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事業推進に向けての社会的活動

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Academic year: 2021

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博士(公共経営)学位論文 概要書

事業推進に向けての社会的活動

―近江日野商人中井源左衛門家・近江日野商人高井作右衛門家・野田醤油の事例―

Social Activities Towards Profits

Case of Omi-Hino Merchant Nakai-Genzaemon Family, Omi-Hino Merchant Takai-Sakuemon Family and Noda Shoyu

2012 年 2 月

早稲田大学大学院 公共経営研究科

朴 珎怜

Park, Jinyoung

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近年、企業の社会的責任(CSR)に大きな関心が寄せられている。それは、企業が本来 とは異なるかたちで社会便益の向上に資する活動を行うことである。日本においてCSRに 類似した取り組みは、古くから行われていた。その源流が近江商人の「三方良し」にある と言われている。「三方」とは、「売り手」「買い手」と「世間」のことで、商売を介して直 接的に結ばれた売り手・買い手のみならず、「世間」のことも考えたことが注目されたので ある。古くから日本においては、企業とりわけ商人による社会的活動が行われており、社 会諸問題を解決する役割を果してきた。

なぜ日本には古くから商家による社会的活動が行われたのであろうか。本論文は、3つの 商家を事例に取りあげ、各商家の古文書や自治体史等の一次資料を用いて、その動機を明 らかにするものである。本論文では、社会問題解決に資する取り組みを社会的活動と定義 する。なお、ここでは、本業を通じた財やサービス提供による部分ではなく、これら事業 を推進する過程において行われる社会的活動に焦点を当てる。研究対象としては、近江日 野商人中井源左衛門家、近江日野商人高井作右衛門家、千葉の野田醤油を取りあげる。

一般に個人が行う社会的活動は、慈善動機に基づいて行われるとされる。商人とりわけ 近江商人に関する研究においてもその社会的活動について、彼らが行った救済事業や公共 事業は、宗教や教えによる道徳観・倫理観に起因すると説明されている。しかし、商家の 社会的活動は倫理観や宗教観によるものばかりではない。

イギリスの経済学者であるR. Sugdenは、個人が行う社会的活動には、利己的動機が存 在するため、社会問題解決に必要な社会的活動の量が確保できると主張する。Sugdenの主 張は、企業のような経営組織における社会的活動にも敷衍することができる。つまり、企 業による社会的活動においても、事業推進といった利己的動機に基づくものがあり、むし ろその方が慈善動機に基づくものよりも強いインセンティブに支えられるのである。

したがって、本論文では、3つの商家の事例を通して慈善動機に並んで事業推進動機によ るものも併せて多面的に分析を行い、こうした活動が社会的に果した機能と重要性を明ら かにする。以下、3つの商家による社会的活動内容を簡単に紹介する。

第1例は、近江日野商人中井源左衛門家である。中井家は、近江日野出身でありながら、

行商を始めたことをきっかけに、後には仙台を中心に全国に15店舗を構え、商活動を行っ た。同家は、各地の特産品を他地域に持ち運び販売する産物廻しの手法を行っていた。こ の他、金融業を営んでおり、醸造業も行ったことがある。中井家は地元日野の長者番付に 載るほどの豪商となり、商活動の傍ら多くの社会的活動を行った。

同家は、慈善事業として、毎年困窮者支援のための施行を行っている。これは、恵まれ た者は御救を行うという豪商としての使命感から発するものと、困窮者による打壊しを回 避し地域の治安を維持するための両側面をもって行われた。また、専ら商活動を推進する ために行われた社会的活動がある。同家は全国に支店を置き、産物廻しを行っていたため、

迅速かつ安全に物資を運搬する必要があった。このようなことから、道路の修復、橋の架 け替え、常夜灯の設置などに注力した。これらの施設は、地域住民も利用でき、インフラ

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第 2 例は、近江日野商人高井作右衛門家である。高井家も近江商人の特徴である行商に 出かけたのを商活動の始まりとする。主な進出先は群馬藤岡であり、現在も群馬県藤岡市 において酒造業を営んでいる。高井家は、三重県津市においても店舗を構えたことがあり、

醸造業、金融業、問屋などを営んでいた。

同家の社会的活動の特徴は、幕府権力や地域住民の要請に的確な対応をしていた点であ る。飢饉や火事などの際、町の役人や地域住民あるいは徒党等の要請を受け施行を行って いた。これは、慈善意識に基づくものと見られるが、同時に要請に対応することによる打 壊し回避など、危機管理対策としての側面を持ち、事業推進を目的として行われたと見る こともできる。

最後の事例は、醤油製造で知られるキッコーマン株式会社の前身に当たる野田醤油であ る。千葉県野田市において醤油・味噌醸造を行った高梨・茂木一族を中心とする各醸造家 が、事業拡大のために組合を結成し、事業推進過程において社会的活動が行われた。

野田の醸造家は飢饉の際に、豪商としての使命感から困窮者支援を行った。これは、慈 善意識からなるものであると同時に、打壊しなどを避けるための危機管理対策としての性 質を帯びている。また、事業拡大を図る過程においては、醤油増産のための水道事業、物 資の運搬や東京市場進出のための鉄道敷設などを行ったが、これらの施設は地域インフラ として地域住民も利用できた。

以上、3つの事例を通して本論文で検証できたことをまとめると次のようになる。企業に よる社会的活動には慈善動機の他、事業推進動機に基づくものが存在し、後者は企業固有 の利潤追求という強いインセンティブに支えられており、社会問題解決に資するものであ る。このような商家の社会的活動は、救済事業や公共事業を政府が十分に行うことができ なかった近世・近代において、とりわけ重要な役割を果たしていたのである。

参照

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