分析―北海道地方を事例とした環境・経済統合勘定
の構築と推計―
著者
林 岳
雑誌名
農林水産政策研究
号
6
ページ
1-22
発行年
2004-03-25
URL
http://doi.org/10.34444/00000102
Copyright (C) 農林水産省 農林水産政策研究所 Policy Research Institute, Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan北海道地方を事例とした環境・経済統合勘定の構築と推計一
林岳
要 ヒ , 日 第1次産業の生産活動については,多面的機能など環境へ正の影響を評価する手法が確立されて いないため,環境問題への対策において他産業と同列には扱われてこなかった。しかし,第1次産 業においても環境への正負の影響を包括的に評価するための手法を適用し,持続可能な発展を判断 する必要がある。その際,第1次産業が経済および環境の双方で地域と密接に関わっていることを 考慮すると,第1次産業における持続可能な発展は,地域ごとに考察する必要がある。本論文では,北海道を事例として環境・経済統合勘定(System for integrated Environmental and Economic Accounting : 以下, SEEAとする)を構築・推計し,以下の2点を明らかにするこ とを目的とする。第1にSEEAから得られる情報をもとにして,第1次産業の生産活動における自 然資源の投入状況を貨幣単位で把握することである。第2に地域における経済成長と自然資源投入 の変化の関係からデカップリング指標を算出し,第1次産業の発展が持続可能なものとみなせるか どうかの検討を行うことである。 本論文の分析から導かれる結果は,以下にまとめられる。第1に,分析年次である1985年, 1990 年, 1995年において,北海道の第1次産業は全国のそれと比べても自然資源役人が多く,自然資源 投入の大きさに対して,実際の環境保護支出の負担は非常に少なかったことが明らかになった。第 2に,北海道の第1次産業においては持続可能な発展へ向かっていなかったことが明らかになった。 その主な原因は家畜ふん尿対策が十分に行われていなかったためと考えられる。 1
序
論
-求められている(1)。その際,第1次産業が地域経 済と密接に関わっていること,第1次産業におけ る環境問題は地域ごとに大きく異なることを考慮 すると,第1次産業における持続可能な発展は, 地域単位で考察する必要がある。 このような第1次産業の特質を踏まえた上で, 持続可能な発展を判断するためには,環境・経済 統合勘定(System for integrated Environmen-tal and Economic Accounting : 以下, SEEAと する)を適用して環境と経済に関する情報を得, 第1次産業の環境への影響を包括的に捉えること が有効である。 SEEAは,従来の経済学的なツー ルを改良して環境負荷の評価を取り入れ,環境負 1− 論 文地域における第1次産業の持続可能な発展に関する分析
第1次産業は,多面的機能といった外部経済を もたらす側面と環境負荷などの外部経済を発生さ せる側面の双方を併せ持つため,従来の環境負荷 のみを評価対象とした環境会計を適用するだけで は不十分であるなど,現在まで環境問題への対策 において他産業と同列には扱われてこなかった。 しかし,第1次産業が自然の物質循環に依存し, 自然資源と密接に関わる産業であることを考える と,環境への正負の影響を包括的に評価するため の手法を適用し持続可能な発展を判断することが 原稿受理日2004年2月2日荷の発生と経済活動の状態を同一の枠組みで評価 するものとして提案された手法である。また,現 在,農林業の多面的機能などの外部経済も評価に 取り入れる研究が行われており,将来は環境への 正負双方を評価できる手法になると期待されてい る。地域においてSEEAを推計することによっ て,地域における環境と経済に関するさまざまな 情報が得られるようになり,さらに枠組みを変更 することによって,各産業部門における環境と経 済に関する情報も利用が可能となる(2)。 そして,持続可能な発展を判断するための指標 としては,デカップリング指標が利用できる。デ カップリング指標は,経済活動と自然資源投人を まとめて一つの判断指標としてその相関関係を判 断する持続可能な発展の指標であり, OECDから 提案された。デカップリング指標は, SEEAから 得られる情報を利用することによって算出するこ とができる。 以上のような背景から,本論文では,北海道を 事例としてSEEAを構築・推計し,以下の2点 を明らかにすることを目的とする。第1にSEEA から得られる情報をもとにして,第1次産業の生 産活動における自然資源の投入状況を貨幣単位で 把握することである。第2に地域における経済成 長と自然資源投入の変化の関係からデカップリン グ指標を算出し,第1次産業の発展が持続可能な ものとみなせるかどうかの検討を行うことであ る。 注巾 本論文における[自然資源]の定義は, United Na- tions〔41〕に示されている「自然資産」,すなわち「直 接的・間接的に人間活動による影響をすでに受けてい るかあるいは潜在的に受ける可能性のある自然環境の 資産]とする。ここでは,自然資産は生物資産,土地と 水域およびその生態系,地下資源と大気に分類される と記されている。経済活動に投人される財として見た 場合,一般的には「自然資産」ではなく「自然資源」と すべきであり,本論文では「自然資源」を用いる。 ただし, SEEAのフレームワークでは,ストック計 数として表現する場合に一部「自然資産」や「生産され ない資産」という用語を使用している。また,本論文に おいては,自然資源の利用および大気・水など環境中 への環境負荷物質の排出行為を自然資源の投人または 消費と呼ぶ。 (2) SEEAに農林業の多面的機能の評価を取り入れる研 究は,林ら〔22〕で行われている。また,地域における -SEEAに関する研究は,青木らCI〕,東京都職員研修所 調査研究室〔12〕,林〔2o〕,林ら〔21〕,山本ら〔3o〕 が詳しい。 2.地域経済と第1次産業の 持続可能な発展 (1)第1次産業の持続可能な発展 第1次産業は農林水産物の生産のみならず,洪 水の防止,大気浄化,生態系の保全などさまざま な多面的機能を発揮している。多面的機能は第1 次産業特有の機能であり,他産業ではほとんど発 揮されないため,第1次産業を維持する一つの根 拠とされている。近年は,都市地域の住民がやす らぎを求めて農村地域を訪問することも増えてお り,都市地域にはない保健休養機能も注目されて いる。また,家畜ふん尿や稲わら,魚腸骨といっ た第1次産業由来の有機性資源は,古くからたい 肥化か行われ,既に資源の循環が機能的に行われ ている部分も一部存在する。現在も有機性資源の さらなる循環利用の促進に向け対策が進められて いる。有機性資源は,燃焼しても大気中のC02を 実質的に増加させないというカーボン・ニュート ラルの性質を持ち,有機性資源をさらに有効に活 用することで地球温暖化などの環境問題の解決に 貢献すると期待されている。 その一方で,第1次産業の生産活動においても 他の産業部門と同様に環境負荷を発生させている ことも事実である。 第1次産業は,自然の物質 循環に依存する産業であり,他産業に比べても特 に自然資源と密接した生産活動を行う産業である ため,第1次産業における自然資源投入は当該地 域における自然資源の状態に大きな影響を及ぼ す。しかし,依然として化学肥料や家畜ふん尿に よる土壌および水質の汚染などの問題が取り上げ られ,一部地域では深刻な環境問題となってい る。このため,第1次産業においても他産業と同 様にさらなる環境への配慮が求められ,環境保全 型農業といった持続可能な発展へ向けての対策が 進められている。 ところが,第1次産業は,現在まで環境問題へ の対策において他産業と同列に扱われてこなかっ た。この理由の一つには,第1次産業の多面的機 能と環境負荷の発生状況を包括的に把握する方法 2−
が確立されていなかったことがある。多面的機能 や環境負荷といった外部効果は,国民経済計算体 系(System of National Accounts : 以下, SNA とする)などのマクロ経済統計の中で評価手法が 確立されておらず,現在まで評価の対象外とされ てきた。環境会計においても,環境負荷の発生な ど外部不経済は評価されているものの,多面的機 能などの外部経済については評価の対象から外さ れている。第1次産業は,外部経済と外部不経済 の双方をもたらす吐格上,環境負荷だけを評価対 象とする従来の環境会計を適用するだけでは不十 分であり,環境への正負の影響を包括的に評価す るための手法を適用し,持続可能な発展を判断す る必要がある。 その際,第1次産業の持続可能な発展は,以下 の2点の理由から地域ごとに考察する必要がある だろう。第1に第1次産業が地域経済と密接に関 わっている点である。農山漁村地域においては, 第1次産業が主要な産業であり,地域振興の面か らも地域経済の大きな部分を占めている。また, 第1次産業を源とするアグリビジネスは,農山漁 村地域に立地する産業としても重要であり,さら に川下の食品販売業や飲食業に至るまでを考える と,地域経済においてもさらに大きな部分を占め る。第2に第1次産業における環境問題は地域ご とに大きく異なる点てある。第1次産業では,地 域ごとに生産する農林水産物も異なり,それぞれ の地域における地理的,気候的条件にあった生産 方法が採用されている。このため,第1次産業に 由来する環境問題も地域ごとに大きく異なると考 えられる。 このような第1次産業のさまざまな特質を踏ま えた上で,持続可能な発展を判断するためには, SEEAを適用し,環境と経済に関する情報を得, 第1次産業の環境への影響を包括的に捉えること が有効であると考えられる。SEEAは,従来のマ クロ経済統計を改良して環境負荷の評価を取り入 れ,環境負荷の発生と経済活動の状態を同一の枠 組みで評価するものとして提案された手法であ る。また,地域においてSEEAを推計することに よって,地域における環境と経済に関するさまざ まな情報が得られ,さらにSEEAの枠組みを変 更することによって,各産業部門における環境と ー 地域経済に関する情報も利用ができるようにな る。 ただし,現在のところSEEAは農業の多面的 機能などの外部経済を評価に導入しておらず,第 1次産業の多面的機能を取り入れた評価には至っ ていない。しかしながら,林ら〔22〕ではSEEA に農林業の多面的機能の評価を導入し,農林業に おける環境への正負双方の評価を導入するための 研究が行われており, SEEAは環境への正負の影 響を同時に把握する手法として拡張されることが 期待されている。 (2)環境問題の経済学的要因と持続可能な発 展の定義 環境問題を論じる際には,しばしば持続可能な 発展との関連が取り上げられる。一般に広く使わ れている持続可能な発展の定義は,ノルウェーの 首相ブルントラントを委員長として1984年に設 置された「環境と開発に関する世界委員会」,通称 ブルントラント委員会で1987年に提唱されたも のである。ブ`ルントラント委員会では持続可能な 発展を「将来世代のニーズを満たす能力を損ねる ことなく,現在世代のニーズを満たすような発 展」と定義している。この定義は,現在世代だけ でなく将来世代にも着目した長期的な視野に立 ち,省資源,省エネルギー型の経済発展を目指す ものであるが,人工的な資源と自然資源との代替 性を認めているのが一つの特徴である(o。本論文 においても,以後ブルントラントの定義に沿って 議論を進める。 経済学的な側面から環境問題の要因を考察する と,その一つに自然資源の自由財・公共財的な性 格が挙げられる。自然資源は自由財もしくは公共 財的性格を持ち,市場において価格付けができな いため,個々の経済主体による経済活動ではコス トとして認識されず,過大に投人・消費される。 マクロ経済学的な経済指標であるSNAについて も,これと同様の問題を指摘することができる。 すなわち,自然資源などの市場で取引されない自 由財の投入が, SNAでは考慮されていない点で ある。マクロ経済学的な視点から見た場合, SNA は一国または一地域における経済活動を明確なコ ンセプトに基づいて評価するためには有効な手法 3−
であるが,枯渇性資源が再生するまでに要する長 期的な費用を計算に取り入れていないことや,自 由財として取り扱われる大気や水などの自然資源 の役人を考慮しないなどの理由から,長期的な視 野に立って持続可能な発展を評価するための手法 には向いていない。 自然資源は,持続可能な発展を規定する上で非 常に大きな影響を与える。それは以下の2点の理 由による。第1に,環境問題は生活の質に直接 的・間接的に影響を与え,人々の欲求に深く関 わっている点である。人々は豊かな自然資源や美 しい風景に触れることによってやすらぎを得,よ り高い質の生活を求めている。環境問題の発生に より自然資源などが損なわれることにより,質の 高い生活が損なわれ,人々のニーズが満たされな くなるのである。この質的なニーズを満たすこと は,持続可能な発展の必要条件である。第2に, 生産活動への自然資源の過大な投入が持続可能な 発展を損ねる結果をもたらす点である。さまざま な産業が自然資源を利用しながら発展を遂げてき た。観光産業や鉱業など直接的に自然資源を利用 する産業の他,輸送業や製造業などあらゆる産業 で環境負荷を発生させ,自然資源を大量に投入し た上で生産活動が営まれてきた。その結果,持続 可能な発展が損なわれているのである。 また, Pearceet alバ37]は,持続可能な発展に 関する様々な定義を環境,将来性,公平性の三つ の概念に沿って考察している。 Pearce らは,環境 要因が経済活動に影響を及ぼすと同時に経済活 動が環境要因に影響を及ぼすという相互依存関 係が成立して経済と環境を切り離して取り扱うこ との危険性を論じている。この議論を見ても,持 続可能な発展を考える上で自然資源の投入など の環境要因を考慮することは重要であると言える だろう。 注剛 持続可能な発展の定義には,ブルントラントの他に も様々なものが提唱されている。たとえば, Dalyは, 定常経済論において,持続可能な発展に人工資本との 代替を認めないより強い定義を与えている。定常経済 論および強い持続可能性にっいての詳細は,福士〔24〕 を参照のこと。
-3.
SEEAとデカップリング指標
(1 ) SEEAの概説 1)国連のSEEA SNAは現在,国または地域の経済状態を示す 重要な指標となっており,あらゆる国で広く利用 されている。 SNAにおける中心的な勘定はコア 勘定と呼ばれ,フロー勘定の生産勘定,消費勘定, 蓄積勘定,ストック勘定である貸借対照表勘定を 中心に,いくつかの勘定が整合的に統合された体 系となっている。 そしてSNAにフレキシビリティを与え,様々 な目的に応じて適切な体系に修正できるように提 唱された新たな勘定系列がサテライト勘定であ る。近年の深刻な地球環境問題の発生により,環 境保全に対する支出が年々増加し, SNAにおい ても環境保全のための支出に対する考慮が求めら れるようになった。そこで国連は,環境問題にサ テライト勘定を適用し, 1993年SNA改訂の際, SEEAを導入することを提唱したのである。 SNAでは,自然資源の減耗はその採取費用の みが計算され,自然資源賦存量の減少,劣化によ る自然資源の今後の採取可能期間の短縮,将来世 代の所得の減少などは考慮されておらず,また自 然資源の劣化が経済主体に与える影響について も,影響を回復する費用のみを計算している。し かしながら, SEEAにおいては,自然資源の投入 は生産に関わる費用の一部として扱われ,自然資 源の劣化が経済主体に与える影響も考慮されてお り, SNAでは捉えられない範囲をカバーする経 済計算体系となっている。 SEEAは社会的な関心 の対象となる自然資源状態の貨幣単位での把握を 目的として, SNAでは捉えられない幅広い情報 を提供し,経済主体の意思決定を助けるものとし て期待されている。 SEEAでは,自然資源投入に関わる費用は,環 境保護支出と帰属環境費用の二つに分類すること ができる。環境保護支出とは下水道処理費用や廃 棄物処理費用などSNAにすでに計算されている 自然資源への支出である。自然資源または環境保 全サービスが市場取引されている場合, SNAに おいても自然資源のための支出として金額が計上 4−されることになる。環境保護支出はこの分を通常 の支出とは別汁上として,その支出額がより明確 に捉えられるようにするものである。 一方の帰属環境費用とは, SNAには計算され ない自然資源の投入費用であり,自由財として使 用されている自然資源を帰属的な計算から再評価 するものである。帰属環境費用は,自然資源投入 を貨幣表示したものと捉えられ,帰属環境費用が 増加したことは,貨幣価値で評価した自然資源の 投入が増加したと解釈することができる。 2) SEEAの意義と限界 SEEAを推計することには大きな意義があり, それは以下の3点にまとめられる。第1に貨幣勘 定としてのSEEAの意義である。貨幣評価の意 義については,物量単位では捉えられない自然資 源どうしの相関関係や影響の大きさを把握するこ とができる点が挙げられよう。つまり,自然資源 どうしの関係を同−・の単位で把握するため,貨幣 的な評価を行う必要があり, SEEAはそのための 手法として有効である。第2に仮想市場評価法 (Contingent Valuation Method :CVM)など今 までのミクロ経済学的な視点での自然資源の評価 法に対し,マクロ経済学的な視点からの環境評価 手法を提示し,国または地域全体の自然資源の評 価に関わる情報が得られることが挙げられる。第 3に今まで全く別問題であった環境問題と経済成 長を同じ枠組みの巾で考えることができ,統一さ れた意思決定をするための情報群となることであ る。 SEEAによって,たとえば,どのくらいの自 然資源が生産活動に投人されているのか,自然資 源の投入に対して中間投人が多いのか,それとも 最終消費が多いのかという点を明らかにすること ができる。貨幣表示により自然資源の投入を費用 の増加として認識させることで,経済主体が自ら 自然資源の投人を費用の増加として捉えるための 情報を提供する。このように, SEEAは今まで得 られなかった新たな情報源として重要な役割を持 つと考える。 SEEAから得られる情報は数多くの 利用方法が考えられ,その一つとして,本論文に おいてもSEEAから得られる情報を利用したデ カップリング指標により,地域経済が持続可能な 発展へ向かっているか否かを判断する試みを提示 する。 − また,地域においてSEEAを推計することの 意義は,以下の2点が挙げられる。第1に地球規 模の環境問題でも,その発生源は地域における経 済活動に帰着する点である。地球環境問題は一見 して世界的な問題であるが,環境問題の発生源は 個々の地域における経済活動である。したがっ て,地域の経済活動における自然資源の投入を正 確に貨幣評価し,個々の経済主体が経済活動に伴 う費用の増加として認識することは,経済活動に おける自然資源の適切な投入を促すことにつなが り,環境問題を解決する一助になると考えられ る。第2に自然資源を考慮する場合としない場合 とでは,特定地域の位置づけが大きく変化するこ とが予想されるという点てある。 SNAで見た場 合,都市部においては経済活動の規模が大きく, 必然的にGDPなどの指標値も大きくなる。その 一方で自然資源をより多く投入した生産活動が行 われている可能性もあるが,この点は指標値には 現れてこない。反対に農村部では,経済活動の規 模が小さく, SNAによる指標値も小さくなるが, SEEAは経済活動の大きさの他に自然資源の投 人も考慮しているため,必ずしも農村部において 指標値が小さくなるとは限らないのである。した がって,従来経済活動の大きさのみを基準として いた特定地域の位置づけは,環境への影響を考慮 したSEEAに替わることによって,変化するこ とが予想される。地方分権が謳われる昨今,自然 資源の賦存を考慮した上で地域経済分析を行い, 改めて地域経済の持続可能性を評価することの意 義は大きいと考える。 他方, SEEAにはいくっかの限界も指摘されて いる(I)。第1に, SEEAは未だ枠組み自体が開発 途上であり,試算の域を脱していないということ が挙げられる。したがって,勘定から得られる数 値にっいても,試算値としてしか扱うことができ ず,それ以上の発展的な利用が行われていない。 この問題を解決するためには,勘定の推計方法を 確立し,より信頼度の高い評価手法とすることが 必要である。 第2の問題点は,自然資源を貨幣価値に置き換 えて評価することの妥当性である。環境評価の方 法に関しては近年盛んに研究が行われているが, 価値評価の妥当性の正確な判断基準を設けること 5−
は,非常に困難なことであり, SEEAでも同様の ことが言える。 以上のように, SEEAは未だ試算的な要素が強 く,政策目的に利用することにも多くの問題があ るが, SEEAを使用して環境と経済の関連性を分 析することには一定の意義があると考える。 (2)デカップリング指標 持続可能な発展を判断する指標の一つとして提 唱されている手法に,デカップリング指標があ る(呪デカップリング指標とは, OECDで提唱さ れた持続可能な発展の指標であり,経済活動と自 然資源投人をまとめて一つの判断指標としてその 相関関係を判断するものであり,駆動力変化率と 環境負荷発生量変化率をそれぞれ分母,分子に とった次式で表される。 j町石=, DIニ ∠IDF/_
門y
(1) 印7:デカップリング指標,EP:環境負荷。 DF:駆動力) 駆動力(Driving Force)とは,環境負荷を直接 的・間接的に引き起こしている人間活動のことで あり,具体的にはエネルギー消費量や廃棄物発生 量, GDPなどが挙げられる。また,環境負荷 (Environmental Pressure)には大気汚染物質量 や水質汚濁物質量,地下資源の採掘量など物量単 位を基礎とした数値が採用されるのが一般的であ る(3)。しかし,本論文では貨幣表示されている SEEAからの貨幣データを利用するため,環境負 荷も貨幣単位を基礎としたデータとし,自然資源 投入の貨幣評価額である帰属環境費用の変化率を 採用する。したがって,本論文で用いるデカップ リング指標は,以下の定義式で表される。 ∠'^%c 刀フニ jlシ/y (2) (£C:帰属環境費用,y:GDP) デカップリング指標は経済成長率と帰属環境費 用変化率の比であり,1%の経済成長がなされた とき,どのくらい帰属環境費用,すなわち貨幣表 − 示の自然資源投入が変化するかを示す弾力性値で ある。 第1次産業と他産業では,生産活動に伴って発 生する環境負荷物質も大きく異なるため, (1)式 の£Pに一つの物質の発生量を採用した場合,あ る特定の物質の発生量の変化を持って持続可能な 発展を判断することになり,適当ではないだろ う。ECは,物質単位のいくっかの環境負荷発生 量を合算できるよう貨幣単位に変換したものと捉 えることができる。 したがって,∠I EC/ECを分 子に導入することで,あらゆる環境負荷物質変化 が含まれた包括的な持続可能な発展を判断するこ とができる。 なお,(2)式で定義されるデカップリング指標 は,環境負荷物質を貨幣表示し合算しているた め,ある環境負荷物質の増加は別の環境負荷物質 の削減で相殺される。すなわち,環境負荷物質の 間に代替関係が成立すると言えよう。また,帰属 環境費用の算出法に代替法を用いているため, (2)式は人工資本と自然資本の代替性を認めてい るブルントラントの定義に整合的と言える(呪 注(1)ここで取り上げる問題点はSEEAの構造や概念につ いての問題点であり,推計に関しての問題点は4. (2) で論じる。 (2)「デカップリング」という用語は,農業政策の中山間 地直接支払い政策を表す「デカップリング政策」として 多用されているが,本論文における「デカップリング指 標」は,中山間地直接支払い政策の「デカップリング」 とは関係なく,申。に経済成長と環境負荷発生量変化率 の「デカップリング(分離)」を意味するものである。 (3)駆動力と環境負荷は, D.P.S.E.R.指標と呼ばれる指 標に取り上げられている。 D.P.S.E.R.指標とは,人間活 動と環境の因果関係をDriving Force(駆動力), Pr es- sure (負荷), State(状態), Effect(影響), Response(対応)という五つの項目に沿って包括的に捉えるもの である。D.P.S.E.R.指標の詳細については,富士総合研 究所〔25〕を参照のこと。 (4)この点については4.(1)でも触れる。
4。地域におけるSEEAの構築と推計
(1)新しい勘定体系の提示 1)適用するSEEA体系 本論文では,北海道を事例として地域における SEEAを推計する。北海道を対象とした理由は, 6−自然資源が豊富であることと,計測単位が一つの 島であり,他地域との物質の出入りが把握しやす く,また北海道が一つの統計上の区分となってい るため, SEEAの推計を行うのに必要なデータの 入手が容易であることである。地域における SEEAのフレームワークは,データの問題さえ解 決すれば,北海道だけでなく他の都道府県などに も適用可能である。 帰属環境費用の代表的な推計方法としては① 市場評価法,②直接的非市場評価法(直接的代替 法),③間接的非市場評価法(間接的代替法)の3 種類が挙げられるが,本論文では③の間接的非市 場評価法による評価を採用し,中でも特に維持費 用評価法を使川する。維持費用評価法は,仮に環 境悪化が発生した場合,それを除去し元の状態に 戻した上で,自然資源の状態を維持し環境悪化を 防止するための費用を帰属環境費用として推計す る方法である。維持費用評価法を採用する理由 は,維持費用は自然資産の資本減耗分と考えるこ とができ, SNAと整合的な形で帰属環境費用が 推計されるためである。また,維持費用評価法は 自然資源の悪化を何らかの人工的な手段を用いて 回復・維持するために必要な費用を評価すること から,人工的な資源と自然資源の代替を認めてい ることとなり,前述のブルントラントの持続可能 な発展の定義とも整合的である。 2)地域におけるデータ制約 青木ら〔1〕でも指摘されているが,地域におい てSEEAを推計する場合,地域特有のデータ制 約が大きな問題となる。国連で提唱されたSEEA は,本来国全体を対象とした勘定体系として提唱 されたため, SEEAを地域に適用する場合には, 全国の統計データと同種の地域データが必要とな る。しかしながら,このようなデータは地域にお いて必ずしも入手できるとは限らない場合が多 く,その場合は,できる限り現実的な仮定を置い た上で代替値を推計しなければならない。 そこで本論文では,現状のデータ制約の中で勘 定の信頼性を高めるため,有吉〔3〕において提示 された勘定体系縮釣版をベースに新たな勘定体系 を構築する。新たな勘定体系は代替値を用いた仮 定計算を極力避ける仕組みとする。このような対 処法はより信頼F生の高い勘定を構築することを主 − 眼とし,現状のデータ制約のもとでの当面の措置 として採用するものである。当然,仮定の妥当性 が示されるか,勘定に導入できるデータの利用制 約が緩和された場合には,即座に勘定の推計に取 り入れるっもりである。 有吉〔3〕の縮釣版は,通常のSEEAの推計値 を統合したものであり,縮約版を直接的に推計す るものではない。しかしながら,本論文では縮約 版を元にした新たな勘定体系を直接的に推計する ことで,推計すべき数値の個数を減少させ,さら に使用するデータ自体を少なくしてデータ制約を 緩和する(1)。 このように新たな勘定体系を構築す ることによってデータ制約を緩和する試みは既存 の研究成果にはなく,本論文独自の取組みであ る。本論文においてデータ制約の緩和方法を提案 することにより,地域におけるSEEA推計の際 に重要な示唆を与えると思われる。 新たな勘定体系を導入することによって,勘定 の推計に必要なデータ数が減少し,必然的に全国 値を仮定計算によって使用することも少なくなる 一方で,勘定から得られる情報量が減少する可能 性もある。しかしながら,通常のSEEAを縮約す る部分は主にSNAにおいて計数として計算され ている部分であり, SEEA独自の計数項目である 帰属環境費用の項目を縮約しなければ, SEEAだ けから得られる情報は確保できると考える。ま た,全国と地域という関係で捉えても, SNAによ り得られる情報量と」也域経済計算により得られる 情報量にはすでに大きな格差があり,その意味に おいては両者のサテライト勘定としてのSEEA にも情報量の格差が生じることはある程度避けら れない。 ところで,本論文ではSEEAより産業部門ご との自然資源投入を把握することを目的としてい るが,先に提案した縮釣版では,産業部門別の自 然資源役人を把握することはできない。地域にお いてSEEAを推計することの目的は,地球環境 問題の発生源となる経済活動を明らかにし,地域 経済がどれほど自然資源を役人した上で成り立っ ているのかを把握することである。地域のどの産 業部門により多くの自然資源が投入されているか までを明らかにすることで,より細かな情報が得 られるようになり,地域経済と自然資源投入の間 7−
のより詳細な関係を把握できる。また,地域にお いては地理的要因,資源の賦存状況などにより産 業構造が大きく異なるため,国単位よりも産業構 造の特徴が明確に現れることが考えられる。この ような点からも, SEEAから産業部門別の自然資 源投入状況を把握する必要があると考える。 本論文では先に説明した縮約版から産業部門を 分割したSEEA勘定体系(以下,産業部門分割版 とする)を構築する。産業部門分割版は産業部門 別の自然資源投入の状況を明確にするため,産業 部門ごとに推計値を分割したものである。つま 1 − 2 3 4LO CD 7 8 9 10 11 12 − 13 14 15 − 16 17 18 19 20 21 − 22 − 23 24 − 25 6 7 8 9 0 ( > J ( M C M [ > ] C O 31 32 33 − 34 − 35 36 37 − 38 39 40 − 41 内閣府における全国版の行項目 期首ストック 生産物の使用 環境関連の財貨・サービス 産業 政府 対家計民間非営利団体 その他の財貨・サービス 産業 (木材等の森林資源の輸入) (石油等の地下資源の輸入) 政府 対家計民間非営利団体 生産される資産の使用 環境保護資産の固定資本減耗 その他の資産の固定資本減耗 自然資産の使用 廃物の排出 土地・森林等の使用 資源の枯渇 地球環境への影響 自然資産のその他の使用 自然資産の復元 帰属環境費用の移項 (環境関連の移転支出) 環境調整済国内純生産 国内純生産 純間接税 間接税 (控除)環境関連の補助金 (控除)その他の補助金 雇用者所得 営業余剰 (控除)帰属環境費用 産出額 自然資産の蓄積に関する調整項目 帰属環境費用の調整 経済的要因による量的変化 その他の調整項目 経済的要因によらない量的変化 市場価格変化による再評価 期末ストック 注.筆者作成. り,通常のSEEA勘定体系をまとめた上で,本論 文の分析目的に適合するように産業部門を分割す る。 産業部門分割版は本論文独自の勘定体系であ り,既存の研究において産業部門を分割した SEEAを提示した事例はない。特に地域において は,特定の産業部門に生産が集中することも考え られ,産業部門ごとの特徴がより明確に現れると 思われる。このように, SEEAを産業部門に分割 し,産業部門ごとの計数を推計することには大き な意義があると考えられる。 本論文における産業部門分割版の行項目 1 期首ストック 2 生産物の使用 3 環境関連の財貨・サービス 4 その他の財貨・サービス 5 生産される資産の使用 6 自然資産の使用 7 廃物の排出 8 土地・森林等の使用 9 資源の枯渇 10 地球環境への影響 11 自然資産のその他の使用 12 自然資産の復元 13 帰属環境費用の移項 14 エコ・マージン 15 道内純生産 16 産出額に関する調整項目 17 産出額 18 自然資産の蓄積に関する調整項目 19 その他の調整項目 20 期末ストック 第1図 行項目の対応 - 8−
本論文で提示する産業部門分割版では,産業部 門に第1次産業から第3次産業を設定し,自然資 源役人をこれら3部門についてそれぞれ分割して 計上する。行列項目の設定については,第1図お よび第2図に示した。なお,大気の帰属環境費用 のうち移動発生源(自動車)による分については, 自動車の使用がどの産業部門へ帰着するかを明確 にすることができず,第1次産業から第3次産業 への分割ができなかったため,本論文では自動車 の帰属環境費用を計上する新たな列項目を追加し た。 内閣府における全国版の列項目 1 産出額 2 輸入(含む輸入税) 3 運輸・商業マージン 4 需要(供給) 5 生産活動 6 産業 7 環境保護 8 外部的 9 内部的 10 その他 11 政府 12 環境保護 13 その他 14 対家計民間非営利団体 15 最終消費支出 16 政府現実 17 対家計民間非営利団体 18 家計 19 (耐久消費財) 20 非金融資産の蓄積とストック 21 生産される資産 22 人工資産 23 環境保護 24 産業 25 政府 26 (歴史遺産) 27 その他 28 育成資産 29 森林 30 その他 31 生産されない資産 32 大気 33 水 34 土壌 35 土地 36 開発地 37 農林地等 38 保全地域 39 地下資源 40 輸出 (2)推計方法・概念と仮定の設定 1)推計概念の概要 環境保護支出の推計には,産業連関表の部門で 環境保全産業と考えられる下水道業と廃棄物処理 業の生産額や中間投入額を計上する(呪一方,帰 属環境費用は産業の生産活動における自然資源の 投入,すなわち環境負荷の発生に対し,仮に環境 負荷を全て除去した場合にどれだけの費用がかか るかを計算する。これにより環境負荷を発生させ ない状態すなわちゼロ・エミッションを仮定した 場合の自然資源の投入費用が計算されるのであ 本論文における産業部門分割版の列項目 →割愛 →割愛 →割愛 1 生産活動 1-O 自動車 ト1 第1次産業 ト2 第2次産業 1-3 第3次産業 2 -3 -4 5 5-1 6 0 1 一 一 7 7 7 7-2 7-3 7-4 8 8-1 8-1 8-2 8-3 8-4 9 9-1 10 10-1 10-・2 10-3 10-4 11 11-1 -12 移輸入 最終消費支出 非金融資産の蓄積とストック 生産される資産 人工林(内数) 生産されない資産 大気 自動車 第1次産業 第2次産業 第3次産業 最終消費支出 水 第1次産業 -1 畜産 第2次産業 第3次産業 最終消費支出 天然林 第1次産業 上地利用 第1次産業 第2次産業 第3次産業 最終消費支出 地下資源 第2次産業 移輸出 第2図 列項目の対応 注出 1-Oおよび7-Oの「自動車」の列項目については,大気のうち自動車の使用に関わる部分を計上 する. (2)筆者作成. - 9−
る。 現実的には産業の生産活動に投人される自然資 源は多岐にわたるが,本論文の推計において取り 上げるのは汚染規模の大きさや経済活動への役人 状況,データ制約を考慮し,大気,水,森林,上 地,地下資源の五つの自然資源である。具体的な 汚染物質として,大気はNO。,SO。の両方を,水 は生物化学的酸素要求量(以下,BODとする), 化学的酸素要求量(以下,CODとする)のうち帰 属環境費用の高いほうを取り上げる。森林,土地 については,汚染物質の排出によって資源の状態 が悪化するというよりもむしろ直接的な使用に よって悪化するものと考えられる。したがって, 森林では伐採量が成長量を上回った分について, 仮に環境保全のためにその超過分の伐採を断念し た場合の損失額を,土地についても環境保全のた めに仮に土地の開発を行わなかった場合の損失額 を帰属環境費用と定義する。最後に地下資源につ いては,ユーザーコスト法を適用し帰属環境費用 を推計する(3)。 なお,対象とする年次は1985, 1990, 1995年の 3ヵ年である。これらの3ヵ年を対象とするのは, 勘定を推計する上で最も重要な統計データである 産業連関表がこの年に推計されているためであ る。既存の研究において,3ヵ年にわたるSEEA を推計しているのは,日本総合研究所〔15〕の全 国の試算のみであり,地域において3ヵ年にわた る継続的な推計を行っている研究事例はない。3 ヵ年の継続的な推計によって,どの年次において も見られる地域的な特徴を明らかにすることがで きると考えられる。このような特徴は一つの年次 の推計では把握することができないことから,本 論文における3ヵ年にわたるSEEAの推計は, 地域の特徴を時系列的に明らかにする上でも意義 があると考える。なお,年次間の比較を行うため 勘定の推計値は全て実質化した。実質化すること によって年次間の数値の比較が可能となり,実質 成長率などの経済指標が利用できる。地域におい て実質化されたSEEAを推計した事例も本論文 のみである。 2)本論文におけるSEEAの特徴 本論文で構築したSEEAの特徴は,以下の4 点に要約することができる。第1に,地域におい ー てSEEAを構築し,推計した点てある。地球環境 問題の発生源を辿ると一地域における経済活動に 帰着する。そのため,地域の経済活動における自 然資源の役人状況を明らかにし,地域経済がどれ ほどの自然資源投入の上に成り立っているかを把 握する必要がある。これに対しては地域における SEEAを構築し,勘定の数値を推計することが有 効である。 第2の特徴として,地域におけるSEEAの問 題点であるデータ制約を緩和させる方法を提示 し,取り入れている点である。 SEEAは国単位に 適用することを前提とした勘定体系であるため, 地域において適用し,推計するにはデータの制約 という大きな問題が生じる。本論文ではこの問題 の解決策として,従来の勘定体系を縮約し,使用 する統計データを減少させた新たな勘定体系を提 示した。 第3に,産業部門別の自然資源の役人状況を把 握できるようにした点てある。地域のどの産業部 門により多くの自然資源が投人されているかを明 らかにすることによって,地域経済と自然資源役 人の間の関係をより詳細に把握することができ る。また,地域においては地理的要因,資源の賦 存状況などにより産業構造が大きく異なるため, 国単位よりも産業構造の特徴を一層明確に捕捉す ることが可能となる。 第4の特徴は, SEEAを実質化し, 1995年まで の3ヵ年のSEEAを推計したことである。自然 資源の投人状況を時系列的に把握することは重要 なことであり,特に環境保全対策を行った前後に おける自然資源投入の変化を把握し,比較するこ とには大きな意義がある。特に持続可能な発展を 判断するためには,時系列的な比較が不可欠であ り,この点に配慮して実質化したのも本論文の特 徴と言える。 以上,本論文で提示したSEEAは地域の経済 活動における自然資源の投入状況を把握するため の有効な手法であると考える。推計したSEEA は, 1990年版のみ第1表に示す。 3)推計の限界 ここでは本論文におけるSEEA推計の限界と 問題ヴについて論じ,推計結果がどのような問題 点を含み,何を評価するものであるかを明らかに 10−
する。 はじめに,推計の範囲であるが,本論文の SEEA推計においては,環境保護支出において, 産業連関表の中で環境保護関係財貨・サービス部 門と考えられる下水道業と廃棄物処理業の生産額 および中間投入額等を計上している。日本総合研 究所〔16〕では,環境に資するサービス,リサイ クル業という二つを取り上げ,産業連関表以外の データを用いて環境関係財貨・サービス業として いる(4)。 しかしながら,地域において,このよう なデータは人手できないため,産業連関表から得 られるデータを使用している。このような点が推 計の一つの限界と言えよう。 また,帰属環境費用の推計について,維持費用 評価法による帰属環境費用の推計値は,あくまで 「環境悪化を防止するために必要な費用」を推計 するものであり,環境悪化による被害額を推計す るものではない。すなわち,維持費用評価法に よって推計された費用が小さいことが必ずしも軽 微な環境問題であるということを意味するもので はない。維持費用評価法で示される帰属環境費用 は,現状において自然資源の状態悪化を防止する ために必要となる金額を明らかにするものであ り,状態悪化を放置した場合の被害額を示すもの ではない。したがって,仮に自然資源の悪化防止 のための支出をしなかった場合には,帰属環境費 用の何倍もの被害額となる可能性もある。本論文 におけるSEEAの推計では,自然資源投入を維 持費用評価法で評価しているが,実際に自然資源 投入が生じた後で被る社会的損失額ではない点が SEEAによる評価の限界と言える。 また,帰属環境費用の推計対象とした自然資源 は基本的に全国におけるSEEA試算と同様,大 気,水,森林,上地,地下資源である。このうち, 大気についてはNO,とS0,のみを推計対象とし, 水についてもBODとCODのどちらかであるた め,それ以外の環境負荷については考慮されてい ない。本来,自然資源を元の状態に戻すには,全 ての環境負荷を除去することが必要である。しか し,本論文のSEEAにより推計された大気また は水の帰属環境費用は,数多く存在する環境負荷 のうち, 1, 2種類の環境負荷を取り除くための費 用であり,この点もSEEA推計の限界である。 − その他,森林・上地の帰属環境費用に関して, 仮に生態系保全のために森林の伐採や上地開発を 断念した場合の遺失利益を帰属環境費用としてい るが,成長量を上回る伐採を行った分のみを帰属 環境費用の推計対象とする,もしくは土地の開発 を全て断念するといった強い仮定を置いた上での 推計となっている。しかし,成長量を上回る分の 伐採を断念する,または,土地開発を断念するの みで生態系が保全できるという明確な根拠は存在 しない。さらには,維持費用評価法におけるゼ ロ・エミッション仮定そのものが明確な根拠を持 たないものであると指摘できる。つまり,ゼロ・ エミッション仮定は自然資源の維持には全ての環 境負荷を除去する必要があるという仮定であり, 自然資源の自浄作用による環境負荷の許容量はな いものとしている。この点もSEEA推計の限界 と言える。 以上, SEEA推計の限界について論じてきた。 以降においてSEEA推計結果の考察を行う際に は,これらの問題点を十分踏まえる必要がある。 注剛 勘定の中の一つの数値を計上するためには多くの データを必要とするため,勘定内の推計すべき数値を 減らすことで,使用するデータ数を減らすことができ, データ制約が緩和される。 C2)下水道・廃棄物処理業については,自然資源保全 サービスというより,衛生環境保全サービスと考えら れる。しかしながら,本論では下水の河川流出阻止,廃 棄物の適切な管理が自然資源の保全にもっながると考 え,環境保護関係サービスとする。 (3)ユーザーコスト法は,再生不可能な自然資源の販売 から得られる有限期間における毎期の所得の一部を他 に再投資することによって,自然資源の枯渇後も枯渇 前と同水準の所得が得られると仮定し,その恒常所得 を上回る毎期の所得部分を帰属環境費用として計算す るものである。詳細は, Sarafy〔39〕を参照のこと。 ㈲ 日本総合研究所〔16〕では,環境庁の「エコビジネス の定量的分析に関する調査」(1994年)から基礎的な データを引用している。
5。第1次産業における持続可能な発展
に関する分析
11 − (1)SEEAから得られる情報 1)環境保護支出 はじめに,環境保護支出の推計結果について概注中表中.制斟けは概念的に存在しないセルを,「・・・」は推計できないため数値を計上しないセルをそれぞれ表す (2)箪者推計.
-1
経済統合勘定産業部門分割版 (単位:百万円) 非金融資産の蓄積とストック 生産される資産 生産されない資産
諧
大気 自動車眺
F堂
聯
j§終消諮 4 5 5-1 6 7 7べ〕 7-1 7-2 7-3 7-4 78,491,342.5 39.314,955.5 960、841.4 39,176.387.1 I ● ・ ● I ● ●I I I I● 10,337,982.8 10,337,982.8 4,608,788.0 4,608,788.0 19,583.9 19,583.9 5.729,194.8 5.729.194.8 ・ ● ● ● ● ● ■ ●S ・ ・● ・ ● ● ● ・ I ● ●● ● ● ● I ● ● -2,257,697.0 -2,257,597.0 ● ● ●j
-260,452.9 -186,566.3 -73,886.6 0.0 0.0 W 0 . 0 W ―260.452.9 -186,666.3 -73,886、6 0.〔) -153.032.0 -153.032.0 -138.589.8 -138,589.8 -1,398.3 -1,398.3 -3.713、5 -3,713.5 -9,265.9 -9,266.9 -64.5 -64.5 0 . 0 ● ● ● ● ● ・ ・ ● ・ 0 . 0 ● ● ● ● ● ● ● ・ ● ・ ● ● ・ ・ ● ● ・ I● 0.0 ● ● ● ● ● ● 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 ●1
・4
● ・ ・ I=I,.、 -291、951.3 皿 27,851.9 皿 27,881.9 皿 -291,951.3 皿 153.032.0 皿 138,589.8 皿 1,398.3 皿 3,713.5 皿 9,265.9 ミII● 64.5 27、851.9 0.0 ● ● ● 0.0 ● 4 ● ● ・ l I ● ● ● I I ● ●● ● ● ● 78,816,173.7 41,693,998.3 1,008,277.2 38,122,175,3 ● ● ● I ・● (単位:百万円) 非金融資産の蓄債とストック 侈輸出 生産されない資産 土地利用 地下資源U
戮
聯
最終消費 支 出戮
10 10-1 10-2 10-3 10-4 H 1卜1 12 35.619,040.2 8,333,305.2 2、438,480.0 6,396,228.018,451,027.0 畢 ● 畢 号 ● ● -,ー 5.656.688.7 5,656,688.7 5,754,252.7 5,754,252.7 -10.582.2 -10,582.2 -3,302.7 -3,302.7 −83、679.0 -83,679.0 ・ ● 申 ■ ■・ ● ・ ● 4、554,43S.O 4.554,436.0 皿 -73,886.6 皿 -22,668.1 皿 -13,981.9 皿 -20,468.3 皿 -16,768、3 皿 0.0 皿 0.0 皿 に - - - -j -73.886.6 -22,668.1 -13,981.9 -20,468.3 -16,768.3 ・ 0 . 0 ● ● ・ 0 . 0 ● ● ● 暑 ● ● ● ● ● ● i j ● ● ● ・ ・● I ●● ● ● I ● ● ● ● ● ● ● ● 暑 0.0 0.0 0.0 0.C 0.0 0.0 0.0 F ・・1
● ¶ k_ - - -- - -●
-380,647.9 22β68.1 89,734.2 71,882.7 -564,933.0 ・ ● ・ I I● ・ 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 ・ 34、590.192.1 7,805,337.1 2,517,632.0 6,464,808.0 17.802.415.0 ● ● ● ___J −13−要を述べる。第2表には全国と北海道の環境保護 支出の推計結果およびGDP ・ 最終消費支出に占 める環境保護支出の割合が示されている(I)。これ を見ると,環境保護支出を多く支出している部門 は,全国,北海道とも第3次産業と最終消費部門 であり,第3次産業と最終消費部門がその大部分 を負担していることがわかる。一方,第1次産業 の環境保護支出は他の部門に比べ著しく小さい値 となっている。 ただし,最終消費部門以外の各産業部門では, 環境保護支出はGDPの大きさとも関連すると思 われ,第1次産業はGDP規模が小さいため,環 境保護支出も小さくなっていることも考えられ る。そこで, GDPおよび最終消費支出に占める環 境保護支出の割合を見てみる。これを見ると,全 国,北海道とも第3次産業が最も高い割合となっ ており, GDPとの割合で見ても第3次産業の環 境保護支出は多いことがわかる。その一方で,第 1次産業は全国,北海道とも0.2%以下となって おり, GDP規模を考慮しても,第1次産業の環境 保護支出は少ないことが明らかになった。次に, 北海道と全国の比較から北海道における環境保護 支出の特徴を挙げると,北海道の第1次産業で は,環境保護支出が1985年で6,100万円, 1990年 で2,300万円, 1995年でも6,000万円と,全国の 第1次産業と比べても非常に低い値となっている 点が挙げられる。また, GDPおよび最終消費支出 に占める環境保護支出の割合についても,北海道 の第1次産業ではどの年も0.0%となっており, 全国と比較しても環境保護支出は明らかに少ない ことがわかる。 以上,環境保護支出について,その大きさと GDPに占める割合の二側面から分析してきた。 ただし,環境保護支出は自然資源投入の大きい部 門がより多く支出するべきものであり,その意味 からはGDPよりもむしろ帰属環境費用と比較す るほうが適当であると考えられる。以降では帰属 環境費用の推計結果を紹介した後,環境保護支出 と帰属環境費用との関係を考察する。 2)帰属環境費用 まず,帰属環境費川について,その額と部門別 の割合を全国と北海道で見てみる(第3図,第3 表)。第3図には部門別帰属環境費用の割合が示 されている。これを見ると,北海道・全国とも最 も割合の大きいのはほとんどの年次で自動車であ り,自動車の使用に伴う人気の投入が大きいこと が示されている。また,北海道と全国を比較する と,部門別で見た場合,北海道では第1次産業の 帰属環境費用の割合が高い点が特徴として挙げら れる。また,全国では第1次産業のシェアが年々 低下しているが,北海道では第1次産業のシェア もそれほど変化がない点も特徴となっている。 第3表において, GDP・最終消費支出に占める 帰属環境費用の割合を見ると,全国,北海道とも 第2表 部門別の環境保護支出とGDP・最終消費支出に占める環境保護支出の割合 (単位:百万円) 年 -1985 北海道 1990 1995 1985 1990 1995 全部門 5.444,654.1 1.6% 6,084,921.0 1.3% 7,327,828.6 1.5% 211,642.5 1.6% 170,604.4 1.0% 174,647.0 0.9% 第1次産業 19,457.1 0.2% 第2次産業 1,125,391.8 0.9% 第3次産業 2,347,732.3 1.2% 15,220.5 1,】65.875.8 2.751 0.1% 11,431.5 0.1% 61.3 0.0% 23.0 0.0% 59.7 0.0% 最終消費支出 1,952,072.9 0.8% 534.1 2、152、290.6 0.7% 1.0% 0.8% 882,765.8 3,382,711.4 3,050,919.9 0.5% 14,070.3 0,4% 12,678.6 0.3% 11,408.2 0.2% 注山 各部門の割合はそれぞれのGDPに占める環境保護支出の割合, 終消費支出に占める環境保護支出の割合である. (2)筆者推計. - 14− 1.0% 1.0% 70,782.9 126,728.0 0.7% 1.0% 62,316.5 95,586.3 0.5% 0.7% 57,807.6 105,371.5 0.4% 0.6% 最終消費支出の割合は最
第1次産業の数値が他の産業部門よりもかなり高 くなっていることがわかる。 GDPに占める帰属 環境費川は,生産額あたりの自然資源投入と捉え ることができ,第1次産業は生産額あたりの自然 資源投入が大きいということを示している。特に 北海道の第1次産業は,軒並み全国よりも高い値 を示しており,北海道の第1次産業は全国平均よ りも生産額あたりの自然資源投入が大きいことが 0 1 0 注.筆者推計. 20 30 明らかになった。 また,第4表では,環境保護支出と帰属環境費 川の合計に占める環境保護支出の割合が示されて いる。環境保護支出は自然資源の使用に対して, その防LLと維持のために実際に支出された金額, 帰属環境費用は環境保護支出を支出しても残され た支出されるべき金額と捉えることができる。し たがって,環境保護支出と帰属環境費用の合計 図自動車 口第1次産業 回第2次産業 目第3次産業 口最終消費支出 40 50 60 70 80 第3図 部門別帰属環境費用割合 90 100(%) 第3表 部門別の帰属環境費用とGDP ・ 最終消費支出に占める帰属環境費用の割合 (単位:百万円) 年 -1985 全 国 北海道 1990 1995 1985 1990 1995 全部門 自動車 4,681,335.2 2,576,520.0 1.4% − 4,265,945.4 2,223,030.0 0.9% − 4,580,695.1 2,334.370.0 0.9% − 232,146.9 53,164.4 1.3% − 260,452.9 91,777.8 1.5% − 349,922.9 155,528』 1.7% − 第1次産業 599,004.7 5.9% 372.761.9 3.4% 181,863.9 1.9% 64,224.4 6.6% 50,919.7 5.2% 74,214.9 9.3% 注(1)各部門の割合はそれぞれのGDPに占める帰属環境費用の割合, める帰属環境費用の割合である. 自動車のGDPは存在しないので,割合を算出していない. (2)筆者推計. - 15− 第2次産業 606,887.8 0.5% 645,982.4 0.4% 692,751.3 0.4% 16,462.7 0.4% 18,064.9 0.4% 16,941.6 0.3% 第3次産業 640,652.6 0.3% 807,996.3 0.3% 889,880.2 0.3% 38,563.3 0.3% 29,734.2 0.2% 10,136.5 0.1% 最終消費支出 258,270.1 0.1% 216,174.9 0.1% 481,829.7 0.2% 59,732.1 0.5% 69,956.4 0.5% 93,101.7 0.6% 最終消費支出の割合は最終消費支出に占
は,自然資源の使用に対する本来的な総費用と考 えることができる(2)。環境保護支出と帰属環境費 用の合計に占める環境保護支出の割合を求めるこ とによって,自然資源の使用に対する本来的な総 費用に対して,どのくらいが実際に支出されてい るのかを示すことができる。 第4表を見ると,全国,北海道とも全部門では おおよそ50∼70%と本来的な総費用に対して半 分以上を実際に支出していることがわかる。しか しながら,第1次産業にっいては,1ヶ夕台の数 値となっており,自然資源の使用に対する本来的 総費用に対して,実際に支出されている費用は非 常に少ないことが示されている。特に北海道では 0.1%以下であり,ほとんど実際の支出が行われ ていないと解釈することができる。また,北海道 のもう一つの特徴としては,どの部門においても 概ね全国の値を下回っていることが挙げられる。 次に,自然資源投入の内訳を明らかにするため に,第1次産業の自然資源別帰属環境費用を見 る。第5表を見ると,北海道における第1次産業 の帰属環境費用の特徴として,全国に比べ水の帰 属環境費川が高いことが挙げられる。また,北海 道の第1次産業における水の帰属環境費用の割 合は, 1985年で30.1%だったのが, 1990年には 52.7%, 1995年には66.6%まで上昇しており,水 の帰属環境費用の割合が大きく増加していること がわかる。このことから,北海道の第1次産業で は,水を多く投入して生産活動が行われており, さらにその傾向が強まっていることがわかる。 以上,環境保護支出および帰属環境費用を用い てGDP規模,本来的な環境費用を考慮した上で, 北海道の第1次産業における自然資源投人の特徴 を見てきた。その結果,北海道の第1次産業は, 全国のそれと比べても自然資源投入が多く,自然 全 国 北海道 注剛 (2) 第4表 環境保護支出十帰属環境費用に占める環境保護支出の割合 年 -1985 1990 1995 1985 1990 1995 全部門 - 72.1 74.9 76.5 54.2 50.3 47.3 第1次産業 第2次産業 第3次産業 3 . 1 3 . 9 5 . 9 0 . 1 0 . 0 0 . 1 65.0 64.3 56.0 46.1 41.2 40.2 全部門の帰属環境費用からは自動車分を控除している 筆者推計. 78.6 77.3 79.2 64.7 67.7 85.1 第5表 第1次産業の自然資源別帰属環境費用 (単位:%) 最終消費支出 88.3 90.9 86.4 68.0 57.7 53.1 1985年 1990年 1995年 金 額 割合(%) 全 額 割合(%) 全 額 割合(%) 大 気 全 国 水 (10億円) 森 林 土 地 合 計 21.3 3.6 18.6 3.1 0.0 0.0 559.1 93.3 599.0 100.0 12.2 3.3 27.2 7.3 0.0 0.0 333.4 89.4 372.8 100.0 7.4 4.1 50.1 27.5 0.0 0.0 124.4 68.4 181.9 100.0 大 気 北海道 水 (百万円) 森 林 上地 合 計 6,541.1 10.2 19,302.5 30』 0.0 0.0 38,380.7 59.8 64、224.3 100.0 1.398.3 2.7 26、853.3 52.7 0.0 0.0 22,668.1 44.5 50、919.7 100.0 1,053.5 1.4 49.448.7 66、6 0.0 0.0 23,712.8 32.0 74、215.0 100.0 庄筆者推計. - 16−
0.35 0.99 0.09 0.66 3.61 2.54 デカップリング 指標しA/B) GDP 成長率(B)(%) 5.08 1.48 2.35 3.72 1.91 1.99 17− 資源投入の大きさに対して,実際の環境保護支出 の負担は非常に少なかったことが明らかになっ た(‰また,自然資源別では,北海道の第1次産 業では永の投人が多いことが示された。 (2)デカップリング指標の算出結果 ここでは, 1. (1)で解説したSEEAから得られ る情報を用いて北海道と全国のデカップリング指 標を算出し,地域における持続可能な発展につい て分析する。デカップリング指標{DDを見るこ とによって,経済が持続可能な発展へ向かってい るのか,その逆へ向かっているのかが明らかにな る3.(2)の(2)式において,j y/y>Oかつフ:)/<0 が達成されていると,経済は成長を遂げているに もかかわらず自然資源投人を減少させており,経 済の成長と自然資源投入の減少が同時に達成さ れ,経済は持続可能な発展へ向かっていると言え る。このような状態を「絶対的デカップリングが 実現している状態」という。また,j y/y>Oか つO<DI<1のときには,経済成長率よりも帰属 環境費用変化率が低く,経済がより自然資源を節 約する方向へ向かっていることを表す。ただしこ の場合,自然資源投入自体は増加しており,持続 可能な発展へ向かっているとは言えない。このよ うな状態を「相対的なデカップリングが実現して いる状態」と呼ぶ。さらに,∠1Y/Y>0かつD7> 1のときは,経済の成長のペースを上回って自然 資源役人が増加していることを示す。このような 状態は持続可能とは反対方向へ向かっていること を示し,「デカップリングが実現していない状態」 と呼ぶ。このようにデカップリング指標を用い て,地域経済が持続可能な発展へ向かっているか 否かを判断することができ,経済が持続可能な発 展へ向かっていることの必要十分条件は,絶対的 デカップリングが実現していること,すなわち ∠1Y/Y>0かっDI<Oとなる。 ただし,上記の指標はj y/y>0,すなわち経 済がプラス成長を達成することが前提にある。近 年のような経済の低迷期においては,経済のマイ ナス成長すなわちj y/y<Oという場合も想定さ れ,この場合にはデカップリング指標を用いて持 続可能な発展か否かを判断することはできないこ とに注意が必要である。したがって,この場合に は帰属環境費用の変化とGDPの変化を比較した 上で持続可能な発展か否かの判断を下さなければ ならない(4)。 第6表には部門全体のデカップリング指標の算 出結果が示されている。 1985年から1990年にか けてのデカップリング指標を見ると,北海道にお いては0.66,全国では-0.35である。すなわち, 北海道では相対的デカップリングが実現している のみで,持続可能な発展に向かっているとは言え ないのに対し,全国では絶対的デカップリングが 実現し,持続可能な発展へ向かっていると言え る。このことから判断すると,北海道は全国に比 べ持続可能な発展への達成度は低いと言えよう。 1990年から1995年にかけてのデカップリング指 標を見ると,北海道では, 3.61とデカップリング が実現しておらず,経済成長に伴って自然資源の 投人は経済成長率を上回って増加しており,持続 可能な発展へは向かっていないことがわかる。全 国のデカップリング指標は0.99とほぼ1に近く, 経済規模と自然資源投人がほぼ同率で拡大してい ることが窺える。したがって,持続可能な発展に 第6表 部門全体のデカップリング指標 帰属環境費用 増加率(A)(%) 1985→1990 全 国 1990→1995 1985→1995 1985→1990 北海道 1990→1995 1985→1995 注剛 (2) 数値は全て年平均値である 筆者推計. 1.77 1.48 0.21 -2.44 6.87 5.07