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医療化はいかに物語られたか : 少年事件報道記事のテキストマイニングによる分析

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医療化はいかに物語られたか

―少年事件報道記事のテキストマイニングによる分析―

How Medicalization has been narrated:

Analysis of Newspaper Reports on Juvenile Crimes through Text-Mining Method

加藤 隆雄・木村 祐子

Takao K

ATO

and Yuko K

IMURA

要  旨  1997 年以降の少年犯罪を報道した新聞記事にテキストマイニング分析(KH Coder を使用)を施し, 2000年前後にみられた「医療化」の傾向がどのような趨勢をたどっているかを,2014 年の事件に至 る 5 件のケースについて,共起ネットワークなどの分析によって実証的に検討した。医療化は,少年 による「猟奇的犯罪」を精神障害によって説明し,治療の対象にしようとするものだったが,2010 年代に入り医療化が衰勢となっていることが示唆された。また,それぞれの報道の意味論的な構造を 論じ,医療化的語彙の物語論的な価値を検討した。 キーワード:少年犯罪,医療化,テキストマイニング,物語論,動機の語彙 はじめに  2010 年代に入ってから,殺人に関する少年犯罪審判と少年犯罪報道で変化が起きている。犯罪 の原因を精神障害に求める審判から,そのような要因を限定的に評価する審判への移行であり,精 神障害を「殺し文句」のように用いる報道から,精神障害にかかわる用語を抑制的に用いる報道へ の移行である。  1997 年の神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)以降に登場して,「猟奇殺人」の加害少年の犯 行を説明する語彙となってきた「アスペルガー障害」「行為障害」「反社会性人格障害」などの精神 医学用語は,たとえば 2004 年の佐世保女子児童殺害事件などでは事件を説明し加害少年の処遇を 決定する中心的な用語として用いられたのに対して,2019 年まで争われた名古屋大学女子大学生 による殺人事件の公判(2019 年 10 月に無期懲役が確定)においては取り上げられても主要な役割 を認められていない。これは,他の事件に比べ年齢が上であり,責任能力も認められるとの判断に

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もとづくとされる。

 これに対して,著者らは前稿(加藤・木村 2018)で,1990 年代,2000 年代,2010 年代の少年事 件の新聞記事を比較して,事件の物語られ方における医療化(Conrad & Schneider 1997)の役割 が衰退していることを指摘した。直接少年犯罪審判記録等を分析したわけではないにしても,新聞 報道には審判の趣旨と傾向が反映されると考えられる。本稿でいうところの物語化との関係は,新 聞報道と審判で質が異なるものであることが予想されるが,前者が後者の一般的理解の枠組を提供 しているとしたら,つまり,司法の専門家ではない人々が審判の内容を,新聞記事報道を通して理 解するとしたら,新聞記事における物語化の分析に一定の重要性が認められるということになろう。  本稿では,前稿と同様の新聞記事について,よりシステマティックな分析を行って知見を整理す ることを目的としている。前稿は,特徴的な新聞記事を直接引用して,そこから医療化衰退の傾向 を指摘したのだったが,このような手法は恣意的なフォーカシングにより,物語化を論じる研究で あるにもかかわらずそれ自体一個の物語となる可能性を有している。テクスト1)である以上,物語 の磁場から自由であること,「客観的」であることの保証は難しいだろうが,それでもなお,著者 の解釈体系とは別の参照系に委ねることは,元の物語を点検するうえで必要なことだと思われる。 本稿は,前項と同様の新聞記事データを,テキストマイニングの方法によって構造化し,事件の時 系列において報道にどのような変化が生じているかを明らかにする。まず,分析の対象とする少年 事件について概略を説明する(第 1 節)。次に用いた分析方法について述べる(第 2 節)。第 3 節で は,得られたテクストの構造を,ネットワーク図によって示し,時系列的な変化を明らかにしたい。 最後に,医療化という観点から,前稿での主張と比較検討して結論を述べる。 1.対象  前稿で検討の対象として取り上げた事件は,「神戸連続児童殺傷事件」(1997 年),「佐世保小 6 女児同級生殺害事件」(2004 年),「名古屋大学女子学生殺人事件」(2014 年)2)であった(新聞報道 の記事は,事件発生・発覚から現在までの『朝日新聞』による)。本稿では,分析を補強するために, 「長崎男児誘拐殺人事件」(2003 年),「佐世保女子高生殺害事件」(2014 年)を加える。これによっ て,分析の結果に変化が生じる可能性があるが,この点については第 3 節で述べる。  医療化の趨勢について判断するためには,報道が少年審判と審判後の処遇に至るまでなされてい る必要がある。これらの事件は,世間的な注目を集めたため,事件発生報道から少年審判に至るま で,一定件数以上の報道がなされ,その要件は満たしている。  年代順に並べると以下の通りである。  (A)神戸連続児童殺傷事件(1997 年)  (B)長崎男児誘拐殺人事件(2003 年)  (C)佐世保小 6 女児同級生殺害事件(2004 年)  (D)佐世保女子高生殺害事件(2014 年)  (E)名古屋大学女子学生殺人事件(2014 年)  1990 年代の事件は 1 件であるが,2000 年代,2010 年代はそれぞれ 2 件となる。(B)(C)と(D)

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(E)の隔たりは約 10 年である。なお,「少年犯罪」という用語を普及させた(A)は,問題の起点 であるため,1997 年発生であるので,(A)(B)間ではこの間隔は保たれてはいない。時間間隔以 外に,これらの事件は,家族以外の人物を殺害した少年事件であり,事件の主要な要素として「こ れまでにはなかった」という要素を含んでいることが共通している。  表 1 には 1997 年以降起きた主な少年事件(医療化現象にかかわるもの)を示したが,このうち で取り上げなかった事件として,たとえば 2005 年に起きた「静岡タリウム母親毒殺未遂事件」が ある。取り上げなかった理由は,少年(16 歳の女子高校生)が殺害を企図したのは家族(母親)だっ たからである。また,2000 年に起きた「大分一家 6 人殺傷事件」は,常軌を逸した少年犯罪であ るにしても,動機は「被害者宅の風呂を覗いた」との疑いをかけられ,父親や隣家の住人から屈辱 を受けたことに対する恨みとされており,犯行動機として理解不能なものではないからである。記 事数からみる通り,2000 年に起きた「豊川市主婦殺人事件」と「西鉄バスジャック事件」は,取 り上げるべき要件を備えていたが,(A)の事件との間隔が近すぎるため,除外している。 表 1 1997 年以降の主な少年事件と内容3) 発生年 事件名 加害少年 犯行内容 動機 1997 神戸連続児童殺傷事件 中 3 男子生徒 女子児童 2 名をハンマーで 殴打(第一の事件),小 4 女子児童を玄翁で殴打し殺 害後,小 3 女子児童を小刀 で傷害(第二の事件),小 5 男子児童を靴ひもなどで殺 害後,糸鋸で首を切断,小 学校校門前に放置(第三の 事件) 殺人や人体損壊に対する非 常に強い関心 2000 豊川市主婦殺人事件 高 3 男子生徒 近所に住む主婦を,金槌で殴打,包丁で刺して殺害 「 殺 人 の 体 験 を し て み たかった」と供述 2000 西鉄バスジャック事件 17少年歳無職 バスジャックのうえ,牛刀 で乗客 1 名殺害,2 名を傷 害 いじめを受けていた母校の 中学校において無差別殺人 を企図も計画変更,模倣犯 2000 大分一家 6 人殺傷事件 高 1 男子生徒 隣家に侵入し,サバイバル ナイフで 3 人を殺害,3 人 を傷害 被害者宅の風呂を覗いたと の疑いをかけられたことの 恨み 2003 長崎男児誘拐殺人事件 中 1 男子生徒 市内家電量販店で男児を誘 拐のうえ,はさみで暴行後, ビルから突き落として殺害 男性器への強迫的な関心, 被害者による抵抗への対応 2004 佐世保小 6 女児同級生殺害 事件 小6女子 児童 同級生の女子児童の首など をカッターナイフで切り殺 害 インターネット上の書き込 みなどをめぐるトラブル 2004 石狩同級生の母刺殺事件 高 1 男子生徒 同級生宅でその母親をナイフで刺殺 同級生とのトラブル

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2005 寝屋川中央小学校教職員殺傷事件 17少年歳無職 卒業した小学校の教諭を包 丁で殺害,別の教諭と栄養 士に重傷を負わせる 小学校時のいじめの経験か ら別の教諭の殺害を企図 2005 静岡タリウム母親毒殺未遂事件 高 1 女子生徒 を与え殺害を企図母親にタリウムなどの毒物 過去の毒殺犯の模倣,毒の効果への好奇心 2006 札幌姉殺人事件 19歳男子 同居していた姉を果物ナイフで刺し失血死させて殺害 母が長女を怒鳴る声などを 苦痛と感じ,苦痛の元凶は 長女だと思い込む 2006 和歌山写真店主殺害事件 高 2 男子生徒 老齢の写真店主を持参した スタンガンで暴行後,被害 者宅の生活用品で殴打など を繰り返し殺害 母親との人間関係,学校で のストレスなどによる大人 への憎悪 2006 奈良自宅放火母子 3 人殺人事件 16少年歳男子 自宅に放火して継母異母弟妹を焼死により殺害 父からの身体的・精神的な虐待によるストレス 2008 岡山駅突き落とし事件 19少年歳家出 帰宅途中の 38 歳男性を線 路に突き落とし列車にひか せ殺害 刑務所に入りたいとの理由 による無差別殺人 2009 奈良県桜井市同級生殺人事 高 3 男子生徒 同級生の高校 3 年男子を包丁で刺して殺害 人間関係のトラブル 2009 富田林高 1 殺害事件 高 3 男 子生徒 高 1 男子生徒を木製バット や木づちで殴打,川へ落と して殺害 相談を受けていた女子生徒 を助けるため 2011 連続切りつけ事件(三郷市, 松戸市) 通信制 高校 2 年 男子 小 2 女子児童,中 3 女子生 徒を刃物で切りつける傷害 通行人への無差別の殺意 2014 佐世保女子高生殺害事件 高 1 女子生徒 同級生の女子生徒を殴打 し,絞殺し,首と手首を切 断 「体の中を見たかった」「人 を殺して解体してみたかっ た」と供述 2014 名古屋大学女子学生殺人事 大学 1 年女子学生 宗教の勧誘で知り合った高 齢女性を斧で殴打後,マフ ラーで絞殺,高校時代のタ リウムによる毒殺未遂など も明らかになる 「 人 が 死 ぬ と こ ろ を 見 た かった」「自分も少年のう ちにやらなければという固 定観念があった」と供述 2015 君津市祖父母殺人事件 高 2 男 子生徒 祖父母を鶴嘴,ナイフ,ハンマーで殺害 学校のストレス  (A)∼(E)の事件については,その加害少年に対して行われた診断と処遇を示す。

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表 2 各事件の加害少年に対する診断と処遇 加害少年の 年齢(当時) 診断 処遇 (A)神戸連続児童殺傷事件(1997 年) 14 行為障害及び性障害 医療少年院 (B)長崎男児誘拐殺人事件(2003 年) 12 アスペルガー症候群 児童自立支援施設 (C)佐世保小 6 女児同級生殺害事件(2004 年) 11 障害なしのちアスペルガー症候群 児童自立支援施設 (D)佐世保女子高生殺害事件(2014 年) 15 自閉症スペクトラム障 害,素行障害 医療少年院 (E)名古屋大学女子学生殺人事件(2014 年) 19 広汎性発達障害,双極性 障害 無期懲 役(一 審),控訴後棄 却,上告も棄却 2.分析方法  社会学の方法としての量的な方法と質的な方法との優劣は,長年にわたって議論されてきたが, テキストマイニングの手法の開発とその普及によってインタビュー調査を始めとする言説データの 処理は劇的に変貌したといってよいだろう。テキストマイニングは量的な方法であるので,インタ ビューデータを量的に処理することができるようになった(松村・三浦 2014)。前述したように, 言説データの分析については,恣意的な切り取りではないことを客観的に保証できない。  これに対して,文字列を対象とするデータ分析の方法として開発されたテキストマイニングは, 言説データを単語や文節を単位として分節化し,出現頻度と共起を量的に把握できる。日本語の特 徴からくる形態素解析の困難さが,自然言語処理の発展によって解消された(末吉 2019)。  前節で取り上げた(A)∼(E)の少年事件を報道した『朝日新聞』の新聞記事を,テキストマ イニングツールである KH Coder を用いて分析した。フリーソフトウェアとして提供されている KH Coderは,社会調査の分析ツールとして発展した経緯があり(樋口 2014),本稿の分析には好 適である。本稿は,単語頻度解析と共起ネットワークの手法を用いてデータを分析している。  単語頻度解析は,テキストデータの中で最も多く使用されていた単語を抽出するものであり,こ こでは関連性が明確になる水準として 100 と設定し,抽出品詞を名詞・動詞・形容詞とした。  共起ネットワークは,単語同士の関連性の強さをネットワーク図で示したものである。イメージ・ 動詞・話題一般を選択することができるが,ここでは話題一般(名詞−形容詞・形容動詞・動詞) を解析した。言葉の出現回数 10 回以上,最低信頼度 60 を共起ルールとして設定した。共起ネット ワークには,ノード(丸),クラスタ,エッジの三種が描写される。エッジはノードとノードを結 ぶ実線または破線であり,共起関係があることを示し,実線/破線の違いは共起関係の頻度を示す。 クラスタは,エッジで結びつき合ったノードの塊であり,話題のまとまりを示している。

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3.分析結果 (A)神戸連続児童殺傷事件(1997 年)のテキストマイニング(2000 年 5 月 5 日の記事まで)  共起ネットワークを図 1 に示す。  独立したクラスタとして,2/3 以上のノードがかかわった大きなクラスタを含め,4 つ抽出された。 事件の内容にかかわって「事件」のノードを中心としたクラスタが構成されるが,その下に少年審 判にかかわって「生徒」「男子」「家裁」などからなるサブクラスタが,破線のエッジによって結ば れている。  注目すべきは,右上にある「子ども」「学校」「教育」などからなるクラスタである。この言説の まとまりは,事件クラスタから独立していることから,事件への事後的な対応として構成されていっ たことが推測できる。ここには「心」というノードが含まれるが,「精神」「鑑定」「医療」を含む サブクラスタからは離れている。少年事件としては,まったく新しい様相を提供した事件であるの で,その初発の構造を(B)(C)と比較することで,その意味は明らかになると思われる。 (B)長崎男児誘拐殺人事件(2003 年)のテキストマイニング(2016 年 10 月 26 日の記事まで)  共起ネットワークを図 2 に示す。  図 1 と同様,2/3 以上のノードがかかわった大きなクラスタが存在している。他に独立した小さ なクラスタは 3 つ存在している。  事件の特徴を示す中央下のサブクラスタは,「家裁」「送致」「精神」「鑑定」などのノードを含む 審判のクラスタと隣接している。ところが,(A)と異なって,事件のサブクラスタは,「児童」「支 援」を含むクラスタとの関係をもつようになっている。事件における加害少年が,支援の対象とし てみなされるようになる変化がここに読み取れる。 (C)佐世保小6女児同級生殺害事件(2004 年)のテキストマイニング(2018 年 12 月 2 日の記事まで)  共起ネットワークを図 3 に示す。  わずか1年後に起きた事件であるが,言説の構造は大きな変化を遂げている。まず,ほとんど全 体を占めるクラスタと,小さい二つの独立したクラスタからなっており,言説データがかなり一貫 した意味付けのもとに構成されていることがうかがえる。「事件」のサブクラスタは比較的小さく なっているだけでなく,(A)においては別のクラスタ,(B)においては事件サブクラスタを介し てつながっていただけの「鑑定」「審判」のノードは,「支援」「施設」のサブクラスタとして混じっ た形で表される。確かにこの事件は,少年審判のプロセスにおいて,最も医療化の特徴が現れた事 件であった(加藤・木村 2018 参照)。加害少年(女子児童)の年齢が最も低かったこともその特 徴に反映しているといえるが,いずれにしてもこのような布置が医療化された言説の布置であると いうことができるだろう。 (D)佐世保女子高生殺害事件(2014 年)のテキストマイニング(2018 年 7 月 26 日の記事まで)  共起ネットワークを図 4 に示す。  4 つの独立したクラスタが確認できる。事件にかかわるサブクラスタ(左)は,非常に凝集度が 高く,事件の解釈が極めて一義的であったことがうかがえる。逆に,非常に間延びしたクラスタと

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図 1 神戸連続児童殺傷事件(1997 年)の『朝日新聞』報道の共起ネットワーク

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図 3 佐世保小 6 女児同級生殺害事件の『朝日新聞』報道の共起ネットワーク4)

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して「相談」のサブクラスタ,「精神」「鑑定」のノード,「家裁」のサブクラスタ,「医療」のノー ドがつながっている。ここでは,「心」や「支援」というノードは出現せず,事件の凝集性に対す る対応の迷いのようなものが(C)と対照的である。 (E)名古屋大学女子学生殺人事件(2015 年)のテキストマイニング(2018 年 3 月 24 日の記事まで)  共起ネットワークを図 5 に示す。  (C)とは学校段階も離れていることもあるが,ほとんどすべてのノード,クラスタは事件の内 容に関するものである。事件が時系列において複雑なことも関連していると思われるが,審判に関 するサブクラスタは「事件」「殺人」などと同じサブクラスタにあり,「精神」のノードは「控訴」 のクラスタにあることから,加害少年に対する医療的な配慮は,新聞記事においてまったくみられ ないといっても過言ではない。  この点は,単語頻度解析によっても裏付けられる。医療化現象を示す単語として,「障害」「心」「連 携」「医療」を取り上げ,頻度をみた(図 6)。(A)は各単語とも頻度が高くなっている。(B)は 必ずしも医療化の特徴を示しているとはいえないが,共起ネットワークでは最も医療化的な構造を 示した(C)は,「心」の頻度が高い(A)とやや似た構造をもっている。共起ネットワークでは構 造がみえなかったが,「医療」が高いことから,(A)は医療化現象のうち,医療の対象としての少 年犯罪という側面を有し,(C)は支援の対象としての少年犯罪という側面が現れているといえる だろう。(D)においても,「連携」「医療」が高いが,加害少年は事前に医療機関での相談を受け ていたことから,これらが高くなっていることを考慮に入れると,(C)から(D)に至る間に,新 図 5 名古屋大学女子学生殺人事件の『朝日新聞』報道の共起ネットワーク

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聞報道において医療化の逓減傾向が生じたとみることができる。(E)においては,すべてが極端 に低く,年齢の高さを加味しても,医療化の言説はほぼみられないということになるであろう。  冒頭で述べたが,本稿では前稿では扱わなかった(B)(D)を新たに加えた。漸進的な低減傾向 がより明らかになると期待されたが,この二つの事件を除いた方がよりはっきりした傾向がみられ ることとなった。とはいえ,(C)と(E)を直接比較することは,加害少年の年齢からみても極端 になりすぎることから,医療化の衰退傾向はより強調されてしまうおそれがあった。単語頻度解析 における(B)のデータは,今後より詳細な検討が必要と思われるが,1997 年以降の医療化にかか わる言説は,2004 年の事件をピークにして,衰勢に転じていることが量的に確かめられた5) 4.医療化と少年犯罪はいかに物語られるのか  1997 年の神戸連続児童殺傷事件を契機に,少年事件の動機,原因,解決策などが,「心」,人格, 障害などの加害少年の内面に向けて求められるようになった。新聞記事は,「行為障害」「広汎性発 達障害」「アスペルガー障害」といった専門家の語彙を,一般読者に向けて用い,神戸連続児童殺 傷事件以降起きた「猟奇的」少年犯罪において加害少年の動機を説明してきた。専門的な語彙は, 一般人にとってはそれ自体謎めいているので,少年事件の謎を解き明かすものとして人々の不安を 解消するには恰好のものであった。  しかし,上述の通り,定着したかに思われた医療的な語彙は衰勢をたどった。前稿では,物語論 の観点を導入して,医療化的語彙が引き入れる物語上の機能不全にその原因を求めた。すなわち,「理 解不能な悪(猟奇殺人)」が「不可解な呪い(精神障害)」によるものとして,理解できないまま放 図 6 (A)∼(E)の『朝日新聞』報道の単語頻度解析

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置されることによる物語の流れの断絶である。専門家の研究においては,そうしたことは妨げにな るわけではないが,非専門家の読むテクスト(新聞記事)がそのように編制されるならば,「非物語」 をもたらす不安定なテクストとなってしまう。このような統辞的な機能不全と並んで,範列的な水 準での問題も確認された。それは,精神障害名が犯罪者のレッテルと化して,同じ障害をもつ人た ちを,「猟奇犯罪者」と同列においてしまう危険性である。2000 年以降,発達障害者支援法,障害 者差別解消法などが制定され,医療化が説明語彙としてきた障害が国家の福祉的支援のもとにおか れると,このような障害名は猟奇犯罪を引き起こす呪いとして物語で扱うことができなくなってし まったのである。  今回の分析では,語彙の量的な集計よりも,新聞記事テキストの意味論的な構造を抽出すること に重点をおいた。事件クラスタへの医療化的な語彙の嵌入と放逐は,明確に認められるとまでは評 価できないにしても,医療化的語彙が 2010 年代の少年犯罪報道で中心的地位を占めるようになっ てはいないことは明らかであろう。  前述した通り,医療化的語彙,すなわち精神障害の障害名は,「動機の語彙」として 1997 年以降 定着した。「動機の語彙(vocabularies of motive)」は,アメリカの社会学者ミルズの短い論考に端 を発する(Mills 1963)。ミルズは,ウェーバーの行為理論を引き継ぐ形で,行為の了解可能性につ いて述べたのであった。行為理論と物語論との関係はまだ十分に検討されていないが,当該行為の 了解可能性というのは,いわば行為連鎖(物語の流れ)の垂直断面に現れるものと考えられる。  動機の語彙としての精神障害は,物語に流れに異物を導入し,流れを堰き止めるがゆえに,物語 の機能障害を引き起こす。動機の語彙という観点は,さしあたり流れの観点を含んでいないために, このような堰き止めは問題にならない。新たに加わった X が,学問的威信を有した Y 学で承認さ れた概念であるとした場合,行為の動機として追加されるということになろう。しかしながら,そ れは了解可能性をもっても物語可能性をもつためには,新たなプロット類型が求められなければい けないものであるならば,それは物語可能性をもたないことになるのではないか。ウェーバー=ミ ルズにおける了解可能性は,動機の範列(パラディグム)を構成しているが,マスメディアの言説 は,動機の統辞構造(シンタグム)を要求しているといえる。 注 1)本稿では,たとえばロラン・バルトなどの翻訳語に従い,言説が織りなされ読者と一定の関係性を結ぶ動的な存 在を指示したい場合に「テクスト」という語を用いる。「テキスト」という語は,そのようなニュアンスをもたな い対象を指すことになるが,本稿では「テキストマイニング」とそれにかかわる文脈でのみこの語は用いている。 2)事件は 2014 年 12 月に起きているが,事件発覚と報道も 2015 年である。 3)前稿では,「それぞれの事件の概要を述べることは,特定の視点を前提とした要約と意味付けであり,論文の趣 旨に抵触する可能性があるため」(加藤・木村 2018: 18)記さなかったが,本稿ではテキストマイニングの処理を行っ たため,そのような「汚染」の可能性は低いと考え,掲載することとした(事件の通称名で一部変更したものがあ る)。なお,これらの事件の加害少年に対する診断と処遇については上記論文参照。 4)図 3 と図 5 において,ノードに実名等が表記されている場合はマスキングをした。 5)同時に示唆されることは,医療化といわれる現象が,障害→収容という方向に向くのか,障害→治療という方向 に向かうのかを区別する必要があることである。極めて短期間の変化であるが,(A)においては,フーコー(Foucault 1976)の述べる「生権力」の第一の極,規律にもとづく様式の要素をもつのに対して,(C)は調整のための生権 力の様式を有している。医療化にフーコーのいう二つの生権力のタイプがフェーズとしてみられることが何を意味

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するかは,さらなる検討を要するだろう。

文 献

Foucault, Michel(1976)La volonté de savoir. Histoire de la sexualité, Gallimard. (= 1986,渡辺守章訳,性の歴史Ⅰ  知への意志,新潮社).

樋口耕一(2014)社会調査のための計量テキスト分析―内容分析の継承と発展を目指して,ナカニシヤ出版. 加藤隆雄・木村祐子(2018)医療化の衰退と物語作用―少年事件をめぐる言説の分析―, アカデミア 人文・自然科学篇,

第 16 号,5―18.

松村昌宏・三浦麻子(2014)人文・社会科学のためのテキストマイニング,誠信書房.

Mills, C. W.(1963) Situated Actions and Vocabularies of Motive , I. L. Horowitz ed., Power, Politics, and People: The

Collected Essays of C. Wright Mills, Oxford University Press, 439―68. (= 1971,田中義久訳,状況化された行為と動機 の語彙,青井和夫・本間康平監訳,権力・政治・民衆,みすず書房,344―55).

表 2 各事件の加害少年に対する診断と処遇 加害少年の 年齢(当時) 診断 処遇 (A)神戸連続児童殺傷事件(1997 年) 14 行為障害及び性障害 医療少年院 (B)長崎男児誘拐殺人事件(2003 年) 12 アスペルガー症候群 児童自立支援 施設 (C)佐世保小 6 女児同級生殺害事件(2004 年) 11 障害なし のちアスペルガー症候群 児童自立支援施設 (D)佐世保女子高生殺害事件(2014 年) 15 自閉症スペクトラム障 害,素行障害 医療少年院 (E)名古屋大学女子学生殺人事件(2014
図 1 神戸連続児童殺傷事件(1997 年)の『朝日新聞』報道の共起ネットワーク
図 3 佐世保小 6 女児同級生殺害事件の『朝日新聞』報道の共起ネットワーク 4)

参照

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