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療養病棟に勤務する看護師の上方移動援助時における
環境整備・姿勢の安定性・動作の効率性の実態
- TAMA ツールを用いて-
A survey of nurses’ preparation of environment, postural stability and
movement efficiency in repositioning patients up in bed at long term care units.
using the TAMA tool
-田丸朋子
1)*・本多容子
2)・阿曽洋子
1) 要 旨 は、ボディメカニクスを活用したり、援助環境 を整えたり、補助具を活用したりする大切さを 教えている(阿曽 , 井上 , 氏家(2011))。しかし、 それらを看護師一人一人が置かれた環境に応じ て、どのように実践できているのかについては 明らかとなっていない。そのため、教育内容と しては今後どのような項目に重点を置くべきか が不明瞭である。 そこで本研究では、療養病棟で行われてい る上方移動援助における環境の整備状況、看 護師の姿勢の安定性や動作の効率性の実態を、 TAMA(Transferring Art Movement Assessment) ツールの評価項目を用いて明らかにすることと した。TAMA ツールとは、看護師の行う上方 移動援助を傍で観察することで、その援助環 境、姿勢の安定性、動作の効率性についての告-武庫川女子大学看護学ジャーナル Vol.04(2019) 5.分析方法 項目ごとに単純集計を行い、選択肢ごとに項 目の合計に対する比率を算出した。集計には Microsoft Excel(Microsoft)を使用した。 6.倫理的配慮 倫理的配慮として、調査対象である看護師に は事前に①研究参加の任意性、②データのID 化、 ③研究辞退の自由についての内容が記載された 文書を手渡し、研究者へ同意書の提出があった 者のみ研究に参加するという形式とした。また、 個人結果は本人に開示するが、全体的なデータ では個人の特定はされない旨も伝えた。なお、 本研究は武庫川女子大学研究倫理委員会( No.16-90)および研究協力病院すべての倫理委員会の承 認を得て行った。 Ⅲ.結果 同意が得られた女性看護師は32 名であり、合 計292 回の上方移動援助における結果を分析に 用いた。 1.看護師の基礎データおよび属性 看護師の平均身長は159.2 ± 4.4cm、平均体重 は51.8 ± 5.9kg であった。また、平均年齢は 28.8 ±7.5 歳であり、勤務経験年数は平均 7.2 ± 6.9 年、 所属病棟での平均勤務年数は2.2±1.4 年であった。 2.TAMA ツール項目における選択肢の項目合 計に対する比率 1)環境の整備に関する 7 項目 環境の整備に関する7 項目の選択肢の比率は 図2 のとおりであった。「作業スペースの確保」 の項目の「確保されている」は42.5%であった。 「ベッドの高さ」は「看護師の身長の半分程度の 高さ」が42.5% であった。また、「ベッド上の 患者の位置」は「中央線よりも看護師に近い」 比率は39.4% であった。「患者の体格」は「身長・ 体重ともに看護師よりも小さい」が49.3%と約 半数であった。「患者は援助に協力できるか」に ついては「できる」が14.8% と最も低かった。 一方で、「援助の人数」が「複数」である比率は 81.2% と最も高かった。しかし、「補助具の使用」 が「あり」である比率は30.5% にとどまった。 援助の観察を通して、気づいた点は以下のとお りである。① ベッドの高さについては、ほと んどのケースで高さ可変の電動ベッドであった が、高さ調節をまったく行わない者と、高さ調 節を行ったが高さが不十分な者がいた。② 患 者の位置については、患者がベッドの片側に寄っ ているにもかかわらずベッドの両脇に立ち、ベッ ドの真ん中より遠くにいる患者を移動させる光 景が多く見られた。③ 補助具の使用は少なかっ たが、使用されていた補助具はバスタオルもし くはシーツであった。 療養病棟に勤務する看護師の上方移動援助時における環境整備・姿勢の安定性・動作の効率性の実態-TAMA ツールを用いて- 要素を客観的に評価できるものである。TAMA ツールのチェック項目は、例えば環境の整備に 関する7 項目では、作業スペースの確保やベッ ドの高さなど、援助環境の良さを計る様々な項 目で構成されている。このことから、これらの 項目の比率を見ることで、どの要素がどの程度 達成されているかという実態を明らかにできる と考えた。また、本研究において療養病棟で行 われた上方移動援助を対象としたのは、療養病 棟には自力で体位を変えることが困難な患者が 多く療養しているためである。患者は体動する たびに身体がベッドの下方へ移動してしまうこ とから、それを元に戻すために看護師は一日に 何度も上方移動援助を行っている。上方移動援 助のようなベッド上の移動は、移乗援助などと 同様に看護師が腰部への負担を感じやすい援 助である(高橋ら2016、中山 , 2006).また、 今回の調査で使用したTAMA ツールは、上方 移動に関しての妥当性・信頼性が確立している (田丸ら , 2012)ものであることから、上方移 動援助を調査項目とした。なお、移動・移乗の 援助に関する実態調査としては、水戸 , 西田 , 若村 , 國澤 , 平田 , 小林 , 冨田川(2018) の車椅子移乗介助に関する実態調査や、原田ら (2015)による、看護師の腰痛と看護作業との 関係に関する実態調査などが見られたが、本研 究のような、看護師の援助環境や姿勢の安定 性、動作の効率性に着目したものはなかった。 このことからも、本研究によって実態を明らか にすることには意義があるといえる。 Ⅱ.方法 1.研究対象 研究対象者は、2 つの病院の療養病棟に勤務 する女性看護師32 名とした。これらの病棟では 男性看護師も勤務していたが、男性と女性では 体格が大きく異なることから、本研究では女性 看護師に限定した。また、看護師以外に准看護 師や介護福祉士、ヘルパーなどが勤務していた が、本研究では教育背景を統一するため、看護 師のみを研究対象とした。 2.研究方法 本研究では、研究者が看護師らの体位変換 やおむつ交換などのケアに同行し、看護師の 行った上方移動援助を調査した。調査を行っ た全ての病棟において、日勤帯の決まった時 間に看護師が集まり、チームでケアの必要な 患者に対し、順に体位変換やおむつ交換、移 動援助を実施していた。2 名の研究者が調査に 参 加 し、1 名の看護師に対して 1 名の研究者 が上方移動援助を観察し、評価した。なお、2 人で行う移動援助の際は、1 人で行う援助同様、 1 名の看護師に対し 1 名の研究者が援助を評 価した。これは、2 人で行った場合、「協力者 がいるという改善した環境」で援助が行えて いると考えることができ、姿勢や動作の改善 があれば腰部負担が軽減するとの考え方によ る。人によっては2 人で援助を行っているに もかかわらず、不良姿勢によって腰部負担が 大きいままの場合もある。このことから、2 人 での援助においても1 人ずつ別々に評価した。 また、1 名の看護師が複数回行った場合、それ ぞれの援助を別個のサンプルとして扱うこと とした。これは、同じ看護師が行った援助で あっても、患者が異なっていたり、ペアの看 護師が異なっていたりと、毎回援助環境の状 況が異なっているからである。 3.情報収集項目および測定用具 情報収集目は、看護師の身長、体重、年齢、 勤務経験年数、所属病棟での勤務年数、上方移 動援助を行う時の援助環境の状況である。 身長、体重、年齢、勤務経験年数、所属病棟 での勤務年数は、事前に自記式質問紙にて回 答してもらった。上方移動援助を行う時の援 助環境の状況および腰部負担の程度の評価には TAMA ツール(田丸ら , 2012)を用いた。 4.TAMA ツールでの評価方法 TAMA ツール(図 1)は<環境の整備>、< 姿勢の安定性>、<動作の効率性>の3 つの要 素から構成されている。<環境の整備>は7 項 目、<姿勢の安定性>は6 項目、<動作の効率 性>は5 項目の質問から成り立っており、それ ぞれの要素を評価できるようになっている。例 えば<環境の整備>には「ベッドの高さ」とい う項目があり、選択肢は「看護師の身長の半分 程度の高さ/それ以外」である。選択肢は全て 2 択であり、援助を目視した結果をそのまま記 入できる。 図1 移動援助動作アセスメント ( TAMA ) ツール (田丸ら(2018)より引用)図 1 移動援助動作アセスメント (TAMA) ツール (田丸ら (2018) より引用)
Ⅳ.考察 1.看護師の基礎データおよび属性 調査対象とした看護師32 名の平均年齢は約 29 歳であった。就業看護師の年齢階級の中央値 は35 ~ 39 歳である(厚生労働省 , 2014)。こ のことから、今回の対象者は比較的若い看護師 の集団であったと言える。 平均年齢の29 歳前後の身長・体重の全国平均 は、身長は158cm 前後、体重 53kg である(厚 生労働省 , 2016)。したがって、今回の研究の 調査対象者は一般的な体型を有する者の集団で あったと考えられる。 2.環境の整備における実態 援助環境が整っていない状態で移動援助を行 うと、十分にボディメカニクスが活用できなかっ たり、キネステティックなどの技術の利用が効 果的でなかったりといったことが起こってくる と考えられる。そのため、姿勢の安定性や動作 の効率性に影響を及ぼす可能性がある。 一方で、患者が臥床している病室の環境は、 看護師の努力ではどうにもできない部分もある。 例えば、「作業スペースの確保」という項目は、「確 保されている(援助を妨げる物がなにもない)」 が42.5% であった。厚生労働省令の医療法施行 規則第三章第十六条三、ロには、患者一人を入 院させるものにあっては6.3 平方メートル以上、 患者二人以上を入院させるものにあっては患者 一人につき4.3 平方メートル以上とすることと されている。この広さの中にベッド、床頭台や オーバーテーブル、患者の私物などが所狭しと 置かれているのが実情である。そのため、スペー スの確保は努力しても難しい場合もあることか ら、結果が半数に分かれたと考えられる。 「ベッドの高さ」に関しては、高さが変更可能 であったにもかかわらず、半分以上が身長の半 分程度以下の高さでの援助を行っていた。ベッ ドの高さは身長の半分程度に近づけば近づく ほど腰部負担が少なくなる(Tamaru, Aso, Ibe, Honda, Araoka, 2011) こと、低すぎるベッドで行 う移動援助は、看護師の作業効率が悪く、患者 の心拍数や頚部筋負担に影響を及ぼすことがわ かっている(田丸ら , 2010a、田丸ら , 2010b)。 これらのことから、移動援助時にベッドを適切 な高さへ調節することは重要であるといえる。 このことは長らくいわれていることであるにも かかわらず、原田ら(2015)の調査でも、腰痛 なしの群の8.3%、腰痛ありの群でも 10.0% しか、 ベッドの高さ調節をいつもしていると回答しな かった。つまり、ベッドの高さ調節は周知の事 実とは言いがたく、依然として看護師に伝えて いかねばならない重要事項であるといえる。 「ベッド上の患者の位置」が「中央線よりも看 護師に近い」比率が低かったことについては、 ベッドの中央以遠は多くの看護師にとって最大 作業域外の範囲に当たる(小原 , 1971)。その ため、作業効率は非常に悪く、また看護師の重 心と患者の重心の距離が長くなり、不安定な姿 勢へとつながってしまう。今回、ベッドの片側 に寄っている患者の移動援助を、2 人の看護師 がそれぞれベッドの両サイドに立って援助して いる光景が多く見られたが、複数で援助する場 合も看護師同士同じ側に立ち、移動援助を行う 工夫がなされれば、通常作業域内での援助がで きたと考えられる。 「患者は援助に協力できるか」については、「で きる」が非常に少なかった。これは、今回調査 を行ったのが療養病棟であったことから、援助 に協力できる患者が非常に少なかったためと考 えられる。援助に協力できる患者の援助ばかり を選択することはできないことから、これも看 護師の努力ではどうにもできない援助環境のひ とつであるといえる。 「援助の人数」が「複数」である比率は81.2% であった。今回調査した病棟は全て10 対 1 の看 護配置であったが、移動援助などをなるべく複 数でおこなえるよう、おむつ交換や体位変換を チームで一斉に行うという取り組みがなされて いた。チームで回ることにより、もう一人の手 助けが必要な際に声をかけやすいというメリッ トがあると考えられる。 「 補 助 具 の 使 用 」 に つ い て は、「 あ り 」 が 30.5% と高くなく、スライディングシートやリ フトの使用は見られなかった。中村 , 櫻井 , 山 住 , 池田 , 髙橋 , 中原(2017)らは、スライディ ングシートの使用は、キネステティックなどの 使用よりも前傾角度が小さかったと報告してお り、水平移動ではあるが、白石と鈴木(2016) はスライディングシートを使用したほうが上腕 二頭筋などの筋活動量が低下すると述べている。 また、身体の下のバスタオルやシーツを把持し て移動させる方法については、前傾姿勢が改善 されることがわかっており(田丸 , 本多 , 阿曽 , 2)姿勢の安定性に関する 6 項目 姿勢の安定性に関する6 項目の選択肢の比率 は図3 のとおりであった。 「看護師の足の開き方」が「肩幅以上の開き」 である比率は66.4% であった。「看護師の重心 との位置」が「基底面の中心付近かつ患者の重 心と近い」の比率は46.2% であり、「看護師の 前傾角度の大きさ」は「前傾角度が45°以下」 である比率は56.8%であった。「看護師の声か けと患者の動きの合致」が「合致する」比率は 85.3% と高値であった。 3)動作の効率性に関する 5 項目 動作の効率性に関する5 項目の選択肢の比率 は図4 のとおりであった。「看護師の胴のひねり や側屈」が「なし」である比率は83.9% であった。 しかし、「患者を持ち上げる様子」が「なし」で ある比率は28.4% であり、「患者の力の利用の 有無」は「あり」が3.8% であった。 図2 環境の整備に関する項目の比率 なし 69.5 % 単数18.8 % それ以外 50.7 % できない 85.2 % それ以外 60.6 % それ以外 57.5 % 確保されていない 57.5 % 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 補助具の利用 援助の人数 患者の体格 患者は援助に 協力できるか ベッド上の 患者の位置 ベッドの高さ 作業スペースの 確保 確保されている 42.5% 看護師の身長の 半分程度の高さ 42.5 % 中央線よりも 看護師に近い 39.4 % できる14.8 % 身長・体重ともに 看護師よりも小さい 49.3 % 複数81.2 % あり30.5 % 図 2 環境の整備に関する項目の比率 図3 姿勢の安定性に関する項目の比率 あり 6.2 % 合致しない /声掛けしない14.7 % 前傾角度が45°以上 43.2 % それ以外 53.8 % 患者の移動する方向に 向いていない 54.8 % それ以外 33.6 % 0% 20% 40% 60% 80% 100% 肩幅以上の開き 66.4 % 患者の移動する方向に 向いている 45.2 % 基底面の中心付近 かつ患者の重心と近い46.2 % 前傾角度が45°以下 56.8 % 合致する 85.3 % なし 93.8 % 看護師の 足の開き方 看護師の 足の向き 看護師の 重心との位置 看護師の前傾 角度の大きさ 看護師の声掛けと 患者の動きの合致 看護師がバランスを 崩すことの有無 図 3 姿勢の安定性に関する項目の比率 図4 動作の効率性に関する項目の比率 なし 89.7 % あり… なし28.4 % なし 83.9 % 全身同時に52.4 % あり10.3 % なし 96.2 % あり71.6 % あり16.1 % 主に上肢のみ47.6 % 0% 20% 40% 60% 80% 100% 援助の中断や 再移動の有無 患者の力の 利用の有無 患者をベッドから 持ち上げる様子 看護師の胴の ひねりや側屈 看護師の 身体の使い方 図 4 動作の効率性に関する項目の比率
武庫川女子大学看護学ジャーナル Vol.04(2019) 「患者の力の利用の有無」については、「あり」 が無いに等しかった。これは、そもそも援助に 協力できる患者が少なかったためであると考え られ、さらに看護師にとっては、患者に援助時 に協力してもらうよりも、全てを介助して患者 を移動させる方が、看護師自身のペースが保た れて援助がしやすいためと考えられる。患者に 援助時に協力してもらうのは、暴れないでじっ としてもらう、マットレスを蹴ってもらう、腕 を組んでもらう、など様々であるが、患者の残 存機能を生かすことにもつながるため、可能で あれば取り組みたい点である。 以上より、動作の効率性については、腰痛発 生につながるひねりや側屈は少ないという実態 が明らかになった一方で、効率が悪く、腰部に 大きな力がかかる患者の持ち上げが頻発してい た。患者を持ち上げずに移動させる必要性につ いて、改めて伝えていく必要がある。 今回、研究対象者は一般的な体格を有する年 代の若い看護師の集団であった。この結果は臨 床の看護師像の大半に当てはまるといえる。し かし一方で、ベッドの高さが十分にあがらない 状況での援助が強いられるような背の高い看護 師や、同じ前傾角度でも腰部への負担が増大す る体重の大きい看護師に対しては、より強い注 意喚起が必要であるといえる。また、腰痛をま だ起こしていない者は、仕事に支障がある腰痛 を起こしたことがあるものに比べ、腰部負担の 大きな上方移動援助を行っているとの先行研究 がある(田丸 , 本多 , 阿曽 , 2018)。このこと からも、年代の若い看護師への腰痛予防教育は より重要であると考えられる。 Ⅴ.結論 本研究では、療養病棟で行われている上方移 動援助における環境の整備状況、看護師の姿勢 の安定性や動作の効率性の実態を明らかにする ことを目的に調査した結果、以下の結論を得た。 援助環境の整備においては、スペースの確保 など、病院のハード面による影響を受けている ケースもあった一方で、ベッドの高さ調節のよ うに看護師が環境を改善する行動が見られてい ないケースが多く存在していた。姿勢の安定性 については、基底面を広く取る、深く前傾しな いなどの、安定性を高める行動を取れていた。 しかし、患者との距離が遠いという課題があっ た。動作の効率性については、ひねりや側屈と いう、腰痛につながる不良姿勢は少ないという 実態が明らかになった。しかし、効率が悪く、 腰部に大きな力がかかる患者の持ち上げは多 かった。これらのことから、援助環境については、 援助を開始する前にできる限りの環境改善を実 施することが大切であること、患者との距離を 近づけるという前準備をしてから移動援助を行 うこと、患者を持ち上げないこと、を重点的に 伝え、教育内容に盛り込む必要がある。本研究 の結果は一般的な体格を有する年代の若い看護 師の結果であるが、身長の高い者や体重の大き い者への教育も大切である。また、年代の若い 看護師への教育が、腰痛による離職を防止し、 末永く勤務できる看護師を育てる一助となる。 謝辞 本研究の実施に当たり、快くご協力ください ました協和会病院看護部長丸山公子様(当時)、 および藍野病院看護部長木太千代美様に感謝申 し上げます。また、調査対象病棟の師長様、調 査対象となってくださいました看護師の皆様、 その他スタッフの皆様にも深く感謝いたします。 研究助成 本研究は科学研究費補助金(基盤C:225923 72 および若手 B:26861878)の助成による。 利益相反 本研究において特筆すべき利益相反は存在し ない。 文献 阿曽洋子 , 井上智子 , 氏家幸子 . (2011). 基礎看 護技術( 第 7 版 ). 医学書院 原田清美 , 西田直子 , 北原照代 . (2015). 看護師 の腰痛の有無別に見た看護作業の実態調査. 日本看護技術学会誌 , 14(2), 164-173 林知江美. (2013). 看護労働における作業関連性 筋骨格系障害の発症要因について. 三菱京都 病院医学総合雑誌 , 20, 26-30. 平田雅子. (1990). 腰痛を引き起こす姿勢 , 動 作 , ボディメカニクスの観点から . 看護技術 , 36(15), 1615-1619. 厚生労働省. (2013). 職場における腰痛予防対策 指針の改訂及びその普及に関する検討会報告 療養病棟に勤務する看護師の上方移動援助時における環境整備・姿勢の安定性・動作の効率性の実態-TAMA ツールを用いて- 伊部 , 2012)、腰部負担の軽減につながるとい える。しかしながら、患者の身体の下に敷きっ ぱなしにするのは、その皺や蒸れなどから褥瘡 の原因となってしまうため、移動を行う際に挿 入するのが望ましいと考えられる。 これらのことから、環境の整備については、 例えばベッドの高さのように看護師の努力で改 善できる点においても改善されていないケース が多く存在していたことから、環境を少しでも 良くしてから移動援助を行う必要性についての 認識を、さらに広めていく必要がある。 2.姿勢の安定性における実態 姿勢が安定していることは、力を効果的に発 揮できることにつながる。しかし、援助を行う 立位はそもそも物理的に不安定な体位である。 そのため、姿勢の安定性を高めるための工夫が 必要である。 「看護師の足の開き方」では、「肩幅以上の開き」 である比率が66.4% であった。立位での安定性 を高めるために、両足で作られる基底面を広く 取ることが重要である。また、看護師の重心が 基底面内で患者の移動方向に合わせて移動する ことが必要である。今回、看護師の多くが足を 肩幅以上に開いていたのは、基底面を広く取っ ておりよかった点である。 次に、「看護師の重心との位置」では「基底面 の中心付近かつ患者の重心と近い」は46.2%で あり、「看護師の前傾角度の大きさ」は「前傾角 度が45°以下」であったのは半分以上の 56.8% であった。基底面の中心から看護師の重心が遠 くなると、その姿勢は不安定となる。今回、遠 い位置にある患者を移動させる場合が多かった と前述したが、そのことによって重心が遠くなっ たと考えられる。しかし、前傾角度は半分以上 が45°以下であった。前傾角度は大きくなるほ ど腰部への負担が大きくなる(平田 , 1990)。こ のことは基礎看護技術の教科書にも明記されて おり、多くの看護師が受けてきた教育において 教授されていることと考えられる。また、移動援 助時に30.5%が補助具としてバスタオルやシー ツを使用していたことは前述のとおりである。こ れらの使用は、前傾角度を小さくできる。その ため、前傾角度が小さくなったと考えられる。 「看護師の声掛けと患者の動きの合致」では、 「合致する」例がほとんどであった。これは、調 査先が療養病棟であったことから、移動援助を 受ける患者像が「全介助」である患者がほとん どであったためと考えられる。全介助であるた め、患者は看護師に身をゆだねた状態で援助を 受けていたことから、看護師の動きと合致した と考えられる。しかし、療養病棟でも、急に身 体を動かされることによって抵抗する動作をす る患者の存在も考えられる。そのため、患者に 対する十分な声掛け、コミュニケーションが重 要であると考えられる。 今回の結果から、看護師は足を開く、前傾姿 勢を減らす、患者と動きを合致させるなど、安 定性を高める行動を取れている一方で、患者と の距離が遠いという課題があった。前傾姿勢に ついては多くの研究者が着目しており、研究も 多い。患者との距離を近づけていく重要性につ いても伝えていく必要がある。 3.動作の効率性における実態 腰部への負担が大きい移動援助に際し、時間 の短縮や力の無駄のない発揮など、効率的に援 助を行うことは腰部負担の減少に重要である。 まず「看護師の胴のひねりや側屈」について は「なし」が8 割を超えていた。重量のあるも のを取り扱うときには、大腿筋などの大筋群力 を発揮させることが重要である。ひねりや側屈 は脊柱起立筋や外腹斜筋などの大きくない筋肉 を利用しているため、動作の効率性が低い。職 場における腰痛対策指針(厚生労働省 , 2013) でも、ひねりや後屈ねん転等の不自然な姿勢を とらないようにすること、と明記されているこ とから、避けるべき姿勢であることがわかる。 実に8 割のケースでひねりなどが見られなかっ たのは、多くの看護師が意識できているためと 考えられる。しかし、「患者をベッド等から持ち 上げる様子」については、「なし」が28.4% となり、 多くが持ち上げている結果となった。患者を持 ち上げることは重力に反した動きであることか ら、患者を上方へ移動させる力に加え、持ち上 げる力を発揮する必要がある。そのため、多く のエネルギーが消費され、効率が落ちる。腰部 にもより大きな力がかかってしまう。患者の身 体を持ち上げずにずらすようにするのが効果的 である。皮膚への刺激を少なくするために持ち 上げるといったケースも考えられるが、今回の 結果はそのような患者ばかりではなかったため、 看護師の身体の使い方として、患者を持ち上げ て移動してしまっていると考えられる。
受付日:2018 年 9 月 4 日 受理日:2018 年 12 月 4 日 所 属 1)関西医療大学保健看護学部保健看護学科,武庫川女子大学大学院看護学研究科研究生 2)武庫川女子大学看護学部看護学科 連絡先 *E-mail:[email protected] 原因食物を摂取する食物アレルギー(以下FA)の学童への看護実践において小児アレルギーエ デュケーター(以下PAE)が困難と感じていることを明らかにすることを目的に、PAE11 名を対象 に半構造化面接を行い、質的記述的に分析した。PAE は、<症状を見極め、原因食物摂取を促す難 しさ><不安を感じるFA 学童へ原因食物摂取を促す難しさ>< FA 学童の意思を確認する難しさ> <FA 学童の思いを代弁する難しさ><結果が不確実な免疫療法を受ける FA 学童を支援する難しさ >を感じていた。PAE が感じていた困難は、子どもの安全と最善の利益を守る看護専門職としての 責務から生じたと考える。 キーワード:食物アレルギー、学童、食物経口負荷試験、経口免疫療法、小児アレルギーエデュケーター Ⅰ.はじめに 食物アレルギー(Food Allergy:以下 FA とす る)の学童は、近年増加している。文部科学省 の調査によると、小学校全体のFA の有病率は、 2004 年 で は 2.80 %、2013 年 に は 4.50 % と 約 1.6 倍となっている。(文部科学省アレルギー疾 患に関する調査研究委員会 , 2007;「学校生活 における健康管理に関する調査」検討委員会 , 2013)。 日本臨床アレルギー学会は、2009 年より小 児アレルギーエデュケーター(Pediatric Allergy Educator:以下 PAE とする)の認定制度を開始 した。PAE とは、アレルギーの専門的な知識と、 アレルギーケアの高度な実践力があると認めら れた看護師、栄養士、薬剤師である。2017 年度 までに、全国で400 名が認定を受けている。日 本臨床アレルギー学会のホームページで公表さ れているPAE 資格をもつ看護師が所属している 医療機関は全国で140 である。 FA は幼少期に発症し、学童期までに約 8 ~ 9
原因食物を摂取する食物アレルギーの学童への看護実践において
小児アレルギーエデュケーターが困難と感じていること
Difficulties Faced by Pediatric Allergy Educators in Caring
for School-age Food-allergic Children who Ingest Allergen Food
西田紀子
1)*・藤田優一
2)・藤原千惠子
2) 要 旨 割が耐性を獲得して、原因食物除去の必要がな くなる(日本小児アレルギー学会食物アレルギー 委員会 , 2016)。一方、学童期までに耐性を獲 得できなかったFA は、耐性を獲得した FA に比 べて、有意にアナフィラキシーショックの既往 があり、重症例が多いと報告されている(今井 ら , 2007)。FA をもつ学童(以下 FA 学童とす る)は、食物経口負荷試験(以下負荷試験とする) や経口免疫療法(以下免疫療法とする)を受け る際に、原因食物を摂取しなければならない。 負荷試験は、「アレルギーが確定しているか疑わ れる食品を単回または複数回に分割して摂取さ せ、症状の有無を確認する検査」である。負荷 試験の目的は、「FA の確定診断、安全摂取可能 量の決定および耐性獲得の診断」である。経口 免疫療法とは、「自然経過では早期に耐性獲得が 期待できない症例に対して、事前の食物経口負 荷試験で症状誘発閾値を確認した後に原因食物 を医師の指導のもとで経口摂取させ、閾値上昇 または脱感作状態とした上で、究極的には耐性 -報 告-書. http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000 0034et4-att/2r98520000034mu2_1.pdf 2018.8. 24 閲覧 厚生労働省. (2014). 看護職員の現状と推移 . http: //www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000072895.pdf, 2018.8.24 閲覧 厚生労働省. (2016). 厚生統計要覧 ( 平成 28 年 度) 第 2 編 保健衛生 第 1 章 保健 , http:// www.mhlw.go.jp/toukei/youran/indexyk_2_1. html, 2018.8.24 閲覧 小原二郎. (1971). 暮らしの中の人間工学 . 実教 出版. 水戸優子 , 西田直子 , 若村智子 , 國澤尚子 , 平 田美和 , 小林由実 , 冨田川智志 . (2018). 看護 職者による患者移動動作ガイドライン作成に 向けた基礎研究: 車椅子移乗介助に関する実 態調査. 神奈川県立保健福祉大学誌 , 15(1), 63-70. 中村昌子 , 櫻井美奈 , 山住康恵 , 池田康子 , 高 橋あい , 中原るり子 . (2017). 臥床患者の上方 水平移動法の比較分析. 共立女子大学看護学 雑誌 , 4, 18-23. 中山幸代. (2006). 移動・移乗技術に伴う腰痛発 症の危険性の検証および変革への課題. 第一 福祉大学紀要 , 3, 67-79. 白石葉子 , 鈴木聡美 . (2016). ベッド上での水 平移動を人の手で行う方法とスライディング シートを用いた方法による身体各部の筋活動 の比較. 三重県立看護大学紀要 , 20, 63-68. 高橋郁子 , 操華子 , 武田宜子 . (2016). 看護師の 移動介助動作時腰痛と移動介助の頻度 , 移動 補助具の適正使用との関係. 日本看護科学会 誌 , 36, 130-137. 田丸朋子 , 阿曽洋子 , 伊部亜希 , 本多容子 , 木 村静 , 鈴木みゆき , 德重あつ子 . (2010a). ベッ ドの高さの違いからみた移動援助時の患者の 頸部筋負担及び看護師の作業効率への影響. 人間工学 , 46(1),10-15. 田丸朋子 , 阿曽洋子 , 伊部亜希 , 本多容子 , 木 村静 , 鈴木みゆき , 德重あつ子 , 細見明代 . (2010b). 移動援助時におけるベッドの高さの 違いが患者におよぼす影響について 頸部後 屈角度・心拍数の観点から. 日本看護研究学 会雑誌 , 33(5), 25-32.Tamaru, T., Aso, Y., Ibe, A., Honda, Y., &
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