NII-Electronic Library Service 「
退
法
阿
羅
漢
考
」小
丿
宏
N工工一Electronlc Llbrary Servlce
( 論 文 要 旨 〉 倶 舎 論 賢 聖 品 に 所 出 の 喬 底 迦 比 丘 の 阿 羅 漢 果 よ り の 退 失 を め ぐ る 「 退 法 阿 羅 漢 」 伝 説 を 中 心 と し て、 そ の 伝 説 の 淵 源 を 探 り、 更 に、 聖 果 よ り の 退 転 ・ 不 退 転 の 如 何 を 部 派 仏 教 の 各 派 が ど の 様 に 考 え て い た か を 探 求 す る 。 特 に 喬 底 迦 の 残 し た 長 老 偈 中 の 偈 頌 を 考 察 し、 そ の 「 雨 中 庵 住 」 の 境 地 の 評 価 が 阿 羅 漢 果 退 転 論 に 大 き な 位 置 を 占 め る 事 を 明 ら か に す る 事 を 企 図 す る 。 仏
教
で は修
行 の 過程
に お い て 不 退転
論 と 退 転 論 が 重要
な問
題
で あ る 。本
論稿
に お い て は 部 派 仏教
思
想 を中
心 と し て 退 転論
を
考
察す
る 。 倶 舎論
25
(大
291
b
) に 六度
も
阿羅
漢
果
を 退転
し、 つ い に 七 度 目 の 退転
を
厭
っ て、 自害
し た 喬底
迦
( ゴ ー デ ィ カ ) 比 丘 の奇
妙 な 伝 説 が 述 べ ら れ て い る 。 こ の伝
説 を中
心 と し て 部 派 仏教
に お い て 沙 門 果 よ り の 退転
が ど の様
に考
え ら れ て い た か、 更 に 世 親論
師 の本
問 題 に 関す
る真
意 に つ い て 論 究す
る事
と す る 。 論考
は 二 分 し て前
半 に お い て喬
底 迦伝
説
を 、 後 半 で は 沙門
果
よ り の 退転
論
を考
察
す
る 。 一81
一 「退法阿羅 漢考 」e
ゴ ー デ ィ カ 比 丘 の伝
説 ぴ の 喬 底 迦 比 丘 は パ ー リ 名 は ゴ ー デ ィ カ 。 サ ン ス ク リ ット
名
は ガ ウ テ ィ カ で あ る 。当
論
考
で は ゴ ー デ ィ カ と し て 論 ゜ を 進 め た い 。 赤 沼 智善
著
「 印 度 仏教
固有
名
詞 辞典
」 に お い て は、 二 つ の 話 題 を載
せ て い る 。第
一 は 長 老偈
第
51
偈
よ り 第54
偈 の 註釈
に依
れ ば、 ゴ ー デ ィ カ は 刹帝
利
種 出身
で マ ッ ラ 王 族 の 子息
で あ っ た が 、 同 族 の 三人
と 共 に 出家
し た 。 上 述 の 長 老偈
の第
51154
偈
は 各 人 の偈
で あ る 。偈
の 内 容 は 共 通 し て お り 、後
述 の 如く
「 雨中
庵
住 」 の偈
でNII-Electronic Library Service 智山学報第四十三輯 平 成 六年三 月 あ る 。
第
二 の 話 題 は サ ン ユ ッ タ こ 一 力i
ヤ ・4
に依
れ ば、 「 彼 は イ シ ギ リ に あ り て 六度
悟 る も病
気 の た め 六 度 退転
す、 七 度 目 に悟
り し 時、 更 な る 退転
を 恐 れ て 自 殺す
。 」 と し て、 こ こ で問
題 とす
べ き 退 法 阿 羅漢
論
の 基 礎 と な る伝
な ゆ 説 を 述 べ て い る 。 ゴ ー デ ィ カ に 就 て は、 此等
以外
の 伝 説 は 見 当 ら な い様
で あ る が、 な お 倶舎
論 記 ( 大411
銅b
) に は 「 喬 底 迦 , 是 . 牧 牛 種 ナ リ 。 又 真 諦 云 ク 。 喬 底 迦ハ 此二 云 フ 瓦 器 ー本
ハ 是 . 外 道 ナ リ 。 恒 二 執 . 瓦 器 ヲ巨
. 随 . 。仍
. ア 本三為
ス名
ー 。 」 と あ り 、 牧 牛二
一 一 一 一 レ レ 種 出
身
で 、 真 諦 三 蔵 の 説 で は 本 は外
道 で あ っ た とす
る 。 口 「 雨中
庵
住 」 の偈
に つ い て 長 老偈
所
載
の ゴ ー デ ィ カ の偈
は次
の 如 く で あ る 。 五 一雨 降 り て 〔 そ の 音 〕 よ く 律 に 調 へ る が 如 く、 予 が 屋 舎 は
葺
か れ 、 風 を 防 ぎ て 楽 し く 、 予 が 心 は 亦 よ く 定 に住
す
、 さ れ ば 雨 よ、 若 し 〔 降 ら ん と 〕 欲 せ ば、降
れ 。 〔右
〕 瞿 底 迦 長 老 (南
伝25
ー 皿 ) 。前
述 の 如 く こ の 内 容 は他
の 三 人 の 同 行 の 三 長 老 と ほ ぼ 同 一 で あ る 。 即 ち 「 自 分 の住
む庵
の 屋 根 は よ く葺
か れ 、 降 る 雨 は 音楽
の 如 く 楽 し い 。 雨 よ も っ と 降 れ 」 と 言 っ た 心 境 の詩
で、 「雨
中
庵
住
」 の偈
と名
付 く る 所 以 で あ る 。 こ の 「 雨中
庵
住
」 の 心 境 は調
和 し た 状態
の 聖 者 の 心境
で あ り 、 上偈
の 四偈
以外
にも
、 ほ ぼ 同 一 の 「 雨中
庵
住
」 の偈
が 長 老偈
第
跏偈
よ り 第 鵬偈
に わ た っ て 五偈
も 連統
し て ギ リ マ ー ナ ン ダ 長 老 の偈
と し て載
せ ら れ て い る 唯 然 ら ば こ の 「 雨 中庵
住 」 の 偈 は い わ ば ゴ ー デ ィ カ個
人 の 心 境 を 述 べ た も の と 】 一=5
つ よ り も 、 「 心 の 調 和 し た 聖 者 の境
地 」を
述 べ た も の で あ る と言
え よう
。 而 し て 「 雨 と庵
」 以外
に 「雨
と 岩窟
」 の 例 も長
老 偈 に は 散 見 さ れ る 。 長 老 偈 の 九偈
集
に は ブ ー タ 長 老 が安
楽
に し て こ れ に優
れ る 楽 を 得 る こ と な き 八例
の中
に、 「空
中 に 雲 雷 鼓 響 き 鳥 路 に 四方
よ り豪
雨 注 ぎ来
る に 、比
丘 は ま た 山 腹 に 入 り て禅
思す
る 時 」 ( 第 糀偈
) と 「 中 夜 、人
な
き 森 林 中 に 於 て、 雨 降 り 、有
牙 の 〔獣
類 〕 吼 ゆ る に 、 比 丘 は ま た 山窟
に 入 り て 禅 思す
る時
(第
翩偈
) と 「 山 間 に 〔 入 り 〕 巌 一82
一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service 「退法阿羅 漢考 」 岫 に よ り て、 己 れ が
疑
念
を 止 め、 恐 怖 を離
れ 、剛
腹
を離
れ て禅
思 す る時
」 (第
聯 偈 ) と の 三例
が 共 通 の境
地 で あ る 。 (南
伝
251
膃 ) 。雨
と庵
、 又 は 岩 窟 の 偈 は 単 に 仏 弟 子 た ち が こ の 様 に 感 じ た だ け で なく
本
来 は 仏 陀 が 弟 子達
に 対 し て推
奨
し た境
地 であ
っ た 事 が 以 下 の資
料
で 判 明 す る 。 即 ち 法 句 経 第14
偈 に は 「善
く葺
き た る 家 屋 に 雨 の漏
らな ほ ざ る 如 く 、
貪
欲 は修
養 せ る 心 を 侵 さず
。 」 と あ り (南
伝
23i19
)ゆ ウ ダ ー ナ ・ ヴ ァ ル ガ
第
31
章
第17
偈
よ り第
22
偈
も 同 一 内容
で あ る る 。 こ の 仏 陀 の 説 示 は い わ ゆ る 仏 の 十 大 弟 子 と呼
ば れ る高
弟
達
にも
周 知徹
底 し て い た ら し い 。 長 老偈
第
1
章
第
1
偈
に は 須菩
提
長 老 の偈
と し て 、 「 予 が 小 舎 は 葺 か れ 、 風 な く し て 心 地 よ し、 天 よ 、 望 の ま ・ に 雨 降 ら せ 。 予 が 心 は善
く 定 に住
し 解 脱 を得
、 〔 予 〕 は 熱烈
に し て 住 す、 〔 さ れ ば 〕 天 よ、 雨 降 ら せ 。 」 ( 南 伝251
) と あ り、 更 に 舎 利 弗 の偈
と し て第
蜥偈
に 「 「 跏 趺 」 を 組 み て 坐 せ る も の の膝
に 雨降
る こ と な し 、 こ れ専
心 な る 比 丘 の楽
住
に は 足 る 。 」な (
南
伝
251
魏 V 。 と あ る 。舎
利 弗 は こ の 心 境 が 現 法楽
住
に相
当
す
る と な し て い る 。特
に こ の 「 雨中
庵
住
」 の 心境
を 現 法楽
住 と 見 な す 舎 利弗
の偈
は 注 目す
べ き で あ る 。 即 ち 「 雨中
庵
住
」 の偈
は 一 応 の 悟 入 の 境 地 を 示 し て は い る が 、究
極 の悟
達 で は な い と さ れ る所
以 で あ り、 そ の た め後
述 の 如く
ゴ ー デ ィ カ の 退 法 も 起 る の で あ る 。 し か し少
く と も 究 極 の悟
達
へ 至 る 過 程 で はあ
る と い え る 。 そ の故
に か 、 ブ ッ ダ ゴ ー サ は清
浄 道 論 、第
一 品 「戒
の 解釈
」 (南
伝
62
170
) に お い て、 よ く葺
か れ た 屋根
を 持 つ家
を 持 律 堅護
の 比 丘 に喩
え た 法 句 経 の 「善
く
葺
か れ た 家 」 の偈
を引
用 しま て い る 。 ブ ッ ダ ゴ ー サ は 「
雨
中
庵
住 」 の 心境
も 究極
の悟
達
で は な い と 見 て い た の で あ ろ う 。 こ の ゴ ー デ ィ カ の 「 雨中
庵
住
」 の 心 境 を 現 法楽
住
と 見 る か否
か が、 ゴ ー デ ィ カ の 退 法 を 巡 っ て 有 部 と 経 部 の論
争
点 の 一 つ と な る 。 さ て 以 上 の 如 く 「 雨 中庵
住
」 の 心境
は 仏 陀 が 説 示 し た原
始 仏教
以来
の、 イ ン ド の 自 然 と 雨 安 居等
の 生 活 習慣
と に 基 づ い た 理 想 的 境 地 を 示 し て い る の で あ る 。 い わ ば イ ン ド よ り東
方
地 域 の シ ナ や 日 本 の 雨 多 き 気 候 地帯
、 即 ち モ ン ス ー ン 地 域 の環
境 に根
ざ し た 生活
か ら の 心境
であ
る と 言 え よう
。 一83
一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service 智山学報 第四 十三輯 な お、 こ の 事 は 後 世 の 日
本
で は 良 寛 禅 師 の 漢詩
に 同 様 の 心 境 が 歌 わ れ て い る事
に 注 目 し た い 。 良寛
詩
集
( 山菠
文霧
頁 ) に は . 終 日履
食 ヲ 罷 .. . 、 帰 リ来
蚕
蓬星
、 爐 、 .携
.蹴
. 、 葉 . 柴 → 、静
力 、 読雲
山蕈
、 西 風 吹譲
璽
、 颯 ・ 、 .粤
矛茨
、 時 、 伸翼
卑
臥 . 、 何 . 力 思 イ 又何
. 力 疑. . L と あ り、 ま さ し≦
あ
漢 詩 は ・ 雨 中 庵 住 L の 心境
を 吐 露 し た も の で あ る。 更 に 同集
( 同 頁 ) に は 「 生 涯懶
ク 立 ツ ル ニ身
ヲ 、 騰 々 ー .一 ア 任 . 天 真 二 、 嚢中
三 升 ノ 米、 レ レ ニ 爐 邊 一 ,束
薪、 誰 力 問 ハ . 迷 悟 . 跡 、 何 ゾ 知 ラ . 名 利 ノ塵
、 夜 雨 草 庵 . 裡、 雙 脚 等 間 二伸
ス 」 と あ る 。 こ の 詩 も 同様
で あ る 。 良 寛 詩 に は 原 始 仏教
以来
の 「 雨中
庵 住 」 の 心境
が 連 綿 と し て 脈 打 っ て 伝 え ら れ て い る の で あ り、 逆 に言
え ば 良 寛禅
師 の 境 地 は 原 始 仏教
へ 朔 行 し て い た の で あ る 。 一 見 す る と 平 易 に 思 わ れ る こ れ ら の 漢詩
も 「 雨 中 庵 住 」 の 現 法 楽 住 の 心 境 に 通ず
る と見
れ ば 深 い 省 察 か ら 生 ま れ て い る と 考 え ら れ、 新 し い 味 わ い 方 が な さ れ得
る と 言 え よう
。 日 ゴ ー デ ィ カ の 退 法 と 自 害 伝 説第
二 に ゴ ー デ ィ カ が 阿 羅漢
果 を 退転
し、 七 度 目 に 阿 羅漢
果 を 得 せ し 時、 更 な る 退 失 を 恐 れ て 自害
し た と さ れ る伝
説 は、前
述 の法
句
経
註 釈 所 出 で あ る が 、古
く は サ ン ユ ッ タこ
一 力 ー ヤ4
巻
に逆
上 り、漢
訳 経 典 と し て は、雑
阿 含 経39
巻 ( 大 正2
ー
脱 c ) や 別 訳雑
阿含
経
2
巻
(大
正21
魏 cV に も 同 内 容 の伝
説
が 述 べ ら れ て い る 。 こ こ で は ゴ ! デ ィ カ の 退 法伝
説 を サ ン ユ ッ タ ・ ニ カ ー ヤ4
巻
に よ り 概 観 し て み よう
嗜 仏 陀 が 王 舎 城 に住
し た 時、 ゴ ー デ ィ カ は イ シ ギ リ 山 の 黒曜
岩 に 住 し た 。 彼 は 一時
的 の 心 解 脱 を 発 得 し た が 六 度 そ れ を 退 失 し た 。 七 度目
に 一 時 的 の 心 解 脱 を 発 得 し た時
、 彼 は 「 我 は 六 度 ま で 一時
的 心 解 脱 を 退転
せ り 。 我 は寧
ろ劔
を と ら ん か 。 」 と 自 殺 を覚
悟
し た 。時
に悪
魔
は 彼 の 心 を 知 り 、世
尊
を
訪 れ、 「 な ん じ の 弟 子今
、 死 を 思 い 死 せ ん と 期す
。光
の主
よ、 そ を と ど め 給 え 。 」 と 彼 の自
殺
の 阻 止 を勧
め た 。 仏 は 悪魔
に 対 し て 「 生 く る こ とを
欲 せず
し て 英 雄 は是
の 如 く な す な り 。根
こ そ ぎ 渇 愛 を 抜 き て ゴ ー デ ィ カ は 涅 一84
一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service
槃
せ り 」 と答
え た 。 仏 が 黒 曜 岩 に 到 る と ゴ ー デ ィ カ が 倒 れ て お り、 そ の 周 囲 に 烟 ( け む り ) の 如 き も の が動
い て い た 。 こ れ は 悪魔
が ゴ ー デ ィ カ の 織 神 ( た ま し い ) を求
め て い る の だ と 仏 は 語 っ た 。 悪魔
は 箜 篌 を 取 り て 仏 に 談 り、 「 四方
八方
を求
め た が ( ゴ ー デ ィ カ の識
神
は ) 得 ら れず
、 ゴ ー デ ィ カ は何
処
に い け る や 」 と 仏 に 問う
と、仏
は 「 志賢
き英
雄 は 生 き ん こ と を願
う こ と な し 。 死魔
の軍
を 打 ち破
り、 再 生 に 行 かず
、 根 こ そ ぎ渇
愛 を 抜 き て ゴ ー デ ィ カ は涅
槃
せ り 」 と答
え た 。 以 上 が そ の 梗概
で あ る 。 こ の伝
説
を 述 べ る 経 典 に は 仏教
に お け る 識 神、 即 ち 霊魂
論
と か 、悪
魔
論
と か の 注 目す
べ き 諸 問 題 が あ り、更
に自
殺 の是
非論
等
も 重要
な問
題 で あ る が 、今
回 は そ れ に は議
論
を及
ぼ さず
、 退 法 阿 羅 漢 論 の教
証
と し て の方
面
に考
察
を
し ぼ る事
と す る 。な
な お パ ー リ 文 の ダ ン マ パ ダ ・ ア ッ タ カ タ
i
(法
句
経 註 釈) の内
容
も同
一 で あ り、 漢訳
雑
阿含
経39
巻 や別
訳
雑
阿は ゆ
含
経
2
巻
に 説 か れ る 内 容 も大
同
小 異 で あ る 。ロ
な
お ニ カ ー ヤ 及 び 阿 含 経 の 主 眼 は 仏 と 悪魔
の 対論
に あ る が、婆
沙 論 や倶
舎論
な ど の 阿毘
達
磨
論書
で は 退法
阿 羅漢
の 実 例 と し て ゴ ー デ ィ カ の伝
説
が挙
げ ら れ て い る と い う 相 違 が 注 目 さ れ る べ き で あ る 。 一85
一N工工一Electronlc Llbrary Servlce
「退 法 阿 羅 漢考 」 四
修
業
階梯
上 の 阿羅
漢
論
と 退転
論 声聞
の 修業
を詳
述す
る の は倶
舎
論
賢
聖 品 であ
る が、 そ の 中 で 四 沙 門果
の最
後
た る 阿羅
漢
果 が詳
述 さ れ る 。特
に 阿 羅 漢 果獲
得
上 の 先 天性
と後
天性
の問
題 と 、 阿 羅漢
果 よ り の 退 転 不 退転
論
と が大
き な位
置
を占
め て い る の が 注 目 さ れ る べ き で あ る 。次
に こ れ ら の問
題 を 亠 ハ 種性
阿 羅 漢問
題 と し て考
察
し て み よう
。 六 種性
阿 羅漢
に つ い て婆
沙
論
62
巻
(大
271
枷b
) に は 阿 羅 漢 に つ い て 退 法、 思 法、 護 法、 安 住 法、 堪 達 法 、 不動
法 の 六 種 を挙
げ て おNII-Electronic Library Service 智山学報第四十三 輯 り 、
倶
舎
論
25
巻
(第
291
擱 a ) に も 詳 細 な 論究
が さ れ て い る 。倶
舎
論
で は こ の 六 種 性 阿羅
漢 説 を契
経 に 由 る と し て い る が出
拠
は 不 明 で あ る 。婆
沙 論 で は特
に 契 経 説 と は し て い な い の で あ る 。但
し 、中
阿含
経 の福
田 経 (大
一−
硼 a ) に 九無
学
を挙
げ る中
の前
六 が こ の 六 種 性 と同
一 で あ る か ら、 九無
学
の中
か ら 、 六 種 を 別 出 し た も の で あ ろ う 。 六 種性
阿 羅 漢 の 概 略 を 述 べ れ ば、e
不 退転
の 不動
法
阿羅
漢
と 、 口 退転
の 恐 れ の あ る 退法
阿羅
漢 よ り 堪達
法
阿羅
漢 ま で の 五 種 性 阿 羅 漢 と に 二 大 別 さ れ る 。 退 法 阿 羅 漢 は障
害 た る 小 縁 に 遇 え ば 退転
す
る 。 思 法 阿 羅 漢 は 退 転 を 恐 れ 自 害 を 思う
。 ω護
法 は 所 得 の 果 を 喜 び 自 ら護
る 。 安住
法 は 強 い 退 転 の 縁 以 外 に は 護 らず
とも
退失
し な い が、 こ の 境 地 に 安 住 し て更
に 上 の 不動
法 に増
進 せ ん と し な い 。 堪 達 法 は 練 根 し て不
動 法 に 達 せ ん とす
る 。 ω 不 動 法 は 決 し て 退転
し な い 。 以 上 の 六 種 性 阿 羅 漢 の 中 で、 退 転す
る お そ れ の あ る前
五 種 の 阿羅
漢
は時
愛 心 解 脱 と さ れ る 。 学 位 に お け る 信 解 の 性 よ り 生 じ た も の で 、 恒時
に愛
護
し 心解
脱す
る か ら で あ る 。 即 ち信
の方
面 よ り悟
達す
る 鈍 根 者 で あ り、 退 転 の 恐 れ が あ る か ら、 常 に 防 護 の 必要
が存
す
る の で あ る 。 更 に こ れ ら は時
解
脱 と も 名 付 け ら れ る 。 即 ち 好 衣、 好 食 好 処等
の 如 き、 婆 沙 論 皿巻
(大
正271
皿 a ) に説
く
六勝
縁等
の 良 好 な環
境
を 待 っ て 入定
す る の で あ る が、 以 上 の 条 件 を欠
除す
れ ば 退転
す
る か ら 、時
処
位
の 制約
を受
け る 阿 羅 漢 で あ る 。 こ れ に 対 し 不動
法 羅 漢 は 一86
一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service 不 動 心 解 脱 と 名
付
け ら れ る 。 退動
な く 心 解 脱す
る か ら で あ る 。 ま た 不 時 解 脱 と も 名 付 け ら れ る 。 「 三 摩 地 が 欲す
る に 隨 い て 現前
し、勝
縁
の和
合
す る 時 を 待 た ざ る が 故 な り 。 」 と し て時
処位
を 超 越 し て い る 。 こ の 羅 漢 は学
位
の時
に 見 至 の 性 た る利
根者
が達
す
る の で あ る 。 更 に 両 解 脱 を暫
時
と畢
境
の 二 つ に 分 け て 、 時解
脱 を 一 時 的 な解
脱 で 有 退、 不時
解 脱 を 永 遠 の 解 脱 で 無 退 とす
る 異 釈 も 存 す るN工工一Electronlc Llbrary Servlce
因 退 転 の 直 接 原 因 得 果 を 退 転
す
る に は 修行
者
の素
質 や 過去
の業
等
の 間接
原
因 が 存 在 す る の は 勿 論 で あ る が、 退転
の直
接 原 因 に関
し て 婆 沙 論60
巻 ( 大 正271
抛b
) で は 五種
を あ げ て い る 。 即 ちe
多 く 事業
を
営
む 。 口 諸 の戯
論を
楽
し む 。 日 好 ん で 闘 諍 を 和 す 。 圓喜
ん で 長途
に 渉 る 。身
は 恒 に 多 病な
り 。 とす
る 。 ゴ ー デ ィ カ の 場合
は の 多 病 が 原 因 と さ れ る 。 一87
一 「退 法 阿羅漢考 」 絢 聖 果 の 退 ・ 不 退 に 関 す る 諸部
派
の 説 入 見 道 以 後 の 聖果
を 退 転す
る か否
か は 諸 部 派 の 間 で様
々 な 説 が 行 な わ れ て い る 。倶
舎 論25
巻 や婆
沙 論60
巻
・62
巻
以 外 にも
異部
宗
輪
論 や 同 述 記 、 ま た 成唯
識 論 了義
灯 四本
( 大 正43
ー a ) 唯識
論
同学
鈔22
(大
661
跚 aV等
に 言 及 さ れ て お り、 パ ー リ 仏教
でも
論
事
( 南伝
571
) に お い て は 特 に 阿 羅漢
の 退 不 退 論 と し て 詳細
な論
究
がな
さ れ て い る 。 以 上 の 諸点
か ち考
え て 、 こ の問
題 が 部 派 仏教
史
上 の 重 要 論 題 で あ り 、更
に後
代 の 大乗
唯
識
仏
教
に お い て も等
閑 に 附 し 得 な か っ た事
がう
か が わ れ る 。 そ こ で 上 掲 の資
料
か ら 各 派 の本
問
題 に関
す る 態 度 を概
観
し て 見 よう
。NII-Electronic Library Service 智 山学報第四十三 輯
各
派 の 本問
題 に 対 す る態
度 大衆
部 の態
度
先 ず 大 衆部
の 学 説 で あ る が、異
部 宗 輪 論 (大
49
−
15c
) に は 「 預流
.者
有
二 退 .義
一 。 阿 羅 漢無
遉
.義
。 ・ と あ っ て 、 預 流 以後
の 入見
道者
に 退 失 は有
り 得 て も 、 阿 羅 漢 に は 退転
は 無 い と し て い る 。 】 来 果 及 び不
還 果 の 二 果 も 唯 識論
同 学鍵
(大
66
ー 灘 a ) によ
れ ば .修
惑
. 未 レ 尽 キ 、 所 修 . 聖 法. 、 未官
飛
故 . 、 未奮
究
ぜ
. .汽
退タ
也 。 と し て 退 失す
る と考
え ら れ て い る 。 な お、宗
輪 論 で は 、 化 地 部 も 大 衆 部 と 同様
と し て い る。 有 部 の態
度
次 に有
部
の学
説 は次
の 如く
であ
る 。 異 部 宗 輪 論 と 倶舎
論25
に よ れ ば、 入 見 道 以後
の 預 流 果 の み が不
退 で あ る 。 そ れ 以後
の 一 来果
、 不 還 果、 阿 羅漢
果 の 三 果 は有
退 と説
く 。 即 ち 初 果 必 不 退後
三果
容 退 説 で あ る 。 異 部 宗 輪論
(大
49
…
16b
) 預 流 者 ハ無
一 一 退義
一 。 阿 羅 漢ハ有
コ 退義
} 。 倶 舎 論25
(大
29
ー 悌 c ) 不 動 種 性. 必 . 無 二 退 . . 理 一 .前
之 五種
皆
互
退 .義
一 。 (中
略 )何
縁
力定
.無
璽
.先
塁
声
。 以誌
所
断隼
無里
故 ナ リ 。 謂 ク有
身
見ハ依
ア 我 処三 転 ス 。見
所 断 ノ 惑 ハ 此 .見
ヲ 為 ス 根 ト 。我
体 既 二 無 ナ レ ハ名
ク 依 ル ー 無事
二 。 以 ノ 無事
ヲ故
二 必 ス 無 .二
一 二 一
二
二
一 レ レ 退 ス ル 理 一 。 ( 註 〉 経 部 の
態
度
更 に 経部
の学
説
は次
の 如 く で あ る 。 倶 舎 論25
に よ れ ば 、 経部
は 入 見 道 以後
に お い て、 初 の 預流
果 と後
の 阿 羅 漢果
は 不 退 で あ る が、中
間 の 一来
果
と 不 一88
一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service 環 果 の 二
果
は有
退 とす
る 。 倶舎
論
25
(大
29
ー
ba
) 経 藻 師 ノ説
タ .従
ユ . 阿羅
携
亦
無
瑟
.肇
。 南伝
仏
教
諸 派 の 態 度論
事
(南
伝大
蔵
経571
鵬 )第
二章
阿羅
漢 退 論 に は次
の 如 く 述 べ て い る 。 「 正量
部
、犢
子 部、説
一 切有
部
及
び 大 衆 部 の あ る者
は 晦 羅 漢 の 退 を 許す
。 … … こ の邪
見 を破
ら ん が 為 に 阿羅
漢
は 阿羅
漢
果 よ り 退 す る や と問
へ る は 自 論 師 な り 。 」 右 の文
中
の 自 論 師 と は 分 別 上座
部
を指
す
。 分 別 上 座部
は 阿 羅 漢 の 退 を否
定
す る が、 そ の 立場
よ り 阿羅
漢
の 退を
許す
諸部
派 の 名 を あ げ そ の学
説
を破
す る の が 論 事 の こ の章
の 目 的 で あ る 。 こ こ に あ げ ら れ る 阿羅
漢 の 退 を許
す
部
派 の名
称
は 注 目 に 値 す る 。 北伝
仏教
の 分 派 史資
料
の中
心 と な る 異 部 宗 輪論
や 異 部宗
輪
論
述 記 で は 当問
題 に関
し て は大
衆
部
、 説 一 切有
部 、 経 部 が 主な
る部
派 で あ る の に対
し、 南俵
仏教
の 分派
吏資
料
た る論
事
で は、 正 量部
、犢
子 部、説
一 切有
部 及 び 大衆
部
の あ る者
が 阿 羅 漢 の 退 を許
す
と 明 言 し て い る 。特
に 北伝
で は 阿羅
漢 の 不 退 を 説 く大
衆
部 の 一 派 が 南 伝 で は 逆 に 阿羅
漢
の 退 を許
す と な す 点 は 重要
で あ る 。 一89
− 一N工工一Electronlc Llbrary Servlce
「退 法 町 羅 漢考」
論
事
(南
伝
571
鸚 )第
二章
阿 羅 漢 退
論
此 処 に 退 の 説 あ り 。 退 法 不 退 法 と 言 ふ は、 「
比
丘衆
よ、 二種
の此
の法
は、有
学
の 比 丘を
退 転 に導
く 」 、 「比
丘衆
よ 、 五種
の此
の 法 は時
解 脱 比 丘を
退転
に導
く
」 と 経 に説
け る に依
っ て 、 正量
部
・ 説 一 有部
及 び大
衆
部 のあ
る 者 は 阿羅
漢
の 退 を許
す
。 … … 此 の 邪見
を
破 ら ん が為
に 、 阿羅
漢 は 阿羅
漢
果
よ
り 退す
る や と問
へ る は 自 論師
な り 。 此処
に 退す
る や と問
へ る は 自論
師
な り 。 此 処 に 「 退す
」 と言
ふ に 二 種 の 退あ
り 。 己 得 退 と未
得 退 な り … …今
は此
の 二 つ の中
の 己得
退
が 意 味 さ る ・ な り 。NII-Electronic Library Service 智山学報第四十三輯 ゴ ー デ ィ カ
伝
説 の 取 扱 い 。 ゴ ー デ ィ カ の 退転
伝
説 を 如 何 に考
え る べ き か に 就 て有
部
と経
部 は解
釈 が対
立す
る 。 婆 沙 論60
と62
に お い て、有
部 は 雑 阿 含 経38
に基
ず
く伝
説 を そ の ま ま に 解 釈 し て 、 ゴ ー デ ィ カ は 六度
も
阿羅
漢
果
を 退失
し 、 七度
目
に 阿羅
漢 果 を 得 し た が、更
に 退失
す る の を 恐 れ て 自 殺 し た時
、 思法
阿羅
漢
と な っ た と し て い る 。 こ れ に 対 し て 、 経 部 は 六度
の 退 失 は 現 法 楽住
か ら の 退失
で あ っ て 、 い わ ば 表 面 的 な 退失
で あ り、 一度
でも
得
し た 阿羅
漢
果 は 退失
し な い とす
る 。 そ し て 自 殺 と いう
命 を 懸 け た行
為
に よ り確
定 的 な 阿羅
漢
果
に 至 る とす
る 。N工工一Electronlc Llbrary Servlce
有 部 の 阿
羅
漢
有
退 説 の 理由
有 部 が 阿
羅
漢
有
退 説 を 説 く そ の 理由
は何
か 。 そ れ は有
部
の 仏 陀 観 に 由 来す
る 。有
部
の 仏 陀 観 の中
で 特 に 注 目す
べ き は 仏 陀 にも
退あ
り とす
る 仏 陀有
退説
で あ る 。 婆 沙論
61
(大
271
鵬 aV で は諸
仏
に も定
ん で 「受
用 退 」有
る故
に と し て 仏 陀有
退を
婆 沙 の 正義
と し て い る 。勿 論、 仏 陀 の 退 は
方
便 と し て の 「受
用 退 」 で あ る が 、表
面 上 で も 仏 陀 に も 退 あ り と し て、 厳 格 に 退 不 退 論 を考
察 す る 有 部 と し て は、 阿羅
漢
に も 退あ
り と考
え る の は当
然
の 帰 結 で あ る 。次 に 異 部
宗
輪
論
に よ れ ば、有
部
の説
と し て 仏 陀 論 が 述 べ ら れ て い る が、 す べ て 仏 陀 を し て 超 越 的 な 存 在 と せ ん と す る 大 衆部
等
の 説 に 反 し て 、 仏 陀を
よ り 人 間 に 近 き存
在
と し て 描 き、 人 と 仏 と の 間 を 隔 絶 せ ぬ よ う 意図
し て い る 事 が 理 解 さ れ る 。 そ の例
を 以 下 に 列挙
す
る 。 有 部 で は 仏 は 「定
中
無発
語 」 であ
り発
語 は 出定
後 であ
る 。 「 如 来 語 は皆
は転
法 輪 に 非ず
。 」 と し て、 仏 の発
語 を 全 て 説 法 と なす
説
を
否定
す
る 。90
一NII-Electronic Library Service 「退 法 阿羅漢考 」 「 仏 一 音 説 法 」 を
否
定す
る 。 こ れ は に 通ず
る 。 「 仏 に も不
如義
の 言 あ り 。 」 と し て 仏 の自
説
に も 不了
義 経 あ り と なす
。 以 上 の 諸 点 か ら考
え て、 有 部 は 仏 陀 を 超 越 的 全智
全能
の存
在
と せ ず、 仏 陀を
限 定 的存
在 と考
え て い た事
が わ か る の で あ る 。 こ の宗
輪論
と前
掲 の婆
沙 論61
と か ら有
部 の 仏陀
観
は 阿羅
漢
の有
退 論 に そ の基
礎 を与
え る こ と な の であ
る 。 こ れ に 対 し 大衆
部 は異
部 宗 輪論
に お い て 、 仏 陀 観 を 以 下 の 如く
示 し て い る 。 ω 諸 仏 世尊
は 、 皆 是 れ出
世 な り 。 一 切 如来
に は有
漏 法 な し 。 諸 の 如 来 の 語 は皆
法
輪
を 転 ず 。 仏 は 一 音 を 以 て 一 切法
を 説 き た ま ふ 。 世 尊 の所
説 に は 不 如義
語 な し 。 如来
の色
体、威
力
、 寿 量 は 辺 際 無 し 。ω
如 来 に厭
足 心 ・睡
眠 無 し 。答
う
る に 思 惟 を 待 たず
。 常 に 定 に住
す 。 ω 一 刹那
に 一 切法
を 了す
。 ω尽
智 と 無 生 智 と常
に隨
転
し て般
涅槃
に 至 る 。 以 上 の 仏 陀 観 は 仏陀
を
超
越的
存
在 し て お り 、 殆 ど 人 間 的 存 在 と は か け 離 れ て い る 。 大 衆 部 と有
部
と で は 仏陀
観 に お い て 正 反 対 の 主張
をな
し て い る と 言 え よう
。前
述 の 如 く に こ の 仏 陀 観 の相
違 が 四沙
門 果 の 退 不 退 論 に も現
れ て い る 。 一91
一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service 智 山学 報第四十三輯
大
衆
部
は 阿 羅漢
果 を 仏 陀 と同
一 視 し て 超 越的
な存
在
と し て い る 。有
部
は 阿羅
漢
果 を 細 か く 分類
し て 点検
を 加 え最
後
の 不動
法
阿 羅 漢 以 外 を有
退 と し て 、制
限 さ れ た 存 在 とす
る 。 こ れ は有
部
の 説く
限定
さ れ た 仏陀
観
と 同 一 であ
る 。 こ れ は 阿 羅 漢 を 軽 視 し た も の で はな
く
、 逆 に真
の 阿 羅漢
に は 、 容 易 に 到達
し 得 な い も の で あ る と し て、 阿 羅漢
の 地 位 を厳
格 に 規 定 し 最 も 重 視 し た も の と も い え る の で あ る 。 ω経
部
の ゴ ー デ ィ カ 伝 説解
釈有
部
で は ゴ ー デ ィ カ は 六度
退転
の 段 階 で は 時 解 脱 阿 羅漢
の 中 の 退 法 阿 羅 漢 で あ り、自
害
し た段
階 で 思 法 阿 羅 漢 と な っ た と し て い る 。 経部
の ゴ ー デ ィ カ 伝 説 の解
釈 は有
部 と 全 く 異 な っ て い る 。 有 部 で は雑
阿 含 経39
の 所 伝 の ま ま に 六 度 退 転 し 七度
目 に 退転
を厭
い て 自 害 し た と なす
の に 対 し、 経 部 で は、 六 度 に わ た る 退 転 は 「 昔、 学 位 に 在り
て時
解 脱 に於
い て極
め て瞰
味 し た る が 故 に 、 又 、鈍
根 の 故 に 数 々 退 失す
。 」 と し て お り、 こ れ は経
部
か ら 見 た 六 種 阿 羅 漢 説 の中
で、 所 得 の 現 法楽
住 に お い て 退失
す
る 鈍 根 者 に 相当
す る 。 即 ち 六 度 の 退転
は 阿 羅 漢 よ り の 退 転 で は なく
、有
漏 定 よ り の 退転
と な し、 自害
の 刹 那 に 不惜
身 命 の 故 に、 阿 羅 漢 果 に 到 達 し、無
余
涅槃
に 入 っ た と し て お り、 ひ い て は 阿羅
漢
果
よ り の 退転
な し と す る 。経
部
は さ ら に 増 十 経 を 引 用 し て、時
解
脱 と 不動
心 解 脱 と の中
で 、 時 解 脱 は 阿羅
漢
果
に 非ず
と し て、 ゴ ー デ ィ カ の 六度
退 転 は 真 の 阿 羅 漢 果 よ り の 退転
で は な い と裏
付 け し て い る 。 言 っ て 見 れ ば、 同 じ 経 典 の伝
説 で も 解 釈 の 相 違 に よ り、 全 く 正 反 対 の 経証
と さ れ 得 る わ け で あ る 。 勿 論 、 阿含
経 の所
伝
に お け る 部 派 の区
別
の問
題 も 存 す る が、 漢 訳 二 本 や 南方
所
伝
の ニ カ ー ヤ も 共 通 し て六
度 退 転 を 説 く 点 か ら考
え て、 仏 弟 子達
を 戒 め る た め の 阿 羅 漢 退 転 説 が 本来
は そ の 元 型 と し て原
始
仏 教 教 団 に お い て 行 な わ れ て い た の で あ ろう
と 推 測 さ れ 得 る の であ
る 。 そ れ が 部 派 仏教
思 想 の 発 展 に伴
っ て 、次
第 に 教 理学
的 に 深 く考
察 さ れ て 行 一92
一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service っ た の で
あ
る 。 国 世親
の真
意 世親
は こ の問
題
に 関 し て ど の様
な考
え を 持 っ て い た の で あ るう
か。倶
舎
論
25
に お い て、 世親
は 「 経 部 師 の 説 く、 阿 羅漢
よ り も 亦 た 退 す る義
無 し と 。 彼 の 説 は 理 に応
ず
。 」 と し て 明 ら か に 世親
は経
部
の 阿 羅漢
無
退説
を 評 取 し て い る 。 し か し そ の後
で 経 部有
部
と の論
難
往 複 を 経 た後
で結
論
的 に 「毘
婆
沙師
は定
ん で是
の 説 を作
す
。 阿 羅漢
に も 亦 た 退 の義
有
り 。 」 と 。 と し て有
部 宗 に 結 帰 し て い る 。 い ず れ が 世 親 の 真 意 で あ る か は 明白
で あ る 。 即 ち有
部
宗
に 結 帰す
る 以前
の論
争
に お い て 、経
部
の 唱 え る 阿 羅 漢 不 退 説 は 真 の 阿 羅 漢 を 「 無 学 を 成 じ て は 則 ち 煩 悩 の 起 る の義
無
し 。 」 と の定
義
のも
と に 論 じ て 、有
部
の有
退 論 を 真 の 阿 羅漢
の 定 義 の 不徹
底 よ り と し て お り、 論 争 の帰
決
は経
部
の有
利 を 示 し て い る 。 た だ 倶舎
論
の論
述 法 の 一 つ と し て、 例 に よ っ て 表 面 的 に有
部
宗
へ の 結 帰 を 示 し な が ら 、 世 親 の真
意 は経
部
説
に賛
意
を 表 し て い る の で あ る 。 即 ち 世 親 は 阿 羅 漢 有 退、 初果
無
退 説 た る 有部
と 、前
三果
有
退、 阿 羅漢
果
無
退説
た る 大衆
部
と の 折 衷 説 と も 言う
べ き 初 果 阿 羅 漢 果 不 退、中
間 二 果有
退 説 の 経 部 を 支持
し て い る と考
え ら れ る の で あ る。 ( 完 ) 一93
一N工工一Electronlc Llbrary Servlce
「退法阿羅漢考
NII-Electronic Library Service 智山学報第四十三輯 註 ω プ ラ ダ ン 本 梵 文 倶 舎 論 で は bd 穹 賦 評 田 と あ り ス ワ ミ 本 梵 文 倶 舎 論 で は O 餌 二 け 貯 o と あ る 。 プ ラ ダ ン 本 は 写 本 の 写 誤 を そ の ま ま 採 用 し た も の と 考 え ら れ る 。 な お 赤 沼 智 善 「 印 度 仏 教 固 有 名 詞 辞 典 」 は パ ー リ 名 も 梵 語 名 も
Oo
α 試ざ
と す る 。 本 論 考 で は L 喬 底 迦 資 料 の 初 出 文 献 な る テ ー プ ・ ガ ー タ ー や サ ン ユ ッ タ ・ ニ カ ー ヤ に 依 り、 パ ー リ 名 の ゴ ー デ ィ カ と し て 論 を 進 め る 事 と す る 。 註 長 老 偈 経 ( 南 伝251m
) 第 六 品か な 五 一 雨 降 り て、 〔 そ の 音 〕 よ く 律 へ る が 如 く 予 が 屋 舎 は 葺 か れ、 風 を 防 ぎ て 楽 し く、 予 が 心 は 亦 よ く 定 に 住 す、 さ れ ば 雨 よ、 若 し 〔 絳 耜 乳 と 〕 欲 せ ば、 降 れ。 〔 右 〕 盟 低 迦 長 老 五 二 雨 降 り て 〔 そ の 音 〕 よ く 律 に 調 へ る が 如 く、 予 が 屋 舎 は 葺 か れ、 風 を 防 ぎ て 楽 し く、 心 は 亦 身 に 於 い て よ く 定 に 住 す、 さ れ ば 雨 よ、 若 し 〔 降 ら ん と 〕 欲 せ ば、 降 れ 。 〔 右 〕 善 肘 長 老 五 三 雨 降 り て 〔 そ の 音 〕 よ く 律 に 調 へ る が 如 く、 予 が 屋 舎 は 葺 か れ、 風 を 防 ぎ て 楽 し く、 予 は そ の 中 に 棲 み て 精 勤 な り、 さ れ ば 雨 よ、 若 し 〔 降 ら ん と 〕 欲 せ ば、 降 れ 。 〔 右 〕 ワ ッ リ ヤ 長 老 五 四 雨 降 り て 〔 そ の 音 〕 よ く 律 に 調 へ る が 如 く、 予 が 屋 舎 は 葺 か れ 風 を 防 ぎ て 楽 し 。 予 は 唯 獨 り そ の 中 に 棲 む、 さ れ ば 雨 よ、 諾 乱
講
醗
艷
禰 、 降 れ . 同 右 パ ー リ 文 長 老 偈 ( → 『 皿 αq 殉 日 QD 勺 . ° 。 ) < m °。 芻 賦 匹 Φ < °冨
冖冨
ω轟
津 国尹
9
穹轟
∋ Φ巨
冖鐸
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ヨ ω ロ ω ⇔ ヨ 鋤耳
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〔 認 〕 ω = げ 鋤 げ 二 冖 『 Φ 目9
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一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service 「退法阿羅漢考」
冨
蠢
器 o 位 Φ畠
. ε 響 〔 躍 〕d
ε 矯 o 普 興p
註 相 応 部4
、 悪 魔 相 応3
、 瞿 底 迦 ( 南 伝12
ー 跚 ) 第 三 瞿 低 迦 一 一 時 世 尊 王 舎 誠 稍 林 栗 鼠 瀁 餌 所 に 住 し 給 ひ き 。 そ の 時 又 茸 渚 瞿 低 迦 は 伊 師 耆 利 山 側 の 黒 曜 岩 に 住 せ り 。 二 三 時 に 尊 者 瞿 低 迦 は 不 放 逸 に 熱 心 に 精 勤 に 住 し て、 一 時 的 の 心 解 脱 を 発 得 せ り。 轉 せ り 。 四 再 び 尊 者 瞿 低 迦 は 不 放 逸 に 熱 心 に 精 勤 に 住 し て、 一 時 的 の 心 解 脱 を 発 得 せ り。 轉 せ り 。 五 − 八 三 度 … 〔 乃 至 〕 … 四 度 … 〔 五 度 〕 … 〔 乃 至 〕 せ り 。 六 度、 九 七 度、 尊 者 瞿 低 迦 は 不 放 逸 に 熱 心 に 精 勤 に 住 し て、 一 〇 時 に 尊 者 瞿 低 迦 は か く 思 へ り。=
時 に 悪 魔 波 旬 は 尊 者 瞿 低 迦 の 心 の 所 念 を 知 り、 「 神 通 と 名 誉 に て 輝 き 給 う 大 英 雄、 一 切 の 怖 畏 を 離 れ 給 ひ し 人 時 に 又 尊 者 瞿 低 迦 は そ の 一 時 的 の 心 解 脱 よ り 退 再 び 又 尊 者 瞿 低 迦 は そ の 一 時 的 の 心 解 脱 よ り 退 … 六 度 尊 者 瞿 低 迦 は 不 放 逸 に m 熱 心 に 精 勤 に 住 し て、 一 時 的 の 心 解 脱 を 発 得 尊 者 瞿 低 迦 は そ の 一 時 的 の 心 解 脱 よ り 退 轉 せ り。 一 時 的 の 心 解 脱 を 発 得 せ り。 「 我 は 六 度 ま で 一 時 的 心 解 脱 を 退 せ り 。 我 は 寧 ろ 剱 を 取 ら ん か 」 世 尊 に 詣 れ り 。 詣 り て 世 尊 に 偈 に て 語 れ り。 大 智 慧 者、 有 眼 者 よ、 卿 の 御 足 の 下 に 禮 し 奉 る 。 大 英 雄 、 死 に 打 ち 勝 て る、 人 よ、 死 せ ん と 期 す。 世 尊 よ 、 教 え を 喜 ぶ い か な れ ば 未 だ 證 に 達 せ ず、 十 二 そ の 時 又 尊 者 瞿 低 迦 は 剱 を 取 れ り 。 十 三 時 に 世 尊 は こ は 悪 魔 波 旬 な り と 知 り て、 「 生 く る こ と を 欲 せ ず し て 根 こ そ ぎ 渇 愛 を 抜 き て 卿 の 弟 子 今 死 を 思 ひ 光 の 主 よ、 そ を と ゴ め 給 え へ 。 卿 の 弟 子 が、 有 學 に し て 死 せ ん と す る や、 名 高 き 人 よ 」 悪 魔 波 旬 に 偈 に て 語 り 給 へ り 。 英 雄 は 是 の 如 く な す な り 。 瞿 低 迦 は 涅響
と 。 と 。 と 。 十 四 時 に 世 尊 は 比 丘 等 を 呼 び 給 へ り 「 比 丘 等 よ、 良 家 の 子 瞿 低 迦 は そ こ に て 剱 を 取 れ り 」 と 。 十 五 「 世 尊、 承 れ り 」 と、 彼 等 比 丘 等 は 世 尊 に 答 へ 奉 れ り 。 十 六 時 に 世 尊 は 多 く の 比 丘 と 共 に 伊 師 耆 利 山 側 の 黒 曜 岩 に 到 り 給 へ り 。 世 尊 は 尊 者 瞿 低 迦 の 遠 く 床 の 上 に 肩 を ま る め 、 上 向 き に 臥 し た る を 見 給 へ り 。 十 七 そ の 時 又 烟 の 如 き 朦 朧 た る も の が、 東 方 に 行 き、 西 方 に 行 き、 南 方 に 行 き 北 方 に 行 き 、 上 方 に 行 き 四 維 に 行 け り 。 十 八 時 に 世 尊 は 比 丘 等 を 呼 び 給 へ り 。 「 比 丘 等 よ、 汝 等 は こ の 烟 の 如 き 朦 朧 た る も の ・ 、 東 方 に 行 き 西 方 に 行 き、 南 方 に 行 き、 北 方 に 行 き、 上 方 に 行 き 、 下 方 に 行 き 四 維 に 行 く を 見 る や 否 や 」 と 。 一95
一 N工工一Electronlc LlbraryNII-Electronic Library Service 智山学報第 四十三 輯 「 世 尊、 御 言 葉 の 如 し 楓 十 九 「 比 丘 等 よ、 こ れ 悪 魔 波 旬 が、 良 家 の 子 瞿 低 迦 の 識 を 求 む る な り 。 『 良 家 の 子 瞿 低 迦 の 識 は 何 處 に 住 し た る や 』 と 。 丘 等 よ、 良 家 の 子 瞿 低 迦 は そ の 識 住 す る と こ ろ な く し て 般 涅 槃 せ り 」 と。 二 〇 時 に 悪 魔 波 旬 は エ ー ル ワ 樹 の 黄 色 の 箜 篌 を 取 り て 世 尊 に 詣 れ り 。 詣 り て 世 尊 に 偈 に て 語 れ り 。 「 上 と 下 と 四 維 と 四 方 八 方 を 我 求 め た れ ど も 見 出 す こ と 能 は ざ り き、 か の 瞿 低 迦 は 何 處 に 行 け る や 」 と 。 二 一 二 二 〔 世 尊 〕 「 志 堅 き 英 雄 は 日 夜 〔 道 に 〕 従 ひ 死 魔 の 軍 を 打 ち 破 り、 根 こ そ ぎ 渇 愛 を 抜 き て か の 悲 し み に や ぶ れ、 悄 れ し 夜 叉 は 常 に 禪 を 楽 し み て 禪 思 す。 生 き ん こ と を 願 ふ こ と な し。 再 生 に 行 か ず、 瞿 低 迦 は 混 槃 せ り L と 。 小 脇 に は さ み し 箜 篌 を 落 し、 そ こ に 姿 を 没 せ り 。 さ れ ど 比
N工工一Electronlc Llbrary Servlce
註 ω 長 老 偈 経 ( → 『 国 ひ°q ℃ 日 り ω O. ω QQ ) < 霧 沼 二 匹 Φ 〈 o 旨 } 節 ω 二 転 ロ ヨ 讐 警
き
&5
Φ げ 口 二 『 鋤 ω 口 評緜
ゴ 凶 く 鋤 ρ 釘 ω ゜。 聾 ヨ ≦ 訐 轟 ヨ 凶 く OO 霧 譽8
. 簿 審8
冨 件 件契
聾 ゜・ 凶冨
轟 器 餌 血 < 餌 ゜ 〔 器 包 く 四 。。 。・ 讐 一 α Φ < o 鴫 p 臣 節 ω 口管
餌 ヨ 、 o 訂言
鰤 ヨ Φ 評 暮 貯 動 鐙 評 げ 餅 巳 く 叫 冒 冨 ω 芻 ヨ ≦ αq93 ω 二 〇曵 →3
日 ’ o 『 95 コ 鋤 ヨ Φ 犀 葺 節 鋤 霊 吋 げ 鋤 巳話
邸 鬯9
。ウ ω 9 き く ぎ 穹 鋤 ∋ 一 の 畧B
皀 叶8
− 冨 − 鼠 ω 臣 ヨ く ぎ 曽 鋤 ヨ 曲 誌 ♂ 昌 鰤 σqo … 津 餌 匹 o ω o … 三 什 日 o げ ρ 薗 昏 曽 o 忌 冖9
魯 巻 匹冨
く 餌鋸
O Φ < 節 . 齢 凶 畠 〔 G。 卜。 − 認 〕O
一 臣 ∋ 簿 コ 国 ロ 匹 O 什 げ 「 O ° 一96
一 同 右 パ ー リ 文 長 老 偈 経 ( 南 伝251
捌 ) カ ナ 三 二 五 雨 降 り て、 〔 そ の 音 〕 よ く 律 に 調 へ る が 如 し、 わ が 屋 舎 は 葺 か れ、 風 を 防 ぎ て 楽 し く、 わ れ 静 寂 に し て、 そ の 處 に 住 す さ れ ば 雨 よ、 若 し 〔 降 ら ん と 〕 欲 せ ば、 降 れ 。 三 二 六⊥
二 二 九 雨 降 り て … 〔 乃 至 … 〕 わ が 心 亦 止 息 に 歸 し て そ の 處 に 住 す … 乃 至 … わ れ 貪 欲 を … … 瞋 恚 を … … 愚 擬 を 捨 離 し て そ の 處 に 住 す 。 さ れ ば 雨 よ、 若 し 〔 降 ら ん と 〕 欲 せ れ ば、 降 れ 。 〔 右 〕 ギ リ マ ー ナ ン ダ 長 老 註 水 野 弘 元 著 「 法 句 経 の 研 究 」86
頁 に は 次 の 如 く に に 網 讐 『 彎 ロ ヨ ⇔ 槻 鋤 盟8
『 穹 口 鋤 ヨ 盞 # 三 昌 ⇔ 芻 ∋ 讐 ぞ 注 7 ⇔ 口 爵 ヨ ω 口 σ ぴ 碧 同 冨 ヨ o 同 け け 帥 ヨ 鼠 mqo 昌 口 ゜。 四 日 碧 ぞ 団 」 冒 げ 犖F
パ ! リ 文 法 句 経 を 掲 げ、 類 似 相 当 の パ ー リ 文 経 典 と し て、 右 の 文 の 他 に 円 訂 αq 一 ω 辞 く ヨ 雪 糺9
> 一 Hb 。 b。 を 挙 げ る 。 漢 訳 経 典 と し て 法 句 経 ( 大 4i 弸b
) と 出 曜 経 ( 大41
珊C
) を 掲 げ、 他 に 法 句 譬 喩 経 ( 大4
ー 鵬 c ) 法 集 要 頌 経 ( 大 41 鵬bV
増 一 阿 含 経 ( 大2
1
刪 c ) を 表 示 し て い る 。 註 中 村 元 訳 「 感 興 の こ と ば ( ウ ダ ー ナ ・ ヴ ア ル ガ ご ( 岩 波 文 庫 ) 跚 頁 。NII-Electronic Library Service 「退法 阿羅漢 考 」 註 増 一 阿 含 経