ランダム磁場下の
GaAs / AlGaAs
へテロ構造 二次元電子系の磁気抵抗:
相関長依存性
Magnetoresistance of two-dimensional electron systems in GaAs / AlGaAs heterostructures under random magnetic fields:
correlation length dependence
物理学専攻 尾高 孝祐
Kosuke Odaka
1
序論近年,ランダム磁場下の二次元電子系の輸送特性の研究が行われている.二次元電子系に対してランダム磁場 を形成する代表的な手法として,ホールバー型試料の上に薄膜強磁性体を載せる手法がある.印加磁場によって ランダム磁場を変化することが可能になり,強磁性体の厚さやサイズを変化させることでランダム磁場の振幅や 相関長を制御できる利点がある.
梅鶯
[1],
廿楽[2]
はこの手法を用い,1種類の強磁性体Co
ディスクを領域面積30% ∼ 35%,
膜厚90nm
でラン ダムに配置し,相関長を系統的に変化させたランダムパターンを作製し,ランダム磁場の平均値がゼロ及び正の磁 気抵抗効果を調べた.その結果,梅鶯は平均値が正の場合,平均値の増加に伴う磁気抵抗がランダム磁場の相関長ξ
とサイクロトロン半径r
cとの比を変数とした単一関数f ( ξ/ r
c)
によって統一的に表される可能性を示唆した.し かし,梅鶯の作製した2
個の試料には,関数f
に有意な違いが観測された.廿楽はこの有意の誤差が,試料特性の 違いによるものだと考え,一つのチャネル上に全ランダムパターンを作製し,同一試料特性の元でスケーリング則 を検証しようとした.しかし, Coディスクの直径サイズ依存性によりスケーリング則を検証することが出来なかっ た.そこで,今回は,1つのチャネル上に全試料を載せたホールバーを作製し,また複数種類のCo
ディスクを配置 することでより一般性をもつランダムなパターンを作製する.この系を用いて磁気抵抗の測定を行い,磁気抵抗がρ
′∝ f
(
ξ rc(B))
という普遍的な関係によって表わされるのかを確証することを目的とした.
2
実験本研究では
GaAs / AlGaAs
ヘテロ構造基板を使用し,電子線リソグラフィ,ウェットエッチング,真空蒸着の技術 を用いて,ゲート電極付ホールバーを作製した(図1).電極は S(ソース),D(ドレイン)の電流用電極,GL,
GR
のゲート電極,L1〜L10,R1〜R10の電圧用電極の計24
個を設けた.チャネル幅と電圧端子間長は20 µ m
で,ホールバーのチャネル長は
400 µ m
である.チャネル表面(図2)に膜厚 50nm
の金を蒸着してゲート電極とし,金 ゲート上に強磁性体コバルト円盤をランダムに配した4
個のランダム磁場領域と,金ゲートのみの1
個の参照領 域を設けている.二次元電子面は金ゲート表面から110nm
離れて分布している.ランダム磁場領域は膜厚82nm
の強磁性体コバルト円盤を60 µ m × 20 µ m
の領域に対し,重複しないようにランダムに配置して形成している.各 ランダム磁場領域の直径・面積比は(0.9,1.2 µ m)・40%
,(0.6,0.9µ m)・40%
,(0.4,0.7)µ m・40%
となるように,それ ぞれの直径に20%,20%づつ占有領域を振り分けてランダムに配置した.
以降,各試料をA,B,C
と呼ぶことにす る(2C
′は予備領域).強磁性体コバルト円盤の膜厚を固定し,直径を変化させることで,ランダム磁場の相関長を 系統的に変化させた.また,梅鶯,廿楽と比べての二種類の直径を用い,より高密度に設計したため,より均一で蜜 度の高いランダム磁場分布を形成することができている.各ランダム磁場領域の強磁性体コバルトの飽和磁化が二次元電子面に作るランダム磁場の垂直成分
Bz
を数 値計算した.各試料A〜C
の実効値B
rmsは36.1,39.9,39.0mT
となっている.ランダム磁場の相関長は,相関< B
z(R)B
z(R + r) >
を用いて算出し,相関関数cos(a r) exp( −r
2/ 2 ξ
2)
を関数フィッティングして,相関長ξ
を求めた.相関長は
x,y
方向に異方性が現れるため,それらの値の平均をとってそれぞれξ = 0.526 ,0.377 ,0.280 µ m
を得た.測定は交流四端子定電流法で行った.試料を3
He-
4He
希釈冷凍機内に設置し,約70mK
で抵抗測定を行った.試1
料電流
50nA,周波数 87.0Hz
で測定し,ゲート電圧を+200mV
から-200mVの範囲で印加し,いくつかの電子濃度 において磁気抵抗を測定した.磁場は超伝導磁石を用いて-10Tから+10T
の範囲で印加し,二次元電子面に対し 磁場を平行に印加した測定(ランダム磁場の平均値がゼロ)と7 . 3
◦傾けた測定(ランダム磁場の平均値が正)を 行った.図
1:
試料設計図.図
2:
チャネル部分拡大図.3
結果図
3
は,二次元電子面に対して平行に磁場を印加したθ = 0
◦でゲート電圧200mV
での磁気抵抗の印加磁場依存 性である.ゼロ磁場近傍に強磁性体コバルト円盤の磁化に伴う磁気抵抗の増加(ダウンカスプ)が見られる.磁 場の絶対値が約0.3T
以上の範囲では磁気抵抗がほぼ飽和している.これは強磁性体コバルト円盤の磁化が飽和し たためである.図4
は,二次元電子面に対して磁場を傾けて印加したときの,ゲート電圧200mV
での磁気抵抗の 印加磁場依存性である.印加磁場角度θ
は小さいので,強磁性体の磁化はθ = 0
◦の場合とほとんど変わらず,印 加磁場のz
成分B
zは強磁性体によって作られるランダム磁場の平均値B
と等しいと考えられる.つまり,Bzの増 加はランダム磁場の平均値の増加を意味する.そのため,横軸はランダム磁場の平均値B
としてある.θ= 0
◦の 測定結果と同様に,ゼロ磁場近傍に強磁性体コバルト円盤の磁化に伴う磁気抵抗の増加(ダウンカスプ)が見ら れる.磁場を増加させると,ランダム磁場の平均値の増加に伴って抵抗が増加する.抵抗のピーク付近から,シュ ブニコフ・ドハース振動が始まっている.45
40
35
30
25
20 rxx (Ω/£)
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0
Bap(T)
A B C Vg = 200mV
ns = 4.5 × 1015m-2
図
3:
ランダム磁場の平均値がゼロのときの磁気抵抗.80 70 60 50 40 30 20 10 rxx (Ω/£)
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0
B(T) Vg = 200mV q = 7.25o
_ A B C
図
4:
ランダム磁場の平均値が正のときの磁気抵抗.2
4
考察(ランダム磁場の平均値が正の場合)磁場の正負で磁気抵抗の非対称性が存在するので
B = 0
で折り返し平均化を行った. .図5
は電子濃度n
s≈ 4 . 5 × 10
15m
−2での結果である.強磁性体Co
ディスクの磁化の飽和による磁気抵抗の部分を0
にスケールし,x軸をξ/ r
cでスケールしなおして,各試料のy
軸に任意定数を掛けることで磁気抵抗の軌跡を一致させたのが図6
である.廿楽の試料では,磁気抵抗の立ち上がり部分で,Coディスクのサイズ依存性により磁気抵抗の軌跡が一致してい なかった.しかし,今回のデータでは立ち上がり部分でも軌跡が一致している.この結果は磁気抵抗が
ρ
′∝ f
(
ξ rc(B))
という普遍的な関係によって表わされることを証明している.また,サイズ依存性による影響を打ち消せたという ことは,今回作製したランダムパターンが梅鶯,廿楽の作製した一種類の
Co
ディスクからなるランダムパターンよ り一般性をもっていることを示している.図
5
の磁気抵抗の立ち上がり始める磁場のサイクロトロン直径を各試料の相関長に対してプロットすると図7
が 得られた.この結果から,磁気抵抗の立ち上がり磁場は相関長に依存していることがわかる.また,磁気抵抗の立ち 上がり付近では,磁場の平均値は小さいのでサイクロトロン直径もある程度の大きさを持っている.そこで一つの 試みとして,磁気抵抗の立ち上がりは,大きいサイズと小さいサイズのCo
ディスクの直径の平均値d
aveに依存して いるのでないかと考え,それぞれの試料の相関長ξ
と直径の平均値d
aveの依存関係を調べた.(図8)
この結果から, このランダム系においては相関長がCo
ディスクの平均値によって決まっているといえる.また図(7)(8)
の関係か ら,磁気抵抗の立ち上がり磁場はCo
ディスクの平均値によって決まっていることを見出した.100
80
60
40
20 rxx (Ω/£)
1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
B(T) A B C Vg = 200mV ns ≅ 4.5 × 1015 m-2
_
図
5:
ランダム磁場の平均値の増加に伴う磁気抵抗.50
40
30
20
10
0
-10
r¢ (Ω/£ : arbitrary)
3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5
0.0 x / rc
Vg = 200mV ns ≅ 4.5 × 1015 m-2
C B A
_
図
6:
図5
の横軸をξ/ r
cになおし,スケーリングファク ターを掛け軌跡を一致させた図.7 6 5 4 3 2 1 0
dc(µm)
0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
ξ(µm)
Vg = 200mV
ns≅ 4.5 × 10
15m
-2図
7: d
cと相関長ξ
の関係.1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 dave(µm)
0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
ξ(µm) Vg = 200mV ns≅ 4.5 × 1015 m-2
図
8: Co
直径の平均値と相関長ξ
の関係.3
5
まとめGaAs / AlGaAs
ヘテロ構造基板をホールバー素子に加工し,チャネル表面上に直径を系統的に変化させた強磁性体コバルト円盤をランダムに配置した試料を作製し,ランダム磁場の平均値が正の場合での磁気抵抗を調べた.ま た,より一般的なランダムさを実現するため複数個の
Co
ディスクをランダムに配置させるシミュレーションプログ ラムを作成した.一種類のCo
ディスクからなるランダムパターンよりも一般的なランダムさを持つパターンの作 製に成功した.このことはスケーリングを行った後の磁気抵抗の立ち上がり部分が今回の試料においては一致し,Co ディスクのサイズ依存性を打ち消せたことからも実験的に確認することが出来た.磁気抵抗の軌跡が立ち上がり部 分においても一致したことにより,立ち上がりから,最大値までにおいて,磁気抵抗が(
ξ rc(B))
という普遍的な関係に よって表されることをはじめて示せた.また,二種類の
Co
ディスクを配置したランダム系の場合のランダム系に おいて相関長は,Coディスクの直径の平均値に依存している,したがって,磁気抵抗の立ち上がり磁場はCo
ディス クの直径の平均値に依存している可能性が高いことを見出した.参考文献