(論 文)
簿記教育の実態 と課題 :新米教員の
3年問旗 本 智 之
は じ め に
今,わが国では大学教育 のあ り方 をめ ぐっての議論が活発 になっている。 これ には様々な 要因が背後 にあろうが,例 えば,大学進学率の上昇 (大学の大衆化),大学進学者数の減少傾 向,大学経営 と学費の関係,大学人の質の問題 な どがあげ られ ようと ここではこれ らの要因 を分析することはしないが,大学教育が今 日的 トピックであることは,以下の学会の統一論 題 に 「教育」 とい う文言が入 っていることか らも窺 える。
日本簿記学会第12回関東部会 統一論題「工業会計 システムに関す る諸問題一情報化時 代 における会計学教育」1996年6月1日
日本会計研究学会第55回大会 統一論題 「会計学 の研究 ・教育 のあ り方」1996年9月 12〜15日
日本原価計算研究学会第22回大会 統一論題「日本的 コス ト マネジメン トの教育」1996 年9月27‑28日
筆者 は過去3年間簿記科 目とゼ ミナール を担当 してきたが,常 日頃簿記教育 とはどうある べ きかを意識 して,授業 を行 ってきた。教員歴3年 目の まだ まだ 「ひよっこ」である教員が, 教育 を論 じる資格 はないのか もしれないが, 自身の教育内容 を公 にして批判 にさらす ことも 教育者の義務であると思っている。
さて,大学 における簿記教育 を論 じる際 には,各大学のカ リキュラムにおけるその位置づ けをはっきりとさせ る必要がある。筆者が所属す る商学部 の学生 は1年次 に簿記原理 Ⅰをほ ぼ履修 している。 これ はいわゆる必修科 目ではないが,卒業要件 との関連で実質的に必修 に 近 い科 目となっているためである。 そして,簿記原理 Ⅰの単位修得者が簿記原理 ⅠⅠを履修で きることになっている。簿記原理 Ⅰの学習内容 は, 日商簿記検定試験3級程度であ り,簿記 原理 ⅠⅠは同2級の商業簿記程度である。簿記科 目はこの2つであるが, 2つの簿記科 目を設
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定 している大学 は非常に多 く…その意味では本学 は平均的な大学 といえよう。
簿記原理 Ⅰは週2回の講義 (4単位)で1年次の夏学期 に行われ,簿記原理 ⅠⅠは同 じく過 2回の講義 (4単位)で1年次の冬学期 に行われる。簿記原理 Ⅰの再履修者用 として1年次 の冬学期で, さらに再履修者用 として2年次の通年でクラスが用意 されている。簿記原理ⅠⅠ には,再履修者用 として2年次の通年でクラスが用意 されている。 したがって, 1年次の簿 記原理 Ⅰの夏学期のクラスおよび簿記原理 ⅠⅠの冬学期のクラスには一切再履修者がお らず, すべて1年生の学生が対象 となっている。 また, 1年次夏学期の簿記原理 Ⅰでは,複数のク ラスが設 けられてお り雪筆者 はそのうちの1クラスを担当した.
また,筆者 は原価計算 ・管理会計 をテーマ とするゼ ミナール も担当 してお り,そこでは簿 記原理 Ⅰ・ⅠⅠを受講 した学生が指導の対象である。そのような関係で,工業簿記 も指導 して いることになるので,本論文では,工業簿記 まで も含めて簿記教育 について自らをレビュー することにする。
1 簿記原理 Ⅰの教育
この講義 は,前述 したように, 日商簿記検定3級程度の内容 を理解 して もらうことを目的 としている。教材 としては,教科書 (藤永 弘 ・石崎忠司 ・佐藤啓治編著 『基礎企業簿記』
中央経済社,昭和59年) と市販のワークブック (井上達雄 ・新井清光編著 『検定簿記 ワーク ブック 3級 商業簿記』中央経済社,昭和60年)および補助プ リン トを利用 している。講 義の具体的内容および方法 はクラス担当の各教員に任 されているが,96年度か ら定期試験 を 共通問題 とすることで,実質的に講義内容が共通化 されるよう配慮 した4.
筆者 は,担当初年度 (94年度)に簿記原理 Ⅰに引 き続 き簿記原理 ⅠⅠを担当 した。その際, 学生が8桁精算表 をよく理解 していない ことを痛感 した。そしてこれは,簿記原理 Ⅰを教科 書の順番通 りに講義する結果亨 8桁精算表の学習が手薄 となるか らだ と考 えた.そこで, 2 年度 目(95年度)か らは,できるだけ早い時期 に8桁精算表 を学習できるよう,講義の順番 を変更 した。
6桁ではな く8桁精算表 を学習するためには,決算整理事項 をあらか じめ学習 してお く必 要がある。簿記原理 Ⅰで扱 う決算整理事項の主なものは,(1)三分法 における仕入勘定の整理,
(2)貸倒引当金の設定,(3)減価償却費の計上,(4)経過勘定な どである。 しか し, これ らの決算 整理事項 をすべて学習すると,時間がかか り,「早い段階で8桁精算表 を学習することがで き な くなってしまう。そこで,講義の前半では,商品売買については,三分法ではな く売上原 価対立法 を講義することで,決算整理事項の(1)を回避 し,(3)と(4)だけに専念することにした。
(2)について も後回しとした。
また,精算表 を理解 して もらうためには,勘定 と財務諸表の関係 を埋解 させておかなけれ
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ばな らない。 そこで,Horngrenらが言 うところの取引分析 (analysisoftransactions)を まず学習 し,財務諸表 と各項 目との関係 を示す ことにした。Horngrenらが言 うところの取引 分析 とは,次のような図表で示 され る。
図表1 取引分析表
取引内容 資産 負債 +株主持分
現 金 +受取勘定 十商品 十設備 ‑ 支払手形十支払勘定 +資本金 (1)元入 +400,000
(2)銀行借入 +100,000 ‑ 十100,000 (3)商品の現金仕入 ‑150,000 +150,000
(4)商品の掛仕入 +10,000 +10,000 (5)設備の購入 ‑4,000 +15,000 ‑ +ll,000 (6)設備の売却
(7)商品の戻し +1,000 ‑800 ‑1,000 ‑ ‑800
(8)掛の支払 ‑4,000 ‑4,000
(9)掛の回収 十700 ‑700
+400,000
残高 342,700 300 159,200 14,000 ‑ 100,000 16,200 400,000 出所 :Horngreneta1.,1993,p.12,図表1‑ 1。ただし,取引内容は簡略化してある。
Horngrenらは彼 らの教科書 (Horngreneta1.,1993)の第1章 において, このような図 表 を掲 げて取引 ごとに説明 を加 え,貸借対照表 を作成 している。続 く第2章で上 の図表 を拡 張 している。すなわち,上の図表の株主持分の欄 を拠出資本 (paid‑incapital) と留保利益 (retainedincome)に分 け,費用 は留保利益のマイナス項 目として記入 し,収益 はプラス項 目として記入 している。そうして拡張 した図表 を用いて,収益 ・費用概念 と損益計算書 を説 明 している。 そこで扱 っている費用項 目には減価償却費 も含 まれ,経過勘定 も説明 されてい る。ちなみに,この第2章ではキャッシュ・フロー計算書 も説明 され,会計利益 とキャッシュ・
フローの関係 を議論 している。 さらに第3章 に入 って,勘定 と仕訳 を説明 し,簿記一巡の説 明 を完成 させている。
図表1のような図表 は, (名称 は ともか く)そう珍 しい ものではない。本学で用いている教 科書 にも「第2章 簿記の原理 と機構,第6節 損益計算書 と貸借対照表の関係」の中で 「資 産 ・負債 ・資本 の増減変動」 と称す る同様 の図表が用い られている (藤永 ら,1984,27頁)喜
ただ し,Horngrenらの もの とは違 い,取引 ごとに細か く説明 されてはいない三
また,藤永 ら(1984)では,商品売買の記入方法 として分記法 を用いているが,Horngren らは売上原価対立法 を用いている。総記法や三分法では,決算整理 を行わなければ,売上高
(収益)・売上原価 (費用)・期末商品 (資産)のいずれ も金額が確定 しないため,図表1の ような 「取引分析表」 を作成することが難 し くなる。 これに対 し,分記法では,決算整理 を
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行わずにす ます ことがで きるので,表の作成が容易 になる。 しか し,分記法では,商品売買 益勘定 において,収益マイナス費用である差額 としての利益の金額が算定 され るのであって, 収益 と費用が個別 に把握 され るわ けではない。 したがって,取引の8要素の関連 の説明 と厳 密 には結びつかな くなる。
その点 において,売上原価対立法 は非常 にすっきりしている。つ まり,商品 を販売 した と きの,
(借) 売掛金 ××× (貸) 売上 ×××
(借) 売上原価 ××× (質)商品 ×××
という2つの仕訳 の うち,最初の仕訳 は,資産 の増加 と収益の実現 を示 してお り, 2つめの 仕訳 は,費用の発生 と資産の減少 を示 している。 しか もこれ らの仕訳 は,商品の販売時 に行
うものであ り,期中取引であるか ら, その決算整理 は不要 となる。
このような特徴 を持つ売上原価対立法 を,筆者 は,簿記原理 Ⅰの講義 において簿記の基本 原理 を理解 して もらうために,あえて採用 した。 もちろんその後,講義 の後半で は三分法 を 説明 した。具体的には,次の ような取引分析表 を作成 し,貸借対照表 と損益計算書 を作成す
る講義 を通 じて,簿記 の基本原理 を修得 して もらうことにした。
5月1日 旗本 は読本商店 を設立す るにあた り,現金¥3,000,000を元入れするとともに銀 行か ら¥2,000,000を借入れた。
5月2日 商品¥1,000,000,備品¥500,000,土地¥2,000,000,建物¥1,000,000を現金 で購入 した。
5月4日 仕入原価¥500,000の商品を¥1,000,000で売上 げ,代金 は現金で受取 った。
図表2 筆者が用いた取引分析表 (単位 :千 円)
月 日 資 p 産 負 債 資 本
現 金 商 品 備 品 土 地 建 物 借入金 資本金 利 益
5 241商店設立商品等の購入商品の売上 ‑4,5,1,050000000 1,‑500000 500 2,000 1,000 2,000 3,000 1‑5,00000
実際の講義では, この表 を減価償却 と経過勘定 まで含める形 まで拡張 し,その後,仕訳 と 勘定 を説明 していった。減価償却 においては,売上原価対立法 と比較す る形で,資産 の減少
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と費用の発生の説明 を重視 した三上の図表か らも分かるように,取引はすべて現金取引に限っ て説明 し, 8桁精算表 を講義す る形 を取 った。 この結果,講義の進行状況か らして,ほぼ半 分 ぐらいの ところで8桁精算表 まで学習す ることがで きた。学生 は精算表 を作成す る上で, 貸借対照表の利益 と損益計算書の利益が一致す ることをもって, 自分の計算が正 しかった こ
とを確認で きるようになる。
それ以降の後半の講義で は,取引形態 を現金取引か ら掛 ・小切手 ・手形取引へ と順次拡張 し,売上原価対立法か ら三分法へ と商品売買の仕訳 も移行 していった。 その際,講義では必 ず,新 しい取引をそれ まで学習 した取引 に加 え,決算整理 まで行 う総合問題 を用意 し,単 に 仕訳 を講義するだけではな く, その結果財務諸表が どうなるのかを理解 して もらうことに努 めた。当然の ことなが ら, この ような講義の順序 に即 した問題集がないため,すべて筆者 自 作のプ リン トで講義 は行 うこととした。
こういった講義 を行 った結果 として, 8桁精算表 を理解 して もらうとい う目標 は達成で き た。反面,教員の準備時間の問題 は別 にして も,い くつかの問題が生 じた。 まず,当然予想 された ことではあるが,教科書 と講義内容が一致 していない ことに対 して,学生が不安 を抱 いた。補助 プ リン トと問題 を配布 したが, もっ と練習問題 を解 きたい と言 う学生 もいた。 さ らに深刻であったのは,学生の教科書離れの問題 である。当然の ことなが ら,一応講義では 教科書の対応箇所 を口頭で示 して,教科書 を自宅で よ く読 むように と指導 したが, あまり効 果 はあが らなかった ようである。特 に,活字離れが生 じている学生 には, もっと教科書 を読 む ことの大切 さを理解 させ る必要があるのだが,講義時間中にほ とん ど教科書 を利用 しない ため, そのような学生 に教科書 を読 む ことを強制す ることは難 しかった。
さらに,本学では,高校で簿記 をすでに学習 している学生 も,大学ではじめて簿記 を学習 す る学生 と一緒 に簿記原理の講義 を受 けることになっている90初 めて簿記 を学習す る学生 に とってはさほ ど抵抗がなかった ようだが,簿記経験者 に とって,売上原価対立法の学習 は相 当堪 えた ようである。 これは,高校時代 に三分法で学習 してきた者 には,商品売買 といえば 条件反射的に三分法で処理す るもの と決めてかかる傾 向が強い, とい う点 に大 きな原因があ
り,柔軟 な思考力が損 なわれているという問題点 を示唆 している。
2 簿記原理 ⅠⅠの教育
この講義 は,前述 した とお り,簿記原理 Ⅰの単位 を修得 した学生が履修す ることになって いる。 したがって,簿記の基礎 はで きているはずであるが,現実 はなかなかそうなってはい ない。95年度 において,講義 の最初の方で,簿記原理 Ⅰの復習 もかねた小テス トを実施 した。
次のような問題である。
‑ 5 一
以下の資料 に基づ き,期中取引の仕訳および決算整理 を示 し,貸借対照表 と損益計算書 を 作成 しなさい。商品売買については三分法で処理 し,減価償却費 については間接法で処理す
ること。なお,単位 は省略 している。
[資料 1]
期首貸借対照表
[資料2]
(1)商品を200仕入れ,代金のうち100は掛で,残 りは約束手形 を振出 して支払 った。
(2)商品を400売上 げ,代金のうち250は掛で,残 りは約束手形で受取 った。
(3)掛で仕入れた商品のうち,5を返品 した。
(4) 掛で売上 げた商品につき,10の値引 きを行 った。
(5)前期発生の売掛金のうち,10が回収不能 となった。
(6)備品100を購入 し,代金 は月末払い とした。
(7) 保険料20,手形代金15,買掛金50を,小切手 を振出 し支払った。
(8)売掛金100,手形代金50を当座預金で回収 した。
(9)原因不明の入金が当座預金 に10あった。
nO) (9)は売掛金の入金であることが判明 した.
al)(6)の代金 を,小切手 を振出 し支払った.
( 1 2
) 買掛金20の決済のため,約束手形 を振出して支払った.(13)売掛金50を約束手形で回収 した。
u4) 旅費の概算額 として,小切手 を振出し4交付 した。
n 5 )(
14)の精算の結果, 1の返金 を受 けた。(16)商品売却の手付金 として,50を小切手で受 け取 った.
㈹ 商品仕入の手付金 として,40を小切手 を振出 し支払 った。
(18) 商品を100仕入れ,代金 はa7)の手付金 を充て,残額 は掛 とした。
(19)商品を200売上げ,代金 は(16)の手付金 を充て,残額 は掛 とした。
¢0) 有価証券 を120購入 し,代金 は小切手 を振出 して支払ったo
(21)A社 に50貸付 け,小切手で渡 した.
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( 2 2
)給料 27 (源泉税 3差引後) を小切手 を振出 して支払 った。(23)(20)の有価証券の うち半分 を100で売却 し,代金 は翌月受取 とした。
[資料3]
(1) 期末棚卸高100
(2)貸倒引当金 は洗替法で期末売上債権 に対 し10%設定する。
(3)給料 に10,受取利息 に3の見越がある。
(4) 保険料 に 4の繰越がある。
(5)現金 を実査 した ところ,帳簿残高 よ り2少なかったが,原因不明であ り雑損 とす る。
(6)減価償却 は年10%の定率法で行 ない,期 中取得分 については期首 に取得 した もの とみな す。
(7)税引前当期純利益の50%を法人税等 として計上す る。
採点結果 は次の とお りであった。
80点以上
60点以上80点未満 40点以上60点未満 20点以上40点未満 20点未満
合計 平均点
%%%%%095152312
グラフを作 るまで もな く, 2極分化 を起 こしていることが分か る。つ まり,平均点の前後 に2つの山がある分布 となっている。94年度お よび96年度 は,テス トを実施 しなかったが, 実施 していた として も結果が大 きく異なることはなかったであろう。 このような結果か ら, 一概 に,基礎学力が不足 している学生が少な くない と判断す るのは難 しい ところであるが,
さ りとて十分 に基礎学力が身 に付 いているとも言 えない と思われ る。
さて, このような学生 を対象 に,簿記原理 ⅠⅠでは,(1)特殊商品売買,(2)株式会社会計,(3)
本支店会計,(4)帳簿組織,(5)連結会計 を講義することになっているが,実際 にはこれ らすべ ての範囲をカバーするのは容易ではない。おそ らく教 え方の技術 も影響す るのであろうが, 演習 も行 うとすれば,講義 回数が不足 して しまう。実際,94年度 は上述の(1)か ら(4)まで講義 し,95年度 は(1),(2)お よび(4)を講義 した。94年度 は,筆者が教員歴1年 目であったので,学 生の反応が分か らないまま闇雲 に講義 した感があった。95年度 は,学生の反応がある程度つ
‑ 7 ‑
かめるようになったので,本支店会計 は無理 と判断 し,他の分野 に多 く時間を掛 けた。連結 会計 は,わが国では,簿記の講義 よりは財務会計の講義で扱 うことが多 く;o特 に証券取引法 のもとでの会計制度 を学習 し終わってか らでない と,いたず らに学生 を悩 ませ ることになる ので,簿記原理 ⅠⅠの講義か らは除外 した。95年度 において,本支店会計 と帳簿組織のいずれ かを選択する際に,筆者 は帳簿組織 を講義することとした。それは,簿記原理 ⅠⅠを学習 した 学生が2年次に学習する原価計算において,帳簿組織の知識があることが望 ましく (後述),
また会計情報 システムを論 じる際にも帳簿組織の知識が必須であると判断 したか らである。
講義 は,具体的には,教科書 に沿って自作のプ リン トを配布 して行 った。94年度の教科書 は新井清光著 『最新簿記論 (改訂版)』中央経済社であ り,95年度以降は藤永弘・坂下紀彦編 著 『精説企業簿記』中央経済社である。94年度および95年度 を通 して,帳簿組織の講義 に苦 慮 した。帳簿 を板書するだけで,講義時間のほとん どを費や してしまうため,で きるだけ教 科書 に沿ったプ リン トを自作 し,学生 に講義中に記帳 して もらう形で講義 した。教科書の中 で個別的に扱っている各種特殊仕訳帳のなかか らい くつかを組み合わせて全体的な帳簿租織 を作 り上 げ,問題 を作成するのに時間が結構かかった。 ときには講義中に学生か ら指摘 され て特殊仕訳帳で1行足 りないことが判明することもあった。
96年度 は,工業簿記の基礎,本支店会計,帳簿組織 を取 り扱った。あえて,特殊商品売買 と株式会社会計 を範囲か らはず した。特殊商品売買および株式会社会計 については,簿記で はな く会計学総論などの会計学の科 目で講義することが適切であろうと考 えたか らである。
もちろん, これ らの内容 を取 り扱わなかった旨を会計学総論の担当者 に連絡 した。特殊商品 売買については94・95年度 に講義 したが,定期試験 に出題 した ところ,結果 は芳 しくなかっ た。簿記の講義では収益の認識基準 について触れるが,割賦販売基準などを十分 に理解する ことができず,割賦販売の会計処理 は身に付かなかったようであると1また,株式会社会計 は, 株式会社の特徴 (歴史的経過 もふ まえた上で) を学習 した後,会計処理上問題 となる社債お
よび資本会計 を講義することになるため,非常 に時間がかかる。 これ らの理由か ら,学習範 囲を上のように整理 したが,定期試験の出来 は非常 に良かった。
3 ゼ ミナールの教育
本学商学部では, 2年次の後半か ら基礎演習 としてゼ ミナールを開講 し,原則 として 4年 次の卒論演習 まで継続 して教育することになっている。筆者 は,今年度で3年 目であるか ら, 今年度 はじめて 4年次対象の卒論演習を担当 した。ゼ ミナールの意義 は様々であるが, ここ では学習面 についてのみ取 り扱 うことにする。
筆者のゼ ミナールでは, 2年次の基礎演習か ら岡本清著 『原価計算 (五訂版)』国元書房, 平成6年 を読んでい くことにしている。全部 をゼ ミナールで扱 うには3年次 までかかる非常
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に大部 の文献 であるが,一 つずつ概念 を確認 し,計算問題 を着実 に解 くとい うプロセスを身 につ けて もらうため, あえてチ ャレンジさせている。ゼ ミナールの進 め方 は,全員 にレジュ メを用意 させ, その中か ら適 当に選 んで報告 して もらい,学生 同士で質疑応答す る とい う形 式 を とっていると2指導教官 は, レジュメの作 り方 をチェック し,議論展開が うま くいってい るか どうか を評価 している。
この ようなゼ ミナールの運営 において,気付 いた点 は,製品原価 は計算で きるが,仕訳が で きない とい う点である。 その理 由 として,一般 に勘定連絡 図の理解が不十分 であることが あげ られ る。勘定連絡図の理解 を困難 にさせ る原因 は,学生が勘定 か ら勘定への振替が苦手 であることが考 え られ ると3また,特 に高校時代商業簿記 を熱心 に学習 した きた学生 は三分法 に慣れす ぎているのか,売上 げた製品の原価 を製品勘定 か ら売上原価勘定 に振替 え, さ らに 損益勘定 に振 り替 え,売上勘定か ら振替 え られた売上高 との差額 で売上総利益 を算定 す る と い う,商品売買 にお ける売上原価対立法 に相 当す る仕訳方法が理解 で きない ようである。 さ らに,帳簿組織 の理解が不十分であるため,原価計算 では頻繁 に登場 す る,総勘定元帳 と補 助元帳 との関係,合計仕訳 と合計転記 な どが分か ってないようである。 これ らのいわ ば工業 簿記での学習課題 が,本学 のカ リキュラムで は科 目 として設定 されていないため,14もしくは 原価計算 の講義で十分 に触れ ることがで きないため,製品原価 は計算で きるが仕訳がで きな
くなるようである。
むすびにかえて
筆者 も関わ らせていただいた 日本簿記学会簿記教育研究部会 は,今後 の簿記教育 の課題 に ついて,次の ように整理 している (日本簿記学会簿記教育研究部会,1996,70‑71頁)ので, 項 目だ けを紹介 してお く。
(1) 学部 ・学科 の教育 目標 と簿記教育 目標 との整合性 の確保
(2)簿記 に対 す る知的関心 を高 めるための教育 内容 お よび教授法の徹底 した研究 (3)簿記教育 の仕上が り基準 の明確化 と教材 の研究
(4)簿記教育 に対 す る支援体制 の確立
(5)簿記 を広 く,深 く理解 し,簿記 を通 じて組織 の経済活動 を考 え,想像 す る力量 の養成 (6)簿記教育 を 「覚 える簿記教育 か ら,考 えそ して想像す る簿記教育へ」の重点移行
この中で筆者が特 に興味 を持 つ点 は,(3)についてであると5前述 の ように,筆者 は簿記原理
Ⅰの講義 において,Horngrellらの教科書 を参考 に して講義 を行 ったが,そこで痛感 したのは, 優 れた教科書 を開発す ることの必要性 であった。前 出のア ンケー ト調査 による と,簿記科 目
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の大半 は1年生 を対象 としてお り;6大学での簿記の教科書は1年生を対象 とする必要がある。
ところが,高校 を卒業 したばか りの1年生 にとって,現在の大学 レベルの教科書 を読みこ なす ことは難 しいようである。た とえば1年生の冬学期の簿記原理 ⅠⅠの講義 において,
割賦販売 とは,割賦販売契約 にもとづいて商品の引渡 しを行い,その代金の回収 を月賦 ・ 年賦などの一定期間に分割 して行 う販売形態である。割賦販売においては,通常の商品売 買 と同 じく,商品を引渡 した時点 をもって売上収益 を計上する販売基準が原則であるが, 回収基準や回収期 日到来基準 を採用することも認められている。それは,割賦販売の場合 には代金回収の期間が長期 にわた り,代金回収上の危険率が高 く,代金回収費などのアフ ターコス トがかかるので,販売基準 に代 えて,割賦金 を回収 した時点に売上収益 を計上す る回収基準 と,割賦金 を回収 したか どうかにかかわ りな く,割賦金の回収期 日が到来 した 時点をもって売上収益 を計上する回収期 日到来基準の適用が認められている。(藤永 ら,1994, 74‑75頁)
という教科書の記述か ら,回収基準および回収期 日到来基準の根拠 を抜 き書 きしなさい と指 示 した ところ,「根拠」という文言が教科書 にないせいか,「根拠」の意味が分か らなoのか, 抜 き書 きできない学生が少なか らずいた。た しかに,彼 らにとって上 に掲げた文章 には抽象 的な表現が多 く, 自ら論理 を整理することができなかったか もしれない。 これをもって, 1 年生 とはいえ,大学生の 「日本語」の読み書 き能力 としては不十分であると批判することは 易すいが,教育者 としてはむ しろ,解決方法 を探 ることこそ責務であろう。
一つの解決方法 として,ケースないしはス トー リーを入れた教科書 を開発 しても良いので はなかろうか。分野 は違 うが,奥島 (1994)は非常 にユニークな会社法の入門書である。同 書の趣 旨は,「判例の背景 をなす時代 とか世相 とかを映す,社会的話題 を呼んだ 『事件』を正 面か ら取 り上 げ,その事件 に内在ないし伏在する会社法上の基本的原理 をできるだけ平易に 解説する」 (奥島,1994,1‑2頁) ことである。いわゆるケース ・メソッドである。米国に おける管理会計の分野ではお馴染みの ものであるが;7わが国では教科書 としての出版数 は少 ない。 もちろん,簿記の教科書 においてケース ・メソッドを取 り入れるには,少なか らず工 夫が必要であろう。おそらく簿記の教科書では,企業の設立か ら,だんだん と複雑 になって い く活動 を記録 し,企業の成果 を測定するために決算 を行 うといった リアルな企業活動の読 れに応 じたケースないしはス トー リーを開発する必要があろう。 このような方法 を,会計学 の教科書ではあるが,簿記の説明 として取 り入れているものに,伊藤 (1994)があると8
このようなケースを取 り入れる教科書では,概念 または用語の段階的導入が必要である。
この点は,次のような記述か ら窺 えるように,学習者が教科書 を読み進んでい くためには非
札幌学院商経論集 第13巻第4号 (通巻 77号)
常 に重要 な ことであると思われ る。
独力で この間題 をや りな さい。特 に,会計 の専門家や上級 の学生 に助 けを求 めてはな ら ない。彼 らは,おそ ら く,今 まで扱 って きた用語以外 に,現段階で は混乱 を招 くだ けでは な く明確 で はない新 しい用語 を便 うだ ろう。 (Horngreneta1.,1993,pp.54‑55.)
(注)
1 これ らの要因 を分析 し,問題提起 と何 らかの解決方法 を示唆す る文献が非常 に多 く出版 されている。最 近 の ものでは大磯正美著 『「大学」 は, ご臨終。』徳間書店,平成8年なるいささか衝撃的なタイ トルの も の まで店頭 に並んでいる。
2 日本簿記学会 簿記教育研究部会 「大学 ・短期大学 における簿記教育 内容 と教授法 の研究」最終報告書 (1996)によると,商学部系列 の平均簿記科 目設定数 は2.27である(56頁)。同報告書 は,平成7年 に実 施 した郵送 ア ンケー ト調査 に もとづいているが,大学の回収率 は46%である (3頁)0
3 96年度 は4クラス開講 され,97年度 は3クラスの予定である。
4 複数 クラスを設 けている場合,担当教員 によって講義内容が異 なることに対 す る懸念 もある (日本簿記 学会 簿記教育研究部会,1996,15頁)0
5 本講義での教科書の 目次 は次の とお りである。
第1章 簿記 の意義,第2章 簿記 の原理 と機構,第3章 仕訳帳 と総勘定元帳,第4章 試算表 と 精算表,第5章 決算 と決算手続 (その1),第6章 勘定科 目総説,第7葦 現金 ・預金 の勘定処理, 第8章 商品売買の勘定処理,第9章 売掛金 と買掛金の勘定処理,第10章 手形 の勘定処理,第 11章 その他 の債権 ・債務 の勘定処理,第12章 有価証券 の勘定処理,第13章 固定資産 の勘定処理,第14 章 収益 ・費用の勘定処理,第15章 資本 の勘定処理,第16章 決算 と決算手続 (その2),第17章 伝票式簿記
この ような目次構成 は簿記の教科書では一般的であろうが, この順序で講義す ると, 8桁精算表が 「第 16章 決算 と決算手続 (その2)」で説明 され ることになって しまう。
表 を取引 ごとに細か く説明 している (武 田,1996,35‑39頁)。ただ し,同書で は,商品売買 を扱わず に, 仲介手数料 の受取 (収益),利息の受領 (収益) と賃借料 の支払 (費用)の3つの項 目で収益 ・費用の説明
をしている (武田,1996,37‑39頁)0
7わが国の教科書 は総 じて薄 く,頁数が810頁 にまで上 るHorllgrenらの教科書の ようにふんだんに紙数 を使 うわ けにはいかない ことを筆者 は理解 している。 しか し,教科書 は学習者 の理解 を助 けることを最大 の 目標 とすべ きであるか ら,説明 に多 くの頁数 を割 くことも今後 は考 えるべ きなのか もしれない。
8 この点 については,(Horngreneta1.,1993,pp.48‑51) による ところが大 きい0 9 97年度か らは,簿記経験者 と未経験者 を分 けて講義 を行 うことになっている。
10連結会計 と本支店会計の関連 については,貸本 (1995)を参照 されたい。
11 商業科高校 の出身者 な どの簿記経験者 も 「忘れた」 ようである。
12 全員 にレジュメを作 らせ るのは,一 つは各 自同 じ範囲 をレジュメにまとめ,他人 とどこが違 うか を確認 させ ることによって, レジュメの作 り方 を学 んで もらうためであ り, もう一 つは担 当者 を決 めてレジュメ を作 らせ ると担当者以外があ ま り教科書 を読 まな くなって しまうか らである。
13 この勘定間の振替 の困難 さは,簿記原理 Ⅰの講義 で も見受 けられた。決算整理 を行 う際,費用 ・収益 の 各勘定残高 を損益勘定 に振 り替 えるが,
(借) 損 益 ××× (質) 各費用 ×××
(借) 各収益 ××× (質) 損 益 ×××
とい う仕訳 において,費用 は借方,収益 は貸方 と覚 えていたのが,それぞれ貸借が逆 に出て くることによっ て混乱 を来す ようである。
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14 前出のアンケー ト調査では,簿記科 目を3つ設 けている場合 に3つめを工業簿記 としている大学がある。
ただ し,残念 なが ら,報告書 においては何 ら説明 してお らず,統計処理 を施 したデータには基づいてはい ないが,統計処理 を担当 した筆者がアンケー トの回答用紙 を参照 して判断 した0
15以下の記述 は,当簿記研究部会の報告書 とは無関係の ものであ り,筆者の個人的見解である。
16 ただ し,残念なが ら,報告書 においては簿記科 目の対象年次に関 しては何 ら説明 していない。アンケー トでは対象年次 も回答 いただいているので,統計処理 を施 したデータに基づいてはいないが,統計処理 を 担当 した筆者の推測 によるものである。
17特 に管理会計の分野での研究 ・教育 ・実務 におけるケース・メソッドの有効性 については,た とえばKaplan (1989)を参照 されたい。
18 同書では,脱サラした3人の男女が ワインハ ウスを設立するところか ら支店 を出店 し本支店会計 を必要 とするまでにいたるス トー リーに基づいて,簿記の説明 をしている(伊藤,1994,61164;104‑109;215‑220 貢)。
参 考 文 献
新井清光 (1981)『最新簿記論 (改訂版)』中央経済社。
伊藤邦雄 (1994)『ゼ ミナール現代会計入門』 日本経済新聞社。
岡本 清 (1994)『原価計算 (五訂版)』国元書房。
奥島孝康 (1994)『会社法の基礎一事件 に学ぶ会社法入門』 日本評論社。
武 田隆二 (1996)『簿記 Ⅰ (簿記の基礎)』税務経理協会。
日本簿記学会 簿記教育研究部会 (部会長 :藤永 弘 ;委員 :坂下紀彦,長井敏行,大西清彦,旗本智之, 石坂信一郎,五十嵐 貢)(1996)「大学 ・短期大学 における簿記教育内容 と教授法の研究」最終報告書0 漢本智之 (1995)「日米 における本支店会計の違い」札幌学院大学会計学研究所研究年報,第14号, 3月,
51‑57貢。
藤永 弘 ・石崎忠司 ・佐藤啓治編著 (1984)『基礎企業簿記』中央経済社。
藤永 弘 ・坂下紀彦編著 (1995)『精説企業簿記』中央経済社。
Charles T.Homgren,GaryL Sundem and JohnA.Elliott,(1993)Introduction to Financial Accounting,Prentice‑HallInternational,Inc"5thed.
RobertS.Kaplan,(1989)"CommentaryonConnectingtheResearch‑Teaching‑PracticeTriangle,"
AccountingHonlzons,March,pp.1291132.
(はた もと さとし 会計学専攻) (1997年1月27日受理)