次世代の子どもたちの心の成長にどのようにつ. で書き,私たちが室内で遊べるようにしてくれた.. なげていったかを見ていきたい.なお,本稿では. 外には小さな庭があったが,そこに鉄製のジャン. 「心の成長」を佐伯の「発達のドーナッツ論」に. グルジム,高い鉄棒があり,公園のように遊ぶこ. おけるI(自己)の成長として考えていく.. とができた.おまけに,父の洋服屋で使わなくなっ た看板が隅っこに置かれており,黒板のように. 2.絵本を通した“私”のライフストーリー. チョークでのびのびと落書きができた.とにかく 両親は,私たち子どもたちのために,工夫をして 一番良い環境を考えてくれていた.. ここでは, “私”という一人称の語りとして筆 58.

(4) 絵本を通した“私”の心の成長. また,夜私たち5人の子どもたちを寝かしつけ. 園を訪ねたそうだ.. てくれるのは,父のことが多かった.父はよくワ. 私の母は,本の虫だった.独身時代にお金を貯. クワク,ドキドキする冒険ものの創作のお話をし. めて買った世界文学全集を愛読書にしていた.忙. てくれた.私たち5人の子どもたちは,布団に顔. しい子育ての後,夜中によく本を読んでいた.夜. を半分隠し,ドキドキしながらお話を聞いていた. 中にトイレに起きた時,一心に本を読んでいる母. ものだ.. の姿を今でも思い出す.. 私はこのような家庭環境で育った. “私”の小学生時代―科学的読み物と子ども向. 私がこのころ手にしていた絵本は「キンダー. け雑誌―. (2) ブック」 (フレーベル館)である.幼稚園で学. 年ごと全員が購入する,価格の安い月間保育絵本. 我が家にはアーネスト・トムソン・シートン著 . であった.しかし,その内容は出版社が厳選した. 白木茂訳『少年少女シートン動物記』 (偕成社. ものであり,秀逸な作品が多かった.私たち姉妹. 1962年)ファーブル著 古川晴夫訳『少年少女. が覚えているのは村山籌子(文) ・村山知義(絵). ファーブル昆虫記』 (偕成社 1962年)などの子. 『髪どこやの大根さん』(3)(婦人之友社1928年). どもの読み物が揃っていて,楽しんで読んでいた. である.「床屋のお父さんの真似をして,玉ねぎ. (4) 記憶がある.また,月刊誌『科学』 (学研出版). さんの頭をギザギザに切ってしまった子どもの大. を買ってもらっていた.また,小学館の雑誌も買っ. 根さん.町の人たちは,玉ねぎさんのようにはな. てもらっていた.テレビもよく観た.小学館の雑. りたくないので,床屋さんに行かなくなってしま. 誌には,ドラえもんなどの漫画や,面白い読み物. いました.困った大根さん親子.でも,しばらく. がたくさん掲載されていた.テレビも,「ウルト. すると,お客さんは戻ってきました.玉ねぎさん. ラマンシリーズ」や,「巨人の星」「ひみつのあっ. の頭が元に戻ったからです. 」. こちゃん」など,今見てもストーリー性や道徳性. かわいいとは言えない不思議な画風の絵本.単. や,創造性が高いものが多かったように思う.父. 純なお話.かえってそのような絵本が心に残るの. 母とも,本を読むことを強制しなかったので,思. かもしれない.姉妹で,何度も読んで楽しんだ記. う存分,読みたいものを読み,見たいものを見て. 憶がある.. いたように思う.ただ,7時のNHKニュースは. 私たち兄弟姉妹は,全員A幼稚園を卒園した.. 必ず見ることになっていた.. A幼稚園は,A教会の宣教師の先生が中心となり 教会の付属幼稚園として建てたものである.幼稚. “私”の中学校時代―国語教師との出会い―. 園ではいつも紙芝居を読んでくださった.そのこ. 軟式テニス部に所属し,部活動と,受験勉強に. ろ人気があったのは『タイタニックは沈まない. 追われていた.ゆっくり読書をすることもなかっ. THE TITANIC STILL LIVES― 死 に 打 ち. た.. 勝った愛の物語―』 (基督教児童図書刊行会 発. 私の中学校2年生の時の,学級担任で国語の教. 行年不詳)だそうだ. (まったく記憶にはないの. 科担任でもあった男性の先生は,とても熱心な先. だが, 私の担任だった先生が教えてくださった. ). 生だった.クラスの男の子と,休み時間,教室の. 最近,インターネットでこの紙芝居を検索してみ. 後ろでプロレスごっこをいつもしていた.国語の. て,そのお話の長さと内容の難しさに驚いた.避. 授業では太宰治の『走れメロス』という教材で,. 難するボートを他の人に譲って,沈んでいく「タ. 先生の伝えたい思いがいっぱい詰まったプリント. イタニック号」の中で,賛美歌を歌いながら死を. を配布してくれた.文章をそこまで深く読み取る. 迎える人々の姿が描かれている. 「自己犠牲」の. 姿勢に,影響を受けた.そのあと,その先生は大. 精神を,幼い子どもたちが受け入れて,感動して. 学に呼ばれ,教授として退官している.. いたのだ. また,兄は高校時代にふと,幼稚園時代に読ん. “私”の高校時代―小説から人の生き方を学ぶ―. でもらった紙芝居を思い出し,友達と二人で幼稚. 高校時代は,大学受験に力を入れる進学校に進 59.

(5) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度). んだが,硬式テニス部が面白く,部長になり朝か. “私”の教師時代(独身の頃)―私から生徒へ―. ら晩までボールを追いかけていた.そうなると,. 大学では,小学校課程,教育心理学科で学んだ. 読書どころか,勉強にも力が入らず,授業中に居. が,就職は大学時代に資格を取った中学校国語の. 眠りをして,先生から注意されることもあった.. 教師として,中学校に赴任した.. しかし,両親は私の行動について,注意をするこ. 中学校国語の教科書には良い小説がたくさん. とはほとんどなく,ゆったりと自分のしたいよう. 載っていた.. に毎日生活していたように思う.. 一年生で宮沢賢治の『オツベルと象』の授業を. そのような中でも,時間があるときには日曜日. 行ったとき,生徒の読み取りに大きく差があるこ. に,A教会の日曜学校を手伝っていた.A教会に. とが分かった. 『オツベルと象』はずる賢いオツ. は青年寮があり,そこの北大生のお兄さんがたの. ベルと,オツベルに働かされて,どんどんやせ細っ. 影響を受けた. 寮祭で見せてくれた三浦綾子の 『塩. ていく純真な心の白象の話だ.ある牛飼いがス. (5) 狩峠』 の映画(松竹1973年)は忘れられない.. トーリーテラーとして物語が進んでいく.冒頭に. 実際あった列車事故をもとに書かれた小説の映画. ある「オツベルときたら大したもんだ.」という. 化だが,自分の命をなげうって,他の乗客を助け. 一文は,牛飼いの皮肉めいた言葉なのだが,それ. る「自己犠牲」がテーマとなっており,自分のた. を真に受け取り,「オツベルさんは,頭がよく,. めに自分の好きなように生活していた私にとって,. 立派な人だと思います.」と読み取る子が,クラ. 衝撃の作品となった.すぐに本を探し, 読み, 色々. スに数人いて,物語といえども,全体の流れから. と考えた.. 内容を読み取ることは,本当に大変なことなのだ, と感じたものだ.. “私”の大学時代―絵本から社会を覗く―. 授業中に,教科書だけでなく大学時代に集めた. 教育大学に進み,幼稚園の免許のために絵本の. 絵本も,年に一度くらいは紹介した.普段授業に. 講義を受けた. 「レオ・レオニ」 「いわさきちひろ」. 積極的ではない生徒も,「先生,もっと読んで.」. 「宮沢賢治」などの絵本を紹介してもらい,絵本. と絵本を楽しんでいた.. に興味を持つ.そのころ,琴似で障がい児の家庭 教師をしていたが,そこにあった「くすみ書房」(6). “私”の母親時代―私からわが子へ―. に影響を受けた.とてもこだわりのある本屋さん. 結婚をし,長男が生まれた.子どもに良い本を,. で,良い絵本や,思想的な本がたくさん置かれて. と真剣になった.ホルプ出版社の絵本セットを購. いた.. 入し,本屋さんで,良い本に出合うと,あまり金. アルバイトの帰り,よくそこで立ち読みをして. 額を気にせずに次々買っていた.くすみ書房へも,. いた.シェル・シルヴァスタイン著 倉橋由美子. よく足を運んだ.. 訳『ぼくを探しに』 (講談社1977年)や,フィリ. 私の好きな絵本は,「絵がきれいな絵本」「言葉. ピンのバナナ農園の農民がいかにひどい生活を強. にリズムがある絵本」「ワクワク楽しめる絵本」. いられているかが描かれた薄い絵本を購入した.. であった.子どもにはたくさん絵本を読んだ.松. また,大学3年生より,車いすで自立生活をす. 谷みよ子文・瀬川康男絵『いないいないばあ』 (童. る障がい者の団体「札幌いちご会」代表の小山内. 心社 1967年),わかやまけん『しろくまちゃん. 美智子さん(7)のボランティアをしていたためか,. のホットケーキ』 (こぐま社 1972年),マーシャ・. 文学書も読んでいたが,社会問題的な本を多く読. ブラウン作・瀬田貞二訳『三びきのやぎのがらが. んでいた.. らどん』(福音館書店 1965年)エリック・カー. 教会の青年寮の北大生と,聖書の勉強会もして. ル作もりひさし訳『はらぺこあおむし』 (偕成社 . いた.いろいろな解釈の余地のある聖書を,それ. 1976年),エウゲーニー・M・ラチョフ作うちだ. ぞれの読み取りで発表したりした.信仰的な勉強. りさこ訳『てぶくろ』(福音館書店 1965年),な. 会,というよりは,文学の勉強会に似ていたが,. かがわえりこ文・おおむゆりこ絵『ぐりとぐら』. 面白かった.. (福音館書店 1967年),長谷川摂子文・ふりや 60.

(6) 絵本を通した“私”の心の成長. なな絵『めっきらもっきらどおんどん』 (福音館. 3人で声を合わせて. 書店 1990),レオ・レオニ作・藤田圭雄訳『あ. 「トンネルトンネルトンネルトンネル まっく. おくんときいろちゃん』 (至光社 1984年) , トミー. らまっくらまっくらまっくらトンネルトンネルト. =アンゲラー作・いまえよしとも訳『すてきな三. ンネルトンネル まっくらまっくらまっくらまっ. にんぐみ』 (偕成社 1969年) ,五味太郎『おみせ. くら」.. やさん』 (ほるぷ出版 2008年)松谷みよ子文・. 「でた!おひさまだ! さあ,いくぞ びゅー. 東光寺啓絵『のせてのせて』 (童心社 1969年). ん」 .. など.. 夜の場合は, 「でた!おつきさまだ!さあ,い. それぞれの絵本に子どもとのエピソードがある. くぞ,びゅーん」と喜んでいた.. のだが,『のせてのせて』は,子どもたちがとて. 絵本はいつも子どもたちの生活のそばにあった.. も楽しんだ絵本である. 我が家には,長男,長女,次男の3人の子ども. 今年,27歳の長男が結婚した.お嫁さんも,小. がおり,今はもう成人となっているが,この絵本. さい時よくお母様に絵本を読んでもらったそうだ.. は,3人の子どもたちみんなが乳幼児期,大好き. これから家庭を築いていく子どもたち.子どもの. だった.. 時の幸せな思い出が,次世代に引き継がれていっ. 子どもをお膝にのせて,膝でトントンリズムを. てほしい,と願っている.. 取りながら「まこちゃんのじどうしゃですよう早. 3.「発達のドーナッツ論」におけるYOU的 道具としての絵本. いですよう.ブブーブー. 」 と読んでいく. 「ストッ プ!のせてのせて. 」 私のお膝のトントンもストッ プする.うさぎ,その次はくまが「ストップ!の せてのせて. 」 お次はねずみの親子. 「チュチュチュ. 「1.はじめに」でも述べたように,佐伯胖は,. チュチュ」お客さんがどんどん乗ってくる.その. 著書『共感 育ち合う保育のなかで―』で, 「発. たびにお膝自動車もストップ!. 達のドーナッツ論」を提唱している(図1).また,. さあ,まこちゃんのじどうしゃは,もう満員.. 佐伯は『「学ぶ」ということの意味』(岩波書店,. スピードを上げてどんどん走っていくと今度はト. 1995年)の中で「道具である教材にも二つの接面. ンネル.「トンネルトンネルトンネルトンネル . は存在する,としている.教材の第1接面とは,. まっくらまっくらまっくらまっくら トンネルト. 教材そのものが学習者にとってわかりやすく,親. ンネルトンネルトンネル まっくらまっくらまっ. しみやすく, 『身近な』ものとしてとらえること. くらまっくら」 .. ができる側面であること.そのとき教材は『私の. 「でた!おひさまだ!」長い長ーいトンネルの. もの』になる.教材の第2接面とは,教材が切り. 出口がやっと見えた. 「さあ いくぞ びゅーん」 . 開いてくれるものが,現実社会の文化とかかわり ここで絵本は終わる.絵本を閉じると中表紙に, を持ってくる側面である.」と述べている.まさ まこちゃんのじどうしゃがびゅーんと山を登って. に絵本は,子ども(I)にとって「わかりやすく,. いく絵が描かれている.だから私もお膝を左右に. 親しみやすく『身近な』存在であり,第1接面で. 揺らしながら「びゅーん」 .. 出会う「YOU的道具」といえるだろう.. 読み終わると子どもたちから「もっちゃい(も. 松居直は,著書『絵本とは何か』 (日本エディター. う一回) 」.またまた読み終わると「もっちゃい」 .. スクール出版部,1975年)の中で, 「絵本を子ど. 親子でとても楽しみながら何度も何度も読んだも. もに読んでやる時間は,親が子どもに語りかける. のだ.. 貴重な時間」であり, 「子どもも親も根底から湧. 我が家は,夫も私もアウトドアー派で,休みに. き上がる喜びを感じる」時であると述べている.. なると子どもたちを車に乗せて,郊外へドライブ. 幼い時,子ども(I)が,母親(YOU)に温かい. するのが好きだった.. 声でたくさん絵本(YOU的道具)を読んでもらい,. 子どもたちは,ドライブでトンネルに入ると,. 親も子も絵本を通して根底から湧き上がる喜びを 61.

(7) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度). YOU 的共同体 I. YOU. THEY. 世界. 世界. 文化的実践の世界. (自己). 第一接面. 第二接面. 図1 発達のドーナッツ(佐伯,2007). 共感した経験は,幼稚園や保育園で出会う仲間や. 社会的な(THEY)的な関わりへと変化していっ. 先生へと「YOU」の対象を広げていく.そして,. ていることがわかる.つまり,父,母,兄弟姉妹. その仲間と共に,絵本を楽しむ経験をさらに重ね. といった親密な関係の中で自己を育てていった. ていく.. “私”が,それを基盤として,学校の教師,町の. また,幼い時のそのような安心に満ちた環境で. 本屋,年上の大学生といった(THEY)的な他者. 与えられた,絵本との関わりの経験は,10代で出. とのかかわりの中から,現実的な社会へと自己を. 会う書籍への興味となり, 現実社会(THEY世界). つなげていっていることがわかる.また,絵本・. へと心の扉を開いていく基本となっていくのでは. 書籍は,子ども時代には(YOU)的道具として,. ないか.. 成長するにつれ,現実社会を理解する(THEY) 的道具として, “私”と他者とをつなぐ重要な役. 4.絵本を通した“私”の心の成長. 割を担っていたとわかる. 一方“私”が成人し,教師となり,母親となっ. 本節では,“私”のライフストーリーを「発達. てからは, “私”自身がわが子にとっては(YOU). のドーナッツ論」と重ね合わせながら,さらに論. 的存在となり,学校の生徒にとっては(THEY). 考していきたい. そのために表1は, ライフステー. 的存在となっていることもわかる.このように,. ジごとに,絵本等にかかわる出来事,絵本等に関. (YOU)的存在に大切に育てられた者が,次世. する私と他者の関係,そして他者との関係がつく. 代を自分と同じように育てていこうとすることが. りだす接面についてまとめたものである.なお,. わかる.なお,この「次世代の成長に深く関心を. 絵本等に関する私と他者の関係の欄にある,⇔は. 注ぎ,関与すること」を,岡本(2014)はエリク. 相互の関係性を表し,⇒は一方から他方への関係. ソンの「世代継承性(generativity)」という概念. 性を表している.. を用いて説明している. そして,“私”の長男が新しい家族を作ってい. この表では,幼少期,小学生時代,中学生時代. くことにより,今後長男夫婦が(YOU)的(THEY). と年齢が上がるにつれ, “私” (I)の他者との関. 的他者として次世代を育てていくだろうという予. わりは,より身近な(YOU)的な関わりから,. 測と期待が膨らんでくるのだ. 62.

(8) 絵本を通した“私”の心の成長 表1 絵本を通した“私”の心の成長 絵本等に関する. 発達の. 私と他者との関係. ドーナッツ. 私(I)⇔父(YOU). 第1接面. 私(I) ⇔ 幼 稚 園 の 先生(YOU) ・母は本の虫であった。夜中に本を読む姿を私はよく見 私(I) ⇒ 母 の 読 書 ていた。 する姿(YOU) ・ 『髪どこやの大根さん』は,私たち姉妹の好きな絵本で 私(I) あった。子どもたちで読んで楽しんだ。 ⇔妹たち(YOU). 第1接面. 小学校時代. ・我が家には『少年少女シートン動物記』 『少年少女ファー 父母(YOU)⇒私・ ブル昆虫記』月刊誌『科学』が揃っていた。 兄弟姉妹(I) ・漫画や,テレビも好きだった。父母は読書を強制しな かった。. 第1接面. 中学校時代. ・部活動と勉強に明け暮れる日々だった。国語の先生の 先生(THEY) 授業に,文章を深く読み取ることの大切さを学び,影 ⇒私(I) 響を受けた。. 第2接面. 高校時代. ・進学校に進んだが,硬式テニス部の部長として,テニ 北大生のお兄さんた スに明け暮れる毎日だった。A教会の青年寮の北大生か ち(THEY) ら,影響を受ける。『塩狩峠』との出会いは自分にとっ ⇒私(I) て衝撃的であった。. 第2接面. 大学時代. ・絵本の講義 「レオ・レオニ」「いわさきちひろ」 「宮沢賢治」の絵本と出会う。絵本の魅力に引き込ま れていった。 ・くすみ書房 こ だわりの本がたくさん置いてあった。アルバイトの 帰りによく立ち読みをした。『ぼくを探しに』や,フィ リピンのバナナ農園の問題が描かれた絵本は,このこ ろ購入した。 ・小山内美智子さんのボランティアを始め,社会問題に 興味を持ち,その傾向の本を読むようになった。 ・青年寮の北大生と,聖書の勉強会を行うことにより, 一つの文章にもいろいろな読み取りがあることに面白 さを感じる。. 第2接面. 時代 幼少時代. 出来事 ・父は家を子どもが喜ぶように改造してくれた。 ・父が寝る前に創作のお話をよくしてくれた。 ・幼稚園では先生が紙芝居をよく読んでくれた。. 教師時代 ・中学校国語の授業の, 『オツベルと象』という小説では, (独身時代) 生徒たちの読み取りの力の差を感じた。 ・授業の中で,自分が集めた絵本を読むこともあった。 生徒たちは,「先生,もっと読んで。」と絵本を楽しん でいた。. 63. 大学の講義 (THEY) ⇒私(I). 第1接面 第1接面. 第2接面 くすみ書房 (THEY) ⇒私(I). 小山内美智子さん (THEY) ⇒私(I) 聖書学習会 (THEY) ⇒私(I). 第2接面. 私(THEY) ⇔生徒たち(I) 私(THEY) ⇔生徒たち(I). 第2接面. 第2接面. 第2接面.

(9) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度) 私の母親時代 ・子どもに良い本を,と真剣に考えた。ホルプ出版の絵 子どもたち(I). 第1接面. 本のシリーズをすべて購入し,本屋さんで良い本に出 ⇔「良い絵本」 合うと,金額をあまり気にしないで購入した。 ・子どもへの読み聞かせ. (YOU的道具) 私(YOU). ・「のせてのせて」の読み聞かせ ⇔子どもたち(I) ⇒ドライブで子どもたちがトンネルに入ると,「とんねる 私(YOU) とんねる・・・・・・」と声を合わせて楽しむ。 ⇔子どもたち(I) 子 ど も た ち(I) ⇒ トンネル(THEY世 界) ・長男の結婚 長 男(I) ⇒ 新 生 活 (THEY). 注. 第1接面 第1接面 第2接面. 第2接面. ばかりを集めた「売れない文庫フェア」や,著 者や北大の研究者らを招き店内で開く文化交流 カフェ,朗読会などユニークな企画を次々と打. ⑴ 家族の信仰等の記載にあたっては,関係者全. ち出し注目を集めた.中でも,「本屋のオヤジ. 員の承諾を得ている.. のおせっかい」と題し中高生に読んで欲しい本. ⑵ 「キンダーブック」は1927年11月,日本で初 めての保育と結びついた絵雑誌として誕生した.. を集めた「これを読め!」シリーズや,いじめ. 幼稚園を通じて園児の家庭へ絵雑誌を配布する. に悩む若者向けの本を選んだ「君たちを守りた. という画期的な普及方法を開拓した.日本にお. い」フェアは道内各地の書店や他県にも広がっ. ける絵雑誌の広範囲にわたる普及と,絵本に対. た.しかし,大型店出店の影響で売り上げが低. する一般の関心を広め,その概念形成にも大き. 迷し,2009年に厚別区の商業施設に移転. 「地. な役割を果たした.・・・松居直 1989『こど. 域に愛される本屋」を目指し再出発したが,15. ものともの歩み』福音館書店 参照. 年 に 閉 店 し た.・・・ 朝 日 新 聞 デ ジ タ ル 版 (www.asahi.com/)2017年8月30日配信参照. ⑶ 『髪床やの大根さん』作者の村山籌子(1903 -1946)と,絵担当の村山知義は,夫妻. 『髪. ⑺ 「小山内美智子」 自立生活センター NPO. 床やの大根さん』は,籌子の死後,童話集,紙. 法人札幌いちご会 理事長 1977年から障がい. 芝居など複数掲載されている.・・・山崎怜 . 者が自由に地域で生きるための運動を行ってき. 1992『村山籌子(1903-1946)をめぐって』 (香. た.障がいのある人たちが施設ではなく,介助. 川大学 一般教育研究 第42巻 77-119)参. 体制さえあれば地域で暮らしても危険がないの. 照. だということを社会に訴えている.著書に『車. ⑷ 『科学』は毎月家庭に届く子供向けの月刊誌.. いすからウインク』文藝出版(1988),『あなた. 「もやしを育てるキット」 「プラネタリウム」. は私の手になれますか』中央法規(1997),『私. など興味深い付録が毎月ついてきた.. の手になってくれたあなたへ』中央法規(2007), 『おしゃべりな足指 障がい母さんのラブレ. ⑸ 『塩狩峠』は明治42年に実際に起こった鉄道 事故を元にした人間のあり方と愛と信仰の物語.. ター』中央法規(2017)など多数.1997年には. 三浦綾子の代表作である.. NHKスペシャル「あなたは私の手になれます. ⑹ 「くすみ書房」社長であった久住邦晴さんは. か-小山内美智子のメッセージ」2011年には,. 2017年8月に死去している. 「くすみ書房」は. NHKヒューマンドキュメンタリー「あなたが. 1946年に札幌市西区琴似で創業し,99年に邦晴. 私の心の道しるべ-小山内美智子と浅野史郎」. さんが父の後を継いだ.読書離れに歯止めをか. など,メディアにも多く取り上げられている.. けようと,良書なのに売れ行きのよくない作品. 本稿への名前の掲載は本人に許諾を得ている. 64.

(10) 絵本を通した“私”の心の成長. 引用文献. ・わかやまけん(1972) 『しろくまちゃんのホッ トケーキ』こぐま社・作者・発行年不明『タイ タニックは沈まないTHE TITANIC STILL . ・A・ワロン著 浜田寿美男訳編(1983) 『身体・. LIVES―死に打ち勝った愛の物語―』基督教児. 自我・社会』ミネルヴァ書房. 童図書刊行会. ・エウゲーニー・M・ラチョフ/うちだりさこ (1965) 『てぶくろ』福音館書店 ・エリック・カール/もりひさし(1976) 『はら ぺこあおむし』偕成社 ・Erikson, E. H. (1950) Childhood and society. New York: W. W. Norton.( 仁 科 弥 生( 訳 ) 1977.1980 幼児期と社会 1・2. みすず書 房,東京) ・五味太郎(2008) 『おみせやさん』ほるぷ出版 ・長谷川摂子/ふりやなな(1990) 『めっきらもっ きらどおんどん』福音館書店 ・マーシャ・ブラウン/瀬田貞二(1965) 『三び きのやぎのがらがらどん』福音館書店 ・松居直(1975) 『絵本とは何か』日本エディター スクール出版部 ・松谷みよ子/瀬川康男(1967) 『いないいない ばあ』童心社 ・松谷みよ子/東光寺啓(1969) 『のせてのせて』 童心社 ・三浦綾子(1973) 『塩狩峠』小学館 ・村山籌子/村山知義 (1928) 『髪床やの大根さん』 婦人之友社 ・なかがわえりこ/おおむゆりこ(1967) 『ぐり とぐら』福音館書店 ・岡本裕子(2014)『プロフェッションの生成と 世代継承,ケーススタディ 中年期の実りと次 世代の育成』ナカニシヤ書房 ・レオ・レオーニ/藤田圭雄(1984) 『あおくん ときいろちゃん』至光社 ・ 桜 井 厚(2005)『 ラ イ フ ス ト ー リ ー・ イ ン タ ビュー 質的研究入門』せりか書房 ・佐伯胖(1995) 『 「学ぶ」ということの意味』岩 波書店 ・佐伯胖 (2007) 『共感 育ち合う保育のなかで―』 ミネルヴァ書房 ・シェル・シルヴァスタイン/倉橋由美子 (1977) 『ぼくを探しに』講談社 ・トミー =アンゲラー/いまえよしとも(1969) 『すてきな三にんぐみ』偕成社 65.

(11) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度). SUMMARY A short letter on my growth of mind through picture books Ryoko WATANABE (Gradute Student, Hokkaido University of Education). Key words : picture book, growth of mind, generativity, life story. 66.

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参照

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