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中国朝鮮族移民史は教育史とも深く関係し ている

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(1)

はじめに

 中国朝鮮族総人口は

192

3843

人で、中国の

55

の少数民族のなかで、14位を占めて いる1)。朝鮮族は主に吉林省、黒龍江省、遼寧省に居住している。吉林省延辺朝鮮族自治 州は中国朝鮮族の最大集居地で、現在延辺朝鮮族自治州の総人口は

217

7966

人で、そ のうち朝鮮族は

81

1761

人である。人口に占める民族構成の割合は朝鮮族が全人口の

37.27%、漢族が 59.65%、その他の民族が 3.08%である

2)

 中国朝鮮族とは、朝鮮半島から中国に移民して来た中国国籍を持っている朝鮮民族であ る。中国朝鮮族は中国に移民して

150

年経った現在でも、いまだに朝鮮民族共同体を維持 している。延辺朝鮮族自治州は中国朝鮮族の民族共同体の中核地域であり、中国朝鮮族の 教育と文化の中心地である。他地域の中国朝鮮族は延辺朝鮮族自治州の教育をモデルとし て民族教育を発展させ、民族共同体を維持して来た。中国朝鮮族の民族共同体が維持でき るもっとも重要な原因は朝鮮族の教育にある。中国朝鮮族移民史は教育史とも深く関係し ている。

 朝鮮族は農耕民で、移民してから東北地域で稲作栽培に貢献し、各民族と共に東北地域 を開拓して来た。朝鮮族は子女の教育を重視する伝統があるため、朝鮮族の村ができると 必ず村に学校が建てられた。農民が多数であるため、農村部に学校が多く、朝鮮族の教育 は農村教育を抜きにしては語ることができないほどである。延辺朝鮮族自治州では村ごと に朝鮮族の小学校、郷ごとに朝鮮族の中学校があったため、従来の農村の子どもは通学状 況がよく、歩いて村の小学校へ通学し、家から通える範囲の農村の中学校へ通っていた。

 このように朝鮮族の農村学校が発達したのは朝鮮族が

19

世紀中ごろから中国へ移民し て定着する過程において、私立学校を多く作って自主的な独自の民族教育を展開した結果

中国朝鮮族の人口移動と教育

1990

年以後の延辺朝鮮族自治州を中心として─

花 井 み わ

1) 許青善・姜永徳『中国朝鮮族教育史』(延辺教育出版社、2009年)152頁。

2) 延辺朝鮮族自治州統計局『延辺統計年鑑』(吉林人民出版社、2007年)55頁(尚、これは戸籍上で

の人口で、居住人口ではない。中国では人は移動できても戸籍は動かせない)。

(2)

である。近代朝鮮族形成の歴史過程において教育が果たした役割は大きい。朝鮮族社会に おいて子どもの教育はいつの時代でも最も重要な関心ごとであった。各時代の教育におけ る政治的イデオロギーを除いて、朝鮮族が子女の教育を重視した理由は、子どもの社会的 上昇を望み、子どもが安定した職業に着き、社会でも敬意を払われる立場に立つように子 どもに高いレベルの教育を受けさせたいという親の教育要求があった3)からである。

 ところが、中国の改革・開放政策実施後、ヒト・モノ・カネの流動化をともなう市場経 済化の進展のなかで、朝鮮族の多くの青年は農業に携わるよりも、より高収入の職を求め て農村を離れて都市へと移動するようになった。「東北三省朝鮮族伝統居住地区から山海 関以南地区及び国境を越えて移動する朝鮮族人口は

50〜60

万」4)とも言われる。1990年代 以降から現在、朝鮮族の人口移動、特に農村から都市への移動によって、農村の人口が減 少し、それに伴って農村の小学校は統廃合を余儀なくされ、もともと村にあった小学校が なくなったため、朝鮮族の子どもはバスで通学する距離にある付近の学校へ行くか、或い は近くの漢族の学校に行くことになった。農村部の中学校はほとんどなくなり、農村の朝 鮮族学校はいま転換期を迎えている。

 中国の社会変動が激しい現在、朝鮮族の教育は従来のように安定した学校教育を行うこ とができない変革を求められる時点に達している。農村から都市への移動は中国社会にお ける時代の大きな流れで、人為的にとどめることはもはやできない。朝鮮族の人口移動に よって、中国朝鮮族の教育にはさまざまな教育課題が突き付けられている。

 本論は、

1990

年以降の中国朝鮮族の人口移動と教育の現状を示し、朝鮮族がどのよう な教育対策をとっているかに関して、中国朝鮮族社会調査および聞き取り調査を踏まえな がら

1990

年代以降の社会変動の中で、教育面ではどのような対応がとられ、どのような 実績を挙げたのかを明らかにする。

1.中国朝鮮族教育のスタートラインと教育水準

 中国朝鮮族が民族共同体を維持できる最も重要な原因は朝鮮族教育共同体が存在したた めである5)。朝鮮族教育共同体は次のような特徴がある。①自立、自主的原則を守った教 育を行った。②朝鮮族の小学校、中学校(高校を含む)、中等師範学校、芸術学校、大学 校がある。朝鮮族教育は基礎教育から師範教育、民族芸術教育及び高等教育に至るまでの

3) 拙著(著者名金美花)『中国東北農村社会と朝鮮人の教育─吉林省延吉県楊城村の事例を中心とし て(19301949)─』(御茶の水書房、2007年)372頁。

4) 朴䆾姫「中国朝鮮族農村教育改革和発展研究」許青善『中国朝鮮族教育研究』(延辺教育出版社、

2006年)281頁。

5) 鄭仁甲「中国朝鮮族教育共同体反思」金炳鎬『中国朝鮮族人口問題研究』(民族出版社、2007年)

181頁。

(3)

自身の教育体系を持っている。③

192

万の朝鮮族の絶対多数が上記の学校教育を受けてい る。④朝鮮族学校の教育を統一的に管理する部署がある。主なものとして、東北朝鮮族民 族教育科学研究所、東北朝鮮語研究会、東北朝鮮民族教育出版社、各地域の教育学院朝鮮 語部等がある。⑤朝鮮族教員の絶対多数が朝鮮族であり、彼らは朝鮮族の中等師範学校と 大学(延辺大学他中央民族大学朝鮮語文学部等)或いは朝鮮族中学校の卒業生などであ る。⑥朝鮮族教育関連新聞、雑誌等がある。⑦朝鮮族教育共同体内で勉強した学生の大多 数が朝鮮族集居地域で勤務している。⑧朝鮮語を第一言語とし、漢語を第二言語とす る6)。中国へ移民し始めた

19

世紀中ごろから清朝期、中華民国期、満洲国期、新中国の 現在に至るまで、朝鮮族教育共同体は中国朝鮮族を一つの共同体にまとめる上で重要な役 割を果たした。

 このような朝鮮族教育共同体が維持された結果、朝鮮族の教育は功績をあげ、漢族を含 む中国の

56

の民族の中で教育水準が最も高い民族として知られている。朝鮮族と中国そ の他の主要民族の

6

歳以上人口で占める大学以上の学歴を持つ者が占める割合は表

1

の通 りである。

表 1  朝鮮族と中国その他の民族との大 学学歴の比較表(%) 

1982 1990 2000 朝鮮族 2.18 4.82 8.6 満族 0.94 1.91 4.8 回族 0.80 1.77 4.1 苗族 0.14 0.46 1.4 ウイグル族 0.39 1.10 2.7 モンゴル族 0.95 2.19 5.2 チベット族 0.24 0.52 1.3 漢族 0.69 1.63 3.9 全国 0.68 1.58 3.8 出所)人口普査弁公室、1985:240〜243;

1993a:380〜459;2002a:566〜567。許青善・

姜永徳・朴泰洙『中国朝鮮族民族教育史料 集 4 下』(延辺教育出版社、2005年)980 頁により筆者作成。1982年の数字には「大 学卒業生」と「大学中退或いは在学生」の 二項を含む。

 表

1

で示すように、朝鮮族の大学学歴者は各年代を通して中国各民族の首位である。基 礎教育において中国では

1986

年義務教育法を実施し、初等教育と中等教育の普及をし始

6) 鄭仁甲・前掲(注5)176頁。

(4)

める段階であったが、延辺朝鮮族の教育は

1960

年代にすでに小学校と中学校の入学率が

90%を超え

7)、延辺は「教育之郷」という美名を持っている。延辺朝鮮族教育の発展の状

況は表

2

の通りである。

表 2 1982 年人口 1 万人に占める朝鮮族在学生数の割合比較(人)

小学生 中学生 高校生 農業中学生 短期大学生 大学生 延辺朝鮮族 1,055 562 170 70 15 24

吉林省 1,357 549 87 38 17 19

全国 1,352 375 62 12 11 12

出所)『中国教育年鑑』編輯部『中国教育年鑑』(湖南教育出版社、1983 年)(小数点以下四捨五入)321頁。

 表

2

で示すように、在学生数が中学生、高校生、農業中学生、短期大学、大学生が全 国、吉林省の平均を上回る。特に高校生、農業中学生数が多く、大学生数も多い。次の表

3

は、人口

1

万人に占める朝鮮族と全国の割合を比較したものである。

表 3  1982 年人口 10 万人に占める延辺朝鮮族と全国との最終学歴の 比較表(人) 

大学学歴 高校学歴 中学校学歴 小学校学歴 延辺朝鮮族 1,180 17,190 27,170 29,160

全国 559 6,622 17,758 35,377

全国との比較 +621 +10,568 +9,412 −6,217 出所)『中国教育年鑑』編集部『中国教育年鑑』(湖南教育出版社、1986年)

321頁。

 上記の表

2・表 3

は、朝鮮族の基礎教育が普及し、高学歴者が全国平均を大いに上回る ことを示している。吉林省(延辺朝鮮族自治州を含む)には朝鮮族が

114

万人いるが、

2000

年の統計によると

1

万人の中に中等教育(中学校、高校)を受けた朝鮮族が

6676

人 占め、全省平均より

1328

人多く、

1

万人の中短期大学以上の教育を受けた朝鮮族の人数 は

773

人で、吉林省の平均レベルより

254

人多い8)。このように朝鮮族の教育はスタート ラインが高く、量的、質的に高い教育レベルに発展した。朝鮮族の学校教育の発達は朝鮮 族の民族文化と言語を継承維持する上で重要な役割を果たした。

7) 許青善・姜永徳・朴泰洙『中国朝鮮民族教育史料集 4 下』(延辺教育出版社、2005年)481頁。

8) 鄒亜文「吉林省朝鮮族人口現状及変動因素分析」国務院人口普査弁公室・国家統計局人口和社会科 学技術統計司編『第五次全国人口普査 科学討論会論文集』(中国統計出版社、2004年)1184頁、

1185頁。

(5)

2.朝鮮族の移動と都市化

 ところが、このような朝鮮族の教育の優位性は楽観視できなくなった。1990年代以後 の朝鮮族は農村から都市へと多く移動し、農耕民から脱出していく流れであった。中国政 府の教育費の不足と相まって、1990年代初めごろには農村の学校の教師の給料が支払わ れないことがあったため、教員を辞めて都市部或いは韓国へ出稼ぎに行く教師も現れた。

沸騰する中国の社会変動で農村社会もその流れによって、多くの「農民工」を生み出して いる。朝鮮族社会も中国全体の社会の流れのなかで、従来の農村社会が衰退し、朝鮮族の 村がなくなり、農村の朝鮮族の学校がなくなるという時点に到達したのである。

 延辺朝鮮族自治州内の農村からは農民が延吉市、龍井市、図們市などの都市へ多く移動 し、第三次産業に従事するようになった。農村には中学校を卒業して農業に従事する朝鮮 族の若者はほぼいない。朝鮮族の自然的な人口移動が朝鮮族の農村集居地の解体を引き起 こし、これにより農村の朝鮮族学校が統廃合したため、もともと村にあった小学校がなく なり、農村 郷 レベルの中学校がなくなるにつれて、遠くの小学校、中学校へ通学する ことになった。教育費の負担も大きくなり、中学校を中退する子どもも農村では現れてい る。人口移動は農村だけでなく、延辺朝鮮族自治州内の都市部においても波及している。

延辺には就職口が少ないため、経済が発展した沿海大都市へ移動する青少年が多くなった からである。基礎教育の普及を早い段階で終え、朝鮮族全体の教育水準が高くなった現 在、朝鮮族の学校の減少、学生数の減少にどう対処するかは朝鮮族の基礎教育を今後どの ように展開するかの重要な問題にかかわり、朝鮮族教育が直面した共通の課題となった。

 朝鮮族は農耕中心の生活から都市生活へ移り、生存空間を絶えず拡張している。統計に よると、1985年延辺の

GDP

は第一次産業が

24.1%、第二次産業が 47.3%、第三次産業が 28.6

%占めていたが、

2006

年には第一次産業が

13.6

%、第二次産業が

41.8

%、第三次産業

44.6%を占めている

9)。朝鮮族の就職状況は、第一次産業が低く、第三次産業が最も高

80

%である。朝鮮族の生活基盤は農村から都市へ移った。次の表

4

は朝鮮族と中国の いくつかの民族の就職職種の変化を示している。

 表

4

のように、朝鮮族の第一次産業従事者の割合は全国水準や他の民族に比べて最も少 なく、第三次産業従事者の割合が、最も多い。農耕中心の生活からの脱出と都市への移動 によってかつて繁栄した朝鮮族農村は寂れているのが現状である。

2010

年現在実際に第 一産業に従事する朝鮮族人口は第二・三次産業に比べてもっと少ない。その一方で朝鮮族 の都市化現象は表

5

の通り中国のほかの民族より進んでいる。

9) 延辺朝鮮族自治州統計局・前掲(注2)35頁。

(6)

 表

5

の通り、朝鮮族の都市化現象は中国で首位になっている。朝鮮族の都市化は市級に おいて

45.9%で、漢族の 19.5%、回族の 31.5%、全国の 18.7%をはるかに上回る。

 朝鮮族の職業と他の民族との比較は表

6

の通りである。朝鮮族は各民族のなかで農業人 員が最も少ない。また、責任者、専門職、事務職が多いのは、高い教育水準と関係あると 考えられ、商業、サービス業が多いのは朝鮮族の都市化が進んでいるためと考えられる。

 このように

1990

年代から朝鮮族社会は大きな変動をして都市化が進んでいる。現在延 表 4  各年度朝鮮族と中国その他の主要民族の就職人口の職種構造の変動

割合の比較(%) 

第一次産業 第二次産業 第三次産業 1982 1990 2000 1982 1990 2000 1982 1990 2000 朝鮮族 59.2 52.7 47.2 24.7 24.4 20.2 16.1 22.4 32.0 満族 61.7 68.1 66.0 25.0 18.3 16.3 13.3 13.6 17.5 回族 61.8 62.3 59.6 25.2 21.8 18.0 13.0 15.9 22.0 苗族 95.1 93.0 86.9 1.9 2.7 6.6 3.0 4.3 6.4 ウイグル族 86.1 85.2 80.4 6.3 5.9 6.7 7.6 8.9 12.4 モンゴル族 74.4 71.9 71.1 9.6 10.6 10.2 16.0 17.3 18.4 チベット族 90.9 86.7 86.4 3.2 3.4 3.6 5.9 9.9 9.9 漢族 72.9 71.3 63.0 18.4 17.8 20.5 8.7 10.7 16.3 全国 73.7 72.2 64.4 17.7 17.1 19.5 8.6 10.7 15.9 出所)人口普査弁公室、1985:248〜255、1993a:752〜763、2002b:815〜820。

許青善・姜永徳・朴泰洙『中国朝鮮民族教育史料集 4 下』(延辺教育出版社、

2005年)981頁より筆者作成。(第一次産業に農林牧漁業、第二次産業には製造、

運送、建築、採掘鉱山、探査、電力」項目があり、第三次産業には商業飲食業、

サービス業、公共事業、文教衛生、科研、金融と国家機関を示す。)

表 5  朝鮮族と中国その他の民族の都市化現象の 比較(%) 

市級 鎮級

1990 2000 1990 2000 朝鮮族 34.6 45.9 15.6 16.1 満族 18.0 20.7 10.1 14.6 回族 28.7 31.5 10.4 13.8 苗族 4.1 5.7 3.9 8.4 ウイグル族 8.6 10.3 7.0 9.1 チベット族 3.3 4.1 3.8 8.7 モンゴル族 13.0 15.8 11.5 16.9 漢族 19.5 24.6 7.6 13.4 全国 18.7 23.5 7.5 13.4 出所)許青善・姜永徳・朴泰洙『中国朝鮮民族教育史 料集 4 下』(延辺教育出版社、2005年)982頁より 筆者作成。

(7)

辺には就職口が少なく、その一方で農業に従事しようとする若者はほぼなく、中学校を卒 業して高校へ入学しない若者は中国の大都市、経済が発展した沿海都市へ行って職業を求 めている。上海、北京、天津、青島、広州などには朝鮮族が多く、上海、江蘇、浙江には

20〜40

歳の朝鮮族が

10〜12

万人いると言われている。

 1949年中華人民共和国成立以後、戸籍制度によって、農民は自由に都市へ移動するこ とができず、村で生まれて、村の小学校、中学校を通い、卒業後は村に戻って農業に携わ り、同じ農民と結婚して農村で一生を終えるライフコースであった。農民の子どもは農民 という変わらない社会であった。中国の改革・開放政策実施以降農村から都市へ移動して 居住することができるようになり、いま農村は若者がいないため衰退している。

表 6 2000 年中国各民族就業人口の職業別の割合(%)

責任者 専門職 事務職 商業

サービス 農業人員 生産

運送業 その他

朝鮮族 3.67 11.98 5.34 17.05 46.94 14.81 0.22

満族 2.12 6.84 3.24 8.63 65.86 13.28 0.04

回族 2.23 6.28 3.88 13.81 59.59 14.13 0.08

苗族 0.54 2.67 1.14 2.91 86.84 5.86 0.05

モンゴル族 2.22 8.29 3.66 6.77 70.75 8.26 0.05 チベット族 1.00 5.29 1.82 2.51 86.74 2.57 0.07

漢族 1.72 5.80 3.19 9.52 63.09 16.61 0.07

全国 1.67 5.70 3.10 9.18 64.46 15.83 0.07

出所)「人口普査弁公室、2002b:821〜824」許青善・姜永徳・朴泰洙『中国朝鮮民 族教育史料集 4 下』(延辺教育出版社、2005年)982頁より筆者作成(農業人員 は戸籍が農民である人口の統計である)。

 しかし、現在都市戸籍ではない農民出身の都市居住者は都市部において教育・福祉など においてさまざまな差別的待遇を受けているが、これは中国の社会の大きな弊害である。

農村から都市へ移動した場合、住居が都市にあっても戸籍は都市ではなく、農村にある。

都市の戸籍を得るには、定められた価格の新築商業住宅を購入しなければならない。中古 住宅や安い住宅を購入しては都市の戸籍を得ることはできない。たとえ戸籍がなくても農 村を離れて、特に若者は、中学校を卒業すると、或いは中退し都市へ出て職場を求めて生 活をしている。若者は農民という職業に就く人はめったにいないのが現状である。

 朝鮮族が多く移動する目的は経済の問題であり、特に家計の中の教育費用を工面するた めである。農業収入だけでは高くなる一方の教育費を工面することができない現実に直面 している。一般の農民の一年の農業収入全部を教育費にあてても、大学に通う子供の教育 費用を賄うことができない状況である。農民の一年間の可処分収入は

2994

元、都市の一 家族の手取りは

9438

元である10)。農民の可処分収入には次年度の再生産の種子代などが 含まれるので、実際の可処分収入はさらに少なくなる。現在は農業税などが少なくなり、

(8)

国からの補助金も出ているが、それでも農業収入だけでは高校に通う学生を支えることが できない現状である。小学生も農村の子どもは費用が多くかかる。近くに学校がないため バスで通学するための交通費が一カ月

65

元、教育費が年に

300

元、食事代が一カ月に

100

元で、家庭生活費用のほとんどが子どもの教育費にあてられている。2010年現在、農 村小学校の教育費は一年に

300

元、昼食費一カ月

100

元、バスの交通費

65

元である11)。 一年の子どもの教育費は合計

2280

元になる。朝鮮族の民族教育の費用が高く、朝鮮族家 庭の子女のための教育負担が過大になっている問題がある。

 朝鮮族民族教育の費用は漢族よりも高い。その原因は「①朝鮮文教材、参考資料、刊行 物、書物等の出版物の費用が高い、②農村朝鮮族学校の統廃合によって、家から遠く離れ た学校(郷・鎮級の町の学校)へ通学するため、交通費、昼食費その他の雑費が高い③政 府の学校教育に対する教育費が不足している。現在延辺の小中学校の運営費の公的な出所 は国家で規定された財政教育費以外はなく、学校運営に係る一部の費用は実際に学生が支 払うことになる。2004年の延辺農民の一人当たりの純収入は

2485

元で全国平均レベルよ り

478

元少なく、吉林省平均より

542

元少ない。2006年の統計12)によると、龍井市の都 市部在職者の平均給与は

12,831

元で、農村部農民の年収(可処分収入)は

1921

元でその 経済格差が大きい。しかし、教育費を見ると「龍井市某村では一人の小学生が毎年

3000

元〜

4000

元の教育費を、中学生は

5000

元〜

8000

元必要で、高校生は一般的に都市部にあ る高校に通うことになるため毎年最低で

1

万元必要で、大学生は毎年教育費が

1

5000

元以上かかる。」13)教育費が漢族の学校に比べて多くなるのは、教育費が学生の頭数で割 り当てられるからである。農村では、学校の数が急激に減り、農村の教育環境は厳しくな る一方である。そのため、子どもの教育を考えて都市部に移住する人も多くなった。

 特に農村からの若い女性は都市部に行って、第三次産業に多く従事するようになり、農 村では若い女性を見られないほどになった。中学校を卒業すると農村を離れることが一般 的である。都市部に行った女性は、農村へ戻るつもりはなく、新しい都市生活者になって いく。女性の都市への移動は農村の人口減少にさらに拍車をかけている。

 朝鮮族農村は高齢化が進んでいる。従来の農村の青年たちは自分たちの目標を農村建設 においていたが、かつての楽しい青年たちの活動はいま農村のどこにも見られない。青年 活動はなく、ある朝鮮族村では「読報組」(新聞を読む会)が

50

歳以上の人たちで活動を 行っているのみである14)

10) 延辺朝鮮族自治州統計局・前掲(注213頁。

11) 延辺朝鮮族自治州農村部における聞き取り調査による(2010919日)。

12) 延辺朝鮮族自治州統計局・前掲(注2)143頁。

13) 梁玉今「中国朝鮮族女性教育的興起和発展」許青善『中国朝鮮族教育研究』(延辺教育出版社、

2006年)199頁。

14) 延辺朝鮮族自治州農村部における聞き取り調査による(2010923日)。

(9)

 朝鮮族学校減少の大きな理由のもう一つは、入学する学生の絶対数が少なくなったから である。その主な理由の一つが

1970

年代に中国の国策として実施した一人っ子政策のた めである。延辺朝鮮族自治州の朝鮮族は国の政策を徹底的に実施して、一人っ子政策実施 における全国の模範になったため、全国の「計画生育」(一人っ子政策)会議はよく延辺 で開かれていた。一人っ子政策は実施数年後の改訂で、朝鮮族は少数民族であるため、子 ども二人まで産むことが許されていた。しかし実際は、職場での昇進や住宅を与えられる 場合、一人っ子政策を採った人は二人子を採った人より評価が高く付き、優先される場合 があった。一人っ子を生むと経済的に待遇があったが、二人の子どもの場合経済的待遇が ないばかりでなく無言の圧力となった。さらには年子を生んだ場合、罰金を科すことにな っている。延辺農村では「罰金を

3000

元科されることがあった」15)ように厳しく制限さ れた。

 このような一人っ子政策の実施は朝鮮族の人口減少原因の一つとなった。1996年から 延辺朝鮮族人口増加率はマイナスに転じ、当年前年に比べて

789

人減少し、2000年には

5013

人減少した。1990から

2000

年までの

10

年間、延辺朝鮮族自治州の朝鮮族人口は

2

269

人減少し、2000年の延辺朝鮮族人口増加率は−2.47%になった16)。2006年末、延 辺朝鮮族自治州の人口は前年に比べて

2772

人増加し、漢族や其の他の民族の人口が

2772

人増加したのに対して、朝鮮族の人口は前年より

5483

人減少した17)。農村を離れる朝鮮 族の土地をレンタルして耕すのは黒龍江省から来る漢族である。現在黒龍江省、内モンゴ ルから延辺市内、延辺農村に多くの漢族が移り住んでいる。

 朝鮮族が移動できる原因は中国の改革・開放政策の実施が主な原因であるが、特に朝鮮 族が他の民族より移動が多いのは次のような原因が考えられる。①朝鮮族は教育レベルが 高く、新しい環境に適応する能力を持っている。②延辺には農業以外の産業がなく、若者 の就職口が少ない。③延辺から大学に入学した若者は卒業後延辺に戻るものが少ないこと が考えられる。また

1992

年以降沿海部、大都市の韓国企業の進出は朝鮮族に豊富な就職 機会を招いた。沿海部大都市に移住するのは

20

代から

40

代までの人である。現在朝鮮族 の流動人口は上海では

5

万人、北京で

7

万人、山東省で

10

万人とも言われている。正確 な人口統計はまだない。

 朝鮮族村では「朝鮮族は出国し、漢族がその農地を請け負って耕す」という現象が現 れ、

40

歳以上の朝鮮族は韓国へ出稼ぎに行き、その農地を漢族に貸し出し、一年に現金 で貸出料金をもらっている。朝鮮族が韓国で稼いだ収入で、都市部に家を立て、子供の教 育費などに使っている。農村からのみならず、延辺の都市部からも若い人の移動が多い。

15) 延辺朝鮮族自治州農村部における聞き取り調査による(2010920日)。

16) 鄒亜文・前掲(注8)1187頁。

17) 延辺朝鮮族自治州統計局・前掲(注2)55頁。

(10)

現在延辺朝鮮族自治州の朝鮮族の居住人口は戸籍上での人口より少ない状況である。

3.人口移動による学校の変動

 改革開放政策後の人口移動によって、農村の朝鮮族村には現在中学校、高校はほぼな く、小学校しかない。朝鮮族の学校がなくなるということは、主に農村学校が減少し、農 村教育が不振であることを意味する。農村教育の不振は朝鮮族のみならず、中国全体の社 会問題でもある。

 中国朝鮮族は農耕民族で、80%が農民である。中国へ移民して

150

年の間、東北の各民 族と一緒に東北の地を開拓し、水田耕作をしてきた。1990年前ごろまでは朝鮮族の人口 移動がそれほど激しくなく、朝鮮族の農村社会は維持され、農村には朝鮮族の小学校、中 学校の減少がそれほど激しく見られなかった。

 1990年から

2009

年の学校状況を次の表

7

から見ると、小学校、中学校卒業率は高くな ったが、学生募集人数と在学生の数は激減したことがわかる。

表 7 1990 年・1999 年・2009 年延辺朝鮮族小、中学校の変動(人)

中学校 小学校

学校数 在学生 卒業生 募集数 学校数 在学生 卒業生 募集数 1990 122 40,789 12,857 14,267 386 80,762 10,500 13,755 1999 75 49,597 13,693 18,518 195 63,631 14,759 6,819 2009 37 20,217 8,864 5,745 31 15,124 3,088 2,305 出所)1990年・1999年の統計は梁玉金「中国延辺朝鮮族自治州民族関係の形成と発展」

金強一、許明哲編『中国朝鮮族社会の文化優勢と発展戦略』(延辺人民出版社、2001年)

(朝鮮語)160頁を参照。2009年の統計は延辺朝鮮族自治州教育局『2009─2010学年初 延辺教育統計資料』(延辺朝鮮族自治州教育局、2010年)119頁、125頁、190頁より筆 者作成。

 特に農村ではこの状況が多く現れている。1990年延辺農村には

378

所の朝鮮族小、中 学校があったが、

2000

年には

125

所に減少し、さらに

2009

年には

253

所減少した。減少 率は

66.93%である。1990

年全州朝鮮族小中学校在学生の数は

12

1551

人で、2000年は

1990

年より

1

8278

人減少し、

15.04

%下がった。農村学校の減少によって、もともと村 にあった小学校と中学校が全て郷鎮政府所在地に合併されることによって、小学校一年生 が寄宿することもある。このような現象は辺境郷鎮で一般的現象となる。数がもともと少 ない郷鎮朝鮮族中小学校には教師が足りないなどの問題もあり、学習環境が悪化する問題 を生じた18)

 龍井市中学校は

2003

年には学生が

2000

人で一クラス

60

人だったが、2009年には

680

18) 鄒亜文・前掲(注8)1189頁。

(11)

人に減少し一クラス

30

人である19)。主な理由は朝鮮族が沿海地方に多く移動するからで ある。農村では、学校の数が急激に減り、もともと村にあった学校は廃止統合される。そ のため、農村においては、学校と家との距離が遠い小学生が通学するには大変不便であ る。バスに乗って通学することになるが、歩いて通学する子供もいる。冬の間や、雨の 日、バスが時間通り来ないとき、学校の行事で遅くなったとき、歩いて帰宅するが、この ときは担任の教師が一緒に送ることがある。相乗りのタクシーで子どもを送り迎えする場 合もある。バスの料金も年々上がる一方で

1

カ月

65

元だったのが現在は

85

元である。

 現在朝鮮族の学校教育は都市を中心に行われている。2006年と

2009

年における農村部 と都市部の教育の変動は以下の表

8、表 9

の示す通りである。

表 9 2009 年朝鮮族学校の都市部と農村部別状況(人)

小学校 中学校 高校

募集 在学生 卒業生 募集 在学生 卒業生 募集 在学生 卒業生 都市 2,048 13,374 2,550 2,389 8,494 3,781 3,142 10,895 4,067

農村 257 1,750 538 192 745 336 22 83 77

合計 2,305 15,124 3,088 2,581 9,239 4,117 3,164 10,978 4,144 出所)延辺朝鮮族自治州教育局『2009─2010学年初 延辺教育統計資料』(延辺朝鮮族自治州教 育局、2010年)124頁、125頁、193頁より筆者作成。

表 8 2006 年朝鮮族学校の都市部と農村部の学生数(人)

小学校 中学校 高校

募集 在学生 卒業生 募集 在学生 卒業生 募集 在学生 卒業生 都市 2,297 16,107 3,839 4,245 15,179 6,353 4,211 13,647 4,716

農村 670 4,323 1,064 771 3,062 1,418 71 196 86

合計 2,967 20,430 4,903 5,016 18,241 7,771 4,282 13,843 4,802 出所)延辺朝鮮族自治州統計局『延辺統計年鑑』(吉林人民出版社、2007年)280頁より筆者作 成。

 表

8

、表

9

が示すように

2006

年農村在学小学生は全体の

21.16

%、中学生は

16.78

%、

高校生は

1.42%占めていたが、2009

年小学校生は全体の

11.57%、中学生は 8.06%、高校

生は

0.75

%で、

2006

年よりほぼ

50

%減少した。その大きな原因は、現在中国で公的教育 支出は少なく、各学校では学生数に応じた教育費の支出が学生側に求められるため、人数 が少ない学校は廃校、統合される運命になるからである。農村では中学校を中退して働き に出る子どももいる。

 龍井市農村部は朝鮮族が多く住んでいる稲作地帯で、もともとは豊かな農村であった が、現在は経済状況が厳しい地域となり、人口減少が激しく、学校が廃校になる場合が多

19) 金周栄(龍井市龍井中学校校長)への聞き取り調査による(200995日)。

(12)

い。子どもの教育を考えて都市部に移動する家族が多い。親が都市部で臨時の仕事をしな がら、子どもの学業を支えている。数年前までは農村部の子どもは都市部の学校へ入学す ることができなかったが、現在は都市部の学校が、募集定員を満たしていないため、農村 部の学生を受け入れている。

 2009年延辺朝鮮族自治州小学校転入者合計

821

人中、龍井市小学校への転入者は

309

人、延吉市学校への転入者が

167

人を占めている。また延辺朝鮮族自治州における転出合 計

838

人中、龍井市からの転出者が

255

人、延吉市からの転出者が

268

人を含んでい る20)。よりよい教育を求めての教育人口の移動である。

 龍井市内には延辺朝鮮族自治州で最も教育レベルが高い龍井実験小学校がある。農村部 の学校では教師、設備が遅れているだけでなく、都市部の学校のように学校と教師が課外 指導、夏休み、冬休み間の学習指導を行うことはほとんどない。子どもの大学進学を視野 に入れて農村から龍井市に移動する朝鮮族が多い。

4.朝鮮族の教育対策

(1)東北主要都市の朝鮮族学校運営の工夫

 朝鮮族の人口移動による朝鮮族教育への影響が大きく、それに対して朝鮮族はまず学生 の募集を確保する工夫をしている。中国朝鮮族高校はもともと単一民族のみの学校である が、現在その学校運営を変えて、一部の漢族の学生も受け入れている。

 延辺以外の瀋陽、長春にも朝鮮族学校は延辺より更に応募学生数が少ない為、さまざま な学校運営の工夫をしている。瀋陽第一中学校(高校)校長は、進学率を高めることが、

朝鮮族学校存続の重要な問題にかかわると語った21)。瀋陽第一中学校は

1987

年以来

8

回 遼寧省大学入試の文系、理系最高得点者を出し、毎年北京大学、清華大学に入学者を出 し、大学進学率は

98%である。学校の特色は朝鮮語と漢語の二重言語を実施しそれぞれ

の学生に対するきめ細やかな教育を実施し、「いい学生は促し(促好)、中間学生は押し動 かし(推中)、劣る学生を助け(帮差)」、「学生の個性を尊重し(尊重個性)、差異を認め

(承認差異)、その学生に適した教育を実施し(因材施教、因人施教)」、「低い点数で入っ て高い点数で卒業する」民族教育の特色を前面に打ち出している。瀋陽市の朝鮮族小学校 と瀋陽市第六中学校(中学校)の学生募集の鍵は瀋陽第一中学校(高校)の大学進学率に 左右される22)ことが多い。瀋陽市第一中学校では、2005年から漢族学生を募集対象に、

20) 延辺朝鮮族自治州教育局『2009─2010学年初 延辺教育統計資料』(延辺朝鮮族自治州教育局、

2010年)195頁。

21) 白聖男(瀋陽市朝鮮族第一中学校(高校)校長)への聞き取りによる(2010915日)。

22) 李春美(瀋陽市朝鮮族小学校校長)への聞き取りによる(2010914日)。

(13)

第二外国語(韓語、日本語)実験クラスを設置し、基礎教育を行うと同時に、留学予備教 育も行っている。

 長春朝鮮族中学校校長は次のように語った。「長春市周辺農村ではほとんどの朝鮮族は 韓国へ出稼ぎに行って農村には学校がない。県城(市級の県所在地)しか朝鮮族中学校が ないが、その朝鮮族学校へ通う学生のほとんどは漢族である。朝鮮族と漢族は別々のクラ スである。子どもを勉強させる為に周辺農村の朝鮮族の父母は県城に移住している。土地 農地は漢族に貸し出している。現在長春市朝鮮族中学校(高校)の学生の

70〜80%は農

村の子どもである。長春市朝鮮族中学校では大学へ入学できなかった浪人の学生も受け入 れ、漢族の学生も受け入れている。現在各学年に

4

つの朝鮮族のクラスと

2

つの漢族のク ラスがある。教育方針は二重言語を行うことである。現在は漢族が朝鮮族より少なく朝鮮 族が主体であるが、あと何年かすれば漢族が朝鮮族学生より多くなるだろう。そうなれ ば、朝鮮族が漢族に付帯することになる。毎年学生募集がひとつの難関となり、漢族の学 生を受け入れなければ学校の存続が難しい。現在重点大学への進学率が

20%である。漢

族の学生も募集しなければ学校の運営が厳しくなる」23)。このように、長春でも朝鮮族の 人口流失で朝鮮族の学生数が減少して、漢族学生を募集することで対処して運営してい る。漢族の学生を受け入れることで学校の運営にはいくつか問題が生じるが、学校の存続 のためには漢族学生の募集もやむを得ないことで、朝鮮語で漢族を同化させるのもよしと 考えている。

 延辺第一中学校では漢族の学生

80

人が在学しているが、漢族のみのクラスがあるわけ ではない。彼らは幼稚園から中学校まで朝鮮族の学校に通ったため、朝鮮族と言語がまっ たく同じようにでき、教育運営には問題がない24)

(2)小学校における小人数クラス化(小班化)教育の推進

 朝鮮族の人口移動により朝鮮族小中学校学生が減少している。その中で、教育は少人数 教育が行われることによって、教育のレベルを高めて、朝鮮族の教育要求を満足させてい る。延辺朝鮮族自治州の朝鮮族小学校は

28

人ぐらいの少人数クラスが

73%を占め、年を

追うごとに増える状況である。延辺朝鮮族自治州教育局では

2003

11

月に改定された

『延辺朝鮮族自治州朝鮮族教育条例』には、特に一条を加えて、「自治州各級人民政府は朝 鮮族学校の少人数クラス化教育を推進し、合理的に教師の編成を配置し、教育経費を保障 し、学校運営の状況を改善すべきである」とした25)

 延辺朝鮮族自治州における小人数クラス化対策は朝鮮族学校教育の生き残りに係る重大

23) 金仁順(長春市朝鮮族中学校(高校)副校長)への聞き取りによる(2010916日)。

24) 郭哲洙(延辺第一中学校(高校)校長)への聞き取り調査による(2010918日)。

25) 許青善・姜永徳・前掲(注1)283頁。

(14)

な教育課題となった。延辺朝鮮族自治州では小人数クラス化教育をすることにより農村教 育がなくなる状況の中で都市教育を強化して、農村学生を受け入れる体制を整うようにす る方法を講じている。このような前提のもとで、少人数クラスの教育を行うと教師がより 多く学生に眼を向けることができるため、教育のレベルを高めることができると考え、い ま少人数クラス化の教育を模索している。従来の朝鮮民族教育は農村を中心に、中国の統 一した教育政策によるものであった。人口移動がほぼない状況のなかで民族教育に関して 悩むことがなかった。現在は朝鮮族が地域社会でイニシアチブを握るための民族教育方法 を模索している。

(3)朝鮮族高校の大学進学率と競争力

 現在延辺朝鮮族自治州内において高校は都市部に設置しているが、延吉市の延辺第一中 学校(高校)がもっとも大学進学者が多く、次が龍井市内の龍井高級中学校である。表

10

で示すように、2009年の延辺

6

市・2県の大学入学者の

65.66%を延吉市と龍井市が占

めている。延吉市、龍井市は朝鮮族高校教育の中心である。

表 10  2009 年延辺朝鮮族自治州大 学入学者市・県別民族別統 計表(人) 

市・県 朝鮮族 漢族・そ の他民族 合計 延吉市 2,150 1,566 3,716 龍井市 660 210 870 和龍市 193 335 528 安図県 123 850 973

敦化市 133 2,780 2,913

汪清県 234 820 1,054

図們市 327 294 621

琿春市 459 625 1,084

合計 4,279 7,480 11,759 割合(%) 36.39 63.61 100 出所)延辺朝鮮族自治州教育局・2009

─2010学年初 延辺教育統計資料』(延 辺朝鮮族自治州教育局、2010年)6 より筆者作成(なお、上記の統計には 私立大学の入学者数も含む)。

表 11  2009 年延辺朝鮮族自治州民 族別大学受験生数(人) 

市・県 朝鮮族 漢族・そ の他民族 合計 延吉市 2,883 2,032 4,915

龍井市 930 354 1,284

和龍市 294 587 881

安図県 163 1,205 1,368

敦化市 195 3,867 4,062

汪清県 303 1,032 1,335

図們市 390 366 756

琿春市 536 825 1,361

合計 5,694 10,268 15,962 割合(%) 35.67 64.33 100 出所)延辺朝鮮族自治州教育局『2009

─2010学年初 延辺教育統計資料』(延 辺朝鮮族自治州教育局、2010年)5 より筆者作成。

 表

10

で示すように朝鮮族の受験生は延吉市と龍井市でそれぞれ漢族その他の民族の受 験生の数を上回っている。延吉市の延辺第一中学校と、龍井市の龍井高級中学校は朝鮮族 の進学校として有名である。延辺各地から高校入学試験を受けた学生が入学し、学校には

(15)

優秀な教員、先進的な教育設備、整備された寄宿舎がある。現在この二つの高校が延辺朝 鮮族自治州の教育をリードしている。教育レベルの高さをはかる尺度はどうしても大学進 学率と結びついている。以下表

11

は民族別市・県別大学受験者数、表

12

は民族別市・県 別大学合格者の数を示している。

 朝鮮族の大学受験者は全体の

35.67%で、漢族その他の民族が 64.33%を占めているが、

12

で示すように入学試験が厳しい特別選抜・第一次選抜・第二次選抜の大学(国立大 学)入学率は朝鮮族が

44%、漢族その他の民族 56%で、朝鮮族が漢族その他の民族より

進学率が高いことがわかる。

表 12 2009 年延辺朝鮮族自治州民族別大学入学状況(人)

市・県 合計 特別選抜 第一次選抜 第二次選抜

延吉市 2465 1009 1456 204 80 124 1044 387 657 1217 542 675 龍井市 318 47 271 25 4 21 91 16 75 202 27 175 和龍市 104 62 42 10 2 8 24 14 10 70 46 24 安図県 351 300 51 21 21 0 90 71 19 240 208 32 敦化市 1134 1076 58 73 73 0 373 347 26 688 656 32 汪清県 350 266 84 32 25 7 94 69 25 224 172 52 図們市 205 75 130 13 6 7 54 23 31 138 46 92 琿春市 520 242 278 19 11 8 165 54 111 336 177 159 合計 5447 3077 2370 397 222 175 1935 981 954 3115 1874 1241 割合(%) 100 56 44 100 56 44 100 51 49 100 60 40 出所)延辺朝鮮族自治州教育局『20092010学年初 延辺教育統計資料』(延辺朝鮮族自治州教育 局、2010年)7頁より筆者作成。

 表中の「朝」は朝鮮族、「漢」は朝鮮族以外の漢族、回族、満族等の民族を示す(延辺 の回族、満族等の少数民族は漢族の学校へ通っている)。特別選抜とは、全国大学入試後 の一次選抜前に、先に軍事学院、公安学院、公安学校、国際関係学院、政法学院、航空、

航海専攻、音楽、体育、美術専攻など特殊大学と専攻を志願した受験生に対して面接など を行い、先に合格通知を出すことである。第一次選抜とは、文系総合点数

530

点以上、理 系総合点数

539

点以上、第二次選抜とは、文系

466

点以上、理系

466

点以上の受験生であ る(

2009

年)。第一次選抜には北京大学、清華大学などの重点大学で、第二次選抜には一 般大学である。(尚、特別選抜、第一次、第二次選抜以降選抜となっている私立大学入学 者の数は除いているため、表

10

の大学入学者数とは異なる。)

(4)二重言語教育の強化

 延辺から毎年

4000

人以上の若者が大学に進学して延辺を離れる。これは社会的地位上

(16)

昇の為の移動である。若者は大学を卒業した後、延辺以外で就職する場合がほとんどであ る。中学校、高校を卒業した若者も職を求めて延辺を離れて上海、北京、青島などの沿海 都市、大都市を中心に移動している。彼らは出稼ぎではなく、長期的な、できればこれか らずっと大都市で働き、生活する計画をもっている。沿海部都市、大都市へ移動した若者 が中国社会の中で就職するには漢族と競争をしなければならない。現在中国では大学卒業

生の

30%以上が大学卒業と同時に失業状態にある。朝鮮族が中国社会で競争するには、

漢語能力が問われ、従って学校教育で朝鮮語教育と同時に漢語教育を強化することが求め られている。

 その為、延辺朝鮮族の子どもと父母の教育要求も変化している。従来に比べて子供を漢 族の学校へ通わせることが多く見られるようになった。都市の漢族学校には朝鮮族学生が 入学するため、定員オーバーになる傾向もあったため、延辺朝鮮族自治州教育委員会は朝 鮮族の子供が漢族の学校へ入ることを制限するために朝鮮族の入学者から入学費を多く徴 収しているが、漢族学校へ入学する子供の数は増える一方である。

 このような新しい朝鮮族の言語教育要求に答えるために、延辺朝鮮族自治州で模範小学 校とされる龍井実験小学校では実験的に小学校一年から一つのクラス限定ですべての授業 を漢語で行っている。しかし、これは全面的には普及せず、現在すべての学校で二重言語 教育を重要な教育の方針としている。朝鮮語と漢語を兼ね備えた言語教育目標(双語兼 通)である。

2009

年大学入試で漢族の学校に通った朝鮮族受験生は

1199

人で、これは漢族その他の 民族が受ける漢語受験生の

10%以上を占めている

26)。このような言語教育に対する要求 が高まるなかで龍井中学校では週

4

5

時間漢語を学び、

4

時間英語を学ぶ。授業用語は すべて朝鮮語で行い、一部科目では漢語で行っている。学校の言語教育方針は「朝鮮語に 精通し、漢語を強化し、外国語で優勢する。」27)という教育方針を取っている。

 吉林省教育委員会民族教育処では吉林省の九年制義務教育段階の朝鮮族教育課程を

1995

年に調整したが、それには小学校

1

年には「朝鮮語文」課が週

7

時間〜

8

時間で、

2

年生から

6

年生は

6

時間で、中学校は

1

年から

3

年まで週

3

時間授業である。「漢語文」

課は小学校

1

年が

3

時間〜

4

時間で、小学校

2

年から中学校

3

年まで

4

時間である。高校 は「朝文」課が

3

学年とも週

2

時間で、「漢語」課が

3

学年とも

3〜4

時間となってい た28)。従来の教育課程より漢語時数が増えるようになった。

 延辺朝鮮族自治州教育局では

2002

年新教育課程を制定し

2003

年から実施し始めてい る。新教育課程では、「朝鮮語文」が小学校

1

年から

3

年まで週

5

時間で、

4

年から中学

26) 延辺朝鮮族自治州教育局・前掲(注20)5頁。

27) 金周栄・前掲(注19)。

28) 許青善・姜永徳・朴泰洙・前掲(注7)115頁。

(17)

3

年まで週

4

時間である。漢語は小学校

1

年から中学校

3

年まですべて週

5

時間となっ た29)。1995年よりも漢語課の時数が大幅に増え、朝鮮語・漢語両方を強化する「双語兼 通」の言語教育の更なる強化である。

 延辺の漢族学校と言語教育を比較した場合、外国語は漢族学校と同じ時数であるが、朝 鮮族は朝鮮語と漢語の二重言語教育をするため、延辺朝鮮族の学校教育において朝鮮族の 学生は中国教育課程で定められた普通の授業時数より、小学校から高校まで合わせると通 算

1

年多く学校へ通うことになる。朝鮮族は漢族と同じ年数で卒業するが、二重言語教育 で授業時数が多く、学生の負担が多い教育問題を抱えている。しかし、「漢語学習を強化 するのは中国の社会で漢族と競争するためには必要であると考えて延辺朝鮮族自治州では 漢語学習を強化する方向である30)

(5)朝鮮族の多言語教育の実践

 中国の学校では一般的に学生が漢語と英語(其の他の外国語)を学ぶ。大学入試でもこ の二種言語が一般的である。しかし、中国は漢民族以外

55

の少数民族があり、それぞれ の民族が自民族の言語で大学の試験を受けることができる。また、その場合、総合得点に

10

点を加点している。55の少数民族の中には、自民族の言語を失っている民族、或は文 字を持っていない民族もあり、漢族と同じ学校で漢語を学校教育で学んでいる少数民族も いる。朝鮮族、ウイグル族、チベット族、モンゴル族が主に自民族言語で自民族独自の学 校で民族教育を行っている。

 延辺朝鮮族は民族教育を行うことにおいて、先ず、自民族の言語を学ぶことを最大の基 本とする。朝鮮語が話せない場合は、朝鮮族はほんとうの朝鮮族として認めることがな く、「偽朝鮮族」と言われるほどである31)。延辺朝鮮族自治州共青団書記として赴任した 朝鮮族が朝鮮語を話せないため、彼に半年で、朝鮮語を修得するよう任務を与えたとの話 がある。朝鮮語が話せない朝鮮族の指導者は延辺朝鮮族は受け入れない。延辺朝鮮族自治 州の朝鮮族が学校教育で朝鮮語を先行しているから中国の朝鮮族の共同体が維持できると 言える。

 延辺朝鮮族の自民族言語である朝鮮語に対する意識は高く、民族教育の特色は先ずは自 民族言語を学ぶことであり、自民族言語、文字を失った民族は民族としてのアイデンティ ティを失うと認識している。他の民族の場合「学校教育において民族教育を行うことはま ずはない。中国の少数民族が集まった会議で、雲南省の白族、回族が来ていたが、みな漢 語を使っていた。これでは民族教育とは言えない。本当の民族教育をしているのは、延辺

29) 許青善・姜永徳・朴泰洙・前掲(注7)118頁。

30) 朴今海(延辺大学民族教育研究所所長)への聞き取り調査(2010921日)。

31) 朴文一(延辺大学元学長)への聞き取り調査による(200998日)。

(18)

朝鮮族自治州、新疆のウイグル自治区、内モンゴル自治区、チベット自治区で、その他の 民族は民族教育と言えるものはなかった。」32)と延辺第一中学校校長は語った。中国には 現在延辺朝鮮族自治州と同じ規模の少数民族自治州が

30

ある。延辺朝鮮族自治州では朝 鮮族の教育が発展して有名だが、回族の場合イスラーム教で民族のアイデンティティを保 っている。例えば、甘粛省臨夏回族自治州は人口の半分は回族で、中国でもっともイスラ ーム教育がさかんな場所の一つである33)

 中国で生活するには漢語の修得が必須である。朝鮮族は現在二重言語教育を行い、幼稚 園から朝鮮語と漢語二重言語教育を強化している。現在龍井実験小学校などの都市部の小 学校では、漢語で授業を行うクラスも実験的に行っている。実際にそれは朝鮮族の学生が 漢族の学校に通うのと同じであるため、別途朝鮮語を教えなければならない。このような 実験は延辺では文化大革命の間も小学校で漢族と朝鮮族が同じクラスで、同じ漢語教材を 漢語で学ぶ実験をしたが、全面的に普及したことはなく、廃止されたことがある。延辺朝 鮮族は「幼稚園から朝鮮語と漢語を学ぶため、中国社会での適応は言語による障害はまっ たくない」34)と認識されている。朝鮮族は現在朝鮮語・漢語・英語の

3

つの言語を学んで いる。

 3種言語に加えて、朝鮮族は多言語教育として、現在日本語教育も一部行っている。延 辺第一中学校、瀋陽第一中学校では、大学入試を終えた学生を対象に短期間の第二外国語 として日本語教育を行い、学生が将来日本語を勉強する為の基礎知識を教えている。延辺 の朝鮮族の高校では

1990

年ごろまでは日本語を教える学校がほとんどであったが、現在 は英語一辺倒である。延辺朝鮮族自治州内では

1980

年代中学校の外国語は英語が

0%で、

日本語が

100

%であった35)が、

2000

年以降になると

35

%になり、

2010

年現在ほぼ英語だ けを外国語として学ぶ。中国の各大学が英語を先行し、日本語を外国語とする受験生は志 望する大学へ入学できなくなり、大学の共通外国語は英語であるからである。

 しかし、アジアにおいて日本は重要な国であり、日本と中国の多方面の交流が多い中、

日本語を学ぶのは必要であると認識し、いま朝鮮族の高校で少しずつ英語の他、日本語を 履修するように学生を誘導している。こうすることによって漢族より多い

4

種の言語を学 ぶことになり、学生の将来の発展の可能性の幅を広めている。

 延辺大学36)は現在学生の

30%が朝鮮族でその他の民族の学生が 70%である。中国の 100

の重点大学の一つである。延辺大学が教育特色として掲げるのが、多元文化である。

32) 郭哲洙・前掲(注24)。

33) 松本ますみ『イスラームへの回帰 中国のムスリマたち』(山川出版社、2010年)20頁。

34) 郭哲洙・前掲(注24)。

35) 許青善・姜永徳・朴泰洙(注7)291頁。

36) 拙著(著者名金美花)・前掲(注3)345頁(延辺大学は194941日設立、設立初期は、学

生、教職のほぼ全員が朝鮮族であった)。

(19)

多元的言語教育を提唱し、大学の特徴として掲げ、現在カナダの教育経験を元に模索して いるところである。延辺大学主催の朝鮮語作文大会には数千人の朝鮮語学習者が参加して いる。

(6)延辺第一中学校の民族教育対策の実践

 延辺朝鮮族の地域人口比は現在

37%であるが、大学進学率は漢族その他の民族より高

い。大学入学率はその学校教育の運営に直接関わっている。父母の教育要求はまずは、子 どもの大学進学である。もし高校の大学進学率が低かった場合それは直接朝鮮族の学生募 集に大きな影響を及ぼし、学校の存続に影響を及ぼしている。

 人口移動によって、朝鮮族小中学校は減少したが、もう一方では、学校教育はさらに強 化され、名門校も現れた。延辺第一中学校は延辺朝鮮族自治州の延吉市にある朝鮮族高校 で中国朝鮮族高校のなかで首位の進学校である。延辺第一中学校は現在学生が

2726

人で ある。延辺第一中学校は国家教育部が選定した全国

20

所重点小中学校の一つである。

1982

年全国数学リーグ戦(吉林省試合区)に参加して以来、受賞者の延べ人数は

612

で、

個人が優勝したのは

7

名で、8回団体(1991年開設)優勝をした。学校は国家数学オリン ピック委員会に「希望聯誼協会九所成員校」の一つに任命された37)

 延辺第一中学校は、

2007

年から今年まで連続

4

年吉林省文系大学入試最高得点(少数 民族言語受験生の

10

点加点なしの点数)受験生を出している。毎年、北京大学、清華大 学に入学する学生を出し、

90

%以上の学生が大学に進学している。

 大学進学率が高いため、在学生の人数も多い。現在一学年が

16

クラス、2学年が

16

ク ラス、

3

学年が

17

クラスで、教職員が

189

名(教職員の中には漢族の教員数名含む)。

3

種の言語教育において、朝鮮語を授業用語とするが、漢語は漢語課で、英語は英語課で授 業用語とする。朝鮮語と漢語はそれぞれ毎日一時間授業する。

 延辺第一中学校の学校運営目標と教育目標は「民族のエリートを育てる基地、全国一流 の名門高校、現代化したモデル学校」を運営し、学生を「抜きんでた民族人、優秀な中華 人、開放的な世界人」に培養することである。教育目標に関して校長はつぎのように話し た。「先ず「民族人」にならなければならない。それから中華民族になる。私たちの少数 民族のなかから優秀な人材が輩出しなければならない。自分の民族に対する誇りを持ち、

民族学校として民族特殊性を持たなければ民族学校とは言えない。民族学校の最大の特徴 は言語と文字である。朝鮮語がなければそれは民族特色がなくなり、民族学校ではない。

回族は民族学校と言うが、自民族文字を学ばないので、どうして民族学校と言えるだろ う。」38)このように朝鮮族のアイデンティティは朝鮮語と結びついていると考える。回族

37) 許青善・姜永徳・前掲(注1)283頁。

38) 郭哲洙・前掲(注24)。

(20)

の学校教育言語は漢語だが、宗教をもって回族の民族アイデンティティを保持している が、朝鮮族の民族教育は朝鮮語をもって民族アイデンティティを保持している。

 2010年まで連続

4

年間、吉林省の大学受験者の文系総合得点者(少数民族加点

10

点な しの総合点数)が、延辺第一中学校から出たことからも延辺第一中学校の教育の努力が大 きいことが言える。延辺第一中学校校長は優秀な学生を育てるには「先ずは学生本人の努 力と素質が重要で、次に教師たちの努力である、家族の協力も重要である。」と語った。

延辺第一中学校では教師が次のような工夫をしている。教員は成績が特に優秀な学生に対 して課外補習を別途行う。1年生から

3

年生までの間、心理教育、カウンセリングを行っ て、彼らが大学試験当日試験場に入って自分の能力を充分発揮できるように心理的ケアを している。また、延辺大学の教授を招き、学校独自の心理教育を行う。父母会義も開催し て、それぞれの学生の状況に基づいて父母と一緒になって解決するようにする。また、一 人親家庭や父母が韓国へ出稼ぎに行った留守子どもを対象にきめ細やかな心のケアを行っ ている。

 民族意識の教育として、延辺第一中学校では、『中国朝鮮族民族歴史』、『延辺郷土地 理』、『朝鮮族礼儀礼節』等の「校本課程」(学校独自で行う科目)を開発し、学生の民族 意識を高め知識を広める為の更なる空間を提供している。延辺第一中学校の「校本課程」

課では、「朝鮮語を教える教師が、『朝鮮族礼儀礼節』を教え、地理を教える教師は『延辺 郷土地理』として教え、歴史を教える教師が『中国朝鮮族民族歴史』を担当して朝鮮人が 移民して延辺を開拓した歴史、抗日運動、解放戦争、朝鮮戦争での朝鮮族の貢献を教えて いる。教材は教師の手作り教材を使っているが、現在教材を編纂しているところであ る39)

 延辺第一中学校には入学希望者が多く、毎年学生の定員を超えている。延辺各中学校卒 業生は試験を受けて高い点数をとった学生が入学できる。学費は別名「学雑費」と呼ばれ ており一年に

900

元だが、点数が足りない受験生は募集定員の

30%範囲内で募集し、こ

れらの学生は一年に「学雑費」を

1

8000

元納入することになる。もともとはこのよう なことは出来ないが、政府は教育経費が少ないため、このような政策をして学校を運営す るようにしている。このような学生を「公弁民助生」(国が経営する学校の自費生)と言 う。一浪、二浪の学生も

2

倍の「学雑費」を支払って入学する。延辺第一中学校の

1

8000

元の「学雑費」は、延辺の一般農民の年収の数倍にもなる。朝鮮族は子どもの教育 のためには高い「学雑費」を支払ってもできれば延辺第一中学校へ入学させ、大学へ進学 させたいのが一般の親の希望である。

39) 郭哲洙・前掲(注24)。

参照

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