博 士 ( 医 学 ) 小 野 寺 俊 輔
学 位 論 文 題 名
頭蓋内腫瘍に対する放射線治療の 有 害 反 応 低 減 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
【背景と目的】
頭蓋 内 腫瘍 への放射線 治療は現在重要な治療方法 のーっとして認識されている 。しかし、
同時 に 照射 後に生じる 様々な副作用についても繰 り返し言及され、その低減に ついて様々 な工 夫 が行 われ てき た。 照 射後 に生 じる 副 作用 は、 大き く分 けacute phase、subacute phase (early delayed phase)、late sequelae(late delayed phase)の3っに分けられる。
この う ち、 特に問題と されるのが、late delayed phaseにおける放射性脳壊死 や高次機能 障害 ( 認知 機能 障害 )で あ る。 これ らの副作用低 減を目的に、これまでにもGamma knife やX knifeの 開 発と いっ た固 定精 度 を向上させた 機器の発達により、照射範囲 をできるだ け病 変 に集 中し た定 位手 術 的照 射(Stereotactic Radiosurgery:SRS)に て1回で 照射 す る方法が発展して きた。しかし、上記定位放射 線治療でも脳壊死による障害は生じており、
現在 で も認 知機能障害 を伴うとはいえ照射範囲を 十分に取った放射線治療が必 須な疾患も あり 、 未だ 問題は残っ ている。このため、本研究 ではニつの研究仮説を設け、 頭蓋内病変 への 放 射線 治療による 有害事象について検討を加 えることとした。第一に「定 位的な固定 によ り 物理 的に線量分 布を改善するだけでなく、 線量分割を加えた照射をする ことにより 生命 予 後の 良い 良性 腫瘍 に おい て長 期にわたり通 常放射線治療やSRSよりも有 害事象を防 ぐこ と がで きるのでは ないか」という仮説である 。このためには長期的な観察 が必要であ るが 、 幸い 北海 道大 学病 院 では 頭蓋 底髄膜腫に対 して分割定位放射線治療(Fractionated Stereotactic Radiotherapy:FSRT)を用いた治療 が長年に渡って行われており 、これらの 症例 を 検討 することに よりその治療成績や、また 従来法と比較して有害事象が 低下したか について検討することで、上記仮説を検証することとした(研究@)。第二に、「日本の脳腫 瘍へ の 放射 線治療成績 の正しい解釈には今までに なかった詳細な認知機能検査 方法を開発 する こ とが 必要であり 、それにより、より優れた 治療法とは何かが初めてわか る」という 仮説 で ある 。このため には、認知機能検査バッテ リーを作成し、これを用いて 、転移性脳 腫瘍 を 有す る患者群に 対して、実際に全脳照射も しくは定位放射線治療により 認知機能に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ す か に つ い て 検 討 を 加 え る こ と と し た ( 研 究 ◎ ) 。
【 研 究 @ と 考 察 】1994年3月 から2009年2月 まで で、 北海 道大 学 病院 にてFSRTを 施行 し た27名 の頭 蓋底良性髄 膜腫に対して後ろ向きにそ の治療成績と有害事象の有無 について検 討を 行 った 。27例のう ち、生検や手術により組織 学的に診断されたものが17例 、画像所見 によ り 診断 され た症 例が10例で あっ た。 観 察中 央値 はFSRT時 から63ケ月であ った。施行 された治療線量は 、Biological equivalent doseとして82Gyであった。5年 全生存率はFSRT 時か ら96.2%で あっ た。 ま た、 放射 線治療単独群 に関しては、5年全生存率な らびに局所
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腫 瘍 制 御 率 は と も に100% で あ っ た 。 し か し 救 済 治 療 と して 再 発 後 の 照射 で は 、 初 回治 療 群 に 比 較 し て 有 意 に 局 所 制 御 率 が 低か っ た(Log rank test:p=0. 01)。 上 記 経 過 観察 期 間 中 、 放 射 線 障 害 は認 め な か っ た 。
過 去 の 報 告 で も 、 再 発 後 の 治 療 成 績 は 悪 い こ とは 知 ら れ て おり 、 ま た 、 初 回治 療 群 で は 、5 年 生 存 率 も 局 所 制 御 率 も と も に100% で あ っ た こ と を 考 え る と 、 今 回 のFSRTの 成 績 は 良 好 な も の と 考 えら れ た 。 ま た 、過 去 の 報 告 では 、3D―Conventional Radiotherapy (3D−CRT)と FSRTの 無 作 為 割 り 付 け 比 較 試 験 は 認 め ら れ な い が 、3D―CRTとSRS,FSRTを 比 較 し た レ ビ ユ ー が あ り 、 こ れ ら の 報 告 で は 、SRSは 神 経 損 傷 の 可 能 性が 高 い こ と から 視 交 叉 と いっ た 重 要 な 神 経 か ら あ る 程 度(3mm以 上 ) 離 れ た 部 位 に 適 応 すべ き と し て い る。 他 の 報 告 でも 、SRS を 施 行 し た 症 例 に 神 経 障 害 の 出 現 が 見 ら れ た と の 報 告 も あ る 。 今 回 の 我々 のFSRTの 検 討 に お い て は 、 照 射 に 関 連 し た 明 か な 有 害 事 象 の 出 現 は な く 、FSRTは 重 要 な 神 経 が 近い 場 合 で も 安 全 に 治 療す る 方 法 の ー っと し て 考 え られ た 。
【 研 究 ◎ と 考 察 】 認 知 機 能 検 査 パ ッ テ リ ー の 作 成 を30分 程 度 で 終 了 し、 か つ 照 射 後の 認 知 機 能 変 化 を 捉 え ら れ る 内 容 と し て 、Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status (RBANS)か ら の一 部 とTrail−Making−Test part A&Bを 使用 。 過 去 の 文 献 と の比 較 の た め 、Mini―Mental一StateーExamination (MMSE)も 同 時 に 施 行し た 。 対 象 は 北 海 道 大 学 病 院 に て 放 射 線 治 療 の 適 応 と な る 転 移 性 脳 腫 瘍 を 有 す る患 者 で20歳以 上80 歳 未 満 、Karnofsky performance status 70% 以 上で 半 年 程 度 の 余命 が 見 込 め るも の を 対 象 と し た 。 治 療 は 全 脳 照 射(WBI)も し く は 定 位 放 射 線 治療(STI) と し た 。 認 知機 能 検 査 は 照射 前(Baseline)、 照 射 後4ケ 月 、8ケ 月 、12ケ 月 で 検 査 を 施 行 し た 。 そ の 結 果 、2009年3月
〜2010年12月 末 ま で で27例 の 登 録 が あ っ た 。WBI群20例 、STI群7例 で あ っ た 。 平 均 検 査 時 間 は37土4分 で 全 実 施 検 査 中 、 中 途 中 止 は な か っ た 。Baselineの 検 討 で は 、 治 療 時 の 腫 瘍 サ イ ズ と 認 知 機 能 低 下 に 有 意 な 相 関 が 認 め ら れ た 。 ま た 、 遅 延 再 生 の 項 目 でWBI群 で 照 射 後4ケ 月 目 でBaselineよ り 有 意 に 低 下 が 見 ら れ た 。 さ ら に8ケ 月 目 で は 即 時 記 憶 で Baselineに 比 較 し て 有 意 な 改 善 が 認 め ら れ た 。 遅 延 再 生 と 遂 行 機 能 で は120月 目 で8ケ 月 目 よ り 機 能 低 下 が 認 め ら れ た 。STI群 で は 有 意 な 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。MMSEで はWBI 群 、STI群 い ず れ で も 有 意 な 認 知 機 能 変 化 を 認 め な か っ た。 こ れ ら の 結果 か ら 我 々 の今 回 作 成 し た 認 知 機 能 検 査 パ ッ テ リ ー は 検 査 時 間 も 予 定 範 囲 で 収 ま り 、 日 常 診療 上 、 実 施 可 能な 検 査 バ ッ テ リ ー と 考 え ら れ た 。 ま た 、 検 査 結 果 に つ い て もBaselineに お いて 腫 瘍 体 積 との 相 関 は 過 去 の 報 告 で も 述 べ ら れ て お り 、4ケ 月目 で の 認 知 機能 低 下 の 所 見も 過 去 の 結 果 と同 様 で あ る 。 ま た こ れ ら の 変 化 はMMSEで は 捉 え ら れ な か っ た 点 か ら も 十 分 な 感 度 を持 っ た も の と 考 え ら れ 、 こ の 検 査 バ ッ テ リ ー を 用 い て 適 切 な 照 射 ス ケ ジ ュ ー ル の検 討 が 行 え る もの と 考 え ら れ た。
【 結 論 】
今 回 の 研 究 に よ り 、 治 療 技 術 の 高 精 度 化 に 加 え 分 割 照 射 を 加 え る こ と で 照 射 後 のlate sequelaeを 低 減 す る こ と が 可 能 と 考 え ら れ 、 ま た 今 後 は 、 今 回 作 成 し た 認知 機 能 検 査 パッ テ ル ー を 利 用 し て い く こ と で そ の 有 害 事 象 に つ い て も よ り 詳 細 に 検 討 して い く こ と が 可能 と な っ た 。
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学位論文審査の要旨 主査 副査
副査 副査
教授 教授 教授 教授
寳金 生駒 佐々木 自土
学 位 論 文 題 名
清博 一憲 秀直 博樹
頭蓋内腫瘍に対する放射線治療の 有 害 反 応 低 減 に 関 す る 研 究
発表内容は、頭蓋内腫瘍に対する放射線治療による障害の背景から、まず照射方法の工夫 についての検討として、研究 課題1 とし分割定位放射線治療による頭蓋底髄膜腫に対する 治療成績とその有害事象の検討から、分割定位放射線治療の安全性と有効性について検証 した。また、放射線治療による有害反応を軽減するといってもその客観的評価方法が確立 されていなぃという現状から 、研究課題2 としてその評価方法の認知機能検査バッテリー 作成から行い、それを用いた照射後の認知機能変化について検討を行った。それにより認 知機能検査バッテリー自体の実行可能性について検証するとともに、同時に撮像している
DTI画像によって画像的な早期評価方法の確立を目指した。これらの検討項目に対し、結 果として分割定位放射線治療による有害反応は明らかなものは今回の研究では見られず、
安全性が高いことがわかった。また、作成した新たな認知機能検査バッテリーは簡便で照 射後の認知機能変化を鋭敏に捉えることが出来るバッテリーであった。今後三のバッテリ ーでの検査結果と画像検査の結果とを比較検討することで、晩期の認知機能障害を早期の 評価法を作成していく、とい う内容であった。
今回の発表に対し、主査の宝金教授よりーつ目の研究課題の仮説に対して、結果が必ずし も 検証 とな って いな いの では ない かと いう 指摘があった。この点について、発 表者は
Retr08pectiveな検討であり、Evidence としては不十分であるが、分割定位放射線治療の安 全性についてはーつの証左となったのではないかと考えているとした。この点については 副査の白土教授からも同様の指摘があり、その上で、実際に検証をよりしっかりと行って
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い く た め に は ど の よ う な 研 究 が な さ れ る べ き か に つ い て の 質 問 が あ っ た 。 こ れ に 対 し 、 発 表 者 は そ の 研 究 対 象 と し て 長 期 経 過 観 察 が 可 能 な 良 性 疾 患 、 具 体 的 に は 聴 神 経 鞘 腫 な ど を 挙 げ 、 こ れ に 対 し て 、 手 術 、 定 位 放 射 線 手 術 、 分 割 定 位 放 射 線 治 療 を 割 り 付 け 、 比 較 検 討 し て い く 研 究 が 考 え ら れ る と し た 。 副 査 の 佐 々 木 教 授 か ら は 、 分 割 定 位 放 射 線 治 療 と 手 術 の 比 較 に お い て 、 ど ち ら が 頭 蓋 底 髄 膜 腫 に つ い て 優 れ て い る の か に つ い て 質 問 が あ っ た 。 こ れ に 対 し て は 、 今 回 の 研 究 が 治 療 方 法 の 成 績 を 観 点 に 述 べ た も の で は な い が 、 有 害 事 象 の 点 か ら は 分 割 定 位 放 射 線 治 療 の 安 全 性 は 優 れ て い る と 考 え ら れ る と し た 。 し か し 、 こ の 点 に つ い て は 、 佐 々 木 教 授 よ り さ ら に5年 の 経 過 観 察 で は 、 有 害 事 象 が も っ と 晩 期 に 出 て く る 可 能 性 が あ る の で は と い う 質 問 が な さ れ た が 、 こ の 点 に つ い て 発 表 者 は 、 治 療 成 績 の 観 点 で は 、MeningiomaがSlow growingで あ る こ と か ら も10年 、15年 の 経 過 観 察 が 必 要 で あ る が 、 放 射 線 治 療 の 晩 期 障 害 の 評 価 と し て は 、5年 程 度 の 評 価 は 妥 当 と 考 え る と し た 。 副 査 の 生 駒 教 授 か ら は 、 研 究 課 題2に つ い て こ れ ら の 検 査 内 容 を 選 ん だ 理 由 に つ い て の 質 問 が あ っ た 。 こ れ に 対 し て 、 発 表 者 か ら は 一 番 大 き な 理 由 と し て 、 日 本 語 のRevised版 が あ る か ど う か 、 ま た 日 本 の 臨 床 現 場 に お い て 、 ベ ッ ド サ イ ド で も 簡 便 に 行 え る と い う 点 か ら 、 こ れ ら の 留 意 点 を 満 た す も の と し てRBANSを 挙 げ ら れ 、 ま た な る べ く 欧 米 で す で に 使 わ れ て い る バ ッ テ リ ー を 使 っ て い こ う と い う 意 図 か ら 、Trail Making Testは ほ と ん ど の バ ッ テ リ ー で 含 ま れ て い る と い う 点 か ら こ れ を 加 え る こ と と な っ た と 説 明 さ れ た 。 生 駒 教 授 か ら は さ ら にMMSEを 加 え た 理 由 に つ い て の 質 問 が あ り 、 こ れ に 対 し て は 、 過 去 の 報 告 と の 比 較 、 ま た 今 回 の 新 た な バ ッ テ リ ー の 結 果 が 、 標 準 と な るMMSEの 結 果 か ら 大 き く 逸 脱 し て い な ぃ こ と を 確 か め る 意 図 も あ っ た こ と を 説 明 さ れ た 。 自 士 教 授 よ り 、MRIのDTI 検 査 に つ い て は 今 後 ど の よ う な 場 面 で 活 用 で き る か と い う 質 問 が あ り 、 こ れ に 対 し 、 発 表 者 か ら は 放 射 線 治 療 に お け る 認 知 機 能 障 害 に っ い て 一 番 問 題 と な る の が 、 特 に1年 か ら2 年 の 認 知 機 能 障 害 で あ り 、 今 回 の 検 討 で は 、 照 射 後1.5ケ 月 の 時 点 でDTIの 数 値 で 異 常 の 出 現 が 見 ら れ て お り 、 そ の 変 化 と 実 際 の1年 後 で の 認 知 機 能 の 変 化 と の 関 連 か ら 、DTIが 晩 期 に 出 現 す る で あ ろ う 認 知 機 能 障 害 を 予 測 す る 指 標 と す る こ と が 考 え ら れ る と し た 。 以 上 の よ う な 議 論 の 結 果 か ら 、 研 究 課 題1に つ い て は 仮 説 の 検 証 と し て は 不 十 分 な 部 分 を 残 す が 全 体 と し て 解 析 自 体 は 詳 細 に な さ れ 、Japanese Journalof ClinicalOncology^ の 掲 載 も 果 た し て い る こ と 、 ま た 研 究 課 題2に つ い て は 前 向 き 研 究 で か つ1年 内 の 結 果 は 新 知 見 を 含 み 、 日 本 の 新 た な バ ッ テ リ ー と し て 臨 床 応 用 可 能 で 今 後 の 発 展 も 期 待 で き る こ と か ら 、 審 査 員 一 同 は 、 こ れ ら の 成 果 を 全 体 と し て 高 く 評 価 し 、 大 学 院 博 士 課 程 に お け る 研 鑽 や 取 得 単 位 な ど も 併 せ 、 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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