外国語教育学と観光学
― ニ ー ズ 分 析 か ら の 一 考 察 ―
香林 綾子
1. はじめに
11..11 研究の背景 日本の外国語教育(英語)では、小・中・高等学校を通しての自律性及び論理的・批判的思考力の育 成が促進されている。また、小・中学年には 4 技能(聞くこと、話すこと、やり取り、発表)、高学年 おいては「読むこと」、「書くこと」に配慮した統合的なコミュニケーション能力の育成が促進されて いる(文部科学省、2016)。このための新しいアプローチとして「内容重視の教授法、以下、CBI (Content-Based Instruction)」や「内容言語統合型学習、以下、CLIL (Content and Language Integrated Learning)」の授業が注目されてきている。 CLIL は、1990 年代からヨーロッパで始まり、2000 年代以降、ヨーロッパを中心に世界に広がり、 2010 年以降は日本でも実践報告がみられるようになり、日本でも「クリル」として、知られるように なってきた。日本では、CLIL は大学から始まった(笹島、2020)。外国語の試験のスコア、語彙、ラ イティングやスピーキングのスキル、学習方略能力という面で肯定的な学習の成果もまとめられてき た(Dalton-Puffer, 2011)。2000 年以降になると日本の大学で使用されるテキストにも CLIL という 題が多く見られるようになってきた。例えば、 『CLIL 英語で学ぶ世界遺産』 (笹島、仲谷、油木田、 小杉、2018)がある。題からも CLIL は内容重視であることがわかる。 CLIL は内容を英語を通して学習し、英語と内容を習得させることを目的とする CBI とは似ている 点も多いが、複言語で教えてもよいという点では異なる。CBI はアメリカが発祥の教育法であるが、 日本のような英語を外国語として学ぶ環境で、同じように英語で一方的に内容を教えても初級英語学 習者にはやる気が下がり、言語習得に効果はないという批判もある(Birdsell, 2020)。そのため、学 習者のニーズやレベルを考慮することは重要である。 CLIL は学びのバランスを考慮する。例えば、教材が英語であり、学習者が作成するもの(例えば、 広告)も英語である、というようなタスクである場合、学習者が英語を学ぶ(使う)ということを意識 して学んでいれば、日本語で考え、日本語でコミュニケーションしても構わない。また、二言語、例え ば英語と日本語で同じ教材から学ばせ、文化間の共通点や相違点を意識させるというような活動があ っても良い(笹島、2020)。大切なのは教員が CLIL の教育理念を理解し、状況や学習者をみて、バ ランスを考慮し、工夫していくことと言われている。 笹島(2020)は、日本の CLIL の教育理念を次のように示している(p. 34)。 CLIL は言語教育の一環である CLIL は思考力を育成する教育である CLIL は目標言語によるコミュニケーション能力を育成する CLIL は互いの文化を理解する場を提供する外国語教育学と観光学
― ニ ー ズ 分 析 か ら の 一 考 察 ―
香林 綾子
1. はじめに
11..11 研究の背景 日本の外国語教育(英語)では、小・中・高等学校を通しての自律性及び論理的・批判的思考力の育 成が促進されている。また、小・中学年には 4 技能(聞くこと、話すこと、やり取り、発表)、高学年 おいては「読むこと」、「書くこと」に配慮した統合的なコミュニケーション能力の育成が促進されて いる(文部科学省、2016)。このための新しいアプローチとして「内容重視の教授法、以下、CBI (Content-Based Instruction)」や「内容言語統合型学習、以下、CLIL (Content and Language Integrated Learning)」の授業が注目されてきている。 CLIL は、1990 年代からヨーロッパで始まり、2000 年代以降、ヨーロッパを中心に世界に広がり、 2010 年以降は日本でも実践報告がみられるようになり、日本でも「クリル」として、知られるように なってきた。日本では、CLIL は大学から始まった(笹島、2020)。外国語の試験のスコア、語彙、ラ イティングやスピーキングのスキル、学習方略能力という面で肯定的な学習の成果もまとめられてき た(Dalton-Puffer, 2011)。2000 年以降になると日本の大学で使用されるテキストにも CLIL という 題が多く見られるようになってきた。例えば、 『CLIL 英語で学ぶ世界遺産』 (笹島、仲谷、油木田、 小杉、2018)がある。題からも CLIL は内容重視であることがわかる。 CLIL は内容を英語を通して学習し、英語と内容を習得させることを目的とする CBI とは似ている 点も多いが、複言語で教えてもよいという点では異なる。CBI はアメリカが発祥の教育法であるが、 日本のような英語を外国語として学ぶ環境で、同じように英語で一方的に内容を教えても初級英語学 習者にはやる気が下がり、言語習得に効果はないという批判もある(Birdsell, 2020)。そのため、学 習者のニーズやレベルを考慮することは重要である。 CLIL は学びのバランスを考慮する。例えば、教材が英語であり、学習者が作成するもの(例えば、 広告)も英語である、というようなタスクである場合、学習者が英語を学ぶ(使う)ということを意識 して学んでいれば、日本語で考え、日本語でコミュニケーションしても構わない。また、二言語、例え ば英語と日本語で同じ教材から学ばせ、文化間の共通点や相違点を意識させるというような活動があ っても良い(笹島、2020)。大切なのは教員が CLIL の教育理念を理解し、状況や学習者をみて、バ ランスを考慮し、工夫していくことと言われている。 笹島(2020)は、日本の CLIL の教育理念を次のように示している(p. 34)。 CLIL は言語教育の一環である CLIL は思考力を育成する教育である CLIL は目標言語によるコミュニケーション能力を育成する CLIL は互いの文化を理解する場を提供する CLIL は学習者の自律学習を促進する CLIL は学ぶ内容に焦点を当てることで学ぶ意欲を喚起する (笹島、2020, p. 34) 筆者もこれまで学生のニーズや英語のレベルに合わせて「サイエンス」や「世界遺産」について英語 も科目の内容も学ぶというテキストを使ってきたことがある。CLIL のテキストのアプローチが従来の テキストと違うところは、それらが CLIL の教育理念を反映している点である。意味のあるやり取の 中で英語を理解させるような活動を取り入れ、自律学習を促し、学習者に英語で調べてこさせ、英語で 発表させるような活動が取り入れられている。これらは内容を教えるための知識の詰め込み型の教育 とは異なり、日本の外国語教育を変える可能性があるように思われる。 また、観光学の視点から CLIL 教育を考えると、ますます CLIL 教育の可能性や重要性が見えてく る。なぜなら、観光する、つまり、遊びに行くことであり、観光の原義は、「光を観る」であり、「光 =宝物=その地特有の素晴らしいもの」を観ること(平居、2020、p. 1)であるからである。学問は人の 人生を豊かにする。CLIL 教育の多様で柔軟な視点で観光学にアプローチすることも、その逆も可能で あり、そこからは多様な学びが想定される。以下に、芸術観光を例に CLIL 教育の可能性を考察して みたい。 筆者は、2020 年の 2 月、前から行きたかったスペインに観光に行ってきた。観光には、そこに行か ないと見えないものがある。例えば、ガウディのサグラダ・ファミリアや中世の街、街自体が世界遺産 のトレドである。今は、インターネットで検索すればすぐに画像も見れ、情報も得れるが、行かないと 見えないものには、人とのやり取りや観光を通して、心の眼で見る気づきもある。トレドの旅の目当て は、サント・トメ教会にあるエル・グレコ1の宗教画「オルガス伯の埋葬」であったが、トレドは、城 塞の街であり、迷うようにできている、また坂道も多いと聞いていたので、辿り着けるか不安だったの で、ツアーに参加することにした。ツアーに参加しているのは香港からの家族 3 人と、エストニアか らの若いカップルと筆者だけだったので、コミュニケーションが取りやすかった。ガイドさんはバル セロナ出身の若い女性で、英語で絵の説明や街の歴史や文化の説明などをしてくれて、こちらの問い にも親切に答えてくれた。観光をすると、英語の広がりを感じることが多くなる。このような気づきを 得られるのも観光の楽しみの一つである。また、アート、とりわけ、西洋絵画は映画や歌が歴史や文化 を表すのと同じようにその時代を映す鏡である、とも言え、そこから学べるものは大きい。しかし、大 学で扱う英語のテキストで観光を扱うテキストは多くあるが、筆者の知る限り、「アート」を前面に出 す英語のテキストは見たことがない。日本ではカタカナも多く存在することから、教養も実用もと考 えるとますますそのような教材が重要に思えてくる。例えば、国名や地名に関して言えば、カタカナと 英語の発音にはかなりの違いがある。トレドは、英語(ここではイギリス英語)では、カタカナで言う と「トリード」に近い発音になる。このような違いに気づくのは楽しい。気づくのは楽しいが、イギリ ス英語を話せるようになることが大切、ということでもない。日本では、いわゆる“ネイティブ・スピ ーカー”と言われる人の英語を話すことが「理想」のような前提が存在するが、言語はコミュニケーシ ョンのための道具であって、必要な時に使えること、また、使えるように準備しておくことの方が、間 違いを恐れて英語ではコミュニケーションが取れない人になるよりもはるかに大切である(Murata, 2019)。また、英語のコミュニケーションではよく、休みはどうだった、と相手の様子を聞くことが ある。母語話者同士であれば、「I went to トレド」とカタカナを使って通じるので、授業では何の問 題もないが、ʻあっている英語ʼ か分からない、という自信のなさから無言になってしまっては、「無口 65 64 -香林 綾子 平安女学院大学 国際観光学研究 2020オリジナルテキスト『観光学の未来』補遺編な人」とか「冷たい人」と思われかねない。大学を卒業後、将来の日本の多文化社会において、英語を 使ってコミュニケーションをとる場合に備えて、授業を通して自分で発音記号を調べてみる、実際に 使ってみる、というような術を身につけておくことは重要であり、授業では失敗する機会も学びにつ ながる。多様で柔軟な CLIL 教育から西洋絵画にアプローチすれば、ヴァーチャルな世界や想像の世 界も含めて観光(自分だけの光を見つける)ができる可能性があり、外国語教育学、観光学の学びも深 まると期待できる。 テキスト選びは教員の裁量によるところが多く、学生のニーズに合っているのかはいつも選んだ後 に聞くことになってしまっているのが現状である。しかし、学生のニーズに応えていくことはコース や教材をデザインしていく上でも、英語学習に対する自律性を促進していく上でも重要である(Evans & Morrison, 2012, 香林、2017、中田、2015、West, 1994)。そこで、本論文では、まず、ニーズ分 析を通して、学生のニーズと現状を把握する。そして、どのようにアート(ここでは、西洋絵画の芸術 観光に焦点をおく)を英語教育の中で応用し、実践していくのか、今後の課題について考察したい。 11..22 CCLLIILL の問題点と可能性 CLIL のアプローチは多様であり、柔軟であるが、それ故に批判も多い。CLIL は、定義が曖昧で、 また定義が曖昧であればどのような教材も CLIL に当てはまり、研究結果も定義の曖昧さゆえに、説 得力がないという指摘がされている(Birdsell, 2020)。しかし、CLIL の教育理念を大切にすれば、 英語で意味のあるやり取りをさせたり、英語で調べてこさせたり、それを英語で発表させたり、英語学 習を意識させたり、自律学習を促すことで、英語でのコミュニケーション能力や自己効力感も上がる 可能性がある(Kobayashi, 2020)。また、西洋絵画を題材に海外の歴史や文化について調べたり、英 語で発表したり、ディスカッションしたりすることで、日本との違いや今後日本に必要になるであろ う多言語社会、多文化社会に対応する柔軟性や理解するこころ、英語で発表したり、やり取りする技能 も培うことができる可能性がある。
2. ニーズ分析調査
22..11 調査の目的 大学生を対象としたニーズ分析を通し、どのようにアート(ここでは、西洋絵画の芸術観光に焦点を おく)を英語教育の中で応用し、実践していくのかを考察する。上述の調査の目的を踏まえ、ニーズ分 析では、どのようなニーズがあり、授業でどのような英語のスキルを必要と感じているのか、現状では どの程度出来ると感じているかを把握する。 22..22 対象者 2020 年 7 月、日本の私立大学に通う大学生1年生から 4 年生(N = 152)が Forms を用いた質問紙 調査に参加した。データの秘匿性が守られ論文化される、回答は強制ではない、成績には一切関係がな い旨を書面で説明し、回答してもらった。全員から承諾を得られた。回答にかかった時間は平均約 6 分 であった。非英語専攻(n = 149)、英語専攻(n = 3)、男子(n = 41)、女子(n = 111)、1 年生(n = 100)、2 年生(n = 32)、3 年生(n = 19)、4 年生(n = 1)である。これまでに半年以上を英語圏 で生活をしたことがある学生が、7 名いたが、その内 4 名は幼少期の時であり、一人は日本人学校に 3 年間いたが、特に英語の使用が多い生活ということではなかった、また、後の 2 名は大学の時に約半年語学学校へ通っていたということだったが、他の学生と比べ英語力に差がないと判断したため、分 析に加えることにした。また、イギリス、オーストラリア、アメリカなど短期(1 週間から 3 ヶ月)で ホームステイや語学留学、修学旅行をしたことがある学生が全体の1割程度いた。高校の修学旅行で 海外へいくケースも年々増えてきており、日本の大学生の実態を表していると思う。また、2 名アジア 圏出身の学生がいたが、英語力も他の学生と比べ差がないと判断したため、分析に加えることにした。 英語力に関しては、約 3 分の 2 の学生が英検や TOEIC のスコアを取得していた。割合は、英検 2 級 (18%)、準 2 級(14%)、3 級、4 級で(14%)、TOEIC は 235-630(13%)だった。 22..33 質問紙 質問項目は次のように 4 つのセクションに分かれていた。1.学生の専攻や英語学習歴について、2. 英語の教材に対しての興味・関心、3.英語でどのようなことができるようになることが重要と思うか、 4.英語力に対する自己効力感について。興味・関心に関しては、1 (= 全く興味がない)から 7 (= と ても興味がある)、どのような英語のスキルができるようになることが重要かに関しては、1 (全く重 要でない)から 7 (= とても重要である)、自己効力感については 1 (= 全くあてはまらない)から7 (= とてもよくあてはまる)の 7 件法で回答してもらった。興味のある西洋絵画、アーティスト、歴史 的文化的背景については自由記述で回答してもらった。
3. 結果と考察
教材に対する興味 大学で英語の授業で使用するテキストで、14 世紀から 20 世紀に描かれた西洋絵画(例えば、ダ・ヴ ィンチのモナリザ)やそのアーティスト、当時の歴史的文化的背景について学べる教材に対する興味・ 関心は大きく分かれた。 表1. 教材に対する興味 表 1 に見られるように、約 4 割の学生が、西洋絵画について「全く興味がない(14%)」、「興味が ない(11%)」、「どちらかと言うと興味がない(15%)」という回答で、約 4 割の学生が「とても興 な人」とか「冷たい人」と思われかねない。大学を卒業後、将来の日本の多文化社会において、英語を 使ってコミュニケーションをとる場合に備えて、授業を通して自分で発音記号を調べてみる、実際に 使ってみる、というような術を身につけておくことは重要であり、授業では失敗する機会も学びにつ ながる。多様で柔軟な CLIL 教育から西洋絵画にアプローチすれば、ヴァーチャルな世界や想像の世 界も含めて観光(自分だけの光を見つける)ができる可能性があり、外国語教育学、観光学の学びも深 まると期待できる。 テキスト選びは教員の裁量によるところが多く、学生のニーズに合っているのかはいつも選んだ後 に聞くことになってしまっているのが現状である。しかし、学生のニーズに応えていくことはコース や教材をデザインしていく上でも、英語学習に対する自律性を促進していく上でも重要である(Evans & Morrison, 2012, 香林、2017、中田、2015、West, 1994)。そこで、本論文では、まず、ニーズ分 析を通して、学生のニーズと現状を把握する。そして、どのようにアート(ここでは、西洋絵画の芸術 観光に焦点をおく)を英語教育の中で応用し、実践していくのか、今後の課題について考察したい。 11..22 CCLLIILL の問題点と可能性 CLIL のアプローチは多様であり、柔軟であるが、それ故に批判も多い。CLIL は、定義が曖昧で、 また定義が曖昧であればどのような教材も CLIL に当てはまり、研究結果も定義の曖昧さゆえに、説 得力がないという指摘がされている(Birdsell, 2020)。しかし、CLIL の教育理念を大切にすれば、 英語で意味のあるやり取りをさせたり、英語で調べてこさせたり、それを英語で発表させたり、英語学 習を意識させたり、自律学習を促すことで、英語でのコミュニケーション能力や自己効力感も上がる 可能性がある(Kobayashi, 2020)。また、西洋絵画を題材に海外の歴史や文化について調べたり、英 語で発表したり、ディスカッションしたりすることで、日本との違いや今後日本に必要になるであろ う多言語社会、多文化社会に対応する柔軟性や理解するこころ、英語で発表したり、やり取りする技能 も培うことができる可能性がある。2. ニーズ分析調査
22..11 調査の目的 大学生を対象としたニーズ分析を通し、どのようにアート(ここでは、西洋絵画の芸術観光に焦点を おく)を英語教育の中で応用し、実践していくのかを考察する。上述の調査の目的を踏まえ、ニーズ分 析では、どのようなニーズがあり、授業でどのような英語のスキルを必要と感じているのか、現状では どの程度出来ると感じているかを把握する。 22..22 対象者 2020 年 7 月、日本の私立大学に通う大学生1年生から 4 年生(N = 152)が Forms を用いた質問紙 調査に参加した。データの秘匿性が守られ論文化される、回答は強制ではない、成績には一切関係がな い旨を書面で説明し、回答してもらった。全員から承諾を得られた。回答にかかった時間は平均約 6 分 であった。非英語専攻(n = 149)、英語専攻(n = 3)、男子(n = 41)、女子(n = 111)、1 年生(n = 100)、2 年生(n = 32)、3 年生(n = 19)、4 年生(n = 1)である。これまでに半年以上を英語圏 で生活をしたことがある学生が、7 名いたが、その内 4 名は幼少期の時であり、一人は日本人学校に 3 年間いたが、特に英語の使用が多い生活ということではなかった、また、後の 2 名は大学の時に約半 67 66 -香林 綾子 平安女学院大学 国際観光学研究 2020オリジナルテキスト『観光学の未来』補遺編らかと言うと興味がない」という回答だったのに対して、映画、食、ファッションに関しては、半数以上 の学生が「とても興味がある」、「どちらかと言うと興味がある」という結果だった。観光に関しても約 半数が興味があるという回答だった。これらの結果はテキストのトピックを選ぶ際の参考になる。 何ができるようになることが重要か 西洋絵画やアーティスト、当時の歴史的文化的背景について、英語で何ができるようになることが 重要かについては表 3 の通りだった。 表 3. 英語で何ができるようになることが重要と思うか まず、「英語で理解(聞いたり、読んだり)できるようになる」に関しては、「とても重要である (15%)」、「重要である(17%)」「どちらかというと重要である(27%)」というように重要であ ると思っている学生が半数以上(59%)いるとわかった。また、「英語でコミュニケーションできるよ うになる」に関しても、「とても重要である(12%)」、「重要である(23%)」、「どちらかという と重要である(21%)」という結果から、英語でのコミュニケーション能力は重要視されていると言え る。「英語で発表できるようになる」に関しては、「とても重要である(6%)」、「重要である(9%)」 が少なく、約 2 割は「どちらかというと重要である(21%)」と思っており、それほど重要視されてい ないことがわかった。 自己効力感に関して 表 4 に見られるように、「西洋絵画やアーティスト、当時の歴史的文化的背景について、英語で理 解(聞いたり、読んだり)できる感じがする」に関しては、約 2 割(16%)の学生が、「どちらかとい うとあてはまる」と感じており、「あてはまる」はさらに少なく(13%)、「とてもよくあてはまる」 と感じている学生はほとんどいなかった(4%)。 「西洋絵画やアーティスト、当時の歴史的文化的背景について、英語でコミュニケーションができる 感じがする」に関しては、「できる感じがする」と思う学生はさらに少なく、「とてもよくあてはまる」 はほとんどいなかった(3%)。半数以上の学生が「全くできない(14%)」、「できない(21%)」、 「どちらかと言うとできない(21%)」と感じていた。 味がある(6%)」、「興味がある(14%)」、「どちらかと言うと興味がある(20% )」、という回 答であった。アーティストに関しても、また、当時の歴史的文化的背景についても、同様の傾向が見ら れた。ここからは西洋絵画を扱う教材には、興味はあるともないとも言える。しかし、興味のある西洋 絵画に関して聞くと、以下に示すように多くの回答が見られ、実は、興味・関心が高いのではないかと 思われる。また、興味のあるアーティストに関しても、歴史的文化的背景に関しても多くの回答が寄せ られ、興味・関心の高さを感じる。 興味のある西洋絵画 興味のある西洋絵画に関しては、152 件中、約 3 分の 2 以上の学生が回答しており、モナリザ、最 後の晩餐、真珠の耳飾りの少女が上位 3 で、ひまわり、ムンクの叫び、夜のカフェテラス、睡蓮も多 く見られ、夜警、ゲルニカ、泣く女なども見られた。 興味のある西洋絵画のアーティスト こちらは約 8 割の学生が回答しており、20 件以上回答が見られたのは、ゴッホ(28 件)、ピカソ (22 件)、ダ・ヴィンチ(21 件)の順に多く、次にモネ、フェルメール、ダリ、レンブラント、ルノ ワールの順で人気があった。他にもフリーダ・カーロ、ラッセン、ミレー、ミュシャ、ミケランジェロ、 ムンク、シャガール、マグリットという回答もあった。 興味のある歴史的文化的背景 約 6 割の学生が回答しており、最も多かったのは、ルネサンス(41 件)だった。その次に多かった のが、印象派(ポスト印象派含む)(20 件以上)で、ロマン主義、フランス革命、バロック、ロココ、 ゴシック様式、写実主義、古典主義、キュビズムなどの回答も見られた。 興味のあるトピック 表 2 に見られるように、文学、宗教、政治に関しては、半分以上の学生が「全く興味がない」、「どち 表 2. 興味のあるトピック
らかと言うと興味がない」という回答だったのに対して、映画、食、ファッションに関しては、半数以上 の学生が「とても興味がある」、「どちらかと言うと興味がある」という結果だった。観光に関しても約 半数が興味があるという回答だった。これらの結果はテキストのトピックを選ぶ際の参考になる。 何ができるようになることが重要か 西洋絵画やアーティスト、当時の歴史的文化的背景について、英語で何ができるようになることが 重要かについては表 3 の通りだった。 表 3. 英語で何ができるようになることが重要と思うか まず、「英語で理解(聞いたり、読んだり)できるようになる」に関しては、「とても重要である (15%)」、「重要である(17%)」「どちらかというと重要である(27%)」というように重要であ ると思っている学生が半数以上(59%)いるとわかった。また、「英語でコミュニケーションできるよ うになる」に関しても、「とても重要である(12%)」、「重要である(23%)」、「どちらかという と重要である(21%)」という結果から、英語でのコミュニケーション能力は重要視されていると言え る。「英語で発表できるようになる」に関しては、「とても重要である(6%)」、「重要である(9%)」 が少なく、約 2 割は「どちらかというと重要である(21%)」と思っており、それほど重要視されてい ないことがわかった。 自己効力感に関して 表 4 に見られるように、「西洋絵画やアーティスト、当時の歴史的文化的背景について、英語で理 解(聞いたり、読んだり)できる感じがする」に関しては、約 2 割(16%)の学生が、「どちらかとい うとあてはまる」と感じており、「あてはまる」はさらに少なく(13%)、「とてもよくあてはまる」 と感じている学生はほとんどいなかった(4%)。 「西洋絵画やアーティスト、当時の歴史的文化的背景について、英語でコミュニケーションができる 感じがする」に関しては、「できる感じがする」と思う学生はさらに少なく、「とてもよくあてはまる」 はほとんどいなかった(3%)。半数以上の学生が「全くできない(14%)」、「できない(21%)」、 「どちらかと言うとできない(21%)」と感じていた。 味がある(6%)」、「興味がある(14%)」、「どちらかと言うと興味がある(20% )」、という回 答であった。アーティストに関しても、また、当時の歴史的文化的背景についても、同様の傾向が見ら れた。ここからは西洋絵画を扱う教材には、興味はあるともないとも言える。しかし、興味のある西洋 絵画に関して聞くと、以下に示すように多くの回答が見られ、実は、興味・関心が高いのではないかと 思われる。また、興味のあるアーティストに関しても、歴史的文化的背景に関しても多くの回答が寄せ られ、興味・関心の高さを感じる。 興味のある西洋絵画 興味のある西洋絵画に関しては、152 件中、約 3 分の 2 以上の学生が回答しており、モナリザ、最 後の晩餐、真珠の耳飾りの少女が上位 3 で、ひまわり、ムンクの叫び、夜のカフェテラス、睡蓮も多 く見られ、夜警、ゲルニカ、泣く女なども見られた。 興味のある西洋絵画のアーティスト こちらは約 8 割の学生が回答しており、20 件以上回答が見られたのは、ゴッホ(28 件)、ピカソ (22 件)、ダ・ヴィンチ(21 件)の順に多く、次にモネ、フェルメール、ダリ、レンブラント、ルノ ワールの順で人気があった。他にもフリーダ・カーロ、ラッセン、ミレー、ミュシャ、ミケランジェロ、 ムンク、シャガール、マグリットという回答もあった。 興味のある歴史的文化的背景 約 6 割の学生が回答しており、最も多かったのは、ルネサンス(41 件)だった。その次に多かった のが、印象派(ポスト印象派含む)(20 件以上)で、ロマン主義、フランス革命、バロック、ロココ、 ゴシック様式、写実主義、古典主義、キュビズムなどの回答も見られた。 興味のあるトピック 表 2 に見られるように、文学、宗教、政治に関しては、半分以上の学生が「全く興味がない」、「どち 表 2. 興味のあるトピック 69 68 -香林 綾子 平安女学院大学 国際観光学研究 2020オリジナルテキスト『観光学の未来』補遺編
表 4. 自己効力感 また、「西洋絵画やアーティスト、当時の歴史的文化的背景について調べ、英語で発表ができる感じ がする」に関しては、「とてもよくあてはまる」は、さらに少なく、ほぼいなかった(1%)。半数以 上の学生が、「全くできない(16%)」、「できない(20%)」、「どちらかと言うとできない(23%)」 と感じていた。 以上、英語で、聞いたり読んだり、コミュニケーションできることに関しては、約 6 割の学生が重 要であると思っていた。一方で、約半数の学生は英語で聞いたり、読んだりすることに自信がなく、さ らに、英語でのコミュニケーションや発表することに関しては、半数以上の学生が自信がないと感じ ていたことがわかった。ここから、多くの学生は英語で理解したり、コミュニケーションできるように なることは重要であると思うが、できないと感じている学生が多いことが分かる。 アートが好きとか、将来ツアーガイドや学芸員になりたいと思っている学生でもない限り、西洋絵 画の歴史やアーティストについて調べて発表する機会に重要性を感じないことも、これまでそのよう な発表の機会もなかったであろうから自信がないという結果も妥当であると思われる。しかし、詰め 込み式の暗記型の授業ではなく、内容重視で発信型の授業ができれば、英語で調べ、英語で発表する機 会を持つことにつながり、そのような経験は英語を使うことへの自信にもつながる(Kobayashi, 2020)。そして、そのような学びは将来の多様な社会で生き抜いていく上でも役に立つ可能性がある。
4. おわりに
まとめの前に、まず、本研究の限界点について述べたい。学生のニーズや状況、環境は時間とともに 変わるため、本研究のような一回きりの質問紙調査では得られる情報に限界があり、ニーズ分析は今 後も必要になる。しかし、まだ教材開発、コースデザインの前段階であるので、本研究調査は学生のニ ーズを知る上で実施して意味があったと言える。結果からは、西洋絵画についても英語も学べる教材 はある程度ニーズがあると言える。多くの学生は、西洋絵画について英語で理解できるようになるこ とやコミュニケーションできるようになることは重要であると思っているが、できないと感じている ことが分かった。また、学生の興味のあるトピックも文学、宗教、政治よりも、映画、ファッション、 食にある、という結果も興味深い。最後に、どのように CLIL (ここでは西洋絵画の芸術観光)を日本の英語教育に応用し、実践してい くかを検討したい。CLIL のプログラムを計画する上で、まずは、プログラムの目標をしっかり検討す ることは評価の観点からも自律性を育成する上でも重要である。CLIL の定義の曖昧さを回避するため に、Birdsell (2020)は、プログラムのコースを組み立てていく上で、4 つの範疇(統合、母語の使用、 内容、英語のレベル)からコースを計画し、それぞれのカテゴリーを 6 段階の尺度で定義していくと いう提案をしている。具体的には、1. 該当するコースを CLIL カリキュラムにどの程度統合するか、 2. 母語使用はどの程度必要とするか、3. どの程度内容を特化するか、4. CEFR2 (Council European
Framework of Reference for Languages) (http://www.cefr-j.org for more information を参照) で いうと学習者の英語のレベルはどの程度か。これらは、コースをデザインする上で、何も定義づけがさ れないままと違い、授業の目標(どこを目指すのか)も明確になり、参考になる。範疇を使えば、ある 程度、学生とも目標を明確に共有できるようになり、自律学習を促す上でも、学習の成果を見るうえで も参考になる。
肝心な中身の活動は、アートなので、五感に働きかける活動から導入すると、刺激的である(Tolve, 2020)。例えば、一枚の絵画を通して、What can you see? What can you touch? What can you smell? などお互いに聞き合うやり取りができる。ここでは、自分が表現できる英語でやり取りをすることが 重要になってくる。導入ということで、クイズなどにすれば、学生の負荷は少なくなるが、このような どちらかというと自由回答を求めるような問いは、やはり意見を共有したい。読み書きに配慮した統 合的なコミュニケーション能力ということで、アーティストの生い立ちを英語で読んだり、どのよう な思いや経緯で絵を描いたのかを調べ、英語で発表したり、絵画の中では、何色が使われているか、何 色の服を着ててそれは何故か、どのような効果があるか、などを英語で話したり、発表してもらっても 論理的・批判的思考力の育成に繋がると思われる。 ま た 、 コ ロ ナ 禍 に 伴 い 通 常 の 対 面 の 授 業 が で き な い 環 境 を 考 え る と 、 Flipgrid (https://auth.flipgrid.com/educator を参照)という無料のアプリ(一つのプラットフォームで多くの 動画を共有し、動画でコメントしたりできる)は簡単に使用できて、便利なツールかもしれない。そこ で、母語話者以外の学生と自分たちのプレゼンテーションを動画で共有し、意見交換や言語に対する 気づきを英語で共有する、というような活動を通しても多文化理解や言語学習に対する意識につなが ると考えられる。また、母語話者同士の場合でも、多様な意見があり、言語学習の気づきなどは個人差 があり、お互いから学べるきっかけになる。さらに、このような意味のあるやり取りの中で、6 技能(読 む、書く、聞く、話す、やり取りする、発表する)を使うことになるので、言語習得、自己効力感への 効果も期待できる。 【註】 1 エル・グレコ(El Greco)は、クレタ島出身の画家、彫刻家、建築家で、表現主義の先人と言われ ている。本名は、Domemikos Theotokopoulos だが、スペインでも El Greco、ʻElʼはスペイン語 で、ʻGrecoʼはイタリア語で、意味は、「ギリシャ人」というユニークな名前で定着した(Chilvers, 2015)。
2 CEFR ( Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment: 外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)とは、語学シラバスの作 成や外国語運用能力の評価のための共通参照枠で、2001 年に欧州評議会が発表した。共通参照レ ベルは、6 レベルある。 表 4. 自己効力感 また、「西洋絵画やアーティスト、当時の歴史的文化的背景について調べ、英語で発表ができる感じ がする」に関しては、「とてもよくあてはまる」は、さらに少なく、ほぼいなかった(1%)。半数以 上の学生が、「全くできない(16%)」、「できない(20%)」、「どちらかと言うとできない(23%)」 と感じていた。 以上、英語で、聞いたり読んだり、コミュニケーションできることに関しては、約 6 割の学生が重 要であると思っていた。一方で、約半数の学生は英語で聞いたり、読んだりすることに自信がなく、さ らに、英語でのコミュニケーションや発表することに関しては、半数以上の学生が自信がないと感じ ていたことがわかった。ここから、多くの学生は英語で理解したり、コミュニケーションできるように なることは重要であると思うが、できないと感じている学生が多いことが分かる。 アートが好きとか、将来ツアーガイドや学芸員になりたいと思っている学生でもない限り、西洋絵 画の歴史やアーティストについて調べて発表する機会に重要性を感じないことも、これまでそのよう な発表の機会もなかったであろうから自信がないという結果も妥当であると思われる。しかし、詰め 込み式の暗記型の授業ではなく、内容重視で発信型の授業ができれば、英語で調べ、英語で発表する機 会を持つことにつながり、そのような経験は英語を使うことへの自信にもつながる(Kobayashi, 2020)。そして、そのような学びは将来の多様な社会で生き抜いていく上でも役に立つ可能性がある。
4. おわりに
まとめの前に、まず、本研究の限界点について述べたい。学生のニーズや状況、環境は時間とともに 変わるため、本研究のような一回きりの質問紙調査では得られる情報に限界があり、ニーズ分析は今 後も必要になる。しかし、まだ教材開発、コースデザインの前段階であるので、本研究調査は学生のニ ーズを知る上で実施して意味があったと言える。結果からは、西洋絵画についても英語も学べる教材 はある程度ニーズがあると言える。多くの学生は、西洋絵画について英語で理解できるようになるこ とやコミュニケーションできるようになることは重要であると思っているが、できないと感じている ことが分かった。また、学生の興味のあるトピックも文学、宗教、政治よりも、映画、ファッション、 食にある、という結果も興味深い。 71 70 -香林 綾子 平安女学院大学 国際観光学研究 2020オリジナルテキスト『観光学の未来』補遺編【参考文献】
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