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小学校六年生の文語意識

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Academic year: 2022

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小学校六年生の文語意識

著者 深美 和夫

雑誌名 金沢大学語学・文学研究

巻 15

ページ 23‑27

発行年 1986‑01‑31

URL http://hdl.handle.net/2297/23722

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小学校は、児童の言語能力にとってどのような環境であるかといえば、計画的な言語指導を受け学習する場である。つまり、学校内における言語活動のすべてが、児童の言語環境であり、あらゆる学習の思考を支える言語の穫得の場でもある。それだけに指導者は、「言語についての美しさ、正しさを求める態度や、ことばづかいの場に応じる思いやりの心」を養う努力が必要となってくる。このことはY教育の姿勢であり、言語によって人間性を養う場そのもので

ある。さて、私の勤務する小学校は新設三年目をむかえた。学校研究の副主題として、「情操豊かに『いきいきした言語生活を求めて」をあげている。学校教育の場において試行錯誤をくり返しているが、ここに一つの研究授業から「児童の文語意識」の実態を記し、学校研究の副主題に対する追求の過程としたい。授業の指導者は、本校の末政芳子教論(六年)。授業分析資料の提供を受け、感謝している。 はじめに

小学校六年生の文語意識

二学習指導の実践内容と児童の文語意識

1、単元名「文語」は今でも生きている単元は「前書き」「|、ことわざや新聞の見出し」「二、歌の中の『文語』」の三つの部分で構成されている。「前書き」は、次のように表記されている。

むかし使われたことばと、今日、わたしたちが使っていることばとでは、ことばの形や意味のうえでかなり大きなへだたりがあります。むかし使われ、本の中に記されたりして今日に伝わったことばを「文語」と呼んでいます。「文語」の多くは、もともと平安時代に京の都で使われていたものだとされています。ところで、「文語」が、今なお、わたしたちの身の回りでも使われているのです。もちろん数のうえでは、そうたくさんはありませんが、少し注意してみると、さまざまなところで、「文語」がいきいきとして生き続けていることに気づきます。

深美

和 夫

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このように文語とは、どんなことばか説明し、文語が現在でも使われていることを述べ、一・「一の読みへとつないでいる。「|、ことわざや新聞の見出し〕ではY四つの例をあげて文語調の効果を述べ、「二、歌の中の『文語』」では、二つの例で表現のよさについて述べている。2、研究授業の内容(第三次中の2時)Uねらい集めさせた文語調のことわざ、新聞の見出し、文、歌などを発表させ、それらが現在どのように生きているかを考えさせる。(本時は、本文内容読解後と合わせて考えさせたのである。)②発言内容にみられる文語意識

。●●●A児「後悔先に立たず」です。文語は立たずで、次の日テストなら勉強しない子にいわれそう。よいところは短いことばで、きりつとしまって、ひびきもよいことです。B児「せいては事を仕損ずる」です。先生がテストの時いったの‐を思い出しました。仕損ずるが文語で、短くてよいと思います。あわてている時いいたいです。C児「あぶはちとらず」です。テレビドラマでいっていました。短いひびきあるしまったことばです。テレビも見たい宿題もしなければならない時、思い出したいです。D児「近代化への道還し」です。新聞の見出しでみつけました。今のことばでは、『近い時代にしようと……できません]と長くなり、『遠い』にすると伝えたいことがなかなか伝わらず、遠しとすれば力強く簡潔です。

●●●E児「冬景色」の歌です。五年生の音楽で習いました。梢ゆろ、●●●●●●●●●●●●●●●白し、さめず、.なきて、のどけしや、見ゆの六つが文語です。 今のことばにすると.::…、せっかく短くきりつとしているのに、まだるくなります。この歌を口ずさむことによって文語がよみがえってくると思います。F児「過ぎたるはおよばざるがごとし」は、本をみていたらみつけました。よいところは簡潔にまとめてあり、ひびきがいいことです。悪いところは小さい子に意味がわからないかもしれないことです。お父さんが肥料をやり過ぎる時に使いたいです。以上は、調べた結果の一部の意見である。

「ことわざ」や「歌」の中の「文語調」のことばのはたらき。l短

くきりつとしまった感じlを的確にとらえている児童の言語感覚は、健全であるといえよう。次に、文語は生きているか・いないかについて考えたメモの一例を記す。G児文語は、生きていると思う。使わなければならないところや使った方がいいところに使ってあるから。H児生きていると思う。生きていなかったらテレビからでてくることもないのでは。I児実際に文語は、歌や新聞によくでてくる。ほんとうは大人が使うもの。小さい子にわからないのはあたりまえ。J児文語は、生きていないと思う。若い人は全く使わない。年寄りには生きているけれど、若い人には死んでいる。以上のようなメモをもとに話し合ったわけだが、本時の結論とし

ては、ほとんどの児童のなっとくのついた反応は、でなかったので

ある。3,本時以前の文語についての調査

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この学習が始まって、「身の回りから探そう」ということになった。二名の男児がへ私の作詞の校歌が文語でないかと休み時間にたずねてきた。私は、「よくたずねてきたね。ふつう話していることばづかいとちがっているのは確かですよ。説明のメモをしておくから次の休み時間にとりにきてね〕といったのである。児童の質問は、正直である。語感のひびきから校歌は、きっと文語調であると考えたにちがいない。つまり話しことばとちがうという言語意識がそういう疑問をなげかけたのであるp私は、次のようにメモをしてわたした。

◇◇◇

O、T君、よく気がついて勉強の材料をだしてくれました。私は、たいへんうれしく、また、さすがだなあと二人の質問におどろきました。質問におこたえします。私の作った校歌は、文語ではありません。しかし、また私たちが使っている話しことばでもありません。校歌が、文語のようだと気づいたのは、すばらしいです。どうして、そのように感じたのか理由を説明しましょう。

米泉米伏見の流実り豊か明るく学たたえ守米泉米さわやか

もろとも 校歌泉………れ清らなこのぼう読ろう学泉………な紫紺こりう の教え……・けつぎ……。 かに………・大地……・…み書きを.…ぴ舎を…・… ことばのリズム

……・…5・5

…・…・・・7・5

…・…・・・7・5

..…・…・7・5……※

.………7。5……※

…・・・…・5・5

…・…・・・5・7

.…・…・・5・7 校歌は、詩ですね。みなさんの作る詩の表し方とは少しちがっていると思います。つまり、ふつうの詩のようでは、校歌らしくありません。そこで考えたのです。、リズムのある五・七、七・五調にしたこと。ことば(語)の感じが、リズム感によって、なめらかに力強く、ひびきのあるものにしたかったわけです。、ふつうの話しことばとちがう組み立てにしたこと。※のついている三行は、さかさまに表してみました。この表現方法を「倒置法」といいます。こうすることによって、ことばのひびき、力強さ、簡潔さが表れるからです。今は、話しことばで、あまり使わないことば「清らかに」「学び舎」「紫紺の教え」などを使いました。これは、校歌らしいおもおもしさを表そうとしたものです。O、T君、これで説明を終わります。

◇◇◇

以上のようにメモをわたしたものの、読み手の児童は、「文語調」と「詩の表現法」について、その関係など理解に苦しんだようだ。4、学習後の児童の感想(第四次中の1時)これは、学習全体のまとめとして、「文語」についてどう思うか、自分の考えをまとめた感想である。K児この勉強をはじめた時は、文語というものがあるということさえ知らなかった。少しずつ今のことばではない古いことばだとわかった。文語は平安時代から使われていることがわかりびっくりした。今から千年も前からあって今も使われていること 我ら育とう健やかに……….

5...…※

●●■●●●◆●●●〔J0

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がわかり、これは、すごいと思った。先生が「文語一つ以上見つけて、その中の一つを発表することにする〕といって、ぼくは何にするか少し考えて、「武士はくわねどたかようじ」ということわざにした。別にいいとは思わなかったが、なぜかこの文語にした。みんないろいろ文語をさがしてきて、中には知っているものもあれば、意味も何もわからない文語もあった。文語は完全に生きているとはいえないが、だいたい生きている。L児私は、この勉強をしなかったら、文語の意味がわからなかったと思う。I君やJ君のいうように「小さい子にはわからない、若い人には死んでいる。大人が使うもの》で、本当に生きていないだろうと思う。やっぱり、みんながいうように、文語のよいところは、少しでも短くなるところ、または、きりつとひきしまっているところ、力強い簡潔なことばだと思う。今まで習った歌の中では、みんなの発表の中に「おぼろ月夜、きみがよ、冬げしき」などに出ていた。やっぱり習わないと文語というのはわからない。私は、かくれんぼの時、おばあちゃんにみつかる時、よく”頭かくしてしりかくさず”といわれた。私は「文語を集めなさい】といわれた時、気がつかなかったが、文語には「ず」「し」などが多かったと思う。だれかに使ってみてわからなかったら文語は生きていないと思う。M児文語は今でも使われているので生きていると思った。けれども本当に生きていなくて、やっとさがしたから見つかったんだというH君のことばもひっかかった。だから本当は生きていないとも思ったけれど、大昔の平安時代から生き続けているなん て本当にすごいなと思った。そんな昔のことばなのに今まで生きているのはすばらしいと思った。それぼど文語とはすばらしいことばだと思う。その点では今使っていることばが何百年後にも生きていられるのかなと思った。今まで生きるということはよいところがあるからで、そのよいところをもつともっと利用して、今のことばと組み合わせて、もっと利用したらよい。これからは、ことわざなどをおぼえて文語を使っていきたい。N児わたしはこの勉強をして、ほんとうには文語は生きていないと思う。それは、もし本当に生きているとしたら、今みんなが使っているはずです。だいいち今わたしたちが使っていないからです。でも、わたしは一つだけ文語を生きかえらせました。それは「せいてはことをしそんずる」です。これをわたしは、ある日、本を買いに行く時、弟が車の通りのはげしいところで急いで走っていたので「せいてはことをしそんずるだよ】と弟に教えてやりました。そうしたら弟は「それ、どういう意味jと聞いたので、「それは、何ごともあわててすると失敗してしまうことのたとえだよ』と教えてやりました。わたしはこの勉強をして、いろいろ文語をおぼえられたし、わたしたちで文語を生きかえらせたいと思います。(このN児は、文語を実際に使った体験を述べている。つまり、弟に対して「生きかえらせましたjということは、文語を使いこなせたといえよう。先のM児が「文語」を理解したとすれば、N児は「文語」を理解し、生活の場に生かすことができたと考えたい。)O児ぼくは、文語を使いたくないと思った。文語は短くていいけれど、わけのわからないこともあるので、長い文でも(文語を使

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えば短く表せる時でも)文語を使わないでおこうと思った。けれども、役立つ時もある。特に、歌などで文語が使われている。歌で文語を使わなかったら、長たらつしくて歌らしくならないので文語が役立つ時もあるpP児文語は、死んでいて生きているのだと思う。そのわけは、ことわざや短歌、昔の歌や新聞記事のたった一部にしかないからである。もしも本当に生きているのならば、新聞記事の半分以上が文語で、ことわざや短歌や昔の歌などの半分以上は、文語のはずだ。死んで生きているというのは、文語は数少ないが、わざわざ使おうとしている人達がいたり、丑曰の文語をさがしたりしている人がいるからだ。ぼくは、文語がない方がいい。それは、小さい子にはわからないし、大人にもわからないこともある。文語は、なんか、かっこつけているみたいだ。長い文を、かっこよく短くしてあるからだ。長い文は長くしゃべらないと日本人は口がまわらなくなったりする。こんな苦情があるから、ぼくは使いたくない。(このP児は、L、0児のように六年生としての文語理解はしているようだが、生きているという意識はうすいだろう。)Q児ぼくは、家の人や友達に文語を教えてあげたいです。よいところは、きりつとしまっているとか、短いとか、楽で気持ちがよいことなので使いたいです。・でも、J君やそのほかにもいったとおり本当には、文語は生きていないのではないかとも思いました。ですが、みんなの力で生きかえらせばいいと思います。みんなも、使いやすいことばと思うなら、、生きかえらせたっていいと思います。前の前の前からある歌に、文語がでてくるのもあったけれど、今の歌に は、そんなに文語を使わないで、今の時代のことばを使っています。文語も、今ふつう使っていることばもすきです。三考察言語環境の場として、知的教科の国語研究授業の一例を記したのは、「ことばの意識」を知りたかったのである。教科書単元名〃「文語」は今でも生きている“の学習を終え、児童の反応を通して、私は、指導者とともに次のように解釈している。1ことばは、時代とともに社会の在り方とともに、また、ことばそれ自体の要因で、変化を続けるものである。2ある時代に、もう一般には使われなくなったことばでも、特殊な用法の中にとじこめられて、ずっと後の時代にまで生き残ることがある。(諺など)3特別な表現意図をもって、ずっと音のことばを、わざわざよみがえらせて使うことがある。(歌や詩など)4「書きことば」と「話しことば」の具体的な違いを、生活場面の資料から、より多く提示することも必要である。5小学生の「文語意識」が、やがて中学校・高等学校の文法、古典教材学習にどうつながるだろうか。改めて、小学校の学習指導内容を意識したのである。6M・N児のように、今まで生きていることばの力と、その良さに気づき、現在使っていることばの将来に関心を持つ言語感覚を失ってほしくない。

(金沢市立米泉小学校長)

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