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パレスチナ -- 「和平」と「和解」のはざまで (特集 中東地域の現実と将来展望 -- 「アラブの春」を越えて)

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Academic year: 2021

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(1)

パレスチナ -- 「和平」と「和解」のはざまで (特

集 中東地域の現実と将来展望 -- 「アラブの春」

を越えて)

著者

鈴木 啓之

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

256

ページ

32-33

発行年

2017-01

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00048561

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.256(2017. 2)

32

 「

  オスロ合意(一九九三年)後の パレスチナ情勢は、イスラエル政 府とPLO (パレスチナ解放機構) の「 和 平 」 を 軸 に 進 展 し て き た。 停 滞 し て も、 「 崩 壊 寸 前 」 と い わ れても、両者の和平交渉が情勢の 軸となってきたことに変わりはな い。ところが、この数年のあいだ に、その軸は、さもパレスチナ人 組織同士の「和解」へと移行した かのようだ。つまり、PLOの主 要組織ファタハと、ガザ地区を実 効支配するハマースのあいだの和 解が、大きくクローズアップされ ている。たとえば、ベイルートに 拠点を置く独立研究機関「アラブ 統一研究センター」が発行する月 刊の思想 ・ 研究誌﹃ムスタクバル ・ アラビー﹄ (アラブの未来)では、 パレスチナ情勢について、ここ数 年はファタハとハマースの 「和解」 を扱った記事ばかりが目立つ。一 時のものかに思われた両者の対立 は、二〇一七年の六月で一〇年目 を迎える。

 「

  二〇一四年六月に、ファタハと ハマースは暫定の統一内閣を結成 した。しかし、情勢は楽観を許さ な い。 あ る ア ラ ビ ア 語 の 論 説 は、 二〇一六年七月の段階で「パレス チナの分裂を終結させようとする 多くの試みが、失敗してきた」と 手 厳 し い( 参 考 文 献 ① )。 こ の 言 葉を裏付けるように、 マフムード ・ アッバース大統領の昨年(二〇一 六 年 ) の 年 頭 挨 拶 は、 「 統 一 内 閣 の組閣に向けた取り組みを改めて 約束する」 と述べるものだった (参 考文献②) 。アッバース大統領は、 P A( パ レ ス チ ナ 暫 定 自 治 政 府 ) の大統領であると同時に、PLO の 代 表( 議 長 )、 そ し て フ ァ タ ハ の代表である。その彼が二〇一五 年に一方的に決定した再組閣によ って、統一内閣は有名無実化して いるのだ。   さらに、二〇一六年一〇月には、 予定されていたはずの地方議会選 挙(パレスチナでは、PA議会選 挙の前哨戦となってきた)が、西 岸地区の最高裁の判断で延期され た。ガザ地区を(依然として)管 理するハマースは、この決定が西 岸地区を事実上の拠点としている ファタハによる謀略であると非難 を隠さない。つまり、次の選挙で、 ハマースが躍進することをファタ ハが危惧しているのだという。一 方で、その月末にはカタルを舞台 に、ファタハとハマースのトップ 会談も報じられた。分析のタイミ ング次第では、停滞しているとも 進展しているともいえるのが、 「和

﹁和平﹂

﹁和解﹂

解」の現状である。   両者の対立は、本来は政治イデ オロギー的なものであり、さらに 踏 み 込 ん で い え ば 公 的 な 権 力 と、 社会的な反体制勢力の対立であっ た。つまり、PAの制度内にある ファタハと、PAの枠外で活動す るハマースという関係である。そ れが大きく変わったのが、二〇〇 六年一月のPA議会の選挙だった。 いまやハマースは選挙で多くの支 持を集めた政党組織であり、制度 上はファタハと同じくPAを構成 している。ところが、このハマー スの変化を認めず、依然として拒 絶の姿勢を崩さない者も多かった。 アメリカやEU、 国連といった 「和 平」の仲介者は、ハマースの変化 を容易には認めなかった。これが、 ファタハの一部の勢力を後押しし、 両組織の分裂を促したことは否定 できない。ガザ地区の治安担当者 であったムハンマド・ダハラーン は、ハマースに特に厳しい立場で 臨んだ人物の典型である。これの 裏返しであろうか。ファタハとハ マースの和解交渉は、アッバース 大 統 領 に よ る ダ ハ ラ ー ン の 更 迭 ( 二 〇 一 一 年 六 月 ) か ら 始 め ら れ ている。

特 集

中東地域の現実と将来展望 ―「アラブの春」を越えて― 13_特集.indd 32 16/12/26 10:28

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アジ研ワールド・トレンド No.256(2017. 2)

 依

  「 和 解 」 に( 後 退 と み る か、 発 展とみるかはおくとしても)変化 がみられる一方で、ほとんど話題 に 上 ら な く な っ て し ま っ た の が、 「 和 平 」 で あ る。 と こ ろ が、 事 態 の展開をみれば、実は「和平」が 依然として情勢の基本軸であるこ とがわかる。   PAにとって「和平」は、統治 の正当性を国際的に認められる前 提であり、公に否定することは許 されない。先ほど見たアッバース 大統領の年頭挨拶は、 冒頭から 「和 平 」 に 言 及 す る も の で あ っ た。 「 我 々 は、 権 利 と 公 正、 平 和 を 望 んでいる。パレスチナのみならず 中 東 や 世 界 の 平 和 は、 〔 パ レ ス チ ナの〕人々の権利の承認とパレス チナ問題の公正な解決なしに実現 さ れ る こ と は な い 」 と の 言 葉 に、 他意はないだろう。パレスチナ人 組織による自爆攻撃が続いた二〇 〇 二 年 頃 に、 「 暴 力 の 停 止 」 を P Aを代表して呼びかけたのは、ア ッバース大統領その人である(当 時 は 首 相 )。 と こ ろ が、 パ レ ス チ ナ社会から見れば、現在のイスラ エル政府を率いるビンヤミン・ネ タニヤフ首相は、かつて和平プロ セスを最初に停滞させた強硬な指 導者という印象が強い。オスロ合 意の成立に尽力したあるイスラエ ル人研究者は、かつてのネタニヤ フ政権(一九九六~九九年)につ いて、端的に「失敗」と言い放っ ている(参考文献③、 九七ページ) 。   現状では「和平」が進展する可 能性が低い以上、住民からの要望 が強い「和解」にPAが取り組む ことは当然だろう。裏返せば、 「和 平」に何かしらの動きがみられれ ば、 「 和 解 」 を 含 め て 情 勢 は 大 き く変化する。新たに就任するアメ リカの大統領が、どのような仲介 姿勢を打ち出すのか、注目に値す る。

 世

  以上述べてきた見通しに、大き な不安材料を挙げるならば、それ は指導者の世代交代を除いて他に はないだろう。というのも、PA のアッバース大統領は一九三五年 生まれであり、世代としては初代 大統領のヤースィル・アラファー ト(二〇〇四年死去)と同世代で ある。二〇一六年には、再び健康 不安に関する報道も聞かれた。一 方でガザ地区のハマース政権を率 いるイスマーイール・ハニーヤは、 一九六二年生まれであり、世代の 差は歴然である。片やPLO設立 時(一九六四年)にはすでに成熟 した青年活動家であったアッバー スに対して、ハニーヤは大衆蜂起 インティファーダ(一九八七~九 三年)の時期に青年期を迎えた世 代に属する。イスラエルとの「和 平」に取り組むにせよ、ハマース との「和解」を進めるにせよ、ア ッバース大統領を継ぐ指導者の登 場は、PAやファタハにとって不 可欠である。しかし、ハニーヤと 同世代にあたるファタハの有力者 は、イスラエルの刑務所内で収監 中のマルワーン・バルグーティー (一九五九年生まれ)を別として、 アッバースが自ら更迭したダハラ ーン(一九六一年生まれ)を除い て他にはいない。権力の空白化は、 意 外 な ほ ど 現 実 的 な 危 機 と し て、 パレスチナ情勢の今後に影を落と している。 ( す ず き   ひ ろ ゆ き / 日 本 学 術 振 興会特別研究員PD) 《参考文献》 ① A sh ra f ʻU th m ān B ad r." In hā ʼ al-In qis ām a l-F ila st 4 īn ī: B ay na al-F as ha l w a al-A m al, " al-Mustaqbal al-ʻArabī , 449: 58-72, 2016. ② al-H 4 ay āt al-J ad īd , 1 . J an . 2 01 6 (h ttp :// w w w .al ha ya .p s/ ar ch _ page.php?nid=275961). ③ Pu nd ak , R on , " F ro m O slo to Taba: What Went Wrong?" In T he Is ra eli-Pa les tin ian P ea ce Pr oc ess : O slo a nd th e L ess on s of F ail ur e, P er sp ec tiv es , Pr ed ica m en ts an d Pr os pe cts , ed ite d by R ob er t L . R oth ste in , M os h e M a'o z, an d K h al il Shikaki, Brighton and Portland:

Sussex Academic Press, 2002.

参照

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