日本企業における外国人高度人材の採用・配置・育 成
著者 福嶋 美佐子
著者別名 FUKUSHIMA Misako
その他のタイトル Hiring, Placement, and Human Resources
Development of Highly Skilled Foreign Workers at Japanese Companies
ページ 1‑220
発行年 2019‑03‑24
学位授与番号 32675甲第453号 学位授与年月日 2019‑03‑24
学位名 博士(政策科学)
学位授与機関 法政大学 (Hosei University)
URL http://doi.org/10.15002/00021770
法政大学審査学位論文
日本企業における外国人高度人材の 採用・配置・育成
福嶋 美佐子
i
目次
第Ⅰ章 はじめに 1 1. 研究の背景・目的・意義 2 2. 論文の構成・用語の定義・研究対象 6
2.1 論文の構成 6
2.2 用語の定義 8
2.3 研究対象 14
3. 先行研究の検討 16
3.1 日本的人材育成の特長の先行研究 17
3.2 外国人高度人材の先行研究 25
3.3 外国人留学生の先行研究 34
4. 小括 40
第Ⅱ章 日本における外国人高度人材獲得政策 46
1 外国人労働者受入の変遷 48
1.1 明治時代から第二次世界大戦まで (1899年体制) 49
1.2 第二次世界大戦後から 1990年まで (1952年体制) 50
1.3 1990年以降 (1990年体制) 52
1.4 入国管理政策は誰を求めてきたか 55
2. 外国人高度人材獲得政策の変遷 55
2.1 IT 人材の獲得 56
2.2 経済界が求める外国人高度人材 58
2.3 労働者団体の反応 59
2.4 政府の対応 59
2.5 高度人材ポイント制 60
2.6 日本政府が求める外国人高度人材とは 62
2.7 日本企業が求める外国人高度人材とは 63
ii
3.1 外国人留学生受入の意義に関する理念モデル 65
3.2 日本における外国人留学生政策 69
3.3 外国人留学生が求められた役割とは 78
4. 小括「日本政府と日本企業が求める外国人高度人材とは」 78
第Ⅲ章 外国における外国人高度人材獲得政策 82
1. 比較対象としての韓国 84
1.1 韓国における外国人労働者受入政策 84
1.2 韓国における外国人留学生受入政策 90
1.3 日韓の共通点・相違点 92
2. 参考事例としてのオーストラリア 94
2.1 オーストラリアにおける外国人労働者受入政策 94
2.2 オーストラリアにおける外国人留学生受入政策 97
3. 高度人材獲得競争と世界大学ランキング 101
4. 小括「オーストラリアは日本のモデルケースとなるか」 104
第Ⅳ章 外国人高度人材に対する調査結果と分析 109
1. 調査概要 110
1.1 調査対象 111
1.2 調査方法 113
1.3 分析方法 113
1.4 調査の限界 115
2. 外国人留学生・外国籍従業員の分析 116
2.1 外国人留学生・外国籍従業員の概要 116 2.2 外国人留学生の経験 119 2.3 外国籍従業員の現状 125
3. 小括「働き続けているのは誰か」 131
iii
第Ⅴ章 日本企業に対する調査結果と分析 136
1. 調査概要 137
1.1 調査対象 138
1.2 調査方法 139
1.3 分析方法 139
1.4 調査の限界 140
2. 外国人留学生雇用企業の分析 141
2.1 企業の経験 141
2.2 企業の現状 144
3. 外国人高度人材の採用・育成モデル 158
3.1 企業の外国籍従業員の採用・育成タイプ 159
3.2 外国籍従業員の採用・育成タイプによる入社後の活躍 160
4. 小括「外国籍従業員の採用・育成モデル」 164 5. 補論:I社における外国籍従業員の採用・配置・育成モデル 173
5.1 沿革 173
5.2 採用・配置・育成 173
5.3 I 社の成功要因 175
第Ⅵ章 おわりに 179
1. 外国人高度人材の先行研究に対する本研究の結論 182
2. 今後の可能性 185
2.1 外国人留学生政策と入国管理政策の連携 185
2.2 文部科学省と経済産業省の協業 186
2.3 長期雇用に基づいた採用・配置・育成 187
2.4 入学時からのキャリア教育 188
2.5 日本語教育の充実 189
3. 今後の研究課題 190
3.1 調査の限界 191
3.2 失敗事例の検証 191
3.3 生活者の視点 191
iv
1. 聴取調査:外国人留学生・外国籍従業員 195 2. 聴取調査:外国籍従業員採用企業 197 3. 聴取調査:外国人留学生支援省庁 197 4. 聴取調査:外国人留学生受入大学 198 5. 聴取調査:外国人留学生就職支援企業 198
参考文献 199
v
図表
第Ⅰ章
図1-1 主要国の対外直接投資残高 (ストック) 対GDP比 2 図1-2 高等教育修了者の OECD加盟国への移住率 3 図1-3 高等教育入学者に占める留学生・外国人学生の割合 4
図1-4 研究課題 6
図1-5 論文の構成 7
表1-1 調査概要 8
図1-6 日本政府と本研究における「外国人高度人材」の定義の違い 9
表1-2 在留資格一覧 10
図1-7 本研究における「外国人高度人材」と「外国人留学生」 13 図1-8 外国人留学生数の推移 13 図1-9 外国人留学生の卒業後の進路希望 14
図1-10 就労を認められている資格別在留外国人 15
図1-11 在留資格別「留学生」等からの就職を目的とする
在留資格変更許可件数の推移 16
表1-3 八代尚宏の小池批判と小池に基づく本研究の比較 23
表1-4 村上の研究と本研究の比較 30
表1-5 塚﨑の研究と本研究の比較 34
図1-12 企業の事業戦略・人材戦略と個人の生活設計・キャリア観
のマッチング 38
第Ⅱ章
表2-1 日本政府と日本企業の求める外国人高度人材 の違い 79
vi
表3-1 外国人留学生と自国生の学費 99
表3-2 主な世界大学ランキング 102
図3-1 各国の外国人留学生受入政策とその理念モデル 105 表3-3 各国の外国人労働者政策と外国人留学生受入政策 106
第Ⅳ章
図4-1 日本への外国人留学生の主な出身国 112 図4-2 日本で働く外国籍従業員の主な出身国 112
図4-3 聴取調査対象者の出身国 112
図4-4 日本への留学のきっかけ 117
図4-5 日本での就職理由 118
図4-6 今後の計画 119
図4-7 面接による選考段階で重視していること 意識・性格的要素 125 表4-1 外国籍従業員が分析する自社の採用タイプと育成タイプ 132 表4-2 日本的人材育成の特長と勤続 6年以上の外国籍従業員
の採用・配置・育成 133
表4-3 企業の取組と外国籍従業員の反応 133
第Ⅴ章
表5-1 外国人留学生採用の開始時期ときっかけ 145
図5-1 外国籍従業員のキャリアとネットワーク 156
表5-2 外国人留学生採用と育成タイプ 160
表5-3 外国籍従業員の採用・育成タイプによる入社後の活躍 163
表5-4 日本的人材育成の特長とタイプ 2・タイプ 5
の外国籍従業員の採用・配置・育成 164
表5-5 可変度による能力の分類 166
図5-2 エントリーシートによる選考段階で重視していること
意識や能力 / 学校に関わる要素 166
図5-3 面接による選考段階で重視していること 能力的要素 167
vii
図5-4 面接による選考段階で重視していること 意識・性格的要素 168
図5-5 日本的人材育成の特長に合致した外国籍従業員の育成 169
表5-6 キャリアパスの提示、インフォーマルな組織と離職率の関係 170
図5-6 キャリアパスの提示と離職率との関係 171
図5-7 インフォーマルな組織と離職率との関係 172
表5-7 I 社の主な研修プログラム 174
第Ⅰ章
はじめに
2
第Ⅰ章 はじめに
1. 研究の背景・目的・意義
創業当時は国内のみを製造や販売の対象としていた企業が、国外に目を向け始め、
やがて世界をターゲットとするグローバル企業へ成長した事例は、日本中に数多ある。
そのような企業において、最適な調達、開発、製造、販売を行うために、国境を越え て投資をすることは当然であろう。
国境を越えての投資は先進各国で見られ、国際的な事業展開の指標となる世界 172 の国と地域の対外直接投資残高の総額は、1990年は 2兆 2,539億ドルだったが、2000 年には 7兆 4,605億ドル、2010年には 20兆 9,392億ドル、2016年は 26 兆 1,597億ドル と、四半世紀の間に約 13倍に拡大している。そのうち、2016年の日本の対外直接投残
高は、1兆 4,000億ドルで世界の5.3%を占め、アメリカ、香港、イギリスに次いで世
界第 4 位である。日本の対外直接投残高は2000年代に入って伸び始め、2016年の GDP
の 28.4%が対外直接投資によるものである (図 1-1)。今は先進諸国と比較しうる水準と
なっている。対外直接投資は外国の企業に対して永続的な権益を取得することを目的 に行われるものと考えるならば、日本企業における国際的な事業展開は、今後さらに 拡大し続けると予想されよう。
図 1-1 主要国の対外直接投資残高 (ストック) 対 GDP 比
出 典 :United Nations Conference on Trade and Development (2017) Annex Tables 8よ り 筆 者 作 成 。
3
国際的な事業展開において最適な調達、開発、製造、販売を行うならば、優秀な人 材の確保は必至である。先進諸外国は、日本に先がけて、既に優秀な人材を積極的に 世界中から集め始めているという現状があり、「才能をめぐるグローバル競争1」と呼 ばれる。ところが、高等教育修了者の日本への移住率は、経済開発協力機構
(Organisation for Economic Co-operation and Development, OECD) 諸国の中でも低く、日 本は世界的な人材獲得競争から取り残されてしまっていると言っても過言ではない (図 1-2)。
図 1-2 高等教育修了者の OECD 加盟国への移住率
出 典 :OECD (2015a) Table 4 よ り 筆 者 作 成 。
優秀な人材を世界から日本へ集める方法としては、①海外で働く外国人高度人材を 日本へ招く、②大学や大学院を卒業 / 修了した外国人を日本で高度人材に育てる、と いう 2 つがある。そして、後者はさらに、海外の大学や大学院を卒業 / 修了した人材 と日本の大学や大学院を卒業 / 修了した人材とに分けることができる。入社後に成長 することを期待して新卒採用を行い、長期に亘って育成していくという多くの日本企 業がこれまで採り入れてきた方法を鑑みれば、日本の大学や大学院で日本人と共に学
4
び、日本の社会について充分に理解した上で企業に入社する、日本の大学や大学院を 卒業 / 修了した外国人留学生の方が適していると思われる。
ところで、世界銀行によると、1999年から 2004年までの間に、世界の留学生の総
数は 164万人から245万人へと50%近く増えている (Bashir, 2007:11)。また、OECDは、
1975年に市民権を持つ母国以外の高等教育機関に入学した留学生の総数は、全世界で 80 万人だったが、2012年には 450万人へと約 5倍に増え、2020年までにはそれよりも さらに 20%増えると予測している (OECD, 2015b:360)。しかしながら、日本で留学生が 高等教育機関の全学生数に占める割合は、国際的に見ても低い水準にとどまっている (伊佐敷, 2013:4)。OECDの統計でも、わずか 3.5%にすぎない (図 1-3)。
図 1-3 高等教育入学者に占める留学生・外国人学生の割合
注 :OECDの 統 計 は 、 勉 学 を 目 的 と し て 国 境 を 越 え た 「 留 学 生 」 (international students) と 統 計 デ ー タ を 提 出 し た 国 の 国 籍・永 住 権 を 持 た な い「 外 国 人 学 生 」 (foreign students) を 区 別 し て い る 。図 は 留 学 生 の デ ー タ だ が 、 韓 国 、 チ ェ コ 、 イ タ リ ア 、 ト ル コ は 外 国 人 学 生 も の で あ る 。
出 典 :出典:OECD (2015b) Chart C4.1. より筆者作成。
このような状況に おいて、「外国人高度人材を増やすには、日本企業における採用・
育成方法を見直すべき」という考え方が生まれてきている。たとえば、日本政府は、
Internet of Things (IoT)、ビッグデータ、人工知能等を研究開発し、それに基づいた新た
5
な有望成長市場を創出するために、既に世界中で活躍している人材を集めるという方 向にシフトしようとしている (首相官邸, 2016:1-7)。そのような人材を海外から呼びよ せ確保するために、これまでとは異なった在留資格の要件を新たに設け、海外からや ってくる人材が働きやすいように英語のみで研究や教育が完結するシステムへと、日 本の大学や研究施設を変革しようとしている。その結果として、世界大学ランキング2 も上昇させられるという考え方である。
また、このような考え方を支持する研究も見られる。たと えば、企業と長期的な雇 用関係を結び、職務と役割の割当を企業に全て委ねてしまうことで、職務は変わった としても所属企業は同じままであり、配置転換を繰り返しながら多様な知識やスキル を修得していくという日本的雇用慣行と働き方から、職務や役割を明確にし、それに 基づいて個人と企業が雇用契約を結ぶ「職務・役割主義」へ移行すべきであるという 提言である。組織を変えて最先端の仕事を経験することで、効果的に専門性や能力を 向上させていこうとする流動化は、組織が外部人材を適宜活用して企業文化・制度を 変革し、斬新な発想を生み出すという期待値につながっている (村上, 2015:83-89)。そ のような働き方を実現させるための、柔軟なキャリア・パスの整備および人事労務管 理 制 度 の 見 直 し や 、 専 門 的 外 国 人 に 特 化 し た 採 用 ・ 募 集 へ の 提 言 も あ る (塚 﨑, 2008:264-266)。
しかし、後述するように、外国人高度人材を増やすためには、日本企業における採 用・育成方法を見直すべき、つまり長期雇用3に基づいた採用・配置・育成の特長4を変 えるべき、という先行研究の提言が、日本企業にとって最適とは断言できない。まず、
政府はイノベーションを興すことを目的として外国人高度人材を海外から呼び寄せる ことを期待しているが、日本企業のイノベーション力が必ずしも劣っているとは言え ないからだ。また、外国の大学や大学院を卒業 / 修了した者が働くために、長期雇用 に基づいた採用・配置・育成の仕組みを変えることは、企業にとって大きな負担を強 いられることになる。
そこで、日本の大学や大学院で学ぶ外国人留学生や、それを経て日本企業で働く外 国籍従業員、さらには彼 / 彼女らを採用し、育成する日本企業を詳細に分析し、日本 の大学や大学院を卒業 / 修了して日本企業で働く外国籍従業員の採用・配置・育成の モデルを導出することは、今後の日本の外国人高度人材政策を考える上で意義あるこ とと考え、研究を行った。
6
日本企業が日本の大学や大学院で学ぶ外国人留学生を採用することは、海外へ出向 いて採用する時間や費用を削減できる。また、彼 / 彼女らが、日本社会や文化に馴染 むための時間や費用も省くことができる。それでも、日本人を採用・育成するのと全 く同じとはいかず、コストはかかるだろう。そのような中で、なぜ日本企業は外国人 留学生を採用し、社内で育成するのか。また、社内で育成する長期雇用に基づいた日 本的人材育成は、外国人従業員にも適用できるのか。
日本企業が外国人留学生を採用し社内で育成するのは、国際的事業展開の時代であ っても、時間をかけて従業員を育成することは有効と考えているからであり、その結
果、小池 (1991, 1993, 1994, 2002, 2005, 2015) が分析した長期雇用に基づく日本的人材
育成は、外国人従業員にも適用できると思われる (図 1-4)。
図 1-4 研究課題
出 典 : 筆 者 作 成5。
2. 論文の構成・用語の定義・研究対象 2.1 論文の構成
論文の構成は次のとおりである (図 1-5)。まず、第I 章で、本論文における研究課題
7
を明らかにする。そのために、本研究における「外国人高度人材」と「外国人留学生」
を定義した上で、研究対象を明確にする。そして、「外国人高度人材」と「日本的人材 育成の特長」に関する先行研究をまとめ、これまでの研究と本研究の視点の違いを明 確にする。第 II 章では、単純労働力を含めた外国人労働者政策、それに続く外国人高 度人材政策、ならびにその予備軍としての外国人留学生政策という三方向から、日本 における外国人高度人材の政策を振り返り、どのような人材が求められてきたかを分 析する。第 III章では、日本と地理的に近く、外国人高度人材のターゲットが重なると 思われる韓国の外国人労働者受入政策、外国人高度人材獲得政策、外国人留学生受入 政策を、日本の政策と比較した上で、参考事例としてのオーストラリアがモデルケー スとなり得るかを検討する。そして、第 IV 章と第 V 章では、75 名を対象とした質的 調査 (聴取調査) の分析を行う。調査対象者は、外国人留学生と外国籍従業員 (52名)、 企業の担当者や担当役員 (15名)、省庁担当者 (3 名)、大学関係者 (3名)、外国人留学 生就職支援企業経営者 (2名) で、詳細については各章で改めて記述するが、概要は表 1-1 のとおりである。第 VI章では第II章から第 V章までの分析に基づき本論文の結論 を示すとともに、研究を通じて残された今後の課題をまとめる。
図 1-5 論文の構成
出 典 : 筆 者 作 成 。
8
表 1-1 調査概要
出 典 : 筆 者 作 成 。
2.2 用語の定義
本稿を進めるにあたり、本研究における「外国人高度人材」と「外国人留学生」と は誰かについて、明らかにしておく必要がある。
外国人高度人材に関する定義は確立されているとは言えず、きわめて幅広い理解を 許容するものになっている。就労が認められている在留資格は、「外交」、「公用」、「教 授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「高度専門職」、「経営・管理」、「法律・会計業務」、「医 療」、「研究」、「教育」、「技術・人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「興業」、「技能」、
「技能実習」、「特定活動」の 18 種類ある (表 1-2) が、第 II章でも言及するように、
2012 (平成 24) 年に「高度人材に対するポイント制による入国管理上の優遇制度」(「高
度人材ポイント制」) が導入されて以来、日本政府が政策上使う「高度人材」は「高 度専門職」の在留資格で、「高度人材ポイント制」に該当する職業に就く者を指すよう になっている。しかし、本論文では、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を発給 されている大学卒業以上の資格を持つ者を「外国人高度人材」と定義する。なぜなら、
調査日 2015年6月-2017年1月
調査場所 日本国内 (首都圏ならびに関西圏) 調査時間 各1時間-1時間30分
調査対象者とコンタクト方法 主な質問
A. 日本の大学・大学院で学ぶ外国人留学生ならびに卒業 / 修了した外国籍従業員(52名)
・筆者の知人
・筆者の知人の紹介に応じてくれた従業員
・BまたはEの企業による紹介に応じてくれた留学生・従業員
① 日本への留学のきっかけ
②日本での就職を決めた理由と就職活動
③ 現在の生活と今後の予定 B. 外国人留学生採用日本企業の担当者・担当役員 (15名)
・筆者の知人 (経営者または人事・採用担当者)
・筆者の知人が所属する上場企業役員の私的勉強会 (メン バー約30名) に協力を依頼し、応じてくれた企業の人事 採用担当役員・担当者
① 日本で外国人留学生を採用し始めた時期ときっかけ
② 採用し始めてからの採用人数、定着ならびに最も高い 役職
③ 外国人従業員に求める役割と人材育成プログラム C. 外国人留学生支援省庁 (経済産業省・文部科学省) 担当者
(3名)
・筆者が知人を通じて紹介された担当者
①外国人高度人材を求める理由
② 外国人高度人材予備軍としての留学生に対する期待
③ アジア人財資金構想の「高度専門留学生育成事業」と 「高度実践留学生育成事業」に対する評価
D. 外国人留学生受入大学担当者 (3名)
・スーパーグローバル大学採択校に直接依頼し、応じてくれ た担当者
① 外国人留学生の概要と卒業後の進路
② 大学における 外国人留学生のサポート
③ スーパーグローバル大学への対応 E. 外国人留学生就職支援企業経営者 (2名)
・外国人留学生支援省庁担当者および外国人留学生受入大学 担当者に紹介された経営者
① 外国人留学生を採用する企業の特徴
② 日本企業が求める外国人留学生の能力
③経済産業省ならびに大学の取組に対する感想
9
本研究の対象者は、「日本の大学や大学院を卒業 / 修了 し、日本企業に就職した者」
であり、通常、彼 / 彼女らに付与される在留資格は、「技術・人文知識・国際業務」の ためである。また、日本企業が求める高度人材は、日本政府の指す「高度専門職」よ りも広い範囲の「技術・人文知識・国際業務」であり、経営上もこの人材を指すと考 えられるからである6。なお、日本企業で働く外国籍従業員が取得する在留資格として は、「企業内転勤」もあり得るが、在留資格変更許可件数の推移で後述するように、日 本の大学や大学院を卒業 / 修了している可能性が低い7ことに加え、必ずしも本人の意 思で日本に滞在しているとは限らない。したがって、この点については、研究対象に は含めず、「外国人高度人材」の定義からも外すことにした (図 1-6)。
図1-6 日本政府と本研究における「外国人高度人材」の定義の違い
出 典 : 筆 者 作 成 。
10
表 1-2 在留資格一覧
在留資格 行なうことができる活動 該当例 在留期間 就労
外交
日本国政府が接受する外国政府の外交使節団若しくは領事機関の構成員,条約若 しくは国際慣行により外交使節と同様の特権及び免除を受ける者又はこれらの者 と同一の世帯に属する家族の構成員としての活動
外国政府の大使,公 使,総領事,代表団構 成員等及びその家族
外交活動の期間 〇
公用
日本国政府の承認した外国政府若しくは国際機関の公務に従事する者又はその者 と同一の世帯に属する家族の構成員としての活動(この表の外交の項に掲げる活 動を除く。)
外国政府の大使館・領 事館の職員,国際機関 等から公の用務で派遣 される者等及びその家 族
5年,3年,1年,3月,
30日又は15日 〇
教授 本邦の大学若しくはこれに準ずる機関又は高等専門学校において研究,研究の指
導又は教育をする活動 大学教授等 5年,3年,1年又は3月 〇
芸術 収入を伴う音楽、美術、文学その他の芸術上の活動 (この表の興行の項に掲げる 活動を除く。)
作曲家、画家、著述業
等 5年,3年,1年又は3月 〇
宗教 外国の宗教団体により本邦に派遣された宗教家の行う布教その他の宗教上の活動 外国の宗教団体から派
遣される宣教師等 5年,3年,1年又は3月 〇
報道 外国の報道機関との契約に基づいて行う取材その他の報道上の活動 外国の報道機関の記
者,カメラマン 5年,3年,1年又は3月 〇
高度専門職
【1号】高度の専門的な能力を有する人材として法務省令で定める基準に適合す る者が行う次のイからハまでのいずれかに該当する活動であって,我が国の学術 研究又は経済の発展に寄与することが見込まれるもの イ)法務大臣が指定する本 邦の公私の機関との契約に基づいて研究,研究の指導若しくは教育をする活動又 は当該活動と併せて当該活動と関連する事業を自ら経営し若しくは当該機関以外 の本邦の公私の機関との契約に基づいて研究,研究の指導若しくは教育をする活 動 ロ)法務大臣が指定する本邦の公私の機関との契約に基づいて自然科学若しく は人文科学の分野に属する知識若しくは技術を要する業務に従事する活動又は当 該活動と併せて当該活動と関連する事業を自ら経営する活動 ハ)法務大臣が指定 する本邦の公私の機関において貿易その他の事業の経営を行い若しくは当該事業 の管理に従事する活動又は当該活動と併せて当該活動と関連する事業を自ら経営
する活動 ポイント制による高度
人材
5年 〇
【2号】1号に掲げる活動を行った者であって,その在留が我が国の利益に資す るものとして法務省令で定める基準に適合するものが行う次に掲げる活動 イ)本 邦の公私の機関との契約に基づいて研究,研究の指導又は教育をする活動 ロ)本 邦の公私の機関との契約に基づいて自然科学又は人文科学の分野に属する知識又 は技術を要する業務に従事する活動 ハ)本邦の公私の機関において貿易その他の 事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動 ニ)2号イからハまでのい ずれかの活動と併せて行うこの表の教授,芸術,宗教,報道,法律・会計業務,
医療,教育,技術・人文知識・国際業務,興行,技能の項に掲げる活動(2号の イからハまでのいずれかに該当する活動を除く。)
無期限 〇
経営・管理
本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動
(この表の法律・会計業務の項に掲げる資格を有しなければ法律上行うことがで きないこととされている事業の経営又は管理に従事する活動を除く。)
企業等の経営者・管理 者
5年,3年,1年,4月又
は3月 〇
法律・会計業 務
外国法事務弁護士,外国公認会計士その他法律上資格を有する者が行うこととさ
れている法律又は会計に係る業務に従事する活動 弁護士,公認会計士等 5年,3年,1年又は3月 〇
医療 医師,歯科医師その他法律上資格を有する者が行うこととされている医療に係る 業務に従事する活動
医師,歯科医師,看護
師 5年,3年,1年又は3月 〇
研究 本邦の公私の機関との契約に基づいて研究を行う業務に従事する活動(この表の 教授の項に掲げる活動を除く。)
政府関係機関や私企業
等の研究者 5年,3年,1年又は3月 〇
教育
本邦の小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,専修学校又は 各種学校若しくは設備及び編制に関してこれに準ずる教育機関において語学教育 その他の教育をする活動
中学校・高等学校等の
語学教師等 5年,3年,1年又は3月 〇
11
注 :① 上 記 以 外 に 、「 永 住 者 」「 日 本 人 の 配 偶 者 等 」「 永 住 者 の 配 偶 者 等 」「 定 住 者 」 が あ る 。②2010 (平 成22) 年7 月1日 か ら「 技 能 実 習 (1号 イ 、ロ 、2号 イ 、ロ) が 新 設 さ れ た 。③2010 (平 成22) 年7月1日 か ら「 就 学 」の 在 留 資 格 が「 留 学 」へ 一 本 化 さ れ た 。④2015 (平 成27) 年4月1日 か ら 、「 投 資・経 営 」の 在 留 資 格 は「 経 営 ・ 管 理 」 に 、「 技 術 」 お よ び 「 人 文 知 識 ・ 国 際 業 務 」 は 「 技 術 ・ 人 文 知 識 ・ 国 際 業 務 」 に 改 め ら れ て い る 。 出 典:入 国 管 理 局 ウ ェ ブ サ イ ト「 在 留 資 格 一 覧 表 (平 成28年4月 現 在) な ら び に 東 京 外 国 人 雇 用 サ ー ビ ス セ ン ター
ウ ェ ブ サ イ ト 「 在 留 資 格 一 覧 表 」 よ り 筆 者 作 成 。 技術・人文知
識・国際業務
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若 しくは法律学,経済学,社会学 その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知 識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする 業務に従事する活動(この表の 教授,芸術,報道,経営・管理,法律・会計業 務,医療,研究,教育,企業内転勤,興行の項に掲げる活動を除く。)
機械工学等の技術者,
通訳,デザイナー,私 企業の語学教師,マー ケティング業務従事者 等
5年,3年,1年又は3月 〇
企業内転勤
本邦に本店,支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が 本邦にある事業所に期間を定めて転勤して当該事業所において行うこの表の技 術・人文知識・国際業務の項に掲げる活動
外国の事業所からの転
勤者 5年,3年,1年又は3月 〇
興行 演劇,演芸,演奏,スポ―ツ等の興行に係る活動又はその他の芸能活動(この表 の経営・管理の項に掲げる活動を除く。)
俳優,歌手,ダン サー,プロスポーツ選 手等
3年,1年,6月,3月又
は15日 〇
技能 本邦の公私の機関との契約に基づいて行う産業上の特殊な分野に属する熟練した 技能を要する業務に従事する活動
外国料理の調理師,ス ポーツ指導者,航空機 の操縦者,貴金属等の加 工職人等
5年,3年,1年又は3月 〇
技能実習
【1号】イ)本邦の公私の機関の外国にある事業所の職員又は本邦の公私の機関と 法務省令で定める事業上の関係を有する外国の公私の機関の外国にある事業所 の 職員がこれらの本邦の公私の機関との雇用契約に基づいて当該機関の本邦にある 事業所の業務に従事して行う技能等の修得をする活動(これらの職員がこれらの 本邦の 公私の機関の本邦にある事業所に受け入れられて行う当該活動に必要な知 識の修得をする活動を含む。)ロ)法務省令で定める要件に適合する営利を目的と しない団体により受け入れられて行う知識の修得及び当該団体の策定した計画に 基づき,当該団体の責任及び監理の下に本邦の公私の機関との雇用契約に基づい て当該機関の業務に従事して行う技能等の修得をする活動
技能実習生
1年,6月又は法務大 臣が個々に指定する期 間(1年を超えない範 囲)
〇
【2号】イ)1号イに掲げる活動に従事して技能等を修得した者が,当該技能等に 習熟するため,法務大臣が指定する本邦の公私の機関との雇用契約に基づいて当 該機関において当該技能等を要する業務に従事する活動 ロ)1号ロに掲げる活動 に従事して技能等を修得した者が,当該技能等に習熟するため,法務大臣が指定 する本邦の 公私の機関との雇用契約に基づいて当該機関 において当該技能等を 要する業務に従事する活動(法務省令で定める要件に適合する営利を目的としな い団体の責任及び監理の下に当該業務に従事するものに限る。)
〇
文化活動
収入を伴わない学術上若しくは芸術上の活動又は我が国特有の文化若しくは技芸 について専門的な研究を行い若しくは専門家の指導を受けてこれを修得する活動
(この表の留学,研修の項に掲げる活動を除く。)
日本文化の研究者等 3年,1年,6月又は3月 ×
短期滞在 本邦に短期間滞在して行う観光,保養,スポ―ツ,親族の訪問,見学,講習又は
会合への参加,業務連絡その他これらに類似する活動 観光客,会議参加者等
90日若しくは30日又は 15日以内の日を単位と する期間
×
留学
本邦の大学,高等専門学校,高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)若し くは特別支援学校の高等部,中 学校(中等教育学校の前期課程を含む。)若しく は特別支援学校の中学部,小学校若しくは特別支援学校の小学部,専修学校若し くは各種学校又は設備及び編制 に関してこれらに準ずる機関において教育を受け る活動
大学,短期大学,高等 専門学校,高等学校,
中学校及び小学校等の 学生
4年3月,4年,3年3月,
3年,2年3月,2年,1年 3月,1年,6月又は3月
×
研修 本邦の公私の機関により受け入れられて行う技能等の修得をする活動(この表の
技能実習1号,留学の項に掲げる活動を除く。) 研修生 1年,6月又は3月 ×
家族滞在
この表の教授から文化活動までの在留資格をもって在留する者(技能実習を除 く。)又はこの表の留学の在留資格をもって在留する者の扶養を受ける配偶者又 は子として行う日常的な活動
在留外国人が扶養する 配偶者・子
5年,4年3月,4年,3年 3月,3年,2年3月,2 年,1年3月,1年,6月 又は3月
×
特定活動 法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動
外交官等の家事使用 人,ワーキング・ホリ デー,経済連携協定に 基づく外国人看護師・
介護福祉士候補者等
5年,4年,3年,2年,1 年,6月,3月又は法務 大臣が個々に指定する 期間(5年を超えない範 囲)
△
12
外国人留学生に対するとらえ方も、多種多様である。たとえば、OECDの統計では、
勉学を目的として国境を越えた「留学生 (international students)」と統計データを提出 した国の国籍・永住権を持たない「外国人学生 (foreign students)」を区別している。オ ーストラリアでは、統計によっては「国境を越えた教育 (transnational education)」を含 む、高等専門学校、短期大学 (学士、修士、博士) の在籍者全てを留学生として数えて いる。アメリカでは「留学生」を「高等教育機関に在籍する者のうち、アメリカ市民 ではなく、移民ではなく、難民ではない者で、永住権を持たない者」と定義している (横 田, 2011:19-33)。
日本の場合、日本学生支援機構では、「出入国管理及び難民認定法別表第1に定める「留 学」の在留資格により、我が国の大学(大学院を含む)、短期大学、高等専門学校、専修学 校(専門課程)、我が国の大学に入学するための準備教育課程を設置する教育施設及び日本 語教育機関において教育を受ける外国人学生」と定義して調査を行っている (日本学生
支援機構, 2017a)。しかし、「留学生」と「外国人学生」の明確な区別はない。さらに、
日本には米国の Student and Exchange Visitor Information System (SEVIS) のような入国 管理と受入教育機関をつなぐ情報管理システムがないため、現在行われている毎年 5 月 1日付の在籍者数に基づく定点観測的な方法では、1 年未満の短期受け入れを含めた 留学生総数を正確に把握することができない (横田, 2008)。
さらに、2010 (平成 22) 年まで、日本語学校で学ぶ者は「就学生」であり、「留学生」
と区別されていたが、2010年 7 月以降は一本化され、留学生の在留資格を持つ者を「留 学生」としている8。したがって、現在の在留資格の上で「就学生」と「留学生」の区 別はないものの、本研究の対象者は「日本の大学や大学院を卒業 / 修了し、日本企業 に就職した者」であるため、本稿においてはこれを区別し、勉学を目的として国境を 越えて日本の大学あるいは大学院で学ぶ外国人学生に限って「外国人留学生」と定義
する (図 1-7)。2017 (平成 29) 年現在、日本の大学や大学院で学ぶ外国人留学生は、
123,919 人である (図 1-8)。
13
図 1-7 本研究における「外国人高度人材」と「外国人留学生」
出 典 : 筆 者 作 成 。
図 1-8 外国人留学生数の推移
出 典 : 日 本 学 生 支 援 機 構(2017b)「 平 成29年 度 外 国 人 留 学 生 在 籍 状 況 調 査 結 果 」。
14 2.3 研究対象
高度人材の予備軍である外国人留学生と、留学を経て日本で働く外国籍従業員の調 査を通じて、「なぜ日本企業は外国人留学生を受け入れ高度人材として社内で育成する のか」を明らかにすることより、研究対象は、「日本の大学や大学院を卒業 / 修了し、
日本企業に就職した者」である。
2013 (平成 25) 年の日本学生支援機構の調査によると、私費留学生の 65.0%が卒業後
は日本で就職したいと考えている (図 1-9)。しかしその一方で、2015 (平成27) 年度に 大学および大学院を卒業した外国人留学生のうち 32.8% が日本国内で就職をしている ものの、これは希望者の約半数にすぎない (日本学生支援機構, 2017b)9。外国人留学生 の多くは、希望を満たせぬまま帰国を余儀なくされているのが実情である。
図 1-9 外国人留学生の卒業後の進路希望
出 典 : 日 本 学 生 支 援 機 構 (2007, 2009, 2011, 2013, 2015) よ り 筆 者 作 成 。
通常、日本国内で就職した者に付与される在留資格は、「技術・人文知識・国際業務」
であり、2016 (平成 28) 年 12月における対象者は、161,124 人である (図 1-10)。
15
図 1-10 就労を認められている資格別在留外国人 (2016 年 12 月)
注 :「 外 交 」、「 公 用 」 に つ い て は 公 表 資 料 な し 。 そ れ ら を 除 い た 就 労 を 認 め ら れ て い る 在 留 外 国 人 総 数 は 、546,915人 。 出 典 : 法 務 省 (2017) 16-12-03 第3表 「 在 留 資 格 別 年 齢 ・ 男 女 別 在 留 外 国 人 」 よ り 筆 者 作 成 。
また、2016 (平成 28) 年に「留学」の在留資格から、就職を目的とする在留資格へ変
更した 19,435人のうち、17,353人が「技術・人文知識・国際業務」に変更し、全体の
89.2%を占めている (図 1-11)。
なお、日本企業で働く外国籍従業員が取得する在留資格としては、「企業内転勤」も あり得るが、「留学」の在留資格からの変更がないことからも明らかなように、日本の 大学や大学院を卒業 / 修了している可能性が低いことに加え、必ずしも本人の意思で 日本に滞在しているとは限らないことより、研究対象には含めない。一方、高度人材 予備軍として、日本の大学や大学院で学位を取得する予定の外国人留学生も研究対象 とする。
16
図 1-11 在留資格別「留学生」等からの就職を目的とする 在留資格変更許可件数の推移
注 :2015 (平 成27) 年 に 「 人 文 知 識 ・ 国 際 業 務 」 と 「 技 術 」 が 統 合 さ れ 、「 高 度 専 門 職 」 が 新 設 さ れ た 。 出 典 : 法 務 省 入 国 管 理 局 (2017a) よ り 筆 者 作 成 。
3. 先行研究の検討
「外国人高度人材のために、長期雇用に基づいた採用・配置・育成の特長を変える べき」という先行研究を、「外国人高度人材」と「日本的人材育成の特長」の点からま とめる。外国人高度人材に関する研究では、日本的雇用慣行に基づいた人材育成は、
過去における経済的合理システムの残滓であり、外国人高度人材のみならず日本人に とっても時代にそぐわなくなっている (八代, 1997、八代, 2015) と考えられている。ま た、イノベーションのために外国人の採用が必要だが、日本的雇用慣行と働き方への 適合を求めることが雇用の足かせになっているとの視点 (村上, 2015) や、長期雇用を
17
望んでいない外国人に特化した採用・募集、キャリア支援がダイバーシティ・マネジ メントの柱であるとする主張 (塚崎, 2008) などから、日本的雇用の形態を大幅に変え ていく必要性を強調する研究が見られる。しかしながら、そのような見解に全面的に 賛成することはできない。そこで、小池 (1991, 1993, 1994, 2002, 2005, 2015) の分析に 依拠しながら日本的長期雇用に基づいた人材育成の特長をまとめ、批判する先行研究 との違いを明確にする。
3.1 日本的人材育成の特長の先行研究
本研究における対象は、「日本の大学や大学院を卒業 / 修了し、日本企業で働く外国 籍従業員」である。企業が従業員を採用した後、どのように育成していくのか。もし 日本企業における人材育成に特長があるとすれば、「日本的人材育成」とはどのようも のなのか。それを明らかにするために、大卒ホワイトカラーに対する先行研究におけ る、採用、昇格・昇進に関するタテのキャリア、職能間および職能内で経験するヨコ のキャリア10、スキル形成のための人材育成について、そのポイントを整理していきた い。
日本的人材育成について検討を加えていく上で、大卒ホワイトカラーを対象として いる先行研究を引き合いに出したのは、本研究における聴取調査対象の「大学・大学 院を卒業 / 修了した高度人材」が日本における「大卒ホワイトカラー」とほぼ同義と 考えられるからである。壽里 (1996) によると、ホワイトカラーは、20 世紀初頭から アメリカ社会において用いられた通俗的かつ慣用的な表現であり、ある種の曖昧さが 内包されてきた上、追加される職種によってカテゴリーの境界はますます不鮮明なも のになってしまっている (壽里, 1996:1)。ここでは、小池が記述する「事務所で働く人」
(小池, 2005:9) がホワイトカラーであり、具体的には専門・技術的、事務、販売業務等 の従事者11がその定義に当てはまるとしたい。
また、日本的人材育成の特長を明らかにするために先行研究を整理してきたが、日 本的人材育成は過去においては「特長」であったものの、現在では負の側面を抱える
「特徴」にすぎないという見方もあるため、それも加味した上で論じていきたい。
3.1.1 国際比較
日米英のホワイトカラーにおける資格とビジネス学位の関連を比較した研究では、
18
日本では新卒入社に保有資格が必要だった者は 7.4%に過ぎず、アメリカ (17.9%) やイ
ギリス (12.0%) を下回っている。また、資格を取得した場合、「転職」「異動」「給与」
「昇進」で有利になるとの回答はアメリカやイギリスの半分程度にすぎず、日本では 雇用・評価・報酬など直接的利益にはつながっていない (宮下, 2013:122-123)。
高田 (1994) は、日米ホワイトカラーを比較し、日本のホワイトカラーが持つ特徴を
「圧力鍋」システムとまとめている。それは、労働者の職業キャリアが企業別に分断 され、内部労働市場が強固に成立している状態にあるということを意味している。し たがって、内部労働市場内での職種の壁が弱い。また、短期的な業績よりも、長期的 な成長や合理性が重視される。その結果、ブルーカラーの場合には、QC サークルのよ うな生産性の努力がなされる点に研究の焦点が当てられてきたのに対し、ホワイトカ ラーについては、効率的働き方に関する研究や実践が少ない。また、キャリアが個人 化されておらず、本人の選択の余地が少ないのが通常である。したがって、長期的視 点に立つ人材管理という側面は、ブルーカラーにとっては効果的なものだが、ホワイ トカラーにはそうではないと結論づけられる (高田, 1994:1-4)。ただし、これらの特徴 は、日本企業数社における聴取調査を基にしたものであり、アメリカについては過去 の聴取経験を引用したものにすぎず、対照群とは言い難い面を持っている。
一方、本田 (沖津, 2002) による独占体制の廃止と市場競争体制の導入に伴い分割民 営化された日本とアメリカの電気通信企業を調査対象とした比較では、日本企業の場 合には、分割前は幹部候補の「本社採用」と第一線の実務の担い手の「地方採用」に 分けられており、前者は早い段階から管理職に登用されていたが、分割後は大卒者が 一括採用され、早期選抜プログラムについてはなくなったと言える。また、入社後の 教育を重視していることもあって、新卒採用が圧倒的多数を占めており、大学におい て何を専門分野としていたのかについてはほとんど問題にされていない。そして、分 割前の本社採用者については複数職能型、地方採用者については職能内一領域型とい う 傾 向 が 強 か っ た が 、 一 括 採 用 さ れ る よ う に な っ て か ら は 「 幅 広 い 一 職 能 型 (小 池,
2002:25-32)」へと統合された。その際、支店での第一線業務を経験することに高い価
値が置かれており、電柱に登る、マンホールにもぐる、料金を回収する、宿直をする といった現場経験もしなければならなくなっている。それに対して、アメリカの企業 は、他社経験者の中途採用が増え、入社前の教育経験についても重視する。したがっ て、採用時の格付けやその後の昇進・昇格速度は、個々人により大きく異なり、MBA
19
取得者などは最初から早期選抜プログラムのラインに乗せられていく。職能面での専 門性を守りながら多くの部署を経験することを通じてスキルを高めていく点では日本 企業 の場 合 と同 じで あ るが 、 ア メ リカ の場 合 には 現場 を 経験 する こ とは ない12 (本田 (沖津), 2002:163-182)。
本田 (2002) による日本とイギリスのチェーンストアの比較でも、ほぼ同様の結果が
見出されている。日本企業の従業員に他社経験者が少ない一方、イギリスの企業には 他社経験者の方が多く、早期選抜プログラムも採用されているのが普通である。しか し、他社経験者の採用は課長レベルまでであり、部長以上になるとおしなべて企業内 昇進になる。また、日本企業では初めは必ずストアに配置し、その後複数の職能領域、
単一の商品領域を経験させる。その結果、消費者行動や競合ストアの情報などを基に 棚割修正や値下げを行うのは現場である。ところが、イギリスの企業ではそのような 現場経験は必須とされていない。本部では大卒を採用してきたものの、ストアの現場 ではほとんど採用されなかったという経緯もあり、本部集権化が進み、ストア側の仕 事は本部が決定した指示に従う形となっている (本田, 2002:121- 128)。
アメリカでは、比較的若年の層を中心とした外部労働市場が形成されているが、日 本ではそうした市場が未発達なこともあり、新興業種や新興企業を除けば大企業での 中途採用はまだ主流とは言えない。大学での専門分野を問わず新卒採用をする場合、
企業特殊的スキルは教育しやすいが、汎用性の高いスキル形成は社内教育だけでは難 しい。そこで、日本企業では従業員を国内外の大学院へ派遣する、あるいは他社へ出 向 さ せ る と い う 措 置 を 取 る こ と で 、 そ れ ら を カ バ ー し て い る (本 田(沖 津),
2002:173-182)。また、OJT やジョブ・ローテーションを評価し、長期的育成 が重視さ
れている (宮下, 2013:127)。
幅広いキャリアを経験することは、ジェネラリストを指すわけではないとの指摘も ある。尾川 (2006) は、日本の製薬会社の研究者のキャリア追跡を通じて、入社後に一 貫して薬理部門やその中の特定分野に固定して所属しているわけではないことを明ら かにしている。この背景には、企業での研究は、テーマ提案姿勢が重視されることに 加え、テーマリーダーは研究者としての能力と、計画、組織化、実施・調整、統制と いった経営管理的要素が必要とされるという事情がある。それでも、長期的に従事し たテーマで特定部門の深い専門知識と技術を習得し、その後他の部門でそのテーマの リーダーに就く、というように全くランダムに異動が行われているわけではない。つ
20
まり、「幅広い一職能型 (小池, 2002:25-32) 」が、この事例でも示されているのである (尾川, 2006:76-91)。
小池は、このような関連の深い小領域間の相乗的な相互作用のことを「重層的効果」
と呼び、ある小領域の経験が他の小領域の仕事遂行能力に大きく寄与すると見ている。
それは、専門の中での幅広い領域を経験することで、需要や景気、長期の構造変動、
さらには技術や製品の変化によって生じる多様性と変動に対応することもできるから である。もしこのような効果を期待できないならば、企業内で長期のキャリアを用意 する必要がないということになる、と論じている (小池, 1991:14-18、小池, 1993:147-150、 小池, 2005:64-66)。
欧米との比較調査において、日本以外の国では他社経験者の入社が多く見られたも のの、それは 20-30 歳代に集中し、課長や部長クラスは内部昇格者から登用するとい うのも、重層的効果を期待するからであろう。佐藤 (2002) による日独米の量的調査結 果においても裏づけられている。日本が現在の会社のみの経験者が 8 割強に対し、ア メリカが 2 割弱、ドイツも 3 割弱しかおらず、複数の企業を経験していることの方が 多数派であるが、転社経験者の現在の会社への入社平均年齢は各国とも 34 歳前後でほ とんど差がない (佐藤, 2002:251-252)。
山本 (2002) は、先行論文の分析から、日本企業における昇進の時期がアメリカの企
業よりも遅いことを明らかにしている。日本とアメリカの幅広い業種における第一選 抜の時期を比較したところ、アメリカの 9 企業では、1 社のみが入社 7-10年と遅いが、
4 企業では採用時に、残りも入社 3-4 年で始まっている。一方、日本の 12 企業で入社 時はなく、最も早い企業で 4年目であり、他は 5-16年目とアメリカの企業よりも遅い。
また、入社 5年前後の比較的早い選抜をする 6社のうち 3社では、9割以上が同時に昇 進・昇格していることより、選抜の色彩は強くないと言えよう (山本, 2002:67-73)。ア メリカやドイツで複数の企業を経験している者が多数派であるが、その背景には入社 10 年頃には 5割前後が昇進の頭打ちを迎えることより、転社が促されていることも考 えられる。
3.1.2 日本のホワイトカラーの特長
日本企業の遅い選抜は、長期のリーグ戦の後、選抜された者によるトーナメント戦13 を採用していることを意味する。猪木 (2002) によると、早すぎる選抜は判断を誤る可
21
能性があるだけでなく、選抜された者のその後の働く意欲を喪失させ、選抜されなか った者の意欲をも喪失させる可能性もある。逆に遅すぎると、評価や選抜の確度は高 まるものの、有能な者が不満を持ち、外部から引き抜かれたり自ら転出したりする可 能性も高まっていく (猪木, 2002:41)。
なお、佐藤 (1999) によると、遅い選抜のためには、次の 4つの条件を満たす必要が ある。まず、かなりの高位の職位まで高い昇進確率を維持しなければならない。たと えば、高卒従業員など低い役職までしか昇進機会が開かれていない従業員層が多数存 在することで、大卒が高い職位を独占できるような状態が見られる。次に、昇進や昇 給の差がわずかでも、それを意識できる準拠集団が必要である。一括採用における同 期入社組が、それに相当するだろう。そして、昇進や昇給の差がわずかであるのと同 じように、選抜の時期までは能力のばらつきが大きくならないように配慮される。最 後 に 、 昇 進 管 理 の 対 象 者 が 昇 進 志 向 を 共 有 し て い る こ と が 求 め ら れ る (佐 藤, 1999:54-55)。
これらを考え合わせると、小池が分析するように、多くの日本の大企業における特 長は、次のようにまとめることができる。まず、採用時において、
① 大卒ホワイトカラーは一括採用され、米国で見られるような幹部候補生の別枠採用 はほとんど見られない。
② 企業の成長段階によるが、多くは新卒採用である。
また、昇進・昇格のタテのキャリアにおいては、
③ 採用時からの早期選抜はほとんど見られない。
④ 長期に亘るリーグ戦の後、トーナメント戦へ進む遅い選抜である。
そのために、異動を含めたスキル形成のためのヨコのキャリアは、
⑤ キャリアの初期の段階で、現場を経験させる。
⑥ 幅広く経験させるがランダムではなく、「幅広い一職能型」となるよう設計されて いる。
そして、これらは
⑦ 長期雇用を前提としている。
3.1.3 日本的人材育成に対する批判
八代尚宏 (1997)14は、日本的雇用慣行の特徴15として、①長期的な雇用関係 (終身
22
雇用)、②年齢や勤続年数に比例して高まる賃金体系 (年功賃金)、③企業別に組織され た労働組合、などをあげ、「雇用者の技能形成のカギを握る企業内訓練を効率的に行う ための、きわめて経済合理的システム (八代, 1997:i)」と評価しながらも、それらは現 代においてはそぐわなくなっていると論じている。
日本企業では、企業内訓練を重視し、未熟練の新卒労働者を定期的に異なる職種・
職場へと配置転換させることで、長期的に企業内の多様な業務に対応できる熟練労働 者に育成するシステムが採用されている。しかし、経済の低成長期においては、頻繁 な 配 置 転 換 は 過 剰 な 投 資 と な り 、 か え っ て コ ス ト が か さ む 結 果 に な る 。 ま た 、 小 池
(1994) が指摘するとおり、企業内訓練を通じた「遅い昇進」に基づく長期の「見えに
くい競争」は高度の技能を形成するシステムであるが、八代 (2015) は多くの従業員が
「出世への淡い夢」のために長時間労働をすることにつながっていると批判し、限ら れた管理職ポストを多くの従業員が目指すより、早期に管理職候補が選別され、外部 から幹部が登用される可能性が大きい欧米型の「早い昇進」の方が、多くの従業員に とっては公平な仕組みであると提案する (八代, 2015:40-44, 63-67)。さらに、長期雇用 の代償として、慢性的な長時間労働・頻繁な配置転換・転勤を受け入れさせており、
現代におけるワーク・ライフ・バランスを実現していく妨げとなってしまっており、
女 性 や 高 齢 者 が 働 き や す い 社 会 環 境 に 変 え て い く こ と が 必 要 で あ る 、 と 考 え て い る (八代, 2015:53-55)。
3.1.4 日本的人材育成の必要性
しかし、長期雇用に基づく企業内での人材育成は、高度経済成長期を終えた現代に おいては時代遅れになってしまっていると断言してよいのだろうか。
まず、配置転換におけるコストである。配置転換がランダムではなく、「幅広い一職 能型」となるよう設計されている16ことを考えれば、無駄なコストと言い切ることはで きない。早期選抜をすれば、アメリカの通信会社の事例 (本田(沖津), 2002) のように、
職能面での専門性は守りながら多くの部署を経験することを通じてスキルを高めるこ とができるのは必要最小限の人材のみであり、コストは抑えられるかもしれない。し かし、「誰が玉で誰が石なのかは時代によって異なる17」上に、大学での専門分野を問 わず新卒採用を行っている日本企業においては、早期に選抜すること自体にリスクが 内在する。
23
さらに、慢性的な長時間労働・頻繁な配置転換・転勤の受け入れは、必ずしも長期 雇用の代償とは言えず、ワーク・ライフ・バランスの実現のためのフレキシブルな働 き方と、長期雇用に基づく企業内での人材育成の両立も不可能ではないと思われる。
本研究の聴取調査において女性の外国籍従業員18が言及していたように、産前産後休業 や育児に伴う時間短縮勤務など公私の比重をその時々によって変えられるフレキシブ ルな働き方は、長期雇用による安心感があってこそ実現できるものとも考えられるか らである19。したがって、長期雇用に基づく人材育成と働き方については、必ずしもリ ンクするものではないと言うことができるであろう。
表 1-3 八代尚宏の小池批判と小池に基づく本研究の比較
出 典 : 筆 者 作 成 。
後述するが、日本企業のイノベーション・ランキングは決して低くない。創造性を イノベーションへと結びつけるには、発案者の実現へのモチベーションと、強い社内 での人脈が必要だが、日本企業のホワイトカラーは、多くの部署を経験することで、
社内での人脈を形成し、それを太いものに強化していく傾向が見られる。その結果、
Wegner et al. (1991) が示したように、組織の各メンバーが他のメンバーの「誰が何を
知っているか」を知っているトランザクティブ・メモリーが高まり、組織自体も強化
八代尚宏の小池批判 小池に基づく本研究
日本的人材育成
に対する考え方 日本的人材育成は時代遅れ 日本的人材育成は外国籍従業員育成においても 有効
小池による 日本的人材育成
の特長
右の6つの日本的人材育成の特長のうち、主に
①-④について批判
① 多くは一括採用される
② 多くは新卒採用である
③ 採用時からの早期選抜はほとんど見られない
④ 長期に亘るリーグ戦の後、トーナメント戦へ 進む遅い選抜である
⑤ キャリアの初期の段階で、現場を経験させる
⑥ ランダムではなく「幅広い一職能型」となる よう設計されている
八 代 の 批 判 1 遅い昇進は長時間労働につながる 早期選抜で公平な組織へ変える必要あり
遅い昇進と長時間労働が直結するとは限らない 早期選抜自体にリスクあり
①専門性を問わない新卒採用だから
②どの能力が求められるかは時代により変わる ため
八 代 の 批 判 2 配置転換はワークライフバランスを損ねる
配置転換はランダムではなく「幅広い一職能 型」により必要
必ずしもワークライフバランスと直結するわけ ではない