ロシア語 における
2つの統語的 トピックにつ いて
匹 田 剛
0. は じめ に
ロシア語 の語順 はしば しば 「自由であ る」 と言われ る。例 えば,次の よう な文 は以下 に示す ような6通 りの語順が全 て可能 であ る :
(1)
a)mapHSl JIr06HT HBaHa.
Marija‑NOM. loves lvan‑ACC.
b)mapH51HBaHaJlfO6HT.
C)Jlto6HT的apH只HBaHa.
d)nto6打THBaHa舶ap肌
e)HBaHa的apHSTJlrO6HT.
f)HBaHaJlrO6HT的ap肌
「マ リヤがイ ワンを愛 している。」
この 「自由」 は形式的な観点か らのみ 「自由」 なので あって,機能 的 には かな り厳 しい原則 に従 ってい る とい えよう。 すなわち,名詞句 の格変化 の体 系が発達 しているロシア語 で は,英語 な どの言語 とは異 な り,語順 の文法関 係 を示す機能 が それ ほ ど重要 な もので はな くなっている。 そのかわ りに語順 に与 え られた機能 の うち最大 の もの は,談話 内での役割,すなわち 「トピッ ク部」 と 「コメ ン ト部」 を示す ことである。 ロシア語の文 の語順 は一般 に
(2) [トピック部‑ コメ ン ト部]
となる とされているlo ロシア語 の基底部 での語順 はHcatleHKO(1966)等 に示
1.この考 え方の理論的な背景に関 してはMathesius(1939)を参照。また,この観 点か らのロシア語の詳細な記述はAdamec(1966)や KoBTyHOBa(1976)等を参照。
されているようにいわ ゆるSVO語順 で あ る と広.く考 え られてい るが, この 考 え方 に従 うのな らば,我 々 はロシア語 の語順 が [トピ ック部‑ コメ ン ト 部] の原則 に従 うために談話 内で文 の語順 を変化 させ るための装置 を考 えな
けれ ばい けない。 これが本稿 で扱 う1つめの問題 である。
以上 の ような ものが通常 のいわゆ る トピックで あるが, この ような トピッ クの他 にロシア語 には,一般 に左 方転移化(leftdislocated)要素 と呼 ばれ る, 文 の先頭 にあ る トピックが文 の内部 にそれ と同一指示 の代名詞 (pronoun)を 有す るもうー種類 の トピックが ある。
(3) mapHfli‑ 兄 eei JIfO6JIfO.
Marija‑NOM. I‑NOM. her‑ACC. love
「マ リヤを私 は愛 している。」
この場合,文頭 にある トピックは主格 を標示 され,文 中にある代名詞 は文 の内部での文法関係 を示す格‑ ここで は対格‑ が標示 され る。 これが こ
こで扱 う2つめの問題 で ある。
本稿 は これ ら2つのタイプの トピックが それぞれ どの ように説明 され るべ きか を明 らかに して記述す ることを目的 とす る。
また, 2つめのタイプの トピックについて,一般 的 には上述 の ような 「左 方転 移 化 要 素」 とい う名 称 が用 い られ る こ とが多 Oが, こ こで はComrie
(1973)における名称 を用 いて 「強 トピック (strongtopic)」 とい う名称 を用 い る ことにす る。 これ は以下 で明 らか になってい くように, この現象 を移動 として説明す るの は困難 で あ り, それ故 「左 方転移」 とい う移動変形 を思わ せ る名称 を用い るの は好 まし くない と考 え られ るか らで ある。 また, 1つめ のタイプの トピックについて も, ここで は強 トピック と用語的 に対立 させた ほ うが好 ましい との判 断か ら,本稿 においては とくに 「弱 トピック」 とい う 名称 を用 い ることにす る。
以下,第 1節 で は弱 トピックの統語 的特徴 を明 らか に し,第 2節 で は強 ト ピックの統語的特徴 を明 らか に してい く。
1.弱 トピック
本節で はロシア語 の弱 トピックについて, それが移動 なのか基底部 での生 成 なのか,移動である とした らどこへ どの ように移動が行 われてい るのか を 論 じて行 きたい。
1.1.移動か基底部生成か ?
まず第 1に, ロシア語 の弱 トピックが基底部で句構造規則 によって用意 さ れた何 らかの節点での基底部生成 であるのか それ とも移動 による ものなのか
を考察 す る。
もしロシア語 の弱 トピックが基底部 での生成で ある とす るな らば例 えば以 下の ような句構造規則 が考 え られ るであろ う。
(4) Rl:S〝‑ COMPS′
R2:S′‑ TOPS
この ような規則 によって以下の ような構造 が生成 され る。
(5) S′′
メ̲
/
ー‑ 、
\COMP S′
// ー1‑‑‑、
TOP s
例 えば,次の ような例文 は,以下 の ような構造 を有 してい る と考 え られ る。
(6)KHHry HBaH tlHTaeT.
book‑ACC. Ⅰvan‑NOM. reads
(7)
「本 はイ ワンが読 んでい る。」
S′′
一/ 一一一‑ S,
coi"p す /‑≧ ゝ
KH肝y HBaHtmTaeT
英語 に関 して,Chomsky(1977)な どは これに類 す る考 え方 を提案 してい るが,ロシア語 に関 して は どうで あろうか。上 の ような例文 のみを見 る限 り, ロシア語 にお ける弱 トピックは基底部 での生成 である と考 えることも可舵 で
あ るかの ように思 える。 しか しなが ら, ロシア語 には記述的 に上 の よ うな考 え方 を否定 す る根拠が あ る。
KoBTyHOBa(1976)な どで しば しば示 されてい る とお り, ロシア語 には1つ の文 中に複数 の弱 トピックが存在 し得 る。 例 えば,以下 の例 (8b)には2つ の弱 トピ ックが見 られ る2。
(8)
a)HaTallla IlpOAaBaJIa eMy KHHry.
Natasha‑NOM. sold him‑DAT. book‑ACC.
b)KHHryeMyHaTaInarlPORaBaJla.
「本 は彼 にはナタ‑ シャが売 った。」
基底部 生成 の考 え方 に よって この ような複数 の弱 トピックを説 明す るの は困 難 で あ る。 とい うの はロシア語 において弱 トピックの数 には制 限が な く,理 論上無 限 と言 って良 いか らで あ る。 それ らの無 限 の弱 トピ ックにいちいち特 別 の節 点 を用意 してお くの は不可能 といって良いで あろ う。Chomsky(1977)
の ような考 え方が成立 し得 るの は英語 において弱 トピックの数 が 1つ に限 ら れ てい るか らで あ る。
また, この考 え方 に従 えば, ロシア語 において句構造規則 に よって あ らか じめ用意 された特別 な節点 に弱 トピックが移動 してい る とい う考 え方 も同様 に不可能 で ある とい うことにな る。 ロシア語 での弱 トピックは何 らかの節貞 へ の付加 で あ る と考 えな けれ ばな らない。
1.2.付加 の方法
本節 で はロシア語 の弱 トピックを生 み出すた めの移動規則 が どの ような付 加規則 なのか を考察 してい くが, まず第 1に,付加 す る節点が何 で あ るか を
2.ここで (8a)は対応すると考 えられる基本語順の文であるが,ロシア語の基本 語順 において与格のいわゆる間接 目的語 と対格の直接 目的語が どちらが先か とい
うことはそれな りの議論 を経てか ら決定 しなければならない.例 えば,HcatleHI(0
(1966)はどちらも有 り得るとしている。
考 えな くてはいけない。以下 の例 を見 ていただ きたい。
(9)
a)只 cKa3aJI,tlTO [KoJIfI HeHaBHAHT IleTtO]. I said that Kolja‑NOM. hates Petja‑ACC.
「私 はコ‑ リャがペ ‑チ ャを憎 んでいる と言 った。」
b)只cKa3aJI,tlTO[IleTrOiKoJ151HeHaBHAHTei].
この よ うな例 か ら明 らかなように,一般 にロシア語 の従属節 の中の要素が弱 トピック として移動 され る場合, それ はCOMPの後 ろに置かれ,COMPを 越 えることはない (Hikita1992参照)。 これ は とりもなおさず弱 トピックが S′で はな くSに付加 されてい る とい うことを意味 している。
で は, この よ うな節 点Sへ の 付 加 は チ ョム ス キー付 加 (Chomsky‑ad‑
junction)なのか, それ とも姉妹付加 (sister‑adjunction)なので あろうか。
次 の例文(1鋸ま弱 トピックが文頭 に生 じてい る例 で あ るが, ここで仮 に弱 ト ピックがチ ョムスキー付加 によって生成 され ている ものである とす る と対応 す る構造 は㈹ とな り,姉妹付加 による ものである と考 える と(12)にな る。
(10)(‑6)
KHHryi HBaH qHTaeT ei.
book‑ACC. Ⅰvan‑NOM. reads
(川
(12)
I(HHryi NP
I
HBaH
「本 はイワンが読 んでい る。」
S
一
一 /1 ‑ ㌔ s
NLP ヽTT一ヽ‑ 、vp
// ー1‑‑、
V NP
I I
tlHTaeT ei
NP NP
KHllryl
t / 〈 ‑\
HBaH V NP
I i
tlHTaeT ei
これ らの2つの付加 の方法 の どち らが ロシア語 の弱 トピックの分析 として 好 ましい と思われ るのであろうか。以下 この間題 をい くつかの観点か ら論 じ
てい く。
1.2.2.1.束縛理論
ロシア語 の弱 トピックの節点Sへの付加 は束縛理論 (bindingtheory)の 観点か らみた場合, どの ような分析 を必要 とす るのであろうか。
生成文法 の一般理論 の一 つ として提 案 され てい る もの に束縛理論 が あ る が, それ は以下 の ような ものであ る。
(13) 束縛理論
a)照応形 はその統率範境内で束縛 され る。
b)代名詞類 はその統率範境内で 自由で ある。
C)指示表現 は自由である。
これ らが まず ロシア語 の中で どの ように機能 してい るか をみてみ よう。 ま ず第 1に,主節 の中の要素 どうしの関係 をみ る と束縛理論 はロシア語 におい て も正 し く機能 してい る と考 え られ る。
(14)*HBaHi JIrO6HT erOi.
Ⅰvan‑NOM. loves him‑ACC.
「*イ ワンiは彼iを愛 してい る。」
第 2に,埋 め込 み文が関与 してい る場合 は どうであろう。
(15)BHT只i eI山e He rlpOqHTaJI rIHCbMO, KOTOpOe Vitja‑NOM. yet not read‑PAST letter‑ACC which TaH只 rIPHCJIaJla eMy i.
Tanja‑NOM. sent him‑DAT.
「ヴ ィ‑チ ャはタ一二 ヤが彼 に送 った手紙 をまだ読 んでいない。」
(16)*OHi eu、e He IlpOqHTaJI nHCbMO, KOTOpOe he‑NOM. yet not read‑PAST letter‑ACC. which
TaH51 rlpHCJIaJIa B HTei.
Tanja‑NOM. sen t Vitja‑DAT.
「*彼再まタ一二 ヤが ヴ ィ‑チャ iに送 った手紙 をまだ読 んでいないo」
(17)tieJ10BeK, KOTOpbIn rIOJIytlHJI IIHCbMO OT person‑NOM. who received letter‑ACC. from HBaHai, He JlfO6HT erOi.
Ⅰvan‑GEN.3 not loves him‑ACC.
「イ ワンか ら手紙 を受 け取 った その人 は彼 を愛 していない。」
(18)LIeJ10BeK, KOTOPbln IlOJlytlHJl AeHbrH OT person‑NOM. who received money‑ACC. from HerOi He JIfO6日T HBaHai.
him‑GEN. not loves lvan‑ACC.
「彼 か ら金 を受 け取 った その人 はイ ワ ンを愛 していない。」
まず,(15)において代名詞 eMJ,を束縛 してい るBLlmRはeMyの統 率範 噂 の 外 にあ るので これ ら2つの名詞句 が同一指示 で あ るのは まった く問題 ない。
それ に対 して,(16)で は指示表現 Bumeを代 名詞 oFtが束縛 してい るので非文 とな る。 次 に,(17)で は指示表現 Heafla,代名詞 e20もどち らも互 いに束縛 す る関係 にはな く束縛理論 の観点 か らまった く問題 が ない といえるだ ろう。(18) は 「代名 詞 はその先行 詞 の あ とにな けれ ばい けない」 とい う伝統 的 な議論 に 対 す る まさに反例 で あ る. ここで は代名 詞 fie20が指示表現 H8afLaを束縛 し
ていないので適格文 とな るのであ る。
さて,次 に弱 トピ ックが どの よ うな付加規則 に よって文頭 に移動 が な され てい るのか とい う最初 の問題 を考 えるため に,い くつかの例文 をみてみ よ う。
(19)nHCbMO, KOTOPOe TaH月 r7PHCJIaJIa eMyI, 1etter‑ACC. which Tanja‑NOM. sent him‑DAT. B14T月i eve He llPOt7HTaJI.
Vitja‑NOM. yet not read‑PAST
3.ロシア語の前置詞oT「〜か ら」はその支配する名詞句 に生格 (genitive)形 を宴 求する。
「タ一二 ヤが彼 に送 った手紙 をヴ ィ‑チ ャはまだ読 んでない。」
(20)*Eroi tleJlOBeK,KOTOpb泊 IIOJlyqHJl AeHbrH OT him‑ACC. person who received money‑ACC. from HBaHai, He JIfO6MT.
Ⅰvan‑GEN. not loves
「彼 をイ ワンか らお金 を受 け取 ったその人 は愛 していない。」
(21)IIHCbMO, I(OTOPOe TaHSl rlpHCJIaJIa BHTei,
letter‑ACC. which Tanja‑NOM. sent Vitja‑DAT.
OHi eIne He rlpOtlHTaJI. he‑NOM. yet not read‑PAST
「タ一二 ヤがヴ イーチ ャに送 った手紙 を彼 はまだ読 んでいない。」
ここで,(19)と(20)に関 しては付加 の方法が姉妹付加, チ ョムスキー付加 の ど ち らで あって も少 な くとも束縛理論 の観点か らは問題 とな らない。以下 の(19)′
と(20)'(ま姉妹付加 と考 えた場合 の構造,(19)〝と(20)〝はチ ョムスキー付加 と考 えた 場合 の構造 であ る。
(19)′′
S
NP
・7^ JCI■ヽO′ヽ‑MPAJrn sBよ,刀
∠ 二 二:ゝ
= H I eMy
∠ =llIfゝfI
NP
(19)W
co五 二I I I l l主 、 BM'T只 余
eMy
‑/、一一㌧ vp
NP
(20)'
(20)"
S
璽EE=⊇ii⊆:欝
NP VP
匿空室塁lrIfrII
これ らの例 で は どち らの分析 を採用 した として も束縛理論 と矛盾す る結果 はでて こない。すなわち,(19)で は どち らの例 で も代名詞 eM再 まその統率範噂 の中で先行詞 に束縛 されていないので適格 とな るはずであるし, また(20)で は どち らの場合 も指示表現 BumHが 同一指示 の代名 詞 に束縛 されてい るので 非文 との予測がなされ,それ らの予測 はは実際の話者 の判 断 と合致 してい る。
しか しなが ら(21)は どうで あろうか。以下 の伽′は姉妹付加 と考 えた場合 の構 追, と(21)Wはチ ョムスキー付加 と考 えた場合 の構造 である。
(21)' S
NP
ー / \ ・、
NP S ′
NP ∠ごゝ
N P
(21)W
零と室室 璽
II'・ BnTe S
oH ll
√ 〈⊇ 語 了 二 券
この例 で は2つの分析 の うちの どち らを採用 す るか によって違 いが生 じて くる.すなわ ち,姉妹付加 との分析 を採用 した(2分′で は代名詞 oFiが指示表現
Bumeを束縛 してお り非文 である との予測がな され るの に対 して, チ ョムス キー付加 を採 用 してい る伽′′で はその よ うな ことは生 じてな く適格 文 である との予測が な されている. そ して話者 の判 断 によれば(2鋸ま適格文 であ り,束 縛理論 の観点か らみ る とロシア語 の弱 トピックは姉妹付加 で はな くチ ョムス
キー付加 で あると考 えられ るので\ある。
1.2.2.2.機能主義 の観点か ら
ロシア語 には英語 と異 な り1文 中に複数 の弱 トピックが可能 である。 この ような場合,KoBTyHOBa(1976)はそれ らの トピックは 「階層的性質 (cTyneH‑
qaTbIhxapaKTep)」を有 している と論 じてい る。すなわち,(22)の ように複数 の
弱 トピックが生 じてい る場合, それ は最初 の弱 トピックが 2番 目以降の弱 ト ピックを含 めた文 の残 り全 てに対 す る トピック となってお り, 2番 目の弱 ト ピックは3番 目以 降 を含 めた文 の残 り全 てに対 す る トピック となっている と い う議論 である。
(22) [T。PBoJIbue] [T。PMbI] [T。PBaM] He BePHM.
more we‑NOM .you‑DAT. not believe
「これ以上我々 はあなた を信 じない。」
(22)において は第 1の弱 トピック 60,ibLueは文 の残 り全 て,つ ま り^iu 8aM Fie 8ePuM に対 す る トピックで あ り,第 2の弱 トピックJWbLは8aM ue 8ePaMの, 第3の eaM はfle 8eP u^iの トピックであ る と考 え られ る.
この考 え方 は前節 で提 案 した弱 トピックが節点 Sに対 す るチ ョム スキー 付加 であ る との考 え方 をまさに機能主義 の立場 か ら支 えるもの といえよう。
つ ま り前節 での考 え方 に よれ ば複 数 の弱 トピックを持 ってい る場 合 の構 造
一「ヽT′へヽ S
TOPIC /〈1‑一一
TOPIC/ へ \
TOPIC S
とい う構造 になる ことになるが, これ は文 の構成要素間の結 びつ き方 を図式 化 した もので ある樹形 図が機能 的な要素で あ る トピック ・コメ ン トの関係 を 描 き出 してい る ことに もなるのであ る。
1.2.2.3.イ ン トネー シ ョン
本節 で は弱 トピックの位置 についてイ ン トネー シ ョン, とくに上昇音調 と S
い う観 点 か らみて い きた い。
上 昇音 調 は疑 問文 な どに典 型 的 に あ らわ れ るが , それ以 外 に も断定 文 の 中 途 に も しば しばみ られ る4。
(24) qa血 08CKuuT ‑ BeJMKH琉 pycc轡 KOMnO3HTOP・
Tchaikovsky great Russlan COmpOSer
「チ ャイ コフス キー は偉 大 な ロ シア の作 曲家 で あ る。」
(25) qexoe† BenHKH員 pycc攣 nHCaTe此・
Chekhov great Russlan Writer
「チ ェー ホ フ は偉 大 な ロ シア の作 家 で あ る。」 (BpbI3ryHOBa1969) Bpb13ryHOBa(1969,1980)は この よ うな断定 文 中 にあ らわ れ る上 昇 音 調 は
4.ここで上昇音調 と呼ぶ もの にはBpbI3ryHOBa(1969,1980)によれ ば,HK‑3と HK‑4とい う 2つの型 に分 かれ る もので\ある。
HK‑3とはいわ ゆるyes/no疑 問文 に もっ とも典型的 に現 れ るもので あ り,疑問 の焦点 とな る語 のアクセ ン トのある音節で音調 の上昇が起 こる。
a)迦 些 4 T?
Sasha‑NOM. slngS
「サー シャは歌 っているのです か?」
b)du'旦99fr?
「サー シャが歌 っているのです か?」
それ に対 してHK‑4は典型的 には接続詞 αで導かれ る疑 問文 で周い られ る。接続 詞 αはいわ ば話題 の転換 を行 うための接続詞 であるが,疑問文 を導入す るた めに 用い られ る と,「それでは〜 は どうですか?」程度 の意味 となる。
C)五 重 ?
this
「それで はこれは どうですか?」
d)五 重 元面 ?
apple
「それで は リンゴは どうですか?」
ただ し, これ らは以上 の ような環境でのみ用 い られ るわ けで はな く本稿で問題 としてい る通常 の断定文 の中途 で も観察 され る。BpbI3ryHOBa(1969,1980)によ れば, その ような断定文 の中途 でみ られ るHK‑3とHK‑4は命題 的な意味の違 い には何等関与せず, 自由変異 にす ぎない とされてい るo従 って,本稿 は この よう な断定文 の中途 に現れ る もの しか扱わないので, これ ら2つの型 を区別せず同一 の上昇音調 として論 をすすめる。 また上昇音調 は以下当該 の語 の後 ろに 「†」 を 付 す ことによって示す こととす る。
当該 の文 が未完 で あ り, その後 も続 いてい くこ とを示 してい る としてい る。
ここで問題 となるの は この ような,文 が未完 で あ る ことを示 す上昇音調 が文 中の どの ような場所 でみ られ るかで ある。
KoBTyHOBa(1974,1976)は トピ ックを示 すた め に この ような上昇音調 が用 い られ る とい う仮 説 を提示 してい る。
(26) IlpHueJr† MaJIhtlHK.
came boy‑NOM .
「や って きたの はその少年 だ った。」 (KoBTyHOBa1974) ここで文頭 に前置 された npulueAが弱 トピックで あ りそれ を標示 す るた め に上昇音調 が用 い られてい る とい うので あ る。
この考 え方 は一見正 しい よ うに思われ る。例 えば,上 の(24),(25)で上昇音調 が現 れてい る部分 は まちが いな く トピックで あ る と考 え られ る。 しか しなが らロシア語 において上昇音調 は トピック とは考 え られ ない構成 要素 に もしば しばみ られ る。
(27) 「これ は何 ですか?」とい う間 に対 して : yHHBePCaJlbHbI射 Mara3HH.
universal store
「デパ ー トです。」
(28) 「何 を読 んでい るんですか?」とい う間 に対 して : HHTepeeHb泊† xypHaJI.
interesting m agazine
「面 白い雑誌 です。」
ここで上昇音調 に よって示 されてい る構成要素 は トピ ックで あ る とは考 え ら れ ない。 これ らの例文 か らみて上昇音調 は トピ ックを示 してい る とい うよ り 文 の句構造 の切 れ 目を示 してい る と考 える方 が妥 当で あ る と思 われ る0
Bratus(1972)と染谷 (1963)は文 の暖昧 さが イ ン トネー シ ョンの型 の違 い に よって回避 され る ことが あ る と述 べてい る。 例 えば次 の ような例文 には
2つの解釈 とそれ に対 応 す る句構造が考 え られ る。
(29)5Ipa3BJIeKaJlerOCTHXaMHMOerO6paTa. (Bratus1972) これ らの構造 の1つめの もの は以下 の もので あ る。
(2g)'只 pa3BJleKaJI lero]† [cTHXaMH MOerO 6paTa].
I pleased him‑ACC.poems‑INS.my‑GEN.brother‑GEN.
「私 は彼 を私 の兄 の詩で喜 ばせ た。」
(29)"5I pa3BJIeKaJL lero cTttXaMH]I [MOerO 6paTa].
I pleased his poems‑INS. my‑ACC. brother‑ACC.
「私 は彼 の詩 で私 の兄 を喜 ばせた。」
こ こで¢g)'に お い て は上 昇 音 調 はe20に あ らわ れ, そ れ に対 して(2g)′′で は
cmuxa4iuにみ られ る。 この よ うな方法 で文 の曖昧 さを回避 で きるの は上 昇 音調 が文 の句構造 の切 れ 目を示 してい るか らに他 な らない5。他 に も次 の よう
な関係詞構文 の例 が ある。
(30) KHt4ra†, KOTOpyK) OHa tlHTaJIa book which‑ACC. she‑NOM. read‑PAST
「彼女が読 んだ本」
(3D MaJlhtll4K†, KOTOpbln JIFO6HT ee
boy who‑NOM. loves her‑ACC.
「彼女 を愛 してい る少年」
ここで も上昇音 調が観察 され るの は,関係節 の方が はるか に主要部 の名詞句 よ り 「重 い」 に も関わ らず,句構造 の大 きな切 れ 目においてで あ る。 以上 の ように上昇音調 の観察 され る位置 は句構造 の切 れ 目で あ る と考 え られ る。
上昇音調 は句構造 の切 れ 目を示 してい る と考 え られ るわ けだが, それで は 弱 トピックが上述 の KoBTyHOBa(1974,1976)が示 してい るように上昇音調 で
5.ここで上昇音調が通常最初の最大の句構造の切れ目である主語代名詞 fIの後ろ に観察 されないのは代名詞がclitic的な要素で前後の要素 に くっついて しまうか らであると考えられるopa3BJleKaJlの後 ろに観察 されないのも同様の理由によるO 残念なが らこの問題 を深 く扱 うことは紙数の都合上 ここではで きない0
示 され るの はなぜであろう。
前節 まで の議論 で ロ シア語 の弱 トピックは節 点 Sへ のチ ョムスキー付加 によって生成 されてい ると結論 づ けたが, この考 えは本節 での上昇音調が句 構造 の切 れ 目を示 してい る とい う議論 によって も支持 され る。 前節で提示 し
た弱 トピックを有 す る文 の表層での構造 は樹形図で示す と概略以下の ような ものであった。
慧現 S
TO蒜 / \ S
∠二二ゝ(IJJIII
ここで最大 の句構造 の切 れ 目はTOPICとSの間のそれであ る。それ故,ロシ ア語 の弱 トピックが節 点 Sに姉妹付加 で はな くチ ョムス キー付加 され る と 考 えさえすれ ば,弱 トピックが なぜ上昇音調 によって示 され るのか とい う問 題 は解決 され ることになる。 そ して この ことは前節 までの議論 と矛盾 しない ので\ある。 よって, イ ン トネー シ ョンとい う観点か らもロシア語 の弱 トピッ クは節点 Sへのチ ョムスキー付加 に よって生成 されてい ることがわか る。
また,前節 までで ロシア語 の弱 トピックは1文 中に複数の ものが可能 であ り, それ らは階層的 な構造 をな してい る ことを示 した (前節(23)参照)。 このよ
うに複数 の弱 トピックが存在す る場合 のイ ン トネー シ ョンの型 は以下 の よう な ものにな る。 (ただ し「(†)」は 「†」よ り弱 い上昇音調 を示す もの とす る。)
(33) [yexaJMT] [cTyAeHTbI TpeTberOKypCa(†)]Ha nPaKTHKy.
wentaway students‑NOM. thirdgrade‑GEN. to practice
「3年生 の学生達がむか ったのは実習だ。」
(34 [HHKaKHX凸OP.OXHbIXnpOHCLueCTB刷 ][BaHn(†)] He nOMHHT・
anyhappenlngSWhiletraveling Vanja‑NOM.notremembers
「旅行 中のあ らゆる出来事 をワ一二 ヤは憶 えていない.」
これ らの例 か ら明 らか な ように最初 の弱 トピックが2番 目の もの よ りもより 強 い上昇音調で示 されてい る。 これ は上 の例 が以下 の ように階層構造 をな し てお り, それ を反映 して, よ り大 きい切 れ 目には強 い上昇音調 を, よ り小 さ
い切 れ 目にはよ り弱 い上昇音調 を与 えようとす るためであ ろうと思われ る。
(33)'
(34)I
C T y A e H
TblTPeTberOKy p C aS
̲/
〈、
Ha npaKTHKyー
̲ 三 二 = 二 二HHKat(hX AOP二二二 二二O〉KHbI二 二二 二 ========X rIpOHCLlleCTBHfi=一 .・. NP/\
J ∠ 二三ゝ
Ba糊 He rIOMHHT
この ような点か らもロシア語 の弱 トピックの階層性 は支持 されている0
ちなみに, よ り小 さな切 れ 目はよ り弱 い上昇音調 によって示 され る とい う ことは次の ような例 に もあ らわれている。
(35)B rTpOLuJIOM(†) roAy† B KpbIMy 6blJ10 XOJIOAHO. in last year in Crimea was cold
「昨年 ク リミアでは寒かった。」
さ らに列挙 の ような対 等 に構成 要素 が並 んで い る と考 え られ る よ うな場 令, それぞれの切 れ 目を示す上昇音調 は同 じ強 さの ものが観察 され る。
(36) Pa3†, RBa†, TpHT, tJeTblpe†, rl刃Th†, IDeCTb†,.... one two three four five six
(37) neHHH†, CTaJIHH†, rOP6aqeB† H EJIbuHH.′ Lenin Stalin Gorbachev and Yeltsin
2.強 トピック
前節 1.で は弱 トピックが,節点 Sへのチ ョムスキー付加 によって移動 し てい る とい うことを結論 づ けたが,本節 で は強 トピックについて考察 してい
く。 、
2.1.移動 か基底部生成 か ?
まず第‑ に,強 トピックの生成 には弱 トピックの場合 同様 に移動変形が関