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雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

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(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)における 数学科の取り組みの成果と課題

著者 重松 敬一, 横 弥直浩

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 59

号 1

ページ 133‑141

発行年 2010‑11‑30

その他のタイトル Some Results and Tasks of the Mathematics

Education in the Super Science High School

URL http://hdl.handle.net/10105/4724

(2)

スーパーサイエンスハイスクール( SSH )における 数学科の取り組みの成果と課題

重 松 敬 一 

奈良教育大学数学教育講座(数学科教育学)

横   弥直浩 

奈良女子大学附属中等教育学校

(平成22年 5 月 6 日受理)

Some Results and Tasks of the Mathematics Education in the Super Science High School

Keiichi SHIGEMATSU

(Department of Mathematics Education, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan)

Yasuhiro YOKO

1

(Department of Mathematics, Attached Secondary School Nara Women’s University, Nara 630-8305, Japan) (Received May 6, 2010)

Abstract

In this paper, we discuss the case study of mathematics education in the Super Science High schools (SSH) by the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology in Apri1 2005.

The SSH school aims to foster students’ human assets with distinct skills in science and technology who will continue to learn even after graduating from school which is a lifelong education.

It is usually difficult to implement mathematics education at the SSH school in comparison to science education due to the absence of a direct method to enhance skills of gifted students in mathematics. So we examined mathematics education in these schools.

As a result, we obtain certain points of view in implementing mathematics education and tasks as follows:

1. Teachers' awareness of teaching and learning processes to promote students' mathematics ability for SSH schools is very important;

2. In lesson planning, teachers' devise of ideas and processes focusing on mathematics literacy is important;

3. In the teaching and learning processes, teachers teach mathematics through mathematics activities; and

4. For highly gifted students, science club and discussion in small groups is very important.

We have studied the SSH project for five years, unfortunately we still have not found good evidence of the system, contents and methods to promote students to 'Super Mathematics Students', especially, the methods using ICT in it. In this matter we will continuously research on this project.

Key Words:Super Science High school mathematics literacy using ICT

キ−ワ−ド:スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

数学的リテラシー テクノロジーの活用

(3)

134

1 .はじめに

 「理数離れ」や「数学嫌い」が話題になって久しくなる。

3 年ごとに経済協力開発機構(OECD)によって実施さ れる「生徒の学習到達度調査」(PISA)の結果では、

(2003年は数学的リテラシーの調査)日本は参加国の中 で 6 番目であり、前回よりも後退したということだった。

また数学への関心・意欲・態度や学習方略の使用などは 参加国の中では低いという結果で、「日本の数学の学力 は低下している」というニュースが流れた。

 国立

N

大学附属中等教育学校でも、学習面においては、

いかに速く、効率的に問題を処理するかについての方 法・知識ばかりを求める傾向が強くなってきているとい う。学校生活や授業等で生徒の様子を見ても、様々な知 識を組み合わせて問題を解決する力、粘り強く考える力 など、応用的な問題や実際に直面する問題への対応力に 乏しい生徒が増えてきているという。このような傾向の 一面が、「理数離れ」として現れていると考えられる。「理 数離れ」現象は、21世紀の市民社会を根底から揺るがす ものと考える。この「理数離れ」をくい止め、自然科学 的素養を持った理数に強い生徒を育成するカリキュラム を研究・開発するのが、学習面における課題といえる。

この課題を解決し、研究開発する方向として研究対象校 は、平成17年度(2005年)から 5 年間「スーパーサイエ ンスハイスクール(SSH)」の研究指定を受けた。

 本稿では、研究対象校の

SSH

研究を概観し数学科にお ける取り組みを振り返りその成果と課題を考察すること にする。

2 .スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の 概要

 文部科学省は、高等学校もしくは中等教育学校を対象 に「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の研究 を次のように示した。

 スーパーサイエンスハイスクールは、未来を担う科 学技術系人材を育てることをねらいとして、理数系教 育の充実をはかる取り組みです。SSHでは「科学への 夢」「科学を楽しむ心」をはぐくみ、生徒の個性と能 力を一層伸ばしていくことをめざしています。科学技 術、理科・数学教育を重点的に行う

SSH

では、平成14 年度より大学や研究機関等とも連携して魅力的なカリ キュラムを開発するなど、科学技術に夢と希望を持つ、

創造性豊かな人材の育成に取り組んできました。

また、

SSH

指定校を拠点校としての地域への成果の普及など を行っています。平成17年度指定校からは指定期間 を 3 年間から 5 年間に延長し、将来国際的に通用する 人材を育成するための取り組みや高大接続の観点を新

たに加え、研究開発を行っています。( 1 )

 このように、

SSH

事業は将来の国際的な科学技術系人 材の育成と教育課程の開発を目指し、理数教育に重点を 置いた研究開発を行うものである。

 2009年度では、全国で106校の研究指定を受け各学校 では、次のような取り組みが行われている。

○観察・実験等を通じた体験的・問題解決的な学習、

課題研究の推進

○高等学校及び中高一貫教育校における理科・数学に 重点を置いたカリキュラムの開発

○大学や研究機関等と連携し、生徒が大学で授業を受 講、大学の教員や研究者が学校で授業を行うなど、

先進的な理数教育の実施

○高大連携を推進する観点から、高大接続の在り方に ついて、大学との共同研究の実施

○国際性を育てるために必要な語学力の強化(英語で の理数授業、講義、プレゼンテーション、演習等)

○論理的思考力、創造性や独創性等を一層高めるため の指導方法、教材等の開発

○国際的な科学技術、理数系コンテストへの積極的な 参加

○科学技術系クラブ等の活動の充実

○トップクラスの研究者や技術者等との交流、先端技 術との出会い、全国のスーパーサイエンスハイスク ールの生徒相互の交流・発表等

3 .研究対象校のSSHの概要

 SSHは、学校全体のプロジェクトであるが、主に数学 科と理科で事業や研究に取り組まれている。研究対象校 では次のように

SSH

について研究開発がなされている。

( 1 ) 研究開発課題

 研究開発課題は次のように設定されている。

( 2 ) 研究の概要

 自然科学リテラシーと自己学習力を身につけるこ とで、学校を卒業後も能力を伸ばしていく科学技術 系の人間を育成するための、中高 6 年一貫教育

SSH

カリキュラムを研究開発する。 6 年間を 2 年ごとに 区切り、 1 年~ 4 年は全校生徒を対象として、文科 系・理科系の区別なく自然科学リテラシーを育成し、

3 年~ 6 年で徐々に対象生徒を絞り込みながら自然 科学リテラシーをより伸ばしていくカリキュラム・

 大学との連携に基づき、中等教育 6 年間において 自己学習力と自然科学リテラシーを育成するカリキ ュラムを研究開発するとともに、高大連携教育を進 める

重 松 敬 一・横  弥直浩

(4)

( 3 ) 研究の仮説

 研究対象校における理数教育の理念は、「自然科学リ テラシー」の育成である。これは、「OECDの生徒の学 習到達度調査(

PISA

)」における次の概念に基づいて定 義された。

 ① 数学的リテラシー

 数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在及び 将来の個人の生活、職業生活、友人や家族や親族との社 会生活、建設的で関心を持った思慮深い市民としての生 活において確実な数学的根拠にもとづき判断を行い、数 学に携わる能力

 ② 科学的リテラシー

 自然界及び人間の活動によって起こる自然界の変化に ついて理解し、意思決定するために、科学的知識を使用 し、課題を明確にし、証拠に基づく結論を導き出す能力  ③ 問題解決能力

 問題解決の道筋が瞬時には明白でなく、応用可能と思 われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学、

科学、または読解のうちの単一の領域だけには存在して いない、現実の領域横断的な状況に直面した場合に、認 知プロセスを用いて、問題に対処し、解決することがで きる能力

 ④ 読解力

 自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、

効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理 解し、利用し、熟考する能力

 主に数学科の教育により「数学的リテラシー」を、主 に理科・数学科の教育により「科学的リテラシー」を育 成する。この 2 つのリテラシーを統合・活用する力とし て「問題解決能力」をとらえ、数学科・理科が中心とな

ってこの力の育成を図る。

 そして、「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「問 題解決能力」の 3 つを総合的に活用できる素養・力とし て「自然科学リテラシー」を定義する。

 「自然科学リテラシー」以外にも、各教科のリテラシ ーをはじめとして様々なリテラシーがあるが、これらリ テラシーの礎石たるものとして、「読解力」を考える。

 この仮説を分節化し、より具体化すると以下のように なる。

A

.数学的リテラシーの育成

 数学において、テクノロジー(PC、グラフ電卓、テ レビ会議システム)を活用して、数学における「実験」

や試行錯誤を繰り返しながら学習することで、数学的リ テラシーを育成し、創造性をのばし、自己学習力、問題 発見能力を高めることができる。

B.科学的リテラシーの育成

 理科において、観察・実験を中心に据えた探究の過程 を重視した授業の積み重ねと、生徒が自ら仮説を立てて 探究する課題研究を中学年( 3 ・ 4 年)から行うことで、

科学的リテラシーを育成し、自ら主体的に学習する生徒 を育てることができる。

C.問題解決能力の育成

 数学的内容と理科的内容が有機的にリンクした教材と カリキュラムを研究開発し、それらを利用して集中的に 講義・実験を行うことで、問題解決能力を養成すること ができる。

 これらのリテラシーと能力を、読解力を基にして接合 することにより、生徒全体の理数の力を引き上げ、上位 の生徒の独創力・論理的思考力・問題発見能力をさらに 伸ばすことができると考える。

 以上の内容をまとめて「研究開発の 7 つの柱」として 実践されている。ここで、その研究内容を概観する。

① 基礎・基本の徹底

 数学科においては、数学・科学・自然に興味・関心 を持たせるような授業を工夫し、特に 1 ・ 2 年の「探 究数学」のカリキュラム・指導法の研究と実践が行わ れる。理科においては、探究の技法を習得するための

■研究仮説■

 前期中等教育においては、理数に偏りすぎない総 合的な考え方のカリキュラムの基で、「自然科学リ テラシー」の育成を目指す教育を行うことにより、

自己学習力のある理数(自然科学)に強い生徒を育成 することができる。

 これを受けて、後期中等教育において大学教員や 研究者等による先進的な内容の講義を受講すること で、理数に興味・関心のある生徒の力をより伸ばす ことができる。

教材・指導法を研究し、実践していく。

 また、高学年( 5 ・ 6 年)になり、より進んだ数 学・理科の内容の学習を希望する生徒には、大学教 員・研究者による特別講座を提供し、さらには大学 の講義を受講できるシステムを構築するための研究 を行う。

( 図 1 ) 自然科学リテラシー概念図( 2 )

(5)

136

有効な指導法の研究と実践を、実験・観察やデータ処 理などを通して行われる。英語科においては、科学分 野をテーマにした教材( 3 年~ 6 年)の研究開発と 実践が行われる。創作科においては、 6 年間の情報リ テラシーの基礎・基本を身につけ、1 年の工創基礎(技 術)におけるカリキュラムと指導法の研究・実践が行 われる。総合学習においては、プレゼンテーション能 力・自己学習力・問題解決能力を伸ばすための指導法 の研究が行われるとともに、博物館等を活用して理数 と総合学習をリンクさせるカリキュラムの研究が行わ れる。

 全校生徒・保護者を対象とした、自然科学リテラシ ーを育成する上で、サイエンスの面白さや自然や社会 とのつながりを考える講演会が実施される。

② 数学的リテラシーの育成

 作図ツールを活用した発見型幾何学習においては、

カリキュラムの再構成とテキストの改訂が行なわれた。

グラフ電卓を活用した実験型関数学習では、グラフ電 卓を利用した授業が実践されカリキュラムの研究が行 われた。数式処理システムを活用した創造的学習にお いては、 6 年における「数理科学」が実施され、カリ キュラムの研究と教材開発が行われた。

③ 科学的リテラシーの育成

 遺伝子やタンパク質及び物性などの学習の基礎とな る実験が実施されるとともに、大学や研究所と連携・

協力して、高度な実験や学際領域の実験方法の研修が 重ねられ、授業等に導入される。 3 年では「課題研究 入門」を設定し生徒に研究する基礎を学ばせ、それを 発展させて「課題研究」につなげるようにする。

④ 生活科学リテラシーの育成

 生活体験を科学的に理解し、課題を設定して解決す ることのできる「生活科学リテラシー」を育成するた めのカリキュラムが研究される。 5 年「生活科学」お よび 4 年「科学と技術」が実施され、自然科学リテラ シーと生活科学リテラシーの両者を連携しながら育成 するカリキュラム開発を、大学の教員と協力して行わ れる。

⑤ 問題解決能力の育成

  6 年「数理科学」が実施され、大学と連携してカリ キュラムの研究と教材開発が行われた。 3 ・ 4 年にお ける「

NSL

講座」及び 5 ・ 6 年における「理数講義プ ログラム」について、大学教員・研究所と連携して実 施される。テレビ会議システムを利用した問題解決能 力の育成について、シェトランドおよび韓国、台湾の 高校と交流を持ちシステム運用の研究を行うとともに、

適切な教材の開発が行われた。

⑥ 「サイエンス研究会」の指導

 理数に興味・関心のある生徒で構成された「サイエ

ンス研究会」において、生徒が数学・理科・科学・技 術に関する特色ある研究が進められるように指導・助 言が行われる。この際、大学の教員、研究者、大学院 生のTA等の援助・指導を受けて高度な研究を実現さ せる。また、数学オリンピック・化学オリンピック・

物理オリンピックやシンポジウム・学会等に参加させ 研究成果を発表するように指導し、各種の科学技術系 コンテストにも積極的に応募させる。

⑦ 大学・研究機関との連携

 「サイエンス研究会」の生徒を大学に引率して、研 究のアドバイスや、実験の指導を受けさせる。

4 .PISAにおける数学的リテラシー

( 1 ) 数学科カリキュラムの構成

 

SSH

の研究課題である「数学的リテラシーの育成」は、

数学カリキュラムを構成する上で基礎となるため、数学 的リテラシーについてまず検討したい。また、研究対象 校の数学科ではSSH指定前から「数学する」という数学 的活動を基本に数学カリキュラムが考えられている。

 数学的リテラシーについては、いろいろな定義や考え 方 が あ る。 そ こ で 本 研 究 で は、 経 済 協 力 開 発 機 構

(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(PISA)をもと に数学的リテラシーが捉えられている。

 PISAの数学的リテラシーを取り上げた理由は次のよ うな内容からという。

① 問題解決能力の育成を考えてきた数学教育と

PISAの期待する能力は矛盾しない。

② PISAが示す「数学化サイクル」は、今まで研究 してきた「数学する」という概念と同じである。

③ 

PISA

調査の結果と生徒の結果を比較することで、

学力の議論が期待できる。

 以上のことにより、数学カリキュラムの構成理念が示 されている。

( 2 ) 

PISA

による数学的リテラシーの定義

 経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調 査」(PISA)における数学的リテラシーの定義とは、次 のようである。( 3 )

 この定義における能力を分解すると、次のようになる。

数学が世界で果たす役割を見つけ、理解する能力

確実な数学的根拠にもとづき判断を行う能力

 数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在 及び将来の個人の生活、職業生活、友人や家族や親 族との社会生活、建設的で関心を持った思慮深い市 民としての生活において確実な数学的根拠にもとづ き判断を行い、数学に携わる能力

重 松 敬 一・横  弥直浩

(6)

数学に携わる能力

 なお、携わるとは、数学を使う、数学を使ってコミュ ニケーションを行う、数学的な視点に立って考えるなど 機能的な面から数学のよさを知り楽しむなど審美的な面 までをも含めた幅広い意味を持つ。

( 3 ) 数学的リテラシーの 3 つの側面

 PISAによる数学的リテラシーの枠組みは次の 3 つの 側面によって特徴付けられている。

① 数学的な内容

② 数学的プロセス

③ 数学が用いられる状況

上記を詳しく説明すると、次のようになる。

① 数学的な内容

 実生活でみられるような数学的概念のまとまり、それ らは数学的に考察する前の事象や場面によって、あるい は数学カリキュラムの内容のいくつかを結びつける概念 によって構成される。これらは「包括的アイディア」と 呼ばれる。これは、次の 4 領域である。

(ア)「量」

 数量的な関係、数量的なパターン、数量的な現象、相 対的な大きさの理解、数のパターンを見つけること、量 および量として捉えることが可能な実世界の対象の特性 を、数を用いて表すこと。数を理解し処理すること。ま た重要なのは「量的推測」である。

(イ)「空間と形」

 空間的、幾何的な現象や関係。ものの形の構成を分析 するとき、対象の性質や相対的な位置を理解すると共に それらの形が異なる表現や異なる次元で表されても認識 でき、類似点や相違点を探すこと。

(ウ)「変化と関係」

 変数間の関数的な関係と依存関係とともに変化の数学 的関係を明らかにすること。数学的関係とは方程式や不 等式の形を取ることが多いが、等しい、割り切れる、含 む、などのより一般的な関係も含む。関係は記号、代数、

グラフ、表、幾何的表現など様々の異なる表現によって 表される。様々の目的や性質のために様々の表現が役立 つので、ある表現から別の表現に翻訳することは、状況 や問題を扱う際に非常に重要である。

(エ)「不確実性」

 確率的・統計的な現象や関係であり、これらは今日の 情報化社会においてますます関連してくる。

② 数学的プロセス(能力クラスター)

 生徒が数学的な内容に取り組むのに必要な技能のまと まり。PISAの数学的リテラシー調査においては、生徒 は実生活の文脈に基づく問題に取り組み、数学的探究が 行えるように問題の特徴を見つけだし、関連する数学的

な能力を活発に使い、問題を解決する。そのためには多 段階の「数学化」のプロセスに携わらなければならない。

そのような「数学化」のプロセスには、

・思考と推論  ・論証  ・コミュニケーション  

・モデル化  ・問題設定と問題解決  ・表現

・記号による式や公式を用い演算を行うこと

・テクノロジーを含む道具を用いること の 8 つの能力が関わっている。

 それらの能力は、一般には同時に機能し複雑に絡み合 っているが、ある数学的リテラシーの問題に取り組むと きにはこの中の 1 つか 2 つの能力が特に顕著に関わって くる。

 これら 8 つの能力を含む認知的活動は、次の 3 種類の

「能力クラスター」によって説明される。それぞれの

「能力クラスター」において、上述の 8 つの能力がすべ て関わっている。

(ア)「再現クラスター」

 比較的よく見慣れた、練習された知識の再現を主に要 する問題を解く能力。

(イ)「関連付けクラスター」

 再現クラスターの上に位置し、やや見慣れた場面、ま たは見慣れた場面から拡張され発展された場面において、

手順がそれほど決まりきっていない問題を解く能力。

(ウ)「熟考クラスター」

 関連付けクラスターのさらに上に位置し、洞察、反省 的思考、関連する数学を見つけ出す創造性、解を生み出 すために関連する知識を結びつける能力。

③ 数学が用いられる状況

 実生活で生徒が遭遇するような状況。この側面を取り 上げたのは、数学的リテラシーを真正に評価するためで ある。つまり学校の教科書に煩雑に見られる数学を練習 することではなく、様々な状況において数学を用いて問 題を解決できるかを見るためである。状況は生徒との

「距離」及び「数学の記号や構造が現れる程度」によっ て次のように分類される。

 「私的」「教育的」「職業的」「公共的」「科学的」(科学 的には、数学の教室でよく直面するような数学そのもの である「数学内的」文脈も含まれる)

 また、次のように説明がされている。

 状況とは、課題が置かれている生徒の世界の一部であ る。これは、ある程度生徒から離れたところに存在する。

最も生徒の身近にある状況は、生徒の私的な生活である。

続いて学校生活であり、職業生活、余暇である。これに 続いて、日常生活で遭遇する地域の共同体や社会がある。

生徒から最も遠いのは、科学的状況である。問題を解く ため、私的、教育的、職業的、公共的、科学的という状 況が定義され、用いられる。

(7)

138

 次に、PISAが示す数学的リテラシーについて、数学 化サイクルとして次の図が示されている。

 現実の世界の問題において、それを解決するためにま ず数学的世界に持ち込み数学的な問題に置き換える。そ こで試行錯誤して数学的解答を得る。それを現実の世界 にもどし現実的解答を得る。このサイクルの過程で数学 的リテラシーが育成されると考える。

5 .研究対象校の数学的リテラシーについて

 数学的リテラシーの捉え方は、このPISAの定義を基 に研究が進められた。

 授業を通して、数学的リテラシー育成を考えるとき、

もう少しこの定義を絞って扱うことにされている。

 その定義が、「自分たちの身近な課題を、数学的な活 動を通して、解決しようとする力」である。

 ここでの数学的な活動は、研究対象校が以前から研究 している「数学する」という言葉でいい換えることがで きる。「数学する」ことは、図に示すような 3 つの段階 で捉えられている。

①現実の世界の課題を数学の世界の問題に読み換える

(数学化する)

②数学の世界において問題を解く

③得られた解を現実の世界の答えとなり得るか吟味す る(振り返り・吟味する)

 この「数学する」は、PISAが示す数学化サイクルと

同じ考えであり、高等学校学習指導要領解説(平成11年)

で示された数学的活動と同じように説明ができる。

 つまり、数学的リテラシーを育成するために、数学的 活動(研究対象校でいう「数学する」)が大切になり、

その数学的活動の過程で数学的リテラシーが育成されて いると考える。

6 .数学的リテラシー育成を重視した実践例

 数学的リテラシー育成を重視した授業として、次のよ うに計画し実践された。実施は、高校 2 年の 2 月で、微 分積分法の単元の最後の授業である。数学的リテラシー の 3 つの側面から授業を捉え授業し、生徒の感想を記録 した。

( 1 )授業課題と数学的リテラシー

 本時授業の数学的リテラシーの 3 つの側面は次のよう に捉えられた。

①数学的な内容     変化と関係

②数学的プロセス 関連付けクラスター

 (問題設定と問題解決、コミュニケーション、表現、

思考と推論、モデル化、記号による式や公式を用い演算 を行うこと、テクノロジーを含む道具を用いること)

③用いられる状況    公共的  (文脈は、太陽光発電の発電電力量)

以上の 3 つの側面が説明された。

①数学的な内容について

 本時の授業は、微分法・積分法の単元の最後の課題で あり、微分積分の考えが実生活に役立つことを示したい と考えられた。また太陽光を平行光線とみなし、大気の 影響等も無視すれば、日射強度(発電電力)の 1 日にお ける時間変化は、正弦曲線で表すことができる。生徒に とって三角関数が、身近に感じ実際の問題解決に役立つ ことの理解が促がされた。

②数学的プロセス

 事象を抽象化して単純な仮定のもとでモデル化を行い、

実際のデータと比較・検証することは、実社会で問題解 決をする際には非常に大事な考え方となる。本時でのプ ロセスは、問題設定と問題解決、コミュニケーション、

表現、思考と推論、モデル化、記号による式や公式を用 いて演算を行うこと、テクノロジーを含む道具を用いる  【課題】

1 辺 1

mの正方形の太陽電池パネルが、春分の日に

太陽光に対して垂直になるように置いてある。この とき、晴れた春分の日の 1 日の発電電力量(

kWh

を求めるにはどうすればよいだろうか。ただし、太 陽光のエネルギー(太陽定数)を1.4(kW/m2 )、

大気透過率を0.7、変換効率を0.1とする。

( 図 2 ) 数学化サイクル( 4 )

( 図 3 ) 「数学する」プロセス( 5 )

重 松 敬 一・横  弥直浩

(8)

こと、の 7 つの能力がかかわっている。また、見慣れた 場面から拡張され発展された場面において、手順がそれ ほど決まりきっていない問題を解く能力が必要となるの で、関連付けクラスターとなる。

③数学が用いられる状況

 研究対象校の校舎(南館)の屋上には「太陽電池パネ ル」が設置されており、生徒は日常的に自分の教室や廊 下からその姿を目にしている。太陽光発電は、まだ一般 家庭にまで広く普及しているわけではないが、生徒にと っては、身近な存在である。また、太陽電池パネルの発 電量は、事務室前の電光掲示板に常時大きな文字で表示 されている。このように、公共の場面で使われている太 陽光パネルを題材に数学が用いられる状況を設定してい る。

( 2 ) 生徒による授業の感想

 授業の最後に生徒に感想を書かせた。その感想には、

次のような内容があった。

・学校のソーラーパネルの表示板の意味が今までよくわ かっていなかったけど、今日の授業で分かったのでスッ キリした。

・こんなところで積分が出てくるとは思わなかった。学 校にある太陽光発電という身近なシステムで、数学が出 てきてびっくりした。

・最初何の授業をするのか不思議だったけど、最後に積 分が出てきて、納得しました。普段より実験が多くて楽 しかったです。

( 3 ) 授業構成の特徴

 本時授業計画の特徴は、数学的リテラシー育成の観点 で授業を構成していることである。その特徴が現れてい るのは、授業を数学的リテラシーの 3 つの側面、①数学 的な内容、②数学的プロセス、③用いられる状況から捉 えていることである。また、現実の問題を取り上げ、数 学の世界で解決し現実の世界で問題を振り返る数学化サ イクルに沿った授業構成で展開をしている。

 生徒の感想からも、単なる数学の内容の獲得だけには なっていないことがわかる。

7 .テクノロジーの活用

 いわゆる 「紙と鉛筆」 による授業から、テクノロジー を活用することにより、操作的な探究活動をすることが できる。テクノロジーが有効な単元や場面(授業)にお いて、コンピュータやグラフ電卓等を活用することによ り、創造的な理数に強い生徒を育成できると考えた。

 テクノロジーを活用した授業として、次の 3 つの学習 方法を実践した。発見型幾何学習、実験型関数学習、創 造的学習である。

( 1 ) 作図ツールを活用した発見型幾何学習

 前期課程における幾何学習では、1 年では「紙と鉛筆」

による作図の指導を行うが、 2 ・ 3 年では主に作図ツー ル(Cabri Geometry Ⅱ Plus)を活用した授業を展開し ている。生徒たちが自由に作図ツールを活用することで、

生徒自らが図形の変化の中から定理を発見する。そして 発見した事柄を作図ツールによる「実験」で確認し、そ の後に数学的に証明する。このような、教師が教え込む のではなく生徒が作り上げていく幾何学習を行うことで、

自ら進んで学習を行い、課題を発見することのできる生 徒を育成できると考えられている。

■実践例( 6 )

 図のように「

Cabri

」で三角形の五心を作図し、元 の三角形の頂点を動かしてみると、いろいろな性質が 見えてくる。例えば、次のようなものがある。

①鈍角三角形のときには、外心Oは三角形の外部にあ る。

②重心

G

と外心

O

と垂心

H

が同一直線上に並ぶ

③ 3 つの傍心を頂点とする三角形の垂心は、元の三角 形の内心Iとなる。

 生徒は、このような性質を自分で再発見していくこと で、三角形の五心に対する理解が深まる。

( 2 ) グラフ電卓を活用した実験型関数学習

  2 つの変数が、互いに伴って変化する関数は、生徒に とって理解しにくいものである。中学 3 年で 2 次関数を 学習するとき、グラフ電卓を活用することで、生徒たち が様々な現実の現象を具体的に取り扱うことのできる関 数学習を構築することができる。自然現象や実生活から 題材を選び、身近に数学を感じられるものを探ってきた。

このような学習により、数学が現実世界において果たす 役割を理解することができる。

(9)

140

■実践例( 7 )

 

 まず、予想を立てさせる。そのうえで、5 ~ 6人を1 つの班として、実験をさせた。

 ひもの長さをいろいろに変えて、多くのデータを取ら せた。次の時間は、データをグラフ電卓に入力させると ころから始める。周期(x秒)とひもの長さ(ym)の 数値の組を、グラフ電卓のData/Matrix Editorに打ち込 ませ、座標平面にプロットさせる。xとyの関係が、ど んな関数のグラフで表されるのかを考えさせる。

 グラフ電卓には、近似関数を求める機能があるが、既 知の関数(比例・反比例、一次関数)で近似しようとす るとうまくいかない。一次関数で近似しようとすると、

原点を通らない直線になり、理屈に合わないことが、生 徒から疑問点として出される。xの値が大きくなるほど、

変化の割合も大きくなっていくようである。

 これは、今までに学んだ関数ではなさそうである。文 字の次数を上げて、二次関数で近似してみよう、という ことになり、まずは 2 乗に比例する関数で近似してみる。

( 3 ) 数式処理システムを活用した創造的学習  数式処理システム(Mathematicaなど)は、非常に強 力なツールである。その強力さゆえに、中等教育におい ては利用されることは少なかった。しかし、現実的な問 題や高度な数学の問題を考えていくと、手計算では立ち ゆかないことがすぐに現れる。そのようなときに、数式 処理システムを活用し、道具として使いこなすことで課 題を発見し、追究し、解決できる創造的な力を育成する ことができると考える。この数式処理システムを活用す る学校設定科目「数理科学」が 6 年に開設されている。

8 .教師の変容

 SSHの成果と課題を検証する方法として、教師の変容 を探ることにした。そこで、教師経験20年の数学科教諭 に焦点を当て、「SSHの 5 年間を振り返って」という内 容でレポートにまとめてもらった。次がその内容である。

 

SSH

の 5 年間は本当に忙しかった。それまでがぬ るま湯だったのか、熱湯地獄に突入したのか、外の 湯加減をよく知らないので判断できない。それでも いい心もちになる瞬間はあった。

 それは、授業である。数学科の目指したのは数学 的リテラシーの育成であった。

PISA

調査で日本の 順位が下がったというので、数学的リテラシーに関 心が集まった。とりあえず、PISAが示す数学的リ テラシーについて研究し、目にとまったのは「数学 を用いる状況」と「 8 つの能力」であった。

 「数学を用いる状況」というのは、どれだけ生徒 にとって身近かということである。切実な、面白い、

大切な状況を設定すれば、生徒は数学を身近なもの として使う。世の中で役に立たないと見られている 計算や証明ばかりをしていてもだめだと感じた。そ こで、少ない時間をやりくりして、様々な状況を作 り出した。ポリドロンで美しい立体を作り、幾何ソ フトで万華鏡やフラクタルの作成をしたり、塩の山 の観察、線香や振り子の実験、グラフ電卓で絵を描 く、距離センサーで関数の実験をしたり…。数学と いう眼鏡をかければ、今までと違った側面が浮かび 上がる。生徒たちは、個人やグループで楽しそうに 課題に取り組んだ。

 そんな中見えてきた問題点は、表現力であった。

取り組んだ課題をいかにうまく人に伝えるかという ことである。これが、「 8 つの能力」の一つであった。

そこで、確率でポスターセッションをしたり、数学 のエッセイを書いたりした。出来上ったエッセイは 悪くない。彼らは力を出し惜しみしている。もっと 彼らの力を引き出さなくては。

  5 年が過ぎてもまだ私の授業は変わり続けると思 う。

9 .SSHの成果と課題

 数学科においては、数学的リテラシーの育成を中心に

SSH研究について携わってきた。それは、授業研究をす

ることであり、授業改善の方法を明らかにすることでも あった。そこで次のことが明らかになった。

① 教師は、数学的リテラシー育成を重視した授業を構 成する必要がある。それは、学習指導案にも表れ、

生徒が興味・関心を持つように工夫をし、数学と他 実験方法

① 5 円硬貨にひもを結び付ける

②ひもの適当なところを振り子の支点とし、支点か ら 5 円硬貨の中心(おもりの重心)までの距離を測 る→ymとする

③ 5 円硬貨を揺らし、揺れが安定してきたらストッ プウォッチで10周期を測り、その値から周期を計算 する→x秒とする

④ 3 回周期を測り、平均を求める  【課題】

 振り子の周期( 1 往復にかかる時間)について考 えてみよう。

 ①振り子の周期は何と関係があるだろうか。

 ②振り子の周期と、ひもの長さの関係を調べてみ よう。

重 松 敬 一・横  弥直浩

(10)

教科や日常と関連させた教材を扱うことであった。

② 数学的リテラシーを育成するには、生徒が数学的活 動をする授業が大切になる。ところが、日常的に問 題解決の授業をしていないことや、生徒が考える時 間を十分取っていないという問題点が明らかになっ た。

③ 数学的リテラシーの 3 つの側面から授業をみると、

「数学的な内容」の指導を重視しているため、教師 主導で知識伝達の授業になりがちである。

④ 数学的リテラシーの 3 つの側面から授業をみると、

「数学的プロセス」の指導が弱く、生徒の数学的活 動が十分なされていないといえる。

⑤ PISAの数学的リテラシーの枠組みで授業をみるこ とにより、授業での問題点が教師間で共有できた。

10.おわりに

 「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の研究指 定対象校を対象に、「理数離れ」の問題を考えながら、

数学的リテラシーの育成を研究テーマにして対象校の数 学科が取り組んださまざまな事業での事例を分析してき た。結果として、次の 2 つのポイントがあったと考えら れる。

 一つ目は、「数学的リテラシーの育成」をキーワード として、授業研究をし、授業改善が進められたことであ る。

 二つ目は、テクノロジーの活用により生徒が探究する

授業を構成し、授業改善の方法を得たことである。

 スーパーサイエンスハイスクール研究における数学科 の取り組みの見通しとして、数学に秀でた生徒の育成に ついては、授業の改善に加えて、「数理科学」やゼミ形 式の少人数の討議のある授業の実施、さらに、サイエン ス研究会(放課後の課外活動)等での生徒同士での発見・

整理・まとめ・発表・討議・振り返りなどの活動が有効 であるかもしれない。その一部は実践しつつあるが、そ の内容についての分析は、今後の課題としたい。

( 1 ) 文部科学省,「スーパーサイエンスハイスクール実施要 項」,アクセス日平成22年 4 月 1 日,https://ssh.jst.go.jp/

( 2 ) 奈良女子大学附属中等教育学校(2006),平成17年度ス ーパーサイエンスハイスクール研究開発実施報告書第 1年次, p. 2

( 3 ) 国立教育政策研究所監訳(2004),「PISA2003年調査評 価の枠組み」,ぎょうせい

( 4 ) 国立教育政策研究所編(2004) , 「生きるための知識と 技能」,OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2003年調 査国際結果報告書,ぎょうせい

( 5 ) 奈良女子大学附属中等教育学校(2009),平成20年度ス ーパーサイエンスハイスクール研究開発実施報告書第

4 年次,p.35

( 6 ) 奈良女子大学附属中等教育学校(2006),平成17年度ス ーパーサイエンスハイスクール研究開発実施報告書第

1 年次,p.42

( 7 )  奈良女子大学附属中等教育学校(2006),平成17年度ス ーパーサイエンスハイスクール研究開発実施報告書第

1 年次,p.43

参照

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