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「家庭生活」に関する学習内容の日・米の教科書における検討

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(1)Title. 「家庭生活」に関する学習内容の日・米の教科書における検討. Author(s). 中村, 公子; 渡邊, 玲. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 50(1): 231-243. Issue Date. 1999-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/163. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第50巻 第1号 Journalof Hokkaido UniversityofEducation(Education)Vol.50,No.1. 平成11年8月. August,1999. 「家庭生活」に関する学習内容の日・米の教科書における検討. 中 村 公 子・渡 遁. 玲. 北海道教育大学旭川校家庭科教育第1研究室. 1 は じ め に. 近年,わが国では家庭生活に関して家族形態の多様化,少子化に伴う出生率の減少,高齢化社会の進行等, また,消費経済の高度化に伴い多くの生活環境の変化が起きている.家族に関しては三世代世帯は少数とな り,核家族世帯の中でも母子・父子家庭や単独世帯の増加等,家族形態の多様化も恒常的となってきている. 更に,寿命の延びとともに高齢化社会が進行する中で,子供の数が減少する少子社会が進んでおり,寝たき りや一人暮らしなどの援助を必要とする高齢者の増加とともに,子育てに対する意識の変化も顕在化してき ている.一方,消費者を取り巻く経済社会では,通信販売などの特殊販売,マルチ・マルチまがい商法など の問題が増加している.1)2). 家庭科においては,平成元年の学習指導要領改定に基づき,中学校技術・家庭では「家庭生活」領域が新 設され,平成5年度から実施されている.高等学校でもそれに伴い,家庭科の男女共修と共に,家庭生活に 関する内容が男女で履修されることになった.中学校,高等学校の内容はそれぞれ関連性を持ち,家庭生活 の理解を目標とするとともに,性別に関わりなく生徒の内面的な成長を促そうとしているが,家庭生活に関 する領域の歴史は浅く,指導方法や内容はまだ不十分であるといえる.3)4) 本研究では,家庭生活に関する領域の教育内容に対する理解を深め,家庭科の授業においてより適切な内 容と指導法を導き出すための資料を得るために,日本とアメリカのこの領域に関する教育内容を比較・検討 し,考察を行った. 2 研 究 方 法. 本研究では,アメリカのニューヨーク州,テキサス州,カリフォルニア州,バージニ. ア州で広く使用され. ている家庭科の教科書と日本の教科書の内容を分析し,考察を行った.これに先立ち,既に著者らは食生活 と衣生活に関する領域の比較と検討を行い,その結果を報告している.5)6)今回もそれらと同様の方法により 分析・考察を進めた.なお,日米の教科書を区別するために,アメリカの教科書をテキスト,日本の教科書 を教科書と称することとした.. 使用したテキストは前報と同様に「TEENLIVING」(HomeEconomicsSeries,PrenticeHall,1991年). である.日本の教科書は,中学校技術・家庭については開隆堂から出版された(1996年)ものを,比較のた めに高等学校家庭一般では一橋出版(1994年,1998年),教育図書(1998年)からそれぞれ出版されたもの. を使用した. 方法として,まずテキストに記載されている家庭生活に関する領域,単元1「自分について」単元2「人 との関係」単元3「資産の管理・運営」について和訳を行い,内容を比較・検討した.テキストの和訳によっ て,アメリカの家庭生活に関する領域の教育内容を明らかにして,それぞれの特徴について日・米での共通 231.

(3) 中村 公子・渡通 玲. する内容,相違する内容等をまとめ,さらに,図表等を比較して考察を行った. 「TEEN LIVING」で対象とした家庭生活に関する領域の内容は次の通りである.. Unitl:About You ChapterlLookingatYou Chapter2ManaglngYourLife Chapter3Wellness Unit2:Relationships Chapter4RelataingtoOthers Chapter5TheFamily. Chapter6ChildDevelopment&Parenting Unit3:ResourceManagement Chapter 7 Careers Chapter8ManagingYourMoney. Chapter9YouAreaConsumer Chapter 10 Skillfull Shopping ChapterllHousingandHomeFurnishings. 3 結果 と 考察. (1)テキストの「家庭生活」に関する主な学習内容 1)自分について. この単元は,「自分を見つめる」「自分の生活の経営」「健全な状態」で構成されている. 「自分を見つめる」では,導入として転校し学校になじむことのできない生徒が,便りを送った友達と悩み を分かち合う場面が記述されている.. 自分の個性や自己概念を知ることから始まり「自分と同じ人は世界の中で1人も存在しない」としている. 青年期における成長と変化ではものの見方,感じ方,自分自身の見方など,精神的な変化に重点を置いてい る.行動における決断に関してを享,自分で物事を決めず他人の模範や助言に基礎を置き,最終的な選択は自 分の能力や要求次第であるとしている.また,決断には自分のものの見方,お金や時間,価値観などが影響 すると述べている.. 「自分の生活の経営」では,導入場面に2人の生徒の会話が示され,テストやレポートの提出,部活動や仕 事などをどのようにこなすかを話し合っている.. まず,生活の経営の基本を学習する.経営は「あることをまとめたりコントロールするための方法である」 と定義づけている.自分の生活を有効に営むには,部屋をきれいにしたり本棚を組み立て直すなどの短期の 目標や,大学の単位を取得したりイタリア語を学ぶなどの長期の目標を定める必要があるとしている.経営 には,目標の設定,能力の分析,計画の立案と能力の割り振り,計画の修正,計画の実行,結果の評価とい う6つの段階があると示している.1日の時間のやり繰りでは,1日には24時間しかないことを踏まえなが ら無理をしない計画を立て,能率的に時間を使うことが大切であるとしている.学習の方法には,普段の授 業時間を利用して学習の技術を改善することが可能であると述べられている.基礎的な学習技術は「聞く」 232.

(4) 「家庭生活」に関する学習内容の日・米の教科書における検討. 技術であり,最も難しいことであるとしている.ノートの取り方は,文章を書かずに概略の形で書くと良い としている.例えば,「テキサス州の首都はオーステインである」と書く代わりに,「テキサス」と書き,そ の下に「首都,オーステイン」と書くとわかりやすくなる.さらに,主要な考えには星印をつけたり下線を 引くとポイントが見やすいとしている.. 「健全な状態」では,2人の少女が体の調子を良く保つために話し合う場面から始まっている.健康は肉体 的健康だけではなく,情緒的,社会的,精神的な健康を含んでいる.健康を保つには食習慣,運動,衛生な どが大きく関わる.ここでは健康で,バランスのとれた食事が大切であると述べている.(具体的な食事内容 は,食生活に関する領域で学習する)運動はエアロビクスやストレッチが良いとしている.さらに,肌やつ め,髪の手入れ,リラクゼーションなども効果があると述べている.精神的な健康を保つには自分を重大に. とらえすぎず,自分を楽観的に見ることが大切であるとし,ストレスを解消するにはストレッチをしたり新 鮮な空気の中を歩くなどの行動が効果的であるとしている.定期的な健康診断を受けることで重い病気を未 然に防ぐことが可能になると述べている.健康記録を取る際は,フルネーム,誕生日と出生地,医者の名前. や住所,電話番号,血液型,病歴,慢性の病気,予防接種の経験の有無や日時,薬物や食べ物によるアレル ギーなどを記録しておくことが望ましい.薬物の乱用による害では,アルコールの脳への障害や肝臓病,た. ばこの身体器官への影響,ヘロインの肌の腫瘍などへの影響を挙げている.非常事態における応急手当の方 法は,火災や中毒,出血の場合に分けて説明をし,窒息の場合はハイムリック操作が喉に詰まらせたものを 除去するのに効果的であるとしている.また,多くの学生にとって心肺機能蘇生法を学ぶことが大切である としている.. 2)人との関係. この単元は「他の人との関係」「家族について」「子供の発達と育児」で構成されている.「他の人との関係」 では,2人の少女が電話で口喧嘩をしている様子が記されている.2人は関係を修復すべく話し合っている. 「2人ないしそれ以上の人間が情報を交換すること」をコミュニケーションと定義づけている.コミュニ. ケーションは言葉のあるものと言葉のないものの2つに分けられる.前者は言葉を話したり書いたりするこ とで起こる.同様に,点字などの方法もあるとし,一方,後者はボディーランゲージやジェスチャー. などが. 挙げられる.時には言葉のないコミュニケーションの方がメッセージを明確に伝えることがあるとしている.. コミュニケーションを円滑に進めるには,学習する技術と同様に「聞く」技術が大切であるとしている.家 族と関わるには問題が起こりやすいが,決して「誰も私を理解してくれない」と言わないことが大切である. 見解が一致しなくとも,家族は子供のことを理解するものであると述べている.異性とのデートに関しては, 少年と少女の関係や大人になったときの関係を述べている.恋人同士の関係になるには,男子は魅力的で夢 の中で想像した少女との関係を,女子は歌手やスターなどの「理想の男性」との関係をそれぞれ夢見るが, 想像の中で恋に落ちてはいけないとしている.また,肉体的な見かけに重点を置かず,趣味や考えを共有で きる人を選ぶことが大切であるとしている.地域社会の中では,指導力を発揮できる能力を伸ばす必要性を 説明している.例えば,話合いの際は内容をまとめたり会を円滑に進行させることが大切であるとしている. また,米国家政教育振興会の特色を述べている.ここでは,それは人格を伸ばし,思考力やコミュニケーショ ンの能力を育成し,実用的な知識を身に付け,職業に対する興味を促すこととして説明されている. 「家族について」では,親子の会話が示されている.一緒に暮らしている祖父が楽しくない様子であるとい う.そこで,子供は祖父と少しでも仲良く暮らすために家族との話合いを考えた. はじめに「家族は血縁や結婚によって作られる関係性のある人間の集団である」と定義づけている.そし て,家族形態については核家族,拡大家族,複合家族,片親家族など,多様な家族の例を示している.また, 233.

(5) 中村 公子・渡通 玲. 家族の中の子供は一番年上の子供や一人っ子だけではなく,里子や養子・養女,体に障害のある子供などに ついても説明している.どのような子供であっても,両親や周りの人間の励まし,愛情が大切であるとして いる.また,生物学的に親でなくても家族になることができるし,暖かく愛情のある家庭を築くことができ るとしている.さらに,精神的なつながりを保つために,子供と親の.双方が人格や能力を認め合うことが大 切であると述べている.他には,両親や高齢の家族,親類との関わりや片親の場合の関係についても触れら れている.家族の生活周期一ライフサイクルでは,始めの段階,拡がりの段階,発達の段階,子供を送り出 す段階,老化の段階に分け,それぞれについて説明をしている.例えば老化の段階では,ライフサイクルが 最終段階を迎えても,人には成長する能力が存在していると述べている.家族の危機には病気,家族の死, アルコールや薬物の乱用,別居または離婚,家庭内暴力,財政的問題などを説明するだけではなく,専門的 な支援をする機関や電話番号を掲載している.家庭内暴力をする人は自尊心が低く,子供のころに虐待を受 けた経験があるとしている.離婚は法的な結婚の終わりを意味し,財産の配分や子女の養育について考える ことになるが,その責任が等しくなる場合もあると述べている.家庭の問題に対する専門的な支援は牧師や 聖職者,ソーシャルワーカーに相談すると良いとしている.また,アルコール中毒患者に対しては,匿名禁 酒会などの組織が有効であり,地域の電話帳にその番号が掲載されていることが述べられている.. 「子供の発達と育児」では,2人の子供の会話が導入部分として示されている.年上の子供がパズルでの遊 びを勧めても,小さい子供は断った.テレビを見ようとしてもその子供は飽きている様子である.年上の子 供は小さい子供の成長に気づいたようである.. まず,子供の発達や妊婦に対しての注意書きが示されている.例えば,一歳児は指を使って食べることを 学ぶが,床に食べ物を落とすことがある.この段階では子供は両親の思うよう●に行動をしないが,両親は辛 抱が必要であると述べている.子供の発達として,肉体的,知能的,情緒的,社会的な発達に分けて説明を している.妊婦に対しては,緑黄色野菜や果物,牛乳や全粒粉の穀物を多く摂取し,糖分や脂肪のカロリー を控えるべきとしている.また,健康診断を受ける必要があり,アルコール飲料やたばこはもちろん,カフェ インを含むコーラ,チョコレート,お茶やコーヒーを禁止している.さらに,適度な運動が標準的な体重を 保つのに良いとしている.育児をするにはしつけが大きく関わる.しつけは「認められる,または認められ ない行動を子供に教える仕事」と定義づけている.しつけは子供の発達段階に合わせる必要があり,決して 両親の怒りのはけ口になってはならないと述べている.上手に子供のお守りをするには,子供の特徴や電話 番号,一日の予定などをノートにまとめて情報源とすると良いと述べている.また,薬は鍵のかかるところ にしまっておくなど,子供にとっての安全管理も重要であるとしている.ベビーシッターとしては「ロンド ン ブリッジ」などの童謡を子供に歌うなどの仕事もこなさなくてはいけないとしている.小さな子供は「い. ないいないばあ」などの遊戯を好むとも述べている.. 3)資産の管理・運営 この単元は「職業」「お金の管理」「あなたは消費者です」「上手な買い物」「住居と家庭の備品」で構成さ. れている.「職業」では,導入部分として教師と生徒の会話が示されている.生徒は家政学に関わる職業に興 味を持っているが,本を読んでも詳しくは書かれていないと言う.そこで,教師は専門的な職業に関わる人 と話をすると良いと告げ,生徒は実際に働く人の講演会の企画を考え始めた. 働くことの根本的な理由は生計を立てることであるとし,仕事をするには自分の興味や技術,素質を確か めることが大切であるとしている.将来の仕事に就くには,ボランティアやパートタイムをすると良い勉強 になると述べている.また,被服や事務に関する専門課程のある高等学校に通って技術を身に付ける方法も 有効であると述べている.実際に仕事をするには,新聞広告や職業紹介所で探す方法がある.面接の際の注 234.

(6) 「家庭生活」に関する学習内容の日・米の教科書における検討. 意書きとしては「服装は職場にふさわしく,きれいで手入れの行き届いたものを着用すること」や「あらか じめ,申し込む会社や職業について理解を深めておくこと」などが記されている.家政学に関する職業とし. て,大学教授や経済学者,心理学者などの例が挙げられている. 「お金の管理」では,親子の会話が示されている.子供は新しいブーツが欲しいと言うが,親はお金が足り ないと告げた.そこで,子供はその価格の半分を自分で稼ぐことにした. 両親は食事や被服などの費用を稼ぐが,中学生にもパートタイムやベビーシッターなどの仕事ができると 述べている.有効なお金の管理には,必要なものや欲しいものの違いを理解しなくてはならないとしている. 必要なものは,通学に必要なバス賃などのなくてはならない費用であり,欲しいものはレコードやジーンズ など,欲しいと思うが必要としていないものである.お金を使う計画の立案をするには,自分の費用をすべ. て記録することであると述べている.そして,固定した費用と柔軟な費用の分類へと続く.固定した費用は 通学費や家賃などの変化しない費用であり,柔軟な費用は衣類や娯楽費などの場合に応じて変化する費用で ある.お金の管理には銀行預金がある.これには当座預金口座や貯蓄預金口座などがある.また,小切手の 書き方の説明も記されている.他には,株や債権などでお金を管理することができるとしている.クレジッ トは現金の持ち運びが少なくて安全であるが,使い過ぎになりやすいので注意が必要であると述べている. 「あなたは消費者です」では,ラジオを購入した少年が友達と話をしている場面から始まっている.その少 年は,ラジオが一カ月で壊れてしまったと言う.そこで,ラジオを返却し,新しいものと交換してもらおう と試みた.. アメリカの経済体制は自由企業であり,人々は経済活動を行う自由と権利を有するとしている.例えば, 職業を選ぶ自由や生産の自由がある.たとえ10代の少年少女でも企業家になることができると述べている. 成功する企業家は独創的な創造をし,人々の要求に気づき,進んで不利益を負い,責任を認識する能力を持 ち,自分の能力を有効に活用できる人であると述べている.消費者の権利は安全を守る権利,選ぶ権利,知 らされる権利,消費者教育の権利などが挙げられている.一方,消費者の責任として,製品を安全に使用す ることや苦情を言うことが示されている.商品の購入の際には,保証書やレシート,契約書の確認が極めて 重要であるとし,消費者を守るための法律や条令なども示されている.例えば「表示の管理に関する条例」 は,衣類の製造業者に永久にすべての衣類に表示を施すことを義務として課している.商品に問題がある場 合には,レシートや保証書と一緒に品物を返却し,苦情の手紙を書くことも効果があるとしている. 「上手な買い物」では,導入場面として親子の会話が示されている.子供は新しいテレビをすぐにでも欲し いと願うが,菓削ま大きな買い物の際には商標や価格を見極めなくてはならないと子供をたしなめている. 品物を購入する際には,便利であるか,販売人が商品やサービスを適切に選んでくれるか,販売人の評判 が良いか,支払いの選択が可能かなどを自問自答する必要があると示している.また,品物の購入には広告, 仲間,家族がそれぞれ心理的な影響を与えるとしている.例えば,人は心理的に集団の一員であることを望 み,他人と同じものを持つという.上手に買い物をするには,衝動的な買い物をしないことが望ましく,自 分の予算の中でやり繰りすることが良いとしている.また,品物の品質,特に安全性や効果,耐久性や便利 さを確かめることが重要であると述べている.例えば,シャンプーなどを購入する際は,サンプルを使って 確かめることも可能であるとしている.さらに,満足しない品物を購入した場合は品物を返却したり交換す ることができるとしている.その場合,価格のつけ札のない品物の返却を断る店もあるため,店の返却や交 換に関する方針を確認する必要があると述べている.. 「住居と家庭の備品」では,母親と娘の会話から始まっている.母親は再婚し,血のつながりのない娘を持 つことになった.母親の娘は義父の娘と同じ部屋で過ごすことに不満を抱いている.そこで,彼女は母親と 一緒に部屋を快適に暮らすことのできる場所にする方法を考えることになった. 235.

(7) 中村 公子・渡邁 玲. 住居は雨や雪,危険から逃れる場所であると共に,家族と共に過ごすなどの感情的な要素を持っている. 住居の種類には複式住宅や移動住宅,アパートや共同住宅などが上げられている.住居を自分の家として創 り上げるには,線や形,色の組み合わせなどのデザインの要素が大きく関わるとしている.例えば,家具の 形が曲がっているなら,角ばった形よりも柔らかい印象をもたらすと述べている.また,黄色や赤は暖かい 感覚を与え,物を大きく見せるとしている.逆に,緑や青は涼しさを与え,物を小さく見せるとしている. 生酒空間を作るには,すべての家族構成員の要求を考慮しなくてはならないとしている.例えば,車椅子で 生酒する人のためには通り道を広めに取る必要があると述べている.自分自身の空間を利用するには,部屋 の配置から始め,それから音楽や美術などの趣味を生かすことができるスペースを作ると良いとしている. また,兄弟姉妹と部屋を共有する場合はお互いに配慮しなくてはならないし,住みよい部屋にするには整理 整頓や清掃が必要であると述べている.全体的に家を整頓するために,「スポーツ用品は壁につるす」や「時 計や雑誌を置くのに,机の上に小さな棚を作る」などのポイントが示されている.清掃は家族が協力して行 い,月や季節毎に計画を立てると良いという助言も示されている.日常的には,生ゴミの処理や害虫の駆除 も必要であると述べている.エネルギーの節約のため・には,「シャワーを短い時間で使用する」や「定期的に 冷蔵庫の霜を取り除く」という行動の指針も示されている.家の中を安全に保つには,通る道を妨害しない 家具の配置や消火器をすぐに使うことができるようにするなどの文章も示されている.子供の安全を確保す るには電気のコードを子供の手の届かないところに置くという注意書きも記されている.また,強盗から家 を守るために丈夫な鍵をつける方法や電話の受け答えについても述べられている.例えば,子供が一人で留. 守番をする場合は,「私のお父さん(お母さん)は今電話に出られません.伝言をどうぞ」のような言葉を用 いて受け答えをすると良いとしている.. (2)テキストと教科書における「家庭生活」領域の学習内容の項目とその構成割合. テキストと教科書における「家庭生活」領域の学習内容の項目とその割合を表1∼3に示す. テキストの「家庭生酒」に関する学習内容の項目は,3つの単元から構成されている.その割合はテキス. 表1 テキストの「家庭生活」に関する領域の内容項目と割合 内. 容. 目. 項. 割合(%). 自分について ●「自分を見つめる」自分の認識,自分を表現するもの,賢明な決断. 9.1. ●「自分の生活の経営」生活経営の意味,一日の生活,学習技術の育成. 8.3. ●「健全な状態」歯の手入れ,ストレスの処理,健康記録,薬物の乱用,応急処置. 10.7. 人 と の 関 係. ●「他の人との関係」コミュニケーションの技術,友情,集団の活動. 10.7. ●「家族について」家族との関わり,ライフサイクル,家族の危機. 9.1. ●「子倶の発達と育児」発達の段階,育児,ベビーシッターの仕事. 9.9. 資産の管理・運営 ●「職業」働く理由,職業の訓練や教育,家政学に関する職業. 8.3. ●「お金の管理」お金を使う計画,お金を管理するサービス,アメリカの経済体制. 9.1. ●「あなたは消費者です」消費者の支援,購入に及ぼす影響. 6.6. ●「上手な買い物」衝動による買い物,返品や交換. 7.4. ●「住居と家庭の備品」デザインの要素と原理,家の整備,家の安全 計. ※テキストに記載されている「家庭生活」に関する領域は,合計で242ページ. 236. 10.7 99.9.

(8) 「家庭生活」に関する学習内容の日・米の教科書における検討. 表2 技術・家庭:開隆堂の「家庭生活」領域の内容項目と割合 内. 容. 目. 項. 割合(%). 1「わたしたちと家庭生活」家庭と家族の生活について考える. 4.4. 2「家庭生活を支える私たちの活動」食事作り,衣服の洗濯,室内の整理と美化. 57.8. 3 「わたしたちと家庭の経済」消費者としての自覚. 17.8. 4 「わたしたちの家庭と人との結びつき」家族との関わり. 8.9. 5 「わたしたちの家庭と地域社会」地域の環境の改善. 4.4. 6 「これからの家庭生活」学習を終わって,これからの家庭生活を考える. 6.7 100.0. 計. ※技術・家庭:開隆堂における家庭生活領域の総ページ数は45ページ.. 表3 家庭一般一生活をつくる−:一橋出版の「家庭生活」に関する領域の内容項目と割合 内. 容. 目. 項. 割合(%). 第1章 家庭生活. 1「家族の機能と家族関係」家族の人間関係,家族と法律. 15.2. 2 「家庭経営」生活時間,家事労働 3 「生活設計」ライフステージと生活設計. 13.0. 4 「高齢者の生活」社会福祉とボランティア. 15.2. 8.7. 5 「これからの課題と展望」生活技術・生活文化を受け継ごう,福祉社会をめざそう. 6.5. 第2章 家庭経済. 1「家庭の経済」家庭の経済生活,生活診断と家計の管理. 13.0. 2 「消費生活の変化」生産・流通と購入,消費者信用. 10.9. 3 「消費者の権利と生活情報」消費者間題と消費者の権利. 10.9. 4 「これからの課題と展望」消費者間題に目を向けよう,経済計画を立てよう 計. 6.5 99.9. ※家庭一般一生活をつくる−:一橋出版における家庭生活に関する領域の総ページ数は46ページ.. ト全体の51.9%となり,半分以上を占めていた.テキスト全体で家庭生活に関する内容が高い割合を示した のは,日本では領域が別である住居や保育が共に学習されるためであると考えられた.その内容には自己を 見つめる,家族や地域の人との関わり,職業教育や消費者教育,住生活の改善等が含まれている.「健全な状 態」「他の人との関係」「住居と家庭の備品」が各々10.7%と高い割合を占め,反対に,「あなたは消費者です」 では6.6%,「上手な買い物」では7.4%とやや低い割合を示した.「自分について」「人との関係」等が家庭 生活領域の中でほぼ6割と極めて高く,人間の理解を深く追求する,これらの項目の重要性がうかがえた. 一方,中学校技術・家庭では,「家庭生活」領域は全体で24.6%であった.同様に,高等学校家庭一般では 3冊の平均で24.4%となり,両者の割合に大きな差は見られなかった. 家庭生活に関する内容では,中学校技術・家庭で家庭生活を支える私達の活動として衣食住に関する仕事 の内容が約6割を占めており,同様に,高等学校家庭一般では家族関係や高齢者の生活,家庭経済が高い割 合を占めていた.中学校では仕事に関する内容,高等学校では理論に関する内容の割合が高く,それらが中 心となる教育内容であると考えられた.(表2)(表3) これらのことから,テキストと教科書における家庭生活のとらえ方の違いが明確となった.テキストでは 自己の認識や自分の生活の改善,心身の健康から始まり,他人や家族,子供などの関わりへと続いている. さらに,将来の職業やお金の管理,上手な買い物や快適な住生活へと拡がりを見せている.それだけテキス トによる家庭生活のとらえ方が大きいといえる.一方,教科書では技術・家庭は家庭生活について,特に衣 237.

(9) 中村 公子・渡遽 玲. 食住の仕事,家庭経済,家族や地域の人との関わりへと続いている.家庭一般では,家庭生活と家庭経済が 分けられている.家庭生活では家族関係や高齢者の生活に重点が置かれ,家庭経済では家計の管理などの内 容が重視されている.教科書による家庭生活のとらえ方はやや狭い範囲にとどまっているといえる. (3)テキストと教科書の共通・類似する学習内容と相違する学習内容. テキストと教科書に記載されている学習内容について共通・類似する内容と相違する内容に区分し,検討 した結果を表4(1)表4(2)に示す.日本の内容は主に中学校技術・家庭の内容を基にした. はじめに共通・類似する内容として,家族や地域の住民との関わりや家族における役割などの人間関係に ついての記述が見られた.他には,消費者としての自覚や商品の適切な選択や購入,クレジットの利用など の消費者教育に関する内容や住まいに関わる仕事や収納の方法などの住生活に関する内容がある.家庭生活 の基本として家族を地域,社会の中での関わりに重点を置いているのが明確であった. 家族関係に関してテキストと教科書に類似・共通して記載されている例を表5に示す.家族の定義と共に 家族が生活を営むには,家事の手伝いや決まりごとの分担,仕事の協力など,互いの思いやりや協力が大切 であるとしており,より良い生活ができる能力の育成を目指し,精神的な関わりを重視している. 相違する内容は,アメリカ独自の内容が極めて多く,日本独自の内容はあまり見られなかった.例えば, 単元1に見られた,自分を見つめる内容や生活の経営,心身の健康などはすべてアメリカのみの内容である. さらに,単元2ではコミュニケーションの技術や家族の生活周期,家族の危機,保育や育児に関する内容は. アメリカ独自の内容が極めて多い.単元3においても同様の傾向が見られた.職業教育やアメリカの経済体 制,商品の返品の方法,住居の選択やデザインの要素,住居の安全管理などはすべてテキストの内容であっ た.日本のみの内容は,クーリングオフや販売の方法,住まいの清潔などであった.テキスト独自の極めて 特徴深い記述の例を表6に示す.表6は「家族の中の子倶」についての内容である.これは「家族について」 に記載されている.ここでは家族の中の子供について説明をしている.年上の子供や年下の子供だけではな. く,一人っ子,養子や養女,里子,体に障害を持つ子供についても記述が見られた.養子や養女,里子,体 に障害を持つ子供は比較的日本ではマイナスのイメージを持ちやすく,教科書に記述は見られない.しかし, 様々な家庭の事情があることを示しているために現実性が強いといえる.さらに,表7は「強い自己概念を 築くための助言」についての内容である.これは「自分を見つめる」に記載されている.このような内容は アメリカ独自のものの一つであり,日本の教科書とは全く異なるものであった.自己の成長を促す「特別な 才能や能力に焦点を当てる」「自分のすべての言動から学習する」などの具体的な内容は,青年期を生きる生 徒にとって極めて重要なものといえる.. 一方,日本独自の内容としては地域の環境の改善や家族の中の衣食住に関する仕事についてであった.こ れは「家庭生活」領域の目標が「家庭生活に関する実践的・体験的な学習を通して,自己の生活と家族の生 活との関係について理解させ,家庭生活をよりよくしようとする実践的な態度を育てる」と現行の学習指導 要領に示されており,実践的な態度を育てることに重点が置かれているためと考えられる.7)日本独自のもの としては,「能率的にととのえられる簡単な朝食」や「ワイシャツ・ブラウスの洗たく」などがあり,食生活 領域や衣生活領域と重複する内容とも受け取ることができ,今後の一つの課題であると思われる. 全体として,テキストはどの単元においても例を示した説明が多く,一人一人の生徒にとって考えやすい. 中身となっている.理論の説明は幅広く詳細であり,生徒に語りかけるような記述であった.家庭生活を幅 広くとらえ,実際の生活に即した内容が多く見られた.一方,教科書は学習指導要領を基にして作成される ため,すべてにわたり平均的な水準の記述であった.また,図表などのデータを利用しているために科学的. であり,生徒にとって基本的な事項を伝えることが可能であると考えられる.しかし,教科書に記載される 238.

(10) 「家庭生活」に関する学習内容の目・米の教科書における検討. 表4 「家庭生活」領域の共通・類似,相違する内容(1) 内 容 項 目. 共通・類似する内容. テキストのみの内容. 教科書のみの内容. ●自分の認識 ●自己概念 ●自己概念の形成 ●変化の時 ●生活の中での役割 ●大人になる ●自分を表現するもの ●選択をする ●決断への影響 ●決断のための手本 ●経営の意味 ●経営の家庭の歩み ●一日の生活 ●個々の活動の計画 ●余暇活動 ●授業時間の利用 ●学習技術の育成 ●健康とは何か ●健康的な選択をする ●衛生や身繕い ●歯の手入れ ●休憩とリラクゼーション ●健康的な性格を伸ばす ●ストレスの処理 ●感情の変化. 自分自身を知る. 成長と変化. 賢明な決断をする. 経営とは何か 時間のやり繰り. 学習の方法 毎日の健康. 精神的な健康. ●憂うつ. 物質の乱用に関する. ●定期的な健康診断 ●健康の記録 ●物質の乱用. 学習. ●アルコール. 適切な健康上の決断. ●たばこ ●薬物. ●緊急事態への対応 ●コミュニケーションの意味 ●コミュニケーションの技術 と問題の解決 ●新しい家族の関係. 非常事態と応急処置 適切なコミュニケー シ/ヨン. 強い関係. ●家族との関わり. ●地域の人との関わり. ●友情. 家族と社会. ●家族との関わり. ●集団の活動 ●少年と少女の関係 ●未来の関係 ●集団の中で指導する技能 ●良い市民権 ●家族に影響を与える社会の. 家族集団と自分. ●家族との関わり ●家族の働きと家族の役割. 異性とのデート. あなたとあなたの地 域社会. 家族の生活周期. 家族の危機 発達の段階. 育児一子供の面倒を 見る. 上手な子供のお守り. 動向 ●親類について. ●地域の環境の改善. ●家族の中の仕事. ●始めの段階 ●拡がりの段階 ●発達する段階 ●子供を送り出す段階 ●老化の段階 ●家族の危機と支援 ●出産前の段階 ●出産前の注意 ●発達の種類 ●人生の最初の年 ●歩き始めの子供 ●就学前の子供 ●親の役割と責任 ●子供の要求への対応 ●情報の収集 ●安全. ●子供を世話する上での要素 TEEN LIVING(Home Economics Series)Prentice Hall,1991年 技術・家庭:上,開隆堂,1996年 239.

(11) 中村 公子・渡過 玲. 表4 「家庭生活」領域の共通・類似,相違する内容(2) 共通・類似する内容. 内 容 項 目. テキストのみの内容. 職業についての話合. ●働く三哩由. しヽ. ●自己評価 ●職業の選択 ●職業の計画立案の開始 ●訓練や教育 ●仕事と家庭 ●仕事の空きを見つける ●仕事の申し込み ●仕事の面接 ●仕事の成功 ●家政学に関する職業 ●物を買うためのお金の選択 ●使うお金を見つめる ●お金を使う計画. 職業の準備 あなたが得たい職業 を得る. 資産としてのお金 お金を使う計画 お金を管理するサー. ●銀行 ●株,債券. ビス. 自由企業と企業家と しての身分. 活動する消費者. 購入の計画. 上手な買い物. 教科書のみの内容. ●自由企業 ●企業家としての身分 ●消費者の支援 ●消費者としての自覚 ●買い物の計画 ●買い物の場所 ●購入に及ぼす影響 ●商品の適切な選択・購入 ●自分の計画 ●クレジットの利用 ●衝動による買い物 ●品質の計算. ●クーリングオフ. ●返品や交換. ●住居と住居の選択 ●デザインの要素と原理 ●共有する空間 ●特別な要求 ●自分の部屋の利用. 住居の決定 建物をわが家にする. 自分の空間 家の手入れ. ●住まいに関わる仕事. ●家の整備. ●収納の方法. ●エネルギーの節約 ●家の中に起こる危険の防止. 家の安全. ●食事に関わる仕事 ●衣服に関わる仕事. 家庭内の仕事. TEEN LIVING(Home Economics Series)Prentice Hall,1991年 技術・家庭:上,開隆堂,1996年. 表5 テキストと教科書における家族関係の記述. ●家族は血縁や結婚によって作られる関係性のある人間の集まりである. テ. 担することができる. キ ス. くる.. ●片親家族は一人,もしくはそれ以上の子供からなる家族であるが,親はあくまで父か母の一人 ト. である.. TEENLIVING,HomeEconomicsSeries,PrenticeHa11,1991年 ●家庭は,心のやすらぎを得て,あすへの生活の活力を生みだす場となっている. ●家族は,快適な生活を営むために互いにいたわり合ったり,協力して仕事をするなど,愛情を 術 持って支え合っている. 家 ●中学校では,家庭生活についてさらに深く学び,地域社会や地球の環境にも目を向けるなど, 庭 よりよい生活ができる力を身につけていこう. 技術・家庭 上:開隆堂,1996年 瑳. ●家族は,親と子,夫と妻,きょうだいなど,主に近親者から構成される.. 家. ●家族の機能は,家事労働による生活を保障する機能と心理的安定をはかる情緒的機能である.. 般. などさまざまな形がある.. 庭. ●家族のふれあいは,コミュニケーションやだんらん,家族全員による家事やレジャーを楽しむ 家庭一般一生活をつくる−:一橋出版,1998年. 240.

(12) 「家庭生活」に関する学習内容の日・米の教科書における検討. 表6 「家族の中の子供」. 1.一番年上の子供は,小さい子供の面倒を見たり家族の話合いに多く参加します.しかし, 役割の多さに不満を持つことがあります.. 2.中間の年齢の子供は,兄や姉,弟や妹の仲裁人になることがあります.その結果,親切 な人間に育ちやすいといえます.. 3.一番年下の子供は,支援や愛情を受ける有利さがありますが,年齢が低いために赤ん坊 と受け止められることがあります.. 4.一人っ子は,両親の注目を常に受けて育ちます.しかし,両親の期待がかかるために重 圧を感じてしまいます.. 5.養子や養女は,子供ができない両親が選ぶ子供のことです.生物学的な両親の子供のよ うに家族になります.. 6.里子は,家庭に問題が起きたときに引き取られる子供のことです.お互いに尊敬の気持 ちを抱き,暖かく愛情のある家族関係を維持することができます. 7.体に障害のある子供は,育てるのに多くの手間がかかります.しかし,子供に愛情を注 ぐと共に,自分で生活できる能力を育てることが必要になります.. TEEN LIVING(HomeEconomicsSeries)PrenticeHall1991年 表7 「強い自己概念を築くための助言」. 1 2 3 4 5. 自分自身を前向きに考えること. 変えることのできない性格を認識すること. 特別な才能や能力に焦点を当てること. 自分のすべての言動から学習すること. 他人にほめられたとき,その賞賛を認識すること.. 6 活動的であること.. 7 問題を解決し,自分自身を築き上げるために他人から助けを得るのに躊躇しないこと. 8 自己概念や他人との関係に支障が起きたら,自分の行動を変えること.. TEENLIVING(HomeEconomicsSeries)PrenticeHall1991年 表8 技術・家庭における「家庭生活」領域の主な内容項目 2 家庭生活を支えるわたしたちの活動 ●家庭の働きと家族の役割を考えよう ●仕事のすすめ方を考えよう ●食事にかかわる仕事を調べよう. ●日常の衣服の手入れをしよう (ワイシャツ・ブラウスの洗たく) ●衣服の再利用を考えよう. (能率的にととのえられる簡単な朝食) ●衣服にかかわる仕事を調べよう ●衣服の着方をくふうしよう 技術・家庭:上,開隆堂,1996年. 内容は平均的なレベルであるため,日常的な生活が伝わりにくいと思われる.指導の際にさまざまな事例を 提示するなどの工夫が必至であるといえる.. 4 ま と め 「家庭生活」領域について,アメリカと日本の教科書を比較,検討した結果,以下のような特徴が明らかに なった.. (1)テキストの「家庭生活」に関する領域の主な内容構成は,自分自身を知る,精神的な健康,家族の危 機,消費者の権利,家の安全などがあり,幅広いものであった.日本で学習する家族関係や家庭経済の ほかに,自己の認識や心身の健康などの道徳や保健に関する内容も見られた.また,日本では領域を別 241.

(13) 中村 公子・渡連 玲. にする保育や住居についても,テキストでは家庭生活としてとらえていた. (2)テキストにおける「家庭生活」に関する領域では,「自分について」「人との関係」等に約6割の記述 が見られ,人間を理解することに重点が置かれていた.一方,教科書では,中学校,高等学校と共に「家 庭生活」に関する領域は全体で約4分の1の記述が見られ,特に中学校技術・家庭では衣食住などの家 庭の仕事が重視されていた. (3)テキスト独自の内容として,自己の認識やコミュニケーションの技術等,人間との関わりを重視する 内容が挙げられた.また,物質の乱用,アルコール,たばこ等,日本では考えにくい内容についても具 体的に記述されていた.一方,教科書独自の内容では,中学校では能率的にととのえられる簡単な朝食 やウォールポケットの製作などであり,比較的家庭の仕事に関する内容が重視されていた.特に,食事 に関わる仕事や衣服の着方等の家庭内における実践的な内容が見られた.高等学校では,家族関係や高 齢者の生活についての内容が重視されていた.. (4)テキストは,章の始まりには常に会話文が載せられ,問題に対する意識付けがなされていた.反対に, 章の終わりには会話文に対応する形で問題を解決する過程や方法が示されていた.また,実際の生活で 応用できるよう,理論と実践の両方を兼ね備えた復習問題が見られた.テキストの記述は疑問形や仮定 形で終わるものが比較的多く,生徒に考える要素を与えていた.家庭生活に関する内容はその一つ一つ が幅広く,説明が詳細であった.日本の教科書と比較しても,その違いが明確となった.図表の数は少 なく,写真の数が多く見られた,なお,テキストに掲載されている写真はすべてカラーであった. (5)教科書では,中学校,高等学校と共に図表の数が多く,写真の数は少ない.また,写真は白黒である ために少々見にくかった.全体として,教科書は中学校,高等学校とともに図表などのデータに基づく 記述が中心であった.教科書は情報提供の要素が強いといえる.家庭生活に関する内容が生徒に平均的 に理解され,科学的に説明されていると考えられるが,生活環境の実態をふまえているとは言い難かっ た.. (6)全体として,テキストは生活環境の実態をふまえた具体的な記述が多く,生徒にとって考えやすい内 容となっていた.テキストは生徒に考えさせる要素が強いといえる.教科書は中学校,高等学校ととも に「∼である」,「∼でなくてはならない」などによる説明が多く見られ,理論の説明は建前論的な記述 であった.高等学校家庭一般の内容は理論に関する記述が多く見られた.. (7)その他,日本では特殊な事項として教科書にはほとんど記述の見られない養子や養女,里子,体に障 害を持つ子供などについても,テキストでは地域社会の中で共に生きる人間として取り扱っていた.さ まざまな事情を抱える生徒であっても,ごく日常的な普通のこととしてとらえられていた.また,多様 な考え方や価値観を受け入れる風土の違いも明確になったといえる.(食生活,衣生活領域でも同様で あった). 5 お わ り に. 家庭科教育の内容の改善について,実際の生活に即するように生徒の興味を促し,家庭生活に対する関心 を深めるため,アメリカの教育内容の良い部分を吸収することは決してマイナスではなく,プラスに作用す ると考えられる.生活の中で起こる事象を物質的な方面のみならず,人間の内面,環境の面でとらえること は,家庭科にとって極めて意義あることといえる.特に,家庭生活に関する家族関係や家庭経済は家庭科教 育の中において基礎となる. 平成10年12月には小学校と中学校の新学習指導要領が告示され,家庭科においては授業時数の減少とと 242.

(14) 「家庭生活」に関する学習内容の目・米の教科書における検討. もに,教育内容を精選し,実践的・体験的内容がよりいっそう重視されることになった.授業においては教 師の裁量による部分が多く,指導内容の工夫は必至である.そのため,家庭生活をより深くとらえることが 必要であり,アメリカの教育内容を日本の家庭科教育に活用して,指導内容の改善を図ることが可能である と思われる.さらに,家庭生活や家族関係,子育ての意義を理解し,家庭生活をよりよくしようとする意欲 と実践的な態度を育てる指導が以前にも増して一層望まれるという指摘もある.8)9)このような中で,家庭科 の教師は今後教科書の枠にとらわれず,生徒の生活課題に即して教材の構築を図る必要がある.常に広い視 野に立ち,さらに具体的に教材を工夫することが重要であると思われる.. いじめや不登校の多い今日,他の人を理解することは重要な意味を持つと思われる.その基本は家庭生活 における家族の理解につながり,その際,まず自分自身について深く見つめ,他の人との関係を明確にして, 理解を深めることが必要である.家庭生活の理解とともに精神的なつながりを生徒自身に持ってもらえるよ う,家庭科教育が果たす役割がより大きくなるといえる.「家庭生活」に関する領域がその役割を担うものと 思われた.. 参考・引用文献 1)厚生省監修:平成10年度版厚生白書,pp.6L48,pp.82L88. 2)日本家庭科教育学全編著:家庭科の21世紀プラン,家政教育社,pp.63−70.. 3)文部省 中学校指導書:技術・家庭編,平成元年7月 p.61. 4)文部省 高等学校学習指導要領解説:家庭編,平成元年12月 p.25. 5)中村公子・林靖子:「食物」に関する学習内容の日米の教科書における検討,日本教科教育学会誌(1997)第20巻,第2. 号.pp.9−17. 6)中村公子・服部愛:「被服」に関する学習内容の日米の教科書における検討,日本教科教育学会誌(1998)第20巻,第4. 号.pp.43−52.. 7)舟木美保子:「家庭生活」の授業,家政教育社,p.47. 8)文部省 中学校学習指導要領:平成10年12月,pp.83−84. 9)文部省 中学校学習指導要領案:各教科等の厳選について 平成10年11月,p.4.. 243.

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参照

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