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― ― 中国経済の 「 新常態 」 とその課題

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(1)

中国経済の「新常態」とその課題

―米中併存体制への中国の対応と「新常態」が示す

中国国内経済改革の課題―

五味 久壽

【要旨】

中国は,

2012

年秋の習近平体制発足後

2

年を経て,対外的には米中併存体制へ の対応が問われている.さらにまた,中国は,

2014

11

月北京で開催の

APEC

サミットを経て,アジアのインフラ整備に協力することを通して,アジアシステ ムとしての資本主義の中心の位置を固めようとしている.

この巨大資本主義中国にとっては,国内における労働力の不足と賃金上昇の継 続の中で,国内市場・消費依存型経済へと転換することが課題である.リーマン・

ショック以後加速した中国のインフラ投資・住宅投資依存は,シャドウバンキン グの拡大に代表される金融システムのリスクと

〈借金中毒〉

を引き起こしたが,

〈借金中毒〉

の解決は地方財政改革を手始めに開始されつつある.

したがって,中国指導部のいう「新常態」の内容は,中国経済全体の方向転換 の必要性とそのための改革の巨大性と困難性である.実体経済においては,工場 のロボット化など工場のネットワーク化を通しての製造業の変革,物流システム・

決済システムのネットワーク化への取り組み,深刻化した環境・エネルギー問題 への対応がある.都市化の漸進的展開の中で急速な高齢化を迎える中国社会は,

医療保険・年金保険の整備と新型サーヴィス産業の発展を必要とする.したがっ て,財政改革,銀行改革,企業改革,行政改革が全面的に問われている.

【キーワード】

 米中並存体制,新常態,新型都市化,ロボット化,医療・年金改革

(2)

1. 中国経済の「新常態」

1‒1. 中国の「新常態」への移行と高度成長の終了 中国の「新常態」と中国住宅市場の動向

フィナンシャルタイムズ,

2014

10

23

日の社説は,「中国はニュー・ノー マルへの痛みを伴う移行を開始」したと題して,中国経済が「新常態」に入った という中国政府の主張を再確認した.

この「新常態」という言葉は,

2014

年の夏ごろから中国政府指導部によってよ く使われるようになった.この言葉には,中国経済が高度成長から転換して安定 成長を模索する時代に入ったこと,したがってこの転換の時期において必要な経 済改革1を推進するという意味が含まれている.

近年

(とりわけ金融・不動産バブルが再拡大した 2009

年以降)において,中国 の景気を主導してきたのは住宅2の販売動向であったが,

2014

年の始めから不動 産業の販売がついに減速した.それまで住宅や不動産は転売できる投資対象であ り,価格が上昇してきたが,

2014

年には供給過剰が顕在化した.

2014

5

月以

1

1990

年代において朱鎔基が経済改革を主導していた時代には,引き締め政策を通して

経済改革を実行した.だが,先進資本主義国がすべて「非伝統的」な中央銀行の大幅金 融緩和に依存し続け,その状態から抜け出せないでいる現状においては,経済改革をそ うした方向に向けて行うことは困難であろう.

2 中国における住宅の商品化は,

1998

年から正式に始まったものであるが,

1998

年に新 規竣工建設面積

1

6637.5

m

2

(販売面積 1

2185.3

m

2

であったものが,竣工 面積で

2009

年の

9

3298.4

m

2から

2010

年には

12

9359.3

m

2へと急増し,

その後の

3

年間は

13

億〜

14

m

2で推移してきた.これに対して販売面積でみると

2005

年に約

5

m

2の水準に達し,

2007

年には

7

m

2を若干上回ったのち,

2008

には

6

m

2を若干下回ったが,

2009

8

6184.9

m

2から

2010

年以降

9

m

2 まで漸増し,

2013

年には

11

5722.7

m

2に急増した.したがって,

2009 〜 2013

5

年間だけで,約

15.6

m

2が売れ残って在庫となっていることになる.

(3)

7

ヶ月連続して

100

都市平均の住宅価格は低下3し,これに資金を供給してきた 理財商品の債務不履行

(デフォルト)

などの金融システムのリスクが高まっている といわれた.

では,中国の住宅価格の低下は,金融システムのリスクに直接に結びつくもの となったのか.

中国住宅市場の特徴

例えば,フィナンシャルタイムズが発行した

“GLOBAL PROPERTY INSIGHT”

2014

年秋季号4は,「中国のしだいに動かなくなってきた不動産市場は世界経済に 対する最大の脅威と見られている」と題して,中国の不動産市場は「過剰建設」

「過大価格」「過剰借り入れ」の状態にあると規定し,国家統計局による調査が 70

都市のうち

64

の都市の住宅価格の下落を通して,

2005

年に記録が開始されて以 来最大の月単位での下落を記録した事実をとりあげた.

だが,この記事は,これに続けてアメリカのサブプライム後の危機にアメリカ にあったのと同様の切迫した危機の恐れを言うのは,言いすぎであるとして,中 国の住宅貸付の条件が厳格であることを挙げている.たいていの住宅ローンでの 頭金払込み義務付けが一軒目の買い手に対しても

30 40

であり,二件目以降 の買い手になると

60 〜 70 %

となることである.その結果として,

2014

年の住宅 価格の急激な下落が銀行を不良債務で行き詰まらせるというのは言い過ぎである として,

JP

モルガンアセットマネージメントのグローバルマーケットストラテ

ジストの

Ben Luk

「今年の価格下落はすべての人に予知されていた」こと,お

よび「家計のバランスシートの強さと厳しい住宅ローン条件は,この分野が経済 全体を頓挫させることを防いでいる」という発言を引いている.

さらに

IMF

2014

4

月発表したペーパーには,中国が

11

のアジア諸国の

3 これは,株式市場への資金流入を通して株式相場を急上昇させることになったが,銀行 は不良債権の増加を恐れ,貸し出しを絞っている.工業生産,社会消費品小売総額は,

2012

年以降ともに横這いないし漸減傾向にある.

4

FT.com/GPI .当該記事は, Ftfm ( FT’s fund Management section )

のエディター

Chris Newland

による執筆,

p. 18

(4)

中で家計の負債度が低い方から

4

番目

GDP

の約

12 %)

に位置していることを 紹介している.(ニュージーランドとオーストリアは

90 %

をこえる.)

残る問題は,「数多く取り上げられ過度に宣伝されている」中国のゴーストタウ ンであるとして,大量の住宅建設が二級および三級都市で起きているがそこでは 都市化の動力は強くないこと,他方大都市では中位・上位所得者向けに住宅が提 供されるが,多くの低所得層にとっては選択肢がほとんどなく,住宅価格の上昇 は巨大な富の格差を形成してきたこと.したがって,長期的に需要と供給の食い 違いを埋めるは政府であり,社会住宅の建設とその認可手続きの簡素化はすでに 始められているが,より多くのことがなされなければならないと,

Ben Luk

は言 う.

さらに,不動産コンサルタントのフランク・ナイトは,国際的な不動産市場に 流入する中国マネーが,

2014

年年内に倍増し,中国発の取引件数が

2007

年以後 の最高水準に達するとしている.最後に,グローバルな不動産投資会社

Forum

Partners

の最高経営責任者であるラッセル・プラットは,中国の不動産市場は中

国の貯蓄者と銀行により資金を提供されており,なお世界の他の部分から孤立し た市場であるため,世界の不動産市場にとっての最大のリスクは,量的緩和が作 り出した以上に低い不動産利回りによる不確実性にあるとしている.

2014

年のその後において,中国人民銀行は住宅ローンの規制緩和を行い,

2014

11

月には

2

年か月ぶりに金利の引き下げ5を実施した.中国の景気減速の起点 は不動産市場であるとみられているためであろう.

この不動産市場では販売価格の下落は続いているが,

2014

12

月の主要都市 の不動産販売面積は前月比

19 %

増と

11

月の同

7 %

増から加速し,市場では

2015

年半ばの底入れ説も浮上している6

すでにみたように,住宅・不動産の供給過剰といっても,大都市では住宅需要 が底堅いのに対して,地方都市

(中国では中小都市といっても日本のそれに比す

5 この金利引き下げには,中国の対日輸出が大幅に減少している状況下で,日銀の追加金 融緩和に対抗する狙いがあったという見方もなされている.中国では,金融緩和への期 待から上海株式市場が世界的な株安の中で

5

年半ぶりの高値圏を維持している.

6 日本経済新聞,

2015

1

7

(5)

れば規模が大きいが)では住宅の供給過剰により不動産市場が低迷して供給過剰 に陥っているという二極化の状況にある.

住宅・不動産の供給過剰とインフラ関連産業の生産設備過剰

それだけでなく,住宅・不動産の供給過剰は,鉄鋼7やセメント産業などの中国 におけるインフラストラクチャー関連産業の生産設備過剰もまた深刻化させるこ とになった.ただし鉄鋼やセメントなどの製品は,中国のような巨大内陸国では 輸送コストの負担が大きく,分散システムによる生産の方が効率的であるという 一面を持っていることにも留意すべきであろう.

中国が

2011

年・

2012

年に生産したセメントの量・

43.1

億トンが,アメリカが

20

世紀全体に生産した量を上回るという事実は,よく知られている.ちなみに,

2012

年のセメント生産量は,

1

位の中国が

22.1

億トンと世界全体の

38.3

億トン

57.7

を占めており,

2

位のインドが

2.7

億トン,

3

位のアメリカが

7493

トンに過ぎない.しかも,鉄鋼産業やセメント産業は石炭を大量消費することを 通して中国の大気汚染の主要な原因ともなっている.

だが,雇用・景気対策として中国が今後公共投資を増加することがあっても,

こうした二極化の状況がある以上,また建築活動,土地販売,住宅販売がいずれ も低落し,不動産の在庫が上昇している以上,不動産の在庫過剰やインフラスト ラクチャー関連産業の生産設備過剰の解消に役立つとは言えない.

さらに言えば,これらの中国インフラストラクチャー関連産業の拡大は,

21

紀の初頭における世界の資源ブームを拡大させた主導的要因であり,中南米やア フリカ,中東に至る資源国の経済成長を促進して,世界市場をこれまで見られな かった規模にまで拡張する要因8となっていた.

7

2013

年の粗鋼生産量は世界全体で

15

8249.3

万トンであるのに対して,中国は

7

7904

万トン

49.2

と約半分である.

2

位の日本が

1

1057

万トン.

8 振り返ってみれば,工業化の

100

年を経た欧米先進国

(これにアジアにおける日本を含

む)と中国を含む第三世界の後進国という開発経済学が言う伝統的な教科書的な区別が 成立したのは,

1980

年代までのことであり,

1990

年代以降とりわけ

2002

年以降にお いては,中国の経済発展が世界の経済発展を牽引してきた.

(6)

中国経済圏の高度成長の終了

先にあげたフィナンシャルタイムズの社説でも確認されているように,中国経 済は,

1980

年から

2009

年まで平均年率

10.1 %

の二桁経済成長を

30

年間続けて きたが,この高度成長は資本主義の歴史において他にほとんど例を見ない長いも のであった.

関連して挙げておけば,アメリカの経済学者ラント・プリチェドとローレンス・

サマーズは,

6 %

以上を超高速成長と見た時,

10

年以上これをつづけた国はまれ であり,中国の

30

年という高成長の期間に匹敵するものは,台湾の

32

年と韓国

29

年だけであったとし,この時期が終われば中国の成長は

4

と,多方の予 想よりも大幅に低くなる可能性もあるという予測を行っている.

また,

IMF

2014

年に

7.7 %

であった中国の経済成長率が,

2015

年には

7.1 %

となると予測している.

なおここで

30

年以上高度成長を続けた国として挙がっている台湾と韓国とは,

ともに中国経済圏に属している国であり,中国経済圏のセンターとしての中国本 土の高度経済成長なしにはその工業化による高度成長は達成されなかったもので ある.

したがって,より大きく見れば

2009

年までが中国経済圏の高度成長の時期で あったということは,世界資本主義の基軸がどこになるのか,中国経済がアメリ カ経済の生産力をどのような形で受け継いで国際分業体制を形成するのか,アメ リカ経済と中国経済との関連における世界資本主義―生産力の質的変化の歴史的 過程の問題が,あらためて考察される必要がある.

この中国経済の「新常態」への移行は,

2014

12

11

日まで開催された

2015

年に向けて経済運営の方針を協議する中央経済工作会議で,「高速成長から中高速 成長への転換」というかたちであらためて正式に確認された.

1‒2. 日本側の中国認識の変化

なお,

2014

11

月初めの時点において,日本の経済週刊誌もまた,中国経済 が転換期を迎えたという問題を取り上げていた.

エコノミスト

2014

11

4

日号は,「中国大減速」―金融・不動産バブルが

(7)

牽引した高度成長の終焉―を特集し,

GDP 7

割れ容認の衝撃,バブル崩壊 と景気急落のリスク,習近平「追い詰められ改革」の隘路,進まない格差是正,

絶好調アリババへの疑念などの問題を扱っていた.

また東洋経済

2014

11

15

号は,「中国暗転」―高成長の終わりと日本企 業の商機―と題して,過剰投資抑制に全力,不動産市場崩落回避へ政策転換,

技術革新をだれが担う,法治推進では地方への統制が鍵,近隣外交では経済力使 い緊張緩和の

5

つを羅列的に並べていた.

これらの見出しから見ても,中国が金融・不動産バブルが牽引した高度成長の 終焉を迎えているという共通認識があり,高度成長が終われば投資の選別が行わ れるに違いないという認識が生まれているということを示す.またそうした認識 に基づいて尖閣列島問題以来顕在化した嫌中・嫌韓のムードとそれと結びついた 中国経済のシャドウバンキング拡大による崩壊論が後退したこと,当初は「最弱 の帝王」とも呼ばれた習近平政権も一応国内的に安定した,次は世界最大の市場 となる中国国内市場の問題であろうという認識が見て取れる.

ついで,

2014

12

月の総選挙の直前に日中首脳会談が漸く実現した.この首 脳会談に先立って公表された日中の合意文書では,「日中の戦略的互恵関係を発展 させることを確認した」ことで,第一次安倍政権の時点のレベルまで戻して,貿 易などの経済交流を活発にして行くことを含意し,さらに「政治・外交・安保対 話を徐々に再開」するとしたことによって,経済交流についてはすぐに再開する ことを確認した9

.このことは, 2015

年において日中関係が改善に向かうことを 予測させる.

だが,こうしたコンセンサスに沿った展開が現実に起こるかどうかは,未確定 である.これと反する予測もなされているからである.そこでいったん中国の内 部から離れて,世界が中国をどう見ているかという問題を検討しよう.

9 安倍首相の靖国参拝,尖閣諸島の領土問題については,玉虫色の解決とした.

(8)

10 日経ヴェリタス,

2014

1

4

日.

ルービニは,そのブログにおいて,クレディ・スイスとのインタビューにおいて,中国 経済は重大な屈曲点に直面しており,中国の指導者たちが投資に過度に依存している経 済からより消費に主導される経済への移行にうまく対処できるかが問われているといっ ている.

1‒3. アジア通貨戦争への懸念と中国経済,日本経済

ルービニは中国の低成長によるハードランディングの可能性を指摘

米エコノミストのヌリエル・ルービニ教授は,

2015

年の五大リスクの一つに,

欧州の景気「三番底」,日本の「アベノミクス」失敗リスク,地政学的リスク,ド ル高で生じる世界通貨ショックと並んで,中国のハードランディング懸念を挙げ ている.

ルービニは,「中国の成長率が

15

年に

5 %

まで低下したら,国際商品とアジア 株は値がつかない状態になる」と,中国のハードランディングがグローバル経済 にもたらす結果を懸念している10

.その世界経済への影響は,資源のスーパーサ

イクルの終わりと新興国経済への逆風であり,さらにはアメリカにおける

Fed

緩和政策の終了となるとする.ちなみに,先にあげたサマーズらも,中国の成長 率が

4

へと減速することは,中国経済のハードランディングに等しいという予 測を行っていた.

したがって,この見方が当たっているとすれば,中国経済は高速成長から中高 速成長への移行期に差し掛かっているというような,生易しいものではなく,ハー ドランディングの蓋然性を残していることを意味している.

アジアからの通貨戦争も

またルービニは,アジア第

2

の経済大国日本の中央銀行である日本銀行の円安 誘導についても,その危険性を指摘している.すなわち,これは「アジアだけで なく世界中で政策対応を引き起こしている近隣窮乏化の手法だ」とし,「中国や韓 国,台湾およびシンガポールやタイの中央銀行は,日本に対して競争力を失うこ とを恐れて金融政策を緩和しており,さらなる緩和も見込まれる」と分析してい る.

(9)

したがって,これは,強く言えば,アジアにおける通貨戦争,為替戦争の再現 の危険性である.

フィナンシャルタイムズは,

2015

年年頭において「

2015

年の争点」として「何 がうまくいかない可能性があるか」と題する記事で,「来るべき年の関心事の長い リスト」に,①中央銀行の行動の誤りとオイルショックを特記している.そ の中で,「原油価格の低落と強いドルは,新興諸国の通貨の変動に燃料を供給す る」として,アリアンツのチーフエコノミックアドヴァイザー・モハメド・エラ リアンの「為替相場が唯一の緩衝装置として機能するであろう」が,「結果として 生じる通貨の変動はグローバルシステムの経済的金融的支柱のあるものを不安定 にするリスクがある」との発言を引いている11

このエラリアンのいう「為替相場が唯一の緩衝装置として機能する」ことの意 味は,ドルを基軸とする固定為替相場制崩壊直後の

1970

年代から

1980

年代にお いては,先進国の中央銀行が金利の引き上げによる「金利戦争」を展開して為替 相場の相対的安定関係を維持したことと歴史的に比較される.そこには

1985

プラザ合意,

1987

年ルーブル合意に見られた,国際的協調関係を通してアメリカ の国際収支改善とドル相場の安定に協力する力関係もまた存在していた.現在の ように,先進国の中央銀行がゼロ金利と

「量的緩和」

からの脱出の困難状況に陥っ ていることは,もはや中央銀行には「為替相場」を「唯一の緩衝装置として機能」

させる以外になくなっているということにほかならない.

ユーラシアグループは中国の安定性を評価

米ユーラシアグループは,

2015

年の「十大リスク」12として,

1

位に「欧州の 政治」

2

位に「ロシア」を挙げたのち,

3

位に「中国経済の減速の影響」を置い ている.「今年の中国について,われわれは極めて楽観的である.習近平総書記は 就任以来並外れた力を固めた」とし,彼は,長く引き延ばされてきた経済の 再調整

(リバランス),②

大気汚染の改善を困難にめげず推進すること,③国有 企業により効率化を目指した一連の対策を実行すること,④さらに共産党内部で

11 フィナンシャルタイムズ,

2015

1

3 〜 4

12 ユーラシアグループ

HP

(10)

巨大な反腐敗運動の先頭に立つこと,という政策を開始した.

習近平は,地政学的・地域経済学的に西側のロシアとの対抗関係からの勝利者 であるとし,かれが国内経済に焦点をおいたことは,中国の近隣政策を日本,イ ンド,もしくは東南アジアとエスカレーションする場合よりバランスのとれたも のとするであろうとしている.

また,習は「原油価格の劇的な低落を最大の政治的奇貸」として,……「重大な 政治的リスクなしに劇的な経済の再調整

(リバランス)

をやろうとしている.彼は 今後さらに

18 24

か月の安定を手に入れた.このことは,中国の安定はするが より減速した成長

(とりわけ資源などのコモディディ集約的な分野における)

に結 果するであろう」とみている.

したがって,中国経済の減速の影響は,中国への輸出依存を深めたブラジルな どの資源国に特に大きな打撃となるとしている.

なお,ユーラシアグループは第

9

位のリスクとして台湾と中国本土との関係を 挙げている.中国本土と台湾との関係が,野党民進党が政権政党国民党に地滑り 的な勝利をしたことにより,

2015

年には急激に悪化するという予測を行ってい る.すなわち,北京は,台湾に対してより敵対的なアプローチをとり,その結果 として米中体制に敵対関係が生じるかもしれないということである.

1‒4. 円安政策によるアジア通貨戦争への懸念 円安政策とアジアの反応

これに関連して中国とアジア資本主義の関連にも触れておこう.ブルームバー グヴュー・コラムニストのウィリアム・ペセックによって,日本の安倍政権がとっ ている円安政策は,「日本は先進国なのに,為替に対してほとんど発展途上国のよ うな姿勢をとっている.……中略……アジアの通貨戦争から

20

年近く経っても,

日本は依然として円安による手っ取り早い解決策を望んでいる.日本の競争力は 悪化する一方だ」「日本だけでなく世界のためにも,円相場がどこに向かうのか真 剣な議論が求められている」と酷評されている13

13

Bloomberg 2014

12

11

日配信

(11)

言い換えれば,世界第

3

位の経済大国に後退した日本は,

20

年前の第

2

位で あった時と変わらずに,自分の家庭の事情からないしは自分の家の窓の内側から しか世界を見ることができないということが,日本の外部からは見透かされてい るということであろう.

前記フィナンシャルタイムズの記事は,中国に対して,「中国では経済のハード ランディングが繰り返し現れる関心事となっている.多くの人々をして恐れさせ ているものは,本格的な通貨戦争の危険である」として,アヴィヴァ・インヴェ スターズのマクロ戦略部門のヘッドであるチャールズ・ディーベルの「日本の政 策は中国からの反発に直面するであろうし,反発する可能性があるがまだそうし ていない他のアジア諸国がある.通貨戦争はグローバル経済を不安定化し,……

(中略)……アメリカの対応を要請することになるというリスクがある」という発

言を引用している.

中国の経済危機の可能性も

さらに,同じ日付の同紙上でコラムニストの

John

Authers

もまた,

Fed

2013

5

月に金融政策の「正常化」を表明し始めて以降数回にわたる危機のドレ スリハーサルをすでに経験してきているとして,危機のシナリオの一つに,「中国 経済の成長力の低下はシャドウバンキングの崩壊を導くので,中国は危機になる.

これへの

(中国の心配が 12

月の微調整に至らせた)」ことを挙げている.

また,ロイターは,「

2015

年の逆張り予想」として,

5

14上げている.そのう ちの第

1

に「中国の経済危機」を取り上げ,「中国の信用バブルが崩壊し,不良 債権が増大して全面的な金融危機を巻き起こす.政府が

7.5 %

を目標とする成長 率は

2 %

に鈍化する.ファソム・コンサルティングはこのシナリオの確率を

35 %」

としている15

以上中国経済をその外側から見てきたわけであるが,そこで指摘されているこ

14 これ以外の

4

項目は,「ユーロ圏がついに休眠状態から抜け出す」,「ドイツ国債利回り が上昇」,「

5

月に総選挙がある英国の政治リスク」,「ドル安」である.

15

jp.reuters.com./2014

12

06

(12)

とは,中国政府指導部のいうところの「新常態」(字義通りに言えば新たな正常状 態)が,成長率目標16を徐々に引き下げるが雇用不安を起こさないだけの成長は確 保した上で内需主導・消費主導型の経済改革を進めていけばよいという平穏かつ 単純な状況にはないということである.

中国政府は,習近平指導部発足の当初において,リコノミクスとも一時言われ,

一般的な言い方をすれば市場経済に対応できる経済構造改革の必要性を強調して いたが,その後は国内的には官僚制統治機構内部における反腐敗の摘発運動によ る権力闘争,さらに対外的にはアメリカと並ぶアジアの大国としてのナショナリ スティック17な自己主張に力点が置かれていた.

中国政府指導部は発足後

2

年を経た時点で,中国経済改革という本題に戻って きたが,反面これは経済改革についてはまだ大きな進展が見られていないという ことでもある.そこで,中国政府指導部が「新常態」に対してどこまで現実に即 して正確にかつ客観的に認識しているか,またその上で経済改革にどこからまた どこまで本格的に取り組むもうとしているかを,あらためて検討しよう.

2. 債務中毒の承認,問題解決に取り組もうとした中国指導部 2‒1. 中央経済工作会議とリスクの提起

習近平総書記は,

2014

12

11

日まで開催された中央経済工作会議におい て,「成長率の低下に伴い,隠れていたリスクが顕在化している.高いレバレッジ

(負債依存度)

とバブルを主な特徴とする各種のリスク解消には時間がかかる」と 発言した.

したがって,繰り返して確認すれば,ルービニなどの論者も指摘したように,

「成長率の低下」

が,「高いレバレッジ

(負債依存度)

とバブルを主な特徴とする各 種のリスク」を顕在化させたこと,しかもその解消には時間がかかることを,習

16 中国政府のシンクタンク中国社会科学院は

2015

年の経済成長率を

7 %

前後と予測する.

17 中国ないし中華はそれ自体が世界であり,ヨーロッパ的な国民国家を前提とするナショ ナリズムとは異質であるから「ナショナリスティック」というのが妥当であるかについ ては問題があるが,とりあえずこのように言っておきたい.

(13)

近平総書記が率直に認めたということである.そして,中国経済が抱えているリ スクの性格は,金融資産バブルの拡大の根底にある

《負債中毒》

というかたちで 確認されている.

この

《負債中毒》

は,胡錦濤前政権時代に実体過程における国有企業を主体と する鉄鋼・セメントなどのインフラストラクチャー関連産業の拡張を伴いつつ拡 大したものであった.道路,港湾,空港鉄道などといった「ものと人との移動と 流通」システムの拡大は,(アメリカにとって,鉄道や自動車時代におけるイン ターステートハイウェイ建設が果たした役割と同様に),中国のような縦深の深い 巨大内陸国家の経済的発展

(それは,内部に向かっての発展の可能性を持ってい

るということでもあるが)にとって不可欠であるからである.

この

〈新常態〉

が,どういう状態を示すかについて,すでにあげたフィナンシャ ルタイムズの社説

( 2014

10

23

日)は,中国は債務中毒の状態にあるが,そ れを本格的に攻撃することは,北京政府と世界を激動させる結果になるであろう と指摘してそのリスクの大きさを確認し,「新常態への転換」とは,その現実が含 むリスクをカムフラージュする表現であると言っていた.したがって,この社説 も指摘しているように,「新常態」とは,発展の鈍化に向かっている中国経済の深 刻な現実とそれが含むリスクをカムフラージュするという意味をも持っているわ けである.すなわちカムフラージュということには「見るべきものを見ない」と いう自己欺瞞も含まれるわけである.

中央工作会議では,民間銀行の市場参入や,その多くが上海貿易試験区で実験 中の投資など

9

つの分野の改革,経営陣の給与カットや民間企業の参入などによ る国有企業改革などが論じられたとされているが,持続可能な成長へと転換する ことは大きな困難を含むに違いない.

こうした問題については,今後の具体的推移を見守るべきであろう.

2‒2. 国家発展改革委員会の報告書 無駄なインフラ投資

2014

11

28

日のフィナンシャルタイムズ中国語版は,国家発展改革委員 会の徐策と同マクロ経済研究院の王元が共同して「報告書

過去

5

年で中国は

6

(14)

8000

億ドルの投資を無駄に」を掲載した.そこでは,

2009

年から

2013

年の

5

年間で中国の無駄な投資―閉鎖された製鉄所,使われない高速道路,住民の いないゴーストタウンなどの巨大建設プロジェクトがその代表である―が,総 投資額の半分近くに上ったという評価がなされていた18

この報告が発表されたこと自体は,先の中央経済工作会議での習近平発言と合 わせてみれば,中国共産党の指導部が習近平指導部発足以後

2

年たったが経済改 革が進捗していないという事実とその課題の困難さを認めていること,さらには その課題に取り組もうとする決意を示しているものと,いちおう評価できよう.

だが同時に,この報告書の内容が真実であるとすれば,中国経済を持続可能な 経済成長とするためには,工業化と都市化の方向を根本的に見直すことが必要で あるという課題が出てくる.しかも中国の経済発展の過程は,中国の工業化と都 市化とが,各地域が相互に発展を真似し合い,経済成長率を主要な物差しにして 競争し合いながら発展してきた過程であった.

経済成長へのこだわりを捨てられるか

したがって,中国政府が

2015

年においても

7

前後の経済成長という数字に こだわっていることは,深刻な現実とそれが含むリスクを直視することとの矛盾 を含むことになる.石炭に過度に依存してきた結果としてのエネルギー問題や,

大気汚染・水汚染・土壌汚染などの環境問題,さらには高齢化社会化や人口移動 による地方の労働力減少・全国の生産年齢人口減少などは,それ自体として中国 経済の発展を低下させる要因となってきたのであるが,より根本的には中国経済 だけでなく中国社会が持続可能な発展方向へと方向転換できるかを問う課題とし て登場しているからである.

The Economist

の「

2015

 世界はこうなる」において,中国は,エコノミス ト誌の中国担当エディター・ジェームズ・マイルズによって,「さらなる力を得る だろう」と題して「成長率は下がっても影響力は高まる」と論じられている.さ らにアジア経済エディター・サイモン・ラビノビッチによって「注目すべき数値,

18 日経ヴェリタス,

2014

12

14

日による.

(15)

GDP 」として論じられている

19

.「中国は経済成長という問題に」引き戻されて

しまう.なぜなら「中国の経済成長が減速するにつれ,目標値は政策決定の指針 となる強いコミットメントへと形を変えていったのである.これについては政策 決定をゆがめるものだという批判も強い」ことを指摘し,「改革20は,いつ実施し ても早すぎるということはない.

2015

年は中国財政にとって大荒れの年になるだ ろう」としたうえで「腐敗が拡大するのを防止するためには成長の減速と迅速な 改革が必要だ.それには今が絶好のタイミングなのではないだろうか」と予測を 結んでいる.

同時にまた,従来論じられてきた中国経済の金融バブル崩壊による危機の蓋然 性も,改革が進まない場合にはなくなるわけではない.これに対しては,金融改 革と企業改革―国有企業と国有株式商業銀行はともに既得権の集団を形成して いる―の今後の動向を踏まえて検討する必要がある.ただしすでに検討した通 り,中国の金融バブルは,消費主導型の経済であるアメリカのサブプライムバブ ルが示したように,債務返済が困難な層の消費者の借金の拡大に依存してきたわ けではなかった.

もちろん,中国には中小の不動産会社が数万社あり,これらの会社は,中国国 内の金利高止まりを受けて国外での外貨建て借り入れを拡大している.大手の不 動産会社は,海外不動産投資を積極的に行おうとしている.これによって,中国

2014

6

月末の外貨建て債務は,

1.1

兆ドルと

1

年間で

50 %

近く拡大21した.

不動産会社のような水商売的業種にとって,この外貨建て債務の拡大は,アルゼ ンチンのデフォルトやアジア金融危機の実例におけるように,中国経済のリスク となるに違いない.

2‒3. 内部地域に向かって発展してきた中国経済

振り返ってみれば,中国は,改革開放の開始以降,先進国製造業の多種多様な

19 日経

BP , pp. 34 〜 35, 36 〜 37.

20 なおここでラビノビッチがより踏み込んで論じている改革については,次の

3 .「中国

経済改革の必要性とその課題」であらためて論じる.

21 日経ヴェリタス,

2014

12

14

日による.

(16)

産業部門の直接投資を受け入れつつ,沿海地域から始まった各地域が相互に競争 しあう設備投資競争を通して,輸出加工貿易の拡大を含んで世界の工場として成 長した.中国製品が世界市場品質のものとなったのは,

2001

年の

WTO

加盟以 降のことであり,

IT

機器・部品,携帯電話,自動車産業・同部品などの拡大を通 して,世界のサプライチェーンの基軸となって発展し,またこのことを通して経 済大国となって台頭した時期においてであった.

また,

2005

年には,人民元の管理変動相場への移行が行われたが,中国は人民 元の対ドル為替相場上昇を抑制するためのドル買い介入によって,ドルを支えて 人民元が基軸為替となる責任を負うことを回避してきた.この過程を通して,中 国は,

4

兆ドルに達しようとする外貨準備を積み上げる結果となったが,それと ともに,国内への人民元資金供給を通して,設備投資バブルと住宅バブルを拡大 する燃料を供給してきた.そしてこの中国の貿易収支黒字幅は,

2005

年の

1775.2

億ドル以降急増し,

2008

年に

2981.2

億ドル

GDP

6.6 %)

とピークに達し,

2011

年には最大の輸出先である

EU

およびアメリカの景気停滞を反映して

1549

億ドルまで低下したのち,

2013

年には

2590.1

億ドルまで戻したが

GDP

比では

2.8

まで低下した22

この貿易赤字の縮少は,先進国経済の停滞だけでなく,中国国内の労働力不足 の顕在化による労賃上昇が,輸出産業の競争力を少なくともこの

3

年にわたって 削いでいるためである.

2007 8

年に欧米から始まった世界金融危機は,沿海部の中国輸出産業を苦境 に陥れたが,それによって中国の経済成長は終わらなかった.そのことは,中国 経済が輸出依存型の経済成長ではないこと,インフラ投資の拡大を通して,中国 の工業化と都市化が内陸部に向けて拡大を続けてきたことによる経済成長である ことを示した.そしてその反面は,先にみた巨大建設プロジェクトが作り出した 無駄な巨大投資でもあった.

したがって,中国は,リーマン・ショック以降において,国内市場の拡大によ る経済発展とりわけ不動産・住宅建設および道路・鉄道などの巨大プロジェクト

22 中国統計年鑑

2014

による.

(17)

の拡大への依存を強めることを通して,経済大国となった.だが,この経済大国が 内部に向けての発展を継続するには,現在迫られている債務膨張とバブル抑制の 本格化の先に,一人っ子政策の結果としての急激な高齢化への対応が控えている.

そこでこの問題を中国経済改革の必要性としてあらためて論じよう.

3. 中国経済改革の必要性とその課題 3‒1. 資金大国としての中国の内実と債務の膨張 資金大国中国の反面は債務の膨張による 

〈借金疲れ〉

中国は,人口動態から見て

2040

年には,高齢者一人を二人で支えることにな るという急激な高齢社会化を迎える.したがって,中国経済の消費の増加を通じ ての発展,市場としての中国の拡大を順調に実現するためには,まだ一人当たり 所得が

2013

年で

1

5462

元と,世界銀行の推計ではアメリカより約

4

万ドル以 上も少ない中国の人々が個人貯蓄を増やして教育・医療・老後に備えるしかない という現実を変えて行かなくてはならない.そしてこの現実への中国の人々の対 応が,個人の消費抑制による貯蓄を通して,中国を資金大国としている.ちなみ に中国の

2013

年の預金量は,

104.4

兆元であり,その内訳は企業預金

52

兆元,

家計預金

46.7

兆元などとなっている23

いまだに不十分な年金制度についても,中央政府の負担はまだ

3

分の

1

であり,

これを

2

分の

1

にしようとしている段階である.また,中国は,介護保険を高齢 化がもっとも先行して進んでいる上海市や南京市などの大都市で試験的に実施し ようとしている.これは,仮にも社会主義を標榜している中国においては,今の うちに高齢化社会への対応を行わなければならないことの困難さを示す.

中国の総債務

(政府・家計・企業の合計)

は,

GDP

240

前後とリーマン・

ショック以前の

2

倍に膨張した.中国の平均的な市場利子率が

7

と仮定すれば 債務返済額は,

2014

年の予想

GDP

17 %・ 1.7

兆ドル

(これはインドの 2013

年の

GDP1.87

兆ドルに匹敵する)に上る.この

1.7

兆ドルという数字は,

2014

年の

9

月末までに工場と設備に投資した額と同じである.そして,

2014

年の

1

23 中国統計年鑑

2014

による.

(18)

9

月の間に建築と不動産の購入に投下された額を上回っている.

この状態をフィナンシャルタイムズは,〈借金疲れ〉と表現したうえで,信用拡 張によって支えられてきた中国経済にとって致命的なものともなると見ている.

中国は

7.7

成長であった

2013

年において

GDP (約 9.24

兆ドル,

56.9

兆元)

48

の投資を行っていた.格付け会社のフィッチによれば,不動産の過剰供給を 減らして空き家の数を,現在の約

28 %

から

2008

年の水準に戻すとすれば,

GDP

の成長を

4 %

という多くの人がハードランディングと見る水準まで引き下げる必 要があるとする.

地方財政改革への取り組み

地方政府の債務についてみると,中国審計署によれば,

2013

6

月末時点で中 国地方政府が直接・間接に責任を負う借金は,計

17

8909

億元

(約 318

兆円相 当)であり,

2010

年末の

10.7

兆元から大幅増加となっていた.このことは中国 経済のシャドウバンキング拡大による崩壊論の根拠ともなっていた.その内訳は,

地方政府傘下の投資会社

39.0 %,政府部門・機関 22.7 %,地方国有企業 17.5 %,

公共施設など補助対象の団体

13.4 %,その他 7.4

であり,したがって投資会社

(融資平台)

が最大の借金主体となっている.これまで地方政府は明示的に保証し ないまま傘下の投資会社に道路や公共住宅の建設を代行させてきた.

同じく中国審計署の実態調査によると,

2013

6

月末の投資会社24

(融資平台)

の債務残高は約

6

9700

億元

(約 140

兆円)

2010

年末に比べ

4

割の増加で あった.地方政府はこのうち

71

に当たる約

5

兆元に明確な償還責任を負って おり,残る

29 %

は危機時には救済する可能性がある債務としていた.

このため,中国財務部は,地方政府に対し

2015

1

5

日までに「

14

年末時 点の返済すべき債務を分別し,その金額を報告する」よう求めた.

すなわち,地方政府が投資会社の債務を保証しないことを明確にすれば,地方 債務に分類する必要はなくなる25

.その場合,焦点は既存債務の取り扱いにある.

24 調査対象は全国

7170

25 新疆ウイグル自治区ウルムチ市と江蘇省常州市の地方政府は,傘下のインフラ投資会社 の新規発行債券を保証しないことを明確にした.(日本経済新聞,

2014

12

25

日)

(19)

これまで金融機関は政府の暗黙の保障を前提にして投資会社に融資してきており,

既存債務を保証しないとすることは金融市場の動揺を引き起こすからである.

中国国務院は

2016

年をめどに投資会社による資金調達を禁止し,代わりに地 方債の発行を条件付きで解禁する方針である.

そしてこのことは,地方のインフラ投資会社が従来のように採算を度外視した 大規模な投資を行うことを困難にする.

したがってまた,民間住宅投資と並ぶ中国の経済成長のエンジンであった地方 のインフラ投資は一段と減速する26

中国債券市場の拡張

ちなみに,中国の債券市場は,米

S&P

によると

2013

年末で

14.2

兆ドル

(約 1700

兆円)となり,米国の

13.1

兆ドルを抜いた.これは,社債を担保に短期資 金を調達するレポ取引に資金調達を依存する企業が多いことを意味している.そ して,この中で社債がデフォルトする危機を地方政府のテコ入れによって救われ る例が時にあることは知られているが,

2013

年に中国で発行された社債のうちダ ブル

A

以上の格付けを取得したのが全体の

96

と,信用力の低い企業でも政府 の支援を前提に安易に高い格付けを得ている.したがって世界最大の債券市場の 実態は危険に満ちていると言わざるをえない27

さらに,世界の債券市場の状況を見ると,米トムソン・ロイターによれば

2014

年の世界の社債発行額は

3

3535

億ドルと

2013

年より

5

増えた.また発行残 高は,英バークレイズの集計で

6

8900

億ドル

(約 840

兆円)と主要

24

通貨で 発行された各国の国債残高約

21

兆ドルの

3

割を超える規模

(うち低格付け企業の

社債であるハイイールド債は約

2

兆ドル強)となっている28

.先進国の中央銀行の

26 日本経済新聞,

2014

12

25

日による.

27 日経ヴェリタス,

2014

12

14

日による.

28 日本経済新聞,

2015

1

7

なお,ハイイールド債のうち約

15

はシェールガスの開発などエネルギー開発関連の 企業であり,原油安で採算が悪化している.国際決済銀行などはハイイールド債市場の 過熱に警告を発してきた.

(20)

金融緩和の結果としての過剰マネーとその運用難によって生じた現象である.

また,中国においては,企業預金の残高が家計預金の残高を上回っている.こ れは,中央銀行の金融緩和を通して供給された資金が,企業の過当競争が続いて きた中で,投資の選別が迫られる状況が生まれてきており,投資先のない資金が 準備金として滞留していることを示している.

なぜなら経済の高度成長の動力は,一般的に言えば企業集団間の設備投資競争 中国においては地域間の設備投資競争にあったわけであり,結果的には生産能力 の過剰

(資本の過剰)

を組織的に作り出すことになる.

したがって,この過程が「新常態」において示されたように,根本的には労働 力の制約にぶつかって減速を開始すれば,日本の金融資産バブル崩壊後に見られ たように,生産設備・雇用労働力・資金と負債の過剰という「三つの過剰」に直 面することになる.生産設備を削減して合理化しようとすれば,雇用問題が生じ るし,それが深刻化すれば,消費主導型経済への転換に必要な経済の構造改革の 実行が危うくなるだけでなく,社会不安を引き起こすことになる.

3‒2. 予算法の改正実施から財政・税制改革へ進めるか?

予算法の改正実施と地方財政改革

2008

11

月から

4

兆元の財政支出

(既存の計画まで含めたもので中央政府の

支出は

1.1

兆元)が行われた.これ以降の財政支出は,都市化のための住宅建設,

道路建設,鉄道投資などのインフラストラクチャー投資などは,

2013

年まで

7

元を支出した地方政府が主たる担い手としていた.

2013

年においても財政支出の 比重は,中央

14.6 %

に対して地方

85.4 %

と地方が圧倒的な比率を占めている.

これに対して,財政収入の比率は中央

46.6 %

に対して地方

53.4 %

であった.し たがって,地方財政の改革は,中国経済改革の前進のためには必須である.

このことを受けて中国政府は,

2014

8

月末,

10

年越しの懸案であった予算 法の改正を行った.その趣旨は,地方政府の資金調達の透明性を高め,さらに地 方政府の借金を圧縮してその膨張に対する市場の不安を和らげ,土地の売却と投 資会社の隠れ借金に依存してきた地方財政の立て直しを本格化することにある.

なぜならば,

1994

年の分税制の施行以来,地方政府は慢性的な財源不足状況に

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