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2020年3月授与(工学)

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(1)

博士学位論文

論文の内容の要旨 および

論文審査の結果の要旨

2019年度

東京都市大学

甲第156 号 甲第157 号 甲第158 号 甲第159 号 甲第160 号

乙第91 号 乙第92 号 乙第93 号

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本編は学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条 による公表を目的として、2019年度内に本学において博士 の学位を授与した者の、論文内容の要旨および論文審査の結果 の要旨を収録したものである。

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- 1 - 氏 名(本籍)

学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

望月 和矢(東京)

博士(工学)

甲第156 号

令和2 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 主 題 薄膜センサを用いたピストンリングしゅう動面圧の計測法に関する研究 論 文 審 査 委 員 (主査)三原 雄司

槇 徹雄 三田 修三

八木 和行(九州大学大学院工学研究院機械工学部門 准教授)

論文内容の要旨

自動車用エンジンの燃費向上策として, ピストン系部品の摩擦損失低減は世界中の企 業が重点的に推進するが, 背反事象として潤滑油消費の増加や, 潤滑状態の悪化が課題と なる. 2014 年にスタートした SIP 革新的燃焼技術においても, 摩擦損失低減と共にオイル 消費のメカニズム解明のテーマが推進され, 2019 年度から始まった AICE(自動車用内燃 機関技術研究組合)の様々な産学研究希望案件における優先順位も非常に高く, メカニズ ムの解明によるオイル消費低減のためのピストン-ピストンリング-シリンダ系の設計モデ ル構築が希求されている. ピストンリングしゅう動面を経由して燃焼室へ侵入し消失へ と繋がる油上がりについてはピストンリング-シリンダボア間における追従性が重要な因 子であるが, 未だ全容が解明されておらず, 製品設計時における予測解析モデルは確立に 至っていない. 特に動的環境において周方向, 軸方向に詳細なピストンリング-シリンダ ボア間の面圧分布が計測された事例は報告がされておらず, 追従性を直接評価できず, 大 きな課題となっている.

本研究では, これまで主にピストンスカートや軸受等の EHL(弾性流体潤滑)環境で 用いられてきた薄膜センサをピストンリングしゅう動面に応用し, 1MPa 以下の低面圧計 測に対する計測回路の改良や, 境界領域での耐久性を向上させる DLC(ダイアモンド・

ライク・カーボンフィルム)の導入等による耐久性向上を行うことで, ピストンリングに 作用する動的面圧計測の実現を果たした. また, 基礎試験により面圧センサとして成立す ることを確認するとともに, 静的環境下における市販センサの計測結果とも良い一致を 示すことを確認した. さらに, モータリング往復動試験機を用いてしゅう動条件下におけ

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- 2 -

る試験を実施し, 動的環境下において計測値を得ることに成功した. 同結果は, 過去に提 唱されているピストンリング-シリンダボア間の潤滑理論を用いた計算結果とも良い一致 を示した. これより, ピストンリング-シリンダボア間における動的な面圧分布を詳細に 計測する事が可能となり, 直接的な追従性評価および理論解析精度の検証, さらには潤滑 油消費や潤滑状態との関連評価を前進させる可能性を大幅に向上する成果が得られた.

本論文は全9 章にて構成されている. 第1章「序論」では, 本研究における背景を示す とともに, 研究対象となるピストンリングのしゅう動面圧について従来の研究内容と課 題点を明らかにし, 本研究の目的と基本方針について述べる. 第2章「ピストンリング 追従性に関する基礎検討実験」では, 第1章で述べたピストンリング-シリンダボア間に おける追従状況の変化(面圧分布の変化)が与える影響について確認するため, 実施した 試験内容について述べる. シリンダボア形状を任意に設定可能なモータリング試験機を 用いて, ピストンリング-シリンダボア隙間の計測, ピストンリング変形(歪み量)の計測 を行い, その結果を示す. これより, 従来確認されているしゅう動時におけるピストン リング-シリンダボア間追従状況の変化をとらえ, 面圧分布の発生状況を検討した結果を 述べる. 第3章「ピストンリングに対する薄膜センサ技術の応用」では, 薄膜圧力セン サの基本形状とその構造, および動作原理について述べ, さらに, ピストンリングへの 薄膜圧力センサ適用に対する課題と対策方法について述べる. 第4章「1MPa 以下の低圧 領域を含む計測可能範囲の拡大」では, ピストンリングしゅう動面圧の計測にあたり必要 となった, 1MPa 以下の低圧領域へ計測可能領域を拡大した計測システムの改良内容につ いて述べる. 第5章「ピストンリング用薄膜圧力センサの成膜方法に関する検討」では, ピストンリングへの薄膜圧力センサ適用に際し用いた成膜法および装置, 主たる検討内 容を述べる. 第6章「ピストンリング用薄膜圧力センサの製作とセンサ特性評価」では, ピストンリング用薄膜圧力センサの製作方法やセンサ特性の評価結果,製作における形状変化 等の評価結果を述べる. 第7章「静的環境下における面圧計測および妥当性検証」では, 簡易治具を用いた静的環境において, 開発センサによる面圧計測結果と他計測センサ による計測結果を比較し, 計測値の妥当性を検証した結果について述べる. 第8章

「動的環境下における面圧計測および理論解析結果との比較」では, モータリング式 往復動しゅう動試験機を用いて, 動的環境において得た面圧計測結果と理論解析結果 との比較評価を行い, 計測値の妥当性を検証した結果を述べる. 第9章「結論」では, 本研究に関する総論を述べる.

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- 3 -

論文審査結果の要旨

自動車用のエンジンに求められる高効率化及び低エミッションの性能実現に対して、摩 擦損失低減や 潤滑油消費低減に向けたエンジン部品の改良が求められている。 燃費向上 策として,ピストン系部品の摩擦損失低減があるが,背反事象として潤滑油消費の増加が 課題となり、排ガス浄化システムとなるフィルター(DPF)や尿素噴射装置(SCR)の性能低下 を引き起こしエミッションを悪化させる。本研究はこれらの喫緊の課題に対し、潤滑油が 燃焼室へ移送されるメカニズム解明のうち、主経路の 1 つとなるピストンリングのシリン ダーライナーヘの追従状態の解明に取り組み、薄膜センサをピストンリング面圧計測用に 独自開発し、往復摺動試験機による実面圧の測定結果を成功させ、解析モデルの妥当性を 検証している。この内容は従来の研究に類例が無く、本論文の独創的な内容であると認め られる。

本研究のアプローチとして、真円ボアとストローク方向で真円形状が変わるボアを用い、

ピストンリングのボアヘの追従性の悪化を往復動試験機を用いて隙間変化、リングの応力 変化等の計測データで明確に示し、ボア変形がリングの追従性を悪化させ、ボア面に対す る リングの接触面圧が大幅に変化する可能性を実計測で明確にする手法を示したことは 工学的に意義がある。

次に、ボア形状の変化に対する接触面圧計測法として薄膜センサを幅 1mm のピストン リングに世界で初めて応用し、スパッタリング法を用いたセンサ形成手法を示した。また、

従来不可能とされた薄膜圧力センサによる lMPa 以下の面圧計測領域に対して、計測回路 の改良や増幅アンプシステムの開発により高い S/N 比対応を実現した。加えて、薄膜セン サの耐久性の面においても独自の改良を施しており、従来の Al2O3 薄膜から、ダイヤモ ンドライクカーボン(DLC)をピストンリング用薄膜センサの保護膜にできる成膜手法を確 立した。これらの改良を施した薄膜庄力センサをスチール製のトップリング外周面に適用 し、1 ストローク中の 10~100kPa オーダーの面圧変化の計測に至った。この成果は、エ ンジンのリングーボア間の面圧計測のみならず、一般的な機械摺動部のガスシールやオイ ルシールの実働中の面圧変化計測にも応用が可能となり、工学的な価値が非常に高く、多 くの解析モデルの検証に応用される可能性がある。

実験結果に対し、Greenwood&Tripp により提案された確率論的な接触理論と Patir&Cheng による平均レイノルズモデルを連立した Rhode の混合潤滑モデルの理論解析を本研究に 適用し実測値と比較した。この結果、計測結果による面圧値と面圧最大値が発生するクラ ンク角度の遅れは良好な一致を示し、本研究によってはじめて理論解析の妥当性が確認さ れた。

これらの成果により、ピストンリング—シリンダボア間における動的な面圧分布を詳細 に計測する事が可能となり,直接的な追従性評価および理論解析精度の検証が実現できた。

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- 4 -

更には、現在自動車用内燃機関研究コンソーシアムで推進されている次世代エンジンにお ける潤滑油消費予測の解析モデルの構築を更に発展させる可能性がある。

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- 1 - 氏 名(本籍)

学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

田所 兼(神奈川)

博士(工学)

甲第157 号

令和2 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 主 題 気液二相系密閉容器内の絶縁油中アークによる圧力上昇現象に関する 研究

論 文 審 査 委 員 (主査)田中 康寛 江原 由泰 島野 健仁郎 三宅 弘晃

論文内容の要旨

発電所から需要家に至る電力系統で使用される電力流通設備には,変圧器のように内部 に気相(空気)および液相(絶縁油)を含む密閉状態の機器がある。このような気液二相 系密閉容器の絶縁油中において,短絡あるいは地絡故障によるアーク放電が発生した場合,

急激な内部圧力上昇に伴う機器の損傷や漏油,高温・可燃性の分解ガス噴出が懸念され,

万一の内部アークに対する十分な安全性を確保する必要がある。

本学位論文では,気液二相系密閉容器内の絶縁油中アークを対象として,絶縁油中アー クの特性および圧力上昇現象を実験的に解明するとともに,ここで得られた知見に基づい て単純化したシミュレーションモデルを構築し,実測結果との比較を行い,気泡挙動と圧 力上昇現象の主な特徴を再現するモデルを開発したことを示した。

本学位論文の全6 章の概要は以下の通りである。

第1 章では,論文の背景・目的として,電力系統のこれまでの発展と現状の課題を示す とともに,電力流通設備で生じる故障アーク現象の例を挙げ,故障アークが公衆に及ぼす 影響を明確にしておく必要のあることを述べた。さらに,変圧器などを対象とした故障ア ークに関する先行研究を示し,アークによって発生する過渡的な圧力上昇現象は明らかに されていないなどの現状の課題を述べた。

第2 章では,実験に使用した圧力容器や圧力センサ,アークを発生させるために用いた 電源回路,実験条件などを纏めて示した。また,例として,実験で得られる波形(アーク の電流,電圧,パワー,エネルギーおよび気相・液相の圧力上昇)を示した。

第3 章では,高速度カメラで観察した絶縁油中アークで生じる分解ガス気泡の画像を基 に,アーク周囲の絶縁油は熱分解ガス気泡となり,アークは気泡内で継続することを示し た。また,絶縁油中アークの特性として,単位ギャップ長あたりのアーク電圧,単位アー クエネルギーあたりの分解ガス発生量,分解ガスの組成について先行研究との比較を含め

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- 2 -

て示した。これにより,本論文で示す実験および解析で得られた成果が実設備へ適用でき る可能性のあることを示した。特に,絶縁油中のアーク電圧は,電流値によって変化する という電流依存性のあることを具体的なデータにより明らかとした。

第4 章では,実験結果に基づき,過渡的な圧力上昇現象を考察した。その結果,過渡的 な圧力上昇現象は,アークで発生した気泡の膨張・収縮の挙動,この挙動に伴う絶縁油の 流動によって生じるという単純化した関係式を導出した。具体的には,気相圧力昇はアー クで発生した気泡体積分で生じること,液相圧力上昇は気泡体積分の圧力上昇に絶縁油の 流動による圧力上昇が重畳することで生じることを明らかとした。さらに,油の流動に起 因して,液相深さ方向には圧力分布の生じることを明らかとした。

第5 章では,絶縁油中アークによる圧力上昇モデルの開発について述べるとともに,こ のモデルの妥当性について実測との比較結果を述べた。このモデルでは,気泡挙動の式と して,気泡力学分野で用いられるRayleigh-Plesset の式および気泡-液相界面での自発的 な蒸発・凝縮現象を考慮した江頭,藤川らの式を採用している。さらに,著者は,アーク による気泡内の圧力上昇・蒸発現象,単純化した油の流動現象,油・分解ガスの物性を考 慮した。これらを考慮することで,解析の結果は,絶縁油中アークによる気泡挙動と圧力 上昇現象の主な特徴を再現できていることを示した。また,本モデルの課題として,気泡 の球状性を考慮できていないこと,アークの考慮をパラメータとしていることなど述べた。

第6 章では,本論文の成果を総括した。

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論文審査結果の要旨

電力送電に欠かせない変圧器などの高電圧機器では、絶縁油を用いて高電圧線と筐体な どを絶縁しているが、落雷や故障時に高い電圧が絶縁油に加わると、アーク放電が発生し、

アーク放電の持続により、火災などの原因となる。高電圧機器で火災などが生じると、電 力供給が停止され、社会生活に多大な影響を及ぼすため、アーク放電現象に関する解析は 重要である。特に、アーク放電では絶縁油中に大電流が流れるため、絶縁油の温度が局所 的に上昇し、絶縁油が気化して気泡が発生し、絶縁油容器内の圧力が急上昇する。したが って、絶縁油の容器は、このようなアーク放電が発生した場合でも、圧力の上昇に耐え得 るだけの構造を有していなければならない。しかし、アーク放電によって、どのような現 象が発生し、どのような圧力が加わるのかについての詳細は明らかにされていない。また、

アーク放電を実験的に模擬して発生させるには、大電力の電源が必要となるため、設備と 実験実施にコストがかかることも問題である。

そこで、本博士論文では、田所氏が所属する電力中央研究所の施設を利用して、気液二 相系の密閉容器内で、実際にアーク放電を発生させて、アークの発生過程を高速度カメラ で撮影するとともに、容器内の各所に設置した圧力センサにより、アークの発生にともな う圧力の変化を観測した。この実験では、電力中央研究所所有の特殊な高圧電源による測 定結果に加え、簡易な電源を用いた測定を実施することにより両実験結果を比較し、簡易 な電源による測定結果が、解析に使用できることも確認している。その結果、アーク放電 によって発生した気泡の形状と圧力の変化に相関があることを見出した。その関係を解析 するために、気泡の発生に関する数値モデルを想定し、数値シミュレーションを行うこと により、解析を試みて、実際の計測結果と比較することにより、解析結果と合致すること を確認した。

この内容を、本論文の主査、副査および機械システム工学専攻所属の教員が参加した、

発表会(令和 2 年 1 月 7 日開催)にて発表し、質疑応答を行った。発表会後に行われた、

主査、副査による審議では、概ね、博士論文としてのレベルに達していることが確認され、

発表会においての質問事項に対する回答を、発表会後、2 週間程度で修正したのち、最終 論文を作成することを条件に、最終的に専攻で審議することとなった。その後、田所氏本 人が、質問に対する回答書を作成した後、主査、副査と直接面談して説明を行い、了解さ れたため、この結果をもとに、博士論文の最終版を作成し、この質疑の過程および最終論 文をもって、令和 2 年 2 月 5 日に専攻内で最終審議が行われ、出席者(13 名の構成員の うち、出席者 11 名)の投票をもって審議した結果、出席者全員が合格と判定した。

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- 1 - 氏 名(本籍)

学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

石井 大二郎(東京)

博士(工学)

甲第158 号

令和2 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 主 題 同軸型熱電対を用いた内燃機関における燃焼室壁面の温度計測及び熱流 束解析の高精度化に関する研究

論 文 審 査 委 員 (主査)三原 雄司 大上 浩 眞保 良吉

小酒 英範(東京工業大学工学院システム制御系 教授)

論文内容の要旨

最近では,ハイブリットや燃料電池自動車などの普及事業や研究開発が進められている が,内燃機関自動車の熱効率向上や排気浄化は重要な研究開発課題であり,ハイブリット システムでも燃費改善につながると考えられる.内燃機関の高効率化を目指した冷却損失 低減技術の開発には,燃焼室内における冷却損失(熱流束)の空間分布・時間変化を予測可 能な数値シミュレーションモデルが使用されるが,このような予測モデルは十分に精度検 証された例はなく,実現象と合わないことも指摘されており,新たなモデル開発及び改良 が急務となっている.予測モデルの開発には,燃焼ガスから燃焼室壁面にかけての熱流束 と速度や温度境界層の関係(熱伝達機構)を明らかにすることが重要となり,本研究では正 確に熱流束を検証できる手法の確立に着目した.

熱流束の検証手法として,多くの研究では瞬時の表面温度と内部温度を計測して,これ らの温度から熱伝導方程式を用いて表面に流入する熱流束を解析する手法が用いられて きた.本研究では構造及び製作手法の観点から優位と考えられる同軸型熱電対を対象とし たが,従来の研究では十分に計測精度が検証されているとはいえず,いくつかの課題も存 在する.さらには,ISA(International Society of Automation)で規定された熱電対材料で 構成された購入可能な汎用同軸型熱電対が燃焼室壁面近傍の熱伝達特性やモデルを検討 する研究に近年最も多く使用されているが,計測精度への影響を検証した例はないのが現 状である.

そこで本研究では,年々高精度化する冷却損失(熱流束)予測モデルの精度検証に対応す るために,微小な温度や熱流束変化を正確に計測できる新たな高精度同軸型熱電対(計測 システムを含む)の開発を目的とした.また,比較対象として近年最も多く使用されてい る汎用同軸型熱電対も使用して評価した.

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第1 章では,今までに開発されてきた表面温度計測技術の精度の未検証項目や課題につ いて取り挙げて,同軸型熱電対の高精度化のために本研究で新たに取り組む内容について 述べた.

第 2 章では,本研究で開発した高精度同軸型熱電対と購入可能な ISA 規格の汎用同軸 型熱電対の基本構造及び接点形状,計測システムの構成,温度-熱起電力の校正方法や熱 流束解析方法について説明した.特に,開発した新型計測システムは従来型よりもノイズ を大幅に低減でき,従来は困難とされてきた熱伝達機構の解明に向けた壁面近傍の速度分 布と同時計測で求められるような非燃焼条件かつ単サイクルでの微小な表面温度,熱流束 変化を計測できることを示した.

第3 章では,高精度同軸型熱電対の製作法を開発・確立して,センサの個体差による動 的ばらつきは大きくとも±5%以下を達成でき,複数点での同時計測においても正確性の 高い定量比較を実現できることを示した.

第4 章では,測定原理の観点から考察して,高精度同軸型熱電対を構成する材料の選定 について述べた.一般的な同軸型熱電対は薄膜・ボディ・心線で構成されが,従来手法の ようにそれぞれの材料が異なる場合には 3 点間の温度差によって熱起電力が発生するの で表面と内部の温度差を正確に計測できないことを考察・検証した.そのため,合金組成 を比較的再現しやすいスパッタリング法を用いて心線(Cu-Ni 合金)材料と同じ薄膜を形成 することに成功して,表面と内部の温度差(2 点間の温度差)を正確に計測でき,より一層 の高精度化を実現できることを示した.

第5 章では,内燃機関用として過去に類例のないセンサの応答速度を実測評価できる装 置を新たに開発して,高精度同軸型熱電対を評価した結果,100kHz 以上の応答速度 (63.2%)を有しており,本論の基準検証条件(エンジン回転数 2000rpm)において必要な応 答周波数である2kHz 程度を十分に満たすことを実証し,さらなる高回転域においても十 分に対応できることが示唆された.

第6 章では,本研究で開発した高精度同軸型熱電対と ISA 規格の汎用同軸型熱電対の 1 次元(従来)熱流束解析精度について検証して,その結果から新たな 2 次元解析手法を提案 した.それにより,汎用同軸型熱電対のようにボディ材料が燃焼室と異なる場合は,1 次 元解析ではと比べて新たに提案した 2 次元解析を用いることで熱流束解析精度が大幅に 向上した.一方で,高精度同軸型熱電対のようにボディ材料が燃焼室と同じ場合は,2 次 元と比べて計算時間が1/100 以下の 1 次元解析でも十分な精度が得られることを示した.

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第7 章では,本研究で得られた結論について述べた.

以上により,従来の手法では困難であった微小な温度や熱流束変化を正確に計測でき,

十分に明らかとされてこなかった計測精度についても検証した新たな高精度同軸型熱電 対を開発したことは本研究での成果であり,内燃機関の冷却損失(熱流束)予測モデルの開 発や熱伝達機構の現象解明に大きく貢献できると考えられる.また,汎用的に使用されて きた ISA 規格で規定された熱電対材料で構成された同軸型熱電対の精度を明確化でき,

新たな解析手法を見出したことで従来ごく限られた研究者のみが実施可能であった定量 性の高い熱流束解析を汎用的により多くの研究者・技術者が使用できるようにした貢献は 大きいと考えられる.

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論文審査結果の要旨

本研究は内燃機関の熱効率向上のための熱損失低減技術に対し、燃焼室内ガスから壁面 への局所的な熱流束計測及び熱損失予測モデルの検証法として用いられる円筒型の熱流 束センサの高精度化に関する研究となる。瞬時の温度計測精度及び温度計測値から算出さ れる熱流束の精度に関して、従来の研究で使用されていた熱流束センサの課題を実験及び 解析結果から明確化し、本研究独自の熱電材料の組み合わせによる新しい同軸型熱電対の 提案を行っている。加えて、放射ノイズ等が非常に多い環境でもサイクル変動による瞬時 の熱流束変化を捉えることができ、同じ計測原理を持つ瞬時温度センサにも適用可能な計 測システムを開発している。これらの研究成果により、熱損失の定量評価が可能となるた め様々な熱損失低減プロジェクトの研究に多用されており、工学的な意義が極めて高いと 判断できる。また、計測精度が不明であるが、エンジンの熱損失低減研究や宇宙航空分野 で多く使用される汎用型熱流束センサの測定精度を本研究で開発されたセンサと比較し、

汎用センサにおいても熱流束をより精度よく把握するための手法を明らかにした。

具体的には、同軸構造の熱電対は ①計測表面(本研究の場合燃焼室壁面)の薄膜、② センサボディ、③ ①と熱接点となる細い金属線(心線)の 3 つで構成され、各材料が異 なる場合は計測表面に 2 つの熱接点が構成されるため、表面と内部の瞬時の温度振幅の精 度は薄膜材料の熱拡散率と膜厚に依存することを解析によって明確にした。この課題に対 し、本研究ではスパッタリング法を用いて心線材料と同材料の薄膜 1µm 形成することで熱 接点となる計測面を明確にしたと共に、計測対象となる燃焼室壁面の瞬時温度の正確な計 測を実現した。

計測システムの開発として、本研究では電磁放射ノイズの大幅な低減を目指して、①同 位相のノイズを除去でき、コモンモードノイズの影響を受けにくい差動入力方式の導入、

②フェライトコアの挿入や独自の低ノイズ設計した各コネクタボードの設置、③直流安定 化電源と差動増幅器の分離 100kHz の応答速度にも対応できるなど汎用性の高いシステム の開発に成功している。

上記の成果を基に、本研究では多くの研究機関で熱損失の定量計測に使用される ISA (International Society of Automation) 規格の熱電対材料を用いた円筒型の汎用型瞬 時熱流束センサの計測精度の評価を行っている。本研究で開発したセンサと汎用型の熱流 束解析精度を比較した結果、汎用型はセンサボディと燃焼室壁面材料の熱伝導率が異なり、

半径方向に熱流れ(温度差)が生じるため 1 次元の熱流束解析では誤差が増大した。軸方 向及び半径方向の 2 次元の温度分布を考慮できる新たな熱流束解析手法を提案・検討する ことで、汎用センサでも熱流束解析精度を向上させることができることを見出した。この 成果は、本研究で開発したセンサとの対比によってはじめて明確化が可能となった。

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以上により、本研究は燃焼室壁面における瞬時表面温度の高精度な計測と局所熱流束の 高精度な算出手法を独自に開発したセンサで実現し、熱損失研究の進展に大きく寄与でき る研究成果である。

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- 1 - 氏 名(本籍)

学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

小野 佑樹(山梨)

博士(工学)

甲第159 号

令和2 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 主 題 弾性流体潤滑理論を用いた油膜挙動と油膜厚さ算出に関する研究

―金属ベルト式無段変速機 ベルト/プーリーへの適用―

論 文 審 査 委 員 (主査)三原 雄司 槇 徹雄 三田 修三

落合 成行(東海大学工学部機械工学科 教授)

論文内容の要旨

互いに滑りあう2 物体の表面が油膜によって完全に離れている状態を,流体潤滑と言う.

例えばすべり軸受は流体潤滑であり,回転する軸と固定された軸受の間にある一定の厚さ の油膜がなければ,軸と軸受とのしゅう動面はどちらか一方または両方がすぐに大きく摩 耗し,機能を失ってしまう.そのため,油膜厚さを設計段階で求めることは重要である.

油膜形成状態はレイノルズ方程式を基礎とした理論モデルを使って計算でき,実際に機械 が運転状態で得られる実験結果とよく一致することが多くの商品開発で確認されている.

レイノルズ方程式には以下のような前提条件がある.

・流体に働く重力や慣性力は粘性力に比べて無視できる

・流体の圧縮性は無視できる

・物体表面と流体の間に滑りはない

一方流体潤滑の仮定が成り立たない状態でしゅう動する部品が数多く存在しているの も事実である.例えば,転がり軸受の転動体と内外輪の転動面,歯車のかみ合い部,金属 ベルト式無段変速機(CVT)のベルト/プーリー間のしゅう動面などである.これらに共 通するのは,接触面の面圧が非常に大きいことである.このような状況では,流体潤滑理 論を用いて油膜厚さを算出しても,面圧が大きい影響で膜厚は極めて小さくなり,一般的 な加工面の表面粗さに対し,油膜厚さの方が小さくなってしまう.つまり,計算上2 物体 は固体接触してしゅう動することになるが,実際には潤滑により摩耗は防がれ,長期間の 運転が可能である.つまり,理論と一致しない.

そこで,流体潤滑の理論モデルに物体の弾性変形と,圧力による潤滑油の粘性変化を取 り入れたものが弾性流体潤滑(EHL)の理論である.1959 年,Dowson と Higginson の論 文において名付けられて以来,様々な研究機関で研究が進んでおり,転がり・滑り接触面 の油膜圧力・油膜厚さ・温度などを推定するモデルが構築されている.また計算モデルを

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検証するため,光干渉法をはじめとした潤滑膜形成状態の計測手法が,理論に応じて研究 されてきた.

これらの研究は日進月歩で進んでいるが,滑り速度の違い,オイルの粘性や添加剤の影 響,摩耗粉の流れなど,様々なしゅう動条件を考慮すると計算モデルが複雑になり,機械 の一部として組み込まれ運転状態にある軸受,歯車,金属ベルト式CVT のしゅう動面の 計算までには至っていない.弾性流体潤滑領域は一般に,流体潤滑状態と比べると圧力発 生領域が極めて狭い領域に限られ,圧力の大きさは一桁から二桁程度大きい.そのため,

計算に必要となる,微小な領域の荷重や温度といった入力値を,取得できないためである.

計算結果を検証する方法についても課題と言える.

本研究はこれらの課題を解決し,実機運転時の油膜形成状態を,弾性流体潤滑の理論計 算により求める手法を構築する.また計算結果を,実験的に取得した油膜の状態と比較す ることで,解析モデルの妥当性や精度の検証も行った.本論文では自動車用金属ベルト式 CVT を適用事例としてこの成果を示すが,構築した手法は他の機械に対しても展開可能 とすることを目指す.

【本研究の新規性と独自性】

① 実機での計測による弾性流体潤滑理論への入力データ取得

弾性流体潤滑の理論体系は基本的に,油膜に接する2つの物体間に加わる荷重を,粘度 が高まった油膜内部で生じる圧力が受け止めるという前提に立っている.したがって実機 運転時の油膜形成を推定するためには,狭い荷重伝達領域に集中する荷重の変動を取得す る必要がある.今回対象とした金属ベルト式CVT は,動力伝達面で多数のベルトエレメ ントが同時にプーリーに荷重を伝達する機構であり,その中の局所的な領域で圧力変動を 取得するために,薄膜状の圧力センサーを用いた計測を行った.高荷重域での計測を可能 にするため,センサー保護膜の耐荷重性を高めた(第2 章).潤滑油の粘性は温度により 大きく変化するため,機械運転中に弾性流体潤滑状態の局所的な油膜温度を把握する必要 がある.そのため,赤外線のボアスコープ,赤外線カメラ,伝熱解析を組み合わせること で,しゅう動面近傍の最高到達温度を推定した(第3 章).金属ベルト式 CVT は加速や変 速により接触領域やその荷重が連続的に変化するため,金属ベルトエレメント1個に加わ る荷重を過渡状態で連続的に計測した.実車走行モードを模擬する試験機において,小型 のデータロガー取り付けた金属ベルトを用いた.(第4 章).

② 実機状態を反映した油膜厚さ変化の計算とその検証

①で得られたデータに特徴的な接触荷重変動パターンを抽出・モデル化し,これを入力 条件として油膜厚さ分布の時間変化を推定した(第5 章).得られた油膜厚さや,それを 求める手法の妥当性を検証するため,実機部品に荷重を加える過程の油膜厚さ変化を,光 干渉法により計測した(第6 章).

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- 3 -

【本研究の成果】

弾性流体潤滑状態のしゅう動部を含む機械の設計において,最適な油膜形成状態を推 定・制御する手法を示した.本論文では金属ベルト式無段変速機を適用事例として手法構 築や実証を行なったが,適用先はこれに限らない.他の機械への研究成果の展開や,その 際に想定される課題などについては,第7 章で示す.

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- 4 -

論文審査結果の要旨

本研究は、油膜によって二面間が完全に離れる状態(流体潤滑)が成立しない環境でし ゅう動する金属ベルト式無段変速機(CVT)のベルト/プーリー接触面において、実際の CVT の摺動面圧力や摺動面温度を計測し、これらの物理情報や実機での荷重作用パター ン等を弾性流体潤滑理論(EHL)に取り入れて油膜厚さを解析的に求める手法を提案した。

計測手法及び弾性流体潤滑を CVT のベルト/プーリーに導入して解析モデルの構築をす るには、流体潤滑の理論モデルに物体の弾性変形と,圧力による潤滑油の粘性変化を取り 入れる必要があり、圧力発生領域が極めて狭い領域における荷重や温度といった入力値を 取得することが重要となるが、独自の計測手法の開発によってこれに成功し解析モデルの 提案を実現した。

具体的には、CVT の複数のベルトエレメントが同時にプーリーに荷重を伝達する際の 局所領域での圧力変動の把握のために、プーリー側表面に形成した薄膜圧カセンサによっ て計測を行っているが、高荷重域での計測となるため、センサの構造や保護膜材料は耐荷 重性を高めた独自の仕様を開発している。このセンサは通過するエレメント個々の微妙な 形状の違いも計測データに反映できており、非常に高精度な計測手法と判断できる。

また、潤滑油の粘性を決定するためにはしゅう動部の局所温度が必要となり、CVT 運 転中の局所的な油膜温度の把握のため、本研究用に開発された赤外線のボアスコープ、赤 外線カメラ、伝熱解析を組み合わせによりしゅう動面近傍の最高到達温度の推定に成功し た。加えて金属ベルト式CVT は加速や変速により接触領域やその荷重が連続的に変化す る。このため、金属ベルトエレメント1 個に加わる荷重を過渡状態で連続的に計測するた めに、実車走行モードを模擬する試験機に小型のデータロガー取り付けた金属ベルトを用 い、荷重変化の計測に成功している。これらの計測及び温度推定手法は独創的であり、実 機を対象とした解析モデルを構築する際の理想的な研究と言える。

実機状態を反映した油膜厚さ変化の計算とその検証では、得られたデータに特徴的な接 触荷重変動パターンを抽出・モデル化し、これを入力条件として油膜厚さ分布の時間変化 の推定を行い、得られた油膜厚さや,研究手去の妥当性の検証のために実機部品に荷重を 加える過程の油膜厚さ変化を光干渉法により実測しており、これらの緻密な検証は本論文 の高い有用性を裏付けるものである。

本研究は上述したように、実機運転中に発生する弾性流体潤滑下での物理量の計測を、

特殊なセンシング法の開発によって実現し、弾性流体潤滑状態のしゅう動部を含む機械の 設計において最適な油膜形成状態を推定•制御する手法を示しており、高く評価できる。

また、この研究の研究手法は、金属ベルト式無段変速機に留まらず、他の機械へ展開でき

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- 5 -

る可能性が高く、その発展性は非常に高いと判断する。

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- 1 - 氏 名(本籍)

学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

永瀨 修(千葉)

博士(工学)

甲第160 号

令和2 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 主 題 業務用厨房における機器負荷率を用いた換気設計法に関する研究 論 文 審 査 委 員 (主査)近藤 靖史

岩下 剛 小林 茂雄

酒井 孝司(明治大学理工学部建築学科 専任教授)

論文内容の要旨

業務用厨房のフード排気量は国土交通省官房官庁営繕部・建築設備設計基準(以下、建築 設備設計基準と記す)に基づき、調理機器、フード形状、空調・換気用給気口の種類・位置 などに依らずフード下端開口部の面風速(0.3m/s)により決定されることが多い。この建築 設備設計基準はASHRAE Handbook Applications(以下、ASHRAE 基準と記す)の 1982 年版を引用している。一方、ASHRAE 基準は継続的に改訂されている。ASHRAE 基準 の 1995 年版では調理機器の発熱量やフードを形状により排気量を決定している。

ASHRAE 基準の 2003 年版では、これまでの面風速に関する記述が削除されている。

ASHRAE 基準の 2007 年版では、米国の一般的な厨房規模を再現した試験室において各 種給気口による空調擾乱を与えた条件でのフードの捕集性状の実験的研究の成果に基づ いた記載もあり、調理機器や空調・換気用給気口が多様化する業務用厨房を取り巻く環境 に対応しているといえる。日本の業務用厨房の換気計算法について、一般に用いられてい る建築設備設計基準は非常にシンプルではあるが換気量が過大となることが多く、無駄な 換気をしているため省エネルギーという観点からも問題がある。そこで、米国のASHRAE 基準のように多様化する業務用厨房の換気・空調方式に対応すべく、日本でも「一般的な 厨房規模を再現した試験室による実験的研究」の成果を換気・空調計画に反映するための 新たな換気設計基準が求められている。

以上のような背景から本研究は行われ、本論文は以下のような構成となっている。

第1 章では、序論として業務用厨房の必要換気量について、米国の ASHRAE 基準と日 本の違いや課題について示し、日本でも「一般的な厨房を再現した試験室の実験的研究」

が必要で、標準試験法の確立が必要であることを述べた。その標準試験法の確立には、多 くの業務用厨房における厨房規模・排気フード・給気口・調理機器や、各種の調理機器の 電力消費量の調査が必須となる。このような調査研究はこれまで行われておらず、本研究

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で行った業務用厨房の調査はそのための調査でもあるため、研究の目的およびその意義に ついても示した。また、本研究の成果の一部を用いて制定された標準試験法や、関連のあ る換気設計法の紹介も行う。

第2 章では、社員食堂の中規模厨房の仕様に関する調査概要と結果を示す。中規模業務 用厨房は、1 回の食事で 200~800 食分の食事を提供できる厨房とし、全国 35 の電気厨 房の調査・分析を行う。調査は、竣工図面や施設管理者による記述調査であるため、十分 な情報が得られない場合には厨房内の状況を把握するために給気口や空調機の写真も収 集した。厨房の仕様として、床面積と天井高さ。排気システムとして、排気フードの張り 出し寸法や排気量、天井排気口の排気量。給気システムとして、給気口の種類や風量、空 調の有無などについて集計を行い、平均値など具体的な数値を示した。既往文献などでも 同様な調査はほとんどないため、日本における厨房の一般的な仕様となる貴重な数値を示 している。

第3 章では、第 2 章の調査厨房から調理器具の負荷率を計測可能な 10 の厨房について 行い、実測概要と分析結果を行う。実測は冬季に行い、測定期間は2 週間、実質 10 日間 の調理機器の消費電力データを測定した。厨房器具の負荷率集計するための平均化時間の 検討や、厨房内に排出される機器負荷を算出するために水の加熱時間は削除するなど、厨 房機器によるデータの削除の仕方を示し、厨房機器のピーク時刻を算出した。更に、厨房 機器毎の設計負荷率を算出する方法の提案を行い、同じ方法で各フード、各厨房の設計負 荷率の算出も行う。日本の中規模業務用厨房(社員食堂)における厨房機器の使われ方を 示している。

第4 章では、第 2 章、第 3 章による実態調査による成果を引用して策定された新しい換 気計算法を用いた換気計算ツールの紹介を行う。新たな換気計算法の普及にはBIM と連 携した換気設計ツールが有効と考え、換気計算ツールは、BIM ソフトとして最も普及し ているRevit を用いて作成した。換気計算ツールは、室容積と用途別必要換気量から換気 量を算出し、レイアウトされた厨房機器の上に排気フードを自動描画することができる。

排気フードの大きさは適宜修正することでBIM 情報へ反映することができ、設計図書へ 展開することができる。このようにBIM から設計図書作成までの手順を示し、BIM 設計 の可能性を示すとともに、現状の課題について考察している。

第5 章では、本研究の全体のまとめと、本研究の成果と今後の課題について示している。

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論文審査結果の要旨

本研究は業務用厨房における省エネルギーと作業者の快適性・健康性の向上を目指した 研究であり、適正な換気量を求めるための基礎的な調査・データ収集と分析が主な内容で ある。先ず、本研究の背景を述べる。

日本では、業務用厨房のフード排気量は国土交通省官房官庁営繕部・建築設備設計基準 (以下、建築設備設計基準と記す)に基づき、フード下端開口部の面風速(0.3m/s)により決定 されることが多い。この算定方法では、調理機器、フード形状、空調・換気用給気口の種 類 ・ 位 置 な ど を 考 慮 し て い な い 。 ま た 、 建 築 設 備 設 計 基 準 は ASHRAE Handbook Applications(以下、ASHRAE 基準と記す)の 1982 年版を引用している。一方、ASHRAE 基 準は継続的に改訂されており、1995 年版では調理機器の発熱量やフードの形状を考慮し て排気量が決定される。さらに、ASHRAE 基準の 2003 年版では、これまでの面風速に関 する記述が削除されている。ASHRAE 基準の 2007 年版では、米国の一般的な厨房規模を 再現した試験室において各種給気口による空調擾乱を与えた条件でのフードの捕集性状 の実験的研究の成果に基づいた記載もあり、調理機器や空調・換気用給気口が多様化する 業務用厨房を取り巻く環境に対応している。日本の業務用厨房の換気計算法について、一 般に用いられている建築設備設計基準は非常にシンプルではあるが、換気量が過大となる ことが多く、省エネルギーという観点からも問題がある。そこで、米国の ASHRAE 基準 のように多様化する業務用厨房の換気・空調方式に対応すべく、日本でも「一般的な厨房 規模を再現した試験室による実験的研究」の成果を換気・空調計画に反映するための新た な換気設計基準が求められている。

以上のような背景から本研究は行われ、本論文は以下のような構成である。

第 1 章では、序論として業務用厨房の必要換気量について、米国の ASHRAE 基準と日 本の違いや課題を示し、日本でも標準試験法とこれに基づく適正な換気量算定手法の確立 が必要であることを述べている。この標準試験法の確立には、多くの業務用厨房における 厨房規模・排気フード・給気口・調理機器や、各種の調理機器の電力消費量の調査が必須 である。このような調査研究は行われていなかった。これに対し、本研究で行った業務用 厨房の調査の目的およびその意義について示している。また、本研究の成果の一部を用い て制定された標準試験法や、関連する換気設計法の紹介も行っている。

第 2 章では、社員食堂の中規模厨房の仕様に関する調査概要と結果が示されている。中 規模業務用厨房は、1 回の食事で 200~800 食分の食事を提供できる厨房とし、全国 35 の 電気厨房の調査・分析が行われた。調査は、竣工図面や施設管理者による記述調査である

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- 4 -

ため、十分な情報が得られない場合には厨房内の状況を把握するために給気口や空調機の 写真も収集している。厨房の仕様として、床面積と天井高さが、排気システムとして、排 気フードの張り出し寸法や排気量、天井排気口の排気量が調査された。給気システムとし て、給気口の種類や風量、空調の有無などについて集計を行い、平均値など具体的な数値 が示されている。既往文献などでも同様な調査はほとんどないため、本研究の成果は日本 における厨房の一般的な仕様となる貴重なデータである。

第 3 章では、第 2 章の調査厨房から調理器具の負荷率を計測可能な 10 の厨房について 行い、実測概要と分析結果が示されている。実測は冬季に行い、測定期間は 2 週間、実質 10 日間の調理機器の消費電力データが測定された。厨房器具の負荷率集計するための平 均化時間の検討や、厨房内に排出される機器負荷を算出するために水の加熱時間は削除す るなど、厨房機器によるデータの削除の仕方が示され、厨房機器のピーク時刻が算出され た。更に、厨房機器毎の設計負荷率を算出する方法の提案を行い、同じ方法で各フード、

各厨房の設計負荷率の算出も行われた。日本の中規模業務用厨房(社員食堂)における厨 房機器の使われ方が示されている。

第 4 章では、第 2 章、第 3 章による実態調査による成果を引用して策定された新しい換 気計算法を用いた換気計算ツールが紹介されている。新たな換気計算法の普及には BIM と連携した換気設計ツールが有効と考え、換気計算ツールは、BIM ソフトとして最も普及 している Revit を用いて作成された。換気計算ツールは、室容積と用途別必要換気量から 換気量を算出し、レイアウトされた厨房機器の上に排気フードを自動描画することができ る。排気フードの大きさは適宜修正することで BIM 情報へ反映することができ、設計図 書へ展開することができる。このように BIM から設計図書作成までの手順を示し、BIM 設計の可能性を示すとともに、現状の課題について考察している。

第 5 章では、本研究の全体のまとめと、本研究の成果と今後の課題について示している。

以上を要するに、本論文では業務用厨房における適正な換気量を求めるために必要とな る「社員食堂の中規模厨房の仕様に関する調査結果」と「調理機器の機器負荷率」を多く のデータから求め、示している。さらに、これらを用いた換気計算法を例示し、BIM との 連携手法を検討している。本論文の成果は、業務用厨房の換気・空調計画を適正なものと し、厨房における省エネルギーと快適性・健康性・生産性の向上に寄与するものと考えら れる。

よって、本論文は工学的に価値がある内容であり、博士(工学)の学位論文に値するも のと判断する。

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- 1 - 氏 名(本籍)

学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

木村 健太郎(神奈川)

博士(工学)

乙第91 号

令和2 年 3 月 5 日

学位規則第4条第2項該当

学 位 論 文 主 題 地下駅構内の列車風による冷房負荷推定に関する研究 論 文 審 査 委 員 (主査)近藤 靖史

岩下 剛 小林 茂雄

吉野 一(日本工業大学建築学部建築学科 教授)

論文内容の要旨

東日本旅客鉄道(以下JR東日本と称す)では、鉄道事業の二酸化炭素排出量を 2030 年度までに1990 年度に比べ 50%減らす目標を掲げている。消費エネルギーの約 8 割を占 める列車運転用エネルギーの削減対策が積極的に続けられている中、消費エネルギーの約 2 割を占める駅や車両センターでもエネルギー消費量の削減が求められている。

これまでJR東日本管轄の地下駅では、ホーム温熱環境や冷凍機生産熱量の調査・分析 により空調システムの省エネルギー化を図ってきた。2009 年から 2011 年の期間にJR東 日本にて実施された地下駅の空調システム最適性の研究では、列車が抵抗制御から回生制 御に代わった影響もあり、軌道部の換気や煙幕換気のエアカーテン効果が発揮できないこ とが確認された。その検証結果を受け、2010 年より煙幕空調機と軌道部給気ファンを停 止し、省エネルギー化を図っている。しかし、JR東日本総武快速線の各駅は現状の設備 容量に対し、ピーク時の生産熱量は半分程度と非常に少なく、冷凍機は効率の悪い低負荷 で運転している。この理由としては、前述した車両の軽量化や電力回生ブレーキの普及な ど、列車の高効率化による列車放熱量の減少に加え、地下水揚水規制に伴う地下水位上昇 など、建設当初想定していた状況が現在の状況と異なることが一因と考えられる。このた め、地下駅の新築工事や機器更新工事を検討する際には、実際の空調負荷を正確に推定し、

設備容量の適正化と効率の高い運用により省エネルギー化を図ることが重要となる。

現状に即した負荷解析手法の見直しを図る上で、地下駅の空調負荷で一般建物との最大 の違いは、列車運行に伴い発生する気流によりホームへ持ち込まれる列車風負荷である。

この列車風負荷を推定するためには、隧道からホームへ流入する空気温湿度と風量の予測 が必要となる。なお、既存駅の改修を目的とした設計であれば、隧道から流入する空気の 実測値を活用する方法が適しているが、新設の駅舎を建設する際には、隧道内温湿度の予 測は困難である。

列車風の風量に関しては、駅舎の構造や列車進入速度など、列車風に寄与する多くの要

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素が駅毎に異なり、これを予測するための方法としてはCFD 解析の利用が推奨される。

地下駅は隧道を含めると数km に及ぶ巨大建造物であるが、近年のコンピュータ性能の向 上に伴い実用的な解析が可能となっている。ただし、地下駅のCFD モデリングに関連す る報告は少なく、実際の駅舎設計にCFD 解析が生かされていない場合が多い。そこで本 研究では、地下駅の冷房負荷の中でも特に予測が難しい列車風負荷に着目し、複数駅の実 態把握やCFD 解析などを行って列車風負荷を推定する。

ここで、地下駅空調の汎用的な負荷シミュレータには、現在世界で最も普及している地 下鉄構内環境予測シミュレーションプログラムとして、SES が挙げられる。SES は細か い条件入力により多様な条件での予測が可能である反面、条件設定の仕方が複数あるため、

設計者の考える条件設定の与え方やシミュレータ熟練度の違いで計算結果が大きく異な る。さらに、膨大な入力条件が正しく設定されたとしても、地下水位の上昇や列車性能の 変化など駅舎設計時の想定とは異なる条件が多く、列車風の温度などを正確に予測できな いという問題点を有している。従って、この従来技術により得られた結果を用いても、空 調設備の容量等を正確に設定することができない問題を有している。そこで、設計者の技 量による出力の違いを極力無くし、換気風量や空調方式などの条件変更をした際に、空調 負荷の種別毎に顕熱と潜熱の内訳を簡易に算出できる地下駅用の空調負荷シミュレータ を開発することを目的とした。

本論文は以下の章により構成されている。

第1 章では、序論として東日本旅客鉄道の消費エネルギー削減の取組みを概説し、本論 文の研究目的を示す。また、既往の研究や文献調査、地下駅における温熱環境基準を説明 する。

第2 章では、東日本旅客鉄道の総武線における設計条件と実負荷の乖離を説明し、汎用 シミュレータやCFD 解析の課題を説明する。

第3 章では、地下駅温熱環境の実態把握のために行った地下ホームの温湿度測定、隧道 内空気温湿度測定、地下駅の列車風測定結果を示す。また、新日本橋駅の実態に即した負 荷要素を推定した。

第4 章では、要求事項を満たすため、ブロックの熱収支モデルに基づく負荷計算法を提 案し、ブロック分割や入力パラメータを説明する。入力パラメータの一部となる列車風風 量を推定するため、ホーム端部における列車風の三次元風速測定結果から隧道内の圧力損 失係数を同定し、CFD 解析結果により列車風がホーム階の空調負荷に与える影響を明ら かにした。隧道から流入する空気温湿度として実測値を活用する方法を検討するため、4 つの路線を対象に2 年間の長期定点計測を実施し、駅近傍の外気条件と隧道深さなどの条 件により隧道内空気温度を簡易に予測する推定式を導出し、予測精度を確認した。

第 5 章では、第 4 章で提案した負荷計算法の予測精度を検証するため、島式 1 面 2 線 駅と島式2 面 4 線駅にて監視データより得られた実測値と本負荷計算法による値との比較

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行い、本シミュレータの計算精度が実用的に充分であることを示した。

第6 章では、本研究の全体のまとめと、本研究の成果と今後の課題について示す。

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論文審査結果の要旨

本研究は、鉄道地下駅での換気・空調に関する省エネルギーの推進に寄与するものであ る。例えば、東日本旅客鉄道では、鉄道事業に関わる二酸化炭素排出量を 2030 年度まで に 1990 年度に比べ 50%減らす目標を掲げている。このためには、消費エネルギーの約 2 割を占める駅や車両センターにおいても省エネルギーを進める必要がある。一方、東日本 旅客鉄道総武快速線の各駅は現状の設備容量に対し、ピーク時の必要エネルギー量は半分 程度と非常に少なく、冷凍機は効率の悪い低負荷で運転していた。この理由としては、車 両の軽量化や電力回生ブレーキの普及など、列車の高効率化による列車放熱量の減少など、

建設当初の状況が現在とは異なることが一因と考えられる。このため、地下駅の新築工事 や機器更新工事を検討する際には、現状での空調負荷を正確に推定し、設備容量の適正化 と効率の高い運用により省エネルギーを図ることが重要となる。

上記のような背景を踏まえて、本研究では地下駅の空調負荷の計算手法を見直している。

特に、列車運行に伴い発生する気流(以降、列車風と記す)によりホームへ持ち込まれる負 荷を正確に予測することが重要であるとしている。地下駅における列車風負荷の影響は非 常に大きいが、列車風について詳細を検討した研究例は少ない。この列車風負荷を推定す るためには、隧道からホームへ流入する空気温湿度と風量の予測が必要となる。この予測 を行うために、本研究では隧道内温湿度の実測や列車風の風量の測定、さらに数値解析に よる詳細な列車風予測を行い、種々の検討を系統的に進めている。

列車風の風量に関しては、駅舎の構造や列車進入速度など、列車風に寄与する多くの要 素が駅毎に異なるが、本研究ではこれらを予測するための方法として CFD 解析を利用し ている。地下駅は隧道を含めると数 km に及ぶ巨大建造物であるが、近年のコンピュータ 性能の向上に伴い解析が可能となっている。ただし、地下駅の CFD モデリングに関連す る報告は少なく、実際の駅舎設計に CFD 解析が活かされている事例は少ない。これに対 し、本研究では地下駅の冷房負荷要素の中でも予測が難しい列車風負荷に着目し、複数の 駅の列車風の風速の測定結果と CFD 解析の結果との比較を行った上で、列車風負荷の算 定方法を詳細に検討している。

本論文は以下の章により構成されている。

第 1 章では、序論として東日本旅客鉄道の消費エネルギー削減の取組みが概説され、本 論文の研究目的が示されている。また、既往の研究や文献調査、地下駅における温熱環境 基準が説明されている。

第 2 章では、東日本旅客鉄道の総武線における設計条件と実負荷の乖離について、開業

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当初からの設計条件の変化や車両の高性能化、隧道換気の停止など、考えられる要因が調 査されている。また、汎用の負荷シミュレータや CFD 解析について、正確に予測できな い課題が説明されている。

第 3 章では、地下駅の空調負荷に起因する条件を把握し、現状の負荷内訳を解明するた め、総武線地下ホームの温湿度、隧道内空気温湿度、列車表面温度、列車風の実測を行っ ている。また、新日本橋駅の詳細な実測を行い、列車風負荷や列車放熱負荷、人体負荷や 隙間風負荷などを推定し、実態に即した負荷要素を推定されている。

第 4 章では、要求事項を満たすため、ブロックの熱収支モデルに基づく負荷計算法を提 案し、ブロック分割や入力パラメータが説明されている。入力パラメータの一部となる列 車風風量を推定するため、ホーム端部における列車風の三次元風速測定結果から隧道内の 圧力損失係数を同定し、CFD 解析結果により列車風がホーム階の空調負荷に与える影響 を明らかにしている。隧道から流入する空気温湿度として実測値を活用する方法を検討す るため、4 つの路線を対象に 2 年間の長期定点計測を実施し、駅近傍の外気条件と隧道深 さなどの条件により隧道内空気温度を簡易に予測する推定式を導出し、予測精度を確認し ている。列車放熱量は、列車進入から退出するまでの温度偏差と列車風風量から導出して いる。また、排気口による列車放熱量の排熱割合は、実測との再現性が高い CFD 解析を 用いて排気高さ毎に推定している。

第 5 章では、第 4 章で提案した負荷計算法の予測精度を検証するため、島式 1 面 2 線駅 と島式 2 面 4 線駅にて監視データより得られた実測値と本負荷計算法による値との比較行 い、本シミュレータの計算精度が実用的に充分であることを示している。

第 6 章では、本研究の全体のまとめと、本研究の成果と今後の課題について示す。

以上を要するに、本論文では鉄道地下駅における新たな空調負荷算定方法を提案してお り、算定結果の精度が十分であることを明らかにしている。本論文の成果は、既に進みつ つある鉄道地下駅での空調・換気設備計画における設備容量の適正化と効率の高い運用に 活かされ、鉄道事業における省エネルギーに大きく寄与するものと考えられる。

よって、本論文は工学的に価値がある内容であり、博士(工学)の学位論文に値するも のと判断する。

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- 1 - 氏 名(本籍)

学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

坂槇 義男(埼玉)

博士(工学)

乙第92 号

令和2 年 3 月 5 日

学位規則第4条第2項該当

学 位 論 文 主 題 木質ラーメン及び木質ラーメン内に耐力壁を設置した構面の許容せん断 耐力評価に関する研究

論 文 審 査 委 員 (主査)大橋 好光 西村 功 大村 哲矢 佐藤 幸恵

坂田 弘安(東京工業大学環境・社会理工学院建築学系 教授)

論文内容の要旨

狭小間口におけるインナーガレージを有する住宅等に、木質ラーメンを取り入れた建物 が増えている。また、木質構造に関する研究は、兵庫県南部地震以降多く行われ、現在で は、耐力壁を用いる軸組工法を対象とした新壁量計算法や許容応力度計算法等の設計法が 整備されている。ただし、校舎などの中規模施設、また住宅においても開口部を広く設け た構造物やインナーガレージを有する木質ラーメンの設計法は、まだ、確立されていると は言いがたい。その理由として、ラーメン接合部が半剛接合となり、回転を考慮した設計 が求められることや木質ラーメン接合部の構造方法が多種多様であり、それぞれの構法ご とに設計法が開発されていることが挙げられる。木質ラーメン接合部の構造方法は、モー メント抵抗型として、ガセット板接合型、ドリフトピン接合型、ボルト接合型などがある。

一方、2009 年施行の「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」は、住宅に可変性を 求めている。さらに、2010 年施行の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する 法律」を受けて、中規模及び4 階建て以上の中層建築物を木造で建築するための研究が勢 力的になされている。このとき、大空間または大開口を実現するための手段として大断面 で長大な部材で構成される木質ラーメンは有効である。

木質ラーメンは、地震力等の水平力に対して、柱-はり接合部でモーメント抵抗する。

しかし、柱-はり接合部を接合金物で構成していることから、半剛節接合となる。そして、

木材のめり込み剛性、曲げ剛性が小さいことから、建築物の変形角の制限値(1/200 また は 1/120rad.)を満足することが難しい。そのため、軸材の断面寸法は過大となる傾向が あり、不経済な設計を強いられている。そこで、木質ラーメン構面内に構造用合板を直張 りする構法を考える。本構法は、木質ラーメンで不足となりやすい初期剛性と耐力を補う ことができる。木質ラーメンに構造用合板などの面材耐力壁を配置し補剛する手法は、近

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年実設計で採用されるようになってきている。また、木質ラーメンを取り入れたスケルト ンインフィル住宅においても、構造用合板壁を木質ラーメンに配置するフレームが存在す ることがある。その際、構造用合板壁が木質ラーメン柱に応力の影響を与える可能性があ るため、木質ラーメンとは別に、管柱を設置し、構造用合板を張ることが多い。木質ラー メンフレームに直接構造用合板壁を設置した場合の挙動が解明できれば、別途配置した軸 組がなくても良い。そこで、木質ラーメンを面材耐力壁で補剛する構法の許容せん断耐力 の評価方法を考える。

本研究では、近年開発され、施工が容易な接合具である“ラグスクリューボルト(以下、

LSB)”を用いる木質ラーメンを取り上げる。そして、木質ラーメン及び木質ラーメン内 に耐力壁を設置した構面の許容せん断耐力評価の方法を提案する。(1)~(6)が、本研究の 成果である。

(1).LSB を用いた木質ラーメンの力学特性を門型ラーメンと柱‐はり接合部の試験及び 解析で明らかにした。

(2).LSB を用いた柱‐はり接合部の応力状態を試験で解明した。押し込み側の応力状態 は、LSB の押し込み力と木材へのめり込み力の加算で表せる。また、木材へのめり込み 力は、体積の関数で表現できる等を示した。

(3).木質ラーメンと面材耐力壁を併用した住宅の荷重‐変形角関係から木造住宅の耐力 を考察した。このとき、耐力要素の復元力特性は、バイリニアモデルとスリップモデルの 加算で示した。

(4).門型ラーメンフレームを中央でカットした試験体(ハーフラーメン)の実験と解析 を実施した。このとき、解析しやすくするため、実験では非接触の柱脚とし、木材へのめ り込み力を排除した。その結果、① 壁付ラーメンの短期許容せん断耐力は、ラーメン単 体と合板壁単体のそれぞれの短期許容せん断耐力に低減係数を乗じて加算することがで きる、② 合板壁をラーメン柱にくぎで直張りするとき、ラーメン柱の外側よりも内側に 直張りする方が耐力で有効である、などの結論を示した。

(5).(4)に加えて柱を柱脚金物に接触させた門型ラーメンフレームとハーフフレームの 試験を実施した。そして、ハーフラーメン試験の加算とラーメンフレーム試験を比較した。

水平加力時の逆対称性の確認と加算の確認を行った。

(6).次の 3 種類の壁付ラーメンフレームのシミュレーション解析を実施した。3 種類と は、① ラーメン柱に合板壁の片側を直張りして耐力壁を設置した場合、② ラーメンフレ ームの中央部に、耐力壁を設置した場合、③ ラーメンフレームの端部に耐力壁を設置し た場合、である。その結果、壁付ラーメンフレームの短期許容せん断耐力の評価方法を以 下のように提案した。

1). 木質ラーメンだけで、建築物を構築する場合は、木質ラーメンの許容せん断耐力を加 算する。

(31)

- 3 -

2). 木質ラーメンと耐力壁をそれぞれ独立させて混在させる場合は、木質ラーメンと耐力 壁のそれぞれの荷重‐変形角関係を加算する。そして、加算した荷重‐変形角関係から特 性値を求め、許容せん断耐力を算出する。

3). 木質ラーメンフレーム内に合板壁を設置する構面を混在させる場合は、木質ラーメン 単体と合板壁単体のそれぞれの荷重‐変形角関係に係数を乗じて、加算する。そして、他 の耐力要素の荷重‐変形角関係を加算して、特性値を求め、許容せん断耐力とする。乗じ る係数は、①、②で異なる数値とする。

① 木質ラーメンフレーム内に合板壁を設置する場合

② 木質ラーメンフレームの柱に合板壁を直張りする場合

参照

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