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発展途上国の工業化 と多国籍企業 一 波 及 に 関す る一 考 察 一

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発展途上国の工業化 と多国籍企業

一 波 及 に 関す る一 考 察 一

穴 沢 眞

は じ め に

経 済 発 展 は先 進 国 か ら発 展 途 上 国 へ の 波 及(spillover)の 連 鎖 と と られ る こ とが で き,古 くは クズ ネ ッ ツ,ミ ュ ル ダ ー ル な ど1)に そ の 考 え が み られ る 。 工 業 化 の 波 及 もそ の 一 環 と して と ら え る こ とが で き,そ の 一 翼 を直 接 投 資 が 担 っ た 。 直 接 投 資 はマ ク ドゥー ガ ル ・モ デ ル で想 定 さ れ る よ う な,単 な る 資本 の 移 動 で は な く,経 営 資 源 の 移 動 を伴 う もの とい う認 識 が 広 ま っ て い る。 特 に,製 造 業 にお け る 先 進 国 か ら発 展 途 上 国 へ の直 接 投 資 は 設 備 に体 化 され た技 術 の み

な らず,各 種 の 技 術 や ノ ウハ ウ を 受 け入 れ 国 に もた らす 。 そ して,そ の主 体 が 多 国 籍 企 業 で あ る。

工 業 化 の 波 及 自体 は広 範 な 考 察 を 必 要 とす る もの で あ る が2),本 論 で は工 業 化 の 波 及 に お け る多 国籍 企 業 の直 接 的 な役 割,す な わ ち,進 出 に伴 う経 営 資 源 の移 転 に 限 定 し て こ れ を考 察 す る 。 も と よ り,多 国籍 企 業 の活 動 の み で工 業 化 の 波 及 を説 明 す る こ と は で き な い。 ま た,技 術 提 携 や 間接 的 な 波 及3),さ ら に 外 部 性 の 重 要 性 を否 定 す る も の で は な い 。 しか し,波 及 の 主 体 を 明 示 した うえ

1)S.ク ズ ネ ッ ツ(塩 谷 野 祐 一 訳)『 近 代 経 済 成 長 の 分 析 』東 洋 経 済 新 報 社,1978年, 第9章,G.ミ ュ ル ダ ー ル(小 原 敬 士 訳)『 経 済 理 論 と低 開発 地 域 』 東 洋 経 済 新 報 社,1959年,第3章,を 参 照 の こ と 。 ま たA.O.ハ ー シ ュ マ ン(小 島 清 監 修,麻 田 四 郎 訳)『 経 済 発 展 の 戦 略 』 厳 松 堂,1961年,第10章 も波 及 を 扱 っ て い る 。 2)渡 辺 利 夫 は 波 及 を もた らす も の と して 輸 出,資 本 蓄 積,外 国 資 本 な ど を取 り上 げ

て い る 。 渡 辺 利 夫 『 開 発 経 済 学 第2版 』 日本 評 論 社,1996年,第VI章 。 3)間 接 的 移 転 等 に つ い て は 萩 野 典 宏 『国 際 経 営 戦 略 論 』 日刊 工 業 新 聞 社,1991年,

第7,8章 を 参 照 の こ と。

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で,そ の直 接 的 な貢 献 を考 察 す る こ とは,と りわ け 多 国 籍 企 業 に よ る寡 占化 が 進 む なか で,発 展 途 上 国 の 工 業 化 を考 え る 一 助 とな る もの と思 わ れ る。

以 下 で は,ま ず,波 及 の 概 念 と移 転 工 一 ジ ェ ン ト(transferagent)た る 多 国籍 企 業 に よ る発 展 途 上 国 へ の経 営 資 源 移 転 の 枠 組 み を提 示 す る 。 次 に多 国 籍 企 業 の 発 展 途 上 国 へ の進 出 を前 者 の 戦 略 と後 者 の 政 策 に 基 づ く相 互 シ ス テ ム と して と ら え,配 置 さ れ る 機 能(function)に つ い て考 察 す る 。 さ ら に,現 地 子 会 社 か ら地 場 企 業 へ の企 業 間経 営 資 源 移 転 に つ い て 言 及 す る。

第1節 波 及 と多 国籍 企 業

1‑1波 及 と ギ ャ ッ プ

波 及 とい う概 念 や こ れ に 類 似 した 普 及 とい う概 念 は研 究 分 野 に よ り,そ して 研 究 者 に よ り様 々 な 考 えが 提 示 され て きた4)。 多 国籍 企 業 の 発 展 途 上 国 の工 業 化 に対 す る直 接 的 な役 割 を 考 察 す る た め,本 論 で は波 及 とは あ る 主体(組 織) か ら他 の 主 体(組 織)へ の 経 営 資 源 の 移 転 の集 合 で あ り,そ れ は 時 間 と と もに 変 化 す る ダ イ ナ ミ ッ ク な もの と考 え る 。 なお,波 及 や 移 転 に 関 連 して リ ンケ ー ジ と い う言 葉 も使 用 さ れ る 。 本 論 で は リ ン ケ ー ジ を所 有 関係 の な い企 業 間 の 長 期 継 続 的 取 引 を基 本 と した 関 係 と し,取 引 に付 随 して 経 営 資 源 が 移 転 され る 経 路 を も指 す 。

波 及 や 移 転 が お こ る の は何 らか の ギ ャ ップ(格 差)が 存 在 す る か らで あ る5)。

移 転 や そ の 集 合 で あ る波 及 は この ギ ャ ッ プ を埋 め るた め の行 為 と言 う こ とが で き る。 そ して,多 国 籍 企 業 は各 種 の 経 営 資 源 を もた らす 移 転 工 一 ジ ェ ン ト6)の 役 割 を 果 た して い る の で あ る 。 特 に先 進 国 と発 展 途 上 国 で は ギ ャ ップ が 大 きい

4)清 川 は普 及 に 関 す る社 会 科 学 の 諸 分 野 に お け る概 念 を簡 潔 に 示 して い る。 清 川 雪 彦 『日本 の 経 済 発 展 と技 術 普 及 』東 洋 経 済 新 報 社,1995年,第1章 を 参 照 の こ と。

5)ギ ャ ッ プ に つ い て はJ.フ ェ ア ウ ェ ザ ー(戸 田 忠 一 訳)『 国 際 経 営 論 』 ダ イ ヤ モ ン ド社,1975年,PP.34‑35を 参 照 の こ と 。

6)技 術 移 転 工 一 ジ ェ ン トと い う語 句 は 多 用 さ れ る が,こ こ で は技 術 の み な らず,よ

り広 範 な 経 営 資 源 全 般 を含 む た め,単 に 移 転 工 一 ジ ェ ン トと した 。

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発 展途 上 国の工 業化 と多 国籍 企業

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た め,多 国籍 企 業 の 移 転 工 一 ジ ェ ン トと して の 役 割 は よ り重 要 で あ る。 また, そ の 特 質 か ら ビ ジ ネ ス に即 した,合 理 的 な 経 営 資 源 の 移 転 が な され る と考 え ら れ る。

い か な る ギ ャ ップ が 存 在 す る か を考 え る う え で,多 国 籍 企 業 に関 す る理 論 は 有 益 な示 唆 を与 え て くれ る。 主 要 な理 論 が 多 国 籍 企 業 が 有 す る優 位 性 や そ の 海 外 へ の 配 置 や コ ン トロー ル に つ い て,本 論 の 分 析 に 有 用 なモ デ ル を提 示 して い

る 。 主 立 っ た も の を 以 下 に あ げ る 。

ハ イマ ー は 産 業 組 織 論 的 な考 え か ら,多 国 籍 企 業 の 持 つ 優 位 性 につ い て 言 及 した 。 彼 は 直接 投 資 を これ ま で の 資 本 移 動 と は異 な り,子 会 社 の コ ン トロ ー ル と位 置 づ け た 。 そ の う えで,そ の 源 泉 と して優 位 性 に 注 目 し,多 国 籍 企 業 の 分 析 に あ らた な視 点 を導 入 した7)。 国 際 生 産 とそ の 立 地 に 関 して は ダニ ン グ の 折 衷 理 論 が あ る。OLC(Ownership‑Location‑lnternalisation)パ ラ ダ イ ム と も い わ れ るが,彼 は企 業 は 何 らか の 企 業 特 殊 的優 位 を持 ち,そ れ を有 利 にす る 立 地 優 位 が あ り,そ して 企 業 は 自社 が 有 す る 企 業 特 殊 的優 位 を 内 部 化 す る と して い る8)。 バ ー ノ ンは プ ロ ダ ク ト ・ラ イ フ サ イ ク ル ・モ デ ル で 企 業 の 海 外 進 出 と 貿 易 を説 明 した 。 彼 は 製 品 の3つ の ス テ ー 一 ・ ジ(新 製 品,成 熟 製 品,標 準 製 品 〉 と3地 域(米 国,他 の 先 進 国,低 開発 国)で 輸 出入 と生 産 の 関 係 を示 し た9)。

内部 化 理 論 は市 場 の不 完 全 性 ゆ え に,企 業 は そ れ を代 替 す る もの を企 業 内 に作 る とい う もの で あ る。 多 国 籍 企 業 の 普 遍 的 な役 割 を説 明 す る もの と し て,現 在 の 多 国 籍 企 業 理 論 の 中 心 を な して い る10)。 ポ ー ター は競 争 優 位 とい う観 点 か らグ ロ ー バ ル な 機 能 の 配 置 を価 値 連 鎖 を も と に分 析 し,そ の 調 整 の 重 要 性 を 強

7)S.ハ イ マ ー(宮 崎 義 一 編 訳)『 多 国 籍 企 業 論 』 岩 波 書 店,1979。

8)DunningJohn.H,"ExplainingChangingPattersofInternationalProduction:In DeffenceoftheEclecticTheory,"Oxford、BulletinOfEconomics(GStatistics, Vol.41,No.4,Nov.1979.

9)VernonRaymond,"lnternationalInvestmentandInternationalTradeinthe ProductCycle,"Quarterly∫ournalofEconomics,LXXX,No.2,May.1966.

10)内 部 化 理 論 に つ い て はP.J.バ ッ ク レ イ,M.カ ソ ン(清 水 隆 雄 訳)『 多 国 籍 企 業 の 将 来 』 文 眞 堂,1993年,A.M.ラ グ マ ン(江 夏 健 一 他 訳)『 多 国 籍 企 業 と 内 部 化 理 論 』 ミ ネ ル ヴ ァ 書 房,1983年 な ど を 参 照 の こ と 。

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調 した11)。

理 論 ご と に重 点 は異 な る が,多 国 籍 企 業 は何 らか の優 位 性 を持 ち,そ れ を 海 外 に もた らす こ とい う点 は ほ ぼ共 通 して い る 。 この 優 位 性 の 存 在 は 親 会 社 と新 規 に設 立 され る子 会 社 との 問 に,さ ら に受 け入 れ 国 の地 場 企 業 との 間 に特 定 の 経 営 資 源 の ギ ャ ップ が あ る こ と を意 味 す る。 特 に先 進 国 の 企 業 が 発 展 途 上 国 に 進 出す る 場 合,こ れ らの ギ ャ ッ プ は 先 進 国 間 の場 合 よ り も大 き くな る 。

1‑2波 及 の 実 態

多 国籍 企 業 を起 点 とす る 波 及 を考 え る時,経 営 資 源 の移 転 は企 業 内(親 会 社 か ら現 地 子 会社 へ)と 企 業 間(現 地 子 会 社 か ら地 場 企 業 へ)の2つ の パ ター ン, も し くは段 階 を想 定 で きる 。図1は 一 連 の経 営 資 源 移 転 を あ らわ して い る。まず, 親 会 社(A社)の 戦 略 等 に基 づ きあ る機 能 を発 展 途 上 国 の 子 会 社(A'社)に 配 置 す る。 こ の 配 置 に伴 い,企 業 内 で は親 会 社 か ら子 会 社 に対 して,配 置 され た

先進 国 発展 途上 国

社 場 業 B 地 企

国境

A社(親 会 社)⇒A'3±(子 会社)は 所 有 関係 を もとに した機 能配 置 とそ れ に 伴 う経 営 資 源 の 移 転

A'社(子 会 社)1:=二===:'>B社(地 場 企 業)は リ ンケ ー ジ に よ る 経 営 資 源 の 移 転 図1経 営 資 源 移 転

11)M.E.ポ ー タ ー 「グ ロ ー バ ル業 界 に お け る 競 争 そ の 理 論 的 フ1/一 ム ワ ー ク 」M.

E.ポ ー タ ー 編 著(土 岐,中 辻,小 野 寺 訳)『 グ ロ ー バ ル 企 業 の 競 争 戦 略 』 ダ イ ヤ

モ ン ド社,1989年 。

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発展 途 上 国の工 業化 と多 国籍 企業 77 機 能 が 効 率 よ く運 営 され る た め に必 要 な 経 営 資 源 が 順 次,継 続 的 に移 転 され て ゆ く。 一 般 に ヒ ト,モ ノ,カ ネ,情 報 と い わ れ る経 営 資 源 は,よ り具 体 的 に は 人 的 資 源,原 材 料,設 備(物 的 資 源),資 本,さ ら に技 術(生 産,管 理),ノ ウ ハ ウ,ブ ラ ン ド,信 用 な ど の情 報 的 経 営 資 源 を含 む も の とす る12)。 企 業 内 の 移 転 は 市 場 を介 さ な い だ け で な く,親 会 社 の コ ン トロ ー ル が 働 くた め 企 業 間移 転 に比 ベ ス ム ー ズ に行 わ れ る。 な お,次 節 で み る よ うに,時 間 の経 過 と と もに 配 置 さ れ る機 能 が変 化 し,そ れ に伴 い,ま た新 た な経 営 資 源 が 移転 され る 。

さ らに 発 展 途 上 国 内 で,子 会 社(A'社)か ら地 場 企 業(B社)に 前 者 が 持 つ 経 営 資 源 の 一 部 が 企 業 間 で 移 転 され る。 企 業 間 の経 営 資 源 の移 転 は,基 本 的 に は取 引 関 係 が あ る企 業 の 間 に み られ る。 両 者 の 問 に所 有 関 係 は な い た め,経 営 資 源 の 移 転 は市 場 を介 す る もの と介 さ な い もの に分 類 で き る。 こ こで は市 場 を介 さず に,技 術 や ノ ウ ハ ウ な ど多 国 籍 企 業 の 持 つ 経 営 資 源 の 一 部 が 地 場 企 業 に移 転 され る ケ ー ス を想 定 す る。 企 業 間 で 経 営 資 源 の移 転 が 起 こる とい う必 然 性 は な い が,合 理 的 と判 断 さ れ た場 合 に は経 営 資 源 の移 転 が 行 わ れ る。 第3節 で み る よ う に基 本 的 に コス ト ・ベ ネ フ ィ ッ トを勘 案 して 子 会 社 が 長 期 的 な観 点 か ら判 断 す る。

矢 印 で 示 さ れ た 移 転 が 多 くの 企 業 に よ り,継 続 的 に行 わ れ る こ とが 本 論 で い う波 及 で あ る 。 また,一 般 に企 業 内 移 転 と企 業 間 移 転 の 問 に は タイ ム ラ グが あ る。 これ は多 国 籍 企 業 の 親 会 社 か ら現 地 子 会社 へ 移 転 され た経 営 資 源 が 子 会 社 内 で 蓄積 さ れ,定 着 す る まで 一 定 の 時 問 を 要 し,蓄 積 と定 着 が 次 の ス テ ップ で あ る企 業 聞 移 転 の 前 提 に な るか らで あ る。 多 国 籍 企 業 で の 経 営 資 源 の 企 業 内移 転 が 現 地 子 会 社 と地 場 企 業 との 問 の 企 業 間移 転 の 前 提 に な る と い う意 味 で,2 段 階 モ デ ル と呼 ぶ こ とが で き よ う。 また,こ こで は先 進 国 の 多 国籍 企 業 に よ る 発 展 途 上 国 へ の移 転 を取 り上 げ る の で,移 転 は双 方 向 で は な く一 方 向 と考 え る。

経 営 資 源 の うち,技 術 の 移 転 につ い て は多 くの研 究 が な され て い る が,本 論 で は技 術 だ け で な く他 の経 営 資 源 も含 め て考 え る 。

12)伊 丹 敬 之 『 新 ・経 営 戦 略 の 論 理 』 日本 経 済 新 聞 社,1984年,p.50。

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第2節 多 国 籍企 業 に よ る機 能 配 置

多 国 籍 企 業 の発 展 途 上 国 で の 機 能 配 置 は,親 会 社 の戦 略 と受 け入 れ 国 の工 業 化 の段 階 の 相 互 作 用 に よ り決 ま る と考 え られ る 。 以 下 で は まず,多 国 籍 企 業 の 戦 略 を 考 察 し,つ い で受 け 入 れ 国 で あ る発 展 途 上 国 の工 業 化 の段 階 を工 業 化 政 策 も含 め なが ら概 観 す る 。 そ して,最 後 に発 展 途 上 国 に 配 置 さ れ る機 能 につ い て 概 念 図 を用 い な が ら説 明 す る。

2‑1多 国 籍 企 業 の 戦 略

多 国 籍 企 業 の 戦 略 や 子 会 社 の コ ン トロ ー ル に つ い て は 様 々 な 説 明 が な さ れ て き た 。 ま た,研 究 者 に よ り異 な っ た 用 語 が 用 い ら れ,統 一 性 は な い 。 ポ ー タ ー は グ ロ ー バ ル 戦 略 を 機 能 の 配 置 と調 整 と と ら え て い る13)。 こ の ほ か に,バ ー ト レ ッ ト=ゴ シ ャ ー ル は 多 国 籍 企 業 の 戦 略 を マ ル チ ・ナ シ ョ ナ ル,グ ロ ー バ ル, イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル,ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル に 分 け て 説 明 し て い る14)。 こ こ で は 主 に 生 産 に 重 点 を 置 くUNCTADの リ ポ ー トで の 分 類 を も と に し,こ れ に 修 正 を 加 え て 戦 略 の パ タ ー ン化 を 行 う15)。

同 リ ポ ー トで は 多 国 籍 企 業 の 戦 略 の 変 化 を 以 下 の3つ に 分 類 す る 。 す な わ ち 自 立(standalone),単 純 な 子 会 社 の 統 合(simpleaf丘liatesintegration),複

雑 な 国 際 生 産 の 統 合(complexinternationalproductionintegration)で あ る 。 そ し て,そ れ ぞ れ の 例 と し て,マ ル チ ・ ドメ ス テ ィ ッ ク,ア ウ ト ソ ー シ ン グ, 地 域 コ ア セ ン タ ー を あ げ て い る 。 本 論 で は 基 本 的 に 上 記 の 分 類 を 踏 襲 す る が, 呼 び 方 は,マ ル チ ・ ド メ ス テ ィ ッ ク,生 産 統 合(輸 出 基 地),マ ル チ ・リ ジ ョ ナ ル と す る 。 こ れ は 発 展 途 上 国 へ の 進 出 の み を 分 析 す る た め で あ る こ と,そ し

13)M.E.ポ ー タ ー 前 掲 論 文p.33。

14)C.A.バ ー一・・一ト レ ッ ト,S.ゴ シ ャ ー ル(吉 原 英 樹 監 訳)『 地 球 市 場 時 代 の 企 業 戦 略 』 日 本 経 済 新 聞 社,1990年,pp.18‑21。

15)UNCTAD,rVorldInvest〃zentReport1993,UnitedNations,NewYork,1993, p.117.

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発展 途 上 国の工 業化 と多 国籍 企業 79 て,発 展 途 上 国 の工 業 化 の 段 階 との 対 応 関 係 をみ る う えで,必 要 な部 分 を 明確 に す る た め で あ る。 以 下 で は そ れ ぞ れ の戦 略 と子 会 社 の 概 要 を示 す 。

1.マ ル チ ・ドメ ス テ ィ ック戦 略

各 国 に 自立 的 な子 会 社 を配 す る こ と。 関税 の 引 き上 げ な ど の 受 け 入 れ 国 の 政 策 に よ り,輸 出 に よ る市 場 へ の参 入 が 困 難 な場 合 に多 くみ られ る 。 発 展 途 上 国 に 進 出 す る場 合 は,一 般 に 国 内市 場 は大 き く ない た め,子 会 社 の規 模 は小 さ く, ま た,親 会 社 に と っ て も さ ほ ど重 要 な子 会 社 で は な い 。 地 場 企 業 との 合 弁 企 業 の形 態 を とる もの が 多 く,親 会 社 の コ ン トロ ー ル は弱 い 。

2.生 産 統 合 戦 略

親 会 社 の ロ ジス テ ィ ッ クス 戦 略 に基 づ き,海 外 に輸 出基 地 を設 立 す る。 個 々 の子 会 社 は親 会 社 の 強 力 な コ ン トロ ー ル の も と にあ る。 輸 出 向 け の 製 品 を生 産 す る た め,生 産 規 模 は大 きい 。 多 くは100%出 資 の 完 全 子 会 社 の 形 態 を と る。

3.マ ル チ ・リ ジ ョナ ル 戦 略

海 外 で の 生 産 規 模 が 十 分 大 き く,多 くの子 会 社 を持 つ に至 る と3極,ま た は 4極 体 制 の よ う に,世 界 をい くつ か の 地 域 に 分 け,地 域 統 括 本 部 を 設 置 し,域 内 の子 会 社 の コ ン トロ ー ル 機 能 も一 部 持 たせ る よ う に な る。 親 会 社 の 相 対 的 な コ ン トロー ル は低 下 し,地 域 統 括 本 部 が 出 資 す る形 態 の子 会 社 が 増 え る。

な お,多 国籍 企 業 は複 数 の 戦 略 を 同 時 に採 用 す る こ と もあ る。 例 えば,マ ル チ ・ ドメ ス テ ィ ッ ク戦 略 に 基 づ き各 国 に 国 内市 場 へ の供 給 を 目 的 とす る子 会 社 を持 つ と同 時 に,輸 出基 地 を特 定 国 に持 ち,主 要 な市 場 向 け に生 産 を 行 う こ と が あ る 。

2‑2発 展 途 上 国 の 工 業 化

発 展 途 上 国 の経 済 発 展 段 階 は 概 ね,工 業 化 の進 展 度 で こ れ を置 き換 え る こ と が で きる 。 ま た,発 展 途 上 国 の 工 業 化 の プ ロ セ ス は輸 入 代 替 と輸 出指 向 に大 別 さ れ る16)。 さ ら に こ れ らは そ れ ぞ れ 第1次,第2次 に分 類 され る(図2)。 第

16)輸 入 代替 工業 化 お よび輸 出指 向工 業化 を扱 っ た文献 は多 い。 ここで は以下 を あげ

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1次 は軽 工 業 また は労 働 集 約 的産 業 で,第2次 は重 工 業 また は資 本 ・技 術 集 約 的 産 業 で お こる と考 え られ る。た だ し,段 階論 的 に見 た場 合,こ れ らは そ の 時 々 の主 流 と な っ て い る政 策 をあ らわ して お り,実 際 に は い くつ か の工 業 化 の プ ロ セ ス が 同時 進 行 して い る 。 ま た,最 新 の 設 備 を導 入 す る こ と に よ り競 争 優 位 が もて る ビ ンテ ー ジ 効 果 が 強 く働 く産 業 で は 当 初 か ら輸 出 指 向 と な る こ と も あ り,必 ず し も全 て の プ ロセ ス を経 る わ け で は な い 。

発 展 途 上 国 が 当 初,輸 入 代 替 工 業 化 を 目指 す 理 由 は,輸 入 し て い る とい う事 実 が そ こ に市 場 が あ る こ と を示 して お り,既 存 の 市 場 に 国 産 品 を供 給 し よ う と す る た め で あ る 。 そ の た め,先 進 国 か らの 輸 入 を阻 止 す べ く,関 税 等 が 用 い ら れ る 。 い わ ゆ る 幼 稚 産 業 保 護 の 観 点 か ら容 認 され る もの で あ り,一 方 で 外 貨 の 節 約 も期 待 さ れ た 。 国 内生 産 は地 場 企 業 だ け で な く,輸 出 が 困 難 とな っ た 海 外 の企 業 が 進 出 して 行 う場 合 もあ る。

輸 入 代 替 は保 護 に伴 う非 効 率 や 発 展 途 上 国 の要 素 賦 存 に 反 し,資 本 集 約 的 な 生 産 方 法 が 採 用 され る(先 進 国 の技 術 が そ の ま ま持 ち込 ま れ る)こ とや,結 果 と して 資 本 財,中 間 財 の輸 入 が 増 加 し,外 貨 の節 約 に貢 献 しな い な どの デ メ リ

ッ トが 顕 在 化 す る ケ ー スが み られ た 。しか し,製 造 業 を 興 し,経 営 者,技 術 者, 労 働 者 に経 験 を積 ませ る とい う役 割 は 果 た した よ う に思 わ れ る。 お そ ら く第1 次 輸 入 代 替 を ス キ ッ プ して 工 業 化 を進 め る こ とは ほ と ん どの発 展 途 上 国 に とっ

第1次 輸 入 代 替 (軽工 業,労 働集約的産業)

第2次 輸 入 代 替 (重工業,資 本 ・技術集約 的産業) 第1次 輸 出 指 向

(軽工業,労 働 集約的産業)

第2次 輸 出 指 向 (重工業,資 本 ・技術集約 的産業)

時 間 図2発 展 途上 国 にお け る工 業化 プロセ ス

て お く 。 渡 辺 利 夫 前 掲 書 第V章,BrutonHenry,"lmportSubstitution,"Balas‑

saBela,"OutwardOrientation,"と も にCheneryH.andTNSrinivansan,Hand‑

bookofDevelopmentEconomics,Vol.II,ElsevierSciencePublishers,B.V.,1989.

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発展 途 上国 の工 業化 と多 国籍 企業

8ヱ

て 困 難 で あ っ た と思 わ れ る。 第2次 輸 入 代 替 も工 業 基 盤 の 全 般 的 な拡 大 に と っ て 必 要 で あ る 。 ま た,装 置 産 業 の 場 合,ビ ン テ ー ジ効 果 に よ りマ イナ ス面 が 顕 在 化 し に くい場 合 もあ る 。

輸 出 指 向工 業 化 は前 述 の 輸 入 代 替 工 業 化 の マ イ ナ ス 面 を克 服 し,要 素 賦 存 状 況 か らみ て発 展 途 上 国 が 比 較 優 位 を 持 つ 労 働 集 約 的産 業 か ら開始 され る。 これ が 第1次 輸 出 指 向 工 業 化 で あ る。 あ る産 業 で は 輸 入 代 替 を終 了 した 後 に輸 出 指 向へ と移 行 す る 。 こ れ は 繊 維 ・衣 類,雑 貨 な どで み られ た 。 ま た,潜 在 的 な 比 較 優 位 を顕 在 化 す べ く多 国 籍 企 業 が 進 出す る場 合 もあ る 。 こ れ は仮 に発 展 途 上 国 が比 較 優 位 を持 つ 産 業 で あ っ て も,地 場 企 業 が 海 外 市 場 へ の参 入 の ノ ウハ ウ な ど を持 た な い 場 合 は比 較 優 位 は 顕 在 化 さ れ ず,実 際 の 輸 出 に結 び つ か な い た め で あ る。

輸 出 指 向 工 業 化 を 促 進 す る 一 つ の 手 段 と し て 自 由貿 易 地 区 や 輸 出 加 工 区17) な どの 関 税 上 の 飛 び地 を作 り,そ こ に多 国籍 企 業 が 輸 出 基 地 を作 る ケ ー ス が し ば しば 見 られ た 。 発 展 途 上 国 の安 価 な労 働 力 を利 用 した 生 産 が そ こで は行 わ れ て い た 。 自 由貿 易 地 区等 は 関 税 上 の 飛 び地 で あ る と 同 時 に経 済 上 の 飛 び地 に な っ て い る場 合 が 多 い 。 現 地 子 会 社 と地 場 企 業 間 の ギ ャ ップ が 大 きす ぎ る た め, 経 営 資 源 の 移 転 は 企 業 内 に 留 ま り,企 業 間へ と拡 大 す る チ ャ ンス は 少 な い。 そ の た め,関 税 を賦 課 さ れ ず に 自 由 に 輸 出 入 を行 え る とい う特 典 を利 用 し て,ほ

と ん どの 原 材 料,中 間財 が 輸 入 さ れ る の で あ る 。 こ の場 合,ネ ッ トの 外 貨 獲 得 は大 き くな い 。 また,企 業 内 貿 易 が 行 わ れ る場 合 に は トラ ンス フ ァー ・プ ラ イ ス18)が 用 い ら れ る 可 能 性 も高 い 。

第2次 輸 出 指 向 工 業 化 を す べ て 自力 で 行 い う る発 展 途 上 国 は少 な い 。 こ の段 階 で は前 述 の よ う に重 工 業 や 資 本 ・技 術 集 約 的 な 産 業 が 中 心 とな る 。 通 常,こ

17)台 湾,マ レ ー シ ア で は 自 由 貿 易 地 区,韓 国 で は 輸 出 加 工 区,メ キ シ コ で は マ キ ラ ドー ラ と呼 ば れ る 。 と も に 輸 出 入 関 税 が 課 さ れ な い,国 内 の 関 税 上 の 飛 び 地 で あ る。

18)ト ラ ン ス フ ァー ・プ ラ イ ス と は 企 業 内 貿 易 に お い て,企 業 が 恣 意 的 に 決 定 す る 価

格 を い う。

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れ らの産 業 は寡 占化 が 進 ん で お り,発 展 途 上 国 の 地 場 企 業 に と っ て の 参 入 障 壁 は 極 め て 高 い 。 た だ し,半 導 体 の よ うな,い わ ゆ る 技 術 集 約 的 な産 業 で も,そ の 生 産 工 程 の 一 部 は 労 働 集 約 的 な場 合 もあ り,分 離 可 能 な生 産 工 程 だ け が 発 展 途 上 国 に 配 置 さ れ る こ と もあ る。 な お,こ れ は 第 一 次 輸 出指 向 工 業 化 で も起 こ

りう る。

この よ う に発 展 途 上 国 の輸 出 指 向 工 業 化 で は多 国 籍 企 業 の役 割 は大 き くな る 傾 向 に あ る。 そ れ に 呼 応 して,発 展 途 上 国 は後 方 連 関 効 果 を 通 じ た,国 内 産 業 の 発 展 を 目指 す 。 様 々 な方 法 で 現 地 調 達 率 の 上 昇 が 企 図 さ れ,多 国籍 企 業 との リ ン ケ ー ジの 拡 大,深 化 が よ り強 く叫 ば れ る の は 輸 出指 向 工 業 化 の段 階 で あ る 。

2‑3機 能 配 置

こ こ で は ポ ー ター の 価 値 連 鎖 と機 能 の 配 置19)を 援 用 して,こ れ ま で の 多 国 籍 企 業 の 戦 略 と受 け入 れ 国 の 発 展 段 階 を も と に機 能 の 配 置 を考 え る。 図3は 特 定 企 業 の機 能 配 置 を戦 略 と受 け入 れ 国 の発 展 段 階 に 対 応 させ た概 念 図 で あ る。

ま ず,縦 に と られ た機 能 は最 下 部 が 支 援 活 動 と呼 ば れ る もの で,通 常,進 出 し た 国 す べ て に 配 置 さ れ る 。 中 段 部 は生 産 と生 産 に 関 連 す る機 能 で あ る。 標 準 化 さ れ た 製 品 の 生 産 か ら順 次 よ り高 度 な製 品 の 生 産 へ と進 む。 さ ら に生 産 基 地 と して の 地 位 が 高 ま る と生 産 に 関連 す る調 達,設 計,R&Dへ と機 能 が 拡 大 す る 。 最 上 部 はマ ネ ジメ ン トや 広 域 支 援 を含 む。 一 般 に上 位 に 位 置 す る も の ほ ど高 度

な 内 容 を含 み,配 置 さ れ る 国 は 限 られ る 。

横 軸 はそ れ ぞ れ の 国 の 発 展 段 階 を示 して い る。A国 は 最 も発 展 段 階 が低 く, 順 次,右 へ 行 く ほ ど発 展 段 階 は上 が る。 そ してD国 は 親 会 社 の あ る先 進 国 で あ

る 。 また,○ と● は異 な る2時 点(こ こ で は1980年 と2000年 と した)で の 時 間 の経 過 に伴 うそ れ ぞ れ の 機 能 の 配 置 状 況 の 変 化 を あ らわ して い る。 一 般 に 時 間 の経 過 と と もに 配 置 さ れ る機 能 は 高 度 化 す る 。 同一 国 で もそ の 時 点 の工 業 化 の

19)ポ ー タ ー は 機 能 で な く活 動 と い っ て い る 。 価 値 連 鎖 に つ い て もポ ー タ ー 前 掲 論 文

を 参 照 の こ と。

(11)

発展 途上 国 の工業 化 と多 国籍 企業 83 機 能

経 営,広 域 支援 国 際経営 地域 経 営 金融 研修

マ ーケ テ ィ ング ●

● ●

○ ●

● ● ● ● ●

○ ○ ○ ○ ○

生 産,生 産関 連 R&D 検査 ・承 認 設計 調達 生産(高) 生 産(中) 生産(低)

○ ●

● ● ● ●

○ ○ ● ● ● ●

○ ○ ○ ● ● ● ● ●

○ ○ ○ ○ ○ ○

支援活動 ● ● ●

○ ○ ○

次 ピ

流 事 告 物 人 広 ● ● ●

○ ○ ○ ● ● ●

○ ○ ○ ● ○ ●

○ ○ ○

A国 マ ル チ ・ ドメ ステ ィ ック

戦 略

B国

〔 生産統合 戦略 〕

C国 マ ル チ ・ リ ジ ョナ ル

戦 略

D国

発 展途 上 国 く一̲̲̲̲̲̲・

低 発展段 階

○ は1980年 時点 で配 置 された機 能

● は2000年 時点 で配置 された機 能

図3機 能配 置概 念 図

先進国 高発展段階

プ ロ セ ス に よ り多 国 籍 企 業 が 配 置 す る機 能 は異 な り,そ れ に伴 い 移 転 され る経 営 資 源 も異 な っ て くる。

以 下 で は発 展 段 階 と戦 略 を も とに や や 詳 し くそ れ ぞ れ の 国 と子 会 社 の 状 況 を

み る。

(12)

A国 は発 展 段 階 が 最 も低 く,輸 入 代 替 工 業 化 の段 階 に あ る。 輸 入 代 替 工 業 化 に 対 応 して 多 国籍 企 業 が 選 択 す る戦 略 は マ ル チ ・ドメス テ ィ ッ ク で あ る 。 国 内 市 場 は狭 隙 で あ り,現 地 子 会 社 は親 企 業 に と っ て 重 要 な位 置 づ け に は な い 。 発 展 途 上 国側 は 多 国籍 企 業 に よ り国 内企 業 が 駆 逐 され る こ と を危 惧 し,出 資 比 率 の 規 制 を 求 め る こ とが 多 く,設 立 さ れ る 子 会 社 の 形 態 は合 弁 企 業 が 多 い 。 さ ら に,出 資比 率 が50%未 満 の少 数 所 有 とな る こ とが 多 く,多 国 籍 企 業 が 経 営 権 を 掌 握 す る こ と は 困 難 で あ り,現 地 パ ー トナ ー の発 言 権 が 大 きい 。 従 っ て,多 国 籍 企 業 側 は 最 小 限 の 機 能 を 配 置 す る に留 ま る。 い くつ か の 機 能 は現 地 パ ー ト

ナ ー も提 供 し,多 国 籍 企 業 は 主 に生 産 機 能 を受 け 入 れ 国 に 配 置 す る。 製 品 は発 展 途 上 国 の 国 内 市 場 向 けで あ る た め,最 新 の 製 品 が 投 入 さ れ る こ とは 少 な く,

した が っ て使 用 さ れ る 生 産 技 術 も高 い もの で は な い 。 発 展 途 上 国 に マ ル チ ・ ド メ ス テ ィ ッ ク戦 略 に 基 づ き進 出 し た多 国 籍 企 業 側 に と っ て重 要 な機 能 を 配 置 す る イ ンセ ンテ ィ ブ は低 い 。

B国 は輸 出 指 向工 業 化 の段 階 に あ り,こ れ に対 応 す る多 国 籍 企 業 の 戦 略 は生 産 統 合 戦 略 で あ る。多 国 籍 企 業 は 輸 出基 地 を作 り,主 要 市 場 に 製 品 を輸 出 す る。

そ の た め,製 品 の 品 質,価 格 は 国 際 市 場 で 通 用 す る もの で な け れ ば な らず,ま ず,配 置 され る機 能 は 生 産 で あ るが,マ ル チ ・ ドメ ス テ ィ ッ ク戦 略 に く らべ, よ り高 度 な技 術 が 求 め られ る 。 これ らの 子 会 社 で は 親 会 社 が 完 全 所 有 す る出 資 パ ター ンが 大 半 を 占 め る。 こ れ は輸 出基 地 で あ る 子 会 社 を完 全 に コ ン トロー ル す るた め で あ る。 ま た,こ れ らの 子 会 社 は そ の生 産 規 模 が 大 きい とい う特 徴 を 持 つ 。 こ れ は 指 向す る 市 場 の大 き さ に基 づ く。

受 け入 れ 国 の 工 業 化 が 進 み,多 国 籍 企 業 に と っ て 輸 出 基 地 で あ る現 地 子 会 社 の 地 位 が 高 ま る と,さ ら な る機 能 の 配 置 が起 こ り始 め る。生 産 に 関 連 す る 機 能, す な わ ち,調 達,設 計,検 査 ・承 認,R&Dな どの 配 置 で あ る 。 もち ろ ん,そ の 前 提 と して,あ る 程 度 の操 業 期 間 を経 て,経 営 資 源 の 蓄 積 が 進 ん で い る こ と が 必 要 で あ る(図3で は設 計 機 能 ま で が 配 置 さ れ た 状 態 を示 して い る)。

C国 はB国 よ り も さ らに発 展 段 階 が 高 く,賃 金 の 上 昇 や,比 較 優 位 産 業 の 変

化 に よ り,一 部 で脱 工 業 化 傾 向 が み られ る よ う に な る。 ま た,一 方 で,当 該 多

(13)

発 展 途上 国の工 業化 と多 国籍企 業 85 国 籍 企 業 の 多 国籍 化 が 一 層 進 み,多 くの 子 会 社 を持 つ よ う に な る と多 国 籍 企 業 は特 定 地 域 内 に地 域 統 括 本 部 を設 置 し,親 会 社 の 機 能 を 一 部,こ れ ら に配 置 す る こ と とな る。 これ が マ ル チ ・リジ ョナ ル戦 略 で あ る。 これ ら の 国 で は 単 純 な ア セ ンブ リー な どは 行 わ れ な くな り,高 度 な 生 産 関連 機 能 や 広 域 支 援 活 動 な ど, 全 体 と して よ り高 い 機 能 に シ フ トして ゆ く。

D国 は 親 会 社 の本 国 で あ り,経 営,広 域 支 援 活 動 の す べ て の 機 能 と他 国 に移 転 して し ま っ た低 中 位 の製 品 の 生 産 以外 の 機 能 を国 内 に有 して い る 。

第3節 企業間経営資源移転

前 節 で は 多 国籍 企 業 に よる 機 能 配 置 につ い て 考 察 した 。 そ れ は企 業 内 で の 経 営 資 源 の 移 転 に 関 連 す る もの で あ っ た 。 しか し,本 節 で み る現 地 子 会 社 と地 場 企 業 の 問 の 経 営 資 源 移 転 は 必 ず 起 こ る も の で は ない 。 もち ろ ん,受 け 入 れ 国政 府 は様 々 な 政 策 に よ り進 出 した 多 国籍 企 業 か らの 波 及 効 果 と して,こ れ らの移 転 を促 進 しよ う とす る。 しか し,発 展 途 上 国 で は現 地 子 会 社 と地 場 企 業 間 の経 営 資 源 ギ ャ ップ が 大 きい た め,リ ンケ ー ジ の 拡 大 が 進 ま ない ケ ー ス が 多 い。

企 業 間 で 経 営 資 源 の移 転 が 行 わ れ る た め に は 両 者 間 で取 引 が 行 わ れ る必 要 が あ る 。 しか も,そ れ は あ る程 度 長 期 的 な もの で な け れ ば な らな い 。 標 準 化 され た製 品 の 市 場 で の ス ポ ッ ト買 い の よ う な取 引 で は,企 業 間 の経 営 資 源 移 転 は起 こ らな い 。 しか し,現 地 子 会 社 が 地 場 企 業 と取 引 を行 うか 否 か は確 定 的 で は な い。UNCTADの リポ ー トに あ る よ うに20),現 地 子 会 社 は 生 産 に必 要 な 中 間財, 部 品 等 につ い て 輸 入,内 製 化,現 地 調 達 の3つ の オ プ シ ョン を 持 つ 。 輸 入 につ い て は 企 業 内 の 場 合 と独 立 した企 業 か らの もの が あ る 。 内 製 化 は 十 分 な需 要 が あ り,規 模 の 経 済 性 が 働 く場 合 に選 択 さ れ る可 能 性 が 高 い 。 また,特 殊 な技 術 を 必 要 とす る場 合 に も内 製 化 が選 好 さ れ る 。 現 地 調 達 につ い て は 地 場 企 業 か ら

20)UNCTAD,WorldInvestmentReport2001,UnitedNations,NewYork,2001,

p133.

(14)

と他 の 多 国籍 企 業 の子 会 社 か らの2つ の ソ ー ス が あ る 。 この うち,前 者 の 地 場 企 業 か らの調 達 が 企 業 間 経 営 資 源 移 転 を促 す の で あ る 。 他 の 多 国籍 企 業 の子 会 社 は 親 会 社 か ら必 要 な経 営 資 源 が 移 転 さ れ る と考 え られ るか らで あ る。 地 場 企 業 との 取 引 は基 本 的 に は コス ト ・ベ ネ フ ィ ッ トで 決 定 され るが,実 際 に は様 々 な要 因 が 関 係 し,単 純 に は 決 ま らな い 。 ま た,一 般 に は 短 期 で は な く長 期 的 な 視 点 で コス ト ・ベ ネ フ ィ ッ トが と ら え ら れ て い る。

コ ス ト ・ベ ネ フ ィ ッ ト分 析 の 前 に企 業 間経 営 資 源 移 転 に 関 連 す る 諸 要 因 を現 地 子 会 社 サ イ ドか らみ る。 前 出 のUNCTADの リ ポ ー トは い くつ か の要 因 を挙 げ て い る が,そ れ らの ほ とん ど は前 節 の 多 国籍 企 業 の 戦 略 に 基 づ く子 会 社 の ポ ジ シ ョニ ン グ に 関 係 して い る21)。 基 本 的 に は す で にみ た よ う に,マ ル チ ・ ド メ ス テ ィ ッ ク戦 略 に よ り進 出 した 子 会 社 の ほ う が,生 産 統 合 戦 略 に よ り進 出 し た 子 会 社 よ りも地 場 企 業 との リ ンケ ー ジ を拡 大 す る 可 能 性 が 高 い 。 これ は も と も と,指 向 す る市 場 が 国 内 で あ るた め,発 展 途 上 国 の 場 合,高 い 技 術 は 必 要 と され ず,参 入 が 容 易 で あ る こ とに よ る。 合 弁 企 業 が 多 い こ と も地 場 企 業 との ビ ジ ネ ス に対 す る意 識 を 強 め る とい う プ ラ ス の 側 面 を 持 つ 。 操 業 年 数 も現 地 子 会 社 内 の 経 営 資 源 の 蓄 積,定 着 に 関係 す る。 第1次 輸 入 代 替,す な わ ち,工 業 化 の初 期 の 段 階 で 進 出 した 企 業 は よ り強 い リ ンケ ー ジ を 地 場 企 業 と形 成 す る と考 え られ る。 こ れ に 対 し,生 産 統 合 戦 略 に基 づ き進 出 した 子 会 社 に と って,発 展 途 上 国 の 地 場 企 業 との リ ン ケ ー ジ 形 成 の イ ンセ ン テ ィブ は低 い。 しか し,受 け 入 れ 国 の 工 業 化 の 進 展 や工 業 基 盤 の 強 化 に は,よ り高 い 機 能 を 配 置 す る生 産 統 合 戦 略 を と る多 国 籍 企 業 との リ ンケ ー ジ の拡 大 が よ り重 要 で あ ろ う。

次 に,具 体 的 に移 転 さ れ る 経 営 資 源 とそ の 移 転 方 法 か ら コ ス トの 実 態 を UNCTADの リポ ー トを も とに 考 え る。 基 本 的 に は技 術 移 転 が 中 心 とな るが, そ の 他 の 経 営 ノ ウ ハ ウ の移 転 も行 わ れ る 。 さ らに,研 修 に よ り人 的 資 源 の 向上 が は か られ る場 合 もあ る22)。 多 くは 現 地 子 会 社 か ら地 場 企 業 へ の 人 材 派 遣 に

21)UNCTAD,WorldInvestment1〜eport200ヱ,UnitedNations,NewYork,2001,p.136.

22)Ibid,pp.140‑14&

(15)

発展 途上 国 の工業 化 と多 国籍企 業 87 よ るOJT(Onthejobtraining)で 技 術 等 が 移 転 され る。 また,現 地 子 会 社 内 の 施 設 を 活 用 す る ケ ー ス もみ られ る。 い ず れ に して も,こ れ ら に は コス トが 伴 い,そ の ほ と ん どは 現 地 子 会 社 が 負 担 す る。

そ れ で は,現 地 子 会 社 に とっ て 地 場 企 業 と の リ ンケ ー ジ を持 つ こ との ベ ネ フ ィ ッ トは何 で あ ろ うか 。 近 隣iに取 引 先 を持 つ こ とか ら生 じる,フ レ キ シ ブ ル な 調 達,交 渉 の 容 易 さ,情 報 交 換,工 場 チ ェ ッ ク の容 易 さ な どが あ げ られ る 。 た だ し,こ れ らの ベ ネ フ ィ ッ トは他 の 多 国籍 企 業 の子 会 社 が サ プ ラ イヤ ー とな っ た場 合 に もあ て は ま る 。 地 場 企 業 が 賃 金 な どの コ ス トを抑 え る こ と に よ り,価 格 面 で 競 争 力 を持 つ 場 合 に は現 地 子 会 社 に と っ てベ ネ フ ィ ッ トは あ る。 ま た, 地 場 企 業 へ の 経 営 資 源 の 移 転 に よ り彼 らを リ ラ イ ア ブ ル なサ プ ラ イ ヤ ー に変 え

る こ とが で きれ ば,調 達 先 の 多 様 化 に よ る リス ク分 散 の 観 点 か らベ ネ フ ィ ッ ト とな りう る。 経 済 外 的 な ベ ネ フ ィ ッ トに は,企 業 市 民 と して,地 域 社 会 に根 ざ して い る こ とを 印 象 付 け る こ とや,政 府 の地 場 企 業 か らの 調 達 要 請 に応 え,良 好 な 関 係 を維 持 す る こ とな どが あ げ られ よ う。 長 期 的 に み れ ば これ ら経 済 外 的

なベ ネ フ ィ ッ トも無 視 で き ない 。

最 後 に 以 上 の コス ト ・ベ ネ フ ィ ッ トを図4に 示 す 。 図4は 縦 軸 に コス トとベ ネ フ ィ ッ トを と り,横 軸 に は 時 間 を と る 。 縦 軸 か ら伸 び る2本 の 曲 線aa', bb'は 経 営 資 源 移 転 に か か る コス トを あ ら わ し て い る 。 一 般 に原 点 に対 し て 凸 な 形 状 と な る23)。 こ れ は 移 転 す る 側 の 経 験 に よ りコ ス トが 下 が る た め で あ る。aを 起 点 とす る,上 に位 置 す る 曲 線 は経 営 資 源 蓄 積 の 少 な い 地 場 企 業 に対 す る コ ス トを あ らわ し,bを 起 点 とす る,下 の 曲線 は よ り経 営 資 源 の 蓄積 が 進 ん だ 地 場 企 業 に対 す る 移 転 コス トで あ る 。 同 一 企 業 で も何 らか の 形 で経 営 資 源 を 蓄 積 し,aa,か らbb'ヘ シ フ トす る こ と もあ り得 る。地 場 企 業 と の リ ンケ ー ジ を持 つ こ とか ら生 じ る子 会 社 の ベ ネ フ ィ ッ トは 曲 線OCで あ らわ さ れ る。 ベ ネ フ ィ ッ トは 当 初 急 増 す るが 時 間 の 経 過 と と もに マ ー ジ ナ ル な ベ ネ フ ィ ッ トは

23)技 術 移転 費用 の 逓減 につ い て は若杉 隆 平 「 直 接投 資 と技 術 移 転 一 理論 と実証

研 究 の展 望 一 」 直接 投 資研 究 会 『 直 接投 資 と経 済 政 策 一 理 論 の新 展 開 と国際

経 済 問題 一 』 日本 輸 出入銀 行海外 投 資研 究所,1995年 を参 照 の こ と。

(16)

コ ス ト 。 ベ ネ フ ィ ッ ト

a

b

0

t1 t2 時間

図4経 営 資 源 移 転 の コ ス ト ・ベ ネ フ ィ ッ ト

逓 減 す る と考 え られ る 。 曲 線、bb'とocの 交 点d(横 軸 上 のt1)を 過 ぎ る と ベ ネ フ ィ ッ トが コ ス トを上 回 りは じめ,t2で トー タ ル で み た ベ ネ フ ィ ッ ト と コス トが等 し くな る 。 比 較 的 短 期 間 に ベ ネ フ ィ ッ トが コ ス トを上 回 る場 合 に は 現 地 子 会 社 も地 場 企 業 へ の 経 営 資 源 の 移 転 を進 め や す い 。 一 方,曲 線aa'と OCを み る と,長 期 的 に も コス トが ベ ネ フ ィ ッ トを上 回 っ て し ま う。そ の た め, 現 地 子 会 社 か ら地 場 企 業 へ の 経 営 資 源 の 移 転 は 断念 さ れ る で あ ろ う。 この よ う な 状 況 を打 開 す る た め,受 け 入 れ 国政 府 は 様 々 な 政 策 を用 い て,コ ス トカー ブ の 下 方 へ の シ フ トに 努 め る の で あ る24)。

24)UNCTAD,WorldInvestment1〜eport2001,UnitedNations,NewYork,2001, pp.161‑193.

(17)

発展 途上 国の工 業化 と多 国籍企 業 89

第4節 結 語

本 論 で は移 転 工 一 ジ ェ ン トと して の 多 国 籍 企 業 に注 目 し,多 国 籍 企 業 の 発 展 途 上 国へ の 機 能 配 置 と,そ れ に伴 う経 営 資 源 の移 転,さ らに は 現 地 子 会 社 か ら 地 場 企 業 へ の経 営 資 源 の移 転 の 可 能 性 に つ い て 考 察 した 。 これ は筆 者 の これ ま で の マ レー シ ア で の 現 地 調 査 か ら生 ま れ た い くつ か の 疑 問 に 対 す る筆 者 な りの 解 答 を え るた め の枠 組 み を提 示 す る もの で あ る 。しか し,分 析 の 対 象 を と して, 多 国籍 企 業 に よ る 直 接 的 な 波 及 の み を扱 っ て お り,対 象 自体 が か な り限 定 さ れ て い る。 また,企 業 内 で は機 能 の 配 置 に 伴 い,企 業 間 よ り もス ム ー ズ な 経 営 資 源 の 移 転 が 行 わ れ る と仮 定 し,企 業 内経 営 資 源 移 転 に伴 う問 題 点 に言 及 し て は い な い。 所 有 関係 が あ る場 合,よ りス ム ー ズ な移 転 が 可 能 と考 え られ るが,こ れ は あ く まで も企 業 内 と企 業 間 の 対 比 で あ っ て,実 際 に は技 術 移 転 を は じめ と

して,発 展 途 上 国へ の 企 業 内 経 営 資 源 の 移 転 は受 け 入 れ 国 側 の 能 力 の 問 題 を含

め,様 々 な問 題 が あ る。 また,経 営 資 源 の 内容 に つ い て も さ らに掘 り下 げ る必

要 が あ ろ う。 そ の ほ か,多 国籍 企 業 の もた らす,デ モ ンス トレー シ ョ ン効 果 や

外 部 性 を も包 含 した 分 析 枠 組 み の 構 築 も必 要 で あ る。 こ れ らは 今 後 の課 題 と し

た い 。

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