香 川 大 学 経 済 論 叢
第
79巻 第
3号
2006年
12月
93‑110わが国における財政の持続可能性
財政赤字の定常性についての検定
之 夫 健
益 井
村 平
野
I .
は じ め に
近年のわが国では,歳出改革への努力や景気の回復により政府の財政収支の 改善が期待されるものの,財政は依然として厳しい状態にある。政府は現在も 巨額の財政赤字を抱えており,毎年の財政赤字の累積により政府の債務残高は さらに増加する傾向にある。そのため,現在の財政赤字の構造を今後も放置す れば,そのような政府債務を長期的に維持できるかどうかは今なお問題であ る。政府の財政運営をめぐっては,財政赤字の持続可能性に関心が寄せられて おり,諸外国での実証分析の方法を踏襲してわが国でもこの問題を検証するい
くつかの実証研究がある。
このような財政赤字の持続可能性に関する研究は,基本的には,異時点間で の政府の予算制約の下で,無限先の将来における債務残高の割引現在価値がゼ ロに収束するという条件が満たされるかどうかを実証的に検討している。ここ で,もし上記の条件が満たされるならば,政府の財政赤字は持続可能と判断さ れている。財政赤字の持続可能性をめぐっては,これまでアメリカ合衆国を中 心として諸外国において多数の研究が行われてきたが,
Payneand Mohammadi( 2 0 0 6 ) に従って,これらの実証研究は大きく 2つのグループに分けることが
(1) わ が 国 の 政 府 を 対 象 と し て 財 政 赤 字 の 持 続 可 能 性 を 分 析 し た 実 証 研 究 と し て は ,
Fukuda and Teruyama (1994), Payne (1997),土居・ 中里
(1998),土 居
(2000a, b),平井・野村
(2004)等が挙げられる。また,諸外国における財政赤字の持続可能性の研
究については,
Afonso (2005)を参照されたい。
‑94‑
香川大学経済論叢
412できる。
まず第
1の研究は,政府の債務残高の時系列データに関する単位根検定によ り,財政赤字の持続可能性を実証的に検討しようとするものである。そのよう な研究として,
Hamilton and Flavin (1986)の先駆的研究をはじめ,
Wilcox (1989), Trehan and Walsh (1988, 1991)や
Payneand Mohammadi (2006)等 が挙げられる。いずれもアメリカ合衆国の財政データを分析対象としており,
とりわけ
Payneand Mohammadi (2006)は単位根検定において構造変化の存在 を考慮している。しかし,これら一連の研究は,必ずしも一致した分析結果を 示していない。
Hamilton and Flavin (1986), Trehan and Walsh (1988, 1991)や
Payneand Mohammadi (2006)の分析結果は財政赤字の持続可能性を支持す る一方,
Wilcox(1989)は持続可能性を否定する分析結果を導いている。また,
これらの分析方法に従って,アメリカ合衆国以外の他の諸外国においても,
Greiner and Semmler (1999), Getzner, Glatzer and Neck (2001), Koo (2002)
等,財政運営の持続可能性を分析するいくつかの研究が行われている。
そして第
2の研究は,政府収入と政府支出の時系列データを使用し,共和分 検定に基づき,収入と支出との間に長期的な関係が存在するかどうかを分析す ることによって財政赤字の持続可能性を実証的に検討するものである。
Hakkio and Rush (1991)は,収入と支出の
2変数間での共和分関係の存在が持続可能 性の必要条件であることを示している。しかしここでも,アメリカ合衆国の財 政赤字を分析対象とした一連の研究において,それらの分析結果は必ずしも一 致していない。例えば,
Haug (1991)は,財政赤字の持続可能性を支持する 分析結果を示しているのに対して,
Hakkio and Rush (1991)や
Haug (1995)は,分析の対象期間を考慮すると,特に最近の時点において持続可能性を否定 する分析結果を得ている。ところがその後,
Quintos (1995), Payne (1997)や
Martin (2000)の分析では,いずれも財政赤字の持続可能性を支持する結果
が示されている。上記の実証分析の多くは,共和分検定において収入と支出に
関する構造変化の存在を考慮しており,特に
Martin (2000)は,複数時点での
構造変化の存在を想定した検定方法を採用している。また,このような共和分
413
わが国における財政の持続可能性
‑95‑検定に基づいた実証研究は,アメリカ合衆国以外の他の国の政府を分析対象と しても数多く行われている。そのような諸外国の研究として,例えば,
Payne (1997), Wu (1998), Bravo and Silverstre (2002), Goyal, Khundrapam and Ray (2004), Jha and Sharma (2004)および
Kalyoncu (2005)等が挙げられる。
ところで,平井・野村
(2004)は,近年のわが国政府の一般会計を分析対象 として,上記の共和分検定による手法で財政赤字の持続可能性を検討し,持続 可能とはいえないという分析結果を得ている。そこで,本稿の目的は,
1956年度から
2003年度までを分析の対象期間とし,第
1の研究に従い政府債務の 単位根検定を用いて,わが国政府の一般会計における財政赤字の持続可能性を 改めて検討することである。とりわけ本稿の分析では,単位根検定において構 造変化の存在を考慮する。政府の財政赤字はこれまで石油危機や景気後退等,
さまざまな要因によって影響を受けていると考えられ,検定においても構造変 化の存在を無視できないであろう。
Payneand Mohammadi (2006)は,アメリ
カ合衆国の財政赤字について,単位根検定で構造変化を考慮しない場合には持 続可能とはいえないという検定結果を得る一方,構造変化を考慮すると持続可 能性を支持する検定結果を導いている。そのため,本稿の分析においても
Payne and Mohammadi (2006)と同様に,単位根検定では構造変化の存在を考 慮に入れた
Perron (1997)の検定方法を採用する。
本稿の構成は,以下の通りである。第
II節において,単位根検定により財政 赤字の持続可能性を分析するための理論的枠組みを提示する。そして第 I I I節で はまず,実証分析の方法や使用するデータについて説明する。次に実証分析を 行い,その分析結果について検討する。最後に第 w 節で結論と今後の課題を述 べる。
II .
分析の理論的枠組み
本節では,財政赤字の持続可能性をめぐる実証分析の理論的枠組みを提示す
る。そこでいま,
t時点における政府の予算制約が,次式で与えられるとする。
‑96‑
香川大学経済論叢
414Gt +(l +it)B□ =R
げ
Bt.( 1 )
ここで,
Gtは政府の財・サービス購入と移転支払い(または,債務に対する 利払いを除く政府支出),凡は政府の租税収入,凡は政府債務の残高,そし てれは実質利子率である。これより,基礎的財政余剰を S 1
=Rt‑Gtとおい て , ( 1 ) 式を前向きに解くと,次式で表示される政府の異時点間の予算制約式を 得る。
B, ~E,:
合 [ 八
(1+1i,+Jい ] 十
}i:'!,凡 八
(1+¥,+,)s,+,.( 2 )
ここで,凡は
t時点の情報に基づく期待値オペレータである。
(2)式より,財 政赤字の持続可能性の条件は無限先の将来における債務残高の割引現在価値が ゼロに収束すること,すなわち,
n門 E
直
(1+¥t+j)叩
=0,( 3 )
が成立することである。したがって,財政赤字が持続可能であるとき, ( 2 ) 式は,
B,
~E,"合[州 1 + ¥ , . , い ] , (4)
となる。
(4)式は,政府債務の残高が将来にわたる基礎的財政余剰の割引現在価 値の合計に等しくなることを意味している。
これより,財政赤字の持続可能性の検定は,
(3)式が成立するか否かを検定す
ることである。
Hamilton and Flavin (1986)は,割引率としての実質利子率を
一定
(it= i)と仮定して,検定を実施するために
(2)式に相当する次式を導出し
ている。
415
わが国における財政の持続可能性
‑97‑Bt =Et~
こ
/1し )応
+A(l+i)1. (5)ここで,政府債務が持続可能であるかどうかは,
A=Oであるか否かで確かめ られる。もし
A=Oであれば,政府の債務は持続可能であると判断される。
Hamilton and Flavin (1986)
では,
(5)式の右辺第
1項が定常過程に従うとき,
A=O
の下で債務残高
Btもまた定常であることが示され,これに基づき
Stと Biの単位根検定が行われている。しかし, Hamiltonand Flavin (1986)の分析 結果は,実質利子率が一定であるという仮定に依存している。
そこでこれに対して,
Trehan and Walsh (1991)は,実質利子率が一定であ るという仮定を緩和して,次の命題を導出している。
命題
l+itが期待値で 1+0(0>0)を下限とする確率過程であり,さらに Lをラグ・オペレータとして,
(l‑L)Btが定常過程に従うならば,そのとき財政赤字の持続可能性の条件 ( 3 ) が満たされる。
上記の命題は,実質利子率の期待値が正であるとき,債務残高の一階の階差
(すなわち,政府の財政赤字)が定常であることが政府債務の持続可能性のた めの十分条件であることを示している。ここで,
Payneand Mohamrnadi (2006)によれば,財政赤字の単位根検定により,単位根の存在を棄却する検定結果 は,財政赤字の持続可能性の強い形式
(strongform)を支持するものと考えら
(2)
れている。
また,
Wilcox (1989)は,実質利子率が一定であるという仮定を緩めて実現 した実質利子率を利用し,まず債務残高の割引現在価値の系列を求めている。
そして,債務残高の割引現在価値が
AR過程に従うとき,財政赤字の持続可能
(2) Payne and Mohammadi (2006)
はさらに,第
I節で述べた共和分検定に甚づく研究に おいて,政府収入と政府支出との共和分関係の存在が財政赤字の持続可能性の弱い形式
(weak form)
を支持するものであることにも言及している。
‑98‑
香川大学経済論叢
416性の条件として,債務残高の割引現在価値が定常であり,かつその無条件期待 値がゼロであることを示している。しかし,土居
(2000a, b)は,わが国で実 現した実質利子率を用いて検定を行うと,石油危機の時期で実質利子率が負 になる等,動学的効率性の議論と整合性を失う恐れがあることを指摘してい る。本稿の実証分析では,上記の命題に基づき,政府の債務残高に関する単位 根検定を実施することにより,わが国の財政赤字の持続可能性を改めて検討す
~3~
ill.
実 証 分 析
1
■分析の方法
前節で示されたように,実証分析では,政府の債務残高凡の
1階の階差,
すなわち財政赤字について単位根検定を行う。そのためにまず,
Dickey and Fuller (1979, 1981)による
ADF (Augmented Dickey‑Fuller)検定を適用する。
しかし,すでに述べたように,政府の財政赤字には,分析の対象期間において 構造変化が生じているかもしれない。
そこで,このような可能性を考慮に入れ,
Payneand Mohammadi (2006)に 従って,次に
Perron(1997)の単位根検定を行うことにする。本稿の分析では,
Perron (1997)
の 検 定 方 法 の 中 で , 以 下 で 説 明 す る
2つの
IO (Innovational Outlier)モデルを取り上げる。
Perron(1997, p. 358)の ( 1 ) 式と ( 2 ) 式を参照され
たい。第
1のモデルとして,μ,
0, /3, iJ,a と
Ci(i = 1, 2,‑・ ・, k)を回帰係数,
釦を誤差項,
tをタイムトレンド,れを構造変化時点の候補として,
a=lを検定するために次の回帰式を考える。
(3)
Greiner and Semmler( 1 9 9 9 ) や
Getzner,Glatzer and Neck( 2 0 0 1 ) の実証研究でも,
実現した実質利子率を用いて求められた
1責務残高の割引現在価値の系列に基づき,財 政赤字の持続可能性をめぐるいくつかの検定が行われている。ここで,
Greinerand Semmler( 1 9 9 9 ) と
Getzner,Glatzer and Neck( 2 0 0 1 ) は,それぞれドイツとオーストリ
アの財政を分析対象としている。本稿では,債務残高の系列について,このような割引
率を考慮せずに分析を行うことにする。
417
わが国における財政の持続可能性
‑99‑k
モデル
1:Yt =μ+0DUt +(]t+JD (T.けげ
ayt‑1+~Ci △yぃ+
et. (6)i= 1
ここで,△ は 階 差 演 算 子 , ま た
DUt= l (t > Tb)とD
(Tiけ
t= l( t = T
b + l)はダミー変数であり,
1(.)はインデイケーター関数である。このモデルでは,婦 無仮説と対立仮説の双方において構造変化時点(ブレーク点)の候補れでの 定数項の変化を認めている。さらに,第
2のモデルとして,μ,
0, /3,r ,
a,a
と
ci(i=l, 2,… ,
k)を回帰係数として,
a=lを検定するために次の回帰式を考える。
モデル
2:Yt =μ+0DUげ
{3t+rDTt+8D (Ti
リげ
GJt‑1+図
Ci△
y曰 +et. (7)i = 1
ここで,
DT1= 1 (t >T , り (t‑T, リはダミー変数である。このモデルでは,定数 項と傾きがブレーク点の候補冗で変化することを認めている。
(6)式と
(7)式で は,拡張項の次数
Kと真のブレーク点
T{は未知であるので,この両者を推定 する必要がある。
まず,上式
(6), (7)の拡張項の次数
k(i = 1, 2,…,
k)については,最大次数 kmaxから始めて順番に次数
kを
1だけ減らして,匝婦係数が有意になるとこ
ろで決める。もしすべての
1,2,… ,
kmaxが有意でなければ,
(6), (7)式で拡張項 を除いた式を用いる
(k= O)。したがって,
k=Oを含めて
k= 0, 1,…,
kmaxで ある。実証研究では,
kmaxとして,
4, 8, 10, 12に設定されることが多い。
もし年次データ等で,データ数が少ないときには 4をしばしば利用する。ここ で,拡張項の回帰係数の推定値に基づ< t 値について, t 分布ではなく標準正 規分布を用いて検定する。
t分布ではなく標準正規分布を利用することについ ては,
Ngand Perron (1995)の参考文献を参照されたい。
t値による両側検定 では,
Perron(1997)に従って
10%の標準正規分布の臨界値
1.645を用いる。
したがって,拡張項の回帰係数しは,
t値の絶対値が
1.645を超えれば有意に
なる。この方法の理論的な根拠についても,
Ngand Perron (1995)を参照され
‑JOO‑
香川大学経済論叢
418たい。なお,本稿の分析では,後述のように
kmax= 5を用いる。
次に,ブレーク点の候補れを決定する方法として,
Perron (1997)は,上 記の
(6)式と
(7)式を用いた 3 つの検定方法を分析している。本稿では,
(6)式と
(7)式における回帰係数の制約
a=lの
t統計量を最小化するようにブレークの候 補時点れを選択する方法について取り上げる。他の
2つは,
(6)式と
(7)式の
Oと
rの t 値を最小にする方法とこの
0とァの t 値の絶対値を最小にする方法 である。
(6)式に対しては,れの範囲は,
k+2s Tbs T‑2である。
(6)式で
K個の拡張項を追加しているために,
k+lsれである。さらに, ( 6 ) 式の
DU1と
D (T.り
tの値を考慮して,
k+2s Tbs T‑2である。なお,
Tb=k+ 1, T‑1のときに,検定統計値の計算は不可能である。一方,
(7)式に対しては,
mの 範囲は,
k+3sTbsT‑3である。
(6)式と同様にして,
K個の拡張項の存在の
ために,
k+lsれである。さらに, ( 7 ) 式の
DUt, DTt, D (T.凸 の 値 を 考 慮 し て ,
k+3s Tbs T‑3である。なお,
Tb=k+2, T‑2のときに,検定統計値 の計算は不可能である。したがって,計算手順は,
(6)式に対しては,
a=lの
t統計量を
k+2s Tbs T‑2の範囲で最小化する。そして, ( 7 ) 式に対しては,
a=l
の
t統計量を
k+3s Tbs T‑3の範囲で最小化する。ここで,
Payneand Mohammadi (2006)は , ( 7 ) 式に基づく方法で分析している。
また,
Perron(l997, p.362)では,
(6)式に関する臨界値の表は,
T=60, 80, 100,co に対して,
Table1の
(a)で与えられている。そのため,単位根の検定 統計量が有意であるかどうかを,
T=60で指定された臨界値で判断する。
一方,
(7)式に関する臨界値の表は,
T=70, 100,co に対して,
Table1の
(d)で与えられている。それゆえ,単位根の検定統計量が有意であるかどうか
を ,
T=70で指定された臨界値で判断する。さらに,
Perron(1997)の
Table1で は , 臨 界 値 は
kmax= 5を 用 い て 計 算 さ れ て い る た め , 本 稿 の 分 析 で も
kmax = 5を用いる。もし単位根の検定統計値が有意であれば,れは構造変化時点である。ただし,本稿の分析データでは,
T=48のデータを用いる。した
がって,
Perron (1997)の臨界値を用いた判断では,本稿の分析でバイアスが
存在していることに注意すべきである。
419
わが国における財政の持続可能性
‑JOI‑2.
デ ー タ
本稿の分析では,わが国政府の一般会計を分析対象として,財政赤字の持続 可能性を検討する。分析の対象期間は,
1956年度から
2003年度までである。
分 析 で 使 用 す る デ ー タ に つ い て , 政 府 債 務 の 名 目 残 高 凡 は , 『 国 債 統 計 年 報』(財務省理財局)の各年度版から求められる。ここで,政府の債務残高と
(4)
して,国債の負担会計別現在高のうち一般会計負担分を使用する。この政府の 債 務 残 高 凡 を 用 い て , 政 府 の 名 目 財 政 赤 字 几 が 債 務 残 高 の 一 階 の 階 差 , す なわち
Dt= Bt ‑Bt‑lとして求められる。なお,ここで使用されるデータの期 間は
1955年度から
2003年 度 ま で あ る が , 第
1階 差 変 数 几 に つ い て は
1956年度から
2003年度までのデータが利用可能になる。そのため,本稿における 分析の対象期間は,
1956年度から
2003年度までとなる。
以下では,単位根検定を実施する財政赤字の変数として,財政赤字几を実 質化した変数
RDt,さらに
Payne and Mohammadi (2006)と同様,名目
GDPを用いて,財政赤字
D1の対
GDP比 率 で 表 示 し た 変 数
DYtの
2つの変数を考 えることにする。変数の実質化については,
GDPデフレーター
(1990暦 年 基 準)を使用する。ここで使用する
GDPデフレーターおよび名目
GDPのデータ
は,『国民経済計算年報』(内閣府経済社会総合研究所)より求められる。
図
1と図
2にはそれぞれ,上記のように定義された財政赤字の変数
RD1と
DYtの推移が描かれている。これらの図からも,わが国の財政赤字について,
構造変化の存在の可能性を否定できないであろう。さらに,表
1には,財政赤 字の変数
RD1と
DYtの時系列データに関する記述統計量がそれぞれ表示され
(4) 政府の債務残高のデータとして,債務残高をそのまま使用するか,あるいは債務残高 から政府の金融資産を控除した純債務残高を使用するかという問題がある。
Hamilton and Flavin (1986)をはじめとする諸外国での一連の実証研究においては,後者のデー
タが使用されることが多い。ここで,政府の債務は,政府の予算制約式 ( 1 ) より,租税収
入で返済されることを想定している。それゆえ, ( 1 ) 式と整合性を保つように政府の純債
務残高を計算する場合,債務の返済に充てられることを予定している金融資産を債務残
高から控除する必要がある。しかし,実際に政府のどのような金融資産の売却収入が債
務の返済に充てられるのかは必ずしも明らかではない。そのため,本稿の分析では,政
府の債務残高のデータをそのまま使用した。
‑102‑
香川大学経済論叢
420図
1国(一般会計)の財政赤字の推移:
1956‑2003年度
兆円
50 45 40 35 30 25 20 15 10 5゜
‑5
置塁攣感冷疇噂唸賢唸 謬忍虚忍忍翌翌虚喜置謬虚攣厨)年度
三
0.08 0.07 0.06
0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00
‑0.01
図
2国(一般会計)の財政赤字の対
GDP比率の推移:
1956‑2003年度
置姜菱忍~C':)'O\,,,~
翌翌翌厨心汽喜羹氏翌翌翌虚蔓姜蔓凌這岱亨蕊年度ビ
421
わが国における財政の持続可能性
表
1国(一般会計)の財政赤字に関する記述統計量:
1956‑2003年 度 財政赤字
RD1平 均 ( 兆 円 )
9.998299中央値(兆円)
最 大 ( 兆 円 ) 最 小 ( 兆 円 ) 標準偏差 歪 度 尖 度
Jarque‑Bera
統計量
財政赤字の対
GDP比率
DYi平 均
中央値 最 大 最 小 標準偏差 歪 度 尖 度
Jarque‑Bera
統計量
5.602379 44.49615
‑0.282494 12.14089 1. 368268 4.004851 16.99671 (0.000204)
0.027703 0.019176 0.075592
‑0.001674 0.023314 0.413580 1. 966019 3.506620 (0.173200)
注:
Jarque‑Bera統計最における括弧内の数値は,
p値 で あ る 。 記 述 統 計
量の値は,
EViews5.1を使用して計算された。
‑103‑
ている。ここで,
Jarque‑Beraの統計量は,変数
DYtについては財政赤字が正 規分布に従うという帰無仮説を棄却できないが,変数
RDtについては帰無仮 説が棄却されるという結果を示している。
3.
分 析 結 果
まずはじめに,財政赤字の変数
RDtと
DYtについて,それぞれ
ADF検定の
結果を検討しよう。財政赤字
RDtに関しては表
2のパネル
(A)'財政赤字の対
GDP比率
D1うに関しては表
3のパネル
(A)に単位根検定の結果がそれぞれ示
‑]04‑
香川大学経済論叢
422されている。表
2と表
3から,財政赤字の各変数はいずれも定常とはいえず,
I (2)
変数になることがわかる。したがって,わが国の財政赤字の持続可能性
(5)
については疑わしいという結果が得られている。
そこで次に,わが国の財政赤字について構造変化の存在の可能性を考慮し,
Perron (1997)
の単位根検定の結果を検討する。財政赤字
RDtに関しては,Perron (1997)
の
2つ の 検 定 方 法 に つ い て の 結 果 が 表
2の パ ネ ル
(B)に示さ れている。モデル 1を用いた単位根検定の分析結果では,μ, 0 ,
/3,B , a と
C; (i =
1 , 2 , ・ ・ k) ・ , を回帰係数として,推定したブレーク点の候補冗を用いて 回帰分析を行っている。表
2には,μ,
0, /3, B,a の回帰係数の推定値と
t値 がそれぞれ示されている。ここで,
t(a= 1)が有意であれば,この分析には意 味がある。ただし,表では,
t(a= 1)が有意でない場合にも回帰分析の結果を 示している。表
2より,構造変化時点(ブレーク点)の候補は
1996年度であ り,選択された拡張項の次数は
5である。
t(a= 1) = ‑4.3656196の数字は,
10%
の有意水準ー
4.92を用いても有意でない。そのため,
a=lという帰無仮説を棄却できない。
また,モデル
2を用いた単位根検定の分析結果でも,同様にして,μ,0, /3,r ,
B,a の回帰係数の推定値と
t値がそれぞれ,表
2のパネル
(B)に示されて いる。構造変化時点(ブレーク点)の候補は
1986年度であり,選択された拡張 項の次数は
5である。
t(a= l) = ‑4.7431661の数字は,
10%の有意水準ー
5.29を用いても有意でない。これより,モデル
2を用いても a=lという帰無仮説を棄却できないことがわかる。そこで,これら上記の結果は,構造変化を考慮 しても,財政赤字の持続可能性の強い形式
(strongform)の条件を満たしてい ないことになる。
さらに,財政赤字の対
GDP比率
D兄に関しては,
Perron (1997)の
2つの
(5)
定数項とタイムトレンドをともに含まない回帰式による
ADF検定統計量の値は,財 政赤字
RDバこついては,レベル変数で一
0.054284,第
1階差変数で一
1.358831,そして 第
2階差変数で
‑6.557064であった。また,同じ検定方法で,財政赤字の対
GDP比率
DYi
についての ADF検 定 統 計 量 の 値 は , レ ベ ル 変 数 で 一
0.485768,第
1階 差 変 数 で
‑1. 944520,
そして第
2階差変数で一
6.168871であった。
423
わが国における財政の持続可能性
‑105‑表
2 (A)ADF検定
ADF(C) RD1 ADF(C)
△
RD1 ADF(C)ぷ
RD1 ADF(C + T) RDt ADF(C+T)△
RD1 ADF(C+T)ぶ
RD1国(一般会計)の財政赤字
RD,t こ関する単位根検定:
1956‑2003年度
ADF統計量 拡張項の次数
‑1.000410
‑1. 672533
‑6. 473131 a
‑3. 299415 C
‑1. 932485
‑6. 339641 a
5 4 3 5 4 3
注:
ADF(C)と
ADF(C+T)はそれぞれ,定数項を含めた回帰式,定数項とタイムトレンドを 含めた回帰式による単位根検定の結果を示している。
a(1 %), b (5%), c (10%)は有 意水準である。拡張項の次数は,
Ngand Perron (1995)に従って,標準正規分布(漸近正 規分布)の両側検定の
10%有意水準
1.645を用いて,最大次数
lemax= 5として拡張項の
t統計量に基づき選択される。拡張項の次数は,選択された次数を示している。
Fuller(1996)より,
T=50に対して,定数項を含めた回帰式による
ADF検定についての臨界値は,
a (1 %) : ‑3.59, b (5 %) : ‑2.93, c (10%): ‑2.60
である。同様に,定数項とタイ ム ト レ ン ド を 含 め た 回 帰 式 に よ る
ADF検定についての臨界値は,
a(1 %) : ‑4.16,b (5 %) : ‑3. 50, c (10%) : ‑3.18
である。
(B)Perron (1997)
の単位根検定 モデル
1:RD1 = ‑32. 490916+67. 262115 D U +3. 386149 t ‑101. 412754 D (T, り+0.22064ly曰 +e1 (‑1, 952628) c (2. 044082) b (3. 869329) a (‑2, 217382) b (1. 235933)
拡張項の次数 5
構造変化時点(ブレーク時点)
1996 (Tb = 41) t (a= 1) ‑4. 3656196注:
T=48である。回帰分析のデータ数は
42個である。拡張項の次数は,
Perron (1997)と
Ng and Perron (1995)に従って,標準正規分布(漸近正規分布)の両側検定の
10%有意水 準
1.645を用いて,最大次数
kmax= 5として拡張項の
t統計量に基づき選択される。拡張 項の係数は示されていない。括弧内の数字は
t値であり,
a(l%), b(5%), c(10%)は有意水準である。拡張項の次数は,選択された次数を示している。
t(a=1 ) は , ( 6 ) 式を 用いた単位根の検定統計量である。この
T=60に対する有限臨界値は,
a(1 %) : ‑5. 92,b (5 %) : ‑5.23, c (10%) : ‑4. 92
である。
モデル
2:RDt = ‑45. 565534‑114. 327225 DU +4. 546822 t (‑2. 097141) b (‑2. 940753) a (3. 348855) a
+ 12.154980 DT +35. 582948 D (T, り+0.226632y
←
1 +e1 (3. 359249) a (0. 793886) (1. 389964)5 1986 (T. = 31)
‑4. 7431661
拡張項の次数
構造変化時点(ブレーク時点)
t (a=
1 )
注:上記の注と同じである。ただし,
t(a= 1)は , ( 7 ) 式 を 用 い た 単 位 根 の 検 定 統 計 量 で あ る。この
T=70に対する有限臨界値は,
a(1 %) : ‑6.32, b (5 %) : ‑5.59, c (10%)・・‑5.29