障がいのある留学生のための サポートシステム構築を目指して
同志社大学 日本語・日本文化教育センター 准教授
木谷真紀子
要約
2016年度春学期、本学日本語・日本文化教育センターに車椅子を使用する学生が在 籍していた。日本語を理解せず、生活や学習環境にも慣れていない留学生が、日本語 を母語とする学生とは異なる支援を必要としていることは想像に難くない。短い留学 生活の中で、学習成果を感じられる環境を調えるためにはどのようなサポートをすべ きなのだろうか。今後、障がいのある留学生を受け入れるためのシステムの構築につ いて提案したい。
1.はじめに
2016年5月現在、本学には1,517名の留学生が在籍している。1)日本語・日本文化教 育センターにも38カ国395名の学生が学んでいるが、学部、大学院の留学生とは異な る特徴として、一学期、または一年という短期留学が中心であることを挙げられる。
近年、障がいのある留学生が増加している。試験や講義での配慮、学内の学生支援 センターやカウンセリングセンターとの連携が求められてきたが、2016年度春学期、
本センターに車椅子を使用する学生(以下、当該学生とする)が留学していた。同志 社大学には、2000年2)に障がい学生支援制度が発足し、現在では講義や試験などの学 習、学校行事に関する「情報保障」、「設備」、「学生生活支援」を「保障の範囲」とした、
障がい学生のための制度が調えられている。また日本語を十分に理解できない留学生 にはピアサポート制度があり、当該学生も同制度を活用し、自身の研究テーマのため のフィールドワークやインタビューなど調査活動を行うことができた。
しかし障がいを持つ留学生が、学習、学内活動以前の〈生活〉にも支援を必要とし ているのは想像に難くない。それは日本語を理解できず、日本で〈障がい者〉として 生きた経験がないからである。さらに短期留学生の場合、日本の生活に慣れるまでの 十分な時間はない。短い留学生活の中で、充実した学びの成果や自身の成長を感じら
第一部 研究論文・実践報告
れる環境を築くために、受け入れ大学としてどのような支援をすべきなのだろうか。本センターでは、独自のプレースメントテストと面接により、日本語能力別に初級 のⅠレベルから超上級のⅨレベルまでに分けて講義を行っている。当該学生はⅠレベ ルにプレースされ、一学期間だけのプログラムに参加した。つまり日本語ができず短 期間だけ在籍するという、障がいのある留学生にどのようなサポートが必要かを明示 した存在と言えるだろう。
本学が車椅子の留学生を受け入れるのは恐らく前例のないことであったと考えられ る。本稿では、次に身体障がいのある留学生(以下、障がい留学生とする)が同志社 大学に在籍する時のため、今回の経験に基づき、問題点を整理するとともに、その解 決への筆者の活動を報告させていただく。
2.当該留学生への来日前連絡について
本センター所属の学生には、住居や学年暦など留学生活に必要な情報が、本国にい る間に連絡される。ここでは、障がいのない留学生への情報に追加して、障がい留学 生に通達することが望ましい情報について記す。
2.1 日本におけるユニバーサルデザインについて
空港についた瞬間から、「障がい者としての日本での生活」が始まる。
当該学生が生まれ育ったアメリカでは、1990年に「障がいを持つアメリカ人法」(「The Americans with disabilities Act of 1990」)が制定された。同法は、不特定多数の人が 集まる施設や公共輸送のすべてに、障がい者の利便性を確保するよう義務づけている。
公共施設においては、「物品、サービス、設備、特権、利益、または便宜に関与させず、
またはその恩恵を享受する機会を提供しないこと」や「補助機器およびサービスが欠 如しているために、障害をもつ個人が排除されたり、サービスを拒否されたり、隔離 されたり、または他の方法で他の個人とは異なる扱いを受けることがないことを確実 に保証するために必要な措置をとることを怠ること」は、全て禁止されている。3)同 法の施行で期限内の改築を求められ、現在では車椅子で入ることができない建物や、
使用できない乗り物は存在しない。
障がい留学生を受け入れる際には、まず何よりも日本がユニバーサルデザインでは ないことを伝えなければならないだろう。障がい留学生の出身国によっては、車椅子 であるがゆえの不便を殆ど感じず、自由に生活できるような町づくりが行われている
ため、「町」そのものや、移動手段というものへの前提が異なるのだ。
今回は、空港から京都までのリムジンバスがノンステップバスではなかった。当該 学生はバス乗り場まで行って切符を購入し、バスが来て初めて車椅子では乗ることが できないと分かる。払い戻しをし、鉄道の駅に向かったものの、不測の事態で返金な どの交渉をしなければならなかった狼狽からか、JRと南海電車を間違えてしまった。
さらに当該学生には、来日時での友人がいなかった。もし同じ大学から複数の学生 が留学するなら、派遣元の大学に、サポートの学生を予め決めておくこと、その学生 の同行を依頼することが望ましい。もちろん同行の学生も、日本語を十分に理解でき ず、初めて来日する可能性はあるが、本人にとって予期しないことが起きた際に対応 しやすくなる。
本学には、来日した日に京都駅まで迎えにいく「出迎えボランティア」があるが、
障がい留学生へのサポートとして理想的なのは、空港まで迎えに行くことであろう。
その理由は主に二つある。まず、京都に来る過程を通して、車椅子で公共交通機関 を使用する場合の方法について説明できるからだ。リムジンバスがノンステップバス ではないことを考えると、空港からはJR西日本の「はるか」を利用するのが、最も便 利である。京都駅に到着後は寮によって使用する交通機関は異なるが、京都市営地下 鉄の場合、有人改札口を通る際に降車駅を駅員に伝える。また京都市営バスでも、ス ロープを持って降りてきた乗務員に降車するバス停を告げる。実際の利用を通して説 明すれば、日本に到着した初日にして、JR西日本、京都市営交通など、京都での留学 生活でよく利用するであろう交通手段のシステムを理解できる。当該学生は初めて地 下鉄を使用した際、駅員が乗る場所を指示したことも、降車駅を尋ねられていること も理解できなかった。確認に三度改札へと戻ったため、結局は駅員の方が同行してく ださった。利用方法を理解し、また慣れるまでに時間がかかったと言う。
二点目は、公共交通の使用法を理解できれば、外出することへの恐怖やストレス、
緊張を軽減できるからだ。通学はもちろん、外出し、留学生活を楽しむことへの積極 性が生まれ、このことは学業にも好影響を及ぼすと考えられる。
2.2 住環境の整備
当該学生は、大学から最寄りの女子学生寮に住んでいた。しかし車椅子の学生が入 寮したことはなく、自動ドアが設置されていなかった。また寮の門は18時を過ぎて帰 宅した場合に自分で開閉しなければならないが、持ち手は車椅子から届かない高い位 置にあった。寮内に友人がおらず、管理者も帰宅していたため、当該学生は通りがか
第一部 研究論文・実践報告
りの人を待つしかなかった。その後、工事が行われ、さらに洗濯機など生活に必要な電化製品も車椅子で扱えるものが新しく購入された。同じ寮の学生が本学の学生支援 に心を打たれるほど、同寮の環境は調えられたが、今後は障がい留学生の入寮を想定 し、来日前に環境を整備することが必要である。
2.3 医学的資料の持参
障がいによっては、日本で定期的に受診しなければならないことも想定されるため、
受診の必要性の有無と、必要である場合は頻度も確認すべきだろう。当然ながら、こ れは身体障がいに限ったことではない。持病やその他の障がいに関しても同様であり、
実際、筆者も、担当する学生から総合病院での検査について相談されたことが少なく ない。本センターでは登校初日に「外国人留学生のための健康・危機管理ガイド」を 配布しており、日本で発症した病気やケガの対応についての指導は行われている。し かし、留学前から抱えた疾病や負傷により通院するには、診断書やレントゲン写真な どの資料が求められる。
今回、当該学生は定期的な通院などが必要なかったため、自分の障がいに関する診 断書や証明書を持参していなかった。しかし、後述する雨の日の通学による体調不良 で受診した際に尋ねられ、アメリカの主治医に問い合わせたが、実家からその病院が 離れているため、諸手続を友人に依頼するしかなく、かなりの時間と費用を要してし まった。幸いなことに今回は英語であったが、留学生の母語によっては、医学的専門 用語を日本で翻訳できない可能性もある。来日前に診断書原本のみではなく、少なく とも英訳も準備するのが望ましいだろう。
また、日本には「障害者手帳」があり、手帳を所有していることで受けられるサー ビスも多い。しかし手帳申請のために受診し、診断書を入手して申請、さらに認可さ れるまでに数ヶ月かかることもあり、一学期間の短期留学生の場合、速やかに申請し なければ、手帳交付の頃に帰国ということになる。当該学生は来日時に説明を受けた が、アメリカには障害者手帳のようなものが存在せず、日本語の資料しかなかったた め、理解できなかった。もちろん、障がいのある外国人居住者は留学生のみではない。
申請を受け付ける区役所などに手帳の説明の外国語訳があれば、窓口となる受け入れ 機関での説明も容易になる。手帳の説明や申請方法の外国語訳を来日前に送付してお き、障害者手帳の所有者となった場合に受けられるサービス、その一方で認定されな い可能性もあること、認定されたとしても手帳交付までに数ヶ月かかることを伝えた 上で、申請の意思の有無を確認すると、手続を速やかに進められるだろう。また障害
者手帳が対象とする疾病でなくても、難病指定されておれば受診料の優遇や行政サー ビスを活用できる場合がある。4)受診の可能性を想定し、診断書などの医学的な資料 を持参するよう、来日前の連絡事項に加えては如何だろうか。
3.来日後の支援
同志社大学の障がい学生支援は、学習と学内での活動に限られている。当然ながら、
100名以上5)の学生の学外での活動支援まで行うことは不可能である。しかし生活で きなければ、通学はもとより学業を十分に修められないのは、改めて述べるまでもな い。日本語ができず、日本の生活や気候にも慣れていない留学生には、学内活動の〈前 提となる活動〉の支援も必要なのではないだろうか。そこで主に二点の支援について 以下に記す。
3.1 情報提示
まず生活に必要な情報の提示である。当該学生は、来日直後に登校した際の面談で、
日用品の購入を相談した。寮から近く便利だから、と好意で案内された商店や食料品 のスーパーは、入り口がせまく段差もあり、車椅子では入ることができなかった。も ちろん日本がユニバーサルデザインではないがゆえに起こる事態であるが、障がい者 とともに行動しない限り、このような商店が少なくないことに気付きにくい。当該学 生は自分が買い物しやすい商店を見つけるまでにかなりの時間を要した。しかし現在 はネット販売をしている商店も増え、そのような商店は、バリアフリー化も進めてい る。車椅子使用者や視覚障がい者にも行きやすい商店や飲食店などをいくつか紹介で きると、障がいのない学生と同じように、講義開始前に日本の生活にある程度は慣れ ることが可能になるのではないだろうか。
〈国際観光都市〉京都では、障がいを持つ観光客への情報は比較的あるようだ。し かし、「障がいを持つ日本語のできない居住者」へのサイトや情報は管見に入らず、
京都市国際交流協会発行の「京都市生活ガイド」(2016.9)にも、障がい者が生活のた めに必要とするであろう情報は見られなかった。6)先述した市営地下鉄やバス、市内 を通る私鉄の使用方法、エレベーターやスロープの場所、私鉄の場合はその有無など の情報は、身体障がい者のみならず、大きな荷物を持つ旅行者や高齢者も必要として いるであろう。
行政など公的機関が提供する情報に含まれることを要望したい。
第一部 研究論文・実践報告 3.2 通学の確保
通学は本学の支援制度の対象ではない。繰り返すが、同志社大学に在籍している障 がい学生全ての通学を保障するのは不可能だろう。しかし通学できなければ学内で学 ぶことは不可能であり、今回筆者が最も注力したのが通学の支援であった。
湿度の高い夏の暑さや、いわゆる底冷えの寒さなど、京都の気候に慣れることがで きず不調を訴える留学生は少なくない。また雨季のある国は多いものの、そのほとん どは、日本の梅雨のような長雨というわけではないようだ。
当該学生の故郷は年間を通して降水量が少なく、外出が困難なほどの雨が降ること はほぼない。雨自体に慣れていない上に、雨が降ると電動車椅子が使えなくなる。四 月末から五月、気温と湿度が一気に上昇したいわゆる菜種梅雨の時期、当該学生は雨 の中、毎日自分で車椅子を押して通学しなければならなかった。気候にも、自力で長 時間車椅子を押すことにも、それが続くことも、ユニバーサルデザインではない京都 での生活にも慣れていない中、体調を壊してしまう。高熱に見舞われ力が全く入らず、
座ることさえままならないという、アメリカでは経験したことの無い状態になった。
会議でそれを知り、筆者は雨の日に車椅子を押して一緒に通学してくれる学生を募 集すること、またそのためのポスターを作成し、寮に掲示することを提案した。そし て本人と面談し、要望を確認した。
当該学生は、アメリカと日本を比べて不満を言う気は全くないこと、そもそも不便 が受け入れられないなら留学などしなかったということを伝えたうえで、「ただ、雨 の日にも大学に行き、授業に出て勉強したい」と述べた。
作成したポスターは、本人ではなく、筆者がサポートメンバーを探すという内容に し、表面を日本語、裏面は英語にした。掲示しただけではなく、留学生課の方に縮小 したものを同寮と隣の寮の全室にポスティングしていただいたが、残念ながら反応は なかった。そのため筆者が担当するすべての講義で配布し、当該学生にとって雨の日 の通学が困難であることを伝え、協力者を募った。筆者は上級のⅦⅧⅨレベルのみを 担当しているため、当該学生と講義での接点はなかったが、同じ寮に住む学生も教え ていた。彼女たちは車椅子の学生がいることは知っていたものの、当該学生の名前さ え知らないとのことだった。
最終的に、同じ寮、隣の寮だけではなく、伏見区向島の学生センターに住む学生、
また筆者が同志社高等学校の嘱託講師時代に担当し、現在本学で学ぶ日本人学生もサ ポートを申し出てくれ、無料通信アプリLINE上に〈雨の日クラブ〉というグループ を結成した。〈雨の日クラブ〉のメンバーは26名にまで増えたが、天候という予測で
きないものに対応しなければならないため、運営には試行錯誤を繰り返した。途中か らメンバーとなった学生が、皆が予定を入力し共有できるノートの機能をグループに 作成してくれた。筆者も一時間ごとの予報が分かり、雨雲が近付いたときに通知され る機能を持つ天気予報のアプリをダウンロードし、〈雨の日クラブ〉のルールを以下 のようにした。
① 金曜日の夜、LINE上の〈雨の日クラブ〉のグループにスケジュールを入力できる ノートを往路復路に分けて作成する。(メンバーの学生担当)
② 日曜午前までに、メンバー全員が何曜日にサポートできるかを入力する。
③ 日曜夜までに、筆者がシフトを組み、グループラインに送る。メンバーの学生は 車椅子を押すことに慣れていないので、基本的に二人一組。
④ 天気予報のアプリに従い、毎晩22時に翌日のサポートの有無を連絡。
⑤ 往路は8:30に寮の前、復路は弘風館1階のエレベーター前に集合。
⑥ レインコートの一枚を当該学生、一枚を筆者が保管し、サポートのメンバーに渡す。
一人の学生が着て車椅子を押し、もう一人がその学生の荷物を持つ。 以上。
サポートを申し出てくれたメンバーの留学生は、雨の日の送迎だけではなく、より 良い運営のために積極的に提案、行動してくれた。上記のルールが生まれた後の〈雨 の日クラブ〉の活動は、極めて円滑に進むようになった。
4.次に本学で学ぶ障がい留学生のために
筆者の担当する学生は、日本語こそ上級レベルであるものの、来日したばかりで京 都での生活に慣れているとは言い難い。好意でメンバーとなった学生が、事故などに 遭わないかという不安に苛まれた。またサポートの対象が一人だけであったので学期 末まで続けることができたが、今後、複数の障がい留学生が本センターで学んだ時の ことを危惧するようになった。甚だ僭越ではあるが、よりよいサポートシステムの構 築のために以下を提案させていただきたい。
4.1 京都市が提供する情報
先述したように、京都市など公的機関によって提供された情報に、障がい者が生活 のために必要とするであろう内容は管見に入らなかった。しかし高齢化社会が進む中、
同種の情報を必要とする人は少なくないだろう。市営交通の使用方法やスロープやエ レベーターの位置、私鉄の駅ごとの情報などは市全体に一括した情報があれば、と考
第一部 研究論文・実践報告
える。生活に必要な買い物ができるバリアフリーの商店などは、区ごとに作成するなど生活圏のマップやガイドなどがあるのが望ましい。
「障害者手帳」については、申請を受け付けるのが役所であるため、障がいのある 居住者と関わりが深い機関、例えば今回の本学が概要や申請方法の外国語訳をそれぞ れ作成することは、誤りを生じさせる可能性が高くなる。
障がいを持つ日本語ができない居住者や家族が必要とする情報は、医療、生活その もの、また災害発生時など緊急事態におけることなど多岐にわたる。それらをまとめ た冊子などの作成、発行を行政に要望したい。
4.2 障がい学生支援室、ボランティア支援室との連携
日本で障がい者として生きてきた学生と、中途障がいの学生、また障がい留学生が 必要とする情報、サポートは異なる。障がい学生との面談は、基本的に「学期前」に 行われるようだが、7)障がい留学生の場合は、徐々に日本の生活に慣れ、友だちもでき、
日本語も上達していく。一方、今回のような「梅雨」への概念、季節や気候の変化など、
日本で生活してきた人間にとっては当然の〈常識〉がない。障がい留学生に関しては、
学期開始前だけではなく、定期的に面談し、本人が必要とするサポートや学習状況な どを把握することを提案したい。
また当該学生が希望したことに、車椅子を使用する本学在学生との交流があった。
同じ大学の車椅子使用者の学生からなら、生活や勉学について必要な情報を得られや すいと考えたのだろう。本学の障がい学生支援制度には、これも学期前に利用学生や サポートスタッフの「顔合わせ会」があるが、来日直後の留学生にとっては、生活の ための諸手続、日本語能力プレースメントテストや面接、講義の登録相談など、日本 での生活や大学生活のために多忙な時期であるため参加は困難であると考えられる。
今回は当該学生のために車椅子の学生をわざわざ集めてくださったが、学期中に一度 でも交流会のような形で開催されれば、と考える。
〈雨の日クラブ〉を発足した六月初旬、まち、もの、情報やサービスのユニバーサ ルデザインを研究されている政策学部の関根千佳教授と、関根氏のゼミに協力してお られるアイ・コラボレーション代表 山本英嗣氏を知ることができた。関根氏のゼミ では、車椅子や白伺の使用者と京都を巡る調査研究をされている。障がい者に関する 分野を専門とする教員や院生、学生と交流できれば、障がい者の置かれる各国の状況 や政策を生活者から学ぶことができるなど、本学の学生にも学問的な還元があったの ではないか。
また今回、他大学の支援制度を調査した結果、学内の支援制度では対象外となる障 がい学生が必要とするサポート、例えば雨の日の通学(主に、大学の最寄りの駅まで が対象)や買い物の付き添いなどについて、学内のボランティアサークルと連携して いる大学があった。それを参考に筆者自身、本学のボランティアサークルに問い合わ せたが、「個人の支援は行っていない」との回答であった。
本学には2016年度4月、ボランティア支援室が発足した。「ボランティアを希望する」
学生を主な対象とし、学内のボランティアサークルとの関わりもある。8)しかし、「ボ ランティアを望む」側として想定されているのは、「学外」の「団体、施設」である ようだ。9)
先述のように、同志社大学には100名以上の障がい学生がいる。今後、障がいを持 つ留学生のみならず、サポートを必要とする障がい学生と、ボランティアを希望する 学生という「学内」の「個人」の架け橋になっていただくことは不可能だろうか。
障がい学生支援制度の対象外となっているサポートを必要としている学生も、少な くないだろう。もちろん制度で保障されていないため、そのサポートを受けられない 可能性が高いことは、障がい学生も理解しているはずだ。それらを踏まえた上で、必 要としていることを率直に伝え、要望できる環境が学内にあることが重要ではないか と考えている。
4.3 留学生課による寮内での関係性の構築
障がい留学生の学外での活動支援を最も容易に行うことができるのは、言うまでも なく同じ寮に住む留学生であろう。大学側ができるサポートとしては、同じ寮に住む 学生に、寮生どうしが知り合う場を設けること、障がい留学生が入寮することを事前 に連絡することなどが考えられる。
今回、寮によって全く状況が異なることが分かった。ある寮は、ドミトリーアシス タントの日本人学生が非常に熱心で、新入寮生歓迎会に始まり、花見や七夕など行事 ごとに親睦を図る会を企画、開催していた。寮生どうしが親しくなり、お互いの状況 も把握しているため、当該学生の寮の状況に驚くばかりだった。
同じ寮に住むドミトリーアシスタントの学生が、留学生をサポートする立場にある ことを認識し、寮での活動やサポートを中心となって行うことで、障がい留学生はも ちろん、その寮の全ての留学生に安心感を与えられるだろう。寮内に友情も芽生え、
このことは、相互協力の姿勢や、充実した留学生活への一助となると思われる。
第一部 研究論文・実践報告 4.4 既存のボランティア制度との再構築
留学生課では、先述のように来日した日に京都駅まで迎えにいく「出迎えボランティ ア」、短期プログラムで滞在する留学生のためのボランティアなど複数のボランティ アを、また日本語・日本文化教育センターでは講義に参加し、各レベルに応じた多種 多様の活動を手伝う「日本語ボランティア」を募集している。応募している学生は、
一般学生よりも国際交流に熱心であると考えられるため、既にボランティアに参加し ている学生のメーリングリストなどを作り、〈留学生サポーターズクラブ〉のような 形で、ある程度一括することも一案かと思われる。
4.5 サポート学生の募集方法について
先述のように、当該学生の寮、その隣の寮の一部屋ずつにサポートの学生を募集す るチラシをポスティングしていただいた際の反応は皆無だったが、筆者自身が講義で 配布し、当該学生の置かれた状況を伝えると、多数の学生がサポートを申し出てくれ た。今回メンバーとして活動した学生が異口同音に述べたのが、「そんなに困ってい るなんて知らなかった」ということだった。それ以前に同じ寮に住みながら、当該学 生の名前を知っていた学生さえいなかった。
〈雨の日クラブ〉26名の中、2名以外が筆者の担当する学生であり、メンバーに共 通しているのは、当該学生の置かれている状況を筆者から直接聞かされたことにある。
今回参加した日本人学生は全員が体育会に所属し、熱心に部活動に励んでいる。定 期的、継続的に支援することは困難でも、時間割の都合によっては寮まで送ることは 可能とのことだった。その一人は足を負傷し松葉伺の生活や手術入院を余儀なくされ、
雨の日の通学の困難さを実感していたため、〈雨の日クラブ〉の意義を心から理解し ていた。また留学生たちは、それぞれ日本の生活に慣れるまでの自身の苦労から、当 該学生の状況を察することができた。早急に結論を出すことはできないが、体育会に 所属する学生や、留学生など普段の学生生活では〈ボランティア〉とは身近ではない ように見える、善意の学生を〈掘り起こす〉必要性を感じたのは事実である。
そのためには、教員、また部活動やサークルの責任者など〈伝えられる立場〉にあ る者が、ボランティアを必要とする状況を自身のことばで語り伝えることが重要だと 思われる。大学の中で、車椅子や白伺の学生を見かけたとしても、彼らの生活に思い を馳せることは容易ではない。しかし直接関わった人間から話を聞く機会があれば変 わるのではないだろうか。例えば、本学と縁の深い熊本での災害ボランティアなども、
実際に活動した学生や熊本の卒業生に状況を聞けば、参加を希望する学生が増えるの
では、と考える。一人でも多くの学生が状況を知る機会を作ること、そのための関係 性を築くことこそ、ボランティア学生を募る第一歩になるのではないだろうか。
5.おわりに
以上、今回の当該学生の留学生活で起きた問題と、それらを未然に防ぐための方策 について提案させていただいた。当該学生は、アメリカと日本を比べて不平不満を述 べることは一切なく、また車椅子であることを理由に行動を制限したり、何かを諦め たりすることもなかった。むしろ研究や調査、三味線のお稽古や陶芸教室に通い、一 般の留学生よりも積極的に「京都での留学生活」を楽しんでいるように見受けられた。
個人的には、〈雨の日クラブ〉の活動が新しい出発になれば、という想いがあった。
筆者は本センターに学ぶ留学生が、日本語や日本文化について学ぶだけではなく、各 国からのクラスメートとの交流を通して国際的な視点を手にいれることを望んでい る。〈雨の日クラブ〉の学生は、これ以前に車椅子使用者とともに行動した経験を殆 ど持たなかった。日本よりもバリアフリー化が進んでいない地域から来た学生は、障 がい者へのサポートはどうあるべきか、また建物や乗り物、町づくりはどのようにあ るべきか、日本はもちろん、母国や故郷を含めて、これまでにはない視点で見直し、
考えられたはずである。
また本学の広報誌「One Purpose」188号の「留学生紹介」に、当該学生が掲載され た。本来、在学中の学生が対象10)であるが、筆者が相談したところ発行時には既に帰 国している当該学生を紹介する意味を理解くださった。当該学生が寄稿した文章には、
学業に研究、お稽古事と多くにチャレンジした留学生活について記されており、その 前向きな姿勢は、本学に在籍する障がい学生だけではなく、一般の学生にも勇気を与 えるのではないかと考えている。更に幅広い分野で活躍する卒業生の方々が、本学に 障がい留学生が学んでいたことを知る意義もあるだろう。
個人的な述懐とはなるが、日々の講義や業務の中で、〈雨の日クラブ〉の運営をす るのは容易ではなかった。その時に支えとなったのは、同志社の建学の精神、校祖・
新島襄先生のことば「人一人ハ大切ナリ」である。障がいがありながらたった一人で 同志社に学ぶことを決意した当該学生が、学びの成果を感じられること、大前提とし て講義を受けられること、チャレンジした自分に誇りを持つことができるような留学 生活にしてほしい、と考え、とにかく話を聞くことから始めた。
筆者が教員生活を開始したのは京都府立盲学校であり、これまでボランティア活動
第一部 研究論文・実践報告
の経験はあったものの、障がい者支援に対する専門的知識や研究実績は皆無である。また歴史ある本学の支援制度についても、深く理解しているとは言い難い。このよう な報告をすること自体が僭越ではあるが、今後、障がい留学生を受け入れる際の提案 としてご一読いただければ幸甚である。
謝辞
〈雨の日クラブ〉というグループで活動したため、筆者が報告させていただいたが、
通院や生活など当該学生をサポートした教員や職員は少なくない。それらの方々や〈雨 の日クラブ〉のメンバー初め、共に学んだ多数の学生により、当該学生の充実した留 学生活が可能になったと考える。さらに筆者が同志社女子中学高等学校の嘱託講師時 代に担当し、現在は医療や福祉関係の仕事に就いている数名の卒業生が、プロの立場 から様々なアドバイスをくれた。記して深謝したい。
注
1) 同志社大学ホームページ「外国人留学生在籍者数」(2016年9月30日取得、http://intad.
doshisha.ac.jp/statistics/statistics.html)
2) 同志社大学学習支援センター障がい学生支援室ホームページ「支援室の沿革、歴史」
(2016年9月30日取得、http://challenged.doshisha.ac.jp/about/outline.html)
3) 中野善達、藤田和弘、田島裕編「第302条 公共施設による差別の禁止」『障害を持つアメ リカ人に関する法律』(1991年9月17日、湘南出版社)53頁。
4) 難病情報センターホームページ「国の難病対策」(2016年9月30日取得、http://www.
nanbyou.or.jp/entry/3756)
5) 同志社大学学習支援センター障がい学生支援室ホームページ「支援室の概要」(2016年 9月30日取得、http://challenged.doshisha.ac.jp/about/outline.html)
6) 公益財団法人 京都市国際交流協会発行(2016.9)「京都市生活ガイド」
7) 「障がい学生支援制度 教職員のためのガイド」(2016年9月30日取得、http://challenged.
doshisha.ac.jp/houmonsha/img/guide.pdf)
8) 「ボランティア支援室」ホームページの「主な活動」に掲載されているものは、いずれも ボランティアを希望する学生に向けての内容である。」(2016年9月30日取得、http://
volunteer.doshisha.ac.jp/about/intro/)
9) 「 ボ ラ ン テ ィ ア 支 援 室 」ホ ー ム ペ ー ジ「 学 外 の 方 へ 」(2016年 9 月30日 取 得、http://
volunteer.doshisha.ac.jp/outside/)
10) 同志社大学広報部広報課(2016・10)「留学生紹介」