ケニアの臨床材料より分離された細菌の 種類とその薬剤感受性
猿渡勝彦, 中島茂宏 那須勝, 糸賀敬
長崎大学医学部附属病院中央検査部
中富昌夫, 原耕平
長崎大学医学部第2内科
原田尚紀
長崎大学熱帯医学研究所診療科(内科)
内藤達郎
Bacterial species and its drug sensitivity isolated from clinical materials in Kenya
Katsuhiko SAWATARI,Shigehiro NAKASHIMA,Masaru NASU and Takashi ITOGA (Department o Clinical Laboratory, Nagasaki University Hospital), Masao NAKATOMIand Kohei HARA( 2 nd Department of Internal Medicine, Nagasaki University School of Medicine) , Takanori HARADA (Division of Internal Medicine, Institute for Tropical Medicine, Nagasaki University), Tatsuro NAITO (Department of Bacteriology, Institute for Tropical Medicine, Nagasaki University)
Abstract : Isolation rate and species of bacteria isolated at the bacteriology section of Rift Valley Provincial General Hospital, Nakuru, Kenya in 1974 were studied in comparison with those of Nagasaki University Hospital in the same year. Following results were obtained: 1) Eight hundred and eighty eight specimens except feces of Kenya were compared with 2659 specimens
of Nagasaki (Univ. Hosp.). In regard to gram positive bacteria, β‑streptococcus was isolated
highly in Kenya, on the other hand, Streptococcus fecalis was isolated lower in frequency than in Japan. In regard to gram negative bacteria, Pseudomonas aeruginosa, Acinetobacter, Proteus vulgaris and Serratia liquefaciens, which are interested as the causative organisms of the end-
ogenous infections in Japan, were not isolated at all, and isolation rates of Klebsiella aerogenes, Enterobacter and Serratia marcescens were also lower than that of Japan, It was considered to be interesting that these results showed the difference of clinical manifestation of infections between Kenya and Japan. 2) Staphylococcus aureus and Staphylococcus epidermidis were fre-
quently isolated from the blood and Pseudomonas, Proteus and Acinetobacter were isolated in
長崎大学熱帯医学研究所病原細菌学部門長崎大学熱帯医学研究所業績 第8o2号 Received for publication, December 3 , 1977
low frequency in Kenya. From the sputum, β‑streptococcus was isolated in high frequency and
Staphylococcus epidermidis, Haemophilus and Klebsiella were isolated in low frequency in Kenya in comparison with that of Japan. 3) Eighteen Shigella and eleven Salmonella typhi were isola- ted from the stool of the patients with the complaint of diarrhea in Kenya. Shigella sonnei were isolated most frequently in two countries in comparison with the statistics of the municipal commuicable diseases hospitals in Japan in 1974. Although Shigella flexneri II was isolated in Japan frequently, S. flexneri IV was isolated more in Kenya. Shigella isolated in Kenya were highly sensitive to almost all the drugs tested.
Tropical Medicine, 19(3.4), 147-156, December, 1977
緒 昌
長崎大学においては,すでに1966年3月より,ケニ アのRiftvalleyprovincialgeneralhospitalに,延べ 38名の医師や技師を派遣して,技術協力を行ってきた・
細菌検査に関しては,1971年9月井上技師が,次いで 著者らのうちの,猿渡,内藤らが現地におもむき,検 査技師への臨床細菌の分類に関する指導が行われてき た,
現地の細菌分離が日本のそれと変らない技術に到達 したのは1972年頃からで,すでに井上1)(1972)によっ て,菌分離の傾向を主にした概況が述べられている・
今回は1974年度に検査室に提出された各種材料からの 細菌分離に閲し,その成績を分析し,長崎大学中央検 査部における成績とケニアにおけるそれとを対比し て,その特徴を把えることを試みた.以下ここにその 詳細を報告する.
検査材料由よび検査方法
検査材料:1974年1月より12月までの問に,ケニ ア国のRiftvalleyProVincialgeneralhospital,Naku−
ruの検査室に細菌検査の目的で掟出された,暗痍,髄 液,血液,便の4種の検体を材料とした.
分熱唱地:嗜疾および髄液の検査には,血液,チ ョコレート,GAM(日水)の各寒天培地のほか,BTB 寒天培地(栄研)またはMacC0nkyagar(0Ⅹoid)を用 い,髄液を材料とした場合の増菌培地には,ニコチン 酸アミド(o・O8%)と血液(5.o%)を加えたチオグリコ レート培地(極東.臨床用)を用いた.血液中の菌分 離のための培地は,チオグリコレート培地(臨床用)
ならびに著者ら2)が報告した液体培地を使用した,便 はSS寒天(栄研)を用いて,Shigella−Salm0nella の菌群のみについての検出を試みた・
培養方法:暗疾からの分離培養は37。C 24時間好
気性に培養した.髄液は,好気性培養には血液および BTB寒天培地を用い,嫌気的では,チョコレート寒天 培地を使用した場合は炭酸ガス培養(炭酸ナトリウム:
篠酸を1:1の割合に混合した培養皿)を,GAM培 地を使用した場合はピロガロール法による培養法を行 った・血液培養の場合,チオグリコレート培地の使用 に際しては髄液のそれに準じたが,液体培地使用の場 合はこれを2週間まで観察して判定を行った.便培養 にはSS寒天に便塗抹後24時間培養し,そのコロニー を拾いあげて同定を行った・
菌種の同定:C0Wan&Stee13),4)(1965),坂崎5)
(1964),Kauffmann6)(1965)の分類法およびBergy,s Manual7)(1974)に基づいて,これら分離菌の同定を 行った・
薬剤感受性試験:ハートインフユジョン寒天培地
(栄研),血液寒天,チョコレート寒天培地を用い,概 当薬剤のディスクに基づく方法〔ケニアでは1濃度デ ィスク(0Ⅹoid),長崎では3濃度ディスク(栄研)〕で 行った・赤痢菌の薬剤感受性については,ケニアより 長崎へ送付された菌株について,3濃度ディスク法に 基づいてこれを行った・
検 査 成 績 1噴痍中の菌分離
a)分離率:ケニアにおいて,1974年に喀疾中菌 検索のため提出された617検体についての培養成績を Fig・1に示した.日本における培養成績と対比するた め,同じ1974年の長崎大学中央検査部細菌室に提出さ れ検査が行われた1853検体の分離成績も併記した・各 菌の分離された菌数の検体数に対する比率で分離率
(検出率)を算出したので,総計は1OO%を上廻ってい る.
グラム陽性菌では,日本に比べケニアでβ・Strepto−
CoCCuS が高率に分離され,これに対して Staph. b)薬剤感受性′1ターン:Tablelは暗疾から epidermidisの分離率が少なかった・Haemophi1usや 検出された菌株の各種抗生斉距こ対する感受性率を示し Klebsiellaなどの分離率も日本に比べれば少なかった たものである.ディスクにおける(廿)以上を感受性 が,その他のグラム陰性梓菌の分離率もケニアでは少 とし,感受性株の総検出株数に対する百分率の整数で なくなっていた. これをあらわした.ケニアでは1濃度法,日本では3
Fig.1. Comparis0nOfBacteriais01ated fromsputum between KenyaandJapan〜1974鵬
Ts0]ated Bacteria
⊂つ 岩
∃
葛 生く
(一口
Staphyl0C0CCuS aUreuS StaphylOO0CouS ePidermidis β−hem01ytic strept0C0cCuS
才一hem0lytic strept0C0CCuS Strept0C0cCuS Pneum0niaeStreptoC0cCu5 faecalis
帖cr0C0CCuS
⊂つ
⊇ ヨ
:コ
遥 塾
くm
Citr0bacter3freundli
Escherichia c0l盲
Ktebsiella aer0geneS Klebsiella pneum0niae KIebsieIta 0Zaenae Enter0bacter aer0geneS
Enter0bacter cl0aCae Serratia marcescens Serratialiquefaciens Hafniaalvei
Pr0teuSVulgaris Pr0teuS mirabilis Pr0teuS rettgeri
Ⅲ0rgane13am0rganii Aer0m0naS hydr0PhiIa AcineI0bacⅢusIignerisi亘
Haem0Philus gr0uP Pseud0m0naS aerugln0Sa 0ther gluc0Se n0n−ferment Acinet0baCter gr0Up
N10raXel]a n0nliquefaciens
Gram p0甜ive bacⅢus
10 20 10 2o(瑚
N0.0f mater毒ats:Kenya671;Japan1B53
Kenya
Jap∂∩S |R§«g:»S8(BS88»8o»8g88!-ort
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濃度法で行っているが,諸検討の結果,この両者には 有意の差はないものと考えられた・
先ずグラム陽性菌においては,Staph.aureusケニ 7株のPCqG,ABPC に対する感受性は極めて低く,
またSMの感受性もやや低かった.現地での急性肺 炎の起炎菌としてStaph.aureusは極めて重要なも のと考えられたが8),その治療に先ずPC3G および ABPCないしはSMやTC が用いられていること が関連あるものかとも思われた・β−StreptoCoCCuS お よびPneumococcusもケニアにおける急性肺炎の重 要な起炎菌と推定されたが,PC3G,ABPC にも高感 受性で,その他の抗生剤についても,殆んど日本での 分離株の感受性と変りなかった(ケニア株ではCP,
TC系抗生剤に対し日本株よりやや高感受性であるよ うに思われたが)・
グラム陰性菌については,E.coli,Kl.aer0geneS,
Haemophilusともに,ケニア分離株もその感受性パ ターンは日本分離株のそれに類似したが,いずれの薬 剤に対してもその感受性はケニア株でやや高率である ように思われた・しかし,Kl.aerogenesがSMに対 して低感受性であり,SXには高感受性であったこと,
Haem0philusのABPCに対する感受性が低かったこ とは,一応特異な感受性パタ巾ンと考えられた.その
他Citr0bacterの感受性がケニヤ株でTCに対して低 感受性であったほかは,殆んど日本での分離株の感受 性と変りない成績を示した・Pr0teuS,Enter0bacter をはじめとするその他のグラム陰性梓菌については,
ケニアでの分離菌株が極めて少なかったため,日本で の成績と比較検討する段階には至らなかった.
2 髄液よりの分離
ケニアにおける髄液よりの菌検出率は,154検体申 分離株数は109株(7O・8%)に及んだ.これに対し,日 本での検出率は356検体中87株(24・4%)であった.各 症例において1株以上の菌検出を認めたものもあると ころから必ずしもこれがそのまま真の検出率をあらわ すものでもなかったが,ケニアにおいては菌の検出が 極めて多いことを示した.これは後述するように,検 体の汚染によることも考えられたが,事実日常の診療 においても,云わば髄液の個濁が強い化膿性の髄膜炎 の存在が数多く経験されたので9)(当時の日常診療に おける髄膜炎は,化膿性:結核性:真菌性の比率は,
6:6:1であった),この菌検出率が高いことは,化 膿性髄膜炎が高率に存在することを意味するものとも 思われた.
その分離菌の検出頻度をFig・2に示した・Staph・
epidermidis,ブドウ糖非醗酵性グラム陰性梓菌の検
Fig.2・ COmparis0n ofBacteriais01ated from CSF between Kenya andJapan −1974→
lsolaIed Bacteria
n
「凸u ヨ
苫 呈
3 3・
・く rD
Staphyt0C0CCuS aureUS Staphyl0C0CCuS ePidermidi5 OX,hem01ytic strept0C0CCUS β,hem0lytic strept0C0CモuS
Strept0C0Ccu5 Pneum0nLae
Strept0C0CCuS faec浦s Micr0C0CCuSn
⊇ ヨ
=l
雇 苦。
Salm0neIla gr0uP Citr0bacter freundij
Escher王chia c01i
Klebsiella aer0geneS Enter0bacter aer0geneS
Enter0I)aCter C]0aCae
Pr0teuS mirabitis Aer0m0naShydr0PhiLa Haem0Ph‖us gr0UP Pseud0n10naS aerUgIn0Sa
0therg]uc0Se n0n−ferment
Acinet0bacterlw0ffii M0raXelta n0nliquefaciens
10 20 10 憫 N0・0!m古ter盲als:Kenyal乳Jap古n35占
Kenya
Japan出が極めて多く,これに次いでE・Coliの検出が多く みられた・これについては,検体の採取の仕方が悪く,
採取された髄液が汚染されている可能性も十分推測さ れたが,このような菌の分離の意味づけには,日本に おける症例と同様,1つ1つの症例についてその臨床 像を把握した上で,十分の検討を加える必要があるこ とを感じさせた.
これら分離菌株の薬剤感受性については,両国の分 離株ともに各菌種についての株数が少なく検討すべき 段階のものとは思われなかったので,これを省略し た.
3 血液中よりの菌検出
菌血症の疑がもたれた患者では,現地で我々が作成 したカルチャーボトルに血液5・Omlを採取混入し,2 週間まで培養を行って,その際に菌検出をみなかった ものは陰性として培養を打切った・
その成績をTable2に示した.この際の成績の読み
には検体の汚染は余り考慮に入れる必要はないと思わ れたが,その検体数に対するその菌の分離率からみる と,Staph.aureusおよびStaph.epidermidisの分 離がケニアで極めて多く,Ps.aeruginosa,Pr0teuS mirabilis,SerratiamarcesCenSなどの分離が,日本に 比べて少ないと思われる成績を得た・
4 便よりの赤痢およびチフス菌の分離
a)分離率とその菌型:ケニアで下痢を主放と する患者の便377検体が1974年度において提出された が,そのうち赤痢菌が18株(4.8%),チフス菌が11株
(2・9%)分離された・この分離状況はTable3に示さ れたように,1974年の4月から6月にかけて多く分離
されたものの,とくに流行を反映して検出されたもの ではなかった.いずれにしろ,内科の一般病棟で下痢 を来した患者の中から約8.O%に赤痢ないしはチフス 菌が分離されたことは,ケニヤならではの成績であろ
うと思われた,
Table2・ C0mparison ofBacteriaiS0latedfr0mthe Blo0d between Kenya andJapan −1974−
Kenya Japan
椙 亜o
5 14 9 4
, 丘 1 ヨ 1 1
1 1 2
1
1
5
. 3 1
1
1 3 2
2. 49
T。tal
,の
⊇ヨ
=I
遥
亡け
′■■.+3・
・く(p
Salmonella typhi Escherichia coli Klebsiella aerogenes Enterobacter aerogenes Enterobacter cloacae
Serratia marcescens Plesiomonas shigeroides Proteus mirabilis
Pseudomonas aeruginosa Others
の
⊇ ヨ
苫
∽
■■,■■・
■−I■
3 ㌧●
く oP
Staphylococcus aureus Staphylococcus epidermidis CX-hemolytic streptococcus Streptococcus faecalis Micrococcus
Gram positive bacilli
N0.0f materiats
1974年における長崎大学中検の便検査184検体から は赤痢やサルモネラは分離されなかったので,同年に おける都市立伝染病院10)における赤痢菌の菌型を比較 してFig.3に示した.ソンネは両国共に多かったが,
日本ではフレキシネルu型が多く,こ九に対しケニア ではフレキシネルⅣ型が多く分離された・
b)薬剤感受性:上記の分離菌株に対する薬剤 感受性を一括してTable4に示した.ケニア株につい ては株数が少なく,日本株のそれと比較するには問題 があるようにも思われたが,いずれの抗生剤,とくに SM,CP,TCにさえも,高感受性を示すことが明ら かであった.
Periods
Sept・〜Dec・
Jan.〜Mar.
Apr.〜Jun−
Jul.〜Aug.
Total
5 拭分離菌のケニアと日本におけ石比較 便を除き,嗜癖,髄液,血液を含めた,ケニアのナ グル病院検査室での888検体と,長崎大学中央検査部 細菌検査室での2659検体について,1974年度における 総分離菌の分離率をFig.4 に示した・この成績は,
検体敦からみても多分に喀疾の菌分離成績の影響が大 きいと思われたが,両国間の大よその分離成績の差異 を知る意味で意義があろうと思われた.
黒色が日本とケニアとで最も異なる傾向を示したも の,黒の両斜線が比較的異なる懐向を示したものと考 えられたものである・先ずグラム陽性菌では,ケニア でβ−StrePt0CoCCuSの分離率が極めて高いことが特徴
Table 3 lsolation ofShigella and Salmone11ain Kenya
1973 1974 ノク
ク
76 76 92 133
377
ー1974叫
flexneri I Ⅳ
2 1 2 4 2
2 9
Shigella Salmonella SOnnel
Ⅵ x paraB typhi
3 3 33 3 3 3 3し 33 3 3
2
1 1 5 1 1 3 4
1 1 5 6 5
Fig.3. Serotypes ofShigella speCies between KenyaandJaPan P〜1974H
2o 40 20 亜 (9‖
Sh.dysenteriae
Kenya
18strains
I
Ⅱ
ⅠⅡ
Sh・flex・Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
Var X Var y
Sh.s0nnei
27.8 39・1
2.2
5..
5.6 11・1
5牡,0,
3.6
2.9
46・4 2.9
2.9 Japan
13Bstrains
No.of
materials
TabIe4 DrugSensitivity0fShige11a,1974,
SM CP TC KM 諾 NA SX ST PL
Kenyan strains 77 92 77 85 92 100 77 77 26
Japanese strains 24 18 37 95 86 100
Numberindicatespercentages0fSensitivity
Fig・4・ Comparis0n。ft0talis01ates between Kenya andJapan −1974−
5 10 5 10 15(瑚
N0・0f materiats:Kenya888Japan2659 Staph.aureus
Staph・ePidermidis OX−StrePt0C0CCuS
β−StrePt0C0CCuS Strept・・pneum0niae
StrepしfaecaIis
N1icr0C0CCuS
Kenya Japan
Satm0ne11atyphi Citr0bact−freundii
E・C0ti
Kteb・aer0geneS Ent・aer0geneS Ent.c10acae Serrat.marcescens
Serrat・[iquefaCiens
Prot・Vulgaris PrOt・mirabilis N10rg.m0rganii Acinet−anitratus Haem0PhiLus gr0uP
・
Pseud・aerugln0Sa
であり,次いでStrept.faeca1isが日本よりケニアで 低率にしか分離されなかった.グラム陰性菌について は,先ずPseud0m0naSaeruginosaが日本では大変 問題になっているに拘らずケニアでは殆んど分離され なかったこと,Acinet0bacter やPr0teuSVulgaris,
Serratia1iquefaciensなども全く分離されなかったこ とが特徴で,その他日本で競売性ないしは内因性感染 の起炎菌として問題になっている Klebsiella aeroge−
nes,Enter0bacter,Serratia marcescensなどのグラ ム陰性梓菌の分離率も,ケニアにおいて低率であっ た.
考 案
ケニア国,Rift valley provincialgeneralhospital,
Nakuruにおける外来および入院患者の細菌学的検査 成績を分析して,その感染症の病因菌が日本のそれと 異なるものかどうか推測することを試みた・もちろ ん,検査室の分離菌がそのまま感染症の病因菌を反映 するるのとも限らないが,菌の分離成績は,少なくと
も病院内の分布を含めて,その国の感染病態を分析す るには参考になろうと思われた・
% 15
邑 塾
⊂I
=I
l0
■「l
聖3 (p
5
すでにこの病院での細菌分離成績については,1972 年度の井上の報告1)があるが,この際はHaemophilus と,β−Strept0C。CCuS,Klebsiellaの検出が多かったこ とが述べられている.今回の分離成績でも殆んど同様 の傾向を認めたが,Fig・4に示したごとく,その分離 率からすると,β−StrePtocoCCuSの分離率は日本に比 べて極度に高く,Staphylococcus の分離率も高率を 占めた.これに比しグラム陰性菌の分離率は,Klebs−
iella,Haem0phi1us,E・COli自体も日本に比べれば 低率で,さらに日本で問題になっているPseudom0−
nas,Pr0teuS,Serratiaの分離もケニアでは低率であ った.このことは,少なくとも感染病像として,グラ ム陽性菌の病因性が高いとははっきり云われないまで も,グラム陰性菌の関与する感染症が日本に比べれば 少ないものであろうことを推測させた.
薬剤感受性では,グラム陽性菌でStaphylococcus aureusがPC−GやABPC にケニア株で低感受性で あることが特徴であったが,これは現地での治療薬割 に関連あるとしても,グラム陰性菌で,Klebsiellaが SMに対し低感性であることや,Haemophilus OO)A−
BPCに対する感受性が低かったことは一応特異な所
Fig.5. Year1y change0fBacteriais01ated fr0m Clinicalmaterials
1968 1969 197。 1971 197Z 1973 1974 1975 1975耳 T0talN0・0f
mate「iats 275. 亜99 4870 朝20 5523 7018 81丁4 邑,1ヨ 71門
一認。書…fr芸1s3924 珊 椚 脚 5机5 l丁7.8盟2 B7Tl朗甲
Ktebsie11a EscherichIa c01‡
Haem0Ph‖us
Pr0teUS
吾触ご諾0Sa
Gluc0Se n0n−fermentative GNR Serratia
Staphyl0C0CCuS aureuS
Streptc0CCuS Pneum0niae β−hem0lytic Strept0C0CCi
見で,今後なお検討すべき点を残しているように思わ れた.この他ケニア株では,一般に日本での分離株に 比べて他の抗生剤とくにCPやセファロスポリン剤な どにも高感受性を示すものが多かったが,現実にケニ アにおいては,すべての感染症の治療に未だPC,G,
ABPCまたはTCを主体とした抗生剤による治療が 行われていることを考えれば,当然の結果とも思われ た.
Fig・5に最近10年間における長崎大学での検査室に おける分離菌の推移を示した・一般にグラム陽性菌の 分離率が減少し,Klebsiellaをはじめとするグラム陰 性梓菌の分離率が上昇ないしは高位を占めていること を示している・この点より考えれば,ケニアにおける 感染症の病因菌はなおグラム陰性菌の関与が少なく,
日本での古い時代の感染病優に近いものを示している ようにも考えられた・
結 語
ケニアのナクル病院細菌検査室で分離した細菌の分 離率と菌種を,1974年度分について集計を行い,同年 における長崎大学での成績と比較した.
1)先ず便を除くケニアでの888検体を,長崎での 2659検体と比較してみた.グラム陽性菌では,ケニア でβ−StreptoCoCCuSの分離率が極めて高く,これに対 しStreptoc0CCuSfaecaIisの分離は日本より低頻度で
あった.グラム陰性菌については,日本で内因性感染 の起炎菌として問題になっているPseud0monaSaer3 uginosa,Acinet0bacterやProteusvulgaris,Serratia liquefaciensなどがケニアで全く分離されず,また Klebsiella aer0geneS,Enter0bacter,Serratia marc−
esCenSなどの分離率も日本より低率であった・これ らは少なくとも,日本とケニアにおける感染症の病像 の違いをあらわすものとして,興味ある成績と思われ た.
2)血中より分離された菌では,ケニアでStaphy−
IoC0CCuSaureu5およびepidermidisの分離率が多く,
Pseudom0naS,Proteus,AcinetolOaCter などの分離 率が低かった・暗痍では,日本における分離成績と対 比した場合,ケニアでβ3Strept0C0CcuSの分離率が高 率で,Staphylococcus epidermidis,Haem0philus,
Klebsiellaの分離が低率であった.
3)下痢を訴えた患者の便377検体から,赤痢菌18 株,チフス菌11株を分離した・このうち赤痢菌につい て,同年における都市立伝染病院における成績と比較 してみたところ,両国共にソンネは多かったが,日本 でフレキシネルⅠ型が多かったのに対し,ケニアでは フレキシネルⅣ塑が多く分離された.これら赤痢菌の ケニア株での感受性はいずれの抗生剤にも高感受性を 示した.
稿を終るに当り,赤痢の都市立伝染病院の成績を御提供下さった都立墨東病院斎藤誠博士および浜 松医療センター小張一峰博士に深謝する.なお本論文の要旨は第19回日本熱帯医学会総会において発 表した・
参 考 文 献
1)井上和義(1972):ケニヤ国,リフトバレー州立病院(ナクル市)における外来及び入院患者についての細菌学 的検査の諸経験,熱帯医学,15(2):105〜112・
2)猿渡勝彦,林 愛,餅田親子,斎藤 厚(1972〕:緬羊血液を用いたHaemophilusの新分離培地,臨床病理,
2o(8):557〜56O.
3)坂崎利一訳(1965):Cowan&Steelの医学細菌同定の手びき・納谷書店,東京,
4)Cowan,S.T.(1974〕:Manualfortheidentificati0nofmedicalbacteria・2nded.,〔坂崎利一訳(1974)‥
近代出版,東京・〕
5)坂崎利一,中谷林太郎訳(1964):腸内細菌同定法・一成堂,東京・
6)Kauffmann,F・(1965):Thebacteri01Ogyofenter0baCteriaceae−Scand.Univ・Bo0ks,Copenhagen.
7)Buchanan,R・E・,etal.(1974)=Bergey,s manua1ofdeterminativebacteriology・8thed・,TheWilliams
&Wilkins C0,Baltim0re.
8)原 耕平(1977)‥ 第39回日本感染症学会西日本地方会総会,特別講演,箆児島・
9)原 耕平(1967):ケニヤにおける疾病,熱帯医学,9(3):158〜176.
1O)私信による.