• 検索結果がありません。

ネパール,トリスリ川ドゥンチェ付近のSAR 干渉画像を用いた地すべり性地表変動の判読

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ネパール,トリスリ川ドゥンチェ付近のSAR 干渉画像を用いた地すべり性地表変動の判読"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ルカ地震で斜面崩壊が多発した地域の一つである。今後 のモンスーン期の豪雨によって地すべりの再滑動の危険 性があるため,地すべりによるわずかな地表変動を監視 することは、防災に資するため重要である。

本稿では,JAXA(Japan Aerospace Exploration Agen-cy)が2014年に打ち上げた人工衛星ALOS-2(Advanced Land Observing Satellite-2)に搭載されている合成開口 レ ー ダ ー(Synthetic Aperture Radar, SAR),PALSAR-2 (Phased Array type L-band SAR-2)で観測されたデータ

から生成したSAR 干渉画像を用いて,ドゥンチェ付近 の地すべり性地表変動の判読を試みた。光学画像による 斜面崩壊の判読は,地表の状態が著しく乱されたものに 限られるが,SAR 干渉画像による地表変動の判読には, 光学画像では判読し得ないわずかな変動量を伴ったもの を抽出できるという点で,地すべり性の地表変動の前兆 を捉えられる可能性がある。 1.はじめに 2015年4月25日のネパール・ゴルカ地震(Mw7.8)は カトマンズ北西82km,深さ 8.2km を震源とする地震

(USGS 2015; Fig. 1a, 挿入図)であった。この地震による 断層のすべり面は南上がりの衝上断層に沿っており,す べり面上の岩盤の破壊は,震源から東向きに進んだ。そ の最大のすべり量は6.3mと推定されている(Kobayashi et al. 2015)。その約1 ヶ月後の5 月 12 日には,コダリの 南東19km,深さ 15.0km を震源とする Mw7.3 の余震が あった(USGS 2015; Fig. 1a, 挿入図)。

ゴルカ地震によって,ネパール・ヒマラヤ山脈に斜面 崩壊が多発した(Kargel et al. 2016; Roback et al, 2017)。 これは,米国の商用衛星であるGeoEye-1やWorldView-3 で撮影された光学画像の判読によって明らかにされたも のである。トリスリ川流域のドゥンチェ(Dhunche; Fig. 1a)はカトマンズの北,46km に位置する町であり,ゴ

佐 藤   浩

Dhunche in Trishuli River watershed, Nepal is the town (ca. 3,000m in elevation) that is located 46km north from Kathmandu, where is in the transition area from lesser to High Himalaya. The Gorkha earthquake (Mw7.8)-induced land-slides were concentrated around the town, and there is the risk that heavy rains in monsoon seasons will reactivate such the landslides. Therefore, continuous monitoring of slight deformation by landslides is important to prevent disasters. In this study I used Advanced Land Observing Satellite-2 (ALOS-2)/Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar-2 (PALSAR-2) data observed before and after the earthquake, including monsoon season and successive dry season. Then, I produced time-series SAR interferograms using these data and interpreted them. As a result I found that there are two types of landslide surface deformation, i.e., (1) landslide slightly deformed by the earthquake but no deformation after the earthquake, (2) landslides that were not deformed by the earthquake but continuously deformed after the earthquake, i.e., monsoon and dry seasons. These results are thought to be basic material to map hazard of future landslides.

Keywords : SAR, Landslide, Nepal, Gorkha, Earthquake, Monsoon

ネパール,トリスリ川ドゥンチェ付近の

SAR干渉画像を用いた

地すべり性地表変動の判読

Interpretation of Landslide Surface Deformation around Dhunche, Trishuli River Watershed

in Nepal Using InSAR Images

Hiroshi P. SATO

* (Accepted November 30, 2017)

 *Department of Geography, College of Humanities and Sciences, Nihon

University, 3−25−40, Sakurajosui, Setagaya−ku, Tokyo, 156−8550, Japan *日本大学文理学部地理学科:

(2)

2.1 ドゥンチェ周辺の地形 ドゥンチェは,標高3,000m 程度の低ヒマラヤから高 ヒ マ ラ ヤ に 漸 移 す る 場 所 に あ る(Fig. 1a)。Wobus et al.(2006)は,ヒマラヤ山脈を刻む複数の河川縦断形に 現れる遷急点や,河床勾配と流域面積の関係の検討か ら,山脈を傾斜が急な範囲,緩やかな範囲,その漸移帯 の3 つに分けた。ドゥンチェは,そのうち傾斜が急な範

囲に位置する。Fig. 1bには,Fig. 1aの白い小さい長方形 の 範 囲 の 斜 面 傾 斜 角 の 分 布 を 示 す。 傾 斜 角 はSRTM (Shuttle Radar Topography Mission; https://www2.jpl.

nasa.gov/srtm/)の1秒間隔(解像度約30m)の数値標高 データ(Digital Elevation Model, DEM)から計算された。

Tsou et al. (2017)は,Fig. 1bに赤色でその分布を重ねて 示したように,ゴルカ地震による斜面崩壊をドゥンチェ 周辺で912 ヶ所,判読した。その 9 割以上が地震によっ て新規に崩壊したほか,トリスリ川の遷急点が溯上する 過程で形成された横断形がV 字型の,谷中谷の 35°を超 える谷壁に崩壊が集中したことを示した。 2.2 ドゥンチェ周辺の地質

Fig. 2 に示すとおり,主中央衝上断層(Main Central Thrust, MCT)から北東側には記号hxで示される高ヒマ ラヤ結晶質岩(Higher Himalayan Crystallines)が分布

し,南西側には記号na や kn で示される低ヒマラヤのメ

タ堆積岩類(Lesser Himalayan Metasediments)の砂質

変成岩や結晶質岩が分布する。ドゥンチェ付近は,MCT から北東側の高ヒマラヤ結晶質岩が,南西側の低ヒマラ ヤのメタ堆積岩類の上に押し被さりつつ南へ大きく張り 出す部分(カトマンズ・ナップ:酒井 2015)の外縁に当 たっている。このことから,ドゥンチェ付近では,MCT が東西方向から南北方向に大きく湾曲している。 3.方法 3.1 SAR 干渉画像の生成 干渉SAR とは,高空間分解能なマイクロ波の SAR に よる観測を地表の同一地点に対して2 回以上実施し,反 射波の位相差を計算することによって,地表の変動を面 的に捉える技術である(森下ほか 2013)。生成された画 像を,ここではSAR干渉画像という。 Table 1 に示すように,#1,すなわち地震前後の 2015 年2月21日と5月2日のPALSAR-2データ(以下,特に断 らなければ単にデータという),そして地震後の#2 ∼#4 に観測されたデータから,SAR干渉画像を生成した。こ れらの画像は,北行軌道(アセンディング)からの右側 照射の観測,すなわち衛星の西上空から地表を東向きに 見下ろした観測なので,衛星と地表の間の衛星視線方向 における距離の伸び・縮みの量(変動量)を把握できる に留まる。そのため,一方向の軌道からの観測のデータ だけでは,上下方向と東西方向の変動量を分離すること はできず,衛星の運行が南北方向で,東西方向に地表を 観測するようになっているため,南北方向の変動量を見 積もることもできない。 SAR 干渉画像を生成した範囲を Fig. 1a の白点線で示 す。いずれもパス157,フレーム 550,オフナディア角 32.5°のストリップマップモード3(解像度10m)のデー タである。干渉画像の生成には,ソフトウェアRinc 0.47 (Ozawa et.al. 2016)を用いた。レンジ方向(マイクロ波 の照射方向)のルック数は4,アジマス方向(衛星の軌 道方向)のルック数は9 でマルチルック処理し,フィル タリング処理にはGoldstein and Werner (1998)の窓領域 の 大 き さ64 ピ ク セ ル, 強 度 1.0 を 用 い た。6 月 1 日 に JAXA によってビーム F2-6 の中心周波数の再設定が行わ れたため(夏秋 2015),6月1日を挟むデータを使った干 渉画像は直ちに生成できなかった。そこで,5月2日と7 月25日のSAR干渉画像は,本研究では判読していない。 3.2 地すべり性地表変動の判読 SAR干渉画像に基づき,宇根ほか(2008)や佐藤ほか (2014)と同様の手法,地すべり性地表変動を判読した。 すなわち,ノイズとは思われない,ある程度の面積を もった範囲がSAR 干渉画像でまとまって色変化をもっ て判読され,それが局所に限定されるものを囲んだ。 SAR 干渉画像に含まれるノイズの要因としては,SAR

Table 1 PALSAR-2 data used in this study

# Path Frame Beam No. Master/Slave Orbit* BPERP Note

1 157 550 F2-6 21 Feb 2015/2 May 2015 Asc, R −118.7 m Main shock of Gorkha earthquake was on 25 Apr 2 157 550 F2-6 25 Jul 2015/22 Aug 2015 Asc, R 108.0 m Monsoon season

3 157 550 F2-6 22 Aug 2015/3 Oct 2015 Asc, R 65.6 m Monsoon season 4 157 550 F2-6 3 Oct 2015/20 Feb 2016 Asc, R −82.8 m Dry season

(3)

Fig. 1 Study area

a: Elevation map around Dhunche, produced from SRTM 1

arc-sec-ond (30m) DEM, b: slope angle map, produced from SRTM DEM,

overlaid by the Gorkha earthquake-induced landslides (Tsou et al. 2017). The area is correspondent with solid white small rectangle in Fig. 1a.

Fig. 3 Interpretation of landslide surface deformation

a: Result using InSAR image (#1 in Table 1). Back is SRTM-DEM

shade map, .b: Magnified result of a around Gre. Back is Nepal

1/50,000 topographic map “Dhunche”, c: Photo around Gre, taken

on 31 Oct 2015. Red arrows and blue circle show landslides trig-gered by 2015 Gorkha earthquake and landslide area interpreted on InSAR image, respectively.

Fig. 2 Geological map (Amatya and Jnawari 1994) Symbol na, Precambrian to lower Paleozoic phyllites, sandstones,

quartzites, calcareous sandstones, limestone and slate in Nawakot group; kn, Precambrian bedded schist, phyllites and

metasand-stones, in Kuncha Group; kgn, igneous rocks of Precambrian and

Paleozoic gneiss and granite; hx, Preambrian metamorphic rocks

like gneiss, quartzite, Tgr: Granite (Miocene); MCT, Main Central

(4)

干渉画像を生成する元の2 つの画像の観測時期の間で, 植生の繁茂や積雪の影響により地表面の状態が同一でな い場合や,降雨の影響で大気中の水蒸気の量が高く,そ の影響で人工衛星から照射されたマイクロ波が時間遅れ をもって人工衛星の受信部に到達することなどが考えら れる(国土地理院 2004)。 地図に重なり合うようにSAR 干渉画像をジオコード したとき,フォアショートニング1)の影響により,地図 に重なり合うように幾何補正すると画素が引き延ばされ るような斜面については,誤りを避けるため判読しな かった。 この判読をTable 1 に示した多時期の SAR 干渉画像ご とに独立して繰り返し,判読した地すべり性地表変動の 分布の相違や繰り返しの変動の可能性を見いだそうとし た。判読した範囲は,生成したSAR 干渉画像の範囲の うち,Fig.1aの白い実線で囲まれた大きい長方形である。 4.結果 4.1 2015 年 2 月 21 日 /2015 年 5 月 2 日 の SAR 干 渉 画 像 の判読 Fig. 3a に,Table 1 の #1,すなわち地震の発生日を挟 む前後のSAR 干渉画像と,これに基づき判読した地す べり性地表変動を示す。範囲は,Fig. 1bと同じである。

Fig. 1bとFig. 3aを比較すると,SAR干渉画像で判読さ れた地すべり性地表変動は,地震による崩壊が多発した トリスリ川やランタン(Langtang)川に面するV字型の 35°を超える谷壁というよりも,谷壁の上部,遷急線よ り斜面上部の緩斜面に分布している。ただし,フォア ショートニングの影響を受けるV字型の谷壁を避けて判 読しているので,谷壁での地すべり性地表変動が実際に はあっても、SAR 干渉画像でそれを判読するのは難し い。 Fig. 3aにb,y,rの記号を付したように,青(b)→赤(r) →黄(y)色の長波長成分の色変化,すなわち衛星視線方 向の距離が伸びる変化が,ほぼ東西方向の帯として,5 つ以上繰り返してみられる。これは,地震に伴う衝上断 層の活動による高ヒマラヤ側の沈降(Kobayashi et al. 2015; Kargel et al. 2016)を反映している。なお,低ヒマ ラヤ側は隆起している。 ドゥンチェ付近は沈降域に相当するが,この地殻変動 に伴う色変化に,局所の地すべり性地表変動に伴う色変 化が混在しているため,後者の色変化を明瞭に判読する ことは難しい。Table 2に示すように,判読した範囲(Fig. 1aの白い実線の大きい長方形)において,その個所数は 7つに留まった。 Fig. 3b は,Fig. 3a の結果をドゥンチェの北約 3.5km, グレ(Gre)周辺で拡大したものであり,判読された7つ の地すべり性地表変動のうちの1 ヶ所を示している。 Fig. 3bにおいて,青(b)→赤(r)→黄(y)色に変化し ているので,衛星から遠ざかる向き,すなわち変動域が 沈むか東向きに変動していることを示す。 Fig. 3cはグレ付近の現地写真である。図の右側が北向 きを示す。グレは,谷壁の遷急線を介してそれより斜面 上方の緩斜面に位置している。この写真の中央に,判読 された地すべり性地表変動の箇所を丸印で示した。この 写真では右側が北向きなので,SAR干渉画像からは,丸 印で示した箇所が,斜面の下方に向かって変動している ことが示唆される。

Fig. 4には,Fig. 3bのSとTに挟まれた測線上で,SAR 干渉画像から読み取れる衛星視線方向(line of sight, LoS)に沿った変動量(cm)を示した。佐藤ほか(2014) は,PALSAR データによる衛星視線方向の変化・無変化

のしきい値を3.4cm として扱ったが(佐藤ほか 2014),

Nishiguchi et al. (2017)は,PALSARデータの後継である PALSAR-2 データの計測精度を,現地の GNSS(Global

Table 2  Site counts and area of the interpreted landslide

surface deformation

Observation period Count Area (ha) Season 21 Feb 2015/2 May 2015 7 89.2 Dry 25 Jul 2015/22 Aug 2015 45 1,042.3 Monsoon 22 Aug 2015/3 Oct 2015 71 1,201.2 Monsoon 3 Oct 2015/20 Feb 2016 26 933.2 Dry Note: Observation period is correspondent with Master/Slave in Table 1. Sites were counted in the area of the rectangle in white dotted line in Fig. 1a.

Fig. 4 LoS change between line S-T in Figs. 3b Section LS (distance: 602-925m) is landslide area shown in Fig. 3b around Gre. -4.0 -2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 0 400 800 1200 1600 shorten Lo S change (c m ) enlon g S Disatance (m) T Feb'15-May'15

LS

u

(5)

Fig. 5 Interpretation of landslide surface deformation Back is Nepal 1/50,000 topographic map “Somdan”. a: Result (blue

polygon) using InSAR image (#3 in Table 1) near Gogane. Red and yellow polygons are interpreted landslide triggered by 2015 Gorkha earthquake and enlarged one using optical image (Tsou et al. 2017),

b: Photo around Gogane, taken on 30 Oct 2015. White circle is

cor-respondent to the interpreted landslide deformation in Figs.3a and 3c, c: Result (orange polygon) using InSAR image (#4 in Table 1)

near Gogane. Fig. 8  Monthly precipitation change in Kathmandu during

the SAR data observation

Data were downloaded from https://www.ncdc.noaa.gov/cdo-web. /datatools.

Fig. 6 LoS change between S and T in Figs. 5a, 5c Section LS (distance: 690-970m) is landslide area shown in Fig. 5c.

Fig. 7  Overlay of interpretation of landslide sur face

deformation using time-series InSAR images (#1~4 in Table 1) -4.0 -2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 0 400 800 1200 1600 shorten Lo S change (c m) enlo ng S Disatance (m) T Aug'15-Oct'15

LS

0.0 100.0 200.0 300.0 400.0 500.0

Feb Mar Apr May Jun JuL Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb

Pr ecipit ation (mm) (2015) Month (2016)

#1

#2 #3 #4

(eq)

(6)

Navigation Satellite System)測量の結果に基づいて評価 した。それによれば,平均二乗誤差で1.5cmの精度があ ることが報告されているため,本稿でも,衛星視線方向 の変化・無変化のしきい値を1.5cmとして扱う。 Fig. 4 では,S を起点として測線上の距離 602 ∼ 925m (両矢印でその区間を示す)が地すべり性地表変動の変 動域に相当しており,距離602m の衛星視線方向の変化 は0.2cm,925m では 3.9cm だった。Fig. 4 の変動域にお ける変化をみると,東へ向かうほど変動量が多くなって いる,すなわち地すべり土塊の変動が末端部ほど大きい ことを示唆する。ただし,Fig. 4 の衛星視線方向の変化 は,地すべり性の地表変動のみならず,地震によって沈 降するという長波長成分を有する地殻変動も混在してい るので,実際には,地殻変動に短波長成分を有する地す べり性地表変動が載るという表現になっている。また, Fig. 3bのu付近では色変化(位相)が不連続となり,Fig. 4 でも u を付した距離 1,249m で変動量が 8.6cm から− 1.9cm(すなわち衛星視線方向に沿って地表が 1.9cm 近 づく)と,急激に変化している。これは,地震の地殻変 動に伴う高ヒマラヤ側の沈降量が最大で60cm以上(Ko-bayashi et al., 2015)あり,SAR干渉画像で判読される青 →赤→黄色の位相の1 回の変化(約12 cm)が複数回並 んで表現されることに伴うことと,u 付近で地表面の傾 斜と斜面方位が急激に変わり(Fig. 3c における u の右 側),レイオーバー2)が生じていることに起因している と考えられる。実際には,Fig. 4のuから右側が,uより 左上のグラフから滑らかに左上に連なるような地殻変動 を示している。この議論は,地すべり性地表変動の解釈 とは無関係である。 このように,Fig. 3a と Fig.4 から,長波長成分を有す る地殻変動を反映した衛星視線方向の変化に載る,短波 長成分を有する局所の地すべり性地表変動を判読するの は困難が伴う。なお,グレ付近ではTable 1 に示した #2 ∼#4の時期の地すべり性地表変動は認められない。 4.2 2015 年 8 月 22 日 /2015 年 10 月 3 日 及 び 2015 年 10 月3 日 /2016 年 2 月 20 日の SAR 干渉画像の判読 Fig. 5aは,ドゥンチェの西南西約7.5kmにあるトリス リ川の北岸,ゴガネ(Gogane)付近のTable 1の#3,す なわち地震発生後のモンスーン季のSAR 干渉画像であ る。画像判読の結果,地すべり性地表変動と判読した範 囲を青色のポリゴンで囲んだ。Fig. 5bは,現地写真(右

側が東向き)である。Fig. 5cは,Fig. 5aと同じ範囲であ るが,Table 1の#4,すなわち地震発生後の乾季のSAR干 渉画像であり,判読した結果を橙色のポリゴンで囲んだ。 また,Fig. 5aに載せた赤色と黄色のポリゴンは,地震 による斜面崩壊を示す。赤色は,本震で発生した斜面崩 壊,黄色は,地震後1 ヶ月程度後までの雨によって拡大 した斜面崩壊を示す(Tsou et al. 2017)。前述したとお り,光学画像で判読されたこれらの斜面崩壊はトリスリ 川に面した谷壁に集中する。SAR 干渉画像で判読された 地すべり性地表変動は,その斜面上部の遷急線よりやや 下方に相当し,その位置を,Fig. 5bのうち白丸で囲んだ。 Fig. 5a と 5c を比較すると,場所に変わりはないが, Fig. 5cにおける判読のほうが,地すべり性地表変動の範 囲が拡大していることを示唆している。両者の黄色に変 化している範囲が拡大しているというよりも,赤色に変 化している範囲が黄色の部分を取り巻きながら拡大して いるように見える。

Fig. 6には,Fig. 5aと5cのSとTに挟まれた測線上で, SAR 干渉画像から読み取れる LoS に沿った 2 時期の変動 量(cm)を示した。S を起点として測線上の距離 690 ∼ 970m(両矢印でその区間を示す)がFig. 5c で判読した 地すべり性地表変動の変動域に相当しており,距離 690m と 970m の衛星視線方向の変化は,Fig. 5a (Table 1の#3の時期)では0.9cmと0.4cmで無変化, Fig. 5c(Ta-ble 1の #4 の時期)では0.2cm と 0.3cm で無変化だった。 しかし,変動域の内部では,それぞれ距離896m で最大 4.0cm,距離 823m で最大 2.2cm と,有意に変動してい ることが示唆される。このことから,最大の変動量は, 乾季よりモンスーン季のほうが2 倍程度大きいことがわ かった。 Fig. 5aと5bを比べると,SAR干渉画像で判読された地 すべり性地表変動が載る尾根の東西を蚕蝕する支川の谷 壁斜面に,地震とその後の降雨で拡大した斜面崩壊が分 布している。これらは,単に表層が崩壊しているだけで はなく,より規模の大きな,例えばFig. 5b における Gogane の斜面下方に見える深層崩壊の規模に比するよ うな地すべり性の地表変動による谷壁斜面の変形を反映 しているのかもしれない。ゴガネ周辺では,Table 1 の #1 と #2 の時期の SAR 干渉画像で地すべり性地表変動と 考えられる変動域は判読されなかったが,今後も,SAR 干渉画像を用いた判読と変動のモニタリングが必要であ る。 4.3 4 時期の判読結果の重ね合わせ

Fig. 7に,Table 1に掲げた#1 ∼#4の4つの時期のSAR 干渉画像を独立に判読して囲んだ局所の地すべり性地表 変動の分布を示す。背景は,SRTM DEM から生成した 陰影図である。

(7)

から確定することはできないが,少なくとも,#4の乾季 でも変動が判読されたことの理由として,10月の降水量 を勘案することができると思われる。SAR 干渉画像で判 読される今後の地すべり性地表変動の数や面積が,降水 量とどのような関係にあるのか,今後データの蓄積とと もに把握していきたい。 本稿のまとめは,以下のとおりとなる。どの時期に, どのような地形的特徴のある場所で地すべり性地表変動 が判読されるかという点を今後明らかにするという点で, 斜面災害評価図の作成の基礎資料となると考えられる。 (1)地震で生じた地すべり性地表変動の判読は,地殻 変動による干渉縞の色変化と紛れやすいため,7 ヶ所に 限られた。このような少ない箇所数ではあるが,そのほ とんどは,地震後のモンスーン季や乾季に変動している という判読結果は得られなかった。 (2)地震では変動しなかったが,その後の時期に変動 を継続している地すべり性地表変動が判読された。 (3)それらの判読事例を,LoS の変化から定量的に裏 付けた。各観測の期間において,「(1)」の事例(グレ) では最大3.9cm(Table 1の#1の時期),「(2)」の事例(ゴ ガネ)では最大4.0cm(Table 1の#3の時期)の伸び(土 塊が斜面下方に移動する変動)があったことを明らかに した。 (4)SAR 干渉画像の観測時期を含むモンスーン季 (Table 1 の #2 と #3 の時期)の変動域の面積は,乾季 (Table 1の#4の時期)の面積の1.2 ∼1.3倍に留まり,降 雨の量が変動域の広狭に影響を与えているか,結論づけ ることはできない。ただし,乾季の観測時期は,月降水 量100mm を超えた 10 月を含んでいることを差し引いて 考える必要がある。 謝辞 2015年の現地調査では,山形大学八木教授と京都大学千木 良教授,弘前大学檜垣教授にお世話になった。本研究の実施 に際しては,東京大学地震研究所の特定(B)「新世代合成開 口レーダーを用いた地表変動研究」の枠組みでJAXA から支 給されたPALSAR-2 データを利用した。2015 年ゴルカ地震に よる斜面崩壊分布データの利用については,弘前大学鄒助教 のご厚意による。また,科学技術振興機構J-Rapid プロジェ クトの2015年ネパール地震に関連した「ネパール大地震によ る山地斜面災害の現状把握と復興計画策定のための斜面災害 評価図の作成」(研究代表者: 京都大学防災研究所千木良教 授)及び科学研究費基盤研究(C)「山地内の地形編年に基づ く重力性斜面変形速度の計測と斜面防災マップの作成」(研 究代表者: 山形大学地域教育文化学部八木教授;16K01211) の費用の一部を使用した。なお,本稿の内容の一部は,2016 年地球惑星科学連合大会(地形セッション)で発表した。 Fig. 7を見ると,Table 2に示したとおり,地震時の変 動域の数が7つに限られた結果,地震時の#1を含み,#2 ∼#4 まで継続して変動を続けていると判読されたのは, ドゥンチェから北西に6.3km離れたガトゥラン(Gatlan) 周辺だけだった。「4.1」に述べたグレにおける地すべり 性地表変動のように,地震時の#1 のみ変動し,残りの 時期は変動していない場合がほとんどであった。また, Fig. 7を見ると,Table 1の#2 ∼#4の3時期にわたって変 動を続けている斜面(例えば,Fig. 7 の最も南西に位置 するトゥロガウ(Thuloau)の西の地すべり性地表変動) もあれば,ドゥンチェの北西0.5km のように,#2 ∼ #4 の少なくとも1時期のみ変動した斜面,あるいは,「4.2」 に述べたゴガネにおける地すべり性地表変動のように, #3 ∼ #4 の 2 つの時期に変動した斜面など,変化に富ん でいる。つまり,地震を引き金として同じ場所がモン スーンの影響を受けて変動を続け,あるいは拡大してい るという例は,本稿では稀であった。 5.考察とまとめ Table 2には,Table 1の#1 ∼#4の時期ごとに地すべり 性地表変動を判読した箇所数と,変動域の斜面の合計を 示した。個所数,合計面積ともに#3の時期が最も多かっ た。前述したとおり,地震による地殻変動による干渉縞 が卓越して,局所の地すべり性地表変動の判読が難しい #1 の時期を除いて考えると,乾季よりも,モンスーン 季のほうが,面積が1.2 ∼1.3倍広いことが認められた。 しかし,1 ヶ所あたりの平均面積で比較すると,#3 が 16.9haなのに対し,#2は23.2haである。#3の時期になる と個々の地すべり性地表変動域が細分されていることが 示唆される。 Fig. 8には,Table 1の#1 ∼#4の時期に相当する2015年 2月21日から2016年2月20日までの,カトマンズにおけ る 降 水 量(https://www.ncdc.noaa.gov/cdo-web/datatools) を,月ごとに整理したグラフを示した。また,Fig. 8には 地震が発生した月に星印,#1 ∼#4の各時期に両矢印を付 した。カトマンズの降水量が,高ヒマラヤ域に近い山岳 部のドゥンチェの降水量を代表するか課題は残るが,温 帯冬季少雨気候(ケッペンの気候区分:Cw)に属するネ パールの降水量を把握するためみてみると,Table 1 の #2 と #3 の時期を含む 8 月の降水量は 452.4mm あった。 Table 1の #4 の時期は,乾季といっても 10 月の月降水量 が114.6mm あり,8 月の降水量の 1/4 程度あった。#4 の 時期のSAR 干渉画像で判読した地すべり性地表変動が, 10 月∼翌年 2 月の何月に滑動したのか,という点につい ては,PALSAR-2 データの観測頻度が疎らであったこと

(8)

1) 電波の入射角よりも傾斜角度が急な斜面において,平面 位置で衛星から見て手前に位置する谷部(=低標高)よ りも奥に位置する稜線部(=高標高)の方が衛星との直 線距離が近くなるため,稜線部の平面位置が画像上で手 前に配置される現象(水野 2017)。 注 2) 電波の入射角よりも傾斜角度がさらに急な斜面におい て,平面位置で衛星から見て手前に位置する谷部(=低 標高)よりも奥に位置する稜線部(=高標高)の方が, 衛星視線方向の距離がさらに近くなるため,稜線部と谷 部の平面位置が逆転して配置される現象(水野 2017)。 宇根 寛・佐藤 浩・小荒井 衛(2008):SAR 干渉画像を 用いた能登半島地震及び中越沖地震に伴う地表変動の解 析.日本地すべり学会誌, 45, 125-131. 国土地理院(2004):干渉 SAR についてのよくある質問とそ の回答. http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/sar/qanda/qanda. html#q2-12(2017年10月8日閲覧) 酒井治孝(2015):2015 年ネパール地震のテクトニクスとカ トマンズの極軟弱地盤. http://www.geosociety.jp/hazard/content0087.html(2017 年10月16日閲覧) 佐藤 浩・宮原伐折羅・岡谷隆基・小荒井 衛・関口辰夫・ 八木浩司(2014):SAR 干渉画像で検出した 2011 年東北 地方太平洋沖地震に関わる地すべり性地表変動.日本地 すべり学会誌, 51, 41-49.

夏秋 嶺(2015):ネパール地震を通じた ALOS-2 Scan SAR 干渉の検証. https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/ 2433/203226/1/27K-08-08.pdf(2017年9月25日閲覧) 水野正樹(2017):SAR 画像のレイオーバー,レーダーシャ ドウ.土木技術資料(土木用語の解説),土木研究セン ター, http://www.pwrc.or.jp/yougo_g/pdf_g/y1210-P050-050. pdf(2017年10月20日閲覧) 森下 遊・鈴木 啓・小林知勝(2013):干渉 SAR 時系列解 析による微小な変位量で進行する地盤変動監視の実用化 へ向けて.国土地理院時報,124: 125-132.

Amatya KM, Jnawali BM (compiled) (1994): Geological Map of Nepal (scale: 1:1,000,000). Department of Geology and Mines, Nepal.

Goldstein and Werner CL (1998): Rader interferogram filtering for geophysical application. Geophysical Research Let-ters, 25: 4035-4038.

Kargel JS, Leonard GJ, Shugar DH, Haritashya UK, Bevington A, Fielding EJ, Fujita K, Geertsema M, Miles ES, Steiner J, Anderson E, Bajracharya S, Bawden GW, Breashears DF, Byers A, Collins B, Dhital MR, Donnellan A, Evans TL, Geai ML. Glasscoe MT, Green D, Gurung DR, Heijenk R, Hilborn A, Hudnut K, Huyck C, Immerzeel WW, Jian LM, Jibson R, Kääb A, Khanal NR, Kirschbaum D,

参考文献

Kraaijenbrink PDA, Lamsal D, Liu SY, Lv MY, McKinney D, Nahirnick NK, Nan ZT, Ojha S, Olsenholler J, Painter TH, Pleasants M, Pratima KC, Yuan QI, Raup BH, Regmi D, Rounce DR, Sakai A., Shangguan DH, Shea JM, Shrest-ha AB, Shukla A, Stumm D, van der Kooij M, Voss K, Wang X, Weihs B, Wolfe D, Wu LZ, Yao XJ, Yoder MR, Young N (2016): Geomorphic and geologic controls of geohazards induced by Nepal’s 2015 Gorkha earthquake. Science, 351: aac8353, doi:10.1126/science.aac8353 Kobayashi T, Morishita Y, Yarai H (2015): Detailed crustal

de-formation and fault rupture of the 2015 Gorkha earth-q u a k e , N e p a l , r e v e a l e d f r o m S c a n S A R - b a s e d interferograms of ALOS-2. Earth, Planets and Space, 67:

201

Nishiguchi T, Tsuchiya S, Imaizumi F (2017): Detection and accuracy of landslide movement by InSAR analysis using PALSAR-2 data. Landslides, 14: 1483-1490.

Ozawa T, Fujita E, Ueda H (2016): Crustal deformation associ-ated with the 2016 Kumamoto Earthquake and its effect on the magma system of Aso volcano. Earth, Planets and Space, 68: 186.

Roback K, Clark MK, West AJ, Zekkos D, Li G, Gallen SF, Chamlagain D, Godt JW (2017): The size, distribution, and mobility of landslides caused by the 2015 MW7.8 Gorkha ear thquake, Nepal. Geomorphology, http://dx.doi. org/10.1016/j.geomorph.2017.01.030

Tsou C-Y, Chigira M, Higaki D, Sato G, Yagi H, Sato HP, Wakai A, Dangol V, Amatya SC, Yatagai A (2017): Topographic and geologic controls on landslides induced by the 2015 Gorkha earthquake and its aftershocks: an example from Trishuli Valley, central Nepal. Landslides, https://link. springer.com/article/10.1007/s10346-017-0913-9

USGS (2015): Search earthquake archives, http://earthquake. usgs.gov/earthquakes/search/(referred on 25 Sep 2017). Wobus, CW, Whipple KX, Kirby E, Snyder N, Johnson J,

Spyropolou K, Crosby B, Sheehan D (2006): Tectonics from topography: Procedures, promise, and pitfalls. Geo-logical Society of America Special Paper, 398: 55-74.

参照

関連したドキュメント

As in the previous case, their definition was couched in terms of Gelfand patterns, and in the equivalent language of tableaux it reads as follows... Chen and Louck remark ([CL], p.

It is known, that the moduli space of flat bundles are deformation (the Whitham deformation) of the phase spaces of the Hitchin integrable systems – the moduli spaces of the

Abstract: In this paper, we proved a rigidity theorem of the Hodge metric for concave horizontal slices and a local rigidity theorem for the monodromy representation.. I

ppppppppppppppppppppppp pppppppppppppppppppppppppppppppppppp ppppppppppp pppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppp pppppppppppppppppppp

It is worth noting that Theorem 2 can also be formulated for skew-symmetric operators by using the correspondence of Proposition 1(v), but the author feels that there are two

The theory of log-links and log-shells, both of which are closely related to the lo- cal units of number fields under consideration (Section 5, Section 12), together with the

We relate group-theoretic constructions (´ etale-like objects) and Frobenioid-theoretic constructions (Frobenius-like objects) by transforming them into mono-theta environments (and

The theory of log-links and log-shells, which arise from the local units of number fields under consideration (Section 5), together with the Kummer theory that relates