づくり : 日本語指導が必要な児童に対する教科学 習支援
著者 杉浦 綾子, 矢崎 満夫
雑誌名 静岡大学教育実践総合センター紀要
巻 22
ページ 171‑180
発行年 2014‑03‑31
出版者 静岡大学教育学部附属教育実践総合センター
URL http://doi.org/10.14945/00007801
静 岡大学教育学部附属教育実践総合セ ンター紀要 No 22 p 171〜 180(2014) く 実践報告〉
在籍クラス と支援クラス との連携 をもとに した授業づ くり
一 日本語 指導が必要 な児童 に対す る教科学習支援―
杉浦 綾子 *・ 矢崎 満夫 **
Designing Lessons based on Cooperation between Home Class and Support Class:
Subjects Learning Support for Children Needing Japaneee Instruction SUGIURAAyak● ・ YAZAKI Ⅳ Ltsuo
【 要 旨】
学校教育現場における日本語指導が必要な児童生徒の教育課題 として、在籍クラスにおける教科学習への参 加をどう保障するかとい う点が挙げられる。 しか し、その解決に向けた従来の対処法は、当該児童生徒を担当 する指導者が支援クラス等においてどのような効果的指導を行 うかとい う視点からのものが中心で、在籍クラ ス担当教員 との連携をもとにした指導体制のあり方についてはほとんど議論 されてこなかつた。今回筆者 らは、
小学校において在籍クラス担任 との連携をもとに、国語科の教材を用いて単元全体を見据えた指導計画を立て、
在籍クラスと支援クラスの学習内容を有機的に結びつける授業実践を試みた。その結果、2名 の対象児童には 在籍クラスでの授業に参加できた達成感や学習意欲の高まりを示す態度が表れたことがわかつた。今後もこう
した在籍クラスと支援クラスとの連携をもとにした指導のあり方を追求 していきたいと考える。
1 は じめに
文科省 の 2012年 度調査 によれ ば、 静岡県内の公立 学校 に在籍す る「日本語指導が必要な児童生徒」 (以 下、当該児童生徒 )の 数 は全国第 3位 の約 2500人 とされてお り、当該児童生徒 に対す る指導のあ り方 は、今 日、外国人が集住する県西部地区を中心に学 校現場 にお ける喫緊の課題 として注 目されつつあ る。
当該児童生徒 に対す る教育上の課題 として、近年、
日本語初期指導 を終 えた後の教科学習指導 をいかに 効果的に進 め、当該児童生徒の学びを保 障 してい く かが しき りに議論 され るよ うになつた。 た とえば、
文科省 では 「 JSLカ リキュラム」 と呼ばれ る 日本語 指導 と教科指導 を統合 した指導方法を提示 し、その 普及に努 めてい る。その他 の論考では、松 田他 (2009) が在籍 クラスでの国語学習につなげるために支援 ク
ラスにおいて リライ ト教材 o)を 使用 した授業実践の 報告 を行 つている。また清 田他 (2005)で は、支援 クラスにおいて対象生徒の母語 も併用 した国語の先 行学習 を行い、在籍 クラスの学習 に有効 であつた と 述べている。劉 (2011)は 支援者 が在籍 クラスで生 徒 の母語 を用いた適切な入 り込み支援 を行 うことに よ り、対象生徒が教室活動に能動的 に参加で きるよ
うになつた とす る報告 を行 っている。 一方、櫻井 (2007)で は在籍 クラス との連携 を念頭 に置いて母 語 による取 り出 し支援 を行 つた結果、在籍 クラスに おける国語 の授業 に参加 できただけでな く、対象児 童 の母語力 も向上 した と述べてい る。以上か らは、
文科省 の 「 JSLカ リキュラム」 も含 め、櫻井以外は 当該児童生徒を担 当す る指導者個人が取 り出 し支援 等の場において、いかに効果的 な教科学習指導 を行 うか とい う視点か らの取 り組みが中心であることが うかがえる。 どれ も在籍 クラスにおける学びの保障
*浜 松 市立佐藤小学校 **教 職 大学院
を 目指 してい る点で示唆 に富むが、 当該 児童 生徒 が 教 科 学 習 を進 め る うえで重 要 な役割 を担 う在籍 ク ラ ス担 当教員 との連携 の あ り方 について は 、 これ まで ほ とん ど議論 が深 め られ て こなか った といえ る。 在 籍 ク ラスにお け る教 科 学習へ の参加 を ど う保 障す る か とい う教 育課題 は、当該 クラスで 日々の授業 を行
う担任 や教 科担 当 との指導 上 の連携 を抜 きに して は、
真 の改 善にはつ なが りに くい と筆者 らは考 えた。
それ で は在籍 ク ラス と支援 クラス との間で どの よ うな連携 の あ り方が考 え られ るだ ろ うか。 筆者 らは 両 クラスの 関係性 を示す形 を「従 来型 」と「連 携型 」 の 2つ の指導体制 に分 け、図 1の よ うにま とめた。
在籍 クラス 支援 ク ラス
どのよ うなタイミングで支援 クラスでの指導を行 うか、協働 して単元計画をたてる
<学 習のつなが り >
在籍クラス と支援クラスにおける従来型 と連携型の指導体制の比較
図
1在籍 クラス と支援 クラス との連携 をもとに した授業づ くり
従来型 の指導体制では、当該児童生徒 は在籍 クラ スにおける通常の教科学習 にはなかなかついていけ ない とい う理 由か ら、その同 じ授業時間帯に支援 ク ラスヘ移動 し、個別 に指導 を受 けることが一般的で ある (取 り出 し支援
)。しか し、その場合 に子 どもの 指導に関 して在籍 クラス と支援 クラスの担 当教員間 で連携 が とれ てお らず 、子 どもは教室間 を移動す る ものの、両 クラスの学習 内容が有機的 に結びついて い るとは言い難 いケースも少な くなかつた。つま り、
子 どもに とつては 「それぞれの クラスで別々の学習 を行 う」とい うことが頻繁 に起 きていた。た とえば、
国語 の授 業時 に在籍 クラスでの学習内容 につ いて特 に考慮す ることな く、支援 クラスでは下学年 の漢宇 の学習 を進 めた り、国語 とは関係 のないか け算九九 の練習 を した りす る とい うケースである。在籍 クラ スの授業 内容 を意識 してい る場合で も、支援 クラス の教員が子 どもに 「今 、在籍 クラスでは教科書の ど の部分 を勉強 しているか Jと 尋ね、それ を聞いてそ の場で指導 内容・ 方法 を決 める とい うこ とも珍 しく なか つた。また、すべての国語 の時間に取 り出 し支 援 が行 えればまだ個別の指導計画 を作成 して学習が 進 め られ るが、現場では週 5回 の うちの 2回 だけ文 援 クラスに行 くといつた指導体制が とられ ることも 少 な くない。 こ うした場合 に も し子 どもに とつて両 クラスでの学習 につなが りが感 じられ ない ものだ と すれば、「在籍 クラスでの学習 を保 障す る Jと い う支 援 クラスで指導す るこ との意義その ものが問われ る ことにな る。 当該児童生徒の教科学習上に とって何 よ りも大切 なのは、やは り在籍 クラスでの学 びの充 実である。 そのた めには、在籍 クラス と支援 クラス 双方の学習内容は子 どもに とつてつなが りが感 じら れ るものでなけれ ばな らない。
筆者 らは以上の課題 を克服す る 1つ の方法 として、
在籍 クラス担 当 と支援 クラス担 当の連携 をもとに単 元全体 を見通 した指導計画 を立て、在籍 クラスでの 学習に必要な指導 を支援 クラスで進 めてい く 「連携 型」の指導体制 を考 えた。具体的には、両クラスの 担 当教員が協働 して単元全体の指導計画 を立て、 ど こに支援 クラスでの指導 を入れれ ば在籍 クラスでの 学習に効果的か を考 えて教科指導 を進 めてい くこと
に した。 この連携型の指導体制が見据 える目標 は、
当該 lFL童 生徒が在籍 タラスでの学習において充実感 や達成感 が持て るよ うになることである。なぜ な ら、
在籍 クラスで活躍 できた とい う成功体験 こそが、子 どもの 自信 とさらなる学習意欲 を生み出す と考 える か らである。本稿 では、以上の連携型 の指導体制 を 取 り入れた授業実践を試み、その成果 と課題 につい て報告 を行 う。
2 授業実践の概要
2‑1 支援クラスについて
本授業実践は、杉浦が教職 大学院生だった時 に実 習生 として入つた静岡県内の S4ヽ 学校 において行 つ た。
S小 学校 には平成 23年 4月 当時、日本語指導が必 要な児童が 55人 在籍 してお り、全児童数の 8̲6%を 占めていた。 また、 日本語指導が必要な児童への支 援体制の 中心 とな る外国人指導担 当の教員 としては 加配教員 2名 が配置 され 、当該児童 のための支援 ク ラスを担 当 していた。支援 クラスでは、初期 日本語 指導が終 了 した児童や継続的な 日本語指導が必要な 児童 に対 し、国語・ 算数・ 社会等の教科学習のため の取 り出 し支援 を行 つていた。
2‑2 対彙児童
今回の研究にお いては、杉浦が 3か 月間 Trと し て在籍 クラス内で支援 を行っていた第 6学 年の A子
と B男 を対象 とした。二人の母語はポル トガル語 で、
日本での就学歴 は 3〜 4年 であ り、 S小 学校 の同 じク ラスに在籍 していた。彼 らの実態は表 1の とお りで ある。
3か 月の間、外国人児童である A子 と B男 の授業 支援 を行 つてきた ところ、両者 ともに読み書 きのカ が身についていない ことがわかつた。 r読 む Jに つい てはわか らない言葉が多いため内容が理解 できず 、
「書 く」では短い文は書 くことはできるが、長い文 章 を書 くことが苦手であつた。「話す」について も、
相手に 自分 の考 えを伝 えることは苦手で、 自分の思 い を持 てて も相 手に伝 えることができない場面があ
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り、本人 た ち も もどか しさを感 じてい るよ うに見受 け られ た。
一 方 、在籍 クラスの担任教員 (以 下 、担任 )が 感 じる教科 学習上の課題 と しては、 A子 は 日本語 の理 解 面が 、 B男 は 日本語の理解 面 に加 えて表現力や言 語 活 用 能 力 が低 い点 が挙 げ られ た。 担任 と して は、
国語科 において 2人 ともに 4年 生 くらいの学習 レベ ル までには達 してほ しい とい う願 いを持 ち、そのた めに個別の支援 も必要であると感 じていた。しか し、
普段の授業の中ではなかなか彼 らに対す る個別支援 までは手が回 らないため、支援 クラスでぜひ適切な 指導を して ほ しい とい う要望が杉浦に寄せ られた。
表 1 対象児童の実態
氏 名 母 語 就学履題 実 態
A子 ̀
(6年 女子
)ポル トガル語 プラジル生まれ
H19来 日
'S rl、転入
H21S小 を転出 し、1年 間 不就学 とな る
‖ 23 S小 l=コ 暉11入
(学 冒菫欲
)積極的に学ぼ うと し学習に集中できる。
(日 本洒色 力
)日本語の会議はでき、ひ らがな、カタカナは読み書 きできる。
短文は書けるが、綸理的な文章は書 けない。
澳字は不得意。日常的に使われない言葉 や教科特有の専目的 な言葉 など、わか らない言葉が 多い。そのため、学習内容につ いていけないことがある。発表はほとん ど しよ うと しない。
(人 間関係
)日本人の友運も多く、誰とでも伸良くできると認められてい る部分がある。
B男 (6年 男子
),fl,t,
Fril,# ブラジル生 まれ
H20来 日・ ‖小転入 H22 1小 か ら S小 へ転入
(学 習菫欲
)目願科の学習にな歓 を持てす ̲隣 の席の児童に話 しか けた り、手遊びを した りして しま う。
(日 本語能力
)日本語の会話 はでき、ひ らがな、カタカナはできる。手先が 署用で、絵や工作が上手。
凛字は不得意。思 いつ くまま言葉 を並べ て書 くことはできる が、まとま りのある文章 を書 くことは難 しい。また、乱暴な言 葉遣 いが多い。
(人 間関係
)男子 との友達目係 はよい。下級生 と遊ぶ ことも好 き。
在籍 クラス と支援 クラス との連携 をもとに した授業づ くり
2‑3 単元計画
授業実践の教科には、 日本語指導が必要 な児童 ら に とつて特に課題が大 きい と考え られ る国語科 をあ えて選ぶ ことに した。普段は支援 クラスにおいて在 籍 クラス とは別の内容の国語学習 を進 めていたが、
在籍 クラス との連携 をもとに した授 業づ くりを行 う ことに よつて成功体験が得 られれ ば、国語 の学習 に 対す る 自信や意欲 を持つ ことがで きるのではないか
と考 えた。
扱 う教材 には、 6年 生の国語科の説 明文 「平和の とりでを築 く J(光 村図書 )を 選んだ。本教材 の中 には文章の読解 とともに 「意見文 を書 く」「意見文 と ス ピーチ を発表す る」 といつた学習内容が入 つてお り、 r書 く J「 読む J「 話す」 f聞 く」の 4つ の言語活 動がすべて含まれていた。本文の読解だけではな く、
「意見文を書 く」「スピーチをする」といつた表現活 動 があ ることか ら、対象児童 に も在籍 クラスにおい て 日本語 を使 つた 自己表現 を促す ことがで きると考 えた。
「平和の とりでを築 く Jの 単元計画 については担 任 との話 し合いをもとに作成 した。対象児童 らには 特 に 「読む」「書 く」の課題 があるとい う実態 か ら、
在籍 クラスでの学習 を中心に据 えつつ、単元の中の
「読む」「書 く」に関する指導 を主に支援 クラスで行 ってい くことに した。それまでは週 3回 、決 め られ た曜 日・ 時間帯 に支援 クラスで個別の指導 を行 つて いたが、本実践 にお いては在籍 クラスの中では指導 しきれない 「読む」「書 く」を中心 に適宜支援 クラス で行 う指導体制 を とつた。「読む」「書 く」学習は支 援 クラスにおいて時間をかけてスモール ステ ップで 行 い、「話す J「 聞 く」は在籍 クラスにおいて多 くの 児童 とともに 自分の意見を発信 した り、他 の児童 の 意見を開いた りしなが ら進 めてい く。 こ うした指導 体制 を とることによって、対象児童が在籍 クラスの 中で活躍 で きる場を増や していけるのではないか と 考えた。具体的には、伝 え合 いな どの交流活動や、
意見文・ ス ピーチ等 の発表活動 が含 まれ る授業 を在 籍 クラスで担任 が行 い、在籍 クラスでの授業参加 に 必要な意見文の作成等 を支援 クラスで杉浦が指導す ることに した。また 、単元計画の原案 を もとに授業
を進めることに したが、必要に応 じて柔軟 に指導計 画の変更・修正を行 つてい くことも確認 した。 当初 立てた単元計画は、巻末資料表 2の とお りである。
なお、基本的には在籍 クラスでは担任が、支援 ク ラスでは杉浦が授業 を行 うが、以下 3点 の理由か ら 導入時 (第 1時 )の み在籍 クラスにおいて杉浦が Tl
として授業を担 当す ることに した。
1)在 籍 クラスではなかなか活躍の場が持てない対 象児童にも、全体の場 で発言す る機会 を与 え、
自信 をつけ させ ることができる。
2)在 籍 クラスでの TT指 導では気付 けない対象児 童 の表れをみ とることができる。 T2で はな く
Tlと して指導 を行 う中で、授業者の視 点か ら 対象児童の表れに対す る気づ きがあると考 えた。
3)対 象児童 の支援 クラス と在籍 クラスでの様子の 違 いをみ とり、在籍 クラスにお ける授業参カロ上 の課題 を把握できる。
2‑4 実践内容
本実践内容 の概要を図 1中 の 「連携型」にあては める と、図 2の よ うにま とめることができる。
第 1時 は在籍 クラスで杉浦が導入 を行 つた。 A子
と B男 が在籍 クラスで発表 し、活躍 できる場 を増や すため、意図的に二人 を指名す るよ うに した。 ただ し、 A子 ・ B男 が 自信 を持 つて発表できるものに限 って指名 を行 うよ うに心がけた。 また、 A子 ・ B男
に限 らず、 どの児童 に もわか りやすい授業 となるよ うに、スモール ステ ップでかつ写真等の視覚教材 を 用いた授業を行 つた。
第 2時 は時間割の変更に よ り、当初予定 していた 支援 クラスではな く、在籍 クラスにおいて 「本文か ら平和についての思いをもつ」 とい う内容で担任 が 授業 を行 つた。
第 3時 は支援 クラスにおいて、第 4時 に在籍 クラ スで行 う話 し合い に参加 させ るため、戦争 について の知識や思い をもて るよ うに写真や絵等の視覚的な 支援方法 を用いて説 明 を行 つた。 また、光元・ 岡本 (20116)の リライ ト教 材を使用 して本文の読解指導 も行 つた。
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第 1〜 2時
<導 入 >
第 3時
<読 解 >
第 4時
<討 論 >
第 5〜 7時
<意 見文を書く >
第 3時
<班 で意見文発表 >
第 9〜 11時
<読 解・討論 >
第 12時
<ス ピーチの工夫 >
第 13〜 17時
<学 級全体に向けて スピーチ発表 >
在籍クラス 支援 クラス
どのようなタイミングで支援クラスでの指導を行うか、協働 して単元計画をたてる
く >
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工 夫 >
向けて
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