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順向干渉の形成に及ぼす検索手掛かりの役割
著者 藤田 正
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 43
号 1
ページ 205‑212
発行年 1994‑11‑25
その他のタイトル The Role of Retrieval Cue in the Buildup of Proactive Interference
URL http://hdl.handle.net/10105/1674
奈良教育大学紀要 第43巻第1号(^文・社会) 、寸':成6年
Bull. NaraUnh. Educ. Vol.43. No.1 (Cult. &Soc.), 1994
順向干渉の形成に及ぼす検索手掛かりの役割
藤 田 正 (奈良教育大学心理学教室)
(平成6年4月28日受理)
何らかの点で類似する情報を繰り返し記銘一再生する場合、繰り返しに伴い記憶成績が悪くな る現象が見られる。この現象は、先行事象が後続事象に影響を及ぼすことから順向干渉(Proactive Interference)と呼ばれ、 Keppel and Underwood (1962)以来、短期記憶における忘却の研究と
してBrown‑Petersonパラダイムを用いて検討がなされてきた。研究の多くは、順向干渉の形成 や解除に影響する要因やその生起メカニズムの解明である(Underwood, 1982 ; Wickens, 1972)。
これまでの研究から、順向干渉の形成は検索時の弁別困難性にその原因があることが多くの研究 で指摘されている(Gardiner, et al., 1972 ;菊野, 1983 ; Mori, 1979 ; Watkins & Watkins, 1975)。
ところで、検索時の弁別困難性を吟味してみると2種類のタイプがあることが分かる。 1つは、
検索手掛かりの弁別機能が関係する場合で、同一の手掛かりを繰り返し使用しなければならない 事態では、検索手掛かりを弁別的に利用できなくなり、順向干渉が形成されると説明している。
この立場の実験的な吟味は、検索時に弁別的な手掛かりを提示し、干渉の形成を抑えることがで きるかどうかを検討することによりなされた。例えば、項目リストが各試行である概念カテゴリー の下位カテゴリーから成る場合、検索時に各試行の項目リストを代表する下位カテゴリー名が検 索手掛かりとして与えられた場合に順向干渉の形成を防ぐことができた結果から支持が得られた
(Dillon & Bittner, 1975 ; Mori, 1979)。
第2の立場は、検索手掛かりの弁別機能の低下を特に考慮することなく、項目間の類似性によ る試行に伴う項目間弁別の困難性の増加により順向干渉が形成されると説明している。この立場 の実験的な吟味は、検索時に先行試行の項目を提示する方法により順向干渉の形成を防ぐことが できるか否かにより検討されたものがある(Dillon, 1973)。結果は予想に反して、先行試行項 目を提示しても順向干渉を防ぐことはできなかった Dillon (1973)で手掛かりとして提示され た先行試行項目は、被験者が再生した項目であった。しかし、再生された項目は次の試行でも記 憶痕跡が比較的鮮明な状態にあるので、むしろ弁別の困難さに影響することは少なく、侵入エラー として生じることも少ないことが考えられる。したがって、弁別の困難さを引き起こすのは、む
しろ先行試行で再生されなかった項目にある可能性も大きい。
ここで取り上げた2つの立場を検討する実験は、それぞれ異なる立場から順向干渉の形成、な いし解除のメカニズムを検討しているが、用いた項目リストが前者はカテゴリー項目リスト、後 者が無関連項目リストと異なっており、同じ記銘材料を用いてそれぞれの要因が機能する条件の 下での順向形成に及ぼす影響を比較検討した上でないと結論は下せない。
そこで本研究では、従来の研究手続きを参考にして、同じリストを用いた条件で、それぞれの 説を検討できる2つの手掛かり条件を設定し、順向干渉の形成に及ぼす手掛かりの効果の比較か
ら、主としていずれがカテゴリー項目リストでの順向干渉の形成と解除のメカニズムを支配して いるのかを検討することにした。主な方法論的な修正点は次の通りである。まず、用いるリスト は、検索手掛かりの弁別機能を操作する関係で、各試行があるカテゴリーの下位カテゴリーで構
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藤 田 正成されたもの(例えば、楽器‑鍵盤楽器・打楽器・弦楽器・管楽器)を用いた。次に、弁別的 な検索手掛かりとしては、第2試行以降、各試行の検索時にそれぞれの試行の項目リストを代表 する下位カテゴリー名が提示され、それを利用した再生が求められた。また、項目弁別の困難性 を検討するための先行試行項目の提示は、 Dillon (1973 と異なり、直前試行の全項目を手掛か
りとして提示することにした。
予想として、次の2つが考えられる。検索手掛かりによる弁別的な検索の困難性が主な原因で あるならば、各試行の検索時に弁別的な項目検索を可能にする手掛かりを提示する条件で、順向 干渉の形成を防ぐことができるであろう。他方、項目間の弁別困難性が原因であるならば、項目 弁別の困難性を軽減することができる直前試行項目を提示する条件で、順向干渉の形成を防ぐこ とができるだろう。
方 法
実験計画 3 (検索時手掛かり条件) ×4 (試行)の要因計画であった。検索時手掛かり条件 の要因は、各試行で異なる下位カテゴリー名を提示する弁別手掛かり条件、直前試行の項目を提 示する項目手掛かり条件、何ら手掛かりを提示しない統制条件であった。試行の要因は、第1試 行から第4試行までであり、被験者内の要因であった。
被験者 被験者は、大学生36名(平均年齢19歳7カ月、範囲18歳2カ月から21歳10カ月)であっ た。これらの被験者は、各リストに12名ずつ割り当てられた。
記銘リストおよび装置 記銘リストには、小川(1972)と藤田・亀井(1988)を参考にして選 択した楽器と花のカテゴリーに属する項目を12項目ずつ、計24項目を用いた。 Tablelは、実験
で用いたリスト項目の一例である。各カテゴリーは、 4つの下位カテゴリー(楽器‑リード楽 器、打楽器、弦楽器、管楽器;花‑春の花、夏の花、秋の花、冬の花)から成っており、各々
の下位カテゴリーから3項目ずつ選ばれた。
Tablel An example of list items used in this experiment
1 2 3 4
organ drum cello flute items harmonica cymbal violin horn piamca timpani harp oboe
1リストは3項目から成り、リスト間のカテゴリー内平均出現頻度数、音節数、及び熟知度が できるだけ等しくなるように考慮した。項目は邦文タイプでカタカナに打ったものをスライドに
した。 1枚のスライドには3つの項目名が等間隔で右下がりに配列されていた。なお、各リスト ともリスト内の項目配列位置と提示順序の異なるリストを3種類ずつ用意した。これとは別に、
それぞれのリストに合わせて練習課題用リストを2試行分作成した。このリストは、本課題とは 異なるカテゴリーの項目で構成されていた。
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Kodak Ektagraphic Slide Projectorを用いてスライドを提示し、項目提示時間、リスト問間隔 などの時間制御には、サンワ製Digital Time Regulatorを用いた。把持時間、再生時間、及び試 行間間隔の測定にはストップウオッチを用いた。
手続き 実験は個別に行われた。課題についての標準的な教示を与えた後、タイムレギュレー ターのスイッチを入れ、プロジェクターを作動させ、練習を2試行行った。なお、手続きは本課 題と同じであるので、本課題のものを取り上げることにした。準備の合図用のスライドが提示さ れた後、 3項目が同時に2秒間提示された。それに続いてリハーサル妨害課題として、 3桁の整 数について3ずつ小さい方へ減算させる課題を20秒間行わせた。続いて、再生用の教示スライド が提示され、口頭による自由再生が10秒間行われた。試行間間隔を2秒間取り、同様な手続きが 4試行繰り返された。なお、 2つの手掛かり条件では、それぞれの手掛かりの提示は、第2試行 から実施された。
弁別手掛かり条件では、第2試行以降、各試行ごとに再生時に、 「今、覚えたものは"打楽器'' です。思い出して言って下さい。」のようにスライドにより、下位カテゴリー名を手掛かりとし て提示し、再生を求めた。また、項目手掛かり条件では、第2試行以降、各試行ごとに再生時に 直前試行の3項目をタイプに打った手掛かりカード(15.0cm X21.0cm)を手渡し、再生を求 めた。なお、それぞれの手掛かり条件では、予め手掛かりの使用を促すための教示が与えられて いた。統制条件では、どの試行においても再生時に何ら手掛かりは与えられず、通常の標準的な 自由再生の教示のみが与えられた。
結 果
結果の分析に際しては、 2つのリストの成績を平均した値を個人の成績として用いた。
(1)正再生率 項目の提示順序に関係なく正しく再生された項目の再生率を求め、検索手掛か り条件別に平均値を図示したのがFig. ]である。検定に際しては、個人の再生率を角変換し、
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* TRIALS
Fig. 1 Mean percent of correct recall in each trial
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その平均値を用いて3 (検索時手掛かり) ×4 (試行)の分散分析を行った。その結果、検索時 手掛かり(F‑3.61, df‑2/33, ♪<.05)と試行(F‑14.81, df‑3/99, p<.Ql)の主効果が 有意になった。また、検索時手掛かり×試行の交互作用に有意な傾向が見られた(F‑2.06, df
‑6/99, ♪<.10)。
交互作用に有意な傾向がみられたので、単純効果の検定を行った。最初に、検索時手掛かりの 条件ごとに試行間の差についてDuncanのNew MultipleRange Test (瀧野, 1968)を用いて検 定した。その結果、弁別手掛かり条件では、試行に伴う再生率の低下がみられなかった。項目手 掛かり条件と統制条件では、第1試行から第3試行にかけて同程度の再生率の低下がみられた。
さらに統制条件は、第3試行から第4試行にかけても再生率の低下がみられた。
次に、試行ごとの検索時手掛かり条件間の差についてt検定を行った。その結果、第1試行と 第2試行では、すべての条件間に有意差はみられなかった。第3試行では、弁別手掛かり条件と 項目手掛かり条件(t(132)‑2.20, fl<.05)、及び紙制条件(t(132)‑2.41, /)<.05)の間にそ れぞれ有意差がみられた。しかし、項目手掛かり条件と統制条件の間には有意差はみられなかっ たO第4試行では、弁別手掛かり条件と、項目手掛かり条件(t(132)‑2.28, /><.05)、及び統 剃条件(t(132)‑4.02, pく.001)との間に有意差があり、項目手掛かり条件と統制条件との間 には有意な傾向(t(132)‑1.74, ♪<.10)がみられた。
(2)エラー率 Fig.は検索手掛かり条件ごとの無再生エラー(Omissionerror)の平均値に ついて開示したものであるD個人ごとに無再生率を角変換した値の平均値を用いて3 (検索時手 掛かり) ×4 (試行)の分散分析を行ったoその結果、検索時手掛かり(F‑5.13, df‑2/33,
♪<.05)と試行(F‑18.45, df‑3/99, ♪<.001)の主効果が有意になり、検索時手掛かり×
試行(F‑2.17, df‑6/99, p<.10)の交互作用に有意な傾向がみられた。
%
交互作用に有意な傾向がみられたので、単純効果の検定を行った。最初に、検索時手掛かり条 件ごとに試行に伴う無再生率の変化をみるために、 DuncanのNew Multiple Range Test (瀧野, 1968)を用いて検定した。その結果、弁別手掛かり条件では、第1試行から第4試行にかけて有
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意な増加はみられなかった。それに対して項目手掛かり条件では、第1試行から第3試行にかけ て増加がみられ、その後は変化がみられなかった。また、統制条件でも第3試行までは項目手掛 かり条件と同程度の増加がみられ、さらに第4試行にかけても増加がみられた。
次に、試行ごとの検索時手掛かり条件間の差についてt検定を行った。その結果、第1試行で はすべての条件間に有意差はみられなかった。第2試行では、弁別手掛かり条件と項目手掛かり 条件の間(t(132)‑1.95, ♪く.05)にのみ有意な傾向がみられた。第3試行では、弁別手掛か り条件と、項目手掛かり条件(t(132)‑2.08, p<.05)、及び統制条件(t(132)‑2.ll, /><.05) の間にそれぞれ有意差がみられた。しかし、項目手掛かり条件と統制条件の間には有意差はみら れなかった。第4試行では、弁別手掛かり条件と、項目手掛かり条件(t(132)‑2.00, *<.05)、
及び統制条件(t(132)‑4.14, /><.OOl)の間、項目手掛かり条件と統制条件(t(132)‑2.14, l<.05)の間にそれぞれ有意差がみられた。
リスト内侵入エラーは、無再生エラーに比べるとかなり少なかった。エラーが全くない試行も あり、多い条件でも4%程度の出現率であり、条件間にも顕著な差はみられなかったので、特に 統計的な処理は行わなかった。
考 察
本研究の主な関心は、カテゴリー項目リストでみられる順向干渉の形成が、検索手掛かりの弁 別機能の低下と結び付いて生じるのか、それとは関係なく単なる項目間弁別の困難性により生じ るのかについて、それぞれの困難性を取り除くことのできる検索時の手掛かり提示条件の効果を 比較することによって検討することであった。
主な結果は次の通りであった。検索手掛かりの弁別機能の低下を防ぐために、弁別的な手掛か りとして下位カテゴリー名が提示された弁別手掛かり条件では、初期の試行から手掛かり提示の 効果がみられ、順向干渉が形成されなかった。それに対して、項目間弁別の困難性を除去するた めに直前試行項目を提示した項目手掛かり条件では、手掛かりの効果は顕著なものではなく、第 3試行までは、統制条件とほぼ同程度の順向干渉が形成されていたが、試行の進んだ第4試行で は再生の低下が幾分ゆるやかとなった。
以上の結果から、順向干渉の形成は、主に検索手掛かりの弁別的な検索機能が低下し、効率的 な項目検索が困難になっていくことが原因であるということが明らかにされた。また、本研究の ように順向干渉の形成過程においても、弁別的な検索手掛かりの提示により順向干渉の形成を防 ぐことができた結果は、 Dillon and Bittner (1975)やMori (1979)の研究で、解除試行で弁別 的な検索手掛かりを提示した条件でのみ解除が生じたという結果と一致し、両者の間に共通のメ カニズムがあることが示唆された。
最初に、順向干渉の形成を防いだ弁別的な検索手掛かりの機能について考えてみる。本研究で 用いたリストは、試行ごとに1つのカテゴリーの下位カテゴリーが変化するリスト条件であるが、
連続する試行では同じ上位カテゴリーで符号化されるように操作した。そのため記憶痕跡が同一 の上位カテゴリーのもとにオーバーラップし、当該試行の項目と先行試行の項目の記憶痕跡が弁 別困難な状態になる。したがって、再生に利用される検索手掛かり(上位カテゴリ一名)は試行 を重ねるにつれて弁別特性を失い、効率的な検索ができなくなり、再生の低下を生じる。しかし、
このような状態になったとしても、検索時に弁別的な検索を可能にする手掛かり(下位カテゴリー
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椿111 it:名)を提示することによって弁別的な検索を可能にし、その結果として順向干渉が形成されるの を防ぐように機能したといえる。
次に、効果が顕著でなかった直前試行項目条件の結果から示唆される点を考えてみる。初期の 試行から検索の際の項目間の弁別困難性がより大きく影響しているのであれば、少なくとも検索 時の直前試行の提示は、項目間弁別の困難を取り除き、再生の低下を防ぐはずである。しかしな がら結果は、統制条件と比較しても、第3試行から第4試行にかけて統制条件よりも再生の減少 が少なかったという効果だけで、第1試行から第3試行までの再生率の低下の程度には統制条件 との差がなかった。この結果は、カテゴリー項目リストの場合には産出された項目同士の弁別の 困難さそのものよりも、同じ検索手掛かりを利用しなければならないことから生じる、検索手掛
かりを用いて弁別的な項目検索ができなくなることによることの影響の方が大きいと結論できる。
なお、軽前試行項目提示の効果が第3試行から第4試行にかけて若干でも見られた結果は、
Dillon (1973)の結果とは異なるものであった。しかしながら、項目間弁別の困難性を反映する 測度であるリスト内侵入エラーの結果をみると出現率は0‑4%と低く、試行に伴って増加する
というものではなかった。しかも、 3条件間で顕著な差もみられないという結果であった。とこ ろが、項目の産山困難の測度となる無再生エラーでは,条件差が現れた。弁別手掛かり条件では、
試行に伴ってもエラーは増加しなかったのに対して、項目手掛かり条件と統制条件では試行に伴 う顕著な侵入エラーの増加がみられた。
したがって、項目リストや提示した項目手掛かりの内容に相違があったとしても、下位カテゴ リー名手掛かり提示により順向干渉の形成を防いだ結果と、項目提示条件の第3試行以降の結果 を併せて考察した場合、カテゴリー項目リストのように検索手掛かりが利用できる場合には、検 索手掛かりの弁別機能そのものが順向干渉の形成に大きな影響をもち、項目そのものの弁別困難 性はそれほど影響はしないことが示唆された。すなわち、順向十渉の形成と解除のメカニズムは、
検索手掛かりによる弁別的な項目検索が試行の初期から急速に困難になること、さらに試行の少 し進んだ時点では、それに項目間の弁別困難が加わることが原因となり形成されるものと考えら れる。
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(付記) 本研究での実験の実施と資料の分析に際して浅田(前田)喜美代さんの協力を得た。記して厚く お礼申し上げます。
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