博士学位論文
論文の内容の要旨 および
論文審査の結果の要旨
2020年度
東京都市大学
甲第161 号 甲第162 号 甲第163 号 甲第164 号 甲第165 号 甲第166 号 甲第167 号 甲第168 号 甲第169 号 甲第170 号 乙第94 号 乙第95 号
序
本編は学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条
による公表を目的として、2020年度内に本学において博士
の学位を授与した者の、論文内容の要旨および論文審査の結果
の要旨を収録したものである。
- 1 - 氏 名(本籍)
学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件
高橋 直樹(神奈川)
博士(工学)
甲第161 号
令和3 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当
学 位 論 文 主 題 脚車輪型移動ロボットの周囲の環境に応じたモデル予測脚配置法 論 文 審 査 委 員 (主査)野中 謙一郎
大屋 英稔 宮坂 明宏 三宅 弘晃 関口 和真
論文内容の要旨
移動ロボットのための移動機構として主に車輪機構と歩行機構があり,それぞれ異なる 利点と欠点を有している.そこでこれらの移動機構の利点を併せ持つ脚車輪型移動ロボッ トが提案されている.脚車輪型移動ロボットの多くは車輪を搭載した多関節脚を有してお り,ロボットは比較的平坦な路面では車輪により走行を行い,不整地では脚により歩行す るように,周囲の環境に応じた適切な移動機構を切り替えることができる.しかしながら,
脚車輪型移動ロボットは多くの自由度と冗長性を持つ脚機構を有するため,この自由度を 効果的に利用した制御は困難である.そこで,本研究では制御器を切り替えることなく車 輪による走行と脚による段差踏破の両立が可能な脚車輪型移動ロボットのためのモデル 予測制御法を提案する.最初に,脚の動きを平面上に拘束した平面型脚車輪型移動ロボッ トを対象として,複雑な脚機構を複数有するロボットの制御方法を検討する.まず,予測 経路の道幅に応じて車輪位置を変化させるモデル予測障害物回避法を提案する.この手法 では,ボディ位置の障害物回避と道幅に応じた車輪の横位置変化を同時に実現する.また,
動作周波数の低い組み込みCPU を用いた実時間計算を実現するために,状態変換と繰り 返し計算中の数学関数近似計算により計算量を削減する.そして組み込みCPU を搭載し た平面型脚車輪型移動ロボットを用いた実機実験を行うことで,周囲の環境に応じた車輪 配置を伴う障害物回避制御が実現可能なことを示す.しかし,この手法は車輪位置と関節 角度を別々に最適化するため,脚機構による可動範囲の制限によりモデル予測制御によっ て得られた最適な車輪位置を実現できない可能性がある.そこで次に,ボディ位置と姿勢,
車輪位置,関節角度を同時に最適化するモデル予測障害物回避法を提案する.この手法で はボディの位置と姿勢,車輪位置,関節角度を状態量としてとり,脚機構の幾何学的な特 性を拘束条件としてモデル予測制御に導入することで,陽に考慮する.これにより,脚に よる可動範囲の制約を満たしたボディ位置と車輪位置が必ず得られ,これらを実現するよ
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うな関節角度が同時に得られる.また,各車輪位置に対して楕円ポテンシャル場を与える ことにより,周囲の環境に応じて障害物回避と脚配置を実現する.そして,数値シミュレ ーションによって脚配置の有効性と脚機構の特性を陽に考慮する必要性を示し,実機実験 により実時間制御が可能であることを示す.最後に,平面型脚車輪型移動ロボットを対象 に検討した拘束条件により脚機構の幾何学的な特性を導入する手法を,歩行が可能な3 次 元脚を有する脚車輪型移動ロボットに拡張して,地面形状に応じて車輪位置を変更させる ことで車輪による走行と車輪の持ち上げによる段差踏破を両立するモデル予測脚配置制 御を提案する.提案手法では,車輪の持ち上げ動作を実現するために,車輪位置を地面上 に拘束せずに車輪の持ち上げを許容するように定式化する.このとき車輪の接地状態を接 地と非接地の2 値で与えると接地状態が変化した際に急激に解が変化するため,接地状態 を連続的に変化するような近似関数で与えることで解の急変を抑制する.また,車輪の地 面への沈み込みを防ぐために車輪の沈み込み量に応じて指数的に大きくなるコストを与 えるとともに,段差を下る際に素早く車輪を接地させるために予測区間内で車輪を持ち上 げている時間の長さに応じて大きくなるような接地を促すコストを終端コストに与える.
これにより,平坦で連続的に高さが変化するような地面形状では車輪を地面に沿って移動 させることで車輪による走行を実現し,地面の高さが不連続に変化する地面形状では車輪 の持ち上げによる段差踏破を実現する.しかし,段差を乗り越えるために車輪を持ち上げ ると転倒リスクが生じる.そこで,ボディと車輪の位置関係から接地している車輪に加わ る荷重の配分比を見積もり,この荷重配分比が平滑化されるようなコストを与える.さら に,平面上のボディ位置が接地している車輪で構成される支持多角形の内部に収まるよう な拘束条件を導入する.これらのコストと拘束条件により,車輪を持ち上げる際に接地し 続ける車輪に荷重がかかるようにあらかじめボディ位置を変化させる動作が実現され,転 倒が抑制される.そして,地面高さが(1)連続的に変化する環境と(2)不連続にステップ状 に変化する環境での数値シミュレーションを実施し,提案手法により制御器を切り替える ことなく車輪による走行と段差踏破が両立されることを示す.なお,提案手法は車輪の位 置と姿勢をボディの位置と姿勢,関節角度を用いて表現できれば適用可能なように定式化 されており,本論文で扱う形状のロボットとは脚の数や構造が異なるロボットに対しても 容易に適用可能である.
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論文審査結果の要旨
数理最適化計算の機械システムへの応用は,計算機の高速化とアルゴリズムの改良によ って,急速に拡大するとともに高度化している.その中で多自由度のロボットなど複雑な 運動が求められる機構に対する最適制御は,外界センサの発展も相まって,応用への期待 が高まっている.特に非線形モデル予測制御は,複雑なダイナミックスと複数の制約を統 合して考慮することが可能な手法であるため,広く応用可能であると考えられる.一方で 実世界での運用を考えると,複雑な環境形状への適応に加えて,運動性能とエネルギー効 率のバランスや最適化などを陽に考慮する必要がある.このため,評価関数と制約条件の 定式化を対象に応じて設計することになる.特に移動ロボットでは,アクチュエータ出力 や地面・通路形状などの環境に対する制約条件を適切に定式化する必要があり,不連続性 への対応や実時間性の考慮も相まって,さらなる研究開発が求められている.
本博士論文では,脚と車輪を有する車輪型移動ロボットを対象に,非線形モデル予測制 御に基づく,新しい制御手法を提案している.まず低速な組み込み CPU にも実装可能な 手法として可変の道幅に適応する制御手法を提案している.車両の位置と道幅を変数とす る新しいモデル予測制御則を提案した上で,その有効性を平面脚車輪型移動ロボットの実 験機を用いて確認している.さらに,脚の自由度を有効に活用した制御手法として,非線 形モデル予測制御則の評価関数に楕円ポテンシャル関数を導入し,制約条件にアクチュエ ータ出力の制約を適切に設計することによって,運動自由度を活用した新しい障害物回避 制御則を提案している.その有効性は平面脚車輪型移動ロボットの実験機を用いた障害物 回避制御実験で検証している.そして,立体型の脚車輪型移動ロボットを対象として,曲 面や段差を有する地形に対応して,車輪の設置を制御しつつ荷重配分を行い,さらに重心 を最適移動するための新しいコスト関数を提案している.その有効性は実在する月面探査 ローバーを対象としたモデルに対して数値シミュレーションを用いて確認している.
論文は全 6 章で構成されている.第 1 章では,移動ロボットの機構と制御手法を述べた のちに,脚車輪型移動ロボットの既存の制御手法を述べ,第 2 章では,モデル予測制御 の概要を述べている.第 3 章では,平面型脚車輪型移動ロボットを対象とした通路幅に応 じて脚位置を変化させる組み込み CPU に実装可能なモデル予測障害物回避法について述 べ,さらに第 4 章にて脚の幾何学的な特性を拘束条件として陽に考慮した,周囲の環境に 応じた動的な脚配置を伴う障害物回避を実現するモデル予測制御について述べている.第 5 章では,立体型のモデル拡張し,荷重配分と支持多角形面積を考慮することで転倒抑制 を行うモデル予測脚配置法を提案し,車輪の持ち上げ動作を伴う段差踏破が可能であるこ とを示した.第 6 章では成果の纏めと将来の課題を述べている.
審査委員会では,博士論文に対して 5 名の審査委員による査読を行った.その中で,当 該分野における既存の研究論文として,脚車輪型移動ロボットの制御や,モデル予測制御
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のロボットへの応用に関する文献調査が行われ,適切に参照されていることを確認した.
さらにそれらの先行研究を基礎として,新たな研究を実施し,博士論文で主張している成 果が学術的な価値を有するものであることを確認した.また,これらの成果の一部は,高 橋直樹氏が筆頭著者となっている下記 2 件の査読付き英文論文誌を含めた,国内外の学会 で広く発表されていることを確認した.
-Naoki Takahashi and Kenichiro Nonaka (2012). “Model Predictive Obstacle Avoidance and Wheel Allocation Control of Mobile Robots Using Embedded CPU”.
In: Journal of System Design and Dynamics 6.4, pp. 447–465. ISSN: 1881-3046.
DOI: https://doi.org/10.1299/jsdd.6.447.
※博士論文の第3 章に纏めている.
-Naoki Takahashi, Naoki Shibata, and Kenichiro Nonaka (2020). “Optimal configuration control of planar leg/wheel mobile robots for flexible obstacle avoidance”.
In: Control Engineering Practice 101, p. 104503. ISSN: 0967-0661.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.conengprac.2020.104503.
※博士論文の第4 章に纏めている.
2021 年 1 月 9 日(土)9:30~11:30 に行われた博士論文公聴会およびそれに続く審査会,
および論文審査担当者からの個別の照会では,(1)センサを含めたシステムとしての考察,
(2)制御則の設計パラメータと性能の関係,(3)脚位置の軌道設計法,(4) 平面型制御則と立 体型制御則の統合性,などについて確認した.これらの照会事項及び示唆に対して,高橋 直樹氏が適切に論文を修正・対応した上で完成させた論文を提出したことを確認した.
本研究は,最適制御に基づいた予見的な制御を,多自由度の車輪型移動ロボットに適用 可能にした初めての研究であるという点で意義が大きい.研究成果の多くは査読付きの国 際学術論文誌等を通じて広く周知されている.本論文では,脚車輪型移動ロボットに対す るモデル予測制御による新しい制御手法を提案するとともに,多自由度ロボットの最適制 御に対する知見を深めた研究と考えられる.また,高橋直樹氏は,査読付き英語論文を複 数執筆していることから,外国語(英語)についても十分な能力を有していると判断でき る.
以上の理由から審査委員会では,論文審査は合格と判断した.
- 1 - 氏 名(本籍)
学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件
大川 功(静岡)
博士(工学)
甲第162 号
令和3 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当
学 位 論 文 主 題 Model Predictive Control with Predetermined Iterations and its Application to Automobiles
(繰り返し回数が既定となるモデル予測制御とその自動車への応用) 論 文 審 査 委 員 (主査)野中 謙一郎
田中 康寛 杉町 敏之 白鳥 英 関口 和真
論文内容の要旨
本論文では繰り返し回数が既定となるモデル予測制御と,その自動車への応用について 記す.
モデル予測制御(MPC)は応用上の性能ポテンシャルの高さにより,過去数十年にわ たって活発に研究が進められて来た.また制御対象の入力や状態に対する各種の制約条件 を陽に考慮可能なため,安全性や遵法性といったクリティカルな要件の充足に対して強み を発揮する.そのためMPC は産業応用に際しての主要な技術課題を解決する手段となり 得る.
一般的にMPC は解の算出のために繰り返し計算を必要とするため,応用研究と並行し,
高速計算に関する多くの研究が進められてきた.これらの成果や計算機性能の格段の向上 により,高速に解を得ることはもはや難しくなくなっている.しかしながら,最大演算量 を具体的に保証した手法はあまり報告されていない.産業応用に際しては最大演算量を明 確に保証しないと計算機の仕様を定められないため,工業製品として社会に普及させるた めには,この保証が重要となる.
そこで本研究では,MPC における最大繰り返し回数を数学的に保証し,オンラインで の繰り返し回数が既定となるアルゴリズム・応用手法を提案することで上記課題の解決を 図る.提案手法は MPC を等価な線型相補性問題(LCP)に変換する.LCP は解の候補 が有限な組み合わせ問題となる性質があり,この性質を利用して最大繰り返し回数を保証 する.本論文は7 つの章から構成される.第 1 章では上記の背景と共に,本研究の位置づ けを示す.第2~7 章の概要は以下のとおりである.
第2 章では MPC を LCP に変換し,最大繰り返し回数を保証して解くための基本的な アイデアを基礎的な数学とともに記す.LCP は有効化する制約条件の組み合わせを探索
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する問題であり,組み合わせの総数は制約の本数をℓ としたとき 2ℓ 通りとなる.したが って最大でも 2ℓ 回の繰り返しで解くことができる.この解法(以下,直接解法)をアル ゴリズム化し,本研究におけるベース手法として示した.
第3 章では直接解法を自動車の障害物回避に応用し,計算速度の調査を通じて新規アル ゴリズム導出の必要性を検証した結果について記す.自動車の操舵運動は本来非線形シス テムであるが,適切な座標変によりLCP として定式化できる.またこの問題においては,
LCP を 2 つのサブ問題に分割して解くことで計算速度を向上させることができる.数値 実験により,この応用例に対する直接解法の性能は実時間制御に対して十分であることが 示された.
第4 章では直接解法を自動車の軌道整形に応用し,計算速度の調査を通じて新規アルゴ リズム導出の必要性を検証した結果について記す.ソフト制約の導入により,衝突回避性 能を維持しながら軌道を整形する問題をLCP として定式化できる.実車試験により,実 用性能は実時間MPC に対して十分であるものの,保証される最大繰り返し回数が過度に 保守的であることが示された.計算機使用は保証された繰り返し回数に応じて定められる べきであるから,より少ない最大繰り返し回数を保証できる新規アルゴリズムの導出が課 題として顕在化した.
第5 章では上記課題に対して,より少ない最大繰り返し回数を保証可能な,新たな MPC アルゴリズムを妥当性の証明と共に示す.このアルゴリズムは1 つの予測点に対して単一 種類の制約を持ち,また予測時間が一定以下である問題に適用可能である.保証される最 大繰り返し回数はMPC の予測点数と同一であり,また最大の浮動小数点処理実行回数・
必要なメモリ量までを保証可能である.数値実験により,上記の適用可能条件は実用的な 問題をカバーし得ることと,非常に優れた計算速度を有すことが示された.
第 6 章では最大繰り返し回数を保証しながら,より広い対象に適用可能となる新たな MPC アルゴリズムを示す.このアルゴリズムは摂動させた問題を第 5 章のアルゴリズム で繰り返し解くことで,真の解を計算する.真の解に至るまでの繰り返し回数が保証され ているため全体としての繰り返し回数も保証され,第5 章のアルゴリズムと同様に最大の 浮動小数点処理実行回数・必要なメモリ量までを保証可能ある.数値実験によりアルゴリ ズムの妥当性は確認されたものの,保証された最大繰り返し回数が未だ保守的であるため,
更なる高速化が課題として示された.
第7 章では結論と将来の展望を示す.本研究により MPC 応用のために必要な計算機仕 様を演繹的に導出可能となったため,MPC の産業応用・社会への普及を大きく促す結果 が得られた.第6 章で導出したアルゴリズムの計算速度を向上させることで,上記効果は 一層高まると期待できる.
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論文審査結果の要旨
モデル予測制御は,制約条件を陽に考慮した最適制御であり,現実の問題を扱えるポテ ンシャルの高さから,長年にわたって理論研究と産業応用が試みられてきた.一方で演算 量の多さが課題となり,化学プラントなどの比較的時定数の大きいシステムへの応用が中 心であった.しかし近年では,コンピュータの計算能力向上によって機械系などへの応用 の機運が高まり,実時間計算に適した高速な計算アルゴリズムの研究開発が進んだ結果,
機械システムへの産業応用が数多く試みられている.自動運転はその一つであり,AI ベ ースのアルゴリズムと異なり,アルゴリズムが陽に記述できることや,道幅や周辺車両の 考慮,制駆動の出力制限などを制御系設計に陽に反映できることから,多くの自動車関連 企業でモデル予測制御を用いた自動運転システムの研究開発が活発に行われている.この 際には,モデル予測制御の計算の高速化をさらに進める一方で,演算量の保証を担保する 必要がある.なぜなら制御用 CPU の仕様を決めるためには,平均的な計算時間を短くす るだけではなく,最大の計算時間を確定することが求められるためである.自動車などの 機械系システムでは時定数の小さいことが多く,実時間制御を製品で実装するために特に 重要である.
本博士論文では,モデル予測制御の最適化計算における最大繰り返し回数を数学的に保 証する手法を複数提案している.そのうちの一つは実車実験に適用して検証も行っている.
実時間制御における繰り返し回数が既定となる提案アルゴリズムによって,制御用計算機 に必要とされる演算量を見積もることが可能になり,実時間制御を保証することを可能に している.提案手法では,モデル予測制御の制約条件付き最適化問題を等価な線型相補性 問題に変換する.線形相補性問題は解の候補が有限な組み合わせ問題となる性質があり,
この性質を利用して最大繰り返し回数を保証する.論文では主に次の 3 種類の手法が提案 されている.(1)準最適解であるが一般的な問題に適用できる手法,(2)事前に検証可能な 条件を満たせば適用可能な手法,(3) (2)を一般的な問題へと適用可能にした手法.いずれ も最大演算量を保証することが可能であり,産業応用への可能性を大きく広げる可能性が ある.
博士論文は 7 つの章から構成される.第 1 章では背景を述べた上で研究の位置づけを示 している.第 2 章では線形相補性問題としての解法と提案するアルゴリズムを導くための 数学の基礎を纏めている.第 3 章では,繰り返し回数が既定となるモデル予測制御のアル ゴリズムを導出し,妥当性を証明する定理を示している.導出したアルゴリズムは最大演 算量オーダーだけでなく,最大の浮動小数点処理実行回数を保証可能である.第 4 章では,
自動車の速度制御への実装例を示している.第 5 章では,修正 n-step ベクトルの存在性に 着目し最大演算量を保証したアルゴリズムを提案し,その数学的照明も示している.第 6 章では,第 5 章の手法を複数種類の制約へと拡張する方法を提案している.第 7 章では成
- 4 - 果をまとめ,今後の展望を示している.
審査委員会では,博士論文に対して 5 名の審査委員による査読を行った.その中で,当 該分野における既存の研究論文として,線形相補性問題の既存のアルゴリズム,線形モデ ル予測制御の最適化計算アルゴリズムや,自動運転への応用に関する文献調査が行われ,
適切に参照されていることを確認した.さらにそれらの先行研究を基礎として,新たな研 究を実施し,博士論文で主張している成果が学術的な価値を有するものであることを確認 した.また,これらの成果の一部は,大川功氏が筆頭著者となっている下記 3 件の査読付 き英文論文誌を含めた,国内外の学会で広く発表されていることを確認した.
-Isao Okawa and Kenichiro Nonaka (2018), "Comparative Evaluation of a Trajectory Generator for Obstacle Avoidance Guaranteeing Computational Upper Cost".
In: International Journal of Automotive Engineering, 9.2, pp. 39–47.
DOI: https://doi.org/10.20485/jsaeijae.9.2_39
-Isao Okawa, Yoshihide Mizumushima and Kenichiro Nonaka (2020). "Optimal trajectory generation with direct acceleration reshaping for autonomous vehicles".
In: Mechanical Engineering Journal, 7.4, p. 19-00632.
DOI: https://doi.org/10.1299/mej.19-00632 -Isao Okawa and Kenichiro Nonaka (2021).
"Linear complementarity model predictive control with limited iterations for box-constrained problems".
In: Automatica, Volume 125, March 2021,
DOI: https://doi.org/10.1016/j.automatica.2020.109429.
2021 年 1 月 9 日(土)14:00~16:00 に行われた博士論文公聴会およびそれに続く審査会,
および論文審査担当者からの個別の照会では,(1)研究成果が広く応用可能であることの 補足,(2)実際の計算時間の見積もり方法と論文の構成,(3)計算速度の比較の考察,(4)速 度変化への対応,などについて確認した.これらの照会事項及び示唆に対して,大川功氏 が適切に論文を修正・対応した上で完成させた論文を提出したことを確認した.
本研究は,モデル予測制御における演算量保証に取組んだ数少ない研究であり,また計 算速度の観点からも既存の手法に対する優位性が高い.研究成果の多くは査読付きの国際 学術論文誌等を通じて広く周知されている.本論文では,線形相補性問題の修正 n-step ベクトルを用いた解法のモデル予測制御への適用可能性を拓いた研究とも考えられる.ま た,大川功氏は,査読付き英語論文を複数執筆していることから,外国語(英語)につい ても十分な能力を有していると判断できる.
以上の理由から審査委員会では,論文審査は合格と判断した.
- 1 - 氏 名(本籍)
学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件
武田 真理子(東京)
博士(工学)
甲第163 号
令和3 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当
学 位 論 文 主 題 Study on Material Texture Control of Composite Materials by Self-assembly Process -Applications to Piezoelectric Biosensor and High Thermal Conductive Materials-
(自己組織化プロセスを用いたコンポジット材料の材料組織制御に関す る研究 -圧電体バイオセンサ及び高熱伝導材料への適用-)
論 文 審 査 委 員 (主査)宗像 文男 黒岩 崇 小林 亮太
中島 千絵(北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター バイオリソース部門 教授)
論文内容の要旨
本研究では、セラミックス/ポリマーおよびセラミックス/ステンレス複合材料の応用先 として、圧電性バイオセンサと高熱伝導性部品とした。発展途上国では結核(TB)が流行し ている。現在では、ポリメラーゼ連鎖反応法や LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法と水晶を用いた圧電性バイオセンサを組み合わせた診断がある。しか しながら、応答時間と安全性、診断コストに課題がある。そこで本研究では、LAMP 法 とポリマー圧電材料を組み合わせた低コストで診断後にセンサを焼却できる新規TB 診断 用圧電性バイオセンサを提案した。実現化には、圧電性バイオセンサの感度及び応答性に 関わる誘電特性を向上させる必要がある。本研究ではセラミックス/ポリマー複合材料を 圧電性バイオセンサに適用した。
高熱伝導部材では、摩擦摩耗によってエネルギー損失や材料の損傷が生じ、機械システ ムの効率を低下させる。そこで、熱伝導率の高い材料が求められているが、一般的な鉄合 金の熱伝導率は低い課題がある。本研究では、熱伝導率を向上させるために、高熱伝導部 材としてセラミックス/ステンレス鋼複合材料を適用した。
ポリマーの誘電率は低い、またステンレス鋼の熱伝導率が低いため、複合材料が注目さ れている。一般的なセラミックス/ポリマー複合材料及びセラミックス/ステンレス鋼の研 究では、セラミックフィラーがマトリックス内に分散されている。しかし、フィラーの体 積分率が50vol.%であり、機械的特性が低下するため、圧電性バイオセンサやエンジン部 材への応用には適していない。そこで、少量のセラミックフィラー(0-20vo.%)で誘電特性 と熱伝導率の向上を目指して、本研究ではセラミックス/ポリマー複合材料及びセラミッ
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クス/ステンレス鋼複合材料を設計した。特に固体が関与する自己組織化プロセスに着目 し、複合材料の材料組織を制御した。自己組織化プロセスによる材料組織制御方法、自己 組織化材料組織と誘電特性や熱伝導率との関係性は明らかにされていない。したがって、
製造プロセスの違いに伴う自己組織化セラミックス粒子群の形態と分散性及びセラミッ クス粒子群中の界面状態と誘電特性及び熱伝導率との関係を議論し、材料設計を提案した。
自己組織化材料組織を定量化するために、フラクタル解析を用いた。本論文は4 章で構成 されている。
1 章では、問題点、材料設計の着眼点やアプローチ、本研究の目的をまとめた。
2 章では、ポリマー系圧電性バイオセンサの課題を設定するために、ポリフッ化ビニリ デン(β-PVDF)を用いて圧電性バイオセンサの作製を行った。この結果から、(1)β-PVDF の弾性率が低いため、β-PVDF のずり振動は溶液の粘度の影響を受ける、(2)センサの感 度は5μg/ml で反応速度は 60 分間であり、実用化には感度と応答性の向上が必要である ことがわかった。問題を解決するために、セラミックス/ポリマー複合材料を圧電性バイ オセンサに適用した。セラミックスフィラーではチタン酸バリウム(BT)、ポリマーマトリ ックスにはポリ乳酸(PLLA)と PVDF を用いた。材料組織を制御するために、(1)混練条件 と(2)分散剤の粘度を変えて、BT/ポリマー複合材料を作製した。フラクタル解析の結果か ら、容量次元がBT 粒子群形態を反映していることを示した。低速で低粘度の分散剤を使 用することで、BT/ポリマー/BT ヘテロ界面を有する BT 凝集体を形成した。BT/ポリマー /BT ヘテロ界面で電気双極子を形成でき、誘電特性を効率的に向上できることが明らかに なった。具体的には、BT/PLLA 複合材料では BT/BT 界面を有する BT/PLLA 複合材料よ りも24.5 倍 BT の平均二次粒子群面積(S)に対する誘電率を向上できた。同様に BT/PVDF 複合材料においても、1.16 倍向上できた。この BT/PVDF 複合材料を圧電性バイオセン サに適用した場合、感度が2.1 倍、応答性が 7 倍向上することが期待された。
3 章では、窒化ケイ素(SN)/ステンレス鋼(SUS316L)複合材料の熱伝導率(λe)の向上を 行った。材料組織と熱伝導率の関係を議論するために、平均粒径 3μm と 8μm の SUS316L 粉末を使用した。S とλe の結果から、SN 粒子群の形成に伴い、SN/SN 界面 の増加及び熱伝導ネットワーク形成により、λe を効率的に向上できることを明らかにな った。SN の体積分率 0vol.%と比較して 10vol.%で熱伝導率を 1.22 倍向上することに成 功した。マルチフラクタル解析によって、自己組織化プロセスの充填度の違いによる熱伝 導ネットワークの特徴(自己組織化 SN 粒子群の形態、配置エントロピー、分散性)を把握 できた。以上から、SN 粒子群の接続性が SN 粒子群を用いた熱伝導ネットワークの形成 に影響を与えることを明らかにした。
4 章では、本研究の総括と今後の展望を示した。本研究の成果から、作製条件が反応拡 散系の自己組織化プロセスに影響を与え、BT 粒子群と SN 粒子群の形態、配置エントロ ピー、分散性と粒子群内の界面状態を制御できることが明らかになった。材料組織制御の
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結果から、従来の PVDF やステンレス鋼では解決できなかった問題点を解決する材料設 計を提案できた。本研究の材料設計は、電気、熱伝導、強度、光学、音響材料にも適用可 能であり、本研究の成果は新材料の開発に貢献できる。
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論文審査結果の要旨
本論文は、セラミックス/ポリマーおよびセラミックス/ステンレス複合材料の材料組織 制御による性能向上を実現し、その応用として、①圧電性バイオセンサと②高熱伝導性部 材に研究開発を行ったものである。特に、バイオセンサおいては結核が流行している発展 途上国で、安全で低コストの結核診断を実現するために、圧電性バイオセンサと LAMP
(Loop-mediated Isothermal Amplification)法を組み合わせた新規診断方法を本論文では提 案した。実現化するために、セラミックス/ポリマー複合材料を圧電性バイオセンサに適 用し、圧電性バイオセンサの感度及び応答性に関わる誘電特性を向上させることを目指し た。又、高熱伝導部材では、摩擦摩耗によってエネルギー損失や材料の損傷が生じ、機械 システムの効率を低下させる廃熱性能の向上を目指した。
この様に従来のセラミックス/ポリマー複合材料及びセラミックス/ステンレス鋼の研究 では、セラミックフィラーがマトリックス内に分散されている。しかし、フィラーの体積 分率が 50vol.%であり、機械的特性が低下するため、圧電性バイオセンサやエンジン部材 への応用には適していない。そこで、本論文の目的は、少量のセラミックフィラー (0-20vo.%)で誘電特性と熱伝導率の向上を目指して、セラミックス/ポリマー複合材料とセ ラミックス/ステンレス鋼複合材料の設計を提案することである。特に、高誘電特性及び 高熱伝導率を得るために、自己組織化プロセスによって材料組織を制御した。製造プロセ スの違いに伴う自己組織化セラミックス粒子群の形態と分散性及びセラミックス粒子群 中の界面状態と誘電特性及び熱伝導率との関係を議論し、材料設計を提案した。自己組織 化材料組織を定量化するために、フラクタル解析を用いた。このフラクタル解析を用いて、
セラミックス粒子群の形態、分散状態、界面状態を評価した。本論文は下記の 4 章で構成 されている。
1 章では、問題点、材料設計の着眼点やアプローチ、本研究の目的を述べた。本論文の 材料設計のアプローチでは、チタン酸バリウム(BT)/ポリマー/BT ヘテロ界面をする自己組 織化 BT 凝集体を形成することで、誘電特性が向上すると考えた。熱伝導特性では、窒化 ケイ素(SN)粒子群を形成及び SN 粒子群を接続させることで、熱伝導率が向上すると考え た。これらの材料組織を制御するために、本論文では自己組織化プロセスを用いることを 提案した。セラミックス粒子群の形態、配置エントロピー、分散性を定量的に評価するた めに、フラクタル解析を用いることを示した。2 章から実際に実験を行い、材料設計を提 案した。
2 章では、圧電性バイオセンサに応用するセラミックス/ポリマー複合材料の材料設計を 述べた。ポリマー系圧電性バイオセンサの課題を設定するために、ポリフッ化ビニリデン (β-PVDF)を用いて圧電性バイオセンサの作製を行った。(1)ポリマーフィルムによる重量
- 5 -
変化、(2)蛍光標識アビジン及びビオチンの吸着特性によるセンサ検知特性の検討から、(i) β-PVDF は弾性率が低いため、ずり振動が溶液の粘度の影響を受ける、(ii)β-PVDF を用 いたセンサの感度は 5μg/ml で反応速度は 60 分間であり、実用化には感度と応答性の向 上が必要であることを示した。これらの課題を解決するために、チタン酸バリウム(BT)/
ポリ乳酸(PLLA)、BT/PVDF 複合材料の材料設計を行った。材料組織を制御するために、
(1)混練条件と(2)分散剤の粘度を変えて、BT/ポリマー複合材料を作製した。SEM 画像を 用いたフラクタル解析の結果から、容量次元が BT 粒子群形態を反映していることを示し た。材料組織制御では、低速で低粘度の分散剤を使用して試料を作製すると、BT/ポリマ ー/BT ヘテロ界面を有する BT 凝集体を形成できることを示した。界面状態と誘電特性の 検討から、BT/ポリマー/BT ヘテロ界面で電気双極子を形成でき、誘電特性を効率的に向 上できることを明らかにした。BT/PLLA 複合材料では BT/BT 界面を有する BT/PLLA 複 合材料よりも 24.5 倍 BT の平均二次粒子群面積に対する誘電率を向上できた。同様に BT/PVDF 複合材料においても、1.16 倍向上できた。この BT/PVDF 複合材料を圧電性バイ オセンサに適用した場合、感度が 2.1 倍、応答性が 7 倍向上することが期待された。
3 章では、高熱伝導化を目指して、窒化ケイ素(SN)/ステンレス鋼(SUS316L)複合材料の 材料設計を述べた。材料組織と熱伝導率の関係を議論するために、平均粒径 3μm と 8μ m の SUS316L 粉末を使用した。平均二次粒子面積と熱伝導率の検討から、SN 粒子群の形 成に伴い、熱伝導ネットワークが形成され、熱伝導率を効率的に向上できることを明らか にした。SN の体積分率 0vol.%と比較して 10vol.%で熱伝導率を 1.22 倍向上することに成 功した。SEM 画像と用いたマルチフラクタル解析の結果から、自己組織化プロセスの充 填度の違いによる自己組織化 SN 粒子群の形態、配置エントロピー、分散性の指標化がで き、熱伝導ネットワークの特徴を把握した。以上から、本論文では、SN 粒子群の接続性 が SN 粒子群を用いた熱伝導ネットワークの形成に影響を与えることを明らかにした。
4 章では、本論文の総括と今後の展望を示した。本論文の成果から、作製条件が反応拡 散系の自己組織化プロセスに影響を与え、BT 粒子群と SN 粒子群の形態、配置エントロ ピー、分散性と粒子群内の界面状態(BT/ポリマー/BT ヘテロ界面及び SN/SN 界面)を制御 できることを明らかにした。材料組織制御の結果から、従来の PVDF やステンレス鋼では 解決できなかった問題点を解決する材料設計を提案できた。今後、誘電特性及び熱伝導特 性の材料設計を組み合わせることで、低損失で高熱伝導率が必要な電子基板材料にも応用 できると考えられる。本論文の材料設計は、電気、熱伝導、強度、光学、音響材料にも適 用可能であり、本論文の成果は新材料の開発に今後貢献すると期待できる。
全体を通して、本論文はコンポジット材料の材料性能向上について材料設計・選定を材 料組織学的視点で捉え、特に添加した第二成分やフィラーの粒子群を自己組織化プロセス で制御する事が有効であるという観点でまとめられたものである。また、これらの材料組 織の特徴を定量的に評価するためにマルチフラクタル解析を適用し、材料設計の指針とな
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るパラメータを見いだした。この様に従来検討されていなかった固体の関与する自己組織 化プロセスについて研究されたものであるが、具体的な応用についてはまだ十分検討が加 えられているとは言えず、まだ検討すべき点があるが、今後の発展が期待されるコンポジ ット材料開発の方向性を少なからず示していることは、博士論文としては十分な価値を有 していると判断される。
従って、本論文は博士(工学)の学位論文として十分な価値があると判断した。
- 1 - 氏 名 ( 本 籍 )
学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件
真栄田 義史(神奈川)
博士(工学)
甲第164 号
令和3 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当
学 位 論 文 主 題 外部磁界によるアーク姿態の偏向抑制の研究 論 文 審 査 委 員 (主査)岩尾 徹
江原 由泰 和多田 雅哉 中島 達人
論文内容の要旨
ガスシールドアーク溶接は,高効率で汎用性に富み,接合部の品質が高く信頼性に優れ ていることから広く普及している。この溶接法は,橋梁や建築物の現地で行われることが あり,この際,外気による風が原因となって,溶接部の継手強度の低下を引き起こす溶接 欠陥が問題となる。これは,アークが風を受けることで,傾き,ふらつくためである。こ れにより,アークからの入熱が集中しないため,入熱不足を引き起こすことや,シールド ガスが流されることで溶融金属内に窒素が混入し,ブローホールという溶接欠陥を発生さ せる。このため,風速が2m/s 以上の条件では,溶接が制限されてしまう課題がある。今 後の現場における自動溶接の更なる適用の拡大に向けて,従来行われてきた対策ではなく,
理論的に横風下のアーク偏向現象を防ぐことが求められる。
アークは荷電粒子で構成されるため,外部磁場を用いてアーク姿態を制御する研究が行 われている。どんな場合においてもアークを中心に留めるために,全方向から磁界を印加 してしまうと,アーク内で磁界が打ち消されてしまう課題がある。このため,本研究室で は,磁界の方向を時間に伴い回転させる回転横磁界によってアーク姿態の偏向を抑制する 研究を行ってきた。しかし,現場溶接の実機に適用する場合には,数 m 程の溶接する長 さに合わせて,2対のヘルムホルツコイルを配置する必要があるため,コイル数も多くな り,装置が大型化する課題がある。これに対して,同様に回転したアークを発生できる縦 磁界は,コイル数が少なく小型化できるため,実機への適用が容易であり,均一な溶融池 形状を得られる長所がある。しかし,中心部の入熱が低下する課題がある。このため,横 磁界と縦磁界を印加したアーク姿態の偏向抑制手法に関して,両方検証することが求めら れる。これには,3次元的に変化し,実験の測定だけの検討では難しいアーク姿態の偏向 現象に関わる物理量の定量化が必要となる。この定量化を行うためには,非対称な現象を 解析できる3次元の電磁熱流体シミュレーションが必要となる。したがって,横風下のア ーク偏向現象で生じる溶接欠陥を防止するため,外部磁界によるアーク偏向抑制のメカニ
- 2 -
ズムに関して,仮説を立て,モデルを考案し,3次元電磁熱流体シミュレーションを用い て検証を行う。
本研究では,アーク偏向現象で生じる溶接欠陥を防止するため,実機に適用できる外部 磁界によるアーク姿態の偏向抑制手法を提案することを目指す。これを達成するため,ア ーク偏向抑制のモデルをシミュレーションで実証すると共に,横磁界と縦磁界のそれぞれ の手法の優位性の比較を行い,実機に適用可能である有用な手法を明らかにすることを目 的とした。ここで,横風下で想定されることとして,アークの偏向に伴う風下方向への熱 の輸送現象や,母材から発生した金属蒸気の風下側への輸送現象がある。横風下のアーク 偏向現象の抑制のために,これら2つの物理現象に関しても,シミュレーションを用いて 解析を行った。
第1章では,従来の研究の手法と課題についてまとめ,本研究の目的,並びに,構成に ついて述べた。
第2章では,本研究の仮説を明らかにする TIG アーク溶接のシミュレーションの構築 を行った。シミュレーションの構築における仮定と,シミュレーション内で用いる支配方 程式や物性値,境界条件などについて説明した。
第3章では,アーク溶接における金属蒸気の混入現象とアーク姿態の偏向現象について 解析した。具体的には,溶融池内の電流密度に及ぼすパルスアーク外周部の金属蒸気量の 寄与の解明と,横風でアージェットが変化した際のアークから母材に与える熱輸送の解明 を行い,目的を達成することができ。また,横風下では,アークの偏向が外周部に混入す る金属蒸気の増加を引き起こすことにより,アーク外周部で電流が流れやすくなることで,
溶け込み深さに寄与する溶融池の中心部で電磁力が低下することが示唆された。このため,
横風下でパルスアークを活用する上で,外部磁界によるアーク姿態の偏向抑制が必要であ ることを明らかにした。
第4章では,横風下の外部磁界によるアーク姿態の偏向抑制について解析した。具体的 には,横風下において,横磁界の印加によるアークの電磁力の増加によりアーク姿態の偏 向を抑制した際のアークの軸方向流速の増加を明らかにし,仮説とモデルを実証した。ま た,縦磁界による陰極近傍の回転したアークジェットの増大により,横風をアーク外周部 方向に誘導させることで偏向抑制を明らかにし,仮説とモデルを実証した。このため,本 研究の目的を達成できた。
第5章では,外部磁界によるアーク姿態の偏向抑制手法の提案を行った。具体的には,
母材への入熱やコストなど総合的な観点から検討した結果,縦磁界の方が実機に適用する 上では有用であることが明らかとなった。このため,各章の成果より本研究の目的を達成 し,実機に適用可能である縦磁界によるアーク姿態の偏向抑制手法を明らかにすることが できた。したがって,高所などの現場において,風が吹く環境下で溶接を行う場合におい ても,縦磁界により少ないガス流量で溶接欠陥無く溶接することが実現可能であることを
- 3 - 明らかにした。
第6章は,結論である。結論では,本研究によって得られた結果について総括した。
- 4 -
論文審査結果の要旨
本論文審査では,真栄田氏により提出された学位論文を審査するために,予備論文発表 会および最終論文発表会を行い,真栄田氏の研究が博士学位のレベルに達しているかを判 定すると共に,審査員から指摘された内容が論文中で適切に反映されているかを確認した。
真栄田氏の研究は,現場のアーク溶接の外気による風が原因で生じる溶接欠陥が引き起 こす接合部の品質の低下を防ぐために,外部磁界によりアーク姿態の偏向現象を抑制する ものである。外気からの風を受けたアークは,風下方向に傾き,アークの圧力勾配で生じ たジェットが流されてしまう。これに対して,外部磁界の電磁力をアークに印加し,アー クジェットの増大を引き起こすことができれば,偏向象を防ぐことが可能であることが実 験的に示唆されてきた。この実現には,横磁界や縦磁界といった2つの印加方法があり,
それぞれ利点と欠点があるため,横磁界と縦磁界を印加したアーク姿態の偏向抑制手法に 関して両方検証することが求められる。このため,外部磁界によりアークジェットの増大 を引き起こすことでアーク偏向現象が抑制できると仮説を立て解明を行う。この仮説を明 らかにするアーク偏向抑制モデルをシミュレーションで実証し,横磁界と縦磁界のそれぞ れの手法の優位性の比較を行い,実機に適用可能である有用な手法を明らかにすることを 目的とした。ここで,横風下で想定されることとして,アークの偏向に伴う風下方向への 熱の輸送現象や,母材から発生した金属蒸気の風下側への輸送現象がある。横風下のアー ク偏向現象の抑制のために,これら2つの物理現象に関しても,シミュレーションを用い て解析を行った。以下に,各章の概要を記載する。
第1章では,従来の研究の手法と課題についてまとめ,本研究の目的,並びに,構成に ついて述べた。
第2章では,本研究の仮説を明らかにする TIG(Tungsten Inert Gas)アーク溶接のシミ ュレーションの構築を行った。シミュレーションの構築における仮定と,シミュレーショ ン内で用いる支配方程式や物性値,境界条件などについて説明した。
第3章では,アーク溶接における金属蒸気の混入現象とアーク姿態の偏向現象について 解析した。具体的には,溶融池内の電流密度に及ぼすパルスアーク外周部の金属蒸気量の 寄与の解明と,横風でアークジェットが変化した際のアークから母材に与える熱輸送の解 明を行い,目的を達成することができた。また,横風下では,アークの偏向が外周部に混 入する金属蒸気の増加を引き起こすことにより,アーク外周部で電流が流れやすくなるこ とで,溶け込み深さに寄与する溶融池の中心部で電磁力が低下することが示唆された。こ のため,横風下でパルスアークを活用する上で,外部磁界によるアーク姿態の偏向抑制が 必要であることを明らかにした。
第4章では,横風下の外部磁界によるアーク姿態の偏向抑制について解析した。具体的 には,横風下において,横磁界の印加によるアークの電磁力の増加によりアーク姿態の偏
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向を抑制した際のアークの軸方向流速の増加を明らかにし,仮説とモデルを実証した。ま た,縦磁界による陰極近傍の回転したアークジェットの増大により,横風をアーク外周部 方向に誘導させることで偏向現象の抑制を明らかにし,仮説とモデルを実証した。このた め,本研究の目的を達成できた。
第5章では,外部磁界によるアーク姿態の偏向抑制手法の提案を行った。具体的には,
母材への入熱やコストなど総合的な観点から検討した結果,縦磁界の方が実機に適用する 上では有用であることが明らかとなった。このため,各章の成果より本研究の目的を達成 し,実機に適用可能である縦磁界によるアーク姿態の偏向抑制手法を明らかにすることが できた。したがって,高所などの現場において,風が吹く環境下で溶接を行う場合におい ても,縦磁界により少ないガス流量で溶接欠陥無く溶接することが実現可能であることを 明らかにした。
第6章は,結論である。結論では,本研究によって得られた結果について総括した。
真栄田氏の研究により,従来の溶接が実施されない風速においても,外部磁界の電磁力 によりアークジェットの増大を引き起こすことで横風下のアーク姿態の偏向現象の抑制 が可能となった。更に,電磁界解析ソフトウェア JMAG を用いた静磁界解析の検討によ って,実機に適用可能な縦磁界によるアーク姿態の偏向抑制手法を提案することができた。
予備論文発表会および最終論文発表会において,論文内容の説明では,今まで得られた 理論や実験に関する知見を体系的にまとめており,大局的な視点からの専門性を持つこと が確認された。更に,各審査委員からの質問事項には,各磁界印加時の比較の条件,実機 に適用する磁界印加装置についてのものがあった。これらの回答において,客観的であり,
公正に検証されていることが確認された。また,解析結果に関する質疑応答では,理論的 な裏付けを基に回答しており,回答内容が十分であることが示された。最終的に,各審査 委員からの質問や指摘に対して十分な検討がされており,的確に学位論文に反映されたこ とを確認できた。
以上のことより,真栄田氏によるアーク姿態の偏向現象の抑制に関する成果は,高層ビ ルのような風が吹く環境下である現場のアーク溶接の品質向上と自動化に貢献する,有益 な研究であると評価できた。したがって,本論文は,金属接合技術に対する価値の高い内 容であり,博士(工学)の学位を取得するに値するものと判断した。
- 1 - 氏 名 ( 本 籍 )
学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件
森 憲治(東京)
博士(工学)
甲第165 号
令和3 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当
学 位 論 文 主 題 深層防護レベルに応じた核燃料施設の地震リスク評価手法の枠組み及び 論理モデル・解析モデルの構築
論 文 審 査 委 員 (主査)牟田 仁 大鳥 靖樹 鈴木 徹
山路 哲史(早稲田大学大学院先進理工学研究科 共同原子力専攻 准教授)
古谷 正裕(早稲田大学大学院先進理工学研究科 共同原子力専攻 教授)
論文内容の要旨
2011 年 3 月に東京電力福島第一原子力発電所で発生した事故の教訓から、日本では安 全規制要求の範囲が深層防護のレベル3(設計基準内への事故の制御)からレベル 4(シ ビアアクシデント対策)に広げられ、レベル5(サイト外の緊急時対策)に対する対応が 強化された。また、原子力発電所の安全性の向上や規制については、確率論的リスク評価
(以下「PRA」という。)の知識を活用したリスク情報の活用がこれまで以上に推進され ており、さらに、核燃料施設においても将来的なリスク情報の活用に向けた動きがある。
核燃料施設を対象としたリスク評価手法は未成熟であるが、内的事象を対象としたリスク 評価手法の研究や実施例がある。一方、地震等の外部事象を対象とした核燃料施設のリス ク評価手法では、事故時の対応に可搬型設備等を用いた人的操作の寄与が大きいこと、ま た、複数の機器故障や人的過誤の発生を考慮する必要があるが、このような影響を踏まえ たリスク評価手法は十分整備されていない。
このような背景の下、本研究では、核燃料施設を対象として地震などの外部事象による 事故のリスク評価を実施することを目的として、深層防護の観点からリスク評価を実施す る上での課題点を明確にし、これを踏まえたリスク評価手法の整備を行った。
地震を誘因事象とした設計基準事故、即ち深層防護レベル3 相当の事故を想定した場合 のリスク評価には、対象とするシステムが複雑でなければ、従来の地震に対する確率論的 リスク評価(以下「地震 PRA」という。)手法を適用することが見込まれる。その一方、
核燃料施設は施設の数が少なく形態も多種多様であり、定量的なリスク情報(信頼性デー タ)を得難く、そのリスク評価手法は原子力発電所と比べ必ずしも成熟していない。また、
核燃料施設は原子力発電所よりも事故の潜在的影響が小さく、施設の種類によってリスク
- 2 -
の大きさが異なる。そのため、核燃料施設におけるリスク評価では、施設の特性やリスク の大きさに応じた適切な評価手法を選ぶ必要がある。このような背景のため、核燃料施設 では地震PRA が行われることは少なく、実際上の問題として評価に必要な構成要素のフ ラジリティデータが十分に整備されていないことが想定される。フラジリティデータの整 備には多くの費用と時間がかかるため、実際に核燃料施設の地震リスク評価を実施するに は、これらのデータを使用せずに地震リスクを評価する方法が必要である。
このような課題についてはKennedy の考案した簡易ハイブリッド法を適用する案が考 えられる。簡易ハイブリッド法はフラジリティデータの代わりにHigh Confidence of Low Probability of Failure capacity(以下「HCLPF 耐力」という。)を用い、簡易的に地震 リスクを評価する方法である。しかし、簡易ハイブリッド法は簡易的に地震リスクを評価 できる一方、不確かさの幅が大きく、対象とするシステムの構成により過大あるいは過小 評価する場合がある。このため本研究では、この不確かさの幅を低減するため、新たに改 良簡易ハイブリッド法を開発した。
深層防護レベル4 及びレベル 5 に相当する大規模な地震の場合、その地震規模の大きさ から複数の事故が核燃料施設やその周辺で同時発生することが想定され、それらの事故が 互いに相互作用を及ぼすことが考えられる。また、安全機能を有する多数の設備が故障す るなどにより、可搬型の設備を用いた人的操作による事故対応が多くなることが想定され、
その場合、機器故障や人的操作による事故への影響のフィードバックが生ずることが考え られる。このため、深層防護レベル4 及び 5 に相当する事故のリスク評価では、これらの 相互作用を考慮できる動的な定量評価手法が必要となる。しかし、従来のPRA 手法は、
個々の機器の故障や人的操作の失敗に主眼をおいた評価手法であり、静的な評価手法であ るため、このようなリスク評価へ適用するには不十分である。また、このような相互作用 を考慮した動的なリスク評価手法は、核燃料施設だけでなく、原子力発電所においても未 成熟であると考えられる。
本研究ではこのような評価、特に深層防護レベル4 に対応する事故や対策に対するリス ク 評 価 を 可 能 に す る た め 、Leveson が開発した STAMP/STPA 手法を導入した。
STAMP/STPA は、システム理論に基づくアクシデントモデルであり、システムを構成す る機器間の制御による相互作用の観点からリスクを分析するのに適した方法である。ただ し、STAMP/STPA は、「制御」に関する相互作用のみを取り扱い、「物理的な影響」や「物 質の移動」といった作用については考慮されていないことから、本研究ではSTAMP/STPA で考慮する相互作用に、「物理的な影響」や「物質の移動」といった作用を加えることに より、その分析対象を拡張した。また、STAMP/STPA は定性的なハザード分析手法であ るため、リスク評価に必要な定量評価手法の構築が必要となる。この課題に対し、本研究 においてSTAMP/STPA に従来の PRA 手法を結びつけたインタラクション・マルチレイ ヤ・モデルを新たに開発した。
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論文審査結果の要旨
掲記の大学院総合理工学研究科共同原子力専攻共同原子力領域博士後期課程 D5 の森憲 治氏の学位申請並びに博士論文の審査に関して報告する.
1.博士論文予備審査会
令和 2 年 11 月 30 日に,1 回目の博士論文の提出を受けて,本専攻における博士論文の 予備審査会を実施した.本会には,学位申請者である森氏,主査及び論文審査委員全員が 参加し,オンラインにて実施した.予備審査会では,学位申請者である D5 森氏より,博 士論文の内容についてプレゼンテーションの形で説明を行い,あらかじめ配布していた博 士論文(初回提出版)と共に,質疑を交えた審査を実施した.
論文の大筋に関しては,異議はなかったが,本論文で提案している手法の網羅性を明ら かにすること,この博士論文の新規性は何か明らかにすること及び研究内容を明確に表現 するように題目を再検討のこととの指摘を受けた.以上のことを,今後,博士論文に反映 し,次のステップである論文発表会で再度説明を行うことで,了承された.
2.博士論文発表会(公聴会)
令和 3 年 1 月 7 日に,博士論文発表会(公聴会)を実施した.本会には,学位申請者で ある森氏,主査及び論文審査委員全員が参加し,前回同様,オンラインにて実施した.博 士論文発表会では,学位申請者である D5 森氏より,予備審査会でのコメントを反映した 改訂版の博士論文の内容についてプレゼンテーションの形で説明を行い,あらかじめ配布 していた博士論文(改訂版)と共に,質疑を交えた審査を実施した.また予備審査会で指 摘のあった,本研究で提案している手法の網羅性に関する議論や本手法の新規性について も説明を加えた.
手法の網羅性に関しては再度議論になり,各地のハザードを用いたケーススタディやシ ステム構成・フォールトツリー構造への適用性について追加の説明を行うことで了承され た.本手法のシナリオ分析では時間の概念を取り入れる必要があるとの指摘があり,特に 将来的な定量化手法を開発整備する際には動的評価を持ち込むことを考えるが将来の課 題との位置付けとした.また,深層防護第 5 のレベルへの適用性についても将来課題との 扱いとなるため,課題として位置付けられる項目は結論において別に整理をするべきとの 指摘があり,拝承とした.
英語の論文題目についても議論となり,再度検討することとなった.後日,以下のよう に変更することとした.
旧)Construction of Framework and Logic and Analysis Models for Seismic Risk Assessment Methodology for Nuclear Fuel Facilities According to the Levels of the Defense in Depth Concept
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新)Development of Framework and Logic and Analysis Models for Seismic Risk Assessment Methodology for Nuclear Fuel Facilities According to the Levels of the Defense in Depth Concept
これらの指摘に対し,第 2 回目の博士論文提出までに反映することとし,メールで論文 審査委員に改訂版を配布し,確認いただくこととした(→令和 3 年 1 月 13 日に委員向け に発信.1 月 18 日までに委員からの追加コメントはなく,承認された).
3.専攻での学位論文の審査および最終試験(論文審査分科会)
令和 3 年 2 月 8 日に専攻での学位論文の審査および最終試験(論文審査分科会)を実施 した.本会には,主査,論文審査委員及び本専攻の D◯合資格を持つ構成員(高木先生,
河原林先生,佐藤先生,羽倉先生,大木先生,鷲尾先生)の 11 名が出席し,オンライン で実施した.
本会では,主査より,以上の経緯とともに,学力確認試験として森氏の博士後期課程在 学中の研究活動,学術論文誌への論文投稿及び掲載実績,学外での学会発表及び国際会議 での口頭発表に関する報告を,また外国語試験として英語での学術論文誌への論文投稿及 び掲載実績,学外での国際会議での口頭発表)に関する報告を行った.学術論文誌への論 文投稿及び掲載は1編の実績があり,国際会議は 3 回の口頭発表実績があることから,十 分な学力があると判断された.
以上を踏まえ,専攻構成員 11 名による無記名投票を行い,満票で森氏の学位論文審査 及び学力確認の結果を合格とすることが認められた.
- 1 - 氏 名 ( 本 籍 )
学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件
田﨑 陽介(福島)
博士(工学)
甲第166 号
令和3 年 3 月 19 日 学位規則第4条第1項該当
学 位 論 文 主 題 情報の価値を用いたリスクベースの最適点検・調査計画 論 文 審 査 委 員 (主査)吉田 郁政
末政 直晃 関屋 英彦
大竹 雄(東北大学工学研究科 土木工学専攻 准教授)
論文内容の要旨
土木構造物の計画・設計・施工・維持管理では,何らかの形で意思決定という作業が行 われ,土木技術者は得られるデータの情報を最大限に利用しようする.不確定性を考慮し た総合的かつ普遍的な意思決定が要求される.曖昧性や不確定性を有する問題の考慮には 確率・統計的な考え方が重要である.土質や土壌汚染をはじめとした調査計画の多くは,
これまで,調査地点の選定や調査時期については経験的に立案されてきた.そこで,本研 究では情報の価値(Value of Information,VoI)に基づく最適点検・調査計画の検討を行 った.VoI とは,点検・調査による情報がある場合とない場合のリスクの差である.VoI とは,不確実性下の意思決定理論のひとつである.近年,土木の分野においてもその適用 が増えつつある.本研究ではVoI の考え方に基づく最適な調査計画の方法について注目し,
実用的な計画手法の構築を行った.
1 章は序論を示した.意思決定論の分類,インフラ事業における意思決定論のニーズ,
点検・調査における意思決定論について示した.2 章では既往の研究について述べた.不 確定性を減らすように調査点を決定する既往研究に関して,推定の平均値が限界状態より も十分に小さい・大きい場合は判断を誤る可能性は小さい,判断を誤ったとしてもその影 響が大きい場合と小さい場合もある,という課題がある.VoI に基づく既往研究に関して は,単純化した問題の最適化あるいは低次元問題の最適化である場合が多い,多くはシミ ュレーションベースであるとい課題がある.3 章で VoI の基礎理論を示した.はじめに VoI を理解するための簡単な例題を示し,コストテーブルの詳細な説明を行い,VoI の定 式化に関する説明を行った.また,道具として用いているガウス過程回帰(Gaussian Process Regression, GPR),粒子群最適化(PSO, Particle Swarm Optimization)の説明 を行った.4 章から 6 章にかけ,3 つの適用例,河川堤防に対する補修計画のための地盤 調査(4 章),2 次元を対象とした最適調査計画(5 章),空港滑走路舗装に対する補修工 事のための点検(6 章),を通して,不確定性下での最適調査計画の基本的手法を構築し
- 2 - た.最後に7 章で結論を示した.
4 章において,1 次元の例として河川堤防を対象として,GPR を用いて空間分布推定を 行い,最適な調査配置の決定にはVoI を目的関数とした最適化問題として定式化をし,そ の解法として粒子群最適化手法を用いた.地震危険度等を考慮した感度解析を行った.最 適な調査地点,最適な調査点数の定量的評価を行った.地震危険度等に応じて適切な評価 ができるようになった.
5 章において,4 章同様に GPR を用いて空間分布推定を行い,VoI に基づく最適調査地 点の検討を行った.4 章との違いは 3 点あり,2 次元における検討を行った点,逐次型調 査地点最適化を行った点,最尤法を用いることで空間分布推定のパラメタを適用的に決定 した点である.確率場のサンプル実現値として作成した汚染源の分布に対し,人による経 験的配置に基づく汚染領域の同定と提案手法による最適配置に基づく汚染領域の同定の 比較を行った.これにより,本提案手法の有効性が確認できた.
残された課題として,最適な追加点数も同時に最適化すること,階層ベイズの考えを用 いた検討,ニーズに応じてCIM などへの応用が考えられる.
6 章に関しては,実在する空港滑走路として熊本空港を対象とした検討を行った.熊本 空港の滑走路は21m×30m を 1 ユニットとし計 100 ユニットからなる.その各ユニット で点検データとしてPRI(Pavement Rehabilitation Index)が得られている.階層ベイズ の考え方を用いて空間的な関係性を考慮し,PRI に基づく劣化予測を行った.劣化予測に は直線による回帰を用いた.次に,VoI に基づく最適点検時期について検討を行った.残 された課題として,より柔軟性の高い関数による予測式を用いることが考えられる.
4 章から 6 章を通して,今後より実用的な検討をするための第一歩につながった.既往 研究からの発展として,不確定性を減らすように調査点を決定する既往研究に対して,推 定の平均値が限界状態よりも十分に小さい・大きい場合も考慮できるようになり,また,
影響度の大きさまで考慮できるようになった.VoI に基づく調査点を決定する既往研究に 対して,高次元の最適化が可能となった,複数の点の最適化を多段階で実施できるように なった,また,解析的に求められるようになった.残された課題として,ステークホルダ ーで協力してコストテーブルの再考が必要であると考えられる.