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(1)

研究成果

 ヨーロッパ文学は、キリスト教、さらにはその母 胎となったユダヤの一神教を強力な推進力の一つと して形成され、世俗化の進行によって社会全般への 宗教の支配的影響力が希薄なものとなって久しい2 1 世紀の今日にいたるまで、ユダヤ・キリスト教的な るものの声調をそこかしこに響かせている。日本と いう異なる文化圏に育ったわれわれには、ユダヤ・

キリスト教についての認識を不断に更新し、そこで 得られた知見を随時発信することが求められている。

日本のヨーロッパ文学研究において広く諒解を得て いるであろうこうした認識を共有しつつ、文学作品 を手がかりとしてその背景をなすユダヤ・キリスト 教という事象に理解を届かせること、そしてまた、

ユダヤ・キリスト教という事象を文学作品読解のた めの鍵のひとつとして役立てること、これが、研究 の出発点となったわれわれの共通の関心であった。

こうした関心のもと、研究は、研究員各個の関心領 域に沿って、主としてドイツ語圏・フランス語圏に 属する1 7世紀から2 0世紀の作家たちの著作を対象と して行われた。

 金山は、ドイツ文学を中心に、ヨーロッパにおい て、シェイクスピア『ヴェニスの商人』に典型をみ るシャイロック的ユダヤ人像が形成された経緯を、

聖書・中世スコラ神学およびトーラーの教義を参照 しつつ研究するという、本研究開始以前に着手した 課題を探求の中心に据えた。金銭貸借における利子 徴収(徴利)に関し、旧約聖書に読まれる規定、新 訳聖書でのイエスの教え、およびアリストテレスに 基づくスコラ学の教義を検討し、教会の教えにおい て、徴利の禁止という原則と、ユダヤ人をこの原則 を免れた存在とするための根拠となる例外規定の存

在が確認された。成果の一部は、「ヨーロッパ文学 におけるシャイロック的ユダヤ人像形成の前史(Ⅱ)」

(福岡大学人文論叢、4 8 (2) :4 4 7 4 9 2

,

2 0 1 6)として、

すでに公表ずみである。

 堺は、2 0世紀オーストリアの批評家カール・クラ ウスの著作のうち、新約聖書『ヨハネの黙示録』か ら直接引用が多用される2つの『黙示録』(19 0 8、

1 9 2 0年)を中心に据え、同時期の表現主義文学にお いて終末論的時代感情を表現するのに『黙示録』が いかに多用されたか、

K.

フンドゥングの論考によっ て辿ったうえで、これら同時代の終末論的思考とク ラウスのそれとがいかに一線を画するかを、ヴァル ター・ベンヤミンの「引用」に関する思考を手がか りとしつつ考察した。こうした手続きを通して、ク ラウスにおいて、終末論的思考がジャーナリズム批 判と呼応し、同時代的かつ普遍的な言語批判に通じ るさまが明らかとなった。

 鈴木は、年来の研究課題である2 0世紀フランスの 小説家プルーストの「イデアリスム」の諸相を明ら かにすべく研究を行った。比較対象として、カトリッ ク色の強い同時代のフランスの作家、ユイスマンス およびモーリス・バレス、現代日本の小説家村上春 樹らを選び、作品の比較を通じてプルーストの独自 性をより綿密に把握・記述すべく努めた。また、哲 学者ベルクソンとの比較において、「自我」 (

moi

) および「信」 (croyance)概念に関して考究を深めた。

この最後の論点に関しては、論文《

L’idéalisme proustien et le spiritualisme bergsonien - Autour de la notion de

croyance

》としてまとめたものが、プルースト研究

の専門誌(

Revue d’études proustiennes, Classiques

Garnier, nº 5

)への掲載が決まっている。

 辻部は、1 8世紀中葉に出版されたアベ・プレオー

―  ―36

研究チーム報告

【人文科学研究部】

ユダヤ・キリスト教と近現代文学

研究チーム名:ユダヤ・キリスト教と近現代文学(課題番号:1 3 3 0 0 3)

研究期間:平成2 5年4月1日~平成2 8年3月3 1日

研究代表者:辻部大介

研究員:金山正道、堺 雅志、鈴木隆美、冨重純子、山中博心、輪田 裕、平松智久(平成25年5月9日~平成26年3月31日)

(2)

ト者』の読解を通じて、信仰と文学の関係について 考察をめぐらせた。プレオーの著作は、表題が示す とおり、アンシアン・レジーム下にフランスで発展 を遂げた文明社会における理想の人間像である「オ ネットム」が、よきキリスト教徒であることと両立 することを論証したうえで、両者を統一した高い人 格を実現するための方法を説いた手引書として書か れている。キリスト教信仰という価値に軸足を置い た著者の文学観が、当時の、また現代の、文学作品 に求められる美的水準とは大いに異なることを見定 め、そこから、キリスト教信仰と「文学」とのあい だに横たわる懸隔について、一定の展望を得た。

 冨重は、2 0世紀オーストリアのユダヤ系作家イル ゼ・アイヒンガーの小説作品『より大きな希望』の 読解に取り組んだ。「希望」について著者が物語る 唯一の場合といってよいこの作品では、主人公の少 女エレンの姿を通じて、希望が絶たれるごとに、あ る別の論理による希望が招来されること、そしてそ れがどんな地点にたどり着きうるかが語られる。 「希 望」という概念の、古代ギリシャ的、キリスト教的 な理解の内実、それに現代世界における「希望」論 の大家エルンスト・ブロッホの所論等を検討し、こ れらを踏まえたうえで、作品に語られる「希望」が どのように読み解かれうるかを探った。

 山中は、ルイゼ・リンザーの著作『我々自身の中 のヒットラー』 (1 9 47年)において、リンザーが、マッ クス・ピカートによる第3帝国時の人間心理の分析

(1 9 4 6年)にいう価値の喪失からくる「非連続」を 認めつつも、ピカートの形而上学的意味付け(神か らの離反)を離れ、「連帯」による「非連続」から の脱出を志向するさまを読みとった。また、昭和期 に日本で書かれた三木清、亀井勝一郎、片山敏彦、

宇佐美圭司、花田清輝、小林秀雄のゲーテ論を再読 し、彼らの論が、ゲーテの人と作品を理解するため に今なお有効な視座を提供していることを確認した。

 輪田は、1 7世紀フランス古典悲劇の代表作の一つ であるラシーヌ『フェードル』のあらすじと個々の 台詞を辿りながら、古代ギリシャの異教世界を題材 としたこの劇の中に見出される異教的要素とキリス ト教的要素をともども析出した。異教的テーマを基 本的な枠組みとして構想されたこの作品であるが、

は、きわめてキリスト教的な罪意識を読みとること ができる。とりわけ「宿命」と「自由意志」のテー マをめぐって、フェードルの悲劇は、当時のキリス ト者たちの関心の的であった恩寵と義についての議 論(人は恩寵なしに義を行うことはできない)と重 ね合せる解釈が可能である。

 以上の研究成果のうち、未発表のものは、研究論 文、エッセイ等の形態のもと、今後、なんらかの媒 体を通じて公にしていくことになる。

研究業績

金山正道、日本とドイツのことわざに関する諸種の はたらきについて、福岡大学人文論叢、4 7 (4) : 1 3 0 9 1 3 7 0,2 0 1 6.

堺 雅志、〈講演〉パリとウィーンのプレスより―

バルザックとカール・クラウスの親和力―、第 6 2回九州フランス文学会(福岡大学)、2 0 1 5年 1 2月5日.

鈴木隆美、プルーストとユイスマンス―カテドラル のイメージと2つの芸術的信仰、プルーストと 建築―美学・政治・歴史、京都大学平成2 4年度 全学経費若手研究者による国際ワークショップ 成果報告書、9 3 1 0 3,2 0 1 3.

鈴木隆美、無意志的記憶の思想的背景―プルースト のイデアリスム、思想、1 7 0 5:6 7 8 9,2 0 1 3.

鈴木隆美、プルーストと村上春樹: 「自我表現」あ るいは主体の確立をめぐって、福岡大学研究部 論集A:人文科学編、1 3 (4) :8 3 1 0 1,2 0 1 4.

Suzuki, T., Barrès et Proust - la généalogie idéaliste autour de Venise, Fukuoka University Review of Literature

& Humanities, 46

3

) :

627-650, 2014.

Suzuki, T., L’idéalisme proustien ou le concept vécu, Etudes des Lettres Francaises, 49

5-17, 2014.

Suzuki, T., La structure de deux « moi » - Proust et Berg- son, Fukuoka University Review of Literature &

Humanities, 47

4

) :

1427-1450, 2016.

辻部大介、『ペルシャ人の手紙』は「不信心の書」

か? アベ・ゴーチエの「第三五の手紙」読解 を読む、福岡大学研究部論集A:人文科学編、

1 3 (4) : 1 0 3 1 1 0,2 0 1 4.

冨重純子、「可逆的」 ―イルゼ・アイヒンガーの

―  ―37

(3)

『縛られた男』―、福岡大学人文論叢、4 6 (4) : 8 5 1 8 7 5,2 0 1 5.

冨重純子、鏡の詩学―イルゼ・アイヒンガーの

「夜の天使」 ―、西日本ドイツ文学、27:15 2 7,2 0 1 5.

山中博心、〈研究ノート〉カフカの文体的特性、福 岡大学人文論叢、4 7 (4) : 1 5 0 9 1 5 2 2,2 0 1 6.

輪田 裕、文学における神話と宗教: 『フェードル』

の場合、福岡大学研究部論集A:人文科学編、

1 3 (4) : 1 1 1 1 1 8,2 0 1 4.

―  ―38

(4)

研究成果 1.研究の目的

 本研究では、「地域社会における臨床心理学的援 助に関する現状と展望」のテーマで、地域社会にお ける様々な課題について、臨床心理学の立場から現 状を整理し、今後の課題についてまとめた。方法と して、研究班構成員がそれぞれの専門領域において 情報収集や臨床実践、調査研究を行い、それらにつ いて整理しまとめた。

2.研究の概要

 ここでは研究成果の中から、いくつかを取り上げ て、概要について紹介する。

 田村研究員、本山研究員は学会や研究会に参加し、

課題に関する情報収集を行った。

 特別支援教育の現状と課題については、徳永研究 員が多くの論考を重ねた。氏は肢体不自由教育、知 的障害教育、重複障害のある子どもたちへの支援な ど、この教育に関する広範囲にわたる研究を進めて いる。中でも今回は、“対人行動”に焦点をあてて 発達の側面から支援のポイントについて整理した。

また、“学び”“学習”“教科指導”における一人ひ とりの主体的な学びへの支援について、授業の視点 で詳細な検討を重ねた。地域社会における「特別支 援教育」の更なる充実のための課題の整理、それに 向けての提言を行った。

 発達障害に関連するテーマとしては、松永研究員 が実践研究を行った。松永研究員はいじめ問題に焦 点をあて、氏が通常学級で出会った高機能で広汎性 発達障害の子どもの事例について、障害特性(異質 性) 、学校文化、現代の思春期の友人関係、対応の 課題などから検討を行った。また福岡大学臨床心理 センター附設学校適応支援教室「ゆとりあ」での実

践活動をもとに、不登校児童生徒の子どもたちや保 護者を学校外で支える取組み等について報告した。

 臨床心理学的地域援助技術を活用した研究テーマ については、電話相談、被害者支援、

SST

について 研究が展開された。林研究員はこれまで、「いのち の電話相談」の責任者として、長年その運営にあ たってきた。近年の社会世相の様々な変容から、電 話相談の潜在的ニーズがますます高まっている。そ うした中、林研究員は子どもから大人まで地域社会 全体を対象として、「声」を頼りに支える「電話相 談」のこれからについて、メール等

SNS

とは異なっ たコミュニケーション・ツールとしての「共時性」

の意義を論考した。また学校現場における被災者支 援、自殺予防としての被災者支援、犯罪被害者の支 援など、多岐にわたる領域での被災者支援の考え方 や支援方略等についても数多くまとめた。

 皿田研究員は

SST

実践研究の第一人者として、医 療、教育、福祉、司法など幅広い 領域での実践、

研究を進めている。中でも本研究課題に関しては、

SST

普及協会で副会長として、精神科病院で

SST

が 根づく上での工夫や、デイケアで

SST

が定着するた めのポイントについて学会講演を行った。研究年度 が終了した後も、多職種によるアウトリーチサービ スの実践研究を進めている。地域包括ケアシステム 時代に求められる相談支援において、SST の技法は チームケアにおいてますます期待されている。

 吉岡研究員は、研究班全体のとりまとめを行った。

また、福岡大学臨床心理センターに相談員として所 属する臨床心理士キャンディデイトのスーパービジョ ン体制を整える制度づくりについて報告した。当セ ンターが期待される役割の一つとして、地域貢献が 挙げられる。臨床心理学的地域援助を行う「人」の 育成は重要であり、センターで相談・支援にあたる

―  ―39

【社会科学研究部】

地域社会における臨床心理学援助に関する現状と今後の課題

研究チーム名:臨床心理学的地域援助研究(課題番号:1 3 4 0 0 4)

研究期間:平成2 5年4月1日~平成2 8年3月3 1日

研究代表者:吉岡久美子  研究員:林 幹男、皿田洋子、徳永 豊、田村隆一、松永邦裕、本山智敬

(5)

相談員の質の維持・向上は、センター来談者の福祉 にも繋がるといえよう。また、メンタルヘルスリテ ラシー調査結果をもとにした地域社会の課題と支援 についても、整理し報告した。

 以上より、地域社会に山積する様々な課題に対し て、臨床心理学的な視点をもった支援の更なる可能 性と今後の課題が明らかになった。

研究業績

林 幹男:電話相談のこれから、心の危機と向き合 う~電話相談活用のすすめ、遠見書房、1 1 5 1 2 6、

2 0 1 5.

林 幹男:学校内での犯罪が起きたときの対応:

PTSD

などから子どもを守る活働~災害から子どもた ちをどう守るか~危機管理の視点から、チャイ ルドヘルス、Vol.19、No.2、50-51、診断と治療 社、2 0 1 5.

林 幹男:自殺という悲劇を生まないために、更生 保護、第6 7巻第3号 2 0 2 2、2 0 1 6

.

皿田洋子:精神科病院で「

SST

」が根づくには―地 方の取り組みから―、

SST

普及協会第20回学術 集 副会長講演、千里ライフサイエンスセンター、

2 0 1 5.

徳永 豊・古山 勝・吉川知夫・一木 薫・田中信 利: 「学習到達度チェックリスト」における発 達段階の意義からみた「みる力」 「きく力」 、日 本特殊教育学会第5 0回大会(つくば大会) 、20 1 3.

徳永 豊:他者との出会いにより促される人間関係 の構築―対人行動の発達の視点から―、肢体不 自由教育、2 1 2巻、4 9、2 0 1 4.

徳永 豊:支援が必要な子どもだからこそ、確かな 学びの積み重ねを、教育福岡 6 2 4号 2 3、2 0 1 4.

徳永 豊:肢体不自由教育の課題と教科・発達の視 点、肢体不自由教育、2 1 6巻 4 2 4 5、2 0 1 4.

徳永 豊:重複障害のある子どもの教科の学び、 「新 重複障害教育実践ハンドブック」 、全国心身障 害児福祉財団、6 9 8 8、2 0 1 5.

徳永 豊・一木 薫・田中信利:知的障害の子ども の発達や学び、その教育は、特異なものなのか? 

―定型発達の場合と何が同じで、何が異なるの か―、発達障害研究、3 7巻3号、2 1 7 2 2 5、2 0 1 5.

松永邦裕:思春期における高機能広汎性発達障害と

いじめ―気づかれにくい異質性の理解とその対 応の課題―、福岡大学研究部論集B:社会科学 編、第7巻、9 1 3、2 0 1 4.

松永邦裕:大学における不登校の子どもたちの支援 教室の実践、教育と医学(慶應大学出版会) 、 6 2 (3) 、2 3 3 2 4 1、2 0 1 4.

吉岡久美子:保護者のメンタルヘルスリテラシー調 査からの検討、メンタルヘルスリテラシー研究

(シンポジスト) 、NTT 東日本関東病院、2 0 1 5.

吉岡久美子:福岡大学臨床心理センター外部

SV

制 度の創設について(報告) 、福岡大学臨床心理 学研究、第1 3巻、6 3 6 4、2 0 1 4.

吉岡久美子・中根允文:メンタルヘルスリテラシー 1 0年後研究―インターネットを活用した検討、

精神医学(医学書院) 、第5 7巻、第1 1号、9 0 9 9 1 7、

2 0 1 5.

―  ―40

(6)

背景と目的

 市場経済において、資産市場におけるバブルは常 に発生と崩壊を繰り返す。バブルの発生メカニズム と予防策はまだ十分解明されていない。例えば、直 近の欧米金融経済危機は土地バブル崩壊によるもの だ。土地の値段はいくらならば適正なのか実はまだ 分かっていない部分が大きい。このようなバブルが 発生してしまう場合、ソフトランディング政策が存 在するのか、そして、家計の貯蓄行動、及び、銀行 の不良債権形成にどのような影響を及ぼすのか明ら かにする。

 また、金融市場の不完全性が経済成長に与える影 響についても考察する。不完全な金融市場の下では、

バブル資産は一種の貯蓄手段として機能し、流動性 を供給する効果がある。このような視点から、不完 全金融市場の分析を行うことで、バブルの経済成長 に対する洞察を得ることも目的とする。

研究成果

 万は信用制約、バブル、貯蓄の研究を担当した。

Wan

2014a, 2016c

)は、バブルの発生を未然に防ぐ 政策を発見し、かつ、バブルが発生してしまった場 合、ソフトランディング、いわゆるバブルを崩壊さ せない税制が存在しうることを発見した。

Wan

2015c,

d, 2016 b

)は、無限期間に生きる個人モデルでバブ

ル発生を家計の生涯消費計画に明示的に導入した。

信用制約の有無によって、過剰又は過少貯蓄が起こ ることを示した。信用制約のもと、低金利という金 融緩和策は投機的貯蓄を助長し、消費を減らして有 効需要を減らすことで景気を悪くすることを明らか にした。経済主体にバブル期待を持たせないことが 重要な政策課題となる。また、

Wan

2015a, b, c, 2016d

) は、中国7 0都市の住宅価格及び家賃指数の1万超の

統計標本を基に、住宅バブルが発生したことを初め て統計的に検出した。さらに、2 0 1 0 2 0 1 4における 中国5 0大都市で実行された「投機的住宅購買禁止令」

を「自然実験」として捉え、非実験都市と比べて実 験都市ではこの政策が住宅価格月次上昇率を1パー セント有意に下げ、不動産価格安定に寄与したこと を初めて明らかにした。一方、家計部門の住宅ロー ンは銀行の貸借対照表の重要な資産項目であり、

2 0 0 7 2 0 1 5の1

,

11 7の個別銀行財務パネル・データを 基に、「投機的住宅購買禁止令」が不動産価格上昇 率を下げたことを通して、銀行の不良債権率を有意 に引き上げたことを初めて発見した。よって、不動 産バブルをいかにソフトランディングさせるのか、

中国、ひいては世界経済の安定と効率的な運営に欠 かせないものである。

 西田は経済成長と経済発展のメカニズムに対する 理論研究を担当し、特に信用制約や政策策定をめぐ る政治過程の役割について分析を行った。一般に信 用制約は投資の阻害要因になり、経済の成長と発展 に悪影響を与えると考えられているが、すべての経 済主体が信用制約の緩和から利益を受けるわけでは ないことが、シカゴ大学の

Raghuram G. Rajan

教授

Luigi Zingales 教授らの実証研究によって指摘さ

れている。その点を踏まえ、どのような経済状況で あれば、政府が信用市場の効率性を高め、信用制約 を緩和する政策を実施するのか考察した。その結果、

資産保有の分布(所得の不平等の程度)が信用制約 の程度の決定要因として重要であることを示した。

さらに、教育を人的資本投資と捉え、政治プロセス を経て人的資本蓄積を促す政策が採用されるか否か を考察すると、やはり所得分布が採用される政策の 決定要因になることが明らかになった。最後に、

Nishida

2016

)では、産業構造の変化と経済発展の

―  ―41

【社会科学研究部】

信用制約とバブルと経済発展に関する研究

研究チーム名:信用制約とバブルと経済発展(課題番号:1 4 4 0 0 2)

研究期間:平成2 6年4月1日~平成2 8年3月3 1日

研究代表者:万 軍民  研究員:西田圭吾

(7)

関係についても分析した。良く知られているように 経済発展とともに一次産業から二次産業へ生産と消 費が動いていくが、この動きは田舎と都会の生産技 術が相互に作用して引き起こされることを示した。

この結果は、政府がいずれかの産業を優遇するよう な政策を一時的に取ったとしても、それが経済発展 の長期的な経路に与える影響は限定的になりやすい ことを示唆するものとなっている。

研究業績 1 著書

.

1)Wan, Junmin,“Consumer Casualties: Exploring the

Economics of Habit, Information, and Uncertainty in Japan,”Palgrave Macmillan, New York, 単著,

査読有,専門書,

November 6, 2014.

 日本応用 経済学会2 0 1 5年度著作賞受賞.

2 論文

.

1)

Nishida, Keigo,

Rural-Urban Interdependence, Structural Change, and Development,”Economics Letters,vol. 142, pp.83-86, May 2016,

単著,査読 有.

.

2)Wan, Junmin,“Causality between Non-performing

Loans and Housing Bubbles,

Tsinghua Financial Review, January, 2016d, pp.57-60, 単著,査読有.

in Chinese

.

3)

Wan, Junmin,

“Bubbly Saving,”

Proceedings of 2015 Annual Meeting of The Korean Association of Applied Economics, pp.304-345, April, 2015d, 単著,

査読有.

.

4)Wan, Junmin,“

Household Savings and Housing Prices in China,”The World Economy, vol.39

(1)

, pp.172-192, January 2015c,

単著,査読有.

.

5)Jing, Huiquan, Hongwei Xu, Junmin Wan, Yang

Yang, Hua Ding, Minyan Chen, Lizhuo Li, Ping Lv, Jingwei Hu, Jingyun Yang,“Effect of Breastfeeding on Childhood BMI and Obesity: The China Family Panel Studies,”Medicine,vol.93

(10)

, 1-7, August,

2 0 1 4

b,

共著

,

査読有。

2 6)

. Wan, Junmin,

“Prevention, Hard and Soft Landing of

Bubble,Contemporary Economic Management

in Chinese

, vol.36

3

, pp.1-9, March 2014a,

単著,  

査読有.

3 ワーキング・ペーパー等

.

1)

Wan, Junmin,

Prevention and Landing of Bubble,

CAES Working Paper Series WP-2016-003 , The Center for Advanced Economic Studies of Fukuoka University, pp.1-40, March 2016c, 単著,査読無.

.

2)

Wan, Junmin,

Speculative Saving Hypothesis,

CAES Working Paper Series WP-2016-002 , The Center for Advanced Economic Studies of Fukuoka University, pp.1-50, March 2016b, 単著,

査読無.

.

3)Wan, Junmin,“不動産バブルと不良債権の因果 関係

,

CAES Working Paper SeriesWP-2016-001, The Center for Advanced Economic Studies of Fukuoka University, pp.1-16, January 2016a,

単著,

査読無.

.

4)

Wan, Junmin,

Are Non-performing Loans from Housing Bubbles ?

CAES Working Paper Series WP-2015-007, The Center for Advanced Economic Studies of Fukuoka University, pp.1-26, December

2015b,

単著,査読無.

.

5)

Wan, Junmin,

Non-performing Loans in Housing Bubbles,”CAES Working Paper Series WP-2015- 006, The Center for Advanced Economic Studies of Fukuoka University, pp.1-54, December 2015a, 単著,

査読無.

4 研究資金

.

1)公益財団法人全国銀行協会平成26年度学術研究 助成事業,研究期間:H2 7~H2 8;代表者:万 軍民;題目:商業銀行不良債権の決定要因:在 中邦銀と中国の銀行の比較.

.

2)平成2 7年信託研究奨励金,研究期間:H28~H 2 9;代表者:万軍民;題目:過剰債務と企業貯

蓄:日米中の比較研究.

.

3)科研・基盤研究 (一般) ,期間:H2 8~H3 2;

代表者:万軍民;題目:不良債権と不動産バブ ルの日米中の実証と理論研究.

.

4)中国国家自然科学基金・北京大学管理科学デー タセンター「シンクタンク・プロジェクト」 , 期間:2 0 1 6 2 0 1 8;代表者:万軍民;題目:内需 拡大の研究.

―  ―42

(8)

【研究成果】

  [Ⅰ]分子の励起状態には、内部転換、項間交差、

分子内振動エネルギー再分配など様々な相互作用が 存在する。このような相互作用は、エネルギー準位 の微小なシフトや広がり、分裂等として現れる。

 まず、これまでに開発した高分解能分光システム を利用して、ヨウ素分子の分光計測を行った。ヨウ 素分子は可視全域から近赤外領域にわたって強い吸 収を持ち、高分解能分光のベンチマークとしてもよ く用いられているものである。この分子の電子・振 動・回転状態は、超微細相互作用によってわずかに 分裂する。この超微細相互作用は、電気四重極モー メント、核スピンと分子回転の相互作用、核スピン 間の相互作用などの情報を持っている。これを高分 解能に測定することによって分子の詳細なダイナミ クスを解明することに成功した。

 また、ナフタレンの超高分解能レーザー分光を行 い、励起状態におけるエネルギー移動と化学反応の 関係を解明した。高密度なエネルギー準位が相互作 用するため、多原子分子は複雑なダイナミクスを示 すが、これが反映されたスペクトルの測定に成功し た。測定されたナフタレンのスペクトルをもとに、

項間交差やコリオリ相互作用など、励起状態内にお ける相互作用について検討した。

  [Ⅱ]生物で現れる自発的構造形成のメカニズム は、一見、ほぼ均一と見なせる初期状態から機能を 発現する多状態からなる構造体へ系を誘導する。こ のような形態形成のメカニズムを再構成する枠組み と し て 反 応 拡 散 系 が あ り、モ デ ル 反 応 系 と し て

Belousov- Zhabotinsky

(BZ)反応を用いて実験を行っ た。

BZ

反応は金属錯体の酸化還元反応であり、反 応液組成の調整により酸化・還元の単安定状態や周

期反応状態を示す。反応拡散系は構成要素の反応速 度とその拡散との競合によって多彩な時空間パター ンを示す。

 これまで、

BZ

反応試薬の単純な水溶液では物質 の拡散を緻密に制御することは困難であった。そこ で、水、油、界面活性剤からなり、微細構造を持 つ複雑流体である、マイクロエマルション(ME)で

BZ

反応場を構成した。これにより、親水性要素と 疎水性要素を選択的に区別して拡散を制御すること が可能な反応拡散系を構築した。

 結果として、 用いた金属錯体の酸化還元の程度 の異なる4状態からなる複雑な構造を有する定常パ ターンと、 化学反応波のソリトン的な振る舞いと して各種の交差現象を、新たに見出した。

 まず、 について、

BZ

反応の空間パターンでは、

金属錯体の還元状態を背景として酸化状態からなる パターンが現れる。このとき、酸化の抑制要素が促 進要素よりも早く拡散する場合にチューリング不安 定性が生じる。チューリング不安定下で現れる特徴 的な空間周期性を持つ定常パターンをチューリング パターンと呼び、例えば、魚類で現れる表皮上の周 期的パターンがチューリングパターンの特徴を有し ていることが報告されている。このようなチューリ ング不安定下の

BZ

反応では、酸化状態と還元状態 の2状態からなる定常パターンだけが知られていた。

 今回、チューリング不安定下の

BZ

反応で、光感 受性の異なる2種の錯体を共存させ、照射光強度を 変化させると、酸化還元の程度の異なる4つの状態 からなる時空間パターンが現れることを新たに見出 した。最終的に、4状態からなる定常パターンが現 れ、背景として2状態、スポットやライン状のパター ンとして2状態が現れることが分かった。これによ り、生物で現れる極性を持つパターンなども、モデ

―  ―43

【理工学研究部】

励起状態における分子の非線形ダイナミクスの研究

研究チーム名:励起分子ダイナミクス(課題番号:1 3 5 0 0 6)

研究期間:平成2 5年4月1日~平成2 8年3月3 1日

研究代表者:御園雅俊  研究員:宮川賢治、坂本文隆、中山和之(平成27年3月31日まで)

(9)

ル実験系において再現が可能となった。これらの結 果は、例えば照射光強度やその照射履歴、チューリ ング不安定性を精密に制御することで初めて観測可 能となった。このような非平衡条件が誘導するサブ ミリサイズ以上の周期性を持つ構造形成のメカニズ ムは、例えば生物において生体分子サイズに依存し ない任意のサイズの形態形成を可能にする基盤の一 つである。今回、ほぼ均一な状態から多状態の形態 として空間パターンを分化させる条件や手法を確立 できた。

 次に、 について、

BZ

反応の基質としてマロン 酸の代わりにシクロヘキサンジオン(CHD)を用い ることで、各種の化学波の交差現象を見出した。一 般に、化学波は正面衝突時に交差せずに対消滅する。

しかし、

ME

を反応場とした

BZ

反応で

CHD

を用い ると主要な組成においてチューリング不安定性は現 れずに、化学波の交差現象が現れた。これは、非線 形現象であるソリトンの性質の一部を再現している と考えられる。生物の世界においても、最近、遺伝 子操作された粘菌の集団が、同様なソリトン的な交 差現象を示すことが報告されている。我々の場合に は、2  

つの化学波の衝突だけではなく3、4  

、5   つ の波の衝突における擬ソリトン的な振る舞いも観測 した。2  

つの化学波の衝突時には条件によって化学 波の全体が交差する場合と、その一部が交差する場 合があることが分かった。さらに、複数の化学波の 衝突の極限として、収縮する化学波のリングが、収 縮後反転し拡張する現象などが見出された。

 このように、油中水滴型の

ME

のような複雑流体 を反応場とした

BZ

反応を用いると、金属錯体の励 起分子ダイナミクスを通して、生物で現れる時空間 パターンを再現できることが明らかとなった。

【研究業績】

[1]  西山明子,御園雅俊,“光周波数コムを利用 したナフタレンの高分解能レーザー分光, ”レー ザー研究,4 4 (3) ,2 0 3 2 0 7 (2 0 1 6) .

[2]

A. Nishiyama, K. Nakashima, A. Matsuba, and M.

Misono,

Doppler - free two - photon absorption spectroscopy of rovibronic transition of naphthalene calibrated with an optical frequency comb,

J. Mol.

Spectrosc., 318, 40-45

2015

.

[3] 御園雅俊, “ヨウ素分子の高分解能分光, ”分 光研究,6 4,4 7 7 4 7 9 (2 0 1 5) .

[4]

A. Nishiyama, A. Matsuba, and M. Misono,

Precise frequency measurement and characterization of a continuous scanning single-mode laser with an optical frequency comb,

Opt. Lett., 39, 4923-4926

(2014)

.

[5]

A. Nishiyama, D. Ishikawa, and M. Misono,

Development of high resolution molecular spec- troscopic system with an optical frequency comb,

JPS Conference Proceedings 1, 013088

2014

.

[6] 石川大樹,西山明子,御園雅俊,宮川賢治,

“光双安定系における論理的確率共鳴, ”福岡大 学理学集報,4 4 (1) ,pp. 1-10 (2014) .

[7] 西山明子,石川大樹,御園雅俊,“光周波数 コムと音響光学変調器を用いた分光システムの 開発とナフタレン分子の高分解能分光計測への 応 用, ”福 岡 大 学 理 学 集 報,44 (1) ,pp. 11-19

2014

) .

[8]

A. Nishiyama, D. Ishikawa, A. Matsuba, and M.

Misono,

High resolution molecular spectroscopic system assisted by an optical frequency comb,

J.

Opt. Soc. Am. B, 30, 2107-2112

(2013)

.

[9] 坂本文隆,宮川賢治,“2次元反応拡散系で 現れる化学波の交差現象, ”福岡大学理学集報,

4 5 (2) ,9 3 9 7 (2 0 1 5) .

[10]

K. Miyakawa,“Coherence Resonance of Small World Networks with Adaptive Coupling,

J. Phys.

Soc. Jpn. 84, 064003-1-064003-4

(2015)

.

11

K. Miyakawa, T. Okano, and S. Yamazaki,

Cluster Synchronization in a Chemical Oscillator Network with Adaptive Coupling,”J. Phys. Soc. Jpn.

82, 034005-1-034005-6

2013

.

―  ―44

(10)

1.研究成果 背景と目的

 励起状態のキラリティを取り扱う円偏光蛍光(CPL)

測定は、出現当初1 9 6 0年代は、

CPL

試料の応用範囲 が限られており、特定の基礎研究のみに限定されて いたが、近年、

CPL

物質が、画像表記ディスプレイ の偏光光源をはじめとし、記憶材料、セキュリティ ペイントなど高度な光情報ツールとして期待されて いる。しかし、有機化合物由来の円偏光蛍光物質は、

実用化までには、固体薄膜化・分子の配向制御、光 学的異方性を示す試料の

CPL

非対称性の精密計測、

高価な光学活性高純度原料と量子収率などの課題が 残っている。これらの課題を解消する材料として、

自己会合凝集形態により g

lum

値の可変が可能であり、

量子収率の高い電気双極子許容遷移吸収を持つ比較 的安価なアキラル色素を

building block とする CPL

材料の創製を目指す。

初年度

 H2 5年度は、研究チームスタート時に計画してい た円二色性兼用円偏光蛍光(CD&CPL)分光計の構 築に成功した。構築した

CD&CPL

分光計のブロッ クダイアグラムを図1に示す。既存

CD

分光計をベー スにし、

PEM

をサンプルの後方に置く後変調にする ことで

CD

と CPL 測定を同時に達成することが可能 となった。静的残留複屈折の小さなディポーラライ ザー、PEM、アナライザー各々を厳選し、高精度な 光学軸調整を行い、分光計を構築した。残留複屈折 測定は

LB

測定により行い、

10-3OD

以下の光学素子 を厳選した。

2年度目以降

 H2 6年度は円偏光蛍光材料開発を主に進めた。円 偏光蛍光材料の問題点として、高価な光学活性高純 度原料、高輝度と高円偏光度の両立が難しいことが あげられる。本課題では光学不活性なフルオロファ からなるキラルな自己会合凝集体による高特性の円 偏光材料の創製を行った。分子自体はアキラルであ るが、ある条件下で自己会合凝集体を形成し、その 超分子構造がキラリティを有するポルフィリン色素 をモデル化合物とし、貴金属ナノ粒子との複合体形 成を行い、局在プラズモン共鳴(

LSPR

)の電場増強

効果から

trade-off 改善を目指した。開発機を用い、

LSPR

電場増強効果により蛍光物質の蛍光強度の低 下を生じずにキラル光学特性の増強に成功した。

Chem. Commun.,2014

 これらの分析・測定技術を機能性材料・複合材料 分野に適応し、

pH

応答可能な徐放性を有するマイ クロコンポジットを開発した。マイクロコンポジッ トとしては、安価な牛血清アルブミンをマイクロ積 層構造で自己集積した多孔体カプセルを創生する。

―  ―45

【理工学研究部】

アキラルな色素を用いた円偏光蛍光( CPL )材料の創製

研究チーム名:キラル分光分析(課題番号:1 3 5 0 0 9)

研究期間:平成2 5年4月1日~平成2 8年3月3 1日

研究代表者:原田拓典(平成26年7月31日まで)、三島健司(平成26年8月1日から)

研究員:三島健司(平成26年7月31日まで)、三角 真(平成26年9月8日から)、松原公紀(平成26年3月31日まで)、 魏 秀欽(平成26年10月31日まで)

Figure 1. CD & CPL 分光計ブロックダイアグラム

(11)

得られた複合体と生理活性物質の相互作用をモレ キュラードッキング法でコンピュータ解析し、蛍光 分析、UV 分析、円偏光発光分析で得られた結果と 比較して、生体分子と生理活性分子の相互作用に関 して、熱力学的モデルを開発する。

2.研究業績

(論文査読あり)

1)A new method for separating configurational and

constitutional chiralities using diffuse reflectance circular dichroism,

共著,平成2 5年6月,

Appl.

Spectrosc.,

6 7 (1 0) , 1 2 1 0 1 2 1 3頁,T. Harada, T.

Nakano, H. Moriyama, N. Tajima, H. Yokota, R.

Kawakami, K. Mishima(2

0 1 3)

2)

Solid-State Circularly Polarised Luminescence and Circular Dichroism of Viscous Binaphthyl Com- pounds,

共著,平成2 5年1 0月,

RSC Adv. 2013 .

3 2 3 5 0 8 2 3 5 1 3頁,

T. Amako, N. Suzuki, T. Harada,

K. Mishima, M. Fujiki, Y. Imai

2013

3)Plasmon Resonance-Enhanced Circularly Polarized

Luminescence of Self-Assembled Meso-tetrakis

4- sulfonatophenyl

porphyrin-Surfactant Complexes in Interaction with Ag Nanoparticles, 共著,平成2

6 年1 0月,

Chem. Comm. 2014.

5 0

,

1 1 1 6 9 1 1 1 7 2頁,

Takunori Harada, Naoki Kajiyama, Kei Ishizaka, Reona Toyofuku, Katsuki Izumi, Kazuo Umemura, Yoshitane IMAI, Naoya Taniguchi and Kenji Mishima

2014

4)Spectroscopic Characterization of Supramolecular

Chiral Porphyrin Homoassociates at the Air-Water Interface,

共著,平成2 6年1 2月,Appl. Spectrosc.

6 8 (1 1)

,1

2 3 5 1 2 4 0頁,総頁数7頁,

Takunori Hara- da, Hiroshi Moriyama, Hiromi Takahashi, Kazuo Uemura, Haruo Yokota, Ryo Kawakami and Kenji Mishima

2014

(学会発表)

5)自己会合シアニン色素のキラル光学特性評価,

共同,平成2 5年5月,Molecular Chirality 2012

2013.5.1011 Kyoto

) ,原田拓典,横田春生,川 上亮,三島健司,黒田玲子,栗原舞,森山広思 6)

Stokes-Mueller matrix

法に基づく次世代型円二色 性(

CD

)分光計の開発,共同,平成2 5年5月,

光学シンポジウム(

2013.6.27 Tokyo

) ,原田拓典,

横田春生,川上亮,三島健司,高橋浩三,黒田 玲子

7)1

,

-Dihydroxyanthraquinone

結晶のキラル光学ス ペクトル:理論と実験による検討,共同,平成 2 6年 3 月,日 本 化 学 会 第94春 季 年 会2 0 1 4,

(2014.3.27-30 Nagoya) , 本真,原田拓典,田 島暢夫,森山広思,三島健司

8)円偏光吸収および円偏光発光測定システムの開 発,共同,平成2 6年6月,

Symposium on Molecu- lar Chirality 2014

2014.6.6-7 Sendai

) ,原田拓典,

本真,梶山直樹,早川広志,渡辺正行,三島 健司

9)表面プラズモン共鳴増強によるキラル光学特性 評価,共同,平成2 6年6月,

Symposium on Mo- lecular Chirality 2014(2014.6.6-7 Sendai)

,梶山 直樹,石坂慶,梅村和夫,谷口直哉,今井喜胤,

三島健司,原田拓典

1 0)

Interaction of different polyphenols with serum albumins: Spectroscopic and molecular modelling studies,

共同,平成2 6年8月,

2 nd International Conference on Ecology, Sanitation, Water, Re- sources, Materials and Energy

(ESWRME) (2014.

8.23-27

Fukuoka, Hilyatuz ZAHROH, Kenji MISHIMA, Takunori HARADA, Shouta ITOU, Keiichi IRIE, Kenichi MISHIMA, Yusraini Dian Inayati SIREGAR, Lily Surayya Eka PUTRI

1 1)

Formation of pH-release microcapusles in supercriti-

cal carbon dioxide, 共同,平成2

6年8月,

2nd Inter- national Conference on Ecology, Sanitation, Water, Resources, Materials and Energy

ESWRME

(2014.8.23-27)Fukuoka, Shouta ITOU, Yusraini

Dian Inayati SIREGAR, Kenji MISHIMA, Ryo KAWAKAMI, Yuuta INOUE, Hirofumi KAWA- MURA, Takunori HARADA, Keiichi IRIE, Kenichi MISHIMA, Salim Mustofa, Fauziyah HASANAH, Hilyatuz ZAHAROH, Lily Surayya Eka PUTRI, Agus SALIM

1 2)オキサリプラチン誘発性末梢神経障害ラットの

Charcot-Marie-Tooth 病原因遺伝子の動態,共同,

平成2 6年8月,第52回日本癌治療学会学術集会

(2 0 1 4

.

.

2 8 3 0)パシフィコ横浜,寺岡里織,入

―  ―46

(12)

孝之,原暦,百武美香,市丸優希,林稔展,松 尾宏一,佐藤朝光,三島健司,岩崎克典,三島 健一

1 3)超臨界二酸化炭素の圧力誘起法を用いた

pH

応 答性高分子マイクロコーティング,共同,平成 2 6年9月,SCEJ 化学工学会第46回秋季大会

(2 0 1 4

.

.

1 7 1 9)九州大学,伊藤祥太,三島健司,

原田拓典,入江圭一,三島健一

―  ―47

(13)

研究成果

〈背景および目的〉

 高齢化に伴う要介護者数の増加は深刻な社会問題 であり、その原因疾患の1

/

3が脳血管障害とされる。

脳血管障害の約6割を占める脳梗塞は加齢に伴って 罹患率が上昇する老年性疾患であり、血栓による脳 血管の閉塞または狭窄により脳への酸素供給低下

(脳虚血)を来たし脳組織壊死に至る疾患である。

現在の脳梗塞治療では急性期の脳血栓溶解療法が中 心であるが、脳梗塞慢性期における障害された脳神 経再生を標的とした治療法の確立が後遺症からの回 復に不可欠である。脳梗塞慢性期の脳機能障害に対 して最も期待される治療法として、骨髄幹細胞を利 用した脳神経再生療法がある。脳梗塞後の骨髄幹細 胞移植では、梗塞周囲において新生された血管を介 して、神経幹細胞の傷害部位への動員、生着、分化 が促進され、脳神経機能が改善されることが実験的 に明らかになった。しかし、骨髄幹細胞移植による 治療は老年期の方が若年期よりも治療成功率が低い。

これは、脳梗塞発症率の高い老年期においては、若 年期と異なる脳組織修復阻害機構が存在する可能性 を示唆する。

 脳ペリサイトは血小板由来成長因子(

PDGF-BB

) の受容体である PDGFR

β

を高発現しており、この

PDGFRβ

欠損マウスでは脳梗塞巣の拡大と脳機能障

害の増悪が認められたことから、脳虚血後の神経修 復機構として脳ペリサイトの

PDGFRβ

を介した機構 が存在することが報告された。それでは、脳梗塞の 予後不良患者が多い老年期においても、若年期と同 様の PDGFR

β

を介する脳神経修復機構が働いている のだろうか?本申請者らは

PDGFRβ

シグナルの制御 因子である

CD248

の加齢による機能変化に着眼し

た。CD248 はペリサイトに発現しており、CD248 発 現を低下させると PDGF-BB によるペリサイトの増 殖が阻害される。さらに老化した脳ペリサイトでは

CD248 の発現量が低下する。老年期における脳ペリ

サイト機能異常の分子機構は不明であるが、老年期 の脳ではペリサイトが加齢とともに病変化し PDGFR

β

シグナルが障害されることが予想される。以上を総 合して、本申請者らは高齢者における脳梗塞の予後 不良の成因として、 「老化に伴う脳ペリサイトの

CD248

および PDGFR

β

シグナル伝達異常が、高齢者におけ る脳梗塞後の組織修復能の低下および神経炎症の亢 進を惹起する」との仮説を提起する。

 本研究では以下の点について明らかにする。

① 

PDGFRβ

シグナルの抑制によって、脳ペリサイ

トからの脳組織修復促進因子の産生が低下するか。

② 脳ペリサイトの加齢性病変はミクログリア活性 化と脳微小血管の不安定化(血液脳関門障害)を 誘発するか。

③ 脳ペリサイトの PDGFR

β

シグナルが

CD248

発 現低下により抑制されるか。

④ 脳ペリサイトの加齢性病変は神経幹細胞遊走能 低下および神経障害を惹き起こすか。

〈結果・考察〉

① 

in vitro

老化型脳ペリサイトの確立

 過去の研究で、培養細胞の継代を繰り返すことで、

細胞の老化を惹起する方法が報告されている。そこ で、3  

週齢の

Wistar

ラットより、初代培養脳ペリサ

イトを単離し、上記の方法を参考に、

in vitro

老化型 脳ペリサイトの作製方法を検討した。初代培養脳ペ リサイトを

0.5

×

104cells

/

cm2

の密度で、5  

回継代し、

老化型脳ペリサイト(

P6

)を作製した。対照群の正

―  ―48

研究チーム報告

【生命科学研究部】

脳ペリサイトの老化が招く脳血管機能障害の解明

研究チーム名:脳ペリサイトの老化(課題番号:1 3 6 0 0 5)

研究期間:平成2 5年4月1日~平成2 8年3月3 1日

研究代表者:松本純一(平成26年3月31日まで)、道具伸也(平成26年4月1日から)

研究員:道具伸也(平成26年3月31日まで)、中島章雄(平成26年2月3日から)

(14)

同密度で、1  

回のみ継代した。老化型脳ペリサイト は、正常型脳ペリサイトと比較して、細胞が肥大化 し、細胞形態に変化が認められた。しかし、

PDGFRβ

(脳ペリサイトマーカー)の発現は、正常型および 老化型脳ペリサイトにおいて確認された。故に、継 代された細胞が、脳ペリサイトの細胞形質をある一 定レベル保持していることを示唆した。

 次に、細胞の老化度を検討するため、細胞老化度 の指標とされる

senescence associated β-galactosidase

SA-β-gal

)を染色した。老化型脳ペリサイトでは、

正常型脳ペリサイトと比較して

SA-β-gal 陽性面積が

増加した(図1) 。

② 脳ペリサイトの老化が血機能関門のバリア機能 に及ぼす影響

 脳ペリサイトは、脳微小血管を囲い込むように脳 血管内皮細胞と隣接し、脳血管内皮細胞による脳バ リア機能(BBB バリア機能)の維持に寄与する。そ こで、脳ペリサイトの老化が、

BBB

バリア機能の維 持に与える影響を検討するため、結果①で作製した 細胞を用いて、

in vitro BBB

モデルを作製した。正 常型脳ペリサイトおよび老化型脳ペリサイトをラッ ト脳血管内皮細胞と共培養し、

Na-F

(BBB 傍細胞間 隙マーカー)の透過係数を算出した。老化型脳ペリ サイト共培養モデルは、正常型脳ペリサイト共培養 モデルと比較して、

Na-F

の透過係数が有意に増加し た(図2) 。

 各脳血管内皮細胞 脳ペリサイト共培養モデルに おける PDGF-BB の作用を比較検討するため、各共 培養モデルに

PDGF-BB

を1および

20ng

/

mL

で2 4時 間処理した。両モデルにおいて濃度依存的な Na-F 透過係数の増加傾向を示したが、有意な差は認めら れなかった(図2) 。

図1:SA- -gal 染色

正常型脳ペリサイト(P2)、 老化型脳ペリサイト(P6

③ PDGF-BB による老化型脳ペリサイトの

IL-6

MMP-9 mRNA

発現量の変化

 IL-6 および

MMP-9

は、脳虚血後に血管周囲で増 加し、血管・組織再生に関与する。脳ペリサイトも 炎症刺激により、IL-6 および

MMP-9

を産生するこ とは報告されているが、脳ペリサイトの

PDGFRβ

グナルと

IL-6

および

MMP-9

産生の関連性について

不明である。そこで、脳ペリサイトに

PDGF-BB

処 理し、

IL-6

および

MMP-9 mRNA

の発現量を定量し た。脳ペリサイトは、PDGF-BB 濃度依存的に

IL-6

および

MMP-9 mRNA

発現量を増加させた(

Data not shown)

。さらに、

PDGF-BB

誘発の

IL-6 およびMMP-

9 mRNA

発現量増加に対する老化の影響を検討した。

図3に示すように、老化型脳ペリサイトは、正常型 脳ペリサイトと比較して、

PDGF-BB

による

IL-6

の 産生が抑制された。一方で、MMP-9 mRNA 発現量 に関しては、その発現誘導が増強された(図3) 。

―  ―49

図2:In vitro BBB モデルのNa-F透過係数に対する正常型および 老化型脳ペリサイトの影響と PDGF-BBの作用

図3:正常型および老化型ペリサイトにおける PDGF-BB誘発性 血管リモデリング因子の発現量

IL-6 mRNA 発現量、 MMP-9 mRNA 発現量

(15)

 本研究期間では、以下の3つの点について明らか にした。

① 継代培養による老化型脳ペリサイトの in vitro モ デルを確立した。

② 脳ペリサイトが老化すると、血液脳関門のバリ ア機能が低下する。

③ 老化型脳ペリサイトでは、PDGF-BB による血 管修復因子の発現プロファイルが異なる。

 本研究課題では、脳ペリサイトが老化することで、

脳血管の機能維持・修復機構が障害される可能性が 示唆された。しかし、その詳細な機序や関連分子に ついては明らかにできていない。今後は、CD248 に 焦点を当て、更なる分子機構の解明が課題となる。

研究業績

1.Takata F, Tominaga K, Koga M, Dohgu S, Futagami

K, Yamauchi A, Kataoka Y.

 

Elevated permeability of the blood-brain barrier in mice intratracheally administered porcine pancreatic elastase.

 

J Phar- macol Sci., 129, 78-81.(2015)

2.

Machida T, Takata F, Matsumoto J, Takenoshita H, Kimura I, Yamauchi A, Dohgu S, Kataoka Y.

 

Brain pericytes are the most thrombin-sensitive matrix metalloproteinase-9-releasing cell type constituting the blood-brain barrier in vitro. Neurosci Lett., 599, 109- 14.

2015

3.Takahashi H, Takata F, Matsumoto J, Machida T,

Yamauchi A, Dohgu S, Kataoka Y.

 

Brain pericyte- derived soluble factors enhance insulin sensitivity in GT1-7 hypothalamic neurons.

 

Biochem Biophys Res Commun., 457, 532-7.(2015)

4.Matsumoto J, Takata F, Machida T, Takahashi H,

Soejima Y, Funakoshi M, Futagami K, Yamauchi A, Dohgu S, Kataoka Y. Tumor necrosis factor-α- stimulated brain pericytes possess a unique cytokine and chemokine release profile and enhance microglial activation.

 

Neurosci. Lett., 578, 133-138.

2014

―  ―50

(16)

【研究概要】

 フィードバックとは、本来、あるシステムから得 られた結果(出力)を原因側に戻す(入力)操作の ことを指す。スポーツなどの身体運動を学習・指導 する領域では、運動者が行った運動の結果を情報と して取り入れ、次の運動を修正する手がかりとして 利用する働きを言う(杉原 2 0 0 8) 。運動者の動きが 理想に近づくためには、無作為に運動を繰り返すの ではなく、身体運動の結果をフィードバックするこ とで、トレーニングや運動学習の効率が高まり、パ フォーマンスの向上に貢献できるものと考えられる。

 本研究は、個人競技種目(体操競技、競泳競技、

柔道)および個人のパフォーマンスが明確に評価で きる競技種目(野球)を対象に、競技スポーツのト レーニング・コーチングシーンにおいて、アスリー トへ「いつ」 「何を」 「どのように」フィードバック することが効果的であるかを調査・検討することを 目的とし、観察・撮影・測定・分析を経て得られた 身体運動の情報を競技力向上や指導に活用するもの である。

【研究成果】

1.体操競技のゆか運動、および、跳馬の高難度技 の動きにおけるフィードバック手法の検討  体操競技のゆか運動の動きに関し、近年、新体操 競技の練習現場の中で取り入れられているアイソ レーション動作を使用した動きのトレーニングに着 目した。ここでは、このトレーニングが表現運動に 対しどのような影響を及ぼすかという発想から、女 子選手たちにそれを実施させることにより、身体各 部位(頭部、肩、胸、腰の動きの4パート)の動き の質の向上を検証するとともに、ゆか運動への動き

の応用をも試みた。結果として、トレーニングを始 めた当初まだおぼろげな動きの感覚(探索位相、偶 発位相)であったものが、練習を積んでいくうちに 少しずつ鮮明になってくる様子(図式化位相、自在 化位相)が動きから、また選手の動感報告からも現 われてきた。ゆか運動の動きへの応用では、アイソ レーショントレーニングで行なわれた身体各部位の 動きが演技の中の動きに随所に現われるなど成果が あった。

 体操競技の跳馬における高難度技(リ・セグゥア ン)を取り上げ、世界で2人目、日本で初めて行っ た鈴田選手の発生過程および習得過程について検証 していった。そこでは、デジタルビデオカメラによ り撮影した映像をパソコン上で処理し、連続図等の 様々な考察資料を作成した後、自己観察、他者観察 法を用いて分析していった。さらに、この跳躍を踏 み切り、着手、空中、着地局面等に細分化しながら 重要な動感情報の分析を試みた。そこから得られた 知見を明らかにしたことで、今後のこの技を実施し ようとしている選手および指導者にとって重要な情 報提供ができたと考えている。

2.柔道競技における試合審判規定変更が競技内容 に与える影響

 本研究の目的は、ルール変更がもたらす競技内容 の変化(試合のダイナミック化)を明らかにし、今 後の強化策などに役立つ情報を指導現場にフィード バックすることにあった。

 そこでは、全日本柔道選手権大会(男子)2 0 1 0 2 0 1 1 年の映像および公式記録を用いて、項目別(勝利ポ イント、勝利獲得技、試合時間、総罰則数、体重差 と勝敗の関係)のデータを抽出し分析を行った。結

―  ―51

【生命科学研究部】

身体運動フィードバック研究

研究チーム名:身体運動フィードバック研究(課題番号:1 3 6 0 0 8)

研究期間:平成2 5年4月1日~平成2 8年3月3 1日

研究代表者:田口晴康  研究員:坂本道人、田場昭一郎、渡邊正和、田口正公(平成26年3月31日まで)、 市川 浩(平成26年3月31日まで)

(17)

果として、全ての項目において有意差は見られな かったが、ルール変更の影響と推察できる傾向を幾 つか確認できた。

 次いで、男子選手に引き続き、男子と同時期、同 ルールで開催された皇后杯全日本女子柔道選手権大 会の分析を行った。結果として、勝利ポイントや試 合時間、体重差と勝敗の関係において有意差が確認 された。まとめとして、男子では、ダイナミック柔 道を推奨する国際ルール変更において、試合の活性 化を示す結果が現われなかったが、このルール変更 により審判員サイドから試合内容の活性化を促そう とする動きが確認できた。

 一方、女子については、試合の活性化を示す項目

(勝利ポイント、試合時間、体重差と勝敗の関係)

で有意差が確認できたことから、これらのルール変 更により、試合内容への影響および活性化が図られ たものと考えられる。しかしそれらは、選手の体力 面や技術面など選手間格差によるものも多く今後の 課題となった。

 本研究で得られた知見は、今後の男女選手強化の みならず、国内ルールで扱われてきた日本独自の体 重無差別の大会が、国際ルールで取り扱われるよう になったことの是非を考える上においても重要な情 報になるものと考えられる。

3.競泳競技における水中レジスタンストレーニン グの妥当性

 3年間を通して、競泳競技における「水中レジス タンストレーニングと筋の作用」という観点で研究 を実施した。長距離選手のプルトレーニングに関す る研究から、継続的に短距離選手を対象とした「ナ イロン製のパラシュートを用いた水中レジスタンス トレーニング」について、ストローク局面ごとに筋 放電積分値を算出したところ、負荷を与えた状態で はストロークの終末局面に筋放電量が増加している ことが分かった。また、ストロークテンポをコント ロールすることで筋の作用が異なることが示唆され た。この結果を現場にフィードバックすることで短 距離選手の著しい記録の向上が見られた。

 さらにこの期間中、オープンウォータースイミン グ(

OWS

)の日本代表選手に帯同し、競技性の異な る「遠泳競技」と「競泳競技」の調整期間中に様々

な測定を実施した。その結果、体重、体脂肪、体温、

心拍数、

SPO2

、乳酸カーブテスト等に大きな変化は 見られなかったが、アミラーゼモニターによる選手 の緊張の度合いについては、競泳競技の方が高くな る傾向にあった。

 現在は、共同研究で「競泳選手における上肢によ る効果的なプル泳トレーニングの検討」により、長 距離選手のプル泳中のストロークテンポと上肢の筋 作用について実験を進めている。

4.野球競技の試合および投球練習における技術向 上のためのフィードバック比較検討

 投手の投球技術向上を目指したトレーニングに対 し、練習時や試合時における投手の投球練習を撮影・

観察、指導ポイントの抽出および具体的な指導を 行ってきた。そこでは、様々な視点から比較検討を 加え、修正点などを抽出し、正しい投球フォームの 完成および投球技術の向上を目指した。さらに、

バッティング投手と試合での投球映像から比較検討 することで、投球練習時の指導との違いを検証しパ フォーマンス向上効果を図っていった。

 結果として、映像により選手が自分のフォームを 再確認でき、そこに技術指導を加えることによって、

ボールコントロールが安定した選手も現われるなど 投球動作の改善および投球技術の向上が見られた。

このことから選手自身が本人の感覚で行ってきた動 きとともに映像などの客観的な呈示、それに伴うア ドバイスを与えることにより明確に動作の違いを把 握し、より良い投球技術の改善につながったものと 思われる。一方、試合時と練習時の投球フォームに 大きな差がありパフォーマンスとしても発揮されて いない選手も存在していたが、投球フォームに大き な違いが見られなかった選手では、試合時に自分の ピッチングができていることが多かった。今後はこ れらの選手を対象に他の要因も探りながら新たな指 導方法の構築を目指したいと考えている。

【研究業績】

1.田口晴康他:跳馬の「笠松とび後方かかえ込み 宙返り」 (リ・セグゥアン)における発生論的 運動分析,体操競技・器械運動研究2 2,2 0 1 4.

2.田口晴康:定位感能力を考える,第2 7回日本ス

―  ―52

(18)

3.木原正憲、田口晴康:アイソレーショントレー ニングにおける練習現場への応用,第6 3回九州 体育・スポーツ学会大会,2 0 1 4.

4.中村敏雄、高橋健夫他編集主幹 田口晴康他:

2 1世紀スポーツ大辞典,大修館書店,2 0 1 5.

5.小澤雄二、石橋剛士、北井和利、坂本道人、中 原一、大川康隆:中学校柔道授業における「技 をかけるきっかけ」構築の試み,武道学研究 4 7,2 0 1 4.

6.坂本道人他:ルール変更に伴う競技内容の分析

―全日本選手権大会・皇后杯全日本女子柔道選 手権大会(2 0 1 0・2 0 1 1年大会)を対象として―,

第4 7回日本武道学会,2 0 1 4.

7.坂本道人他:ルール変更に伴う競技内容の分析

(その2)―全日本選手権大会・皇后杯全日本 女子柔道選手権大会(2 0 0 9 2 0 1 2年大会)を対 象として―,第4 8回日本武道学会,2 0 1 5.

8.栗木明裕、市川 浩、田場昭一郎、田口正公他:

競泳選手における反張膝が膝関節障害に及ぼす 影響,日本水泳・水中運動学会,2 0 1 3.

9.田場昭一郎:ハンドパドルと抵抗水着がプルト レーニングに与える影響 ―競泳女子長距離選 手を対象として―,福岡大学スポーツ科学研究 4 5 (2) ,2 0 1 5.

1 0.

Shoichiro TABA, Hiroshi ICHIKAWA, Masaru MATSUNAMI, Masahiro TAGUCHI, Akihiro KURIKI

Examination of resistance training in competitive swimming. XIIth International Sympo- sium on Biomechanics and Medicine in Swimming Handbook:198199, 2014.

1 1.齋藤健治、井上一彦、渡邊正和他:加速度セン サを用いた速球とカーブ投球時の体幹と上肢の 運動分析,名古屋学院大学論集

Vol.3 No.1, 2014.

―  ―53

参照

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