フィリピン共和国における火山噴火予知体制について
1.観測体制について ①観測実施機関名
フィリピン火山地震研究所(Philippine Institute of Volcanology and Seismology: PHIVOLCS) ②各実施機関の設置形態 PHIVOLCS は、科学技術省(DOST)に属する国家機関である(図1)。 ③各実施機関の観測状況や役割分担 PHIVOLCS の業務範囲はフィリピン国内の地震・火山観測、異常現象発生の予測、危険地域と災害の影 響範囲の特定、地震・火山情報の発表と防災啓発活動に及び、日本の気象庁地震火山部の業務範囲とほぼ一 致する。火山部門においては6常時監視火山に有人火山観測所を設置し、各火山にそれぞれ4箇所の地震観 測点(無人:3、有人:1)を設けデータをリアルタイムで当該火山観測所へテレメータし、ワークステー ション等による地震波形の収録・処理が行われている。ほか必要に応じ GPS、傾斜計、光波距離計による 地殻変動観測、COSPEC による火山ガス観測を行っている。 ④各実施機関の組織体制及び人員・構成・配置状況(職員、技官、研究者) 組織体制は、所長の下に、総務課、地震課、火山課、地質課、広報課の5課がある。ケソン市に本部を置 くほか、全国に有人地震観測所(28)および有人火山観測所(6)を持つ。全職員数 221 名(2004 年9月 現在)のうち、火山部門に所属する職員は51 名(本部火山課 22 名、有人火山観測所に計 29 名)。このほ か、課の枠を越えて機器障害対応を行うメンテナンスチームが存在する(図2)。 本部・火山観測所の職員数及び官職、修士・博士数 本部 22 名 課長(Chief) 1
総括研究官(Supervising Science Research Specialist) 2 主任研究官(Senior Science Research Specialist) 2 上席研究官(Science Research Specialist II) 6 研究官(Science Research Specialist I) 5 解析官(Science Research Analyst) 1 研究助手(Science Research Assistant) 5
博士 1 *2003 年現在 マヨン火山観測所 9名 所長(Resident Volcanologist) 1 解析官 2 研究助手 3 補助員(Science Aide) 2 補助員Ⅱ(Volcano Observer) 1 ピナツボ火山観測所 5名 所長 1、研究官 2、 補助員Ⅱ 1 ブルサン火山観測所 5名 所長 1、研究官 1、解析官 2、補助員Ⅱ 1 タール火山観測所 4名 所長 1、研究官 1、解析官 1、補助員Ⅱ 1 カンラオン火山観測所 4名 所長 1、解析官 1、研究助手 1、補助員 1 ヒボック・ヒボック 火山観測所 3名 所長 1、研究助手 1、補助員 1
参考資料(1)-5
科学技術・学術審議会測地学分科会 火山部会(第 17 回) H18.1.31⑤観測対象火山名(数)、当該国における全火山に対する観測対象火山の割合 フィリピンでは過去およそ500 年以内に噴火の記録がある火山を活火山と定義し、全 22 活火山のうち6 火山について有人火山観測所を設け常時監視を行っている(ピナツボ、タール、マヨン、ブルサン、カンラ オン、ヒボック・ヒボック)。ほか、パーカー火山、マツツム火山については有人火山観測所は設けられて いないものの将来噴火の可能性が考えられ、無人地震観測点それぞれ1箇所が整備され最寄りの有人地震観 測所へテレメータされている。なお、Smithsonian のカタログではフィリピンの活火山として 52 火山が登 録されている(図3、4、5)。 フィリピンにおける火山の分類(PHIVOLCS による) Active 22 - Eruption in historic times
- Historical record – 500 years - C14 dating – 10,000 years - Local Seismic activity - Oral / folkloric history Potentially Active 27 - Solfataras / Fuumaroles
- Geologically young (possible erupted < 10,000 years and for caderas and large systems – possibly < 25,000 years)
- Young-looking geomorphology (thin soil cover / sparse vegetation; low degree of erosion and dissection; young vent features; +/- vegetation cover
- Suspected seismic activity
- Documented local ground deformation
- Geochemical indicators of magmatic involvement - Geophysical proof of magma bodies
- Strong connection with subduction zones and external tectonic settings Inactive 多数 No record of eruption and its form is beginning to change by the agents
weathering and erosion via formation of deep and long gullies
2.火山噴火予知のための予算について ①関係各機関の予算額 PHIVOLCS の 2003 年予算として約1億 5200 万ペソ(1ペソ 2.0 円として約3億円)が計上されている (研究:7%、観測:74%、総務:19%)。火山関係の予算は主に「観測」の項目に含まれているものと思 われるが、どの程度の割合であるのかは不明。 2003 年予算の内訳(単位:千ペソ) PHIVOLCS の予算推移 年 予算額(百万ペソ) 1990 27.3 1996 101.0 2003 152.0 ②予算配分決定機関とその仕組 国家予算により賄われている。 人件費 機材運営費 設備改修費 計 研究 5,450 3,962 1,007 10,419 観測 34,562 63,324 15,061 112,947 総務 16,024 12,990 0 29,014 計 56,036 80,276 16,068 152,380
3.当該国における火山噴火予知に対するスタンスや考え方について フィリピンは日本と同様火山災害の多い国である。1951 年のヒボック・ヒボック火山噴火で多くの被害が発 生したことにより、火山監視及び研究の必要性の機運が高まり、「火山噴火に対する人命及び財産の保護」を目的 として火山委員会(Commission on Volcanology:COMVOL)が 1952 年設立された。その後組織再編や地震部 門との統合によりPHIVOLCS が 1984 年設立された。 大統領令128 号により定められた PHIVOLCS の業務の第一項目に、「火山噴火予知及び地震予知」が挙げら れており、火山監視及び予知は国家の責務として位置付けられている。 1991 年のピナツボ火山噴火の直前予知に成功したことから、火山噴火予知に対するフィリピン国民の PHIVOLCS への期待は益々高まり、今もその期待は変わらない。 4.当該国における火山噴火予知に関する仕組について 大学での教育・基礎研究を除けばPHIVOLCS がフィリピン国内における唯一火山監視・噴火予知業務を司る 機関である。そのため、我が国における火山噴火予知連絡会のような、他の火山監視・噴火予知専門機関や政府 機関等と共に火山活動のレビューを行い火山噴火の可能性を議論する様な会議・仕組は存在しない。 5.火山及び火山噴火予知に関する教育・研究について ①教育を行う機関(大学等)の状況(大学等名・学科等名・入学定員(学生数)など)
フィリピン大学・地質調査所(National Institute of Geological Sciences, University of the Philippines): 1984 年創立。火山学に特化している訳でなく、地球科学全般についての学科である(図6)。 主な科目:鉱物学、岩石学、古生物学、地質学、地形学、地球物理学、地球化学、地質巡検、 このほかマスターコース科目への参加が許されることがある 学生数:不明 ②研究を行う機関(大学等)の状況(大学等名、博士数、修士数、プロジェクト名など) フィリピン大学・地質調査所 学生数:博士課程、修士課程あわせ40 名(2000 年現在) 講座名:地球ダイナミクス講座、マグマシステム講座、環境講座 ③教育及び研究の当該国内における連携・協力の状況 特にない様である。 ④教育及び研究に関する予算額 不明。 6.噴火時における防災体制について ①対応機関(国の機関、大学、研究機関等)の対応状況 火山監視から火山情報の発表までPHIVOLCS が一元的に業務を行っている。
②各機関の対応の役割分担(観測も含む) 火山監視から火山情報の発表までPHIVOLCS が一元的に業務を行っている。 ③ハザードマップの作成の状況 PHIVOLCS では、22 活火山全てについてのハザードマップ作成を長期目標に置いており、現在少なくと も常時監視6火山については、予想される噴火形態に応じたハザードマップ(溶岩流、火砕流、泥流、火山 灰など)が作成済みである。現在、年間2つ程度の活火山についてハザードマップの新規作成/改訂が行わ れている(図7)。 ④警報発令などの情報発信の方法
火山異常発生時には、必要に応じPHIVOLCS 本部が火山情報(Volcano Bulletin)を発表し、FAX ベー スで政府機関・地元自治体・マスコミ・VAA 等へ送信されるとともに、PHIVOLCS の HP に web 掲示が 行われる。情報は文章形式のフリーフォーマットで、発生した異常現象の内容・観測された火山性地震の数・ 噴煙の状況・火山ガス観測結果・アラートレベル(常時監視火山のみ)とともに今後の火山活動の予測等が 記載される(図8)。 ⑤避難勧告などの責任体制 アラートレベルチャートには、、アラートレベルに対応する火山の状態(Main Criteria)、詳細な説明 (Interpretation)及び幾つかの火山については立入禁止区域の拡大等の勧告(Recommendation)が記載 されている。この勧告に法的な強制力はないが、火山の異常を検知し必要な対応を決定する能力は火山専門 組織-PHIVOLCS-のみが有するとの暗黙の了解がある。即ち、PHIVOLCS からの火山情報に基づき、 国あるいは地方自治体防災組織(州/市/バランガイ*災害対策委員会)は、国家災害対策会議(National Disaster Coordinating Council:NDCC)議長の命により各種防災対応を開始する。避難の詳細にかかる決 定及びその実行については、当該州の防災局(Provincial Disaster Management Office:PDMO)及び国 軍災害委員会(Office of Civil Defense:OCD)が行う(表1)。
*バランガイ:市、町の下部機構である最小行政単位。「地区」。 7.当該国の国際協力体制について ①観測体制 PHIVOLCS が他国において火山観測の協力を行う例は見ないが、フィリピン国内において日本やアメリ カの研究者がPHIVOLCS と共同で火山観測(地震、GPS など)を行う例は従前より多く見られる。また、 現在PHIVOLCS が現在保持している火山観測システムは日本政府開発援助(無償資金協力)により整備さ れたものであり、気象庁では技術協力の一環である専門家派遣を行うほか、同国から多数の研修員を受け入 れるなど本計画に関して積極的に関与してきた。このように他国の便宜によりPHIVOLCS の火山監視シス テムの高度化が図られた例は多く見られる。 ②研究協力体制 フィリピン国内において日本やアメリカの研究者とPHIVOLCS の共同研究を行う例は従前より多く見 られる。また、国際協力とは直接関係ないが、PHIVOLCS の職員が外国(日本、アメリカなど)の大学に 留学し火山学に関する研究を行い、修士・博士を取得する例も同じく多い。
添 付: 図1:フィリピンの行政組織図 図2:PHIVOLCS 組織図 図3:フィリピンの活火山(22) 図4:常時監視火山の観測点配置図 図5:地震データテレメータ概念図 図6:フィリピン大学の組織図 図7:ハザードマップの例(マヨン火山) 図8:火山情報の例(カンラオン火山) 表1:マヨン火山アラートレベル 参考資料: PHIVOLCS アニュアルレポート PHIVOLCS ホームページ 1993年フィリッピン・マヨン火山の噴火と災害の調査研究(岡田ほか、平成4年度文部省科学研究費補助 金総合研究(A)研究成果報告書) フィリピン大学・地質調査所ホームページ フィリピン国における火山監視の現状(新井、平成17 年合同学会ポスターセッション) PHIVOLCS 関係者からの聞き取り
図1 フィリピンの行政組織図
農業省
農地改革省
エネルギー省
環境天然資源省
財務省
予算管理省
社会福祉開発省
保険省
内務自治省
司法省
外務省
教育省
労働雇用省
国防省
公共事業道路省
科学技術省(
DOST)
運輸通信省
観光省
貿易産業省
国家経済開発庁
産業技術研究所
食品栄養学研究所(FNRI)
繊維研究所
先端科学技術研究所
金属産業調査開発センター
林産品調査開発センター
核調査研究所
気象庁(PAGASA)
火山地震研究所(
PHIVOLCS)
科学技術振興研究所
科学技術情報研究所
科学教育研究所
科学科高等学校
コンピューターセンター
ほか
大統領府(
Office of the President)
府(1)
省庁(
20)
図2 PHIVOLCS組織図
秘書
Executive Asst. II
Secretary
企画室
Planning and
Programming Section
メンテナンスチーム
Engineering and
Instrumentation Section
地質課
Geology,
Geophysics
Research
and
Development
Division
防災課
Geologic
Disaster
Awareness
and
Preparedness
Division
総務課
Finance
and
Administrative
Division
火山観測所(6)
地震観測所(28)
所長
DIRECTOR
副所長
DEPUTY DIRECTOR
地震課
Seismological
Observation
and
Earthquake
Prediction
Division
火山課
Volcano
Monitoring
and
Eruption
Prediction
Division
ピナツボ
タール
マヨン
ブルサン
カンラオン
ヒボック・ヒボック
図3 フィリピンの活火山(22)
常時監視火山(6)
図4 常時監視火山の観測点配置図
Courtesy of PHIVOLCS
ピナツボ
タール
マヨン
短周期地震計 ロガー・トランシーバ等 トランシーバ・ バッテリー等 無人観測点(3) リピータポイント 八木アンテナ ソーラーパネル FLEX データ受信・処理装置 短周期地震計・加速度計 データ処理装置(既存) 短周期地震計・ 加速度計(既存) 中周期 地震計
火山観測所
※ リピータポイントの有無及び数は各火山により異なる データは観測所までテレメータされているが、本部へは テレメータされておらず、処理結果が伝達される。図5 地震データテレメータ概念図
図6 フィリピン大学の組織図
Diliman校(本校)
Manila校
Visaya校
Los Banos校
Mindanao校
Baguio校
Arts and Letters
Social Sciences and Law
Management and Economics
College of Engineering
Statistical Center
Mathematics (Dmath)
Geology (NIGS)
Marine Science (MSI)
Natural Sciences (NSRI)
Chemistry (IC)
Physics (NIP)
Environmental Science & Meteorology (IESM)
Biology (IB)
Molecular Biology & Biotechnology (NIMBB)
Computational Science (CSRC)
Science Library
University of the Philippines
Science and Technology
図8 火山情報の例
アラートレベル 評価 解説/勧告 0 No Alert 静穏 各観測値は通常レベル 当面噴火の恐れなし 前触れなく水蒸気/灰噴出が起こることがある ため、常時危険地域(山頂から半径6km以内) への立ち入りは勧められない 1 異常 低い火山活動 地震活動の若干の増加 SO2放出量の若干の増加 弱い火映が観測されることがある(マグマの上 昇によるものとは断言できない) 単発の水蒸気/灰噴出が起こることがある 目先の噴火の恐れなし この活動は熱水やマグマが関与している可能性 のほか、テクトニックな要因の可能性もある 常時危険地域(半径6km以内)の立ち入り規制 2 火山活動の上昇 中程度の火山活動 低∼中程度の地震活動 ハーモニックな微動発生 SO2放出量の増加 低∼中程度の火映 山体膨張が検知されることがある 雨期、井戸水や泉の水位低下が報告されること がある マグマが関与しているものと思われる;噴火に 至る恐れあり クレーター頂が低い方向の斜面について、危険 地域を半径7kmに拡大することがある 3 噴火の準備段階 やや高い火山活動 火山性地震、微動の更なる増加 SO2放出量の更なる増加 山頂部での落石 活発な蒸気活動/明瞭な火映 山体膨張の継続 マグマがクレーター付近に近づく 活動が上昇傾向の場合、数週間以内に噴火の 恐れあり クレーター頂が低い方向の斜面について、危険 地域を半径7kmに拡大 4 被害噴火間近 高い火山活動 火山性微動の継続、低周波地震の増加 SO2放出量は引き続き増加傾向もしくは急な減 少 極めて明瞭な火映 山頂部での溶岩光 数日内に被害噴火の可能性 クレーター頂が低い方向の斜面について、危険 地域を半径8kmもしくはそれ以上に拡大するこ とを勧める 5 被害噴火 被害噴火の発生 火砕流、大規模な噴煙柱、強い降灰の発生 火砕流が(特にクレーター頂が低い方向の斜 面)谷沿いに流下することがある 噴火の状況に応じて危険地域の拡大が行われ ることがある 付近を航行する航空機に対する危険(噴煙の高 さ及び流向による)