まち裏ネットワーク : 「ハコモノ」に代わるまち の拠点
著者 上野 優佳
出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編
巻 10
ページ 1‑5
発行年 2021‑03‑24
URL http://doi.org/10.15002/00023788
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要
Vol.10(
2021年
3月) 法政大学
まち裏ネットワーク
−「ハコモノ」に代わるまちの拠点−
RE-POSTURE OF THE TOWN BY THE FESTIVAL THAT ROOTED IN THE AREA THE TOWN PLANNING THAT IS NOT "HAKOMONO"
上野優佳
Yuka UENO主査 赤松佳珠子 副査 北山恒・小堀哲夫 法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
I have a rethink on the city studded with cores rooting in local community.The networking in the city is constituted of the narrow alleies around there for a long time and the structure and core of the city.I'm going to propose a project, which is that we success the histry and tradition remaining there.
Key Words : Network, Festival, Succession
1.はじめに
本提案ではまちを歩くことで、自分の住む地に 愛着を持って欲しいと願うところから始まった。
自身が、ハコモノに頼って暮らしていたが、コロ ナ禍を経験し「まちを歩くことの楽しさ」や「ハ コに頼らない暮らしの可能性」を感じ、歩くこと で住みこなすまちを作りたいと思った。そこで、
街に歩くネットワークを形成することで「ハコモ ノ」にかわるまちづくりはできないだろうか。
2. ハコモノの背景
ハコモノ建築(ここでは、様々な用途を詰め込 んだ複合型の施設が大きな箱となった建築のこと を指す)の中でも、地方のショッピングモールの 衰退を耳にする。実際にマッピングを見ると、年 間オープンした 46 カ所の多くが首都圏に集中し ていて、 地方ではほとんど SC は増加していない ことがわかる。( 画像 1)
歴史からはショッピングモールの衰退を考えて みる。高度経済成長によって自家用車保有率の上 昇し、ショッピングモールが全国に広まり、その 後、大規模小売店舗法が改正や緩和がされ、各地 でショッピングセンターの進出が進む。2000 年 には大規模小売店舗立地法が施行されると、中心 市街地の活性化のために、交通渋滞への配慮等の 規制を設け、街の離れた遠隔地にしかモールは建 設される。しかし、共働きとなり、経済的な余裕 があっても、常に時間に追われ、駅近で住むこと が増えていくことで、ライフスタイルとのズレが 生じる。そのほかに、「過当競争が起こる」「オン ラインネットショッピングの普及」「公園や大型 商業施設、スポーツジムが入った物件が駅周辺に 増加」「都市の人口流入と、地方や郊外の衰退」「相 次ぐ大手小売店の閉鎖や閉店による、モールの空 洞化」の影響によって衰退したと考えられる。
3−1.水郷のまち「佐原」
本提案の対象敷地となる佐原は、小江戸の代表 例として有名な古い町並みを持つ街である。佐原 は 2006 年に栗源町、小見川町、山田町と合併し 香取市となったが、合併後も市の人口は減少して いる。( グラフ 1) また、福祉関連施設が必要と表 明しているように、グラフを見ると年代別に人口 を見ると高齢化していることがわかる。(グラフ 2)
8 箇所 4 箇所 3 箇所 2 箇所 1 箇所 0 箇所
( 画像 1)2019 年都道府県でオープンした SM の分布
佐原の調査を行うと、 3つのポテンシャルが あった。それが「水郷のまち」「地域住民団体」「祭 り」である。
[1] 水郷のまち
利根川水系の恩恵を受ける水郷のまちとして栄 えていた佐原は、水運が盛んであった。江戸時代 から舟運・商業で繁栄を極め、明治時代以降も隆 盛が続き、物流が自動車輸送に変わる昭和 40 年 頃まで 繁栄が続いた。( 画像 2) 現在観光地とし て街並みが残るものの、市街地化や護岸整備等に より、 住人と水辺の日常的な関わりは薄れてい る。( 画像 3)
[2] 地域住民団体
佐原には川や祭りに合わせいくつかの住民団体 がまちを盛り上げようと精力的に活動を行なって いる。( 画像 4)
・NPO 法人まちおこし 佐原の大祭振興協会
・NPO 法人小野川と佐 原の町並みを考える会 ・佐原おかみさん会
・株式会社ぶれきめら
・佐原まちおこし公社株式会社ゼットやっぺい社
・佐原商工会議所
上記のような団体の住人によって、佐原は街を つくっていくポテンシャルがある。
[3] 祭り
佐原では、25 の町内会が秋か夏に山車を引き 競い合う佐原の大祭がある。開催すると、全国か ら 36 万人以上の人が訪れる。享保 6 年に現在の 山車の元である屋台が引かれたと記されているこ とから、 祭りの起源は享保より何十年も前と考え られている。
秋祭り「新宿」
( 画像5)諏訪神社 ( 元禄 2 年 ) を鎮守社とするお祭りで、
10 月の第 2 土曜日を中日とする金・土・日曜日 15 台の山車が佐原のまちを練り歩く。
夏祭り「本宿」
( 画像6)八坂神社 ( 嘉慶 2 年 ) を鎮守社とするお祭りで、
7 月 10 日以降の金・土・日曜日 10 台の山車が 佐原のまちを練り歩く。
山車を曳くルートはその年ごとに変わっている が、規制される道やのの字回しの場所などに大き な変化はない。ルートが変わる理由としては、3 年ごと に変わる「年番」という制度というもの がある。また、山車が高いため、電線のあるルー トは避けるなどの考慮している。
3−2.佐原の敷地分析
佐原南地区全体が入る広域な地図にマッピング では以下のように分析した。( 画像7)
・佐原地区は香取市の中でも、川と山に囲まれた 集落のような場所
・建築が建つ範囲を時代で追うと、小野川から町 が始まり広がり、鉄道ができた 1900 年代後半に かけて街の中心が駅にずれていったとがわかる。
・1989 年に誕生した佐原駅が 1980 年代の国鉄 分割民営化に伴い、東日本旅客鉄道 (JR 東日本 ) の駅となったあたり ( 水色 ) から駅を囲むように 東西南北に、 建物が建設された。
・1975 年 ( 水色 ) 時期は国道 356 号が開通した ことも、広くまちが使われるようになっ た要因。
・古くからあるエリア ( 赤・紫 ) は、建物同士の 密度が高い。
グラフ 2 年代別人口 グラフ 1 香取市人口
画像2 舟運が栄えていた当時の お祭り時の様子
観光案内所展示写真より
画像3 現在の小野川沿い Wikipedia より
画像4 地域住民団体
画像5 明治 42 年 「諏訪神社」
大祭山車番組之図
画像6 明治 32 年 「八坂神社」
大祭山車番組之図
少し縮尺をあげ、より正確に中域範囲の調査を 行ない、以下のように分析した。( 画像8)
・駅より北の地区では大きな国道沿いに店舗が立 ち並ぶ一方で、南の地区では道に沿ってだけでな く、いたるところに店舗が点在している。
・北の地区ボリュームが大きく密度が低い、南の 地区ではボリュームが小さく密度が高い。
・直線に綺麗に整備された道が多い北側と、直線 と曲線の道が混在する南側エリア。
・川を中心とする道沿いに観光スポットが立ち並 んでいる。
・景観形成地区や伝統的建造物群保存地区は特に 密度が高く建築が並んでいて、当時の様子が残っ ている。
さらに少し縮尺をあげ、より正確にお祭り範囲 の調査を行ない、以下のように分析した。( 画像9)
・歩行者用路地が多く、どの道も狭く大通りの 裏や街区の中に入り込んでいることから、この街 に住む人に利用されている。
・お祭り時は山車を引くコースは指定されていな いが、広い十字路では山車の「のの字回し」を行 う場所が指定されている。
・駐車場や空き地を活用して出店や小ステージを 出す広場は、「のの字回し」を行う人が集ま るあ たりに設定されていることが多い。
・お祭り時に規制される大通りは、普段は車通り が多く、店舗が立ち並ぶ。
・一方通行の道が多く、古い交通ルールが残って いる。
画像7 広域マップ
画像8 中域マップ
画像9 お祭り範囲マップ
画像10 カシミール結果
最後にカシミール 3D を活用し、佐原地区の地 形の調査区を行ない、以下のように分析した。( 画 像10)
・過去に川がどの範囲まであったのか、川の水が 氾濫したことはあったのかなどの推測はできな かったが、地形が全体的に緩やかであることがわ かった。
・小野川周辺は古くから残る建物と、周辺の住宅 街として平地が続くが、その周りには利根川や山 に囲まれていることがわかった。
A
A
B
B
4.佐原の街の構造
街の分析を進めていくと、いくつかの歩行者専 用路地と出会った。 路地は以下の 5 つの種類に 路地を分類することができた。( 画像11)
・建築隙間型路地
→建築が道に対して閉じている
・建築玄関口路地
→ 建築が道に対して玄関を持っている
・自動車可能路地
→自動車が通ることのできる歩行者用路地
・私有地化路地
→私物を置いている
・公共的路地
→敷地を公共的に開いている路地
上記の5つに分類分けした路地を地図上でマッピ ングした。( 画像12)
路地の分析の調査からまちの構造 ( 画像13) を見ると、 観光や交通で賑わう道がある一方で ( 画像14)、その内側は目の向けられていないま ちの裏 ( 画像15) になっているように感じた。
そこで私は、今ある観光客が使う表のネットワー クに対し、地元住人のための裏ネットワークを歩 行者用路地を絡めて計画する。 まち裏のネット ワークを計画することで、まちを歩く楽しさ、歩 くことでまちの魅力を体感できるまちづくりを目 指す。
5-1.設計手法
まちの構造から、 地元住人のための裏ネット ワークを歩行者用路地を絡めて提案する方法とし て、既存の路地に対し建築と建築が作った道が路 地をつなぎ ( 画像16)、 日常では路地と建築を 地元住人が利用し、お祭り時には建築で観光客と 地元住人が交わることのできるものとなる。( 画 像17)
また、それぞれの配置計画は、歩行者が自由に迷 い込む、 巡りこむことのできるような計画を行 なった。そのために、敷地に対して、道を設定し ボリュームを配置するのではなく、建築群の隙間 を道にする配置として計画する。( 画像18)
画像11 路地分類
画像12 路地分類
画像13 街の構造
画像14 賑わう道 画像15 街の裏
画像16 ダイアグラム
空き家・空き地 駐車場・塀
etc
建築
地元住人の利用 ( ケ ) 観光客の利用 ( ハレ ) 建築
画像17 ダイアグラム
画像18 ボリュームに対する建築配置
5- 2.設計手法
建築空間の設計手法としては、佐原の町の特徴 としてあげられる「出格子、出桁、軒桁、下見板 張、紋瓦、風切丸、通り土間、揚戸、店看板、冠 木門、板塀、路地 etc」( 画像19)や、
7.参考文献
なぜ人はショッピングモールが大好きなのか ショッピングの科学ふたたび
パコ・アンダーヒル 鈴木主税訳
ショッピングモールから考える
ユートピア・バックヤード・未来都市
東浩紀・大山顕
写真文集 佐原の大祭
小関与四郎
日本の街並み「佐原・潮来」
凸版印刷株式会社
佐原山車祭調査報告書
佐原市教育委員会/発行
佐原市佐原地区町並み形成基本計画
佐原市
佐原市歴史的地区
町並み形成ガイドプランー建築編―
佐原市 内部と外部をきちんと分ける既存計画に比べ
て、新計画範囲は、内外をつなぐ空間とする。室 内を外にむき出しにするために、ガラス張りにす ることで、内部と外部が入り混じる空間を目指す ことや、境界を少なくするために土間を使用する ことなどを使用し設計を行った。
6.謝辞
コロナ禍によって、対面が厳しい中、オンライ ンを使い、ご指導くださった赤松先生には 非常 にお世話になりました。また、スタジオとし て 指導してくださった小野田先生、 副査の北山先 生、小堀先生にも感謝いたします。 そして、一 緒に悩んで考えてくれた同期、最後まで手 伝い をしサポートしてくれた後輩の皆様にもとても感 謝しています。 今回の修士設計を通して、家族、
同期、先輩、後輩 すべての人に支えられてきま した。ありがとうござい ました。
景観形成地区と伝統的建造物群保存地区の修景 などのプランを参考に計画を行う既存計画と、今 回新たに更新していく新計画を組み合わせて行 う。組み合わせていくことで、街並みを保全しな がら佐原の町を新たに踏襲し、更新していく。( 画 像 20)
画像19 佐原で見られる特徴
町並みガイドプランより
画像20 ダイアグラム