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社会階層と地位達成志向 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)社会階層と地位達成志向―権威主義とネットワークの視点から― キーワード:社会階層、地位達成志向、パーソナルネットワーク、権威主義 発達・社会システム専攻 田中 朗. 1.はじめに 戦後、日本は急速な経済成長を遂げた。そしてその結果 あらわれた「豊かな社会」は人々に多大なる恩恵をもたら. 70 60. し、 「金持ち」でなくても飢えに苦しむことはないし、ほと んどの人々は自分の趣味を楽しめるだけのお金を持てるよ うになった。. 50 40. このような中、学歴に対する信仰が一見強く見られる一 方で、 「金持ちになりたい」 「高い地位につきたい」などの. 30. 地位達成欲求は人々のなかで弛緩してきている、というよ うにマスコミだけなく研究者の間でも論じられるようにな ってきた。. 物の 豊か さ. 20. 心の 豊か さ. 10. しかしながら今日からは想像もつかないかもしれないが、 は『成功』という雑誌まで刊行され、 「出世希望号」 「成功. 0. 19 72 年 19 75 年 19 78 年 19 81 年 19 84 年 19 87 年 19 90 年 19 93 年 19 96 年 19 99 年. 戦前の日本では立身出世が美徳とされていた。明治時代に 美談」という特集が当時の大衆紙『少年倶楽部』 『キング』 の表紙を飾っていた。それがつい 100 年あまり前の日本だ ったのである。. 図 1 「物の豊かさ」と「心の豊かさ」 「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊. このような人々の地位達成意欲が現代日本社会において. かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」 「ま. どのような様相を帯びているのかを明らかにすることが、. だまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきた. 本稿の中心課題である。. い」. 2.日本社会の変動と地位達成意欲の変遷. を聞いている。そして結果を見れば、それらを「重要だ」. 人々の生活が豊かになるにつれて、彼らの価値観にも変. と考えている者は、そうでない、つまり「重要でない」と. 化が見られるようになった。図 1 は「物の豊かさ」と「心. 考えている者を大きく下回っている。特に「勲章」 「有名」. の豊かさ」のどちらを重視したいかということについて聞. 「高い地位」の非重視率は 87%、78%、65%と断然高く. いたものである(国民生活に関する世論調査より)。. なっている。. 図を見ると、人々の重視するものが大きく変化している. 一方その 8 年前(1965 年)に行われた調査では、出世を人. ことがわかる。調査開始当時は約 40%と同じくらい重視さ. 生の重要ごととする人は半数を超えて 55%であった。この. れていた「心の豊かさ」と「物の豊かさ」であるが、その. 結果を受けて、門脇は「ここ 10 年ほどの間(1960 年代半ば. 後は「心の豊かさ」がますます重視されていく一方で、 「物. ∼70 年代半ば)に、人びとが人生において出世を重要なこ. の豊かさ」を重視する人々の割合は減少し続け、1999 年に. とと考えなくなった風潮は急速に進行した」と結論付けて. はその比率は 7:3 にまで変化している。. いる。. 他の世論調査の結果を見ても、人々の地位達成志向がい. 日本ではちょうどこの時期、高度経済成長がおこり人々. くらか減退していっていることがわかる。このような地位. の生活水準は大幅に向上した。それは人々の意識にも如実. 達成志向が具体的にどの時期に減退していったのかについ. にあらわれている。図 2 は「お宅の生活程度は、世間一般. ては、門脇(1978)が論じている。門脇は 1973 年に行われ. からみて、上、中の上、中の中、中の下、下のどれに入る. た調査で、 「高い地位」 「高い収入」 「勲章をもらう」 「有名. と思いますか」(国民生活に関する世論調査より)という質. になる」 「競争に勝つ」ことをどのくらい重視するか. 問について、1960 年から 20 年間の推移を示したものであ.

(2) る(上については非常に値が少ないので省略している)。図. だが、最近になってこの前提に懐疑を唱える論文が多く. を見ると、1960 年から 1975 年の 15 年の間に「中の中」. 見られるようになった。佐藤(1994)はその代表である。現. が約 20%増加していることが分かる。そしてその一方で、. 実的に考えて、全ての人が高い地位を目指しているとは考. 「中の下」が 10%ほど減少している。このような階層帰属. えにくい。また、その地位達成欲求も同一であるとも考え. 意識がどのような事象を捉えているのかについては様々な. にくい。. 論があるが、よく論じられるようにそれが人びとの「暮ら. このような状況の中で、地位達成志向に目を向けること. し向き」を捉えているとするならば、高度経済成長の間に. は重要であると思われる。よって、本稿では地位達成志向. 人々の暮らし向きは全体的に大きく向上したことがわかる。. がどのような要因から影響を受けているのかを分析する。. つまり、門脇が論じるようなこの時期における地位達成意 欲の減退は、高度経済成長によって人々の生活が豊かにな. 4.先行研究. ったことが原因であると考えられる。そして高度経済成長. 地位達成志向に関する先行研究はそれほど多くはなく、. 後は、地位達成意欲は急速に変化することもなく、徐々に. 地位達成志向と似たような概念としての、 「アスピレーショ. 漸減していっている、これが事実のように思われる。. ン」に関する研究のほうが多くある。よって、ここではア スピレーション研究のほうから参考にする。 アスピレーションの先駆的な研究としては、Sewell ら. 70. (1969)の「ウィスコンシン・モデル」があげられる。彼ら はアスピレーションを、Blau・Duncan らの地位達成モデ. 60. ルを発展させる「道具」のひとつ、という観点から導入し た。具体的に言うならば、 「親の職業あるいは学歴→教育年. 50. 数」の間に教育アスピレーションが、 「親の職業あるいは学 中の上 中の中 中の下 下. 40 30. 歴→本人初職」の間に職業アスピレーションが媒介するの ではないかと彼らは考えたのである。 Sewell らのつくったモデルは、対象としたサンプルがウ ィスコンシン州の高校生であったことから「ウィスコンシ. 20. ン・モデル」と呼ばれている。この研究がその後のアスピ 10 0 1960. レーション研究に影響を与えた点として、主に 2 つをあげ ることができる。 1965. 1970. 1975. 1980. まず、アスピレーションを測る道具として、 「教育アスピ レーション」と「職業アスピレーション」を用いたことで. 図 2 階層帰属意識. ある。このような形で測定した「アスピレーション」の尺 度は、 その後の研究においても大いに使われることとなる。. 3.地位達成志向研究の視点 社会学の分野では、社会階層論において地位達成志向は. その点で、彼らのモデルはアスピレーション研究の中で先 駆的であった。. 研究対象として扱われてきた。しかしながら地位達成志向. また、彼らの研究にはもう 1 つ、注目する点がある。彼. に関わる研究の量・質は、個人あるいは親子間の社会的地. らは Blau・Duncan の地位達成モデルに「心理的な要因」. 位の移動を分析する社会移動の分析に比べると、かなり劣. を導入することによって発展させることを試みているので. るものであった。. あるが、この「心理的な要因」は 3 つある。ひとつはアス. その理由は、社会階層論の中心テーマが、近代化が階層 間の不平等にどのような影響を与えるのかを検証すること. ピレーション、そして次に学力、最後の 1 つが「重要な他 者(significant others)」と呼ばれるものの効果である。. にあったからである。このような社会のマクロな構造に目. 彼らは高校生の教育・職業達成を媒介するものとして教. を向けていたので、ミクロな個人の地位達成意欲は軽視さ. 育・職業アスピレーションを捉えていたのだが、 「アスピレ. れてきたのである。それでは社会移動の分析において各個. ーションがどのように生成されるのか」についても関心を. 人の地位達成意欲はどのように捉えられていたかというと、. 払っていた。そこで彼らが考えたものが、 「重要な他者」で. 「すべての個人は高い地位を目指す」という単純な前提が. あった。ここでいう「重要な他者」とは合成変数であり、. 置かれているに過ぎなかった。. 「彼(青年)に大変大きな影響を与える人」と定義されて.

(3) いる。具体的には、教師や親、友人がそれに当てはまり、. 族構造の道徳や、 「教育勅語」によって存在を与えられた権. 親や教師から大学へ進学するよう動機付けられたとか、大. 威主義的な儒教道徳の意識が、日本の軍国主義に大きく影. 学へ進学する友人から刺激を受けたかどうか、などで彼ら. 響を与えたと考えた。. の影響を測定している。 そして分析した結果、 「重要な他者」. このような仮設を踏まえて彼らは、本質的に権威主義的. は教育・職業アスピレーションに大きく影響を与えること. であった伝統的価値体系への志向を態度測定尺度で測定す. が明らかになっている。このようにアスピレーション研究. るために、Adorno らの権威主義的性格を構成する尺度に. としてだけでなく、そこにネットワークの観点を備えてい. 日本独特の伝統的態度の要素を組み入れ、両者が一貫した. るということでも先駆的なのである。. 態度の次元を構成していることを発見した。そしてそのよ. しかしながらアスピレーションは高校生を対象としたも のでは研究が数多く見られるが、いったん定職に就いた成. うに測定された「権威主義的伝統主義」は、労働者階級で 値が高いことを明らかにしている。. 人を対象にした研究はほとんどない。そのような中で、日. だが彼らの研究以降、権威主義に関する研究はあまりな. 本における SSM(社会階層と社会移動)調査研究では、 「高. かった。代わりに政治学において主要な課題とされてきた. い地位につくこと」などを「重要だ」というような、個人. のは、日本版権威主義のひとつの側面である「伝統主義」. の地位達成志向に焦点を当ててきた。片瀬・友枝(1990)な. であった。綿貫(1976)は 1950 年代の日本の投票行動につ. どの研究によれば、このような地位達成志向は本人の職業. いて、社会経済上の地位よりも「伝統的価値」対「反伝統. や教育年数、年齢などによって影響を受けると考えられて. 的価値」という価値対立が強く影響を及ぼす「文化政治」. いる。. (cultural politics)の理論を唱えた。 「文化政治」が意味する. 本稿ではこれらの先行研究をもとにして、地位達成志向. のは、 「政治的対立の本質に影響を与えるのが、経済や身分. がどのような要因から影響を受けているのかを見ていきた. の分裂・相違などではなく、価値体系の相違からくる分裂」. い。そこで用いる説明要因の一つは、アスピレーションで. だということである。. 見られたようなネットワークである。そしてもう一つは、 権威主義を用いる。. また、綿貫(1986)はこのような「伝統―近 代」と、 Inglehart(1990)の指摘する「工業価値」(物質的価値)と「脱 工業的価値」(脱物質的価値)という対立軸を考慮に入れて. 5.権威主義. 分析している。彼の分析によれば、 「長となっている人の意. Fromm(1941)はナチズムの信仰者であった自営業主な. 見を尊重する」 「すぐれた政治家へ委任する」 「議員や知事. どの低中間階級の中に、権威をたたえそれに服従しようと. に対して尊厳を持つべき」などという伝統や権威に基づい. すると同時に、自ら権威であろうと願い、他の者を服従さ. た意識と、 「科学技術は環境保全と経済成長を両立させる」. せたいと願っている性格が見られたことを発見した。. という科学技術に信頼を置く工業価値とが因子分析の結果. Fromm はナチズムの大衆的な基盤をこのような人々の社. 同一次元上に現れ、日本における伝統的価値と工業的価値. 会的性格(ある集団のほとんどの成員が持っている性格構. が融合していることを明らかにしている。. 造の本質的中核であり、その集団に共通な基本的諸経験や. これまで、地位達成志向と権威主義との関係を分析した. 生活様式の結果として発達したもの)に求め、この性格を権. 研究は見当たらない。だが社会階層そのものが「権威」差. 威主義的性格と呼んだ。. を伴っており、また権威主義が伝統主義という社会変動論. その後、権威主義はアドルノらによってさらに理論的に. 的な観点を持っていることを考えると、それと地位達成志. 精緻化され、 一部の社会集団にのみ見られる性格ではなく、. 向との関係を見ていくことはあながち見当違いではない。. 広く大衆に見られる心理であるということが強調された。. よって本稿では地位達成志向を分析するにあたって権威主. 一方日本でも、アドルノらの研究に感化されるように権威. 義的性格を用いることとする。. 主義の研究が行われ、城戸・杉(1954)らの研究が権威主義 的性格の先駆的な研究として挙げられる。. 6.分析. 彼らは、Fromm や Adorno らの研究を参考にしながら. 使用するデータは、1995 年 SSM 調査データである。95. も、彼らの研究知見をそのまま日本に適用することの限界. 年 SSM 調査では、地位達成志向は「社会的評価の高い職. 性も感じていた。そこで彼らは、 「戦前の日本ファシズムの. 業につくこと」 「高い収入を得ること」 「高い学歴を得る. 運動を展望してみると(中略)それはたんなる伝統的イデオ. こと」 「多くの財産を所有すること」 「高い地位につくこと」. ロギーの焼き直しに過ぎなかったことは容易に認めうる」. をそれぞれ「重要である」 「やや重要である」 「あまり重要. としたうえで、武士階級を中心とする身分的な家父長的家. ではない」 「重要ではない」の 4 ランクで測定している。 「重.

(4) 要である」を 4 点∼「重要でない」1 点として点数化する。. 主義(伝統主義)→地位達成志向という経路が弱まっていく. ネットワークは、菅野(1998)にならって、各個人が友人か. 一方で、教育→地位達成志向という経路が優勢になってい. 親戚としての親交を持っている職業の者を職業威信スコア. くことが予想される。. で得点化し、各個人が親交を持っている職業の威信の高さ (平均職業威信スコア)と、どれくらい様々な職業の者と親 交を持っているか(職業威信スコアの標準偏差)の二つのか. 文献. たちで測定する。権威主義は「権威のある人には常に敬意. Fromm, Erich., 1941, Escape from Freedom, New York:. を払わなければならない」 「以前からなされてきたやり方を. Rinehart.(=1951 日高六郎訳『自由からの逃走』東京. 守ることが、最上の結果を生む」 「伝統や慣習に従ったやり. 創元社.). 方に疑問を持つ人は、 結局は問題を引き起こすことになる」. 片瀬一男・友枝敏雄, 1990, 「価値意識」原純輔編『現代. 「この複雑な世の中で何をなすべきかを知る一番良い方法. 日本の階層構造 2 階層意識の動態』東京大学出版会,. は、指導者や専門家に頼ることである」(「そう思う(5 点)」. 125-147.. ∼「どちらともいえない(3 点)」∼「そう思わない(1 点)」. Inglehart,Ronald., 1990, Culture Shift in Advanced. の5ランク)の4つについて確証的因子分析を行って抽出し. Industrial Society, Princeton : Princeton University. た因子得点を用いる。ほかに、本人の年齢、教育年数、本. Press(=1993 村山晧司・富沢克・武重雅文訳『カルチ. 人の職業威信スコアを説明変数として用いた。. ャーシフトと政治変動』東洋経済新報社.). 重回帰分析の結果、ネットワークはほとんど効果を持た なかったが、権威主義が地位達成志向を示す全ての項目に. 門脇厚司, 1978, 『現代の出世観』日本経済新聞社. 城戸浩太郎・杉政孝, 1954, 「社会意識の構造―東京都に. 有意な効果を持っていることが明らかになった。権威主義. おける社会的成層と社会意識の調査研究(三)」 『社会学. 自体の因果関係も考慮するためにパス解析を行なうと、教. 評論』4(1・2) :74-100.. 育年数と権威主義が地位達成志向に正の効果を持っている 一方で、 権威主義自体に教育年数は負の効果を持つという、 地位達成志向の変わった様相が明らかになった。 権威主義と地位達成志向の結びつきは、権威主義自体が 上昇志向を内包しているということ以外に、伝統主義との 結びつきからも解釈できる。明治以降以降、日本では立身. 佐藤俊樹, 1994, 「世代間移動における供給側要因」 『理論 と方法』9(2): 171-186. 菅野剛, 1998, 「社会階層と社会的ネットワーク――地位 の非一貫性と社会移動の効果」 『年報人間科学』Vol.19 pp101-113 Sewell, William. H., Archibald O. Haller and Alejandro. 出世は美徳とされ、戦前には出世を奨励する姿勢が見られ. Portes. 1969, “The Educational and Early. た。つまり、伝統的価値観と上昇(出世)志向は密接な関係. Occupational Attainment Process” American. があるのである。. Sociological Review 34:82-92.. そしてミクロな個人レベルでの「高い地位につきたい」. 綿貫譲治, 1986,「社会構造と価値対立」綿貫譲治・三宅一. などという地位達成志向は、マクロな社会レベルでの産業. 郎・猪口孝・蒲島郁夫編「日本人の選挙行動」東京大. 化および経済発展に結びつく。要するに地位達成志向は、. 学出版会, 17-53.. 産業化の段階において優勢な価値態度なのである。そして 綿貫が論じたような、日本における伝統的価値と工業的価 値の結びつきは、地位達成志向をひとつの接合点として考 えることができるのである。 以上のように地位達成志向と権威主義の関係を捉えれば、 権威主義→地位達成志向の結びつきはこれまでの日本の近 代化を支えた経路として考えることができる。 そして教育→地位達成志向という経路は、高い教育水準 を受けた個人が意欲を持って地位達成に望む経路をあらわ している。今後は伝統的イデオロギーが減少していく一方 で、新自由主義やグローバリゼーションなど競争を助長す るような風潮が青年のアスピレーションに火をつける可能 性が考えられる。そのようなことを考えれば、今後は権威.

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