茨城大学教育学部紀要(人文・社会,芸術)34号(1985)171−202 171
Time PerspectiveとPersonalityとの関連IV
「老い」の認識を指標として一
吉田 昭久*・信田貴子**・小熊 均***
(1984年9月29日受理)
1
On T㎞e Perspective and Personality IV:On Cognition of ごAgedness 1)
Teruhisa YOSHIDA*C Takako SHIDA**and Hitoshi OGUMA***
(Received September 29,1984)
は じ め に
前論文1及び皿の2編2考3)では,time perspectiveを「人」の一生との関連で捉えることの必要 性を指摘し,皿4)では,「人」の一生に視座を据えるときに,その「人」の生きる社会や時代状況と の関連から,現代社会を特徴づける「学歴社会」において必然化される,学歴に対するOrientation としての学歴志向性が,time perspectiveの基底因として働くことを指摘した。
そこで,今回は,現代社会を特徴づけるもう一つの問題である「老人問題」の視座から,人間に おける「老い」の現象に対する認識について検討を加え,「老い」の許容とtime perspectiveとの 関連性に関して検討を加えたい。特にPersonalityとの関連から,現代青年が,自己の「生」の現 実は,同時に「老い」の過程でもあるという事実をどのように認識しているかを検索することを課 題とする。
ボーヴォワールは,その著「老い」の中で,「彼らの多くの者は老人となる,しかしこの転身を あらかじめ考える者はほとんどいない」し,「老人のなかに自分を認めることを拒否する」5)と指摘
している。そして,「この年老いた男,あの年老いた女,彼らの中にわれわれを認めよう」と訴え ている蒐仏陀が人間の四つの苦悩の内に「老」を入れたように,「老」は,人間にとって不可避で あり,拒否も,抑圧も,回避すらも出来得ぬ体験過程そのものである。ところが,青年の多くは,
「老人」を自己とは異種の者,あるいは距離ある者として認識している。このようなtime perspec一 tiveの欠如が,やがて青年が老人となり自己の「老い」の現実性(Reality)に直面するとき,「ボ ケ老人」や「老人の自殺」「老人性うつ病」といった,現在社会問題となっている社会病理現象の 生起と連なっている。
*茨城大学教育学部教育臨床心理研究室
**茨城県結城郡八千代町立八千代第一中学校
***都留文科大学文学部
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本稿では,現代青年の「『老い』・老人イメージ」と「老人への態度」はいかなるものであり,
「自己の『老い』に対する許容」の程度はいかなる水準にあるかを検討する。
なお,本論文構成の概要は,次の通りである。
I r老い」の許容とtime perspective 1−1 「老い」の系譜と意味 1−2 Time perspectiveと「老い」
1−3 「老い」の許容 H r老い」の認識と許容の測定
H−1 「『老い』・老人イメージ」と「老人への態度」の測定 H−2 「『老い』の許容」の測定と具体的質問項目の作成 H−3 方法と被調査者の選定
皿 「老い」の認識と許容に関する因子分析的検討 皿一1 調査の結果
皿一2 因子分析の結果 皿一3 因子解釈
IV 現代青年の「老い」の認識とtime perspective IV−1 現代青年の「老い」・老人イメージ IV−2 現代青年の老人への態度
IV−3 現代青年の「老い」の許容
1 「老い」の許容とtime perspective
1−1 「老い」の系譜と意味
穂積の『隠居論』7)によれば,文化史的にみて,『老い』に対する風俗は,食老俗→殺老俗→棄老 俗→退隠俗 という変化を示したという。一般に,未開社会においては老人の存在そのものが稀少価 値を持ち,長寿それ自体に価値があり,厳しい生活条件の中で生き伸びた豊かな知識を持つものと しての殊遇をうけ,その社会的地位も自ずと高く位置づけられた8)。そのために,老人が死亡した 場合,「食肉を似って智徳継承」を図った9もこの「食老俗」に関して,穂積は,この他にいくつか 継承理由を挙げている1%「殺老俗」もまた,老人を「食糧」とする。しかし,穂積によれば,「口 を減らす」ために老人を殺すことは公認されなかった1D。「棄老俗」は,食老や殺老に比べ,古今 東西,各国で広く行われ,我が国各地に残る「姥捨山伝説」は,この棄老を描いたもの12)である。
この棄老もまた殺老と同様の状況下で行われたという13)。文化・文明の進展に伴って,食糧事情の 好転により,「退隠俗」即ち「隠居」の風習が起って来る14)。このように,老人の生死が,その社 会の経済力と大きくかかわっていることは,現在にも通底している。しかも,その社会における老 人の位置を決めるのもまた社会であり,社会が老人の存在と「老い」の様態とを選択している。
では,「老い」をどう位置づけたらよいのか。数種類の漢和辞典類15)を当ると,「老」は70歳の 総称であり,「老」に至ると「地位を人に譲る」16)ことになっていた。「老」に先立つ「書」は60歳
吉田・信田・小熊:Time PerspectiveとPersonalityとの関連1> 173
を示し,80歳,90歳の「毫」と区別している17)。「書」と「毫」に関して見ると,「書」の意味内 容は殆どPositiveなものであり,逆に「毫」はNegativeな意味内容を持つ。現在「老」の語の持 っイメージが,Positive, Negativeに分化するのは,ここに根ざしているものと考えられるが,本 来的に言って「老」は,むしろPositiveな意味を持つ語と位置づけられよう。
我が国の神話や文学で捉えられている「老い」あるいは「老人」も,Positive, Negativeの両極 の方向性を持つ。古事記に描写される「引田部の赤猪子」や「置目老嬬」は,尊敬を受けた老人の 例であろう18)。古今和歌集に収録されている歌で,「老い」を嘆いたものは60余ある19)。この「老 い」の嘆きの歌を分類すると,橘に従えば,①今日の「老い」の姿を嘆くもの ②「老い」の過程 を嘆くもの ③過去の娩麗な若き頃の思い出に現在の老醜を悲しむもの ④社会性を失った孤独落 莫の現在を痛歎するもの ⑤もはや諦めながら,なお諦めきれずに憂うつな余生を慨歎するもの に分けられる。これらの歌は,容貌の衰えを嘆いているのが共通している。このような「老い」の否 定ないし拒否は,枕草子にも顕著なものである20)。そこでは,老人は「すさまじきもの」「にくき
もの」「にげなきもの」「むとくなるもの」「たのもしげなきもの」等々と捉えられている。
ここで,人間の「老い」の現象をどう捉えたらよいか,「老化」と同義語として良いかが問題と なる。人間の加令現象は,発展的変化と衰退的変化の二つの方向性を持つ。このうち,「衰退的変 化」を特に「老化」として位置づけることが妥当であろう21)。一方,「発展的変化」は,ユンクの 言う「老賢者」に通底する。ユンクによれば,夢やメルヘンにおいて「精神」という因子を象徴す るのは,大低老人の姿をとって現われているという22)。洞察や決断,判断や計画の実行が自己の力 を超えるような「時」に,良き忠告者として出現するのが「老賢者」である。まさしくそれは,「老 いる」ことを通してしか得られぬ人間の精神ないし智を象徴している。ここに「老い」をPositive な方向と,Negativeな方向の両側面から捉えることの必要性が出て来よう。
1−2 Time perspectiveと「老い」
人間にとって「老い」の過程は,「未来」の漸進的消失と照合している。ナチス・ドイツの強制 収容所を生き抜いたフランクルは,「一つの未来を,彼自身の未来を信ずることのできなかった人 間は収容所で滅亡していった。未来を失うと共に彼はそのよりどころを失い,内的に崩壊し身体的 にも心理的にも転落した」23)と述べ,マスローもまた,「具体性への変貌は,未来の喪失であり…中 略…自己実現は,現在にはたらく未来との関係をもたずしては無意味である」と述べているが24),
人が自己の「老い」の具体性を認識し得ない時,それは同時にその人の「未来」の喪失につながっ ている。もし青年が,自己の目前の老人に比して,自己の「老い」を想像し,恐怖や嫌悪を抱くと すれば,その青年にとっての「未来」は展望のないものとならざるを得ない。
しかしながら,自己の「未来」を展望し得ぬのは青年ばかりではない。老人もまた「死」への限 りない接近が,自己の「未来」を縮少させる。現代の多くの老人が持つ「ポックリ願望」や「ポッ クリ往生祈願」のための寺詣は,近年急速に増加しており25),その参詣動機は,殆ど「寝たきりに
なって,ひとに迷惑をかけたくない」といったものである。老人にとって.「寝たきり老人」や「ボ 1
ケ老人」となる自己は,自己の人間としての尊厳(dignity)を脅かすものとして忌避される。この ような,自己による自己の「老い」の忌避は,現代社会を支配している「生産性」を人間的価値と する現代社会思潮を鋭く受け止めたものであろう26)。老人もまた多くの現代人と同様に,「老い」
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た自己を受け入れられず,自己のtime perspectiveを持ち得ない状況に生きている。このことは,
老人の自殺率の増加となって表出している27)ことでもある。
前論文28)で指摘したところであるが,人間存在とtime perspectiveとの関連を捉える際には,自 己の「瞬間」の生にも連なる,「私一比処一今」を基点に,どのようなPerspectiveのもとに自己の
「世界」を「生きて」いるかが課題となる。従って,自己の「老い」の認識過程と「老い」の許容 の程度は,その人のtime perspectiveの指標となって来る。
1−3 「老い」の許容
では,自己の「老い」を「受け入れる」とは如何なることであるのか。マスローは,人間を「現 実適応型の人間」と「自己実現的な人間」と分けている。後者の特徴をマスローは,自己の内的世 界の二元的対立・矛盾を解消し,日常の生活態度において全てのことをありのままに肯定し,現実 を否定することなく種々の異なるタイプの人間とも交流出来,自然も人間も,また醜い現実をも優 しい目で見ることが出来る人間としている。さらに,解決出来ない問題にも真正面から取り組み,
人間性としての欠陥や自己の様々の欠陥を受容出来,あるがままの,欠点だらけの自己をも受容し た上で,醜い自己との和解が可能であり,一切の虚栄を棄てて裸になれる人間が,「自己実現的な 人間」である。即ち,「受け入れる」とは,現実を,自己そのものを,さらには他者をもあるがま まに見,受け取り,肯定することである。人間が,このように,自己も他者をもあるがままに肯定 することは,至難のことであろう。それは,我々の意識の常態が,無意識の世界の防衛機制によっ て守られているからでもある。そこでマスローは,自己実現の前提として,自己の持つ防衛機制を 明確化する作業の必要1生を強調し,その「防衛が見きわめられたら,それらをあきらめる勇気」29)
を持たねばならないと提言している。この作業が,自己にとって苦痛を伴うことは論を侯たない。
「老い」をNegativeなものと捉える現代人にとって,自己の「老いた」姿を想起することは,自 己に不快の感情を抱かせる。「彼は,老人のなかに見える自分の『未来』を憎む」30)のであろう。
しかしながら,「老い」を自己と切り離して考えれば考える程,「老い」が自己にとって現実性
(Reality)を持つ時,マスローの言う「人間性萎縮」31)に陥らざるを得なくなる。我々は,心理的水 準で如何に「老い」を拒否しようと,誰一人として「老い」から逃れることは出来ない。
このような視点から,人間性存在の時間性として位置づけられる「老い」の問題を見る時,自己 の「老い」の過程の許容こそ,その人の「自己実現」を可能ならしめる前提となって来よう。
Personalityとの関連の視点から,「老い」の認識の問題を取り上げるのは,前論文で指摘したよ うに,現代青年の多くが,自己のtime perspectiveを持ち得ぬ状況に「生きて」いる以上,当然の ことながら,自己の「老い」の認識は稀薄であり,「老い」の許容の程度の低いことが予想される ことによる。
今回の研究では,概括的に現代青年の,「老い」・老人イメージ,老人への態度,「老い」に対す る許容 に関して明確化する作業を通して,time perspectiveとpersonalityとの関連性について検討 を加えたい。
吉田・信田・小態:Time PerspectiveとPersonalityとの関連1> 175
皿 「老い」の認識と許容の測定
現代において「老い」は,本来的な意味に反し,Negativeな側面のみが強調されて捉えられてい ることを指摘した。とりわけ青年達は,「老い」を人間的衰退と考え,老いることや老人に対して 軽蔑の意識すら潜在的に持つ。彼らは,自らを「老い」と無縁な者と認識している32!しかし,「老 い」は心理的に拒否することによって避けられるものでもないし,「老いる」ことが人間的衰退と 同質ではない以上避けるべきものでもない。だが,現代青年にとって「老い」は価値のないもので あり,不名誉なことであるのは,日常語としての「オジンくさい」「オバンくさい」といった言葉 によく示されている33)。このような現代青年の「老い」に対するイメージや考えは,老人への態度 にも大きな影響を及ぼすことが考えられる。そこで,「老い」の認識と許容とを,「老い」・老人に 対するイメージや,老人への態度の視点から,さらには,自己が「老いる」ことに対する許容度の 視点から測定することとした。
II−1 「『老い』・老人イメージ」と「老人への態度」の測定
ゴ
@ ー、
u老い」・老人に対するイメージを測定するたあに,表1に示した文献の中から「老い」や老人に っいての記載を抜き出し,カードに整理分類した結果,次の六つの視点が重要であることが示され
た。
①気力の充実VS気力の衰退 ②性格の肯定的変化VS性格の否定的変化 ③肯定的な知恵及び 技の獲得VS否定的な知恵,技の獲得 ④態度の肯定的な変化VS態度の否定的な変化 ⑤老人の
表1 「老い」の意味に関する検索及びカード分類に使用した文献目録
著 者 (編者) 書 名 出版社 出版年 略 号
諸橋轍次 大漢和辞典 大修館書店 195&12 ・諸 橋
塚田裕三・豊倉康夫
n辺格 『老化とはなにか』シンポジウム「老化」より 講談 社 1979.1 ・老 化
鈴木業三・広田栄太郎 故事ことわざ辞典 東京堂出版 1951.11 ・ことわざ
野村美紀子訳 ユングの象徴論 思 索 社 1981.11 ・ユング
朝吹三吉訳 老い 人文書院 1972.6 ・ボーヴォワール
松尾聰・永井和子 日本古典文学全集11枕草子 小 学 館 19744 ・枕
折口信夫 近代日本思想大系22折口信夫集 筑摩書店 1975.10 ・折 口
神田秀夫・永積安明 タ良岡康作
日本古典文学全集27方丈記,徒然草,
ウ法眼蔵随聞記,歎異抄 小 学 館 1975.6 ・徒 然 下中邦彦編 日本残酷物第1部 貧しき人々のむれ 平 凡 社 ・残 酷 竹内照夫 新釈漢文大系第27巻 礼記(上) 明治書院1971.4 ・礼 記
松田道夫編 「日本の名著14貝原益軒」益軒十訓の養生訓 中央公論社 1969.8 ・養 生 山本阿母里編 ジュリスト増刊総合特集
w詹サ社会と老人問題 有 斐 閣 1978.11 。ジュリスト 副田義也編 現代のエスプリ『老年』No 126 至 文 堂 1978.1 ・エスプリ
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肯定的扱いVS老人の否定的扱い ⑥「老い」の肯定VS「老い」の否定 この六つの視点をもとにして,「『老い』・老人イメージ」の構造化を行った。
「老いる」ことに伴いつつ起る人間的な現象は,前述のように,一般的にPositiveなものとNega一 tiveなものがある。 Positiveな現象は人々に受け入れられるが, Negativeな現象は拒否される。こ の視点から,縦軸に社会的イメージを,横軸には「老い」の次元を配置し,「老い」の次元は,精 神性,知性,行為性の三つに分節した。分節にあたっては,前述のカード分類の結果を参考とした。
このようにして出来た構造枠の中に,表2に示す具体的質問項目視点を設定した。「老人への態度」
に関しては,現代の青年が老人に対してどのような感情的傾向性を保持しているかを検索するため,
表2で示した,「『老い』・老人イメージ」の具体的質問項目視点をそのまま使用し,そのような老 人に対して,どれだけ尊敬の念を持ち得るかを描き出すこととした。従って,「老人への態度」の 構造枠は,縦軸を社会的態度としてPositive, Negativeに分節し,横軸に「老い」の次元を配置し て,精神面,知性面,行為面のそれぞれを,同様にPositive, Negativeに分節して,表3のように 構造化した。
表2 「老い」・老人イメージの具体的質問項目視点
老い」の次元 精 神 性 知 性 行 為 性
社会的イメージ
・気力の充実 ・思考の融通性 ・仕事の慎重さ
・精神の安定 ・深慮遠謀 ・親切
Positive
Cメージ ・物事の本質への関心・他人本位 ・知恵の開化・高技能 ・教化・枯れる
・気前の良さ ・的確な判断 ・泰然自若
・気力の衰退 ・思考の堅さ ・仕事のぞんざいさ Negative
Cメージ
・精神の不安定 E枝葉末節へのこだわり
・浅慮 E思考力の衰退
・おせっかい E老いては子に従え
・自分勝手 ・技能の遅滞 ・放恣
・けちん坊,欲張り ・判断力の低下 ・軟弱
表3 老人への態度の構造枠
「老い」の次元 精 神 面 知 性 面 行 為 面
社会的態度\ P・sitive i Negative Positive i Negative P・・itive i N・g・tive
Positiveな態度 i
Negativeな態度
注〕・各メッシュは,それぞれ表2の具体的質問項目視点と同じ
H−2 「『老い』の許容」の測定と具体的質問項目の作成
現代社会の病理現象の一つに,老人の種々の精神的な問題がある。青年のみならず老人自身でさ えも,自己の「老い」を許容できない。それは,「老いる」ということをあまりにもNegativeに捉
吉田・信田・小熊:Time PerspectiveとPersonalityとの関連W 177
表4 自己の「老い」に対する構造枠
「老い」の次元 精 神 面 知 性 面 行 為 面
「老い」
に対する構凡 :oositive 1 Negative
@ …
P・・itivei N・g・tive P・・itive i N・g・tive
老いの受容 3
老いの拒否
注〕・各メッシュは,それぞれ表2の具体的質問項目視点と同じ
えるからであろう。そこで,現代の青年が,どれだけ自己の「老いる」現象を受け入れられるかに ついて検索する。
構造化に際しては,表2,表3に示したものと同様に,縦軸に自己の「老い」に対する構えを,
横軸に「老い」の次元を配置した。縦軸に配置した自己の「老い」に対する構えは,「老い」の許 容と,「老いる」ことの拒否という二つの位相に分節出来る。「老い」の許容の測定にあたっての構 造枠を表4に示したが,具体的質問項目視点は,表2に示したものと同一のものである。
調査に当っては,「老い」の認識と許容とを規定する要因と考えられるものを,Appendix 1に示 すFace sheetで聴取した。
まず,大学名は,回答者の所属する大学間のバラツキを見るためであり,次の性別は,男・女間 における「老い」の拒否の傾向を検討するためである。年令に関しては,time perspectiveとの関 連で,年令の上昇と共に自己受容が出来,自己の「未来」を客観的に位置づけることが出来るとい
う可能性を前提として設定している。老人同居の経験年数と,老人と同居した自己の成長過程の時 期の設定は,同居年数の長短により,老人に対するイメージや態度,及び自己の「老い」に対する 許容度に差異のあることが予想されるからである。また,現在の老人同居の有無の設定は,家族内 の老人の有無によって,老人のイメージや態度,さらには「老い」に対する許容度に差異のあるこ とが予想されるからである。老人同居の経験はなくとも,老人とのかかわりの質の違いや,量の多 少による差異が仮説されることから,老人と接した機会に関しても聴取した。
質問調査票は,Appendix 1に示したが,前述した具体的質問項目視点に基づき,各々の質問項目 を作成した。質問項目数は,質問調査票の順に,田老人の態度 30項目,回「老い」・老人イメー
ジ30項目,團自己の「老い」に対する許容 30項目 の計90項目であり,各設問内でランダムに 配列し質問調査票とした。
今回の調査においては,各質問項目に対する回答形式を,10cmの線分上に任意に1印を付して もらう方法をとっている。10cmの線分上には,中央を印す目安を付けてある。得点化に際しては,
各回答の左端を00とし,右端を100として計算した。Appendix 1に示したように,「老い」・老 人イメージに関しては,「自分のイメージにぴったり合っている」と「自分のイメージに全然合っ ていない」を両極とし,老人への態度では,「非常に尊敬できる」と「まったく尊敬できない」を,
自己の「老い」に対する許容では,「受け入れる」と「拒否する」をそれぞれ両端に置いた。
H−3 方法と被調査者の選定
調査方法は,教育臨床心理研究室ゼミナールに所属する学生を調査員とし,各自の学友を巾広く
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被調査者として協力を依頼すると共に,講義時間 表5 被調査者大学分布と被調査者数 を裂いて調査に協力してもらった。調査は,1983
大 学 名 被調 有効データ数 年11月下旬より12月上旬の期間内に行った。 者 数 男 女 計 今回の調査の被調査者の大学分布と有効データ 青山学院大学 1 0 1 1
茨 城 大 学 258 129 17 246 数とを・表5に示した。被調査者の所属する大学 茨城キリスト教大学 67 4 60 64 を可能なかぎり巾広く選定したのは,資料の偏り 東京女子大学 4 0 4 4
二松学舎大学の排除を試みたことによる。 10 3 7 ・10
日本女子大学 14 0 14 14 流通経済大学 55 48 3 51
計 409 184 06 390
皿 「老い」の認識と許容に関する因子分析的検討
皿一1 調査の結果
まず,年令分布は表6に示した通りである。今回の調査は4年制大学生一般を対象としたが,調 査員が4年次生であり,その学友に協力してもらうといった方法をとったこともあって,被調査者 は,20−21才が中心となった。次に老人との同居年数の分布を表7に示したが,全被調査者の約半 数が老人同居の経験のないことが示された。また,老人との同居時期に関しては,被調査者間でか なりのバラツキがあることが示されている。現在,家族内に同居する老人の有無に関しては,表8 に示すように,被調査者の約7割が老人のいない家庭であることがわかる。さらに,家族内に老人 のいない被調査者で,現在までに老人と接した機会を持った経験の有無に関しては,表9に示すよ うに,約半数が「ときどき老人と接している」と回答している。「しょっちゅう接した」と回答した 者を除けば,約7割の被調査者が,
表6 被調査者の年令分布 表7 老人同居年数の分布 老人と接触する機会の少ないことが 性別年刀
男 女 計 同居年数 人数(%)
示された。
18〜19才 34 57 91 0年 188(48.3)
各設問に対する反応の平均を構造 20〜21才 107 98 205 1〜5年間 38(9.7)
別に示すと,「『老い』・老人イメー 22〜23才 35 57 92 6〜10年間 28(7.2)
ジ」に関しては図1の通りである。 24〜25才 Q6才以上
10 10 20
11〜15年間 P6〜20年間
27(09)
V1(1&2)
同様に,老人への態度, 自己の「老 計
177 213 390 21〜25年間 38(9.7)
26年以上 0(α0)
い」に対する許容度の構造別項目平
均得点を,それぞれ図2,図3に示 (100%)
した。 表9
老人と接した機会の分布
表8 家族中の老人の有無 老人と接した機会 人数 (%)
老人の有無 人数(%) しょっちゅう接した 80 (28.3)
い る 107 (2乳4) ときどき接した 148 (52.3)
いない 283 (72.6) ほとんど接したことがない 55 (19.4)
(100%)
(100%)
注〕・現在,家族に老人がいないものにおいて
吉田・信田・小熊:Time PerspectiveとPersonalityとの関連】> 17g
*Vい 項目mα
自分のイメージに 自分のイメージに項 目 内 容 ぴったり合っている まったく合っていない
12 老人になると,気迫がでてくる 58.6
9 精神が安定するのは,老人になってからだ 54.6 P 2玉 老人になってはじめて,物事の本質に関心を持つ 56.0 精
5
孝人にならないと,自分を抜きにして物事を考えbれない
58.0
14 老人になると,気前が良くなる 52.2
神 27 老人になると,気力が衰えてくる 39.9
性 28 老人になると,心が休まらなくなる 57.6
N 24 ささいなことにこだわるのは,老人だ 50.6
18 老人になると,自分勝手になる 44.3
2 老人になると,欲が深くなる 53.8
22 考えに融通性がでてくるのは,老人になってからだ 59.2
13 老人になると,考えが深くなる
43.3
知 P 10 老人になってはじめて,本物の知恵は開く 54.1
16 老人にならないと,高度な技は身につかない 61.4
29 物事の本質を見抜けるのは,老人だ 53.5
8 老人になると,考えが堅くなる 39.9
性 11 老人になると,浅はかな考えしか持たなくなる 599
N 19 老人になると,思考力が低下してくる 34.5
4 手先があてにならなくなるのは,老人になってからだ 47.7
20 老人になると,判断力が低下してくる 35.8
7 老人になると,仕事が慎重になる 45.5
15 老人になると,親切になる 48.49
P
ノー 6 若い人をきちんと指導できるのは,老人だ 56.5
何 23 性的自制がきくようになるのは,老人になってからだ 54.9
26 老人になると,物事に動じなくなる 50.7
為
3 老人になると,仕事がいい加減になる 56.0
性 17 老人になると,おせっかいになる 47.5
N 25 老人になると,家族に従わざるをえない 49.9 30 老人になったとしても,道楽はやめられない 37.5
1 老人になると,姿が弱々しくなる 31.6
0 50 100 図1 「老い」・老人イメージの構造別項目平均得点 ㈲ 注〕*「老い」の次元に関しては表2に示した具体的質問項目視点の精神性。知性・
行為性に対応し,さらにPositive, Negativeに分節されている。
180 茨城大学教育学部紀要(人文・社会,芸術)34号(1985)
しさ 項目
mo
非常に まったく
?@ 目 内 容 尊敬できる 尊敬できない
17 気迫を持つ老人 29.7
4 精神が安定している老人 25.3 P 9 物事の本質に関心を持つ老人 25.2 精 21 自分を抜きにして物事を考える老 41.1
19 気前がいい老人 35.7
神
7 気力が衰えている老人 59.4
28 心落ち着かない老人 62.0
面 N 5 ささいなことにこだわる老人 63.2
23 自分勝手な老人 59.4
20 欲が深い老人 60.5
12 融通性のある老人 28.1
18 考えが深い老人 22.3 P 26 知恵のある老人 23.4 知 2 高度な技を身につけた老人 15B
29 物事の本質を見抜ける老人 20.2 性
16 考えが堅い老人 54.0
面 11 浅はかな考えしか持たない老人 61.1
N 25 思考力が低下している老人 58.2
24 何の技能もない老人 56.4
3 判断力の低下している老人 57.3
1 仕事力順重な老人 28.4
14 親切な老人 19.0
P 8 若い人をきちんと指導できる老人 18.4
行 6 性的自制がきく老人 38.8
13 物事に動じない老人 31.2
為
仕事がいい加減な老人 65.3
30
Q7 おせっかいな老人 58.5
面
N 22 家族に服従している老人 54.1
15 道楽をし続けている老人 53.1
10 弱々しい老人 57.3
0 50 100 園 図2 老人への態度の構造別項目平均得点
注〕 *図1と同じ
吉田・信田・小熊:Time PerspectiveとPersonalityとの関連W 181
老し諮 項目
mα 項目内容 受け入れる 拒否する
10 気迫を持っ老人 30.5
5 精神が安定している老人 16.7
精 P 13 物事の本質に関心を持っ老人 26.4
25 自分を抜きにして物事を考える老人 40.9
神 21 気前がいい老人 34.1
6 気力が衰えている老人 57.7
8 心落ち着かない老人 62.5
面 N 12 ささいなことにこだわる老人 66.3
2 自分勝手な老人 60.1
7 欲が深い老人 60.3
30 融通性のある老人 2ユ.7
知 P
11 P
考えが深い老人 2α4 m恵のある老人 11.9 27 高度な技を身につけた老人 20.7 性 4 物事の本質を見抜ける老人 18.6
14 考えが堅い老人 54.1
3 浅はかな考えしか持たない老人 6ユ.8
面 N 9 思考力が低下している老人 55.8
23 何の技能もない老人 54.3
24 判断力の低下している老人 57.8
26 仕事が慎重な老人 26.5
行 19 親切な老人 17.7 P 22 若い人をきちんと指導できる老人 19.6
20 性的自制がきく老人 33.1
為 29 物事に動じない老人 32.6
18 仕事がいい加減な老人 64.0
15 おせっかいな老人 60.9
面 N 28 家族に服従している老人 49.8
16 道楽をし続けている老人 50.6
17 弱々しい老人 53.8
0 50 100
㈲ 図3.自己の「老い」に対する許容度の構造別項目平均得点
*図1と同じ
182 茨城大学教育学部紀要(人文・社会・芸術)34号(1985)
皿一2 因子分析の結果
今回の調査に際して仮説的に立てられた,「『老い』・老人イメージ」「老人への態度」及び,「自 己の『老い』に対する許容」の各構造化が妥当なものであったかを検討する目的と・現代青年の
「老い」の認識とその許容の構造を捉える目的とから,因子分析を行った。
因子分析にあたっては,相関係数はピアソンのものを用い,主因子法により回転前の因子行列を 求め,バリマックス回転により,Appendix 2,3に示す最終的な因子行列を求めた。統計的処理
は,東京大学大型計算機センターrHITAC M−280 H/M−200 H」を使用し, SPSSパッケージの プログラムを基に行った。
「『老い』・老人イメージ」「老人への態度」「自己の『老い』に対する許容」の,それぞれの因子 に含まれる,因子負荷量が1α300001以上の項目番号を表示したものが,表10,表11,表12で
ある。
表10 「老い」・老人イメージに関する因子名及び各因子に含まれる項目番号
因子に含まれる因子負荷量L300001
因子 因 子 名 以上の高得点順の項目番号
第1因子 「老人のもつ豊かな人間的力量に対する肯定的評価」の因子 22.21.29.13.10.23. a 6.7.16.
第2因子 「老人の思考力・気力の衰退に対する否定的評価」の因子 19.2α27.
第3因子 「老人の枝葉末節への執着に対する否定的評価」の因子 18.17.24
第4因子 「老人の気力の充実性・精神の安定性に対する肯定的評価」の因子 12.軌11.10。a 第5因子 「老人の人間関係の円滑性に対する肯定的評価」の因子 15.14.13.
第6因子 「老人の自己中心性に対する否定的評価」の因子 3.2.11.
第7因子 「老人の権威・感受性の喪失に対する否定的評価」の因子 25.26.28.
第8因子 「老人の他者配慮性に対する肯定的評価」の因子 5.2a 16.
第9因子 「老人の非活動性に対する否定的評価」の因子 7.8.1.
第10因子 4.
表11 老人への態度に関する因子名及び各因子に含まれる項目番号
因子に含まれる因子負荷量1.30000}
因 子 因 子 名 以上の高得点順の項目番号
第1因子 「老人のもつ豊かな人間的力量に対する肯定的評価」の因子 2918.26.9.21448.1.1a 17.13 第2因子 「老人の貧欲さに対する否定的評価」の因子 23.20.11.30.15.5.
第3因子 「老人の思考力・気力の衰退に対する否定的評価」の因子 10.25.a 7.24.2&
第4因子 「老人の枝葉末節への執着に対する否定的評価」の因子 5.27.28.16
第5因子 「老人の人間関係の円滑性に対する肯定的評価」の因子 19.12.14.
第6因子 「 枯れた 老人に対する肯定的評価」の因子 6.4 第7因子 「老人の泰然自若さに対する肯定的評価」の因子 17.13.18。
第8因子 24.
第9因子 22.
第10因子 &
吉田・信田・小熊:Time PerspectiveとPersonalityとの関連】V ユ83
表12 自己の「老い」に対する許容に関する因子名及び各因子に含まれる項目番号
因子 因 子 名 因子に含まれる因子負荷量L300001 ネ上の高得点順の項目番号
第1因子 「美しき『老い』への許容」の因子 2(瓦 2a la 30.27.5 1a 21.1L 1.4.29」20。
第2因子 「醜悪な『老い』に対する拒否」の因子 24。2a 9.1乳 6.12.2& 1a & 14L 15.
第3因子 「欲念を伴う『老い』に対する拒否」の因子 7.a 2.8.1&
第4因子 「枝葉末節に執着する『老い』に対する拒否」の因子 15.1416.12.
第5因子 「知恵・気力の充実を伴う『老い』に対する許容」の因子 1α1a 11.
第6因子 「知恵・洞察力を持つ『老い』に対する許容」の因子 4.5.1.
第7因子 「気力の衰退した『老い』に対する拒否」の因子 6.a 第8因子 「柔軟性をもっ『老い』に対する許容」の因子 22.13.
第9因子 なし
第10因子 a
皿一3 因子解釈
因子解釈にあたっては,便宜的に因子負荷量1α30000i以上を示す項目を取り出して行い,抽 出項目数が二項目以上の因子に関して因子命名を行った。その際,1α250001以上の因子負荷量を 持つ項目も解釈の参考とした。
「『老い』・老人イメージ」の各因子に含まれる質問項目と得点の平均を示したものが,表13で
ある。
第1因子に含まれる項目数は10であり,構造化の際に設定したPositive項目の2/3が第1因子 に含まれている。「老い」の次元別にみると,精神性2項目,知性5項目,行為1生3項目である。
精神性では物事の本質への関心と精神の安定,知性では洞察力,知恵の開化,行為性は教化と「枯 れる」に整理できる。すなわち,「老い」のPositiveな現象の全般が第1因子に集約される。この
ことは,老人における人間性の豊かさの内容を表わすものであろう。ここから第1因子を,「老人 のもつ豊かな人間的力量に対する肯定的評価」の因子と解釈した。第2因子に含まれるのは,思考 力・判断力の衰退と,気力の衰退の三視点である。判断力の低下を思考力の衰退に含めるならば,
第2因子は,「老人の思考力・気力の衰退に対する否定的評価」の因子と解釈出来よう。第3因子 に含まれる項目は,全て,老人の「こだわり」に関するものである。自己に「こだわる」が故に,
「自分勝手」になり,「おせっかい」になって,「枝葉末節にだわる」ことになる。第3因子は,「老 人の枝葉末節への執着に対する否定的価値」の因子と解釈できる。
第4因子に含まれる項目をみると,項目9と12は「老い」の精神性のPositiveな側面を,項目 10は知性の,項目6は行為性のPositiveな側面を表わしている。4項目がPositiveな項目である のに対し,項目11だけは知性のNegativeな「老い」を表わしている。しかし,項目内容に即して 考察すると一貫性がみられる。それは,老人になると「くどくどと物事を深刻に考えない」といっ た側面である。この場合の浅慮の内容は,精神の安定からくるPositiveな現象と関連していること を示唆している。第4因子は従って,気力の充実,精神の安定という二つの枠に集約されよう。以 上から第4因子を,「老人の気力の充実性,精神の安定性に対する肯定的評価」の因子とした。第
184 茨城大学教育学部紀要(人文。社会,芸術)34号q985)
5因子に含まれる項目の共通性は,円滑な人間関係を維持するために必要な事柄である。ここでの
「考えが深くなる」は,他者に対する配慮の意味で受け取られていると言えよう。第5因子は,「老 人の人間関係の円滑性に対する肯定的評価」の因子と解釈出来る。第6因子に含まれる3項目をみ ると,全てNegative項目であり,しかも老人の持つ自己本位な特徴を表わしている。仕事のぞん ざいさには,「自分の直接的な得にならないことは,どうでもいい」といった姿勢を汲み取れるし,
欲張りや浅慮も同様に,自己の欲望に任せて他者を配慮しないといった態度を反映している内容で ある。第6因子は,「老人の自己中心性に対する否定的評価」の因子と解釈出来よう。 、
第7因子は,項目25と28が,家族に気を使いながら服従している老人の姿に対するNegative な側面を示しており,項目26の「老人になると,物事に動じなくなる」が,泰然自若を示すPosi一 tiveな「老い」をイメージしたものではなく,老人の「感動する」ことのなさを示すものと解釈出 る。ここから,「老人の権威・感受性の喪失に対する否定的評価」の因子と解釈した。第8因子に 含まれる3項目のうち,項目16と23は他の因子にも含まれている。しかし,項目内容の一貫性か
ら,この因子を,「老人の他者配慮性に対する肯定的評価」の因子とした。第9因子に含まれる項
目を構造化した視点でみると,Positive項目1,Negative項目2となっているが,3項目の内容を 、
検討してみると,「慎重」という現象を「老い」に伴う静的変化と捉えたと解釈出来る。ここでの 慎重さや堅さ,軟弱さは,活動性の逆を意味している。以上から第9因子を,「老人の非活動性に 対する否定的評価」の因子と解釈した。
「老人への態度」の各因子に含まれる質問項目と得点の平均に関しては,表14に示した。
第1因子には,12項目が含まれ全てPositive項目である。構造化した際のPositive項目は15 項目であることから,殆どの項目が第1因子に含まれていることになる。r老い」の次元をみると,
精神性の側面3項目,知性,行為性の側面がそれぞれ5項目と4項目である。各項目の内容と構造 化した各視点とに照し検討すると,洞察力,知恵の開化,精神の安定の三視点に集約出来よう。す なわち,「老い」によってもたらされるPositiveな現象を,全て備え持つ老人に対する反応である。
ここから第1因子を,「老人のもつ豊かな人間的力量に対する肯定的評価」の因子と解釈した。第 2因子をみると,項目内容の一貫性は,「自分勝手」と「欲張り」である。項目11の「浅慮」は,
老人の自己本位性から来るものと解釈し得るし,項目30の「仕事のぞんざいさ」についても,「他 人のことは適当にすまそう」とする自己本位性に関連しており,自己の「欲」への「とらわれ」を 示していると解釈出来る。以上から第2因子を,「老人の貧欲さに対する否定的評価」の因子とし
た。
第3因子に含まれる項目は,6項目である。構造化した視点と項目内容からみると,思考力の衰 退と判断力の低下,技能の遅滞というように,人間的知性の衰退を表わすものである。精神性でい
っても,気力の衰退と精神の不安定の内容であり,精神の衰退を表わしており,項目10の「弱々し い老人」が,気力や知力,体力の衰退による「弱々しさ」を示していることは明らかである。第3 因子は,「老人の思考力・気力の衰退に対する否定的評価」の因子と解釈出来よう。第4因子の項 目を検討すると,「枝葉末節へのこだわり」に集約出来る。老人の他者に対する「おせっかい」も,
自己への「こだわり」のなせる業であろう。また,老い先き短い「生」に執着するが故に,「死」
への恐怖を潜在的に持ち,精神の不安定をもたらすのであろうし,思考の堅さもまた,自己への「こ だわり」から生じるものであろう。ここから第4因子を,「枝葉末節への執着に対する否定的評価」
吉田・信田・小熊:Time PerspectiveとPersonalityとの関連W 185
の因子の解釈した。第5因子は,「気前のいい」「融通性のある」「親切な」老人を示す項目が,特 徴的項目である。これらは,人当りの良い老人をイメージさせ,老人の人間関係性における滑らか
さを表わしている。全てがPositive項目であることから,この因子を,「老人の人間関係の円滑性 に対する肯定的評価」の因子とした。
第6因子の特徴的な項目は,「性的自制がきく老人」と「精神が安定している老人」の2項目で ある。しかし,表14に示す因子負荷量をみると,「性的自制がきく老人」が典型的な項目であるこ とがわかる。「性的自制がきく老人」は,構造化した視点の「枯れる」に基づく質問項目である。
「枯れる」は,前述の「老賢者」にも対応し,自ら,精神の安定を創出する力量とも関連する。こ こから第6因子を,「 枯れた 老人に対する肯定的評価」の因子と解釈した。第7因子は,「気迫を 持つ」「物事に動じない」という項目に代表される。「物事に動じない老人」は,構造化した視点で は,「老い」の行為性における位相として位置づけたものであるが,結果は,動揺しない老人とい う,精神性の側面における「老い」として受け取られることが示された。全ての項目がPositiveで あることから,第7因子は,「老人の泰然自若さに対する肯定的評価」の因子とした。
表15は,表13,表14と同様に,「自己の『老い』に対する許容」に関して示したものである。
第1因子に含まれる項目数は13項目であり,構造化した視点では,全てPositive項目である。
あらかじめ設定したPositive項目は15項目であるから,殆どの項目が第1因子に含まれる。ここ から第1因子を,「美しき『老い』への許容」の因子と解釈した。第2因子についてみると,全て Negative項目である。「老い」の次元でみると,精神性の側面3項目,知性の側面4項目で,行為 性の側面も4項目であり,「老い」のNegativeな側面をほぼ全て含んでいる。以上から,「醜悪な
『老い』に対する拒否」の因子と解釈した。第3因子の特徴的な項目は,表15に示すように,「欲 張り」,「自分勝手」に集約できる。項目3の浅慮に関しては,「自分勝手」からくる他者配慮のな さを表わしているし,項目8の精神の不安定は,自己の欲念に縛られておこる心的不安を表わして いよう。また,項目18の仕事のぞんざいさも,「自分勝手」の表われと言えよう。ここから第3因 子を,「欲念を伴う「老い』に対する拒否」の因子とした。
第4因子をみると,全ての項目がNegativeな項目であり,「おせっかい」,「思考の堅さ」「放 恣」「枝葉末節へのこだわり」といった,「こだわり」を共通項に持つ。しかもそれらは,「自己」
への「こだわり」から起るものであろう。以上から第4因子を,「技葉末節に執着する『老い』に 対する拒否」の因子と解釈した。第5因子では,3項目が因子を説明する特徴的な項目である。項
目13の物事の本質への関心は,深慮遠謀といったことに関連しており,項目10の気力の充実と合 せ解釈すると,第5因子は,「知恵,気力の充実を伴う『老い』に対する許容」の因子と解釈出来 よう。第6因子は,構造化した視点の知性のうち,「洞察力」が最も負荷量の高い(表15参照)項 目である。洞察は,精神の安定と知恵とが前提となる。ここから,「知恵・洞察力を持つ『老い』
に対する許容」の因子と解釈出来る。
第7因子は,表15に示したように,「気力が衰えた老人」と「思考力が低下している老人」の二 項目に代表される因子である。項目9は第2因子にも含まれているが,「気力の衰退した『老い』
に対する拒否」の因子と解釈した。第8因子に含まれる代表的な項目は,「若い人をきちんと指導 できる老人」「物事の本質に関心を持つ老人」の二項目である。解釈の参考に,−0.25701の因子負 荷量をもつ項目29をみると,マイナス負荷量から「物事に動じる」老人となり,項目29の内容が