830 感 染 症 学雑 誌 第61巻 第7号
感 染 性 腸 炎 に 対 す るNorfloxacin
(NFLX)とPipemidic
acid(PPA)の
二 重 盲 検 法 に よ る治 療 効 果 の 検 討
Norfloxacin感 染 性 腸炎 研 究 班(代 表 世 話 人:青 木 隆一) 大 阪市立 桃 山病 院感染 症 セ ンタ ー 青 木 隆 一*) 東京 都立 荏原 病院 清 水 長 世*) 市 立札 幌病 院南 ケ丘 分院 冨 沢 功 滝 沢 慶 彦 東 京都 立豊 島病 院 松 原 義 雄*)瀬 尾 威 久 相 楽 裕 子 田川 漢 子1) 東 京都 立駒 込病 院 増 田 剛 太*)根 岸 昌功 楊 振 典 東 京都 立墨 東病 院 今 川 八 束*)村 田 美 紗 子2) 東 京都 立荏 原病 院 山 口 剛 辻 正 周 細 谷 純 一 郎 川崎 市立 川崎病 院 藤 森 一 平 小 林 芳 夫*) 横浜 市万 治病 院 星 野 重 二 名古 屋市 立東 市民 病院 天 野 冨 貴 子 中 村 千 衣 村 元 章 京 都市 立 病院 小 林 祥 男 今 井 千 尋 金 龍 起 大阪市 立桃 山病 院感 染症 セ ンタ ー 赤 尾 満*) 神戸 市立 中央 市民 病院 角 田 沖 介3)藤 堂 彰 男 藤 見 勝 彦 平 佐 昌 弘 長 谷 川 幹 広 島市 立 舟入病 院 相 坂 忠 一 新 美 正 信 竹 本 雅 雄 三 上 素 子 北九 州市 立朝 日ヶ丘病 院 松 尾 利 子 昭和 大学 医 学部 斎 藤 誠*) 東 京医 科歯 科大 学医 学部 中 谷 林 太 郎*)後 藤 延 一 堀 内 三 吉 岡 村 登 稲 垣 好 雄 小 沢 加 代 子 コン トロー ラー:東 京 大学 医科 学研 究所 竹 田 美 文 *:小 委 員 会 メ ン バ ー 1)現:東 京女 子 医 科大 学 2)現:東 京都 衛 生 局 防疫 結 核 課 3)現:神 戸逓 信 病 院 (昭和62年1月13日 受付) (昭和62年2月2日 受理)Key words: Norfloxacin (NFLX), Infectious enteritis, Double-blind method
要 旨
ニ ュ ー キ ノ ロ ン系 抗 菌 剤Norfloxacin(NFLX)の 感 染 性 腸 炎(細 菌 性 赤 痢,カ ン ピ ロバ ク タ ー 腸 炎, 病 原 大 腸 菌 腸 炎 な ど)に 対 す る有 効 性,安 全 性 お よび 有 用 性 を 客 観 的 に 評 価 す る 目的 で,pipemidic acid 別 刷 請 求先:(〒145)大 田区 東 雪 ヶ谷4-5-10
(PPA)を 対 照 薬 とす る二 重 盲 検 法 に よ り比 較 検 討 した. 投 与 量 はNFLX1日600mg,PPA1日2,000mgで,投 与 期 間 は5日 間 と した. 総 投 与 例 数 は227例 で,除 外 ・脱 落 を 除 くNFLX投 与 群80例,PPA投 与 群79例 の 計159例 が 効 果 判 定 対 象 と さ れ た. 患 者 背 景 因 子,ま た は 分 離 菌 に 対 す るNFLX,PPAのMIC分 布 で は 両 群 間 に 有 意 差 は 認 め ら れ ず, 両 群 の 比 較 評 価 は 可 能 で あ った. 薬 剤 投 与 開 始 時 に 症 状 の あ っ た79例 の 主 治 医 に よ る臨 床 効 果 の有 効 率 はNFLX投 与 群100%,PPA投 与 群92.7%で,有 意 差 は 認 め な か った.ま た 解 熱,血 便 消 失,排 便 回 数 の減 少,便 性 回 復 に要 す る 日数 な どの 対 症 状 効 果 に お い て も両 群 間 に 有 意 差 は 認 め な か った. 保 菌 者 を 含 む143例 の 対 排 菌 効 果 の有 効 率 はNFLX投 与 群97.2%,PPA投 与 群85.9%でNFLX投 与 群 が 有 意 に 優 った.こ れ はShigellaに 対 す る有 効 率(100%,88.9%)を 反 映 した 結 果 で あ っ た. 主 治 医 に よ る 有 用 性 評 価 は159例 に つ い て 行 わ れ,NFLX投 与 群 が 有 意 に 優 った.細 菌 性 赤 痢 に お け る 有 用 性 評 価(NFLX投 与 群100%,PPA投 与 群86.0%)が 反 映 した 結 果 で あ っ た. 副 作 用 は1例 も認 め られ な か っ た. 臨 床 検 査 値 異 常 はNFLX投 与 群 に11例,PPA投 与 群 に7例 認 め られ た が い ず れ も軽 微 の もの で あ っ た. 以 上 の 成 績 か らNFLXは,細 菌 性 赤 痢 を 始 め とす る 感 染 性 腸 炎 に 対 し,満 足 す べ き臨 床 成 績 を 認 め た の で,臨 床 に応 用 す べ き価 値 の あ る薬 剤 と判 定 さ れ た. は じめ に Norfloxacin(NFLX:AM715)は 杏 林 製 薬 株 式 会 社 に て 開 発 され た ニ ュ ー キ ノ ロ ン系 抗 菌 剤 で,グ ラ ム陰 性 菌 の み な らず グ ラ ム陽 性 菌 に対 し て も 強 い 抗 菌 力 を 示 す こ と が 確 認 さ れ て い る1)∼3).化学 構 造 式 をFig.1に 示 す. 各 種 腸 管 感 染 症 に 対 す る本 剤 の 治 療 成 績 に 関 し て,我 々 は 一 般 臨 床 試 験 に て細 菌 性 赤 痢,カ ン ピ ロバ ク タ ー腸 炎 な ど の 感 染 性 腸 炎 に 本 剤 を1日 600mg経 口投 与 し,対 排 菌 効 果 の 有 効 率 は 細 菌 性 赤 痢98.8%,カ ン ピ ロバ ク タ ー腸 炎80.0%,病 原
Fig. 1 Chemical structure
Norfloxacin (NFLX)
Pipemidic acid (PPA)
大 腸 菌 腸 炎100.0%,サ ル モ ネ ラ腸 炎73.3%で あ り,臨 床 効 果 は いず れ も100%の 有 効 率 を 得 た4). 今 回 我 々 は,細 菌 性 赤 痢,カ ン ピ ロバ ク タ ー 腸 炎,病 原 大 腸 菌腸 炎 な どの感 染 性 腸 炎 に対 す る 本 剤 の 有 効 性,安 全 性 な らび に 有 用 性 を 客 観 的 に評 価 す る 目的 で,pipemidic acid(PPA)を 対 照 薬 と して 二 重 盲 検 法 に よ り比 較 検 討 した.対 照 薬 と してPPAを 選 択 した 理 由 はPPAがNFLXと 同 系 統 の 抗 菌 剤 で あ る こ と,細 菌 性 赤 痢 を 始 め とす る感 染 性 腸 炎 に対 して 適 応 が 認 め られ,感 染 性 腸 炎 に広 く使 用 され て お り,か つ そ の評 価 検 討 が 十 分 な され て い る こ とか ら5)6),最も適 切 で あ る と判 断 し選 択 した. 試 験 方 法 1. 対 象 1985年3月 か ら1986年9月 まで に前 掲 の 研 究 班 に参 加 す る都 市 立13病 院 に 主 と し て 入 院 した15歳 以 上 の 細 菌 性 赤 痢,カ ン ピ ロバ ク タ ー腸 炎,病 原 大 腸 菌 腸 炎 な どの 感 染 性 腸 炎(腸 炎 ビブ リオ 腸 炎, サ ル モ ネ ラ腸 炎 は 除 く)の 患 者 お よび 保 菌 者 で, 薬 剤 投 与 開 始 時 に 菌 が 陽 性 の 症 例 を対 象 と した. な お,薬 剤 投 与 開 始 時 菌 陰 性 で 投 与 開 始 以 後 菌 陽 性 とな った 症 例,投 薬 開 始 以 前 に は菌 陽 性 で,投
832 感 染 症 学 雑誌 第61巻 第7号 薬 開 始 以後 菌 陰 性 で あ った が,赤 痢 な どの 症 状 の 持 続 して い た 患 者 に つ い て も対 象 と した. な お,次 の症 例 は 対 象 か ら除 外 す る こ と と した. 1) 極 め て重 篤 な症 例 2) 重 篤 また は 進 行 性 の 基 礎 疾 患 ・合 併 症 を 有 し,投 与 薬 剤 の有 効 性 ・安 全 性 の 判 定 が 困 難 な症 例. 3) 本 剤 投 与 直 前 に他 の 抗 菌 剤 が 投 与 され,経 過 に そ の 影 響 が お よぶ と判 断 され る症 例 4) 本 試 験 直 前 の 治 療 でNFLXま た は そ の 他 の キ ノ ロン系 薬 剤(NA,PPA,OFLX,ENXな ど)が 投 与 され た 症 例 5) キ ノ ロ ン系 薬 剤 に 対 す る ア レル ギ ー既 往 の あ る症 例 6) 重 篤 な腎 お よび 肝 障 害 の あ る症 例 7) 妊 婦 お よび 授 乳 中 の症 例 8) そ の他,主 治 医 が不 適 当 と認 め た 症 例 本 試 験 の 開 始 に あ た って は,各 施 設 の実 情 に 合 わ せ た 方 法 で 患 者 あ るい は保 護 者 の 同意 を得 た. 2. 投 与 薬 剤 投 与 薬 剤 は,次 の2組 の 薬剤 で あ る(Fig.2) 試 験 薬 剤:毎 食 後 投 与 分 と し てNFLX100mg 含 有 の 錠 剤2錠 とPPA錠 剤 と外 観 上 全 く同 じ プ ラセ ボの 錠 剤2錠 の 計4錠 を1包 とす る3回 分, お よ び 就 寝 前 服 用 分 と し てNFLX錠 お よ び PPA錠 剤 と外 観 上 全 く同 じ プ ラ セ ボ の 錠 剤4錠 を1日 分1セ ッ トと した. 対 照 薬 剤:毎 食 後 投 与 分 と してPPA250mg含 有 の錠 剤2錠 とNFLX錠 剤 と外 観 上 全 く同 じ プ ラセ ボ の錠 剤2錠 の 計4錠 を1包 とす る3回 分, お よび 就 寝 前 服 用 分 と し てNFLXの プ ラ セ ボ錠 2錠 とPPA250mg含 有 の錠 剤2錠 の 計4錠 を1 日分1セ ッ トと した. な お,試 験 薬剤 お よ び対 照 薬 剤 の識 別 不 能 性 に つ い て は コン トロ ー ラー に よ り保 証 され た.薬 剤 の 割 り付 け は コ ン トロー ラ ー に よ り実 施 され た. す な わ ち4症 例 分 を1組 と し,5日 分(20包)を 1箱 に 収 め1症 例 分 と し た.ま た 各 々 の 包 に は No.1∼No.20の 番 号 を 付 し,No.4,8,12,16, 20の 包 に はNFLXの プ ラ セ ボ 錠2錠 とPPA錠 2錠(実 薬 また は プ ラセ ボ錠 の い ず れ か2錠)の 計4錠 を 入 れ1包 と した. ま た 上 記 薬 剤 に つ い て は,コ ン トロ ー ラ ー が 星 薬 科 大 学 薬 剤 学 教 室 永 井 恒 司 教 授 に依 頼 し,両 薬 剤 の表 示 成 分 定 量 試 験,崩 壊 試 験 お よ び溶 出試 験 が行 わ れ,規 格 に合 致 して い る こ とが 確 認 され た. 3. 投 与 方 法 お よび 投 与 期 間 そ れ ぞ れ1シ ー トを1日 投 与 分 と し,1日4回 毎 食 後 お よ び 就 寝 前 に1包 ず つ 服 用 す る こ と と し,患 者 の 受 付 順 に薬 剤 番 号 の 若 い順 に投 与 す る こ と と し,同 一 番 号 の 薬 剤 は 同 一 患 者 に の み 投 与 す る こ と と した.な お,投 与 期 間 は連 続5日 間 と し た. な お,朝 食 後 に初 回 投 与 で き な い場 合(昼 食 後,
夕 食 後 また は就 寝 前 に初 回投 与)に も,対 排 菌 効 果 に与 え る影 響 を極 力 少 な くす るた め に,投 与 時 刻 に 関 係 な くNo.1の 薬 剤 か ら順 次No.20ま で 投 薬 す る こ と と した.し た が っ てNFLXは1日 量600mg,5日 間 で 計3g,PPAは1日 量2,000mg, 5日 間 で10g服 用 した こ と と な る. 投 与 に際 して は,他 の 抗 菌 剤 の 併 用 を禁 止 した. ま た 抗 菌 剤 以 外 の 薬 剤 も原 則 と し て併 用 し な い こ と と した が,併 用 した 場 合 に は,そ の 旨を 調 査 表 に 記 入 す る こ と と し た. な お,副 作 用 の た め投 与 を 継 続 で き なか った場 合 な ど を含 め,主 治 医 が 中 止 の必 要 を 認 め た場 合 に は 投 与 中 止 時 点 で 所 定 の 検 査 を可 能 な限 り実 施 し,そ の結 果 を 調 査 表 に 記 載 し,中 止 の 理 由 を 明 らか にす る こ と と した. 4. 薬 剤 の割 り付 け コン トロ ー ラ ー が あ らか じ め作 成 した 照 合 表 に よ り,薬 剤 の 割 り付 け が 行 わ れ た.す なわ ち,4 症 例 分 を1組 と し,そ の 中 にNFLX投 与 群,PPA 投 与 群 そ れ ぞ れ2例 含 ま れ る よ う割 り付 け,1番 か ら4番 まで の番 号 を 付 し,原 則 と して1番 か ら 順 番 に投 与 す る こ と と した. 薬 剤 の照 合 表 は コ ン トロー ラー の 下 で 厳 重 に保 管 され,試 験 終 了 後 す べ て の調 査 表 が 集 め られ, 記 載 の確 認 お よ び治 療 効 果 判 定 に耐 え得 る症 例, 除 外 ・脱 落 例 を 検 討 後,全 て の症 例 記 載 が 固定 さ れ た 後,開 封 さ れ た. 5. 観 察 項 目 1) 菌 検 索 原 則 と し て,採 取 した 糞 便 はCary-Blair培 地 で 検 査 室 へ 送 付 す る こ と と した. (1) 赤 痢 菌,病 原 大 腸 菌(組 織 侵 入 型 ・血 清 型) 使 用 培 地 はSSお よ びDHL培 地 を 標 準 と し, 原 則 と して 下 記 の よ うに検 索 した. (1) 連 日検 便 (2) 薬 剤 投 与 期 間 中 お よ び終 了 後7日 間 以 上 (3) 可 能 な 限 り退 院 後 に1回(1週 間 前 後)行 う. (2) カ ン ピ ロバ ク タ ー,病 原 大 腸 菌(毒 素 産 生 型) カ ン ピ ロバ ク タ ー はSkirrow培 地,Butzler培 地,Blaser培 地 の い ず れ か を 使 用 す る こ と と し た.ま た 病 原 大 腸 菌(毒 素 産 生 型)に つ い て は DHL培 地 お よびSS培 地 を 使 用 し,原 則 とし て下 記 の よ うに検 索 した. (1) 薬 剤 投 与 開 始 日 (2) 薬 剤 投 与 期 間 中(1回 以 上) (3) 薬 剤 投 与 終 了 後 少 な く と も1週 間(2回 以 上),あ る い は投 与 終 了 後 少 な く と も1週 間 に1回 お よび そ の後 の1週 間 に1回 (4) 退 院 後1週 間 前 後 に,で き れ ば1回,観 察 期 間 中初 回 分 離 株 お よ び再 排 菌 株 につ い て は 東 京 医 科 歯 科 大 学 医学 部 微 生 物 学 教 室 に送 付 され,こ の 株 に 対 す るNFLXお よ びPPAのMIC測 定 が 行 わ れ た. 2) 臨 床 症 状 の 観 察 薬 剤 投 与 開 始 時 に 臨 床 症 状 の あ った 症 例 の み を 患 者 と し,そ れ 以 外 は臨 床 症 状 の 既 往 歴 が あ っ て も保 菌 者 と した. 症 状 の あ った 患 者 につ い て は 退 院 時 まで 臨 床 症 状 の 経 過 を 毎 日観 察 し,調 査 表 に記 録 し,解 熱, 血 便 消 失,排 便 回 数 の減 少,便 性 回復 に要 した 日 数 に つ い て検 討 が 行 わ れ た. 3) 副 作 用 投 与 中 に生 じた 副 作 用 症 状 の す べ て に つ い て, そ の種 類,程 度,発 現 日,消 失 日,処 置'経 過 な ど調 査 表 に記 録 す る と と もに,投 与 薬 剤 との 関 係 に つ い て 検 討 加 え 記 録 し た. 4) 臨 床 検 査 原 則 と し て,薬 剤 投 与 開始 前 お よ び投 与 終 了 後 に下 記 の 検 査 を 実 施 した. (1) 血 液:赤 血 球 数,血 色 素 量,ヘ マ トク リ ッ ト値,白 血 球 数,白 血 球 分 類,血 小 板 数 な ど. (2) 肝 機 能:GOT,GPT,Al-P,ビ リル ビ ン (総,直),LDHな ど. (3) 腎 機 能:BUN,血 清 ク レア チ ニ ン な ど (4) 尿 所 見:蛋 白,糖,ウ ロ ビ リノ ー ゲ ン,沈 査 な ど. (5) そ の他:血 清 電 解 質,赤 沈 値,CRPな ど な お,検 査 値 に異 常 変 動 が 認 め られ た 場 合 は 投 与 薬 剤 との 関 係 につ い て コ メ ン トを 付 し,正 常 値 ま た は 投 与 前 値 に 復 す る ま で 追 跡 す る こ と と し た.
834 感 染 症学 雑 誌 第61巻 第7号 6. 効 果 判 定 基 準 1) 臨 床 効 果 臨 床 効 果 は主 治 医 の見 解 に よ り著 効,有 効,無 効 の3段 階 お よび 不 明 と判 定 し記 録 した. 2) 対 排 菌 効 果 対 排 菌 効 果 は 腸 炎 研 究 会 の 基 準5)7)8)を用 い て 行 った(Table 1). 菌 検 索 が 基 準 通 り行 わ れ て い な い 場 合 に つ い て は 次 の よ うに判 定 した. (1)細 菌 性 赤 痢,病 原 大 腸 菌(組 織 侵 入 型 ・血 清 型)に つ い て は投 与 期 間 中 に3回 以 上 菌 索 が 行 わ れ,か つ投 与 終 了1週 間 に2回 以 上 菌 検 索 が な さ れ た もの は 上 記 の基 準 を 適 用 した. (2)投 与 中 に菌 が 陰 性 化 して も投 与 終 了 後 の 菌
検 索 が 不 十 分 な場 合 は 「不 明」 と判 定 した.し か し投 与 終 了 後 に お い て も菌 が 持 続 排 菌 ま た は 再 排 菌 を した 場 合 に は 「無 効 」 と判 定 した. 3) 複 数 菌 感 染 例 の取 り扱 い 複 数 菌 感 染 の場 合 に は下 記 の とお り判 定 した. な お,症 状 を有 す る患 者 に お い て は,薬 剤 投 与 開 始 日以 前 に2種 以 上 の菌 が検 出 さ れ た 例 も複 数 菌 感 染 と した. (1) 臨 床 効 果:複 数 菌 で あ って も,そ の 感 染 症 状 を1例 と して 捉 えて 薬 効 を 判 定 した. (2)対 排 菌 効 果 i) 異 種 菌 属 の場 合:対 排 菌 効 果 は 個 々 の 菌 属 ご とに行 った.ま た菌 消 失 日の判 定 も同 様 に行 っ た. ii) 異 種 同 属 の 場 合:対 排 菌 効 果 は菌 消 失 日の 悪 い菌 種 の み で 行 った.菌 消 失 日の 判 定 は 各 々の 菌 種 で 行 った. な お,同 種 同属 で 血 清 型 別 の み が 異 な る場 合 に は単 独 感 染 と して扱 った.例 え はS. flexneri 1bと S. flexneri 3aの 混 合 感 染 の 場 合,菌 消 失 日は 悪 い 菌 種 の 方 の消 失 日を とっ た. 4) 有 用 性 有 用 性 判 定 は 主 治 医 が 行 った 臨 床 効 果,対 排 菌 効 果 お よ び 副作 用 な どを勘 案 して,非 常 に 満 足, 満 足,ま ず まず 満 足,不 満,非 常 に不 満,の5段 階 お よ び不 明 と判 定 し記 録 した. 7. 除 外 お よ び脱 落 の 決 定 使 用 症 例 の調 査 表 は 対 象 疾 患 の如 何 を 問 わ ず, す べ て コ ン トロ ー ラー に 提 出 し,除 外 ・脱 落 お よ び 実 施 要 項 の 規 定 に反 す る も の の取 り扱 い は 開 票 前 に委 員 会 に お い て,上 記 の試 験 方 法 に合 致 しな い 症 例 を慎 重 に検 討 し,解 析 症 例 を 決 定 した. 8. 統 計 学 的 解 析 投 与 症 例 な ら び に解 析 症 例 の 集 計 お よび解 析 は コ ン トロ ー ラ ー が これ に 当 た った.統 計 学 的 解 析 に はWilcoxon順 位 和 検 定,x2検 定 お よびFisher の直 接 確 率 計 算 法 を 用 い,有 意 水 準 は5%で 検 討 した. 試 験 成 績 1. 症 例 内 訳 総 投 与 症 例 数 は227例 で あ っ た.委 員 会 で の症 例
Table 2 Case distribution
検 討 結 果68例 が 除 外 ・脱 落 と され159例 が解 析 対 象 症 例 と され た(Table 2).そ の後,コ ン トロ ー ラ ー に よ り開 票 されNFLX投 与 群 とPPA投 与 群 と に 区 分 され た.そ の結 果 はTable 3に 示 した.臨 床 効 果 対 象 例 はNFLX投 与 群38例,PPA投 与 群 41例 の 計79例,安 全 性 評 価 対 象 例 はNFLX投 与 群112例,PPA投 与 群115例 の計227例,臨 床 検 査 値 評 価 対 象 例 はNFLX投 与 群99例,PPA投 与 群 106例 の 計205例 で あ った.有 用 性 評 価 対 象 例 は NFLX投 与 群80例,PPA投 与 群79例 の 計159例 で あ っ た.両 群 間 の 症 例 構 成 に は 有 意 差 を 認 め な か った. 本 試 験 の 除 外 ・脱 落 の 内 訳 をTable 4に 示 し た.両 群 間 の除 外 ・脱 落 症 例 に は有 意 差 を 認 め な か った. 2. 薬 効 評 価 対 象 症 例 の 背 景 因 子
836 感 染 症 学雑 誌 第61巻 第7号
Table 3 Number of subjects analysed
Table 4 Reasons for exclusion and dropped-out
薬 効 評 価 対 象 症 例159例 の 背 景 因 子 に つ い て 検 討 した. 1)性 ・年 齢 別,集 団 ・散 発 別,疾 患 別 症 例 構 成 (Table 5) 性 別,年 齢 別,集 団 ・散 発 別 の 症 例 構成 で は 両 群 間 に いず れ も有 意 差 は 認 め な か った. 疾 患 別 症 例 の 内 訳 は 細 菌 性 赤 痢 で は 患 者54例 (NFLX投 与 群26例,PPA投 与 群28例),保 菌 者62 例(NFLX投 与 群33例,PPA投 与 群29例),カ ン ピ ロバ ク タ ー腸 炎 で は 患 者8例(NFLX投 与 群2 例,PPA投 与 群6例,),保 菌 者1名(NFLX投 与 群1例),病 原 大 腸 菌 腸 炎 で は 患 者9例(NFLX投 与 群6例,PPA投 与 群3例),保 菌 者5例(NFLX 投 与 群2例,PPA投 与 群3例),そ の 他 の菌 に よ る 腸 炎 は保 菌 者 の み3例(NFLX投 与 群2例,PPA 投 与 群1例)で あ った.ま た 複 数 菌 感 染 は17例 あ り,患 者 は8例(NFLX投 与 群4例,PPA投 与 群 4例),保 菌 者 は9例(NFLX投 与 群4例,PPA 投 与 群5例)で あ っ た.各 疾 患 に お け る 患 者,保 菌 者 の症 例 構 成 につ い て も両 群 間 に有 意 差 は 認 め な か った. 2)病 原 菌 の菌 属 お よ びShigellaの 菌 種 分 布 病 原 菌 の 菌 属 お よ びShigellaの 菌 種 分 布 は Table 5に 示 す ご と く,い ず れ も両 群 間 に ほ ぼ 平 均 し て分 布 し,有 意 差 を 認 め な か った. 3)MIC分 布 NFLX投 与 群 お よ びPPA投 与 群 か ら 分 離 さ れ た 菌 株 に つ き,NFLXお よ びPPAの 薬 剤 感 受 性 を そ れ ぞ れ 検 討 した(Table 6, Fig.3). Shigellaに 対 して は,NFLX投 与 群 か ら分 離 さ れ た59株,PPA投 与 群 か ら分 離 され た59株 に つ い てMICの 測 定 を お こ な っ た.NFLXのMIC50,
Table 5 Background of cases evaluated for effectiveness MIC80はNFLX投 与 群 お よ びPPA投 与 群 と も に ≦0.05,0.1μg/mlで あ り,両 群 間 に 有 意 差 は 認 め な か っ た.ま たPPAのMIC50,MIC80はNFLX 投 与 群 お よ びPPA投 与 群 と も に0.78,1.56μg/ mlで あ り,両 群 間 に 有 意 差 は 認 め な か っ た. PPA投 与 群 よ り分 離 さ れ たC. jejuniの1株 の MICはNFLX100μg/ml,PPA>100μg/mlと 高 度 耐 性 株 で あ った. 以 上 の 背 景 因 子 の解 析 に よ り,本 試 験 は 計 画 通 りNFLX投 与 群 とPPA投 与 群 の 治 療 効 果 の 比 較 検 討 に耐 え得 る もの で あ る こ とを 確 認 した. 3. 効 果 判 定 1)臨 床 効 果 薬 剤 投 与 開 始 時 に症 状 の あ った79例(NFLX投
838 感染症学雑誌 第61巻 第7号
Table 6 Sensitivity distribution of clinical isolates
(106cfu/ml)
Fig. 3 Sensitivity distribution of clinical isolates of Shigella spp. to NFLX (106cfu/ml)
与 群38例,PPA投 与 群41例)の 主 治 医 に よ る 臨 床 効 果 をTable 7に 示 し た.
全 症 例 で の 著 効 率,有 効 率 はNFLX投 与 群 45.9%,100%,PPA投 与 群34.1%,92.7%で あ り
Sensitivity distribution of clinical isolates of Shigella spp. to PPA (106cfu/ml)
両 群 間 に有 意 差 は 認 め な か った.ま たU検 定 で も 有 意 差 を認 め な か っ た.
細 菌 性 赤 痢54例(NFLX投 与 群26例,PPA投 与
Table 7 Clinical effect judeged by docters in charge 42.3%,100%,PPA投 与 群32.1%,89.3%で あ り, 両 群 間 に有 意 差 は認 め な か った.ま たU検 定 で も 有 意 差 を認 め な か った. PPA投 与 群 で 無 効 と判 定 され た3例 は い ず れ もS.flexneriに よ る細 菌 性 赤 痢 の 患 者 で あ り た. な お,NFLX投 与 群 の 複 数 菌 感 染 例 の1例(S. flexneri+S.sonneの は他 に ラ ン ブ ル 鞭 毛 虫,ア メ ー バ ー 赤 痢 お よびA型 肝 炎 を合 併 して お り,臨 床 効 果 は 「不 明 」 と した. これ ら感 染 性 腸 炎 の薬 剤 投 与 時 の 主 要 な症 状 の うち客 観 的 に 集 計 が で き,か つ 臨床 効 果 の評 価 に 従 来 か ら用 い られ て い る解 熱,血 便 消 失,排 便 回
Table 8 Days required for defervescence
Fig. 4 Days required for defeverscence
.-840 感染 症 学 雑 誌 第61巻 第7号 数 の 減 少,便 性 回復 に つ い て,そ れ ぞ れ に要 す る 日数 を両 群 間 で 比 較 した. (1) 解 熱 に対 す る 効 果 薬 剤 投 与 開 始 時 に 発 熱 のみ られ た21例(NFLX 投 与 群8例,PPA投 与 群13例)に つ い て,解 熱 す る ま で の 日数 を み た(Table 8, Fig.4),両 群 間 に有 意 差 は 認 め な か った. 細 菌 性 赤 痢15例(NFLX投 与 群6例,PPA投 与 群9例)で も 同様 に 両 群 間 に有 意 差 は認 め な か っ た. な お,両 薬 剤 群 と も大 部 分 は2日 以 内 に,投 与 終 了 時 に は全 例 解 熱 した. (2) 血 便 消 失 に 対 す る効 果 薬 剤 投 与 開 始 時 に 血 便 を認 め た29例(NFLX投 与 群12例,PPA投 与 群17例)に つ い て,血 便 消 失 ま で の 日数 を み た(Table 9, Fig.5).両 群 間 に 有 意 差 は認 め な か った. 細 菌 性 赤 痢20例(NFLX投 与 群8例,PPA投 与 群12例)で も同様 に有 意 差 は 認 め な か った. 血 便 の消 失 ま で に要 す る 日数 は両 薬 剤 群 と も大 部 分 は3日 以 内 で あ っ た が,NFLX投 与 群 で4日 を要 した も の1例(細 菌 性 赤 痢),PPA投 与 群 で7 日要 した もの1例(細 菌 性 赤 痢)認 め られ た. (3) 排 便 回 数 の 減 少 に 対 す る効 果 薬 剤 投 与 開 始 時1日3回 以 上 の排 便 を 数 え た55 例(NFLX投 与 群26例,PPA投 与 群29例)に つ い て,排 便 回 数 が2回 以 下 に な る の に要 した 日数 を み た(Table 10, Fig.6).両 群 間 に 有 意 差 は 認 め
Table 9 Days required for disappearance of bloody stool
Fig. 5 Days required for disappearance of bloody stool
-Total organisms- -Shigella spp
Fig. 6 Days required for decrease in number of defecation
-Total organisms- -Shigella
spp.-な か った. 細 菌 性 赤 痢37例(NFLX投 与 群18例,PPA投 与 群19例)で も同 様 に有 意 差 は 認 め な か った. な お,NFLX投 与 群 で は4日 以 内 に 排 便 回数 が 全 例2回 以 下 とな った が,PPA投 与 群 で は8日 以 上 を要 した 症 例 が2例(細 菌 性赤 痢)認 め られ た こ とは,臨 床 的 に 注 意 を ひ く所 見 で あ った. (4) 便 性 回復 に 対 す る効 果 薬 剤 投 与 開 始 時 に 便 性 異 常 の み ら れ た75例 (NFLX投 与 群36例,PPA投 与 群39例)に つ い て, 有 形 ま た は 軟 便 とな る ま で に 要 す る 日数 を み た (Table 11, Fig.7).両 群 間 に 有 意 差 は 認 め な か った. 細 菌 性 赤 痢51例(NFLX投 与 群25例,PPA投 与 群26例)で も同 様 に有 意 差 を 認 め な か った. な お,NFLX投 与 群 で は5日 以 内 に 便 性 は 回 復
Table 11 Days reauired for improvement of stool character
Fig. 7 Days required for improxement of stool character
.-842 感染 症 学 雑誌 第61巻 第7号 した が,PPA投 与 群 に7日 以上 を 要 し た症 例(細 菌 性 赤 痢)が1例 認 め られ た. 2) 対 排 菌 効 果 対 排 菌 効 果 は143例(NFLX投 与 群72例,PPA 投 与 群71例)で 行 った.Shigellaは113例(NFLX 投 与 群59例,PPA投 与 群54例),Campylobacter 10 例(NFLX投 与 群,PPA投 与 群 各5例),entero-pathogenic E. coliは14例(NFLX投 与 群5例, PPA投 与 群9例),そ の 他 の 感 染 性 腸 炎 起 炎 菌6 例(NFLX投 与 群,PPA投 与 群 各 々3例)で あ っ た. 対 排 菌 効 果 をTable 1に 示 し た 判 定 基 準 に 従 っ て 判 定 し た 結 果 をTable 12に 示 す. 全 症 例 で の 著 効 率,有 効 率 はNFLX投 与 群 で は72.2%,97.2%,PPA投 与 群 で は49.3%,85.9% で あ り著 効 率,有 効 率 と もNFLX投 与 群 が 有 意 に 優 っ た(p<0.05).ま たU検 定 に お い て も NFLX投 与 群 が 有 意 に 優 っ た(p<0.01).
Table 12 Bacteriological effect
Table 13 Effect of NFLX and PPA against NA resistance strains
Shigellaに つ い て み る と そ の 著 効 率,有 効 率 は NFLX投 与 群 で は71.2%,100%,PPA投 与 群 で は48.2%,88.9%で あ り,著 効 率,有 効 率 と も NFLX投 与 群 が 有 意 に 優 っ た(p<0.05).ま たU 検 定 に お い て もNFLX投 与 群 が 有 意 に 優 っ た (p<0.01).
Table 14 Days required for eradication of organisms
Fig. 8 Days required for eradication of organisms
-Total organisms- -Shigella
844 感染症学雑誌 第61巻 第7号 Campylobacterで はNFLX投 与 群 に5例 中2 例 に,PPA投 与 群 で は5例 中3例 に 無 効 例 が 認 め ら れ た.ま たenteropathogenic E. coliで はNFLX 投 与 群5例 全 例 が 著 効 で あ っ た の に 対 し,PPA 投 与 群 で は 著 効6例,有 効2例,無 効1例 で あ っ た. 上 記2菌 種 お よ び そ の 他 の 菌 で は 両 群 間 に 有 意 差 は 認 め な か っ た. ま た デ ィ ス ク 感 受 性 試 験 でnalidixic acid(NA) 耐 性 で あ っ た 細 菌 性 赤 痢7例(NFLX投 与 群4例, PPA投 与 群3例)で はNFLX投 与 群 は 全 例 著 効 で あ っ た が,PPA投 与 群 に1例 無 効 例 が 認 め ら れ た(Table 13). (1) 菌 消 失 ま で の 日数 薬 剤 投 与 開 始 時 お よ び 投 与 中 に 菌 が 分 離 と さ れ た 症 例146例(Shigelle 116例,Campylobacter 10 例,enteropathogenic E. coli 14例,そ の 他 の 菌 6例)に つ い て;菌 消 失 ま で の 日数 を み た(Table 14,Fig.8,9).複 数 菌 感 染 例 に つ い て は 前 述 の 取 り決 め に よ り行 った. 全 例 に お い てNFLX投 与 群 がPPA投 与 群 に 比 し,菌 消 失 に要 す る 日数 が 少 な か った(W:p< 0.01). Shigellaに お い て もNFLX投 与 群 がPPA投 与 群 に 比 し,菌 消 失 に 要 す る 日数 が 有 意 に 少 な か った(W:p<0.01).
Campylobacter, enteropathogenic E. coli,そ の 他 の 菌 で は 両 群 間 に 有 意 差 は認 め な か っ た. な お,NFLX投 与 群 で はCampylobacterの2例 (持 続 排 菌)を 除 き,全 例4日 以 内 に 陰 性 化 し,再 排 菌 も認 め な か った. 4. 副 作 用 副 作 用 評 価 対 象 症 例(対 象 菌 種 が 分 離 さ れ な い た め 途 中 で投 薬 を 中 止 した 例 も 中 止 時 点 で 自 ・他 覚 所 見 を観 察 して い るた め,安 全 性 は採 用 した.) は227例(NFLX投 与 群112例,PPA投 与 群115例) で あ る.投 与 中 よ り終 了 後 引 き続 い て観 察 し得 た 時 点 で は,自 ・他 覚 的 副 作 用 は1例 も認 め な か っ Fig. 9 Days required for eradication of Shigella spp.
S. dysenteriae S. flexneri
た. 5. 臨 床 的 検 査 値 臨床 検 査 値 評 価 対 象 例 は205例(NFLX投 与 群 99例,PPA投 与 群106例)で,異 常 値 の 発 現 率 お よ び そ の 内 容 を検 討 した(Table 15).検 査 異 常 の判 定 は 薬 剤 投 与 前 後 に検 査 が 行 わ れ た症 例 につ い て 行 っ た. 異 常 値 の チ ェ ックは 委 員 会 で も行 っ た が,個 々 の 症 例 の 異 常 値 に つ い て は最 終 的 に主 治 医 が 判 定 した. NFLX投 与 群 で は11例(11.1%),PPA投 与 群 で は7例(6.6%)に 異 常 値 を認 め た が いず れ も軽
Table 15 Laboratory findings.
846 感 染 症学 雑 誌 第61巻 第7号 度 の も の で あ り,両 群 間 に 有 意 差 は 認 め られ な か った. 6. 有 用 性 判 定 主 治 医 に よ る 有 用 性 評 価 対 象 症 例 は159例 (NFLX投 与 群80例,PPA投 与群79例)で あ った(Table 16).非 常 に 満 足 お よ び満 足 以 上 はNFLX投 与 群 55.0%,97.5%,PPA投 与 群30.4%,82.3%と NFLX投 与 群 が 非 常 に 満 足 お よ び 満 足 以 上 で 有 意 に 優 っ た(p<0.01).ま たU検 定 に お い て も NFLX投 与 群 が 有 意 に優 っ て い た(p<0.001). 細 菌 性 赤 痢116例(NFLX投 与 群59例,PPA投 与 群57例)に つ い て非 常 に 満 足 お よ び満 足 以上 を み る とNFLX投 与 群52.5%,100%,PPA投 与 群 29.8%,86.0%で あ りNFLX投 与 群 が と もに 有 意 に 優 っ た(P<0.05).ま たU検 定 に お い て もNFLX 投 与 群 が有 意 に優 っ た(p<0.01). な お,有 用 性 な し(ま ず まず 満 足 以 下)と 判 定 され た 症 例 はNFLX投 与 群 に2例 〔カ ン ピ ロバ ク タ ー腸 炎1例,複 数菌 感 染 例(S.flexneri+C. jejuni)1例 〕,PPA投 与 群 に14例 〔細 菌 性 赤 痢8 例,カ ン ピ ロバ ク タ ー 腸 炎2例,複 数 菌 感 染 例 (S.flexneri+S.sonnei, S.flexneri+E.coli,S. sonnei+ETEC+P.shigelloides, S.flexneri+C. jejuni各1例)4例 〕 認 め られ た. 考 察 キ ノ ロ ン 系 合 成 抗 菌 剤NFLXの 感 染 性 腸 炎 (細 菌 性 赤 痢,カ ン ピ ロバ ク タ ー腸 炎,病 原 大 腸 菌 腸 炎 な ど)に 対 す る有 効 性,安 全 性 お よ び有 用 性 をPPAを 対 照 薬 と し,二 重 盲 検 法 に よ り比 較 検 討 した. 総 投 与 症 例 は227例 で あ った が,薬 効 評 価 対 象 症 例 はNFLX投 与 群80例,PPA投 与 群79例 の 計 159例 で あ った.除 外 と な った 症 例 が 多 か った の は,細 菌検 査 結 果 が判 明 す る前 に薬 剤 を 見 込 み投 与 せ ざ るを 得 な い こ と,Shigellaが 検 出 され,入 院 した 例 で も薬 剤 投 与 開 始 時 に既 に 陰 性 で あ る症 例 が 多 い こ と な ど感 染 性 腸 炎 の 治験 で 日常 的 に遭 遇 す る事 情 に よ る もの で あ る. 全 症 例 か ら分 離 され たShigella 118株(NFLX 投 与 群,PPA投 与 群 間59株)に 対 す るNFLXの MIC50お よびMIC80は ≦0.05, 0.1μg/mlで あ り, 最 高 が0.78μg/mlで あ っ た.ま たPPAのMIC50 お よ びMIC80は0.78, 1.56μg/mlと 我 々 が 前 回 行 った 比 較 試 験 の 結 果7)8)と同 じで あ った が,今 回 PPAに 中 等 度 耐 性 を 示 し た 株 が11株(12.5μg/ ml:9株,25μg/ml:2株)認 め られ た こ とが特 徴 と し て お げ られ る.こ れ らの 株 はS.flexneri 2 a 10株 とS.sonnei 1株 で あ り,NFLXに は0.2 ∼0 .78μg/mlと 感 受性で あ った. 主 治 医 に よ る臨 床 効 果 で はPPA投 与 群 の 細 菌 性 赤 痢 に3例 の 無 効 例(い ず れ もS.flexneriを 検 出)が 認 め られ た が,臨 床 効 果 お よび 解 熱,血 便 消 失,排 便 回 数 の 減 少,便 性 回 復 の そ れ ぞ れ に 要 す る 日数 に は 両 群 間 に 有 意 差 は 認 め られ な か っ た.こ れ は 今 回,対 象 症 例 の うち有 症 状 症 例 が 少 な く,か つ 重 症 例 が少 な か った た め と考 え る. 細 菌 学 的 効 果 の有 効 率 は 全 体 でNFLX投 与 群 97.2%,PPA投 与 群85.9%で あ って,NFLX投 与 群 が 有 意 に優 る結 果 で あ った.こ れ は 赤 痢 菌 に 対 す る著 効 率,有 効 率 がNFLX投 与 群 で は71.2%, 100%で あ る の に 対 し,PPA投 与 群 で は48.2%, 88.9%で あ った こ とが反 映 し て い る. さ らに赤 痢 菌 につ い て 菌 が 消 失 す る ま で の 日数 を 検 討 した 結 果 で は,NFLX投 与 群 が 全 例4日 以 内 で あ る の に 対 し,PPA投 与 群 で は 投 与 終 了 後 も 持 続 排 菌 を み た 例 や 再 排 菌 例 が6例(11.1%)に 認 め られ た. また,各 施 設 で実 施 した デ ィス ク感 受 性試 験 に よ り7株 の 赤 痢 菌 がnalidixic acid (NA)耐 性(NFLX
投 与 群4株,PPA投 与 群3株)で あ った が,こ れ ら に 対 す る 細 菌 学 的 効 果 はNFLX投 与 群 で は い ず れ も2日 目に全 例 陰 性 化 し,か つ 再 排 菌 も認 め られ ず 著 効 で あ った. この こ とは ニ ュー キ ノ ロン剤 の 特 徴 と して,し ば しば 言 及 さ れ て い る如 く,NAあ る い はPPA 耐 性6菌に も本 剤 は交 差 耐 性 を示 さず 有 効 に 作 用 し て い る こ とを 示 唆 して い る も の と考 え られ る. 副 作 用 は 投 薬 した227例 で1例 も認 め な か っ た. 臨 床 検 査 値 異 常 はNFLX投 与 群 で11例,PPA 投 与 群 で7例 で 認 め られ た が,い ず れ も軽 度 の も の で あ り,両 群 間 に 有 意 差 は な くOFLX, ENXの 成 績7)8)と同 様 の発 現 率 で あ った.
有 効 性 と安 全 性 を 総 合 的 に 主 治 医 が判 定 した 有 用 性 の満 足 率 は 全 例 で はNFLX投 与 群97.5%, PPA投 与 群82.2%,細 菌性 赤 痢 で は 同様 に100%, 86.0%と,NFLX投 与 群 の有 用 性 が 有 意 に優 って い た. 赤 痢 の 如 き法 定 伝 染 病 に お い て は 抗 菌 剤 の 除 菌 効 果 が最 も求 め られ る こ とか ら,再 排 菌 が認 め ら れ ず,か つNA耐 性 菌 に も有 効 で あ る点 は,細 菌 性 赤 痢 の 治 療 薬 と して 推 奨 し得 る もの と考 え る. これ に対 し,Campylobacterに 対 す るNFLXの 治 療 効 果 は細 菌 性 赤 痢 よ りや や 劣 る成 績 で あ った が,カ ン ピ ロバ ク タ ー腸 炎,病 原 大 腸 菌 腸 炎 に つ い て は,対 象 症 例 が少 な く両 群 間 に 有 意 差 は認 め な か った.ま た前 報 の一 般 臨 床 試 験4)の成 績,中 谷 ら3)が行 った 抗 菌 力 の結 果 か ら推 論 す れ ば,こ れ ら二 疾 患 に 対 して も,そ の 臨 床 的 有 用 性 を 期 待 し て も良 い こ とが 示 唆 され た. 文 献 1) 伊藤 明, 平井敬二, 井上松久, 三橋 進: AM-715に関す る細菌学的検 討. Chemotherapy, 29 (S-4): 1-11, 1981. 2) 西 野 武 志, 後 藤 直 正, 石 村 冨 喜 子, 永 田 昌 宏, 松 野 和 弘, 谷 野 輝 雄: 新 し い 合 成 抗 菌 剤AM-715に 関 す る 細 菌 学 的 評 価. Chemotherapy, 29 (S-4): 27 -44 , 1981. 3) 後 藤 延 一, 堀 内 三 吉, 岡 村 登, 稲 垣 好 雄, 小 沢 加 代 子, 望 月 明 彦, 中 谷 林 太 郎: 腸 炎 起 炎 菌 に 対 す るNorfloxacin (NFLX) の 試 験 管 内 抗 菌 力. 感 染 症 学 雑 誌, 60: 315-321, 1986. 4) 青 木 隆 一, 他: 感 染 性 腸 炎 に 対 す るAM-715の 臨 床 的 研 究. 感 染 症 学 雑 誌, 60: 495-509, 1986. 5) 斎 藤 試, 他: 細 菌 性 赤 痢 に 対 す る ピ ペ ミ ド酸 (PPA) と カ ナ マ イ シ ン (KM) の 二 重 盲 検 法 に よ る 治 療 効 果 の 検 討. 感 染 症 学 雑 誌, 57: 303-317, 1983. 6) 三 輪 谷 俊 夫, 他: 急 性 腸 炎 に 対 す るpipemidic acidの 二 重 盲 検 比 較 試 験 に よ る 薬 効 評 価. Chemotherapy, 29: 227-247, 1981. 7) 斎 藤 誠, 他: 感 染 性 下 痢 に 対 す る オ フ ロ キ サ シ ン (OFLX: DL-8280) と ピ ペ ミ ド酸 (PPA) の 二 重 盲 検 法 に よ る 治 療 効 果 の 検 討. 感 染 症 学 雑 誌, 58: 965-981, 1984. 8) 博 本 博, 他: 感 染 性 下 痢 症 に 対 す るEnoxacin (ENX: AT-2266) とpipemidic acid (PPA) の 二 重 盲 検 法 に よ る 有 用 性 の 比 較 検 討. 感 染 症 学 雑 誌, 58: 1114-1136, 1984.
Comparison of Clinical Efficacy of Norfloxacin (NFLX) and Pipemidic
Acid (PPA) in the Treatment of Infectious Enteritis by
a Double-Blind Method
The Japan Research Committee of Norfloxacin
Research Group Enteritis
(Manager: Takakazu AOKI)
Nagayo SHIMIZU
Tokyo Metropolitan Ebara Hospital
Isao TOMIZAWA & Yoshihiko TAKIZAWA
Sapporo City General Hospital
Yoshio MATSUBARA, Takehisa SEO, Hiroko SAGARA & Keiko TAGAWA
Tokyo Metropolitan Toshima Hospital
Gohta MASUDA, Masayoshi NEGISHI & Chenden YOUNG
Tokyo Metropolitan
Komagome
Hospital
Yatsuka IMAGAWA & Misako MURATA
Tokyo Metropolitan Bokuto Hospital
Tsuyoshi YAMAGUCHI, Masachika TSUJI & Jun-ichiro HOSOYA
Tokyo Metropolitan Ebara Hospital
Ippei FUJIMORI & Yoshio KOBAYASHI
Kawasaki Municipal Hospital
Jyuji HOSHINO
Yokohama Municipal Hospital
848 感染症学雑誌 第61巻 第7号
Nagoya City Higashi General Hospital Yoshio KOBAYASHI, Chihiro IMAI & Ryuki KIN
Kyoto City Hospital Mitsuru AKAO
Osaka Infectious Disease Center, Osaka Municipal Momoyama Hospital Okisuke TSUNODA, Akio TODO, Katsuhiko FUJIMI, Akihiro HIRASA
& Kan HASEGAWA Kobe Central Municipal Hospital
Tadakazu AISAKA, Masanobu NIIMI, Masao TAKEMOTO & Motoko MIKAMI Hiroshima City Funairi Hospital
Toshiko MATSUO Asahigaoka Municipal Hospital
Makoto SAITO
The First Department of Internal Medicine, Showa University School of Medicine Rintaro NAKAYA, Nobuichi GOTO, Sankichi HORIUCHI, Noboru OKAMURA,
Yoshio INAGAKI & Kayoko OZAWA
Department of Microbiology, Tokyo Medical and Dental University School of Medicine Yoshifumi TAKEDA
Controller: The Institute of Medical Science, The University of Tokyo