ベクトルと行列 参考資料 4 ( 演習問題解答 ) 2020年度第2ターム
学芸学部数学科 1年(木曜3,4限 /オンライン講義) 担当: 原 隆(学芸学部数学科・准教授)
■演習問題解答 演習問題4-1.
丁寧に図を描いて、平面図形の合同・相似に着目しよう!!
(1) 回転変換fθ
(a)
O
A B
C A′
B′
C′
x y
a a+b b
fθ(a) fθ(a) +fθ(b)
fθ(b)
fθ
θ θ 1◦. fθ(a+b) =fθ(a) +fθ(b)
ベクトルの始点をOとしたときのベクトルa, b,a+bの終点に対応する点をそれぞれA,B, C とし、ベクトルfθ(a),fθ(b),fθ(a) +fθ(b) の終点に対応する点をそれぞれ A′,B′,C′ と する。このとき、平行四辺形OA′C′B′は平行 四辺形 OACB を θ だけ回転移動したものと なる (右図を参照)。したがって、a+b を θ だけ回転するとfθ(a) +fθ(b)と一致する、即 ち
fθ(a+b) =fθ(a) +fθ(b)が成り立つ。
(b)
O A
P A′
P′
x y
a ka kfθ(a)
fθ(a) fθ
θ 2◦. fℓ(ka) =kfℓ(a)
ベクトルの始点をOとしたときのベクトルa,ka の終点に対応する点をそれぞれA,Pとし、ベクト ル fℓ(a), kfℓ(a) の終点に対応する点をそれぞれ A′,P′ とする。このとき、線分 OP と線分 OP′ の成す角は θ で、しかも OP = OP′(= |k||a|) が成り立つ。したがって、ka を θ だけ回転する と kfθ(a) と一致する、即ち
fθ(ka) =kfθ(a)が成り立つ。
(2) 鏡映変換fℓ
(a)
O
A B
C A′
B′ C′
x y
ℓ:y=x
a a+b b fℓ(a)
fℓ(a) +fℓ(b)
fℓ(b) fℓ
1◦. fℓ(a+b) =fℓ(a) +fℓ(b)
ベクトルの始点をO としたときのベクトルa, b,a+bの終点に対応する点をそれぞれA,B, C とし、ベクトルfℓ(a),fℓ(b),fℓ(a) +fℓ(b) の終点に対応する点をそれぞれ A′, B′, C′ と する。このとき、平行四辺形OA′C′B′ は平行 四辺形 OACB を ℓ に関して折り返したもの となる (右図を参照)。したがって、a+b を ℓ に関して折り返すとfℓ(a) +fℓ(b) と一致す る、即ち
fℓ(a+b) =fℓ(a) +fℓ(b) が成り 立つ。
(b)
O A
P A′
P′
x
y ℓ:y=x
ka a
kfℓ(a) fℓ(a)
fℓ
2◦. fℓ(ka) =kfℓ(a)
ベクトルの始点を O としたときのベクトル a,ka の終 点に対応する点をそれぞれ A,P とし、ベクトル fℓ(a), kfℓ(a) の終点に対応する点をそれぞれA′, P′ とする。
このとき、直線 ℓと線分OA の成す角は直線ℓ と線分 OA′ の成す角と等しく、しかも OP =OP′(= |k||a|) が成り立つ。したがって、ka を ℓ に関して折り返す と kfℓ(a) と一致する、即ち
fℓ(ka) =kfℓ(a) が成り 立つ。
(3) 正射影 px
(a)
O
A B
C
A′
B′ C′
A′′
x y
a a+b b
px(a) px(b) px(b)
px(a+b)
px
1◦. px(a+b) =px(a) +px(b)
ベクトルの始点を O としたときのベクトル a, b, a+b の終点に対応する点をそれぞれ A, B, C と し、ベクトル px(a), px(b), px(a+b) の終点に対 応する点をそれぞれ A′, B′, C′ とする。このとき、
OACB が平行四辺形であることから、△OBB′ と
△ACA′′ は合同となる (但し A′′ は A から線分 CC′ に下した垂線の足)。したがって、OC′ の長さ は OA′ の長さとOB′(=AA′′=A′C′) の長さの和 と一致するので、−−→
OC′ =px(a) +px(b) が従う (右 図を参照)。一方で−−→
OC′=px(a+b)であったから、
px(a+b) =px(a) +px(b)が成り立つ。
(b)
O
A P
A′ P′ x y
ka a
px(ka) px(a)
px
2◦. fℓ(ka) =kfℓ(a)
ベクトルの始点を O としたときのベクトル a, ka の終 点に対応する点をそれぞれ A, P とし、ベクトルpx(a), px(ka) の終点に対応する点をそれぞれ A′, P′ とする。
このとき、△OA′A と △OP′P は相似な三角形となる ので、OP′ = |k|OA′ より −−→
OP′ = k−−→
OA′ が成り立つ。
一方で −−→
OA′ = px(a), −−→
OP′ = px(ka) であったから、
px(ka) =kpx(a)が成り立つ*1。
*1k <0のときも、適切な図を描けば同様の議論が成り立つ;各自確認してみよう!!
演習問題4-2.
fA
([
x y
]) :=
[ a b c d
] [ x y ]
= [
ax+by cx+dy ]
であった。
(a) 1◦. fA(a+b) =fA(a) +fA(b)
a= [x
y ]
,b= [x′
y′ ]
とおくと、a+b=
[x+x′ y+y′ ]
である。したがって
fA(a+b) =A(a+b) = [a b
c d
] [x+x′ y+y′ ]
=
[a(x+x′) +b(y+y′) c(x+x′) +d(y+y′) ]
=
[(ax+by) + (ax′+by′) (cx+dy) + (cx′+dy′) ]
=
[ax+by cx+dy ]
+
[ax′+by′ cx′+dy′ ]
= [a b
c d ] [x
y ]
+ [a b
c d ] [x′
y′ ]
=Aa+Ab=fA(a) +fA(b)
より
fA(a+b) =fA(a) +fA(b)が成り立つ。
(b) 2◦. fA(ka) =kfA(a)
a= [x
y ]
とおくとka= [kx
ky ]
である。したがって
fA(ka) =A(ka) = [a b
c d ] [kx
ky ]
=
[akx+bky ckx+dky ]
=
[k(ax+by) k(cx+dy) ]
=k
[ax+by cx+dy ]
=k
([a b c d
] [x y
])
=k(Aa) =kfA(a)
より
fA(ka) =kfA(a) が成り立つ。 □
演習問題4-3.
(1) f1は 角 (
−5 6π
)
の回転変換であるから、その行列表示は角 (
−5 6π
)
の回転行列である。し
たがってAf1 =A−5
6π=
cos
(
−5 6π
)
−sin (
−5 6π
) sin
(
−5 6π
) cos
(
−5 6π
)
= 1 2
[−√
3 1
−1 −√ 3
]
である。
O x
y
ex1 ey 1
f1(ey) 1 2
−
√3 2 f1(ex)
−
√3 2
−1 2
−5 6π
−5 6π 或いは、右図より基本ベクトル ex =
[1 0 ]
および
ey = [0
1 ]
を 時計回りに 5
6π 回転したベクトルはそれ
ぞれ f1(ex) =
−
√3 2
−1 2
, f1(ey) =
1 2
−
√3 2
であるか
ら、f1 の行列表示は
Af1 = [
f1(ex) f1(ey) ]
=
−
√3 2
1 2
−1
2 −
√3 2
となる。
(2)
O x
y
1 1
−1
−1
y=−x ex
ey
f2(ey)
f2(ex) 右図より f2(ex) =−ey およびf2(ey) =−ex が成り
立つ。したがって線形変換f2 の行列表示Af2 は Af2 =
[
f2(ex) f2(ey) ]
= [
0 −1
−1 0 ]
である。
(3) [x
y ]
=xex+yey なので、
f3
([x y
])
=f3(xex+yey)線形性= xf3(ex) +yf3(ey) =x [ 2
−1 ]
+y [4
3 ]
=
[2x+ 4y
−x+ 3y ]
=
[ 2 4
−1 3 ] [x
y ]
となる。したがって f3 の行列表示Af3 は Af3 =
[ 2 4
−1 3 ]
である。
(4) (3)と全く同様に f4
([x y
])
=f4(xex+yey)線形性= xf4(ex) +yf4(ey) =x [ 1
−3 ]
+y [0
2 ]
=
[2x+ 4y
−x+ 3y ]
=
[ 1 0
−3 2 ] [x
y ]
となる。したがって f4 の行列表示Af4 は Af4 = [
1 0
−3 2 ]
である。
※ もちろん(3), (4) は Afi = [
fi(ex) fi(ey) ]
を用いて解答しても良い。
(5) [x
y ]
=k [ 3
−2 ]
+ℓ [ 7
−4 ]
と表せたとすると、x 成分,y 成分を比較して
{ 3k+ 7ℓ=x
−2k−4ℓ=y が成り立つから、これを k,ℓについて解くと k=−4x+ 7y
2 , ℓ= 2x+ 3y
2 となる。よって、
f5
([x y
])
= f5
(
−4x+ 7y 2
[ 3
−2 ]
+ 2x+ 3y 2
[ 7
−4 ])
線形性= −4x+ 7y 2 f5
([ 3
−2 ])
+ 2x+ 3y 2 f5
([ 7
−4 ])
= −4x+ 7y 2
[0 2 ]
+2x+ 3y 2
[ 3
−1 ]
= 1 2
[ 6x+ 9y
−10x−17y ]
= 1 2
[ 6 9
−10 −17 ] [x
y ]
であるからf5 の行列表示Af5 は Af5= 1 2
[ 6 9
−10 −17 ]
となる。
(6) [x
y ]
=k [2
1 ]
+ℓ [7
2 ]
と表せたとすると、x成分,y 成分を比較して
{ 2k+ 7ℓ=x k+ 2ℓ=y
が成り 立つから、これを k,ℓについて解くとk= −2x+ 7y
3 , ℓ= x−2y
3 となる。よって、
f6
([x y
])
= f6
(−2x+ 7y 3
[2 1 ]
+ x−2y 3
[7 2
])
線形性= −2x+ 7y 3 f6
([2 1
])
+ x−2y 3 f6
([7 2
])
= −2x+ 7y 3
[−1 3
]
+x−2y 3
[1 0 ]
= 1 3
[ 3x−9y
−6x+ 21y ]
=
[ 1 −3
−2 7 ] [x
y ]
であるから、f6 の行列表示Af6 は Af6 =
[ 1 −3
−2 7 ]
となる。
【解説】線形変換の行列表示を求める基本問題。この種の問題に解答するためには、線形変換の概念 と 行列表示の意味 をしっかりと理解している必要があります。逆に言えば、そこさえしっかりと 抑えておけばさほど難しい問題ではありません。「線形変換」の概念には慣れていない人が多いと思 いますので、このような問題に対して苦手意識を持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、先 ずは講義ノートやテキストをしっかり見返して「線形変換」や「行列表示」についての理解を深めて から、出来るだけ多くの問題を解いて線形変換の概念に慣れていくようにして下さい。
演習問題4-4.
(1)「原点 O を中心に時計回りに 5
6π 回転させる」線形変換の行列表示は、角 (
−5 6π
)
の回転行
列 A−5
6π=
−
√3 2
1 2
−1
2 −
√3 2
である。したがって、求める点P の位置ベクトルは
A−5
6π
[ 8
−2 ]
=
−
√3 2
1 2
−1
2 −
√3 2
[ 8
−2 ]
= [−4√
3−1
−4 +√ 3
]
であるから、点P の座標は P(−4√
3−1,−4 +√
3) である。
(2)「直線y =−x に関して対称移動させる」線形変換の行列表示は
[ 0 −1
−1 0 ]
である(演習問 題4-3. (2)を参照)。したがって、求める点 Qの位置ベクトルは
[ 0 −1
−1 0 ] [ 3
−1 ]
= [ 1
−3 ]
であるから、点Q の座標は Q(1,−3) である。
(3)「原点O を中心に反時計回りに 2
3π 回転させる」線形変換の行列表示は、角 2
3π の回転行列 A2
3π =
−1
2 −
√3
√ 2 3 2 −1
2
である。したがって、点 (2,4)を原点 O を中心に反時計回りに 2 3π
回転させた点の位置ベクトルは
A2
3π
[2 4 ]
=
−1
2 −
√3
√ 2 3 2 −1
2
[2
4 ]
=
[−1−2√
√ 3 3−2
]
である。
O x
y
ex
1 1
−1
ey
−ex
一方で「y 軸に関して対称移動させる」線形変換の行列表 示は、右図より [
−ex ey
]
=
[−1 0 0 1 ]
である。したがっ て、求める点R の位置ベクトルは
[−1 0 0 1
] [−1−2√
√ 3 3−2
]
=
[1 + 2√
√ 3 3−2
]
であるから、点R の座標は R(1 + 2√ 3,√
3−2) である。
(4)「直線y =−x に関して対称移動させる」線形変換の行列表示は
[ 0 −1
−1 0 ]
である(演習問 題4-3. (2)を参照)。したがって、点(−5,3)を直線 y=−x に関して対称移動させた点の位 置ベクトルは
[ 0 −1
−1 0 ] [−5
3 ]
= [−3
5 ]
である。一方で「原点 O を中心に時計回りに 1
4π 回転させる」線形変換の行列表示は角 (
−1 4π
)
の回転行列 A−1
4π=
cos
(
−1 4π
)
−sin (
−1 4π
) sin
(
−1 4π
) cos
(
−1 4π
)
=
√2 2
√2
2
−
√2 2
√2 2
である。し たがって、求める点 S の位置ベクトルは
A−1
4π
[−3 5
]
=
√2 2
√2
2
−
√2 2
√2 2
[−3
5 ]
= [√
2 4√
2 ]
であるから、点S の座標は S(√ 2,4√
2) である。
【解説】線形変換による点の行き先を求める問題。それぞれの線形変換の行列表示さえ正しく求めら れていれば、後は問題文のベクトルに行列表示を掛けるだけです。その意味では非常に簡単な問題で はありますが、線形変換の行列表示さえ求めてしまえば、どんなベクトルの行き先も “行列を掛ける だけ” で求まってしまう(!!) ということを味わいましょう。線形変換の行列表示を求めること は、
それ程重要な問題なのです。
なお、(3), (4)は2つの線形変換を「立て続けに行う」線形変換(合成変換) となっています。もち ろん合成変換も線形変換となりますが、その行列表示こそが2つの線形変換の行列表示の積 product となっているのです。第3タームの『線形代数学Ⅰ』では、最初に「合成変換の行列表示」として行 列の積を導入した後に、一般の行列の積について学んでいく予定ですので、お楽しみに!!
演習問題4-5.
(1) 点 (−2,4)を反時計回りに 5
6π 回転した後に原点からの距離を 4 倍に延ばす操作は、ベクト ル
[−2 4
]
に行列 4
cos5
6π −sin5 6π cos5
6π cos5 6π
= [−2√
3 −2 2 −2√
3 ]
を掛けることに相当する。した がって
[−2√
3 −2 2 −2√
3 ] [−2
4 ]
=
[−8 + 4√ 3
−4−8√ 3
]
より、点P の座標は P(−8 + 4√
3,−4−8√
3) となる。
(2) 点 (3,−5)を 時計回りに 1
4π 回転した後に原点からの距離を 1
√2 倍に縮める操作は、対応す
るベクトル [ 3
−5 ]
に行列 √1 2
cos
(
−1 4π
)
−sin (
−1 4π
)
sin (
−1 4π
) cos
(
−1 4π
)
= 12
[ 1 1
−1 1 ]
を掛けることに
相当する。したがって
1 2
[ 1 1
−1 1 ] [ 3
−5 ]
= [−1
−4 ]
より、点Qの座標は Q(−1,−4) となる。
(3) 点 A,R,S 及び直線ℓを原点を中心に時計回りに 1
4π だけ回転した際に対応する点及び直線 を A′,R′,S′,ℓ′ と定める(下図参照)。
O
A
x y
ℓ R
S
時計回りに 1 4π回転
−→
反時計回りに 1 4π回転
←−
O
A′ x
y
ℓ′ R′
S′
このとき
cos
(
−1 4π
)
−sin (
−1 4π
)
sin (
−1 4π
) cos
(
−1 4π
)
[2
2 ]
=
√1 2
√1 2
√1 2
√1 2
[2
2 ]
= [2√
2 0
]
より、点 A を時計回りに 1
4π だけ回転させて得られる点 A′ の座標は A′(2√
2,0). また、ℓ′ は直線 OA′ (=x 軸!!) と直交するため、直線 ℓ′ の方程式はx = 2√
2 となる。点 R′,S′ は 直線 x= 2√
2と点 A′ を中心とする半径 √
2 の円周 (x−2√
2)2+y2= 2 との交点であるか ら、それぞれの座標は
R′(2√ 2,√
2), S′(2√ 2,−√
2)
である。点R,S は R′,S′ をそれぞれ原点を中心に 1
4π だけ回転したものだから、
cos−1
4π −sin1 4π sin1
4π cos1 4π
[2√
√2 2
]
=
√1
2 − 1
√2
√1 2
√1 2
[2√
√2 2
]
= [1
3 ]
,
cos−1
4π −sin1 4π sin1
4π cos1 4π
[2√
2
−√ 2
]
=
√1
2 − 1
√2
√1 2
√1 2
[2√
2
−√ 2
]
= [3
1 ]
,
より R(1,3),S(3,1) と求まる。
【解説】 平面の回転変換に関する問題。折角回転変換 (回転行列) を学んだので、回転操作が必要と なる図形の問題を出題してみました。高校で学習する平面幾何学の知識では図形の回転操作 がなか なか巧く出来ないため苦労するのですが、回転変換 (回転行列) を知った皆さんであればそう苦労す ることもなく攻略することが可能だったのではないでしょうか?
さて、皆さんは高校の数学Ⅲで複素平面 (複素数平面) を学習したと思いますが、この問題は 複素平面を用いて 解くこととも出来ます。そう、回転と言えば「複素平面の独壇場」でしたものね!!
余力のある人は、是非複素平面を用いた解答にもチャレンジしてみて下さい!! そして、複素平面での 回転操作と、回転行列を用いた回転操作の間にどんな関係があるのか—? そんな視点で本問を見返し てみると、また新たな発見があるかもしれません。
演習問題4-6.
(1) 規則 fℓθ が線形変換であることを示そう。
(a)
O
A B
C A′
B′ C′
x y
ℓθ
a a+b b fℓθ(a)
fℓθ(a) +fℓθ(b)
fℓθ(b) θ
fℓθ
1◦. fℓθ(a+b) =fℓθ(a) +fℓθ(b)
ベクトルの始点をO としたときのベクトルa,b, a+bの終点に対応する点をそれぞれA,B,C と し、ベクトル fℓθ(a),fℓθ(b), fℓθ(a) +fℓθ(b) の 終点に対応する点をそれぞれ A′,B′,C′ とする。
このとき、平行四辺形 OA′C′B′ は平行四辺形 OACB をℓθ に関して折り返したものとなる(右 図を参照のこと)。したがって、a+bをℓθ に関 して折り返すと fℓθ(a) +fℓθ(b) と一致する、即 ち
fℓθ(a+b) =fℓθ(a) +fℓθ(b)が成り立つ。
(b)
O A
P A′
P′
x y
ℓθ
a ka kfℓθ(a) fℓθ(a)
θ
fℓθ
2◦. fℓθ(ka) =kfℓθ(a)
ベクトルの始点を O としたときのベクトル a, ka の終 点に対応する点をそれぞれ A,P とし、ベクトルfℓθ(a), kfℓθ(a) の終点に対応する点をそれぞれA′,P′ とする。
このとき、直線 ℓθ と線分 OA の成す角 は直線ℓθ と線 分 OA′ の成す角と等しく、しかもOP =OP′(=|k||a|) が成り立つ。したがって、ka を ℓθ に関して折り返すと kfℓθ(a) と一致する、即ち
fℓθ(ka) =kfℓθ(a)が成り立つ。
(2)
O
1 x
y
ℓθ
ex
fℓθ(ex)
θθ cos(2θ) sin(2θ)
O 1
x y
ℓθ
ey
fℓθ(ey)
π 2−θ
π 2−θ
sin(2θ)
−cos(2θ) fℓθ(ex) 及びfℓθ(ey)を計算する。
右上図より fℓθ(ex) =
[cos 2θ sin 2θ ]
である。また右下図に おいて、x 軸の正の方向からfℓθ(ey) に対して測った角 度 (図で 赤い矢印で表した角度)は
π 2 −2
(π 2 −θ
)
= 2θ− π 2 であるから、
fℓθ(ey) =
cos
( 2θ−π
2 ) sin
( 2θ−π
2 )
=
[ sin 2θ
−cos 2θ ]
と計算出来る。
(3) [x
y ]
=xex+yey であったから、
fℓθ
([x y
])
= fℓθ(xex+yey)線形性= xfℓθ(ex) +yfℓθ(ey)
(2)= x
[cos 2θ sin 2θ ]
+y
[ sin 2θ
−cos 2θ ]
=
[xcos 2θ+tsin 2θ xsin 2θ−ycos 2θ ]
=
[cos 2θ sin 2θ sin 2θ −cos 2θ
] [x y ]
より、線形変換fℓθ の行列表示は Aℓθ =
[cos 2θ sin 2θ sin 2θ −cos 2θ
]
となる。
【解説】ベクトルの鏡映変換についての問題。線形変換の応用問題ということで、原点を通る任意の 直線に関する鏡映変換の行列表示を求めてもらいました。応用問題ということで、少し難しく感じら れたかもしれませんが、基本に忠実にfℓθ(ex),fℓθ(ey)がどんなベクトルになるかを丁寧に調べられ れば、決して手の届かない問題ではないと思います。直線の傾きを敢えて(m でなく) 偏角を用いて tanθ で表していることから、三角比を用いて考えれば巧く fℓθ(ex), fℓθ(ey) を求められるのではな いか……? と考えてみると、それなりに解き易くなったのではないかと思います。
ちなみにθ= 1
4π とするとℓθ は直線 y=x となりますが、
Aℓ1 4π =
cos1
2π sin1 2π sin1
2π −cos1 2π
= [0 1
1 0 ]
となり、講義で求めた通りの行列表示が現れます。また、便宜的にθ = 1
2π とすると、直線 ℓ1
2π は (“傾きが ∞ の直線” ということで) y 軸であると考えるのが自然ですが、
A1
2π =
[cosπ sinπ sinπ −cosπ
]
=
[−1 0 0 1 ]
となり、演習問題4-4. (3)で求めた行列表示と一致しています。このように、Aℓθ はこれまでに出 て来たすべての(平面の) 鏡映変換を表すことのできる行列となっているのです。