﹃ 宇 治 拾 遺 物 語 ﹄ 九 二 話 ﹁ 五 色 鹿 事
﹂ 考
│
│ 日 韓比 較 文 学の 視 点 から
│
│
金
恩 愛
は じ め に
﹃ 宇治 拾遺 物語
﹄︵ 以下
︑﹃ 宇 治拾 遺﹄
︶の 説話
︑九 二話
﹁五 色鹿 事﹂
︵ 以下
︑﹁ 五色 鹿﹂
︶ を取 り上 げた い︒
﹃新 日本 古 典 文 学 大系
﹄︵ 以 下︑
﹃ 新大 系
﹄︶ は︑ 本 説話 の 出 典 につ い て︑ 同 話︵ 1︶ に︑
﹃今 昔 物 語集
﹄︵ 以 下︑
﹃ 今 昔﹄
︶第 巻 五 第 一八
︑同 話︵ 2︶ に︑
﹁ 仏説 九色 鹿経
﹂︑
﹃ 法苑 珠林
﹄五
〇・ 背恩 篇五 二︑
﹁経 律異 相﹂ 一一
︑﹃ 六 度集 経﹄ 六・ 五八
︑
﹁諸 経 要 集 八 背 恩 縁 三
﹂︑
﹁ 金 言 類 聚 抄
﹂二 三
︑﹃ 御 伽 草 子
﹄﹁ る し 長 者﹂ 類 話
・関 連 話 に
︑﹁ 菩 薩 本 縁 経 下
﹂鹿 品 七
︑
﹃根 本 説 一 切 有 部 毘 奈 耶 破 僧 事﹄ 十 五﹁ 摩 詞 僧 祇 律﹂ 一︑
﹁莫 高 窟 壁 画﹂
﹁ジ ャ ー タ カ・ 四 八 二 ル ル の 前 生 物 語
﹂︑
﹃日 本昔 話大 成﹄ 二三 四﹁ 報恩 動物
・恩 知ら ずの 人﹂ など の文 献を 指摘 して いる
⑴
︒ 現在
︑﹃ 宇 治拾 遺﹄ の中 では
︑知 られ てい るか ぎり
︑九 二話
﹁五 色鹿
﹂の 他︑
﹃法 苑珠 林﹄ や﹃ ジャ ータ カ﹄ など を 出 典と する とい われ る説 話が 多数 存在 する
︒そ れら は次 のよ うで ある
︒
﹃法 苑珠 林﹄ を出 典と する 説話
― 627 ―
①七 話﹁ 竜門 聖鹿 に欲 替事
﹂﹃ 法 苑珠 林﹄ 一〇 出家 篇一
②八 五話
﹁留 志長 者の 事﹂
﹃ 法苑 珠林
﹄七 七・ 十悪 篇八 四︵ ジャ ータ カ五 三五
︶
③九 一話
﹁僧 伽多
︑羅 刹の 国に 行く 事﹂
﹃ 法苑 珠林
﹄三 一・ 妖怪 篇二 四
④九 二話
﹁五 色鹿 事﹂
﹃ 法苑 珠林
﹄五
〇・ 背恩 篇五 二
⑤一 三七 話﹁ 達磨 見天 竺僧 行事
﹂﹃ 法 苑珠 林﹄ 三四
・摂 念篇 二八
⑥一 五二 話﹁ 八歳 童孔 子問 答事
﹂﹃ 法 苑珠 林﹄ 四・ 日月 篇三
⑦一 六一 話﹁ 上緒 主得 金事
﹂﹃ 法 苑珠 林﹄ 五六
・貧 賤篇 六四
⑧一 六四 話﹁ 亀を 買っ て放 事﹂
﹃ 法苑 珠林
﹄一 八・ 敬法 篇
⑨一 六七 話﹁ 或唐 人︑ 女の 羊に 生た る知 らず して 殺す 事﹂
﹃ 法苑 珠林
﹄七 四・ 十悪 篇八 四
⑩一 七一 話﹁ 渡天 僧入 穴事
﹂﹃ 法 苑珠 林﹄ 五六
・道 篇四
⑪一 七二 話﹁ 寂昭 上人 飛鉢 事﹂
﹃ 法苑 珠林
﹄四 二・ 愛請 篇三 九
⑫一 九五 話﹁ 秦始 皇自 天天 竺来 僧禁 獄の 事﹂
﹃ 法苑 珠林
﹄一 二・ 千仏 篇五
﹃ジ ャー タカ
﹄を 出典 とす る話
①八 五話
﹁留 志長 者の 事﹂ ジャ ータ カ五 三五
②九 一話
﹁僧 伽多
︑羅 刹の 国に 行く 事﹂ ジャ ータ カ一 九六
③九 二話
﹁五 色鹿 事﹂ ジャ ータ カ四 八二
④九 六話
﹁長 谷寺 参籠 男利 生に 預か る事
﹂ジ ャー タカ 四
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 628 ―
以上
︑こ れ ら の説 話 の 中 から
︑私 は
︑す で に八 五 話﹁ 留 志長 者 事
﹂⑵
と
︑九 六 話﹁ 長 谷寺 参 籠 男利 生 に 預 かる 事
﹂⑶
に つい て考 察し た︒ それ らに 続き
︑今 回は
﹃宇 治拾 遺﹄ 九二 話﹁ 五色 鹿事
﹂に つい て考 察し たい
︒ この 説話
﹁五 色鹿
﹂に つい ては
︑イ ン ドの ジ ャ ータ カ
︑中 国 仏典
︑そ し て 日 本の
﹃今 昔
﹄と い った 文 献 と とも に
︑
﹃日 本昔 話大 成﹄ など に紹 介さ れて いる よう な
︑口 承 によ る 昔 話な ど が 幅 広く 分 布 して い る︒ 本 論で は
︑日 本
・韓 国
・ 中国 の間 に共 有さ れて いる 話 型を 明 ら かに す る とと も に
︑日 本 昔話
﹁五 色 鹿﹂ の 類型
︑及 び
﹃宇 治 拾 遺﹄
﹁五 色 鹿 事
﹂の 表現 の特 質に つい て︑ 日韓 比較 文学 の視 点か ら考 察し たい
︒ 第一
章
﹃ 宇治 拾 遺
﹄﹁ 五 色 鹿事
﹂ の 話型 と 構 成 まず
﹃宇 治拾 遺﹄ 九二 話﹁ 五色 鹿事
﹂か ら事 項 を取 り 出 す︒ その 中 で︑ 説 話を 構 成 す る骨 格 を なす 基 本 的 事項 と
︑ 付 加的 に形 成さ れて いる 説明 的事 項と を区 分す るこ とに した い︒ する と︑ 次の よう な結 果が 得ら れる
︒太 字が 基本 的 事 項で ある
︒
︵1
︶九 二話
﹁五 色鹿 事﹂ の構 成 1 天竺 に︑ 身の 色は 五色 で︑ 角の 色は 白い 鹿が いた
︒ 鹿は
︑人 に知 られ ず深 い山 に住 んで いた
︒ 鹿は
︑山 で烏 を友 とし て過 す︒ ある 時︑ 男が 川に 流れ て死 にそ うに なる
︒
― 629 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
5 鹿は
︑男 を助 ける
︒ 男は
︑鹿 に恩 を返 すと 言う
︒ 鹿は 男に
︑自 分の 居場 所を 人に 語っ ては いけ ない と頼 む︒ 鹿は
︑人 が知 った ら皮 を取 るた め殺 され ると 言う
︒ 男は
︑何 度も 契り 約束 する
︒ 10
男は
︑里 に帰 えて 月日 を送 れて も人 に話 さな い︒ 国の 后は
︑五 色の 鹿の 夢を 見る
︒ 后は 大王 に︑ 五色 の鹿 を探 して 欲し いと 申す
︒ 大王 は︑ 五色 の鹿 を探 した 者に 金銀 を与 える と下 す︒ 男は
︑大 王に 鹿の 居場 所を 申す
︒ 15
男は
︑大 王に 鹿を 捕ら え差 し上 げる と申 す︒ 大王 は︑ 多く の狩 人を つれ て狩 りに 出る
︒ 大王 は︑ 男を 道案 内に 連れ て行 く︒ 鳥が
︑大 王と 狩人 たち を見 て驚 く︒ 鳥は 声を あげ て泣 いて
︑鹿 を起 こす
︒ 20
鳥は
︑鹿 に大 王と 大勢 の狩 人を つれ て来 ると 言う
︒ 鹿は
︑大 王の 御輿 のそ ばへ 歩み 寄る
︒ 狩人 たち は︑ 鹿に 矢を 射す とす る︒
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 630 ―
大王 は︑ 狩人 を止 めさ せる
︒ 鹿は 大王 に︑ どう して 自分 の居 場所 を知 った かと 聞く
︒ 25
大王 は︑ 男を 指す
︒ 鹿は
︑顔 のあ ざを 見て 自分 が助 けた 男で ある こと が分 かる
︒ 鹿は 男に
︑人 に知 らせ ない と契 った こと を忘 れた かと 恨む
︒ 鹿は 男に
︑恩 を忘 れた と責 める
︒ 鹿は 大王 に︑ 男の 命を 助け た事 情を 申す
︒ 30
鹿は
︑男 に深 い恨 みを 持っ て泣 く︒ 大王 は︑ 鹿の 話を 聞い て涙 を流 す︒ 大王 は鹿 に︑ 畜生 なれ ども 慈悲 をも て人 を助 けた と褒 める
︒ 大王 は︑ 恩を 忘れ た男 を畜 生だ と言 う︒ 大王 は︑ 男の 首を 切る
︒ 35
大王 は︑ 鹿を 殺す 者は 罪を 問わ すと 命ず る︒ その 後は
︑天 下安 全で 国は 豊か にな った
⑷
︒ 1行 目か ら5 行目 まで は鹿 が危 機に 落ち た人 間を 助け ると いう この 説話 の設 定部 分で ある
︒ 6行 目か 10ら 行目 まで は︑ 鹿が 山深 く隠 れて いる 理由 とと もに
︑他 にこ の場 所を 言っ ては いけ ない とい う鹿 と助 け ら れた 人間 と約 束す る場 面で ある
︒こ こで は命 を助 けら れた 人間 の鹿 に対 する 感謝 の気 持ち が読 み取 れる この 説話 の 発 端部 であ る︒ しか し︑ 13行 目か 17ら 行目 は欲 に目 が眩 んで 恩を 忘れ てし まう 人間 の姿 が語 られ てい る︒ さら に︑ 18
― 631 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
行 目か 22ら 行目 まで は鹿 が危 機の 直面 する 場面 で︑ 26行 目か 30ら 行目 まで は︑ 人間 の裏 切り に対 する 鹿の 恨み と悲 し み が読 み取 れる
︒こ こま でが 展開 部分 であ る︒ その 後︑ 31行 目か 36ら 行目 まで は︑ 鹿か らこ れま での 事情 を聞 いた 王 様 は感 動し て男 を殺 し︑ 鹿は 助か ると いう 結末 部分 であ る︒
︵2
︶﹁ 五色 鹿事
﹂の 先行 研究 それ では まず 第九 二話 に関 する 先行 研究 を概 観し てお きた い︒
① 中 島 悦 次 校 注
﹃ 宇 治 拾 遺 物 語 ・ 打 聞 集 全 註 解
﹄ 有 精 堂 出 版
︑ 一 九 七
〇 年
これ は﹃ 今昔﹄第 巻五
︑第 一八 と同 話で ある
︒そ れは
︑﹃ 法 苑珠 林﹄ 巻五
〇背 恩篇 引証 部か
︑﹁ 九色 鹿経
﹂の 翻訳 で あ ろ う︒ け れど 本 書 では 話 の 主 旨が 変 え られ て
︑﹁ 恩 を知 れ
﹂と い う こと が 強 調 さ れ て い る︒
﹃ 今 昔﹄ で は 終 わ り を
﹁然 レバ
︑恩 ヲ忘 ルヽ ハ人 ノ中 ニ有 リ︒ 人ヲ 助ク ル ハ 獸ノ 中 ニ 有リ
︒此 レ 今 モ 昔モ 有 ル 事也
︒彼 ノ 九 色ノ 鹿 ハ
︑今 ノ 釈 迦仏 ニ在 マス
︒心 ヲ通 ゼシ 烏ハ
︑阿 難也
︒后 ト云 ハ︑ 今ノ 孫陀 利也
︒水 ニ溺 レタ リシ 男ハ
︑今 ノ提 婆達 多也 トナ ム と 語リ 伝ヘ タル トヤ
﹂で 結ん で︑ 全く
﹁本 生 経﹂ のま ま に 前生 譚 で ある
︒﹃ 宇 治 拾 遺﹄ の作 者 に とっ て は こう し た こ と は不 用し てい ない
︒﹃ 平 家物 語﹄ 巻二 小松 の教 訓の 条 に﹁ 恩 を知 る を 以て 人 と は 云う ぞ
︒恩 を 知ら ざ る をば 畜 生 と こ そい へ︒
﹂ と見 える よう な当 時の 道徳 的傾 向の 示唆 され てい る話 であ る︒
② 小 林 智 昭 校 注
﹃ 日 本 古 典 文 学 全 集 宇 治 拾 遺 物 語
﹄ 小 学 館
︑ 一 九 七 五 年
原典 は﹃ 仏説 九色 鹿経﹄︵ 大 正新 修大 蔵経
三 巻・ 本縁 部上 所収
︶と その 異訳 であ る﹃ 六度 集経
︵同 右︑ 三巻 所収
︶ 巻 六﹁ 修凡 鹿王 本生
﹂で ある
︒︵
﹃ 法苑 珠林
﹄五 十・ 背恩 篇五 二の 引証 部に は︑
﹃ 仏説 九色 鹿経
﹄を 引用 する
︶︒ それ に よ ると この 話の 末尾 は︑ その 後国 内平 各穏 に五 穀豊 熟し
︑民 には 疾病 がな かっ たと あり
︑つ いで 本話 中の 夫人 は孫 阿
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 632 ―
利
︑鳥 は阿 難︑ 溺人 はつ ねに 釈尊 に敵 対し た調 達︵ 提婆 達多
︶︑ 鹿 は釈 尊の 前生 修行 を説 いた 本生 説話 にな って いる
︒
﹃今 昔﹄ 巻五 第一 八話 もそ れを その まま に踏 襲し たが
︑本 話 で は本 生 譚 の部 分 を 削 り︑ 仏説 色 を すっ か り ぬぐ い 去 っ て 慈悲 報恩 を説 く動 物説 話に 変え てい る︒ こう いう とこ ろに 世俗 説話 化す るこ とに 重さ をお く本 話の 特色 がう かが わ れ る︒
③ 大 島 建 彦 校 注
﹃ 新 潮 日 本 古 典 集 成 宇 治 拾 遺 物 語
﹄ 新 潮 社
︑ 一 九 八 五 年
この 説話 の原 拠は︑﹃ 仏 説 九色 鹿 経﹄ の 記事 で あ っ て︑
﹃経 律 異 相﹄ 一一
│一 一
︑﹃ 法 苑珠 林
﹄六 三│ 五 二な ど に 引 か れて いる
︒そ の末 には
︑仏 の言 葉と して
︑﹁ 爾 時九 色鹿 者我 身是 也︒ 時国 王者 今悦 頭檀 是︒ 時王 夫人 者今 先陀 利是
︒ 時 溺人 者今 調達 是﹂ と記 され てお り︑ やは り本 生 譚の 形 態 を示 し て いる
︒こ の 調 達 とい う に は︑ 提婆 達 多 に 当た り
︑ つ ねに 釈尊 に敵 対し たも のと 伝 えら れ る︒
﹃ 今昔
﹄五
│一 八 に も︑ これ と 同 じ 説話 が 揚 げら れ て いる が
︑や は り﹁ 彼 ノ 九色 ノ鹿 ハ︑ 今ノ 釈迦 仏ニ 在マ ス︒ 心ヲ 通ゼ シ烏 ハ︑ 阿難 也︒ 后ト 云ハ
︑今 ノ孫 陀利 也︒ 水ニ 溺レ タリ シ男 ハ︑ 今 ノ 提婆 達多 也ト ナム と語 リ伝 ヘタ ルト ヤ﹂ と結 ばれ てい る︒ 本書 では
︑こ のよ うな 仏教 色を 失っ て︑ 一つ の動 物説 話 に 変え られ
︑お もに 慈悲 報恩 につ いて 説か れて いる
︒野 村純 一氏 の﹃ 昔話 伝承 の研 究﹄ に示 され たよ うに
︑こ の系 統 の 説話 は︑ 後代 まで 説教 師に よっ て語 られ たよ うで あり
︑栃 木県 芳賀 郡︵
﹃ 下野 昔話 集﹄
︶︑ 富 山県 婦負 郡︵
﹃富 山県 明 治 期口 承文 芸資 料集 成﹄
︶︑ 宮 崎県 西都 市︵
﹃ 続日 向の 民話
﹄二
︶︑ 鹿児 島県 会於 郡︵
﹃ 手無 し娘
﹄︶ など に︑ 昔話 に形 態 を とっ て伝 えら れて いる
︒
④ 小 林 智 昭
・ 増 古 和 子 校 注 ﹃ 宇 治 拾 遺 物 語 評 釈
﹄ 武 蔵 野 書 院
︑ 一 九 八 六 年
原典 は﹃ 仏説 九色 鹿経﹄と その 異 訳で あ る︒
﹃ 六度 集 経﹄ 巻 六﹁ 修凡 鹿 王 本 生﹂ であ り
︑そ こ には 鹿 は 釈尊 自 身 の 前 生で あっ たと する
︒釈 尊の 前生 修行 を説 いた 本 生説 話 に なっ て い る︒
﹃今 昔
﹄巻 五 第 一八 話 原 典を そ の まま 踏 襲 す
― 633 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
る
︒本 話は
﹁九 鹿﹂ を﹁ 五鹿
﹂に 変え ただ けで なく
︑本 生譚 の部 分も 削り
︑仏 説色 をす っか りぬ ぐい 去っ て︑ 慈悲 報 恩 を説 く動 物説 話に 改変 して いる
︒こ こに も宗 教性 や固 い教 訓性 を脱 皮し て世 俗説 話化 する こと に重 さを おき
﹃宇 治 拾 遺﹄ の特 徴が みら れる
︒ なお
︑﹃ 今 昔﹄ では
︑国 王の 后が 鹿の 夢を 見て 後
︑鹿 を 欲し が る あま り 病 の 床に 臥 し てし ま い︑ さ らに
﹁彼 ヲ 得 テ 皮 ヲ剥 ギ角 ヲ取 ラム ト思 フ﹂ と語 って いる
︒﹃ 仏 説九 色鹿 経﹄ では
︑さ らに 皮で 依を
︑白 角で 払柄
︵﹃ 六度 集経
﹄で は イ ヤリ ング
︶を 作り たい とい うよ うな 具体 的︑ かつ なま なま しい 描写 がみ られ るが
︑本 書で は︑ それ をさ らり とな が し
︑執 拗な どぎ つさ がな い︒ この 点も
︑﹃ 今 昔﹄ との 対比 にお ける 本書 の特 色で ある
︒
⑤ 浅 見 和 彦
・ 三 木 紀 人 校 注 ﹃ 新 日 本 古 典 文 学 大 系 宇 治 拾 遺 物 語
﹄ 岩 波 書 店 ︑ 一 九 九 〇 年
﹃ 今昔
﹄で は﹁ 九色 の鹿 は今 の釈 迦仏 にま しま す︒ 心を 通ぜ し鳥 は阿 難也
︒后 とい ふは 今の 孫陀 利︵ そん だり
︶︑ 水 に 溺 れ たり し 男 は今 の 提 婆 達也
﹂と 結 ん でお り 原 拠の 仏 説 九 色経 で も 鹿は 釈 迦︑ 鳥 を阿 難︑ 国 王 を 悦 頭 壇 王︵ 浄 飯 王
︶︑ 后 を先 阿利
︑男 を調 達と して
︑本 生譚 の形 をと る︒
﹃宇 治拾 遺﹄ はそ うし た仏 教的 な色 彩を する ため
︑昔 話﹁ 報 恩 動物
・恩 知ら ずの 人﹂ に近 い︒ 原拠 にな い︑ 男の 顔の あざ に 注 目す る と︑
﹁ 留志 長 者﹂
︵ 第八 十 五 話︶ の﹁ は わく ひ
﹂が 連 想さ れ る と ころ で
︑﹃ 御 伽 草 子﹄
﹁ るし 長 者﹂ で 留志 長 者 と 本 話 接 合 さ れ て い る の も︑ そ ん な 点 の 連 想 が 動 い た か と も 想 像 さ れ る︒ 標 題 の
﹁鹿
﹂は
︑目 録﹁ 塵﹂ に誤 るを 訂︒
⑥ 小 林 保 治
・ 増 古 和 子 校 注 ﹃ 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集
宇 治 拾 遺 物 語 ﹄ 小 学 館 ︑ 一 九 九 六 年
本話 の原 典と みら れる﹃仏 説九 色鹿 経﹄ など によ ると
︑鹿 は釈 迦仏 の前 生で あり
︑以 下︑ 鳥は 阿難
︵釈 迦の 十六 弟 子 の一 人︶
︑ 国王 は釈 迦の 父で ある 悦頭 壇 王︵ 浄飯 王
︶︑ 国 王夫 人 は 先阿 利
︵釈 迦 の 異母 弟
︶︑ 水 に溺 れ て 助け ら れ た
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 634 ―
男 は調 達︵ 提婆 達多
︑釈 迦の 従兄 弟︑ 阿難 の兄
︶の
︑そ れぞ れ前 生で ある とい うふ うに 説明 がな され
︑釈 迦の 前生 に お ける 修行 の実 態を 説い た本 生譚 とな っ てい る
︒﹃ 今 昔﹄ 巻五
│一 八 話 は原 典 を 踏 襲し て
︑釈 迦 の本 生 譚 とし て い る が
︑本 話は そう せず
︑慈 悲報 恩の 大切 さを 説く 動物 昔話 的教 訓話 に変 貌せ しめ てい る︒ 以上
のよ うな 先行 研究 の論 点を まと める と︑ 次の よう にな るで あろ う︒
﹃ 宇治 拾遺
﹄九 二話
﹁五 色 鹿 事﹂ は︑
﹃今 昔
﹄巻 五・ 一 八と 同 話 で あり
︑﹃ 法 苑 珠林
﹄︑
﹃ 仏 説九 色 鹿 経﹄ を出 典 と す る
︒し かし
︑﹃ 宇 治拾 遺﹄ では 本生 譚の 部分 を削 り︑ 仏教 色を 薄 め て慈 悲 報 恩の 大 切 さ を説 く 教 訓的 な 動 物説 話 に 変 え てい る︒ この 系統 の説 話は
︑後 代ま で説 教師 によ って 語ら れた とも され るが
︑そ の後
︑昔 話と いう 形態 をと って 伝え られ た と 考え られ る︒ この よう に﹃ 宇治 拾 遺﹄
﹁ 五色 鹿 事﹂ は︑ 出 典よ り 世 俗 説話 化 さ れた 説 話 であ り
︑昔 話﹁ 報 恩 動物
・ 恩 知ら ずの 人﹂ に近 い︒ それ
では まず
︑鹿 の表 現に つい て︑ 鹿は 九色
・五 色と 二つ の表 現が ある
︒
①
﹃仏 説九 色鹿 経﹄
﹁菩 薩身 爲 九色 鹿
︒其 毛九 種色
﹂
②
﹃法 苑﹄ 巻五
〇背 恩篇
﹁菩 薩身 爲 九色 鹿
︑其 九種 色︑ 角白 如雪
﹂
③
﹁ジ ャー タカ
・四 八二
ル ルの 前生 物語
﹂
― 635 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
﹁身 に 皮は
︑み が き ぬか れ た 黄 金 の 延 べ 板の よ う であ っ た︒ 前 足後 足 は
︹赤 い︺ ラ ック 染 料 を ほ ど こ さ れ て いる よう で﹂
④
﹃今 昔﹄ 巻五
・一 八
﹁身 ノ色 ハ 九色 ニ シテ 角ノ 色ハ 白キ 鹿住 ケリ
﹂
⑤
﹃宇 治拾 遺﹄ 九二 話
﹁身 の色 は 五色 に て︑ 角の 色は 白き 鹿一 あり けり
﹂
⑥ 日本 昔話
﹁五 色鹿
﹂類 型
﹁ 五色 の鹿
﹂︑
﹁五 匹の 鹿﹂ 鹿の
色に つい て︑
﹃ 宇治 拾遺
﹄九 二話 は﹁ 五色
﹂と あり
︑日 本昔 話﹁ 五色 鹿﹂ の類 型の みが 五匹 とあ る︒ これ につ いて は︑
﹃ 法苑 珠林
﹄自 身の 表現 にお いて 明ら かな よう に﹁
﹃九 色鹿
﹄は 菩薩 とい うも のの 本質
﹂を 示す も の であ り︑
﹁ 五色
﹂も
﹁超 越的 な存 在﹂ を示 すも ので あり
︑﹁ 金色 を意 味す る﹂ とい う指 摘が ある
⑸
︒ ちな みに 日本 昔話
﹁五 色鹿
﹂の 類型 のみ が五 色と ある が︑ これ は全 く設 定が 異な るも のと 理解 すべ きで あろ う︒ 第二
章 日本 昔 話
﹁五 色 鹿
﹂の 類 話 の特 徴 の 展開 と 話 型 日
本昔 話
﹁五 色 鹿﹂ の類 型 は﹃ 日 本昔 話 大 成﹄ に おい て
︑分 類 番 号 二 三 四
﹁人 間 無 情
︵報 恩 動 物・ 恩 知 ら ず の 人 間
︶﹂ に 分類 され
︑十 話の 事 例が 挙 げ られ て い る︒ さ らに
︑﹃ 日 本 昔話 集 成﹄ に は︑ 二三 四 A﹁ 人間 無 情
﹂︑ 二 三四 B
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 636 ―
﹁人 忘恩
﹂と あ り︑
﹃ 日本 昔 話 通観
﹄に は
︑分 類 番 号4 02
﹁人 間 忘恩
﹂︑ 4 03
﹁狩 人 非情
﹂と
︑二 つ の 話型 に 分 類 さ れて いる
︒ これ らの 先行 研究 を整 理す ると
︑日 本昔 話﹁ 五色 鹿﹂ の採 録事 例は
︑大 きく 二つ の話 型に 分け られ る︒
︻﹃ 宇 治 拾 遺
﹄ 九 二 話
﹁ 五 色 鹿
﹂ 日 本 昔 話 類 話 比 較 表
︼
︵ A
︶﹁ 恩 知 ら ず の 人 間
﹂ の 話 型 発 端
展 開
結 果 話 助 け た 者 助 け ら れ た 者
報 恩
︵ 1
︶ 裏 切 る 者
︵ 恩 忘 れ
︶ 助 け た 者 は
事 件
報 恩
︵ 2
︶
◇ 助 け た 者
◆ 助 け ら れ た 者 人 間
動 物
① 五 色 の 鹿 木 こ り な し
鹿 の 居 場 所 を 教 え る
王 様
︑ 鹿 狩 り に 来 る
鹿 が 訳 を 話 す
◇ 鹿 狩 り 禁 止
◆ 死 刑
② 五 匹 の 鹿 猟 師
な し
鹿 の 居 場 所 を 教 え る
殿 様
︑ 鹿 狩 り に 来 る
鹿 は 事 情 を 話 す
◇ 命 を 助 か る
◆ 国 か ら 追 い 出 さ れ る
③ 五 匹 の 鹿 狩 人
な し
鹿 の 居 場 所 を 教 え る
殿 様
︑ 鹿 狩 り に 来 る
鹿 は 事 情 を 話 す
◇ 鹿 は 助 か る
◆ 殿 様 に お 詫 び
④ 鹿
カ リ ュ ー ド︵ 猟 人
︶ な し
鹿 の 居 場 所 を 教 え る
天 子 様
︑ 鹿 狩 り に 来 る
鹿 は 事 情 を 話 す
◇ 助 か る
◆ 殺 さ れ る
― 637 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
つま り︑ 日本 昔話
﹁五 色鹿
﹂は 設定 の異 な り から 生 じ る主 題 の 異 なり に よ って
︑︵ A
︶﹁ 恩 知ら ず の 人 間﹂ の話 型
︑
︵B
︶﹁ 動物 は恩 返し する が︑ 人間 は恩 を忘 れる
﹂と いう 話型 に分 ける こと がで きる
︒ 今ま で私 が日 本昔 話の
﹁腰 折雀
﹂﹁ 藁 しべ 長者
﹂な どの 話型 につ いて 調べ た限 りで は︑ 採録 事項 は多 いが
﹁五 色鹿
﹂ の 話型 の事 例は 少な い︒ 私が 調べ 得た 資料 は右 のと おり であ る︒ 日本 昔話
﹁五 色鹿
﹂の 類話 を比 較し てみ よう
︒
︵ B
︶﹁ 動 物 は 恩 返 し す る が
︑ 人 間 は 恩 を 忘 れ る
﹂ 話 型
⑤ 一 人 の 男 人 間
蛇
・ 狐 蛇
↓ 家
︑ 金 蔵 米 蔵
人 間
↓ 殿 様 に 訴 え る
牢 屋 に 入 れ ら れ 死 刑 判 決
狐
↓ 牢 屋 か ら 助 け る
◇ 冤 罪 が は れ る
◆ 死 刑
⑥ 舟 に 乗 っ た あ る 人
人 間
ク チ ナ︵ 蛇
︶ 狐
狐
↓ 銭 が 入 っ た 塚 を 教 え る
代 官 所 に 誣 告
牢 屋 に 入 れ ら れ る
蛇 が わ ざ と 代 官 の 息 子 を 咬 む
蛇
↓ 薬 を 渡 す 治 す
◇ 許 さ れ る
⑦ 甚 五 郎 人 間
蛇
・ 狐 一 疋 の 亀
亀
↓ 大 水 か ら 甚 五 郎 を 助 け る
奉 行 所
↓ 誣 告
牢 に 入 れ ら れ る
蛇 が わ ざ と 殿 様 の 指 を 咬 む
蛇
↓ 薬 を 渡 す 治 す
◇ 赦 さ れ て
︑ 数 多 の ご 褒 美 を も ら う
⑧ 信 心 深 い お 百 姓
人 間
ヘ ビ
・ 鼠
人
↓ 御 上 に 誣 告
牢 屋 に 入 れ ら れ る
鼠
・ ヘ ビ
↓ 牢 屋 か ら 百 姓 を 助 け る
◇ 助 か る
⑨ 旅 人
︵ 医 者
︶ 人 間
蛇
・ 狐
人
↓ 役 人 に 誣 告
牢 屋 に 入 れ ら れ る
蛇 が 長 者 の 足 を 噛 む
治 す
◇ 厚 い お 礼
◆ 牢 屋 に 入 れ ら れ る
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 638 ―
︵ A
︶ ﹁ 恩 知 ら ず の 人 間 ﹂ の 話 型
ⅰ
. 鹿 が 水 に 溺 れ た 狩 人 を 助 け る
︒
ⅱ
. 人 は 鹿 に 恩 返 し を す る と 言 う
︒
ⅲ
. 鹿 は 自 分 の 居 場 所 を 知 ら せ な い こ と だ け 頼 む
︒
ⅳ
. 王 様 が 鹿 の 居 場 所 を 教 え る 者 に 褒 美 す る と 下 す
︒
ⅴ
. 狩 人 は 王 様 に 鹿 の 居 場 所 を 教 え る
︒
ⅵ
. 王 様 は 鹿 狩 り に 出 る
︒
ⅶ
. 鹿 は 王 様 に 人 の 命 を 助 け た 事 を 申 す
︒
ⅷ
. 鹿 は 命 を 助 け ら れ る が
︑ 人 は 罰 に 当 た る
︒
︵比 較表 1︶ によ ると
︑次 に取 り上 げる
①②
③④ 番の 事例 が︑ この
︵A
︶﹁ 恩知 らず の人 間﹂ の話 型に 属す る︒
①﹁ 人間 忘恩
・類 話2
﹂稲 田浩 二・ 小澤 俊夫 編﹃ 日本 昔話 通観 13第 巻 岐阜
・静 岡﹄ 同朋 舎出 版︑ 一九 八〇 年︑ 二 九
〇頁
︒︵ 静 岡県 田方 郡修 善寺 町︶
②﹁ 一三
五 匹の 鹿の 話﹂
﹃ 旅と 伝説
﹄第 七年 十二 月号
︵通 巻八 十四 号︶ 三元 社︑ 一九 五八 年︑ 一九 頁︒
︵栃 木県 芳 賀 郡逆 川村
︑語 り手
・加 藤壽 一︶
︿ 本 文 資 料 1 ﹀
③﹁ 五六
・五 匹の 鹿﹂
﹃ 全国 昔話 資料 集成 18 下野 昔話 集﹄ 岩崎 美術 社︑ 一九 七六 年︑ 九七 頁︒
︵栃 木県 芳賀 郡茂 木 町
︶
④﹁ 24人 忘恩
﹂稲 田浩 二編
﹃富 山県 明 治期 口 承 文芸 資 料 集成
﹄同 朋 舎 出 版︑ 一九 八
〇 年︑ 三六 四 頁︒
︵ 富山 県 婦 負 郡 八尾 町︶
― 639 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
こ の 話 型 は︑
︵ B︶
﹁動 物 は 恩 返 し す る が︑ 人 間 は 恩 を 忘 れ る
﹂の 話 型 と は 違 い
︑五 匹 の 鹿
︵②
﹃旅 と 伝 説
﹄︑
③
﹃下 野昔 話集
﹄︶ か︑ 五色 の鹿
︵①
﹁人 間忘 恩・ 類話 2﹂
﹃ 日本 昔話 通観
岐 阜・ 静岡
﹄︶ など 必ず 鹿が 登場 し︑ 助け ら れ た者 は狩 人で ある こ と︵
②﹃ 旅 と伝 説
﹄︑
③﹃ 下 野昔 話 集﹄
︑
④﹃ 富山 県 明 治 期口 承 文 芸資 料 集 成﹄
︶が
︑一 つ の 特 徴 であ る︒ その 中で は︑ 特に
①﹁ 人間 忘恩
・類 話2
﹂は
﹃宇 治拾 遺﹄ に類 似す る話 型を もつ こと が分 かる
︒
︻ 日本 昔話 類話 比 較表
︼の
②番 事 例︵
﹁ 一三
五 匹 の 鹿の 話
﹂︵ 栃 木 県芳 賀 郡 逆川 村
︑語 り 手・ 加藤 壽 一
︶は
︑次 の よ うな もの であ る︒
︿ 本 文 資 料 1
﹀
昔︑ ある 處に 五匹 の鹿 が棲 んで ゐた んだ と︒ ある 日こ の鹿 が池 のま はり で仲 良く 遊ん でゐ ると︑山 の崖 から 狩 師 が落 ちて きて その 池に はま り溺 れや うと して ゐた んだ と︒ 五匹 の鹿 はい ろ
!
"
相 談し てこ の狩 師を 助け てや る と
︑狩 師は 大変 に喜 んで
﹁こ の御 恩は 一 生忘 れ ま せん
﹂と お 礼 を言 っ た ん だと
︒五 匹 の 鹿は
﹁お 礼 は い いか ら
︑ そ のか はり わし 達は 此処 に棲 んで ゐる と言 ふこ ただ けは 誰に も言 わな いで くれ
﹂と 言っ たん だと
︒狩 師は 誰に も 言 わな いと 承知 して 家に 帰っ て来 たが
︑そ の 翌日
︑殿 様 が 鹿狩 り を する の で
︑鹿 の ゐる 所 を 知ら せ た も のに は
︑ 望 み通 りの 褒美 をつ かは すと
︑国 中に お布 令を 出し たの で︑ 慾に 眼の ない 鹿狩 は昨 日の 恩も 約束 も忘 れて
﹁わ し が 知つ てゐ るか ら案 内し ませ う﹂ と申 し出 て︑ 殿様 をつ れて 池の 端に やっ て来 たん だと
︒す ると
︑五 匹の 鹿は 大 変 びっ くり して 逃げ まは つた が︑ やが て鹿 狩の 姿を 見付 ける と︑ 恨め しさ うに 睨み つけ たの で鹿 狩は 驚い てぶ る
! "
ふ るへ なが ら︑ 殿様 に昨 日の 出来 事 を申 し 上 げた
︒す る と︑ 殿 様は
﹁恩 を 忘 れ るや う な 奴は 人 間 で はな い
﹂
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 640 ―
と 狩師 を叱 って
︑国 を追 ひ払 い︑ その 上鹿 を助 けて やつ たと 言ふ こと だと
︒
︵ B
︶ ﹁ 動 物 は 恩 返 し す る が ︑ 人 間 は 恩 を 忘 れ る
﹂ の 話 型
ⅰ
. 主 人 公 が 動 物
︵ 蛇
・ 狐
・ 鼠 な ど
︶ と 人 間 を 助 け る
︒
ⅱ
. 助 け ら れ た 動 物 は 主 人 公 に 恩 返 し と し て 財 物 を 与 え る
︒
ⅲ
. 助 け ら れ た 人 間 は 主 人 公 の 財 産 を 狙 い
︑ 役 人 に 訴 え る
︒
ⅳ
. 主 人 公 は 牢 屋 に 入 れ ら れ る
︒
ⅴ
. 蛇 は わ ざ と
︑ 王 様 な ど 身 分 の 高 い 人 を 咬 む
︒
ⅵ
. 蛇 が 主 人 公 に 害 毒 薬 を 渡 す
︒
ⅶ
. 主 人 公 は 蛇 か ら も ら っ た 薬 で 王 様 を 治 し て あ げ る
︒
ⅷ
. 主 人 公 は 釈 放 さ れ
︑ 人 間 は 罰 に 当 た る
︒
︿比 較表 1﹀ によ ると
︑⑤
⑥⑦
⑧⑨ 番の 事例 がこ の話 型に 属す る︒
⑤﹁ 39 人間 無情
﹂荒 木博 之 編﹃ 昔 話研 究 資 料叢 書 5 甑島 の 昔 話﹄ 三 弥井 書 店︑ 一 九七
〇 年︑ 二
〇 五頁
︒
︿ 本 文 資 料 2
﹀
⑥﹁ 第5 話 蛇と 狐の 報恩
﹂﹃ 月 刊昔 話研 究﹄
︵語 り手
・近 所の 農家 の︑ まだ 四十 にな った ばか りの 男︶ 三元 社︑ 一 九 三五 年︑ 四五 頁︒
⑦﹁ 放し 亀﹂ 石井 研堂 編﹃ 日本 全国 国民 童話
﹄宝 文館 出版
︑一 九四 四年
︑一 四一 頁︒
⑧﹁ 人間 無情
﹂臼 田甚 五郎 監修
﹃夢 買長 者│ 宮城 の昔 話﹄
︵ 語り 手・ 佐藤 貫之
︶桜 楓社
︑一 九四 二年
︑一
〇〇 頁︒
― 641 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
⑨﹁ 一三 六番
人 間と 蛇と 狐﹂ 佐々 木喜 善編
﹃聴 耳草 紙﹄ 筑摩 叢書
︑一 九六 四年
︑二 四三 頁︒
︻日 本昔 話類 話比 較表
︼⑤ 番の 事例 は次 のよ うな もの であ る︒
︿ 本 文 資 料 2
﹀
むか しな あ︑ 大雨︑洪 水の して
︑ひ とり の男 の山 路ば きよ らっ たち ゅう でえ
︑川 ば渡 らに ゃあ なら じん
︵な ら な くて
︶ほ の川 あ︑ 流る れば 死ぬ る川 で︑ え えや っ と で︵ よう や く のこ と で
︶︑ 川 ばあ が っ とら っ た ちゅ う で え
︵は いあ がっ てお られ たと ころ が︶
︑蛇 が流 れて きて
︑
﹁生 もん ちゅ うも なな
︵生 きる 物と いう もの は︶
︑生 命の 惜う なか もん はお らな あ︵ いな いわ い︶ ち︑ 思う て︑ 蛇 ば 助け て︑ 二人
︑お らっ たち ゅう でえ
︑こ んだ あ狐 ん流 れて きて
︑ほ の︑ 狐も たな
︑助 けて
︑三 人お らっ たち ゅ う でえ
︑こ んだ あ︑ 人間 の流 れて き たち ゅ う でえ
︑た ひ く うち
︵助 け よ う と︶
︑せ ら っ たち ゅ う でえ
︑ほ の 狐 じ ょ うの
︑
﹁お ま やあ
︑助 く る か︒ 人間 は 助 け て仇 な す ちゅ う も ん や が︑ お ま や︑ よ っ か︵ い い か︶
﹂ ち︑ い う た ち ゅ う で え
︑﹁ 畜 生の わっ と も︵ お まえ た ち︶ せ え︵ さえ
︶助 く る
︑人 間︑ ど うし て
︑助 け じん
︵な い で︶ お らる る も ん か
︑こ ん ま まし と れ ば死 ぬ っ た が﹂ ち︑ いう て
︑助 け らっ た ち ゅ う で え
︑ほ し て
︑四 人 づ れ え な っ て︑ 道 ば 来 て
︑別 れや っと き︑ みい ん な︑ さ んば
︑さ ん ば で︑
︵さ よ う な ら︑ さよ う な らで
︶わ が い さめ え
︵わ が 家 へと
︶︑ 別 るる だん にな った ちゅ うで え︑ ほの
︑蛇 しょ うの
︵さ んが
︶︑ 宝 の玉 ばく てて
︑
﹁こ らあ
︑お まい の助 けた 代い い︑ 娑婆 え一 つあ る 宝 やっ で え︑ な んで も 欲 し かも ん の あっ と き ゃあ
︑な ん 出 せ ち
︑こ うす れば
︑ほ いの でく っで え︑ ほげ んし やん せ﹂
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 642 ―
﹁あ いや
︑よ か宝 もろ うた あ﹂ ち︑ 思う て︑
﹁家 一軒
﹂ち
︑せ らっ たち ゅう でえ
︑家 ので けて
︑
﹁金 蔵一 軒﹂ ち︑ せら った ちゅ うで え︑ 金蔵 ので けて
︑
﹁米 ぐら 一軒
﹂ち
︑ゆ えば
︑米 ぐら ので けて
︑何 一つ
︑不 自由 はな かご と︵ ない よう に︶
︑ほ ん人 のな らっ たち ゅ う でえ
︑⁝
︒ 殿様 のか ねの 蔵ば 破っ たち ゅう
︑う わさ にで て︑ ほう した ちゅ うで え︑ 殿様 え申 しで た人 が︑
﹁あ の人 が︑ じょ うじ ょう
︵と って も︶ 貧乏 で
︑な あ んも な か 人や っ た が︑ そ の人 が 今 あ︑ なん 一 つ 不自 由 か も ん のな かご とな っと るが
︑お っ盗 った じゃ あ︑ なか よう か︑ 殿様 んも んば
﹂ち
︑助 けら った 人の 申し でた ちゅ う で え
︑ほ の 人が
︑じ ゅ う ええ
︵牢 屋 に︶ 入 れ られ て
︑も う 死刑 の 決 ま っ た ち ゅ う で え︑ そ け え︑ ほ の 狐 じ ょ う が
︑あ げき たげ きし て︵ あわ って ふた めい て︶
︑ 来た ちゅ うが
︑
﹁お いが
︑近 かほ べえ
︵そ ばに
︶お れば
︑早 う助 くっ たば っち
︵助 けた のだ けれ ど︶
︑お まや あ︑ あし た死 刑や っ ち
︑聞 いた でえ
︑お らあ
︑化 けて きた っじ ゃ︑ 早よ う来 え︑ 戸口 もあ けぐ れえ にゃ あい らん でえ
︵あ けな くて も い いか ら︶
︑ ほの まま 来え
︒わ が家 いも どっ た ら あ︑ 誰が な ん ちゅ う て も わが 家 か ら外 え 出 じん
︑黙 あ っ て︑ こ げ んし てお いや んせ
﹂ち
︑い うて
︑ほ うし て︑ しと らっ たち ゅう でえ
︑ほ の死 刑の 日い なっ て調 べて みら った ち ゅ うで え︑ 戸口 もあ かん てえ
︑ほ の人 のお られ んち ゅう でえ
︑
﹁ん ば︑ いけ んし て︑ 出た もん じゃ ろう か︑ この 牢 屋 から
﹂ほ の 役 人ど も が
︑そ の 人の 家 さ めえ 行 た てみ ら っ た ち ゅう でえ
︑わ が家 いも どっ とら った ちゅ うで え︑ ほの 人の
︑
﹁け え︵ 来い
︶︒ お前 たち ゃあ
︑い う てか す っ でえ
︵い う て きか せ る か ら︶
︑お い が 悪か こ と して
︑牢 え え
︑い れ
― 643 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
ら れた とじ ゃあ
︑な かで え︑ あが って きて みや んせ
︒わ けば
︵を
︶い うて かす っで え﹂ ほう して
︑ほ の役 人ど も の あが って いか った ちゅ うで え︑
﹁ほ らあ なあ
︑お いも 川で 流れ て︑ どう かこ う か して
︑上 が っ て助 か っ と った で え︑ 蛇 の流 れ て きて
︑そ の 蛇 も 助 けて
︑狐 も助 けて
︑ほ んの 狐が
︑
﹃お まや あ︑ よっ か︑ 人間 は助 けて
︑仇 なす ちゅ うも んや っど
﹄ち
︑狐 がい うた ばっ て︑ おら あ︑
﹃わ っど も畜 生せ え助 くる
︑人 間ば 助け じん
﹄ち
︑助 け た ばっ ち
︑そ の 人が 殿 様 え 申し 出 と るわ け や ろう ご と あ っ てえ
︵わ けで ある らし くて
︶︑ 狐 のや って き て え︑ ほの ま ま 牢の せ ん も 抜が じ ん︑ 牢 やあ
︑ほ の ま まで て き 申 し た﹂ ち︑ いう たち ゅう でえ
︑
﹁あ あ︑ そい いう こと か﹂
﹁こ の米 ぐら も︑ 蛇が くれ た玉 でつ くっ たも んや
︒お いが おっ 盗っ たも んじ ゃあ なか
﹂ち
︑い わっ たち ゅう でえ
︑ ほ の殿 様の 使人 だあ
︵ど も は︶
︑あ ば て て︵ あわ て て︶ 行 たて
︑ほ の 申 し 出た 人 ば 読ん で
︑こ ん だあ
︑ほ の 人 の 死 刑 の 決ま っ て︑ ほ いや っ で え︑ 決 して 悪 か こと や ら︑ な かこ と ば 申 し出 た い︑ 人 んも ん ば お っ 盗 っ た い す ん な
︑ち ゅう こと やい 申さ あ︑ ほひ この げえ な︒
︵鹿 児島 県䡫 摩郡 下甑 村︑ 語り 手・ 小川 つる
︶
︵比 較表 1︶ のよ ると
︑︵ B︶ 話 型の 場 合 は︑ 人間 が 助 けた の は 人 間と と も に︑ 蛇︵
⑤﹃ 甑島 の 昔 話﹄
︑⑥
﹃月 刊 昔 話 研 究
﹄︑
⑧﹃ 夢 買長 者
│宮 城 の昔 話
﹄︑
⑨﹃ 聴 耳草 紙
﹄︶ 狐
︵⑤
﹃甑 島 の昔 話
﹄︑
⑥﹃ 月 刊昔 話 研 究﹄
︑⑦
﹃日 本 全 国 国 民 童話
﹄︑
⑨
﹃聴 耳草 紙﹄
︶︑ 亀
︵⑦
﹃日 本全 国国 民童 話﹄
︶︑ 鼠
︵⑧
﹃夢 買長 者│ 宮城 の昔 話﹄
︶な どの 動物 の登 場は 見 え るが
︑鹿 の登 場は 見当 たら ない
︒
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 644 ―
その 後︑ 助け られ た動 物は 恩返 しを する が︑ 人間 は恩 を忘 れる とい う事 が主 な主 題で ある
︒ そ れに 対 し︑
︵ A︶ 話型 の 場 合︑ 鹿が 助 け た のは 狩 人 と い う 人 間 の み で あ る
︵②
﹃旅 と 伝 説
﹄︑
③
﹃下 野 昔 話 集
﹄︑
④
﹃富 山県 明治 期口 承文 芸資 料集 成﹄
︶︒ ここ で注 目し たい のは
︑︵ A
︶︵ B︶ どち らの 話型 とも
︑背 信す る主 体は 人間 であ るこ とと
︑鹿 と狩 人と いう 設定 の あ るこ とで ある
︒鹿 の立 場か らい うと
︑助 かっ た後
︑わ が身 に危 険が 起き る恐 れが ある かも 知れ ない
︒そ のよ うに い う こと で命 を助 けて あげ た鹿 の恩 が強 調さ れる だろ う︒ さら に︑ 恩返 しの 方法 とし ては
︑お 金の ある 場所 を教 える か︵
⑥﹃ 月刊 昔話 研究
﹄︶
︑ お米
・家
︵⑤
﹃甑 島の 昔話
﹄︶ を 与え たり する
︒そ の他
︑大 水に 流さ れて いる 主人 公の 命を 助け てあ げる とい う話 もみ られ る︵
⑦﹃ 日本 全国 国民 童 話
﹄︶
︒︵ B︶
﹁動 物は 恩返 しす るが
︑人 間は 恩を 忘れ る﹂ 話型 は﹁ ジャ ータ カ﹂ 七三 話⑹
に よく 類似 する
︒ 第三
章 韓国 昔 話 の類 話 前章
では
︑日 本昔 話﹁ 五色 鹿﹂ 類話 につ いて 二つ の話 型に 分類 し考 察し た︒ これ らの 分類 によ ると
︑韓 国昔 話の 類 話 には 日本 昔話
﹁五 色鹿
﹂の 類話
︵B
︶﹁ 動 物は 恩返 しす るが
︑人 間は 恩を 忘れ る﹂ の話 型と 一致 する
︒ 韓国 昔話 類話 の話 型に つい て先 行研 究は
︑次 のよ うに 分類 して いる
︒
︵1
︶崔 仁鶴 氏︵
﹃韓 国昔 話の 研究
﹄弘 文堂
︑一 九七 六年
︶に よる 韓国 類話 の話 型
118
﹁老 人に 救わ れた 鹿と 蛇と 男の 子﹂
― 645 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
一
. 洪 水 と 救 済
︵ 一︶ 川の 上流 の方 で大 雨が あっ たら しく 洪水 にな った
︒
︵ 二︶ 老人 が川 に行 って みる と︑ 鹿・ 蛇と 少年 が激 流に 流さ れて 助け を求 めて いる ので
︑救 いあ げて やっ た︒
︵ 三︶ 鹿と 蛇は どこ かに 去っ たが 少年 は孤 児に なっ たの で老 人が 育て るこ とに した
︒
二
. 鹿 と 蛇 の 報 恩 と 少 年 の 背 信
︵ 一︶ ある 日︑ 鹿は 老人 に宝 物が 埋も れて いる 場所 を教 えて あげ
︑お かげ で金 持ち にな った
︒
︵ 二︶ 養子 にな った 若者 は財 産に 目が くら み︑ 官庁 に偽 証で 老人 を訴 えた
︒
︵ 三︶ 老人 が投 獄さ れた 時︑ 蛇が 毒を 除く 薬を 与え たの で︑ それ で王 妃の 傷を 治し て釈 放さ れた
︒
︵ 四︶ 官庁 では 若者 が偽 証を した ので 投獄 した
︒
︿変 化﹀
・王 様が 蛇に 噛ま れ死 にそ うな った ので 老人 が治 して あげ た︒
・郡 守の 母が 蛇に 噛ま れ死 にそ うに なっ たの を老 人が 治し てあ げた
︒
︵2
︶﹃ 韓国 口碑 文学 大系
﹄に おけ る﹁ 五色 鹿﹂ の類 型の 話 韓国 精神 文化 院編
﹃韓 国口 碑文 学大 系﹄
︵ 以下
︑﹃ 韓国 口碑
﹄︶ 全 八二 巻︵ 一五 一〇 七話 収録
︶に
︑﹁ 五色 鹿事 類型 の 話
﹂と して 分類 され た説 話は
︑総 十六 話で ある
︵類 系分 類4 21
│1
﹁獣 は報 恩す るも のの 人は 裏切 る﹂
︶︒
①﹁ 人は 救え ない
﹂﹃ 韓 国口 碑﹄ 1│ 6 京畿 道安 城市
②﹁ ノロ の報 恩と 人間 の背 信﹂ 2│ 2 江原 道春 川市 春城 郡
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 646 ―
③﹁ 人を 救っ た鹿 と大 蛇﹂ 2│ 9 江原 道寧 越郡 寧越 邑
④﹁ 恩を 裏切 った 話﹂ 3│ 2 忠清 北道 清州 市淸 原郡
⑤﹁ 人不 救の 由来
﹂4
│3
忠 清南 道牙 山市 新昌 面
⑥﹁ 川で
︵溺 れて いる
︶人 を救 った が︑ 人で なし だ﹂ 5│ 1 全羅 南道 南原 郡
⑦﹁ 恩返 した 蛇と 鹿﹂ 6│ 4 全羅 南道 順天 市松 光面
⑧﹁ 恩返 した 猪と アリ
﹂6
│6
全 羅南 道新 安郡 押海 面
⑨﹁ 恩返 した 大蛇
﹂6
│7
全 羅南 道新 安郡 古蘭 里
⑩﹁ 獣は 救っ ても 人は 救う な﹂ 6│ 11
全 羅南 道和 順郡
⑪﹁ 雖獣 援 人不 援﹂ 6│ 11
全 羅南 道和 順郡
⑫﹁ 恩返 した 虎﹂ 6│ 11
全 羅南 道和 順郡
⑬﹁ 甲斐 ない 人間 救済
﹂7
│9
慶 尚北 道安 東市 禮安 面
⑭﹁ 恩返 した 獣と 裏切 った 人間
﹂7
│1 1 慶尚 北道 軍威 郡孝 令面
⑮﹁ 獣は 救っ ても 人は 救う な﹂ 8│ 3 慶尙 南道
晉 州市
寺 奉面
︿ 本 文 資 料 3
﹀
⑯﹁ 恩返 した 獣と 裏切 った 人間
﹂8
│5
慶 尚南 道居 昌郡 加旨 里 そ の他
⑰﹁ ノロ の恩 返し
﹂︵
﹃ 韓国 口碑
﹄5
│7
全 羅北 道井 州市 井邑
︶
︿ 本 文 資 料 4
﹀
︻日 本昔 話類 話比 較表 2︼ 右の 採録 の中 で体 表的 な事 例は 次の よう なも ので ある
︒
― 647 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
︿ 本 文 資 料 3
﹀
﹁ 獣 は 救 っ て も ︑ 人 は 救 う な ﹂
ある 人が 船頭 をし てい たが︑そ の年 は雨 がた くさ ん降 って 川の 水が 多く なっ たよ うだ
︒ と ころ が︑ 船頭 が舟 で渡 る時
︑大 蛇一 匹と ノロ 一匹
︑ま た一 匹は 思い 出さ ない が︑ その よう に三 匹が 流れ てく る の を助 けて やっ た︒ 助け てや ると
︑み んな 消え 去っ た︒ 十年 か二 十年 くら い経 った
︒し ばら く時 間が 経っ たあ る 日
︑ノ ロ一 匹が 現れ てき た︒ あの 時︑ 助け やっ たノ ロか どう かは 知ら ない が︑ ノロ が来 て何 か︑ 船頭 に自 分に つ い て来 いと いう 行動 を見 せた
︒
﹁君 につ いて 来い と言 うの かい
?﹂ と 言 う と︑ そう だ と いう よ う に 首を こ っ くり す る ので あ っ た︒ そ れで ノ ロ につ い て 行っ た︒ ど れ く ら い 歩 い た か
︑ノ ロが 足で 土を 掘る よう な行 動を した
︒ま るで
︑船 頭に ここ を掘 って みて くだ さい と言 って いる よう にみ え た
︒そ れで
︑船 頭が 掘っ てみ ると
︑昔
︑誰 かが お金 をそ こに たく さん 埋め て置 いた か知 らな いが
︑壺 の中 にお 金 が たく さん 入っ てい た︒ たく さん
︒そ れで
︑そ れを 掘り 出し てか ら家 に持 って きて
︑船 頭は 金持 ちに なっ た︒ そ う だ︑ 先ほ ど川 で流 れて きた のは 男の 子だ
︒船 頭は 川か ら助 けて きた 男の 子を 自分 の家 で育 てて いた
︒ 親も いな いよ うだ った ので
︑大 人に なる まで 育っ て︑ 勉強 もさ せて
︑今 は嫁 も迎 えた そう だ︒ そこ まで 育て て あ げた のに
︑こ の奴
︑ど うす るか と言 うと
︑お 金を くれ と責 める ので あっ た︒ 育っ てあ げた 恩も 忘れ て︑ 自分 の 本 当の 親で もな いの に何 度も 何度 もお 金を 要求 した
︒そ れで
︑船 頭は 自分 の子 では なか った が︑ お金 をあ げた そ う だ︒ しか し︑ どん どん 船頭 も苦 しく なっ てき たの で︑ これ 以上 金は 無理 だと 言っ たそ うだ
︒ する と︑ この 奴は どう する かと 言う と︑ 官庁 に言 って
︑自 分の お父 さん が人 のも のを 盗ん で金 持ち にな った と
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 648 ―
訴 えた
︒そ うし なく ても その 人が
︑突 然金 持ち にな った ので 怪し いと 思っ てい たの に︑ 息子 が訴 えた とい うこ と だ
︒そ れで
︑そ の人 を捕 まえ た︒ 捕ま えて 取り 調べ を始 めた
︒そ して
︑大 きな 罪を 犯し たと 判決 され て︑ 船頭 は 牢 屋に 入れ られ た︒ その 時︑ 死刑 まで はい かな かっ たよ うだ
︒牢 屋に 入れ られ てい ると
︑あ る日
︑天 井か ら何 かが どん と落 ちて き た
︒見 てみ ると
︑一 匹の 大蛇 が落 ちて いた
︒そ の大 蛇は
︑船 頭の 脚を 咬ん でし まっ た︒ その 後︑ 天井 に逃 げ去 っ た
︒す ると
︑脚 がひ どく 腫れ 上が って きた
︒し ばら くい ると
︑上 から 何か 葉っ ぱが 落ち た︒ それ で︑ 葉っ ぱで 脚 の 傷口 をか ばっ てお いた
︒す ると
︑す ぐ怪 我が 治っ た︒ 大蛇 がど こに 行っ たか とい うと
︑そ の官 長の 息子 に行 っ て 息子 を咬 んで しま った
︒官 長の 息子 は︑ 先ほ どの 船 頭の よ う に腫 れ 上 がっ て き た ので 官 庁 は大 騒 ぎ に なっ た
︒ そ うい う噂 を船 頭も 聞い た︒ 官庁 の息 子が 大蛇 に咬 まれ て︑ もう 死に そう にな った と︒ それ で︑ 牢屋 に入 れら れ た 船頭 は言 った
︒﹁ そ の人
︑私 に見 せて くだ さい
︒私 に治 せる 方法 があ りま すか ら︑ 見せ てく ださ い﹂
﹁治 せる 方法 が本 当に ある かい
?﹂ と 言っ た︒
﹁ど うや ら︑ 治せ てあ げた らい いで しょ う︒ だか ら︑ 私に 見せ てく ださ い﹂ それ で行 った
︒行 って から
︑そ の木 の葉 っぱ を傷 口に かば った
︒す ると
︑傷 が治 った
︒そ れで
︑船 頭は 冤罪 が 晴 れた
︒そ んな 話が あっ たの さ︒
︹ 話が 終 わ った 後
︑語 り 手は
﹁獣 は 救 う もの の
︑人 は 救う な
﹂と い う意 味 で︑ そ う い う 話 が あ っ た そ う だ と
︑ 自 分の 考え を付 け加 えた
︺︒
︵︻ 表2
︼⑮ 番事 例﹃ 韓国 口碑
﹄8
│3
︑翻 訳金 恩愛
︶
― 649 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
︿ 本 文 資 料 4
﹀
﹁ ノ ロ の 恩 返 し ﹂
二人 の老 人が 住ん でい た︒ おじ いさ んは 船頭 であ った が︑ ある 日︑ 船の 船頭 をし てい ると ノロ が来 てこ くり こ く りと した︒﹁ ど うし た﹂ する と︑ また 頭を こく りと した
︒﹁ 渡し てほ しい のか い?
﹂
﹁そ うで す﹂ と言 った
︑そ れで 渡し てあ げ た︒ ノ ロを
︒そ し て︑ 少 し時 間 が 経 つと
︑ま た 大 きな 大 蛇 が来 て 話 し た
︒そ れで
︑﹁ ど うし た?
﹂す ると
︑舌 を ち ょろ ち ょ ろし た の で︑ 船 に乗 せ て︑ 渡 して あ げ た︒ そう
︑二 人 の 老 人 が住 んで いた が︑ 子供 がい なか った ので 一人 の息 子を 拾っ て育 った そう だ︒ その 子を 育っ てい たが
︑あ る日
︑い うこ とを 聞か ない ので 叩い たと ころ
︑国 へ訴 えに 行っ た︒ そう
︑人 を育 っ て あげ ても
︑恩 返し どこ ろか
︑そ のよ うな こと が返 って くる とい うこ とだ
︒し かし
︑獣 をそ のよ うに 拾っ て飼 う 時
︑あ る日 ノロ が首 をこ くり こく りし たの で︑ そこ に行 って みる と︑ ここ を掘 れと 言っ た︒ それ で土 地を 掘っ て み ると
︑こ のく らい の箱 にお 金が たく さん あっ たよ うだ
︒こ れは どう いう こと かと 聞く と︑ 箱を 指し なが ら首 を こ くり した 後︑ その まま 去っ たよ う だ︒ その よ う にし て 恩 返し し た と いう こ と だ︒ その ノ ロ が︒ そ して
︑そ う
︑ 国 に訴 えた ため
︑あ の奴 が国 に訴 えた ため おじ いさ んは 捕ま えら れて しま った
︒そ の後
︑小 さな 部屋 に閉 じ込 め ら れて いた が︑ ある 日︑ 国王 の后 がヘ ビに 噛ま れて しま って
︑夏 なの に︑ いろ んな 薬を 使っ ても 効か ない とい う こ とだ
︒門 番が 聞い た︒
﹁あ あ︑ どう して
︑こ んな こと が起 きた のか
﹂
﹁少 し調 べて みた いか ら﹂
﹁あ なた だっ て︑ 何が 分か るか い﹂
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 650 ―
﹁あ あ︑ それ じゃ ない
﹂と
︒ し かし
︑ア リ が 来て 何 か 葉っ ぱ を あ げた よ う だ︒ その お じ い さん に
︒そ れ でそ の 葉 っぱ を し っ か り 握 っ て い た
︒そ の後
︑ヘ ビに 噛ま れた とこ ろに つけ たと ころ
︑す ぐ治 った
︒す ると
︑財 物を 与え たそ うだ
︒ その よう な獣 も恩 返し をす るの に︑ 人間 は恩 返し とこ ろか
︑そ のよ うな 災い が返 って くる とい うこ とだ
︒ そん な話
︒ロ バは 財産 を増 やし てく れる し︑ 嫁も 作っ てく れて
︑お 爺さ んは 豊か に暮 らし たそ うだ
︒
︵︻ 表2
︼⑰ 番事 例﹃ 韓国 口碑
﹄5
│7
︑翻 訳金 恩愛
︶
︵3
︶そ の他 昔話 集
︽ 日本 語本
︾
⑱﹁ 報恩 と忘 恩﹂
﹃ 伝説 の朝 鮮﹄ 三輪 環︑ 博文 館︑ 一九 一九 年︑ 一九
〇頁
︒
⑲﹁ 56 䉌と 蛇の 御恩 返し
﹂中 村 亮 平﹁ 朝鮮 の 神 話伝 説
﹂一 九 二 九年
︑﹃ 世 界 神話 伝 説 大系 12﹄ 名 著普 及 会
︑一 九 七 九年 改訂 版︑ 二二 四頁
︒
⑳﹁ 69 鹿と 蛇﹂
︵ 一九 三五 年
︑慶 尚 南道 統 営 で採 集
︑語 り 手・ 金 琪驩
︶鄭 寅 燮﹃ 温 突夜 話
﹄一 九 八五 年
︑三 弥 井 書 店︑ 三六 九頁
︒
㉑﹁ 老人 に救 われ た鹿 と蛇 と 男の 子
﹂︵ 一 九六 九 年 採集
︑語 り 手
・朴 洪 根︑ 咸鏡 北 道 城津 出 身︶ 崔 仁鶴
﹃朝 鮮 昔 話 百 選﹄ 日本 放送 出版 協会
︑一 九七 四年
︑六 七頁
︒
︽ 韓国 語本
︾
㉒﹁ 仏典 から 来た 民族 説 話︵ 1︶ 洪水 説 話﹂
︵ 一九 二 三 年釜 山 市 鎮 区採 集
︑語 り 手・ 金升 泰
︶孫 晋 泰﹃ 韓国 民 族 説
― 651 ― 『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考
話 の研 究﹄ 韓国 文化 叢書 第一 輯︑ 乙酉 文化 社︑ 一九 四七 年︑ 一六 六頁
︒
㉓﹁ 老人 と養 子と 鹿と 蛇
﹂︵ 咸 鏡南 道 咸 興市 採 集︶
朴英 晚
﹃朝 鮮 伝 来童 話 集﹄ 学 芸社
︑一 九 四
〇 年︑ 三五 頁
︒
︿ 本 文 資 料 5 ﹀
︿ 本 文 資 料 5
﹀
﹁ 老 人 と 養 子 と 鹿 と 蛇
﹂
昔︑ あ る所 に と って も 心 が広 く て 優 しい 老 人 が一 人 住 ん でい た︒そ の 老人 は 特 に動 物 を か わ い が る 人 で あ っ た
︒あ る日
︑こ の老 人が 川辺 に出 かけ て行 った ら︑ その 上流 の方 で大 雨が あっ たら しく
︑家 が流 れて きた り︑ 木 が 流れ てき たり する 中で
︑鹿 が一 頭︑ 足を しき りに もが きな がら 流れ てく るの が見 えた
︒優 しい 老人 は急 いで 小 舟 を漕 ぎ出 して 行き
︑鹿 を救 いあ げた
︒ち ょう どそ の時
︑ま た蛇 一匹
︑大 変苦 しそ うに 流れ てき 来た ので
︑蛇 も 救 いあ げて
︑小 舟に 乗せ て︑ 川辺 に運 んだ
︒さ らに 今度 は︑ 男の 子が 川に 溺れ て流 れて 来る のが 見え た︒ 心の 優し い老 人は この 男の 子も 救い あげ て︑ 小舟 に乗 せて 川辺 まで 運ん であ げた
︒鹿 と蛇 は大 変あ りが たそ う に
︑鹿 は涙 を流 しな がら
︑ぺ こん と頭 を下 げて 感謝 の礼 をし て︑ 蛇は 老人 の体 を巻 いた りほ どい たり した
︒ 蛇と 鹿は それ ぞれ どこ かに 行っ た︒ その 後︑ 男の 子は 老人 が養 子と して 育て るこ とに した
︒ ある 日︑ その 優し い老 人が 養子 と一 緒に 中庭 で仕 事を して いる と︑ 川で 救っ てあ げた 鹿が 現れ
︑老 人の 袖を 引 っ 張る ので
︑﹁ 何 かあ るの かい
﹂と 思い なが ら鹿 を 追 いか け て 行く と
︑鹿 は 山 の中 に あ る岩 を 指 しな が ら
︑前 脚 で
︑土 を掘 るふ りを した
︒鹿 は何 度も 何度 も老 人の 顔を 見な がら 土を 掘れ とい うふ うに 誘う ので あっ た︒ 老人 が変 だと 思っ て岩 をあ げて みる と︑ 穴が あっ てそ こに は大 きな 壺が 二つ あっ た︒ ふた をあ けて みる と︑ あ
『宇治拾遺物語』九二話「五色鹿事」考 ― 652 ―