• 検索結果がありません。

324 日本金属学会誌 (2009) 第 73 巻 B8265 : 2003 圧力容器の構造 一般事項 1) が制定され, 共通の許容引張応力が規定されている. これらの許容引張応力はいずれも米国機械学会 (ASME: American Society of Mechanical Engineers

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "324 日本金属学会誌 (2009) 第 73 巻 B8265 : 2003 圧力容器の構造 一般事項 1) が制定され, 共通の許容引張応力が規定されている. これらの許容引張応力はいずれも米国機械学会 (ASME: American Society of Mechanical Engineers"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

耐熱鋼のクリープ破断寿命予測

木 村 一 弘

独立行政法人物質・材料研究機構共用基盤部門データシートステーション

J. Japan Inst. Metals, Vol. 73, No. 5 (2009), pp. 323333  2009 The Japan Institute of Metals

INVITED REVIEW

Creep Rupture Life Prediction of Creep Resistant Steels Kazuhiro Kimura

Materials Data Sheet Station, Department of Materials Infrastructure, National Institute for Materials Science, Tsukuba 3050047 Allowable tensile stress at the elevated temperatures used for design of high temperature structural components is deter-mined based on a longterm creep strength, such as 100,000 hours creep rupture strength. Aim of the Creep Data Sheet project conducted in National Research Institute for Metals and National Institute for Materials Science is to obtain longterm creep strength data of engineering creep resistant steels and alloys. A timetemperature parameter method is applied for creep rupture life prediction, and several parameters are proposed. A wide variety of equations are examined to describe and to predict a long term creep deformation behavior. Creep strength of ferritic creep resistant steels after very longterm exposure at the elevated temperatures is controlled by an inherent creep strength that is almost the same independent of chemical composition, heat treat-ment, initial microstructure and shortterm creep strength. A region splitting analysis method was proposed as accurate life prediction method of ferritic creep resistant steels by consideration of 50 of 0.2 offset yield stress. Allowable tensile stress of some ferritic steels was revised according to reevaluation of longterm creep strength by means of region splitting analysis method.

(Received November 26, 2008; Accepted February 12, 2009)

Keywords: creep, creep resistant steel, life prediction, allowable stress, region splitting analysis

1. は じ め に クリープとは,外部から力が加わることにより,時間の経 過とともに徐々に物体が変形する現象であり,単位時間当た りの変形量をクリープ速度と呼ぶ.機械構造物を設計する際 の強度計算には,材料強度の基本的特性である降伏応力(あ るいは耐力)と引張強さが参照されるが,降伏応力や引張強 さは静的強度特性と呼ばれるのに対して,クリープ強度は時 間に依存した動的強度特性である.クリープは金属材料をは じめ,コンクリート,岩石,ポリマーなど,多くの材料で観 察される現象である.融点(絶対温度)の約 1/3 以下の低温 では時間の経過に伴いクリープ速度は減少し,一定の変形量 (ひずみ)でクリープ変形は飽和する.しかし,融点(絶対温 度)の約 1/3 を超える高温では,耐力以下の弾性範囲内の小 さな外力でもクリープ変形量は飽和せず,最終的に破断にい た る.炭素鋼などの鉄鋼 材料では約 400°C を 超えるとク リープによる破壊が問題となる.ジェットエンジンやガス タービンでは,1000°C を超える高温でも優れたクリープ強 度を発揮する超合金が使用されている.一方,鉛やはんだな どの低融点材料では,室温においてもクリープ変形が観察さ れる. 火力・原子力発電用タービンや自動車,航空機用エンジン などの高温機器は,エネルギー効率や性能向上を目的として 稼働温度の高温化が進められている.エネルギー資源の節約 や地球温暖化の要因と考えられている二酸化炭素ガスの排出 量を削減するためには,発電プラントのエネルギー効率向上 や輸送用機器の省エネルギー化の推進は緊急の課題である. しかし,稼働温度の上昇は高温構造部材の酸化や高温腐食の みならず,クリープ変形を促進するとともに経年劣化を加速 する.不測の事故や損傷は経済的損失だけでなく人的被害を も引き起こす可能性が高い.したがって,高温構造部材の安 全性・信頼性を十分に確保することが,高温機器の高性能化 の鍵を握ると言っても過言ではない.本論文では,高温構造 部材の長時間クリープ強度の重要性とその予測評価方法を概 説するとともに,最近の研究動向と設計基準の見直し等の状 況について述べる. 2. 長時間クリープ強度の重要性 2.1 高温構造部材の設計基準 火力発電プラントや化学,石油精製プラントなどで使用さ れる構造部材は各種の規格・基準等で規定された許容引張応 力に基づいて設計・製作される.我が国では圧力容器関連の 各種強制法規(高圧ガス保安法,労働安全衛生法,電気事業 法およびガス事業法)に基づいて,それぞれに対応した許容 引張応力が規定されている.そこで,それぞれの強制法規に お け る 技 術 基 準 の 整 合 化 を 図 る こ と を 目 的 と し て , JIS

(2)

Fig. 1 Allowable tensile stress of 2.25Cr1Mo and 18Cr8Ni steel tubes regulated in JIS B8265 : 2003 and JIS B8267 : 2008.

B8265 : 2003「圧力容器の構造―一般事項」1)が制定され,

共通の許容引張応力が規定されている.これらの許容引張応 力はいずれも米国機械学会(ASME: American Society of Mechanical Engineers) ボ イ ラ ・ 圧 力 容 器 規 格2)( 以 下 , ASME 規格)をベースにしており,その策定基準は基本的に 同じである.「発電用火力設備の技術基準の解釈(火技解 釈)」3)の第 4 条では,許容引張応力は以下の値のうち最小の ものと規定されている. イ クリープ温度領域未満での許容引張応力   室温における規定最小引張強さの 1/4   当該温度における引張強さの 1/4   室温における規定最小降伏点又は耐力の 2/3   当該温度における降伏点又は耐力の 2/3 ロ クリープ温度領域での許容引張応力   当該温度において 1,000 時間に 0.01のクリープ を生ずる応力の平均値   当該温度において 100,000 時間でクリープラプチ ャーを生ずる応力の最小値の 0.8 倍   当該温度において 100,000 時間でクリープラプチ ャーを生ずる応力の平均値の 0.67 倍 クリープが問題とならない低温域では,引張強さと降伏点 (あるいは耐力)で許容引張応力は決定されるが,クリープが 支配する高温域では 1,000 時間に 0.01のクリープあるい は 100,000 時間でクリープ破断する応力が許容応力を決定 する.一般に 1,000 時間に 0.01のクリープを生じる応力 よりも,100,000 時間でクリープ破断する応力が支配的とな る場合が多い. ASME 規格の 2001 年版では,上記(ロ)のの規定に Favg と い う 新 し い パ ラ メ ー タ を 導 入 し , 67  ( 0.67 倍 ) を 100Favgに変更した.Favgの値は 1500°F(816°C)以下では 0.67 であり変更前と同等であるが,1500°F(816°C)を超える 温 度 域 で は , 両 対 数 プ ロ ッ ト し た 応 力 破 断 時 間 曲 線 の 100,000 時間における傾き n から,式( 1 )で Favgの値を求 める. log Favg=-1/n ( 1 ) ただし,Favgの上限は 0.67 とし,0.67 を超える場合は, 0.67である.このように,クリープ温度域における許容引 張応力を策定するためには材料の 100,000 時間クリープ強 度特性が必要であるが,100,000 時間は 11 年 5 ヶ月に相当 する長期間であることから,適切な許容引張応力を制定する ためには,10 年を超える長時間クリープ強度を精度良く評 価することが重要である. なお,上記火技解釈では,クリープ温度領域未満での引張 強さに対する設計係数は 4 であるが,ASME 規格では 2001 年版で引張強さに対する設計係数は 3.5 に変更されている. JIS B8265 : 2003 で規定されている許容引張応力も,引張 強さに対する設計係数は 4 であるが,これを 3.5 に変更した 許容引張応力が,JIS B8267 : 2008「圧力容器の設計」4)で規 定されている.また,高圧ガス保安法に基づく特定設備検査 規則等が 2003 年 3 月に一部改正され,「第二種特定設備」5) として引張強さに対する設計係数に 3.5 が導入されており, 日本機械学会発電用火力設備規格でも 2003 年版6)から引張 強さに対する設計係数に 3.5 が導入されている. 許 容 引 張 応 力 の 一 例 と し て , JIS B8265 : 20031)と JIS B8267 : 20084) に 規 定 さ れ て い る 2.25Cr 1Mo 鋼 管

(STBA24)と 18Cr8Ni 鋼管(SUS304HTB)の許容引張応力 を Fig. 1 に示す.2.25Cr1Mo 鋼の許容引張応力は約 450°C 以 下 の 温 度 域 で は 温 度 に よ ら ず ほ ぼ 一 定 で あ る が , JIS B8265の値に比べて JIS B8267 の値の方が大きい.この違 いは,引張強さに対する設計係数の違いによるものであり, この温度域における STBA24 の許容引張応力が引張強さに 支配されていることを示している.また,約 450°C以上の 温度域では温度の上昇に伴い許容引張応力は大きく低下する が,これは許容引張応力がクリープ強度に支配されているた めであり,そのため JIS B8265 と JIS B8267 の値が同一で ある.一方,18Cr8Ni 鋼の許容引張応力は約 600°C までは 温度の 上昇に伴い徐々に減少 し,約 600°C を超えると ク リープ強度に支配されるため大きく低下する.しかし, 2.25Cr1Mo 鋼とは異なり 18Cr8Ni 鋼の許容引張応力は, ク リ ー プ 温 度 領 域 未 満 の 低 温 域 で も JIS B8265 と JIS B8267で大きな違いが認められない.その理由は,オース テナイト鋼はフェライト鋼に比べて降伏比が小さく,クリー プ温度領域未満での許容引張応力が引張強さではなく降伏点 (あるいは耐力)に支配されるためである. 2.2 クリープデータシート 2.1 節で述べたように,高温構造機器の設計基準である許 容引張応力は,10 年を超える長時間クリープ強度に基づい て策定される.そのため,長時間クリープ強度を精度良く評 価することが重要であるが,長時間クリープデータの取得は コストと時間がかかるため,国家レベルあるいは学協会の活 動などによって実施されているケースが多い719)

米国材料試験協会(ASTM: American Society of Testing on Materials)では,STP(Special Technical Publication)シ リーズの一部として約 50 冊の高温強度データ集を刊行し た7).このデータ集では,各分冊毎にデータの解析・評価結

(3)

Fig. 2 Creep rupture data of 16Cr12NiMo steel tubes (JIS SUS 316HTB).

Fig. 3 Creep curve of 0.3C steel (JIS SB480) at 400°C and 294 MPa.

果が記述されている.英国の British Steel Corp.(当時)を中 心とした英国鉄鋼製造者クリープ委員会(BSCC: British Steelmakers Creep Committee)は,炭素鋼,合金鋼,オース テナイト鋼の代表的な材種について高温引張試験データおよ びクリープ破断試験データが記載された高温強度データ集8) を 1972 年に報告している.西独(当時)の鉄鋼協会(VDEh) は,鉄鋼メーカーと機器メーカーの合同グループによりク リープデータを取得・収集して,耐熱鋼のクリープデータ 集9)を 1969 年に報告している.収録されているクリープ データは炭素鋼,低合金鋼,12Cr 系鋼およびステンレス鋼 である.その後,耐熱鋼研究協会(FVW),高温材料研究協 会(FVHT)および内燃機関研究協会(FVV)との共同で, 鋳鋼10)と耐熱合金11)のクリープデータ集がそれぞれ 1986 年 と 1987 年に刊行されている.スウェーデンクリープ委員会 では鋳鋼に関する高温強度特性を検討し,検討結果をスウ ェーデン金属研究所(Swedish Institute for Metals Research) の報告書12)として 1980 年に出版している. 日本国内でも長時間クリープデータに関する多くの取り組 みが行われてきている.日本学術振興会に「金属材料の強度 と疲労」に関する第 129 委員会が発足する際,高温強度に 関する分科会が設けられた.この分科会が主体となり当時の 日本国内におけるクリープデータの収集・整理を行い,その 結 果が金属 材料高温 強度デー タ集13)として 出版され てい る.また,日本鉄鋼協会の高温強度研究委員会(旧クリープ 委員会)によって高温強度特性データおよびクリープ試験 データが収集・整理され,低合金鋼,ステンレス鋼,炭素鋼 および鋳鉄,耐熱合金,溶接継手について,5 冊の金属材料 高温強度データ集14)が出版されている.さらに,日本高圧 力技術協会の溶接継手高温強度データ集15)や石油学会の石 油化学装置用材料に関するデータ集16)に加え,民間企業か らも社内に蓄積したクリープデータがデータ集17,18)として公 表されている. これらの活動と並行して我が国では,1962 年にクリープ 試験技術研究組合が発足し,クリープ試験技術の標準化につ いての研究が進められた.また,1963 年にはクリープセン ター設立準備委員会が設立され,クリープに関する国立試験 機関の設置が求められた.このような状況を受けて,国産の 実用耐熱金属材料について,10 万時間クリープ試験データ を取得することを目的としたクリープデータシート作成のた めの長時間クリープ試験が,1966 年に科学技術庁金属材料 技術研究所(当時)で開始された1921).2001 年以降は,独立 行政法人物質・材料研究機構がクリープデータシートプロジ ェクトを引き継いで実施している.本プロジェクトで取得し た長時間クリープデータは,NRIM/NIMS クリープデータ シートとして発行・公表されるとともに,インターネットを 通じたデータの発信22)も行われている.最近開発された新 しい高強度耐熱金属材料も順次サンプリングしてクリープ試 験に供しており,2008 年の時点で試験対象材料は 66 材種で ある.これまでに 700 点以上の 10 万時間を超える長時間 データが得られており,30 万時間(34 年 3 ヶ月)を超えるク リープ試験データも 12 点取得している.本プロジェクトで 取得した長時間クリープ試験データの一例として,16Cr

12NiMo 鋼(JIS SUS316HTB)のクリープ破断データ23)

Fig. 2 に示す.図中には製造メーカーの異なる 9 ヒートの試 験結果が表示されている.短時間域ではクリープ破断強度の ばらつきは小さいが,低応力・長時間域ではヒート間のばら つきが増大する傾向が認められ,許容引張応力を決定する 100,000 h ではクリープ破断強度のばらつきが大きい.この ような長時間クリープ強度の違いは微量合金元素量の違いに 依存することが明らかとなり,微量合金元素量の制御に関す る研究・技術開発の活性化に貢献している.本プロジェクト で取得した最長のクリープ試験データを Fig. 3 に示す.試 験材は 0.3炭素鋼(JIS SB480)24),試験温度は 400°C,応 力は 294 MPa であり,1969 年 6 月 18 日にクリープ試験を 開始した.これまでのクリープ試験時間は 343,500 h(2008 年 11 月 30 日現在)に到達し,現在も試験継続中である.な お,約 240,000 h 及び約 310,000 h 近傍でひずみのわずかな 不連続が認められるが,これはひずみ測定用ダイヤルゲージ の動作不良によるものであり,本質的なものではない.これ らの長時間クリープ試験データは,計 133 冊のクリープ データシートとして発行されるとともに,7 冊の長時間ク リープ試験材の組織写真集と,2 冊のクリープ変形データ集

(4)

Table 1 Creep deformation model and target regime.

Model Eq. Target regime Ref. Norton ( 7) S 36 Modified Norton ( 8) S ― NortonBailey ( 9) T・S ― Bartsch (10) T・S 37 Garofalo (11) T・S 38 Modified Garofalo (12) T・S・A 39 BJF (13) T・S 40 Blackburn (14) T・S 41 u method (15) T・S・A 42 Modifiedu method1 (16) T・S・A ― Modifiedu method2 (17) T・S・A 43 RabotnovKachanov (18) T・S・A 44 BakerCane (19) T・S・A 45 Dyson and McLean

(CRISPEN) (20) T・S・A 46 IMechE (21) T・S 47 Bolton (22) T・S・A 48 Omega (23) S・A 49 TTransient regime

SSteady state regime AAccelerating regime が発行されている(2008 年 3 月末).クリープデータシート プロジェクトで蓄積された膨大な長時間クリープデータを用 いた研究から,「基底クリープ強度」の概念や「領域分割解 析法」等の成果が得られているが,それらの詳細については 後述する. 3. 長時間クリープ強度特性の予測技術 3.1 クリープ破断寿命予測 短時間クリープ試験データから長時間クリープ強度を予測 評価する手法は,クリープ破断寿命に基づくものとクリープ 変形挙動に基づくものの 2 種類に大別される.クリープ破 断寿命に基づく長時間クリープ強度予測には一般に時間温 度パラメータ(TTP: TimeTemperature Parameter)25,26) 用いられる.時間27)と温度の関数であるパラメータ,P(t R, T)を用いて温度の違いを補償することにより,式( 2 )のよ うにクリープ寿命,tRが応力,s のみの関数で表現されると いう考えに基づいており,高温短時間試験データから低温長 時間側のクリープ破断寿命を予測評価する方法である. P(tR, T)=F(s) ( 2 ) 応力の関数,F(s)としては一般に応力の対数(log s)28)の多 項式が使用されることが多い.TTP 法による長時間クリー プ寿命予測に関しては藤田らによる詳細な解説26)がある. TTP 法の時間温度パラメータには多くの種類が提案されて おり,代表的なものを以下に示す. LarsonMiller29)P=T(log t R+C) ( 3 ) OrrSherbyDorn30)P=log t R-Q/(2.3RT) ( 4 ) MansonSuccop31)P=log t R+B・T ( 5 ) MansonHaferd32)P=(log t R-log ta)/(T-Ta) ( 6 ) ここで,T は絶対温度,tRはクリープ破断時間,Q はク リープの活性化エネルギー,R は気体定数,C, B, ta, Taはい ずれも定数である.LarsonMiller パラメータ(式( 3 ))は焼 戻しパラメータと同等であり,長時間クリープ寿命の予測評 価に最も広く使用されている. これらの TTP 法を用いることにより,異なる試験温度の 短時間クリープ破断データから任意の温度における長時間ク リープ強度を予測することができる.これらの TTP 法で は,解析に用いる短時間データと予測を行う長時間クリープ 強度を,すべて同一の現象が生ずる単一の領域とみなしてい るが,破壊機構領域図33,34)や変形機構領域図35)として報告さ れているように,材料のクリープ変形やクリープ破壊機構は 温度・応力条件に依存して異なる.TTP 法による長時間ク リープ強度予測は,推定精度の点から 3 倍程度の長時間外 挿が限界である26)とされているが,破壊機構が変化する場 合や析出物等の組織変化に伴い強度や延性が大きく変化する 場合には,3 倍程度の外挿でも大きな誤差が生じることがあ る.そのため,外挿を行う際には,破断延性の変化や析出物 の挙動等の情報を活用し,少なくとも見かけ上,同じ変形及 び 破 壊 機 構 が 成 立 し て い る こ と を 確 認 す る こ と が 望 ま しい26) 3.2 クリープ変形挙動予測 クリープ変形に伴う微細組織変化に起因したクリープ強度 変化に対応して,クリープ速度は時々刻々と変化する.とく に長時間クリープ強度を検討する場合,微細組織変化に起因 した材質劣化の影響を考慮することが重要である.クリープ 破断時間だけの解析に比べて,クリープ変形挙動そのものを 解析した方が,クリープ強度を支配する微細組織変化の影響 をより詳細に理解することができる.そこで,クリープ破断 時間だけを解析する時間・温度パラメータではなく,クリー プ曲線(ひずみ時間関係)そのものを数式表示してクリープ 変形挙動を解析するとともに,長時間クリープ強度特性を予 測評価するための検討も行われている. クリープ変形特性に関して提案されているクリープ変形モ デルの種類を Table 1 に示す.それぞれのモデルは必ずしも 遷移,定常及び加速クリープのすべての領域を対象としてい るわけではない.Norton と Modified Norton は定常(最小) クリープ速度のみを表示するモデルであり,上記 2 種類の モデルと Omega を除くクリープ変形表示式はいずれも遷移 と定常クリープ域,あるいは遷移,定常及び加速クリープ域 を表示する.Omega は遷移クリープ域を表示せず,定常及 び加速クリープ域を表示する.なお,定常クリープ域を対象 とするクリープ変形表示式のうち,定常クリープ域の存在を 前提とした表示式は Garofalo, Modified Garofalo, BJF, Blackburn 等であり,u method, Modified u method1, 2, RabotnovKachanov, Dyson and McLean (CRISPEN), Omega等の表示式は定常クリープ速度の代わりに最小ク リープ速度を表示する.これらのクリープ変形表示式は,そ

(5)

Fig. 4 Creep rupture data of 10 types ferritic creep resistant steels.

Fig. 5 Schematic illustrations of change in creep strength and its effect on stress vs. time to rupture curve.

の大部分が経験に基づくあてはめ式であるのに対して,Dy-son and McLeanの CRISPEN 連続損傷モデルはミクロ組織 変化や変形機構を考慮した表示式であり,物理的意味が明確 であるが,他の表示式に比べて複雑であり,パラメータを決 定するのも難しい.これらのクリープ構成式は,温度・応力 計算の解析に基づく部材の余寿命評価に際して有用なクリー プ変形特性を与えるものであり,今後ますますの発展が望ま れる. ·em=a・exp (Q/RT)・sn ( 7 )

·em=a・exp (QA/RT)sn1+b・exp (QB/RT)sn2 ( 8 )

ef=a・sn・tm ( 9 )

ef=a1・exp (Q1/RT)sn・exp (b1・s)tm1

+a2・exp (Q2/RT)s・exp (b2・s)tm2 (10)

ef=et・[1-exp (-a・t)]+·em・t (11)

ef=ef1,max・[1-exp (-D(t/t12)u)]+ ·em・t+C23・(t/t23)f(12)

ef=a1・[1-exp (-t)]m+a2・ t

t=(s/A)n・exp (-Q/RT) (13)

e=ei+et1[1-exp (-a1・t)]+et2[1-exp (-a2・t)]+·em・t

(14) ef=u1・[1-exp (-u2・t)]+u3・[exp (-u4・t)-1]

log (ui)=ai+biT+cis+disT (15)

ef=u1・[1-exp (-u2・t)]+um・t+u3・[exp (-u4・t)-1]

um=Asnexp (-Q/RT) (16)

e=e0+A・[1-exp (-a・t)]+B・[exp (-a・t)-1] (17)

·e= a・s

n1

(1-v) , ·v= b・sn2

(1-v)z (18)

ef=A・tm+ep+q・es+es・(l-q)・

[

l-

{

t/tu-q

1-q

}]

1-q l-q

l=eu/es, es=·em・tu and q=tp/tu (19)

·e= ·e0 (1-Dd) ・sinh

[

s(1-H) s0(1-Dp)(1-v)

]

, H= si s (20) Ru|t|T=

(

a+ b ef -c・e2 f

)

・Re|t|T+d+ e ef + f e2 f -e2 f (21) ef(s)=e・

(

Ru|t|T Re|t|T -1

)

/

(

Ru|t|T s -1

)

(22) ·e= ·em (1-·em・V・t) (23) 4. 基底クリープ強度 高温構造部材の安全性・信頼性を確保するためには長時間 クリープ強度を精度良く評価することが重要であるが,その 予測評価が困難な理由は高温では拡散による組織変化が活発 に生じ,強度特性を支配する金属組織が時間とともに変化す るためである.そこで,クリープデータシートプロジェクト で取得したフェライト系耐熱鋼の長時間クリープ試験データ を用いて,クリープ強度の支配因子について系統的に解析・ 検討を行った結果,高温強度特性に関する興味深い新知見が 得 ら れ ,『 基 底 ク リ ー プ 強 度 概 念 』 と し て 提 唱 さ れ て い る5054) 低合金の 0.5Mo 鋼から高合金の 12Cr 系鋼まで,化 学組成,熱処理条件および初期組織等の異なる 10 種類のフ ェライト系耐熱鋼について,短時間から最長 10 万時間を超 える長時間クリープ破断データを LarsonMiller パラメータ (C=20)で整理して,Fig. 4 に示す50).低温・短時間域に相 当する左上方では鋼種による強度差が大きく,200~300 MPaの応力域ではクリープ破断寿命に換算して最大 4 桁程 度のクリープ破断強度差が認められる.しかし,図の右下に 相当する高温・長時間域では,クリープ破断強度の強度差は 縮小し,全 10 鋼種のクリープ破断強度があるレベルに収斂 する傾向が見出された.高温・長時間域で各鋼種の強度が収 斂する強度レベルは,鋼種によらずフェライト系耐熱鋼に共 通の基本的なクリープ強度であると考えられることから,フ ェライト鋼の「基底クリープ強度」として提唱された50) 組織変化に伴う強度変化と基底クリープ強度の意味の模式 図を Fig. 5 に示す.クリープ強度は析出強化,加工硬化及

(6)

び固溶強化等種々の強化因子により高めることができる.し かし,ミクロ組織は高温では不安定なため,ミクロ組織形態 に依存した強化因子の効果は試験時間の増加に伴い徐々に減 少する.ミクロ組織が完全に焼戻されるだけの十分な時間が 経過した長時間側では,炭化物による析出強化のようなミク ロ組織形態に依存した強化因子の効果は消滅し,クリープ強 度はミクロ組織に依存しない,時間変化のない因子のみに支 配されると考えられる.したがって,応力破断時間曲線が S 字型を示すのは,ミクロ組織変化によりクリープ強度が低 下するとともに,長時間側ではクリープ強度がミクロ組織や 時間に依存しない一定値になるためと考えられる.フェライ ト鋼の場合,基底クリープ強度,すなわちフェライト母相の クリープ強度は炭素と微量 Mo の添加により向上するが,そ の効果は 0.03 massMo 程度で飽和するため,フェライト 系耐熱鋼の基底クリープ強度は鋼種によらず同程度であると 考えられている49,50).組織変化に伴う強度低下と基底クリー プ強度への到達はクリープ変形挙動にも影響を及ぼすが,そ の詳細については文献を参照されたい53,54) 5. 長時間クリープ寿命予測法の高精度化 5.1 時間温度パラメータ法の高精度化 1980 年頃に米国で開発された改良 9Cr1Mo 鋼55)は,Nb, V, Nを微量添加して,微細かつ高温安定性に優れた MX 型 炭窒化物を析出させることにより,長時間クリープ強度特性 が高められている.この鋼を基本として,Mo の一部を W で置換するとともに B を微量添加する等のさらなる改良が 加 え ら れ , 火 STPA29 ( ASME Grade P92 )56), 火

SUS410J3TP(ASME Grade P122)57)及び E911(ASME

Grade 911)58)等の高強度フェライト耐熱鋼が開発された. これらの新規開発材料を用いて管寄せや主/再熱蒸気管等を 製作することにより,火力発電プラントの蒸気温度を従来の 566°C から 600°C 程度にまで上昇させた超々臨界圧(USC: Ultra Supercritical)発電プラントの建設が可能となり,エネ ルギー効率の向上に大きく貢献している. しかし,3.1 節で述べた TTP 法は簡便な手法ではある が,必ずしも常に精度良く長時間クリープ強度を予測評価で きるわけではなく,これらの高強度フェライト耐熱鋼では長 時間クリープ強度の過大評価が懸念されていた.そのため, TTP 法による長時間クリープ強度予測の信頼性を向上させ る手法が検討された5964).Graphical method59)では,ヒー ト間でのデータ数のばらつきやクリープ強度のばらつきを補 正して,平均的な応力破断時間関係を求めることにより, 長時間クリープ強度の予測精度向上を図る.まず初めに,応 力クリープ破断時間関係をヒート毎に回帰分析により評価 した後,評価結果に基づいて所定のクリープ破断時間に対応 する応力を求め,温度に対してプロットする.この結果か ら,所定のクリープ破断時間に対する応力の温度依存性を評 価する.種々のクリープ破断時間に対して求めたクリープ破 断応力の温度依存性から,クリープ破断応力温度関係を求 める.さらにこの結果から,各温度における応力クリープ 破断時間関係をプロットし,評価結果の妥当性を判断する. このように,一定温度における応力クリープ破断時間関係 とクリープ破断時間を一定にした場合のクリープ破断応力 温度関係を交互に図示することを繰り返すことにより,評価 結果の精度を高める.主にドイツの研究者を中心にして検討 が行われ,クリープ破断強度評価に用いられている手法であ るが,解析者の主観が排除できない点が課題である. 一方,クリープ変形機構や破壊機構の変化を考慮して,温 度・応力条件等でクリープ破断データをグループ分けして, それぞれのグループ毎に TTP 法によるクリープ強度解析を 行う手法が検討されている.「領域分割解析法」60,61)では,応 力クリープ破断時間曲線の勾配が大きく変化する応力を境 界条件として,クリープ破断データを高応力・短時間側と低 応力・長時間側に分割して,クリープ破断強度を解析評価す る.ここで,応力クリープ破断時間曲線の勾配が大きく変 化する応力は,その温度における 0.2耐力(ひずみ速度5 ×10-5s-1)の 1/2 にほぼ相当するため,境界条件の設定が 簡便かつ容易である.これに対して丸山らは,温度加速によ りクリープ変形機構が変化し,それが長時間クリープ強度を 過大評価する原因であることを報告し,クリープ強度の温度 依存性の変化を考慮してクリープ試験データを解析評価する 「領域区分法」62)を提唱している. さらに最近,式(24)に示すように引張強さで規格化した 応 力 を 用 い て ク リ ー プ 破 断 寿 命 を 解 析 評 価 す る 手 法 が Wilshire と Sharning によって提唱されている63,64)

(s/sUTS)=exp {-k[tR-exp (-Qc/RT)]u} (24)

ここで,s は応力,sUTSは引張強さ,tRはクリープ破断寿 命,Qcは母相の格子拡散の活性化エネルギー,R はガス定 数,T は絶対温度であり,k と u は材料定数である.この場 合でも,クリープ変形機構あるいは破壊機構の変化に対応し て領域を分割し,それぞれの領域で材料定数に異なる値を採 用する必要性が検討されている64) 以上のように,TTP 法による長時間クリープ寿命の予測 評価法を高精度化するための検討が種々行われており,我が 国では,上記の「領域分割解析法」による長時間クリープ強 度の再評価結果に基づいて高強度フェライト耐熱鋼の許容応 力の見直しが行われた.そこで次節では,「領域分割解析法」 について述べる. 5.2 領域分割解析法 火 SUS410J3 系 鋼 4 鋼 種 の ク リ ー プ 破 断 時 間 を 応 力 の 0.2耐力比に対して整理して,Fig. 6(a)~(d)に示す65) 耐力比とクリープ破断時間の関係は高応力域では小さな勾配 を示すが,耐力比が約 0.5 以下になると勾配が増大する.こ のことから,耐力比が 0.5 以上の高応力域のクリープ試験 データを低応力・長時間域に外挿すると,長時間クリープ強 度を過大評価する危険性が高いことがわかる.したがって, 0.2耐力の 1/2 を境界条件として,高応力域と低応力域の クリープ強度を独立に解析評価することにより,クリープ強 度の解析精度の向上が期待される. 火 SUS410J3 系鋼のクリープ破断データを LarsonMiller パラメータ(LMP)を用いて解析評価した結果を Fig. 7 に示 す66).点線で示したクリープ破断寿命曲線は,図中のすべ

(7)

Fig. 6 Creep rupture life of the steels plotted against ratio of stress to 0.2 offset yield stress.

Fig. 7 Creep rupture strength of the single phase steels and creep rupture life curves predicted by LarsonMiller parameter by means of conventional whole data analysis (dashed lines) and region splitting method (solid lines).

てのクリープ破断データを解析に用いて得られた予測評価結 果である.従来は,このようにできる限り多くのクリープ試 験データを解析に用いて長時間クリープ強度の予測評価がな されてきたが,長時間クリープ強度を著しく過大評価する傾 向が認められる.これに対して,木村らが提案した領域分割 解析法60,61)による予測評価結果を実線で示す.長時間クリー プ強度を過大評価する原因は,応力とクリープ破断時間の関 係が折れ曲がりを示すためである.そこで,クリープ試験 データを高応力・短時間領域と低応力・長時間領域に分割 し,それぞれの領域のクリープ強度を別々に解析評価するの が領域分割解析法であり,0.2耐力(ひずみ速度5×10-5 s-1)の 1/2 の応力という簡便な指標を,二つの領域の境界 条件とすることが大きな特徴である.いずれの解析手法でも LMP を用い,応力の対数の二次式で回帰分析しているが, すべての試験データを一括解析した結果(点線)に比べて,領 域分割解析法(実線)の方が試験データとの適合性が高い. クリープ強度解析結果の妥当性を検証するため,解析結果 に基づくクリープ破断時間の予測値を,実測のクリープ破断 時間に対してプロットして Fig. 8 に示す64).全試験データ を一括解析した場合,予測結果の 99信頼範囲の幅が広 く,予測精度が低いことに加え,長時間側になるのに伴い実 測値を過大評価する程度が増大する.これに対して,領域分 割解析法による予測結果は 99信頼範囲の幅が狭く,実測 のクリープ破断時間を精度良く予測評価できる. 火 STPA29 鋼の応力最小クリープ速度曲線を Fig. 9 に 示す67).また,0.2耐力を求めるひずみ速度での流動応力 (Flow Stress)と引張強さのひずみ速度との関係もソリッド シンボルで併せて示す.最小クリープ速度の応力依存性(応

(8)

Fig. 8 Comparison of predicted and observed creep rupture lives for single phase steels by means of (a) conventional whole data analysis and (b) region splitting method.

Fig. 9 Stress vs. minimum creep rate curves of KASTPA29 steel. Tensile strength and flow stress are plotted on the cor-responding strain rate. Numerical values indicate stress expo-nent, n of the power law.

力指数)は高応力域と低応力域で明確に異なり,低応力域で は応力指数(n 値)が 4~8 であるのに対して,高応力域では 10~20 の大きな値を示す.高応力域における最小クリープ 速度の応力依存性は,引張試験で求めた流動応力のひずみ速 度依存性と同等であり,一本の直線で整理することができ る.低応力域の n 値は,クリープ変形の律速過程が転位の 上昇運動である場合の応力指数として報告されている値に相 当する. 火 STPA29 と火 STBA29 について,最小クリープ速度の 応力指数が変化する高応力域と低応力域の境界応力を求め, 高温引張試験で求めた 0耐力及び 0.2耐力の 1/2 との関 係をそれぞれ Fig. 10(a), (b)に示す67).高応力域と低応力 域の境界応力は 0耐力,すなわち比例限と良く対応すると ともに,0.2耐力の 1/2 とも良く対応する.したがって, 比例限以下の低応力域では,拡散がクリープ変形の主要な支 配因子であるが,比例限を超える高応力域では塑性変形の寄 与によりクリープ変形が促進されるため大きな最小クリープ 速度を示し,最小クリープ速度の応力依存性が増大すると考 えられる.すなわち,短時間クリープ試験データからの外挿 による長時間クリープ寿命の予測結果が過大評価を与えるの は,長時間域で急激な強度低下が生じているのではなく,比 例限を超える高応力の負荷によりクリープ変形抵抗が大きく 低下している高応力域のクリープ現象に基づいて,比例限以 下の拡散支配のクリープ強度特性を予測したためであると理 解できる.すなわち,0.2耐力の 1/2 を境界条件として高 応力域と低応力域のクリープ強度を独立に解析評価すること は,比例限を境界条件として高応力域と低応力域を独立に解 析評価することを意味しており,そのため長時間クリープ強 度の予測精度が向上したものと考えられる. 5.3 許容応力の見直し 財発電設備技術検査協会に設置された「高クロム鋼の長時 間クリープ強度低下に関する技術適合性調査委員会」では, 平成 16, 17 年度の 2 年間にかけて高強度フェライト系耐熱 鋼の長時間クリープ強度の再評価を実施した.日本国内の公 的研究機関や民間企業からクリープ試験データを収集し,長 時間クリープ強度の解析評価法を検討した結果,「領域分割 解析法」による予測評価結果が採用され,長時間クリープ強 度の再評価結果が報告された6871).この報告に基づいて, 「発電用火力設備の技術基準の解釈」に規定されている高強 度フェライト耐熱鋼の許容引張応力が改定され,平成 17 年 12 月 14 日付72)で火 SUS410J3 系鋼の 5 鋼種について,さ ら に 平 成 19 年 8 月 1 日 付73)で 火 SCMV28 系 鋼 及 び 火

(9)

Fig. 10 Relations between (a) 0 offset yield stress and (b) 50 of 0.2 offset yield stress and boundary stress where a magnitude of stress exponent changes.

Fig. 11 Comparison of previous and revised allowable tensile stress of KASUS410J3 type steels.

Fig. 12 Comparison of previous and revised allowable tensile stress of KASTPA29 type steels.

STPA29 系鋼等の 12 鋼種について許容引張応力が引き下げ られた.火 SUS410J3 系鋼と火 STPA29 系鋼の許容引張応 力の改定結果をそれぞれ Fig. 11 及び Fig. 12 に示す. 高強度フェライト耐熱鋼の長時間クリープ強度の再評価は 日本国内のみならず海外でも同様に行われている.ASME ボイラ・圧力容器規格では,2006 年 8 月 4 日付で ASME Grade 92(火 STPA29 相当材)74)及び ASME Grade 122(火

SUS410J3 相当材)75)の許容引張応力が,それぞれ Fig. 12

及び Fig. 11 と同等の値に引き下げられた.欧州クリープ共 同委員会(ECCC: European Creep Collaborative Committee) は ASME Grade 92 の長時間クリープ強度の再評価を行った 結果,1999 年の報告よりも低く,我が国の評価結果と同等 の再評価結果が 2005 年に報告された76) 6. お わ り に 本稿では,耐熱鋼のクリープ破断寿命予測に関して,最近 の許容引張応力の見直し事例を含めて述べた.高強度フェラ イト耐熱鋼で経験した長時間クリープ強度の過大評価は,短 時間での損傷の重要な要因ではあるが,それ以外にも溶接熱 影響により形成される微細結晶粒の領域で Type IV 破壊が 発生するため,母材に比べてクリープ強度が著しく低下する ことも報告されている7780).長時間クリープ強度の過大評 価や Type IV 破壊による著しいクリープ強度低下は,従来 材料よりもクリープ強度を高めた高強度フェライト耐熱鋼で 顕在化した問題であり,従来の知見では予測できないような 短時間での損傷事例を引き起こすこととなった. しかしながら,技術開発とは常に未知の現象との遭遇を意 味しており,そのような問題を解決せずには,新技術による 各種機器の高性能化を実現することはできない.したがっ て,従来技術の範疇で新規開発材料の強度特性や経年劣化挙 動を評価するのでは不十分である.とくに材料信頼性に関す る現象は時間に強く依存することから,問題が露見してから 検討を開始したのでは対応が間に合わない.新規開発技術を 実機に適用する際には,あらかじめ材料信頼性に関わる検討 を進めておき,実機部材で問題が発生する前に,起こりうる 損傷等の発生を予見できるだけの知識を蓄積する体制の整備 が重要である.それにより,最新の技術を有効かつ安全に実

(10)

用化することが可能になる.米国エネルギー省が主導する第 4 世代原子炉や我が国の次世代高速増殖炉開発では,従来の 軽水炉よりも稼働温度の高温化を図りエネルギー効率を向上 させるとともに,60 年という長期のプラント寿命を実現す ることが計画されている.高強度フェライト耐熱鋼の適用に 際して直面した問題とその解決に向けた経験は,今後のさら なる技術革新の普及促進に対しても,教訓として生かす必要 がある. クリープデータシートプロジェクトの推進に際しては,研 究所内外の多くの方々にご支援・ご協力を頂きました.ク リープデータシートプロジェクトの立上げに際しては,日本 鉄鋼協会の金材技研クリープデータシート連絡分科会にて試 験計画等が検討・立案されました.また,データシート懇談 会やクリープ検討会,学協会活動等を通じて,官公庁,大 学,企業,学協会等の多くの方々からご支援・ご協力を頂き ました.そして,40 年以上の長期間にわたり,1,000 台を 超えるクリープ試験機を安定に稼働させるため,空調・自家 発等の設備面を含めて多くの職員が日々の地道な努力を積み 重ねてきました.ここに記して謝意を表します. Appendix A, B, a, b, c, d, e, f, g, m, u,·e0 定数 Dd 可動転位密度の増殖に依存した損傷係数 Dp 析出物の粒子間距離に依存した損傷係数 n 応力指数 Q クリープの活性化エネルギー R 気体定数 Re|t|T 所定の時間・温度に対するクリープ強度 Ru|t|T 所定の時間・温度に対するクリープ破断強度 t 時間 t12 定常クリープ域開始時間 t23 加速クリープ域開始時間 tp 指定ひずみ到達時間 tu クリープ破断時間の実測値 T 温度 a 速度定数 e, ef ひずみ,クリープひずみ e0 仮想初期ひずみ ef1,max 定常クリープ域開始時のクリープひずみ ei,ep,eu 瞬間ひずみ,塑性ひずみ,破断ひずみ ex,et 遷移クリープひずみの限界値 ·e, ·em ひずみ速度,最小クリープ速度 s, s0,si 応力,初期応力,内部応力 u1,u2,u3,u4 u method の定数 um Modifiedu method の追加定数 V 材料固有のクリープ損傷パラメータ v, ·v 損傷度,損傷蓄積速度 文 献

1) Japan Industrial Standard, Construction of pressure vessel―

General principles, JIS B 8265 : 2003,Japan Standards Associ-ation, (2003).

2) ASME Boiler and Pressure Vessel Code, Section II, Materials, 2001 Edition, (2001).

3) Thermal Power Standard Code, Interpretation of Thermal Pow-er Standard Code, 2007 Revision, ThPow-ermal and Nuclear PowPow-er Engineering Society, Japan, (2008).

4) Japan Industrial Standard, Construction of pressure vessel, JIS B 8267 : 2008, Japan Standards Association, (2008).

5) Rules for Inspection of Specified Equipment, (Nuclear and Indus-trial Safety Agency, Ministry of Economy, Trade and Industry, Japan, 2003).

6) Rules on Thermal Power Generation Facilities, 2003 Edition, (Japan Society of Mechanical Engineers, 2004).

7) e.g. ASTM DS11S1(1970).

8) BSCC High Temperature Data, (The Iron and Steel Inst., 1972).

9) Ergebnisse deutsche Zeitstandversuche langer Dauer, (Verlag Stahlleizen mbH, 1969).

10) Ergebnisse deutsche Zeitstandversuche langer Dauer an Stahlgus-sorten nach DIN 17 245 warmfester ferritischer Stahlguss, (Bericht FVW/FVV Nr. 186, 1986).

11) Ergebnisse deutsche Zeitstandversuche langer Dauer and den hochwarmfesten Legierungen X40CoCrNi20 20 (Typ S590) und X12CrCoNi21 20 (Typ N155), (Bericht FVHT/FVV Nr. 2 87, 1987).

12) Bo. Ivarsson: Elevated Temperature Tensile and Creep Proper-ties of Cast Steels, Final Report, Swedish Institute for Metals Research, IM1493, (1980).

13) S. Taira: Data Book of High Temperature Strength of Metallic Materials, Yokendo, Japan, Vol. 1 Low Alloy Steels, (1964), Vol. 2 Stainless Steels, (1968).

14) Report on The Mechanical Properties of Metals at Elevated Tem-peratures, The Iron and Steel Inst. Japan, Vol. I Low Alloy Steels, (1972), Vol. II Stainless Steels, (1975), Vol. III Carbon Steels and Cast Irons, (1977), Vol. IV Superalloys, (1979), Vol. V Deposited Metals, Melt Metals and Welded Joint, (1985). 15) Data Book of High Temperature Strength of Welded Joint, (High

Pressure Inst. Japan, 1967).

16) Data Book of High Temperature Creep Rupture Strength of Heat Resistant Alloys and Cast Steels used for Petroleum Refinery and Petrochemical Equipments, (The Japan Petroleum Institute, 1979).

17) High Temperature Strength Properties of Tubes and Pipes for High Temperature Applications, (Sumitomo Metal Industries, Ltd., Japan, 1972).

18) Creep Data Sheet of Seamless Tubes and Pipes of Sumitomo Metal Industries, Ltd., Japan, (1993).

19) C. Tanaka and K. Yagi: TetsutoHagane80(1994) 255262. 20) NRIM Material Strength Data Sheet, Technical Document, No.

10, (National Research Institute for Metals, Tokyo, 1996). 21) K. Kimura, M. Yamazaki and M. Tabuchi: Ferrum 9(2004)

816820.

22) http://mits.nims.go.jp/

23) NRIM Creep Data Sheet, No. 6B, (National Research Institute for Metals, Tokyo, 2000).

24) NRIM Creep Data Sheet, No. 17B, (National Research Institute for Metals, Tokyo, 1994).

25) S. Yokoi and Y. Monma: TetsutoHagane65(1979) 831842. 26) T. Fujita, Y. Monma, A. Matsuzaki, S. Kihara, M. Shiga and K. Kasahara: Manual on The Extrapolation Methods of CreepRup-ture Data in Accordance with ISO 6303, (The Iron and Steel Inst. Japan, Tokyo, 1983).

27) In this research field, hour is often used as an unit of time by tra-dition, since very longterm creep strength is investigated. An allowable stress is determined on the basis of a creep rate of 0.01/1,000 hours and stress to cause rupture at the end of 100,000 hours. In many cases of the calculation of TimeTem-perature parameters, such as LarsonMiller, time in hour is used.

28) ``log'' used in this paper is a common logarithm. 29) F. R. Larson and J. Miller: Trans. ASME,74(1952) 765. 30) R. L. Orr, O. D. Sherby, J. E. Dorn: Trans. ASM46(1954) 113. 31) S. S. Manson, G. Succop: ASTM, STP174(1956) 40. 32) S. S. Manson, A. M. Haferd: NACA, TN2890 (1953). 33) M. F. Ashby, C. Gandhi and D. M. R. Talpin: Acta Metall.

27(1979) 699.

34) R. J. Fields, T. Weerasooriya and M. F. Ashby: Metall. Trans. 11A(1980) 333.

(11)

(Pergamon Press, Oxford, 1982).

36) F. N. Norton: The Creep of Steel at High Temperature, (McGrawHill, 1929).

37) H. Bartsch: Steel Research66(1995) 384388.

38) F. Garofalo: Fundamentals of Creep and Creep Rupture in Metals, (MacMillan, New York, 1965).

39) J. Granacher, H. Moehlig, M. Schwienheer and C. Berger: Proc. 7th Int. Conf. on Creep and Fatigue at Elevated Temperatures (Creep 7), (The Japan Society of Mechanical Engineers, Tokyo, 2001) pp. 609616.

40) D. I. G. Jones and D. L. Bagley: Proc. Conf. on Creep and Frac-ture: Design and Life Assessment at High Temperature, (The Institution of Mechanical Engineers, London, 1996) pp. 8190. 41) L. D. Blackburn: The Generation of Isochronous StressStrain Curves, ed. by A. O. Schaefer, (ASME, New York, 1972) pp. 1548.

42) R. W. Evans and B. Wilshire: Creep of Metals and Alloys, (Inst. Metals, London, 1985).

43) K. Maruyama, C. Harada and H. Oikawa: J. The Soc. Mat. Sci. Japan34(1985) 12891295.

44) L. M. Kachanov: Introduction to Continuum Damage Mechanics, (Martinus Nijhoff Publ., 1986).

45) A. J. Baker and M. P. O'Donnell: Proc. 2nd Int. Conf. on Integri-ty of High Temperature Welds, (IOM, London, 2003). 46) B. F. Dyson and M. McLean: Microstructural Stability of Creep

Resistant Alloys for High Temperature Applications, ed. by A. Strang, et al. (1998) pp. 371393.

47) Creep of Steels Working Party: High Temperature Design Data for Ferritic Pressure Vessel Steels, (Inst. Mech. Eng., London, 1983).

48) J. Bolton: Proc. Conf. on Performance of Bolting Materials in High Temperature Plant Applications, ed. by A. Strang, (The Institute of Materials, London, 1995) pp. 114.

49) M. Prager: ASME J. Pressure Vessel Technology117(1995) 95103.

50) K. Kimura, H. Kushima, K. Yagi and C. Tanaka: Tetsuto Hagane77(1991) 667674.

51) K. Kimura, H. Kushima, K. Yagi and C. Tanaka: Tetsuto Hagane81(1995) 757762.

52) H. Onodera, T. Abe, M. Ohnuma, K. Kimura, M. Fujita and C. Tanaka: TetsutoHagane,81(1995) 821826.

53) K. Kimura, H. Kushima, F. Abe and K. Yagi: TetsutoHagane 82(1996) 713718.

54) K. Kimura: Materia Japan35(1996) 535541.

55) V.K. Sikka: Proc. Topical Conf. on Ferritic Alloys for Use in Nuclear Energy Technologies, ed. by J. W. Davis and D. J. Michel, (TMSAIME, Warrendale, Pennsylvania, 1984) pp. 317327.

56) M. Sakakibara, H. Masumoto, T. Ogawa, T. Takahashi and T. Fujita: The Thermal and Nuclear Power,38(1987) 841849. 57) A. Iseda, A. Natori, Y. Sawaragi, K. Ogawa, F. Masuyama and

T. Yokoyama: The Thermal and Nuclear Power45(1994) 900 909.

58) M. Staubli, W. Bendick, J. Orr, F. Deshayes and C. Henry: Proc. 6th Liege Conf. on Materials for Advanced Power Engineering 1998, (Forschungszentrum J äulich GmbH, J äulich, 1998) pp. 87 103.

59) J. Granacher and M. Schwienheer: ECCC Recommendations

2001, Vol. 5, Appendix D4 (2001).

60) K. Kimura, H. Kushima and F. Abe: Proc. Int. Conf. on Ad-vances in Life Assessment and Optimization of Fossil Power Plants, (EPRI, Palo Alto, California, 2002).

61) K. Kimura, H. Kushima and F. Abe: J. Soc. Mater. Sci. Japan 52(2003) 5762.

62) K. Maruyama and J. S. Lee: Creep & Fracture in High Tempera-ture Components―Design & Life Assessment Issues, eds. by I. A. Shibli, S. R. Holdsworth and G. Merckling, (DEStech Publica-tions, Inc., Lancaster, PA, 2005) pp. 372379.

63) B. Wilshire and P. J. Scharning: Scr. Mater.56(2007) 701704. 64) B. Wilshire and P. J. Sharning: Proc. CREEP8, 8th Int. Conf. on Creep and Fatigue at Elevated Temperatures, (ASME, New York, 2007) CREEP200726754.

65) K. Kimura, K. Sawada, H. Kushima and Y. Toda: Proc. 8th Liege Conf. on Materials for Advanced Power Engineering 2006, (Forschungszentrum J äulich GmbH, J äulich, 2006) pp. 11051116.

66) K. Kimura, K. Sawada, H. Kushima and Y. Toda: Proc. CREEP8, 8th Int. Conf. on Creep and Fatigue at Elevated Tem-peratures, (ASME, New York, 2007) CREEP200726406. 67) K. Kimura, K. Sawada, H. Kushima and K. Kubo: Int. J. Mat.

Res.99(2008) 395401.

68) Japan Power Engineering and Inspection Corporation: Report on review of longterm creep strength of high Cr ferritic steels, (2005).

69) K. Kimura: Proc. ASME Pressure Vessels and Piping Division Conference, (ASME, New York, 2005) PVP200571039. 70) Japan Power Engineering and Inspection Corporation: Report

on review of longterm creep strength of high Cr ferritic steels, (2006).

71) K. Kimura: Proc. ASME Pressure Vessels and Piping Division Conference, (ASME, New York, 2006) PVP2006ICPVT11 93294.

72) Thermal Power Standard Code, (Nuclear and Industry Safety Agency, Ministry of Economy, Trade and Industry, Japan, July 10, 2007), (NISA234a072) p. 3.

73) Thermal Power Standard Code, (Nuclear and Industry Safety Agency, Ministry of Economy, Trade and Industry, Japan, Dec. 14, 2005), (NISA234c058) p. 67.

74) ASME Code Case 21796, Aug. 4 (2006). 75) ASME Code Case 21804, Aug. 4 (2006).

76) ECCC DATA SHEETS 2005, Sep. 5 (European Creep Col-laborative Committee, 2005).

77) S. J. Brett, D. L. Oates and C. Johnston: Creep and Fracture in High Temperature Components―Design and Life Assessment Is-sues, eds. by I. A. Shibli, S. R. Holdsworth and G. Merckling, (DEStech Publications, Inc., Lancaster, PA, 2005) pp. 563 572.

78) J. A. Francis, W. Mazur and H. K. D. H. Bhadeshia: Mater. Sci. Technol.22(2006) 13871394.

79) M. Tabuchi and Y. Takahashi: Proc. ASME Pressure Vessels and Piping Division Conference, (ASME, New York, 2006) PVP2006ICPVT1193350.

80) Y. Takahashi and M. Tabuchi: Proc. ASME Pressure Vessels and Piping Division Conference, (ASME, New York, 2006) PVP2006ICPVT1193488.

Fig. 1 Allowable tensile stress of 2.25Cr1Mo and 18Cr8Ni steel tubes regulated in JIS B8265 : 2003 and JIS B8267 : 2008.
Fig. 2 Creep rupture data of 16Cr12NiMo steel tubes (JIS SUS 316HTB).
Table 1 Creep deformation model and target regime.
Fig. 5 Schematic illustrations of change in creep strength and its effect on stress vs
+4

参照

関連したドキュメント

③ドライウェル圧力 原子炉圧力容器内あるいは原子炉格 納容器内にある熱源の冷却が不足し

(2)

11 2007/11/19 原子炉圧力容器漏えい検査の準備作業において、原子炉格納容

概念と価値が芸術を作る過程を通して 改められ、修正され、あるいは再確認

規格(JIS)等の国内外の民間規格に適合した工業用品の採用,或いは American Society of Mechanical Engineers(ASME 規格)

解析においては、実際に計測された格納容器圧力の値にある程度あわせる ため、原子炉圧力容器破損時に原子炉建屋補機冷却系配管の損傷による漏え

運転状態 要求機能 考慮すべき応力と地震動 許容応力 地震時

*2: 一次+二次応力の計算結果が許容応力を上回るが,疲労評価を実施し疲労累積係数が許容値 1