帝京科学大学紀要 Vol.2(2006) pp. 11-14
水耕ポット試験によるカラシナの成育に及ぼす培養液中鉛およびビスマス濃度の影響
渡邉浩一郎
*木村健太郎
**石原由朗
**(平成 17 年 9 月 30 日受理)
Effect of Pb and Bi concentration in nutrient solution medium on growth and Pb and Bi concentration of shoots and roots of Brassica Juncea.
Koichiro WATANABE*
Kentaro KIMURA**
Yoshiro ISHIHARA**
Experiments were carried out to investigate the effect of Pb and Bi chelated by EDTA in nutrient solution medium on growth and Pb or Bi concentration of shoots and roots of Brassica Juncea. The shoot and root dry weight of B. Juncea under the condition of medium to which 100 μmol l-1 of Pb was given was almost equal to control. The Pb concentration of shoot of B. Juncea in 500μmol l-1 ofPb was 3.8 times higher than that in 100μmol l-1. B. Juncea under the condition of medium to which 100 μmol l-1 of Bi was given was decreased to 52-66 % of control. The Bi concentration of shoot of B. Juncea in 100μmol l-1 of Bi was almost equal to 50μmol l-1. It was considered that the decrease of growth in 500μmol l-1 of Pb was due to accumulate Pb in the shoot and root, but, that in 100μmol l-1 of Bi was due to accumulate Bi in the root.
In this study, it was suggested that the growth of B. Juncea was inhibited by Pb and Bi in nutrient solution.
キーワード:カラシナ, 成育, ビスマス, 鉛, Brassica Juncea, growth, Pb, Bi
1. はじめに
近代工業において、鉛
(Pb)は、蓄電池、無機薬品、
ハンダなどに多用されてきた。これにともなって
Pbによる環境汚染も深刻化し、
2003年2月に施行された 土壌汚染対策法でも憂慮すべき元素として挙げられて いる。
一方、
Pbの人体や環境への毒性が広く知られるよう になったことから、
Pbフリー化が進められてきている。
しかし、それに替わって使用される物質の人体や環境 に対する影響については不明な点が多い。
例えば、Pb フリーハンダにおいて
Pbの代替元素と してビスマス(Bi)が使用されるようになったが、Bi が 環境中に放出されたときでも植物に対する毒性がみら れるのか、あるいは
Pb集積性植物で
Biを集積するこ とができるのかといった点についても明らかにされて いない。
本研究では、重金属集積性が高いといわれているカ ラシナ
1-3)を供試した水耕ポット実験により、培養液中
PbおよびBi濃度が植物体の成育とPbおよびBi濃度に及ぼす影響を調べた。
2. 実験方法
供試植物としてカラシナ
(Brassica Juncea葉から し菜;㈱サカタのタネ)を用いた。種子を
0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で滅菌した後、市販バーミキュラ イトに播種し、最大容水量の約
60%となるように 1/5Hoagland-Arnon培養液(pH6.0)を与えながら第一本葉が展開するまで、人工光型植物育成装置(小糸工 業㈱製パーソナルグロースキャビネット;コイトトロ ンHNM-S11 型)で育苗した。育成条件は、装置内 床面の平均光強度約
220μmol m-2s-1、明期14時間、暗 期
10時間、温度は明期
25℃、暗期20℃、相対湿度は約
70%であった。水耕ポット試験には500ml 容ポリエチレン製ビーカ ーを用いた。育苗した植物体を1ポット当たり3個体 植えにし、1/2 Hoagland-Arnon 培養液(pH6.0)で3日 間栽培した後、1ポット当たり2個体に間引きして
Pbおよび
Bi処理実験をそれぞれ行った。
ⅰ) Pb 処理実験
Pb0、100、500、1000、5000μmol l−1
の5区を設 けた。
Pbの添加は以下のように行った。すなわち、そ
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* 理工学部環境科学科
** 理工学部環境マテリアル学科卒業生
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渡邉浩一郎 木村健太郎 石原由朗
れぞれの濃度になるようにエチレンジアミン四酢酸
(EDTA)-2ナトリウムで調製したEDTA溶液に所定の濃度になるようにPb を硝酸鉛で添加することにより
EDTA-Pb溶液を調製し、培養液に添加した。栽培は、試験終了まで上述の人工光型植物育成装置 を使用し、同条件で行った。試験は各区4連で、Pb処 理は
14日間(2003 年
12月
8日〜22 日)行った。こ の間、培養液の交換を1日おきに行った。試験終了後、
サンプリングした茎葉部および根部を
80℃で48時間 通風乾燥し乾物重を測定した。さらに、硝酸-過塩素酸 法により湿式分解
4)し、Pb濃度を原子吸光光度法で定 量分析した。
ⅱ) Bi 処理実験
Bi0、50、100、250、500μmol l−1
の5区をそれぞ れ設けた。培養液への
Bi添加は、硫酸ビスマスと
EDTA溶液を用いて、Pb添加の場合と同様の方法で行った。
本処理実験は、育苗したカラシナを水耕ポットに移し た時点から本学(山梨県上野原市)構内に設置した自 然光型ファイトトロン(小糸工業㈱製コイトトロンS
-180)内で行った。栽培温度は昼 27℃、夜 20℃、相
対湿度は約
70%で行った。試験は各区4連で行い、Bi処理は
14日間(2004 年6月
10日〜24 日)行った。
この間、培養液の交換を1日おきに行った。
試験終了後、植物体のサンプリング、乾燥および分 解を
Pb処理の場合に準じて行い、Bi 濃度の定量を誘 導結合プラズマ発光分析法で行った。
3. 結果
ⅰ) Pb 処理実験
カラシナ茎葉部および根部の成育を1個体あたりの 乾物重で表し、図1に示した。
図1 Pb処理したときのカラシナの 成育
(グラフ棒中垂線は標準偏差,n=8) 0.2
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8
0 100 500 1000 5000 培養液中Pb濃度(μmol l−1)
乾物重(g 個体−1 ) 茎葉部
根部
培養液中Pb濃度
100μmoll−1区の茎葉部の成育に
は
0μmoll−1区とほとんど差はみられなかった。しか
し、
500μmoll−1区の成育は
0μmoll−1区の約
67%に、また
5000μmoll−1区では約
41%にそれぞれ低下した。根部の成育には、培養液中Pb濃度
100μmoll−1区で
0μmoll−1
とほとんど差は見られなかったが、500μ
moll−1
区では
0μmoll−1区の約
75%に、5000μmoll−1区では約
41%にそれぞれ低下した。また、
Pb処理実験におけるカラシナ茎葉部および根 部の
Pb濃度を図2および図3にそれぞれ示した。
図2 カラシナ茎葉部のPb濃度 (グラフ棒中垂線は標準偏差,n=8)
0 2 4 6 8 10 12
0 100 500 1000 5000 培養液中Pb濃度(μmol l−1) Pb濃度(mg g乾物−1 )
図3 カラシナ根部のPb濃度
(グラフ棒中垂線は標準偏差,n=8) 0
2 4 6 8 10 12 14
0 100 500 1000 5000 培養液中Pb濃度(μmol l
−1)
Pb濃度(mg g乾物−1 )茎葉部Pb濃度は培養液中Pb濃度が高くなると増加 し、
500μ
moll−1区では
2.0 mg g乾物
−1であり、
5000μmoll
−1区では
8.9mgg乾物−1と
100μmoll−1区のと きのそれぞれ約
3.8倍および約
17倍になった。一方、
根部のPb濃度は、培養液中Pb濃度が
100μmoll−1から
500μmoll−1としたときは約3倍上昇したが、500μ
moll−1から
5000μmoll−1と高くしたときには約
1.2倍の上昇であった。
したがって、培養液中Pb濃度を
100μmoll−1から
500μmoll−1
にしたときのカラシナの成育の低下は、
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水耕ポット試験によるカラシナの成育に及ぼす培養液中鉛およびビスマス濃度の影響
茎葉部および根部へのPbの集積によって生じたもの と思われる。また、培養液中Pb濃度を
500μmoll−1から
1000、5000μmoll−1としたときの成育の低下は 茎葉部へのPbの集積の増加による影響を強く受けた ものと考えられる。
ⅱ)Bi 処理実験
カラシナ茎葉部および根部の成育を1個体あたりの 乾物重で表し、図4に示した。
図4 Bi処理したときの カラシナの成育
(グラフ棒中垂線は標準偏差,n=8)
10 1 2 3
0 50 100 250 500 培養液中Bi濃度(μmol l
−1)
乾物重(g 個体−1 )
茎葉部
根部
培養液中Bi濃度
50μmoll−1区の茎葉部の成育は
0μmoll
−1区とほとんど差は見られなかったが、100μ
moll− 1区 で は 約
52% に 低 下 し た 。 さ ら に 、
250μmoll− 1区では
0μmoll−1区の約
28%に、また 500μmoll−1区では約
13%にそれぞれ低下した。根部の成育には培養液中Bi濃度
50μmoll−1区で
0μmoll
−1区とほとんど差は見られなかったが、100μ
moll−1区では
0μmoll−1区の約
66%に、また 500μ moll−1区では約
23%にそれぞれ低下した。また、
Bi処理実験におけるカラシナ茎葉部および根 部の
Bi濃度を図5および図6にそれぞれ示した。
茎葉部Bi濃度は培養液中Bi濃度が上昇すると高くなる 傾向にあったが、
100μ
moll−1区では
50μ
moll−1区と ほとんど差は見られなかったのに対し、250μmoll
−1区では約5倍に、また
500μ
moll−1区では約
13倍に それぞれ増加した。
根部Bi濃度も培養液中Bi濃度が高くなると増加する 傾向を示したが、培養液中Bi濃度を
250μmoll−1から
500μmoll−1に上げたときの増加はわずかであった。
したがって、培養液中Bi濃度を
50μmoll−1から
100μmoll
−1にしたときのカラシナの成育の低下は、根部 へのBiの集積によって生じたものと思われる。さらに、
培養液中Bi濃度を
100μmoll−1から
250、500μmoll−1としたときの成育の低下は茎葉部へのBiの集積の増加 による影響も受けていると考えられる。
図5 カラシナ茎葉部のBi濃度
(グラフ棒中垂線は標準偏差,n=8)
0.00.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 50 100 250 500 培養液中Bi濃度(μmol l−1) Bi濃度(μg g乾物−1 )
図6 カラシナ根部のBi濃度
(グラフ棒中垂線は標準偏差,n=8) 0
2 4 6 8 10
0 50 100 250 500 培養液中Bi濃度(μmol l
−1)
Bi濃度(μg g−1 )4. 考察
Pb
および
Biは水に対する溶解度は低く、また培養 液中の硫酸イオンと不溶性化合物を生じる。本研究で は、
EDTAで
Pbおよび
Biをキレート化して溶解し培 養液に添加したが、
EDTAの使用量を既報に基づき
Pbおよび
Biと等モルになるようにした。よって、
EDTAによるカラシナの成育障害は生じていないと考えられ る。
カラシナはPbを茎葉部に集積する植物であると報 告されている
1-3)。本研究では、100μmoll
−1区のPb濃 度は
0.52mgg−1であり、この結果は、既報
5)で、バー ミキュライト培地に
100μmoll−1EDTA-Pb培養液を添加したカラシナ茎葉部のPb濃度とほぼ同程度であ った。本研究でもカラシナはPbを茎葉部に集積するこ とが示された。しかし、Biについては、培養液および 土壌中Bi濃度を高くしたときの植物体中Bi濃度や根部
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渡邉浩一郎 木村健太郎 石原由朗
から茎葉部への移行係数を調べた例は見あたらない。
一方、Pb処理実験で使用した人工光型植物育成装置 とBi処理実験で使用した自然光型ファイトトロンで は栽培環境は異なる。そのため、PbあるいはBi0μ
mol l−1区の個体あたりの乾物重に差が生じているではな いかと思われる。また、同じ培養液中濃度であっても
PbとBiの間で、植物体の個体あたりの乾物重、個体あたりのPbおよびBi含有量あるいは移行係数の違いを 直接に比較することはできない。
以上、
Biは
Pbの代替元素として使用されるものの、
培養液中濃度の増加にともないカラシナの成育を低下 させることが示された。今後、Pb と
Biの間で毒性、
植物体内での移行、集積機構の相違を比較、解明する 必要がある。
5.謝辞
本研究は文部科学省ハイテク・リサーチ・センター 整備事業(平成
12年度〜平成
16年度)による助成を受 けて行った。
引用文献
1.P. B. A. Nanda-Kumar, V. Dushenkov, H. Motto
and I. Raskin: Phytoextraction: The use of plants to remove heavy metalsfrom soils.Environ. Sci. Technol. 29:1232-1238,1995.
2 .
M. J. Blaylock, D. E. Salt, S. Dushenkov, O. Zakharova, C. Gussman, Y. Kapulnik, B. D.Ensley and I.Raskin: Enhanced Accumulation of Pb in Indian Mustard by Soil-Applied Chelating Agents. Environ. Sci. Technol. 31:860-865,1997.
3.松尾浩一,江頭和彦:ハカラシナによる鉛除去へ のファイトレメディエーション,土肥誌,73(6):
769-771, 2002.
4.作物分析法委員会:栄養診断のための栽培植物分 析測定法,養賢堂,東京,1976, pp176-188.
5.渡邉浩一郎,小野靖夫:カラシナおよびゼラニウ ムによる鉛ファイトレメディエーションに対する エチレンジアミン四酢酸の影響,帝京科学大学紀 要,1:67-71, 2005
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