秋 田県比 内町 にお ける地鶏 の飼養 と加工
o流通
田 中 圭
キーワー ド:秋 田県比内町 比内地鶏 飼養農家 自然環境
Ⅰ は じめに
畜産、 なかで も食用鶏 の地理学的研究 にはブロイ ラー養 鶏 に関 す る ものが あ る。 た とえ ば、 長 坂 (1988)などであ る。 しか し、地鶏 に関す る地理学 研究 はない。
本研究 は、比内地鶏 の主産地である秋 田県比内町 とその周辺 を対象地域 とし、比内地鶏産業 を飼養 ・ 加工 ・販路の面か ら考察す ることを目的 とす る。研 究の方法 と しては、聞 き取 り調査 と野外観察 を主 と
し、現地で入手 した文献資料 も用 いた。
II 比内町 における比 内地鶏産業の概要
比 内地鶏 は、比 内鶏 を父方 に、 ロー ドアイラン ド レッ ド種 を母方 と した一代交雑種である。比内鶏 は 元来、秋 田県比内地方で飼育 され優れた肉味を持っ が、天然記念物 の指定 を受 けてお り、実用面での能 力 も低か った。 そのため、1973年度 よ り秋 田県畜産 試験場 を中心 と して比 内鶏 の利用が試験 された。 そ の結果、比 内地鶏が誕生 した。
比内町における比内地鶏生産 は、1987年 に 「比内 町比内地鶏生産部会」が設立 され本格化 した。 それ までは比 内地鶏生産 は小規模で、比内町の特産品 と は呼べ なか った。 素雛導入羽数 は順調 に増加 し、
2002年 にお ける素雛導入羽数 は163,000羽 で、市 町 村単位では秋 田県第1位 である (第1図)。
Ⅲ 比内町における地鶏の飼養 と農業経営
1. 種鶏場
「比 内町比 内地鶏生産部会」 は、JA あ きた北 の 組織 で あ る。 比 内町 にお ける比 内地鶏生産 には、
JA あ きた北 の存在が欠かせない。比内町には全部 で25戸の比内地鶏飼養農家が現在 あ り、 その全てが 比内地鶏生産部会 に所属す る。JA あ きた北 は、 そ
第1図 秋 田県 における比内地鶏 の市町村別 素雛導入羽数 (2002年)
(秋田県農畜産振興課資料 より作成)
の農家全ての意見 を汲み入れて年間出荷計画を立て る.。その計画 に沿 い、JA あ きた北 は大館市釈迦 内 にある架明舎種鶏場 に雛 を発注す る。架明舎種鶏場 で産み落 された卵 は、同 じく大館市御成町にある繁 明舎酵化場 に運 ばれ、階化す る。架明合 は、県北 の ほぼ全ての比内地鶏飼養農家 に素雛 を供給す る、全 県‑ の素雛供給会社 であ る。 その後、素雛 は、JA あきた北 の トラックで比内町の各飼養農家へ と運 ば れ る。
2.飼養農家
比内町における比内地鶏飼養の最低限の環境条件 は、今回の聞 き取 り調査か ら定義す ると、鶏舎 と放 し飼い圃場 を確保出来 るだけの土地 を持 っているこ と、住宅地か ら離れていること、鶏の清例 な飲料水 が確保 出来 ることの3点である。住宅地か らの隔離 は、特 に夏場 に鶏舎か ら発す る独特の臭気、鶏 の鳴
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第 1表 秋 田県比 内町 における比内地鶏飼養事例農家 の経営形態 (2003年)
農家 比 内 地 鶏 飼 養 年間出荷羽数 他 の 収 入 源 世 世 親 後 そ労働 力構成 飼 養 開 始 飽 食 に 汲 み 入 鶏 舎 建 築 以 前 番 号 開 始 年 く千羽 ) 事 市 や N主 主 音 者 他の* の*t Ln 最 大 の 動 機 れ る 水 の 水源 の 土 地 利 用 法
1 1986 14な し (専業) ○ C 沢、井戸 牛 舎
2 1988 7 稲作 、畑作ー会社員 (看薄 綿 (後継者 の妻)後継者 ) △ ○ △ C 井戸 (トルマ リン石 ) 畑 (ビニ ル ハ ウス)
3 1990頃 10稲作 ,会社員 (後藤 者) ○ ○ △ B 湧水 水 田
4 1990 8稲作、共 タバ コ栽培 ○ △ △ △ A 湧水 水 田
5 1995 6稲 作 、会 社員 (秦) 竣凝 者 .後,*者 の ○○ △ △ A 井戸 水 田
6 1996 13な し (噂業) ○ △ B 井戸 養蚕 、畑
7 2000 7稲作 、縫 製業 ○ A 釈 水 田
8 2000 2パー ト (会社員 (世 帯 主 .後継 者の蛮)、後継 者) 0 △ △ △ A 釈 水 田 (借 地)
9 、2001 5■な し (専業) ○ B 井戸 豚/ト屋 と畑
10 2002 8大工 (後継者 .世帯主) △ ○ A 釈 畑
症)A:役場 ・部会 か らの薦 め B:畜産 への興味
C:その他 (農家番号1は親 を引 き継 いだ、農家番号2は町お こ しのため)
(2003年 聞 き取 り調査 よ り作成)
初生7日齢 28日齢 70El齢 100日齢 120日齢 150日齢
巨 牽
][ =∃
[ 二
∃[ 二 重]
幼 雛 期 中 雛 期 大 雛 期 仕 上 げ 期
育 雛 施 設 管 理 鶏 舎 と放 し飼 い 草 地 の 融 合
芸冨…幼 雛 期 鮒 中 雛 期 飼 料 大 雛 期 飼 料 仕 上 げ 飼 料
第2図 秋 田県比 内町 における比 内地鶏 の飼育暦 (2003年) 注)各給与飼料は、飼料中の粗タンパク質の量が異なっている。
(聞 き取 り調査 とJAあ きた北営農部資料 よ り作成)
声 などへの苦情が予想 され ることによる。
比内地鶏飼養農家 には、鶏舎 と住居が隣接す る農 家 と、離れた農家がある。鶏舎 と住居が隣接す る飼 養農家 のほとん どは、 その住居 に他者 の民家が隣接 していない。飼養農家 は、 その地域的条件 に合わせ て鶏舎 の場所 を決定す る。
聞 き取 りで きた全11農家の経営事例 (第1表) を み ると、兼業で比 内地鶏 を飼養す る農家が多 い。専 業への不安が拭 えない農家が多 いことと、畜産 に興 味がな くては専業 は難 しいことを示 している。飼養 労働力の構成 をみ ると、世帯主 を中心 と し、家族が 総出で作業を手伝 う農家が多 い。 この ことで改めて、
比 内地鶏飼養が大変骨 の折 れ る作業であることがわ か る。
比 内地鶏 の飼養地 は、減反政策 による稲作 の余剰 耕地であ る場合が多 い。鶏舎 に汲み入れ る地鶏 の飲
料水 は、標高が高 い場所で は湧水や沢、低 いところ では井戸水 を水源 と して利用す る。
飼養開始の動機 としては 「役場 ・部会か らの薦め」
が多 い。 「畜産 への興味」 と答 えた人 も役場 や生産 部会 と全 く無縁で はな く、生産部会発足後 に町全体 で比内地鶏生産を発展 させようとしたことがわか る。
比 内町の比 内地鶏飼養農家 は、基本的にはJA あ きた北が作成 した手引 に沿 って比 内地鶏 を飼養す る (第2図)。手 引通 りに飼養 しない農家や、部会が定 めた出荷先以外へ出荷 した農家 は、生産部会か ら除 名 され る。
第3図 はある事例農家周辺 の土地利用 を示す。 こ こは周囲を山林 に囲まれた集落で、 この事例農家 は、
母屋 と鶏舎が離れた比 内地鶏飼養農家の典型例であ る。 この農家 は胃雛鶏舎 を母 屋 の傍 に建 てて い る (第4図)。幼雛期 は比内地鶏の体が弱 く、飼養上 もっ
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第3図 秋 田枇 内田森合地 区 にお ける比内地鶏飼養事例農家所有地近辺 の土地利用 (2003年7月) (現地調査および1:2,500比 内町計画平面図 (1986年修正) より作成)
第4図 秋 田県比内町森合地区 にお ける比 内地鶏飼 養農家 の土地利用 (母屋周辺)(2003年7月) (現地調査 および1:2,500 比 内町計 画平面 図 (1986年 修正) より作成)
★軸の出入 りに1
‑ 砂 水路 (パイプ)
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第5図 秋 田県比内町森合地 区における比内地鶏飼 養農家の土地利用 (鶏舎周辺)(2003年7月) (現地調査 および1:2,500 比 内町計画平面 図 (1986年 修正) より作成)
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とも手がかか ることか ら、育雛鶏舎のみ母屋の傍 に 建て る飼養農家が多 い。
28日齢を過 ぎた比内地鶏 は、出荷 まで飼養 される 鶏舎 に移 される。鶏舎内には給餌器や給水器、止 ま り木 などがある。鶏舎 は直射 日光が入 らないよ う遮 光幕で覆われている。比内地鶏 は寒 さには比較的対 応で きるが、汗腺が無 いため暑 さには弱い。鶏舎周 辺 (第5図) には、比内地鶏が適度な 日光浴を しな が ら自由に運動す るに必要な、放 し飼 い圃場がある。
また、水が近 くの沢か らひっぼ られ、放 し飼 い圃場 に流れ込んでいる。
比内町の比内地鶏飼養農家 はよ り良質の比内地鶏 を育てるため、 日頃か ら野菜 ・果物を餌 として与え る。他 にも、手引には記 されていない事 を行 ってい る。飼養上の良案が思 いっいた時は、各々が勝手 に 行わず、定期 の部会などで情報 を提供 し合 う。良 い ものは部会員みんなで取 り入れ る。比内町の比内地 鶏飼養農家 は、 「比 内町産比内地鶏」 とい う銘柄 を 高水準で保つ ことに、町全体で臨んでいる。
Ⅳ 比内町における地鶏の加工 ・流通
1. 加工施設 と流通径路
飼養農家 は、150日齢 を過 ぎた比内地鶏 を、指定 日に比内町大葛の比内地鶏処理場へ運ぶ。比内地鶏 処理場 は、比内町で飼養 された全比内地鶏 を扱 い、
他市町村で飼養 された比内地鶏 は一切扱わない。 そ こで比内地鶏 は処理 ・解体 される。その中の8割が、
鹿角市 にある株式会社秋 田比 内や (以下、 (秩)秩 田比内や)へ外部の運送業者 によ り、運ばれる。
(樵)秋 田比内やは、鹿角市 に事務所 と加工場 を 構える比内地鶏 の加工 ・販売会社である。1995年 の 開業以来、事業規模 は急速 に拡大 した。比内町にお ける近年 の比内地鶏 出荷量 の増加 に、 (秩)秋 田比 内やの存在 は欠かせない。
比内町の比内地鶏処理場か らの地鶏 の9割が、全 国の (樵)秋 田比内やのチェー ン店へ運ばれる (第 6図)。運送 に関 しては外部 の運送業者 に全て委託 している。ただ し、近隣市町には自社便で届 ける。
2.大館市 における比内地鶏生産 との対照
大館市 は秋田県 において、比内町に次 ぐ第二の比 内地鶏生産地である。大館市の生産農家 は3戸であ り、 うち二つは会社経営である。生産農家 はそれぞ
第6図 「比内町産比内地鶏」の主要 な流通経路 (2003年7月、 9月の聞 き取 り調査 よ り作成)
れ架明合へ雛を発注す る。JA あきた北 は大館市 の 比内地鶏生産 には関わ らない。
大館市 には処理販売を行 う会社が2社 ある。大館 市の生産農家 は、飼養 した比内地鶏 を大館市内のそ の2社 に全て持 って行 くわけではない。処理販売の 2社 も、様 々な地域の飼養農家 と取引を している。
Ⅴ むすび
比内町の河川 ・山林 に恵 まれた自然環境 は、比内 地鶏 を飼養す るために必要不可欠 である。「比内町 比内地鶏生産部会」 には、比内町の全比内地鶏飼養 農家が所属 し、生産過程 は標準化 されている。また、
農家 は飼養情報を絶えず交換 している。生産部会の 名の もとに農家同士が繋が りを強 く持つ ことで、比 内町は 「比内町産比内地鶏」を高水準で保っ ことに 成功 している。
現地調査で は、JA あきた北営農部、比内町役場 農林課をは じめ多数の方 々にご協力頂 いた。本稿作 成では篠原秀一先生 に終始貴重 なご助言を頂 いた。
末筆なが ら、深 く感謝致 します。
文 献
長坂政信 (1988):岩手県 におけるブロイラー産業 の発展 と産地形成.地理学評論,第61巻,239‑
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