震災後の心の復興と音楽
Reconstruction of Mind and Music After the Earthquake
1W120013-1
阿出川 彬 指導教員 菅野 由弘 教授ADEGAWA Akira Prof. KANNO Yoshihiro
概要: 東日本大震災直後、被災者に限らず、多くの日本人が「音楽の力」の役割や意味を見出 し、様々な形で音楽表現がなされてきた。だが一方で、震災直後に「歌舞音曲は如何なものか」、
という主張の下、「不謹慎」という言葉が頻出され、創作活動の自粛ムードが色濃く漂ったこと も事実である。本研究ではそれらの意味を探るべく、震災後の音楽活動に関わる記録を様々な方 面から「時系列」に調査すること、音楽に関わる創作家の発言を纏めることで、人々の「3.11 と 音楽」への「意識の変化」を考察する。最終的には、現在も多くの災害(熊本地震、北海道地震、
西日本豪雨)を抱えている日本で、今後の音楽活動の在り方を模索することが目的である。
キーワード:東日本大震災、音楽の力、復興、不謹慎
keywords:East Japan great earthquake, power of music, reconstruction, imprudence
1. は じ め に
東日本大震災後、音楽活動が多方面から注 目されてきた。中村(2014)の研究調査から、
1985 年から 2013 年まで、朝日、読売、毎日新 聞の 3 紙で「音楽の力」というワードが登場 した記事の件数を調査したところ、2011 年に 3 紙とも急激に増えている。[1]この事実を踏 まえ、本研究では、「震災と音楽活動」につい て調査し、今後の音楽活動の在り方を展開す る。
2. 調 査 方 法
「震災と音楽」をキーワードに論文、書籍、
新聞記事やインターネット記事の文献記録か ら明らかになった事実や当事者の発言を時系 列に列挙していく。
3. 調 査 結 果
今回の研究では、東日本大震災後のテレビ
番組、有名歌手、クラシック業界、崩壊した ホールのその後の動向について、復興支援ソ ング、音楽に関わる創作者たちの発言をそれ ぞれ調査した。
テレビ番組は NHK 及び、民放テレビ在京キ ー局の震災発生直後の番組動向を纏めた。民 放各局は、3 月 14 日(月)の早朝まで、テレビ CM なく、緊急ニュースを放送し続けた。最初 に放送された歌番組は 3 月 18 日(金)20:00〜
20:54 テレビ朝日『ミュージックステーション』
である。次第に歌番組が再開され、いずれも
「被災地のために音楽を」という意味づけの 元、製作されていたことがわかる内容となっ ている。
有名歌手の動向は、3.11 後約1ヶ月間の日 本及び海外メジャー歌手の動向を纏めた。日 本の歌手はライブ活動の中止が相次ぐが、義 援金活動が始まる。4 月から、歌手の創作活動 が被災者のために、再開されていることが分
かる。その後、多くの歌手は直接被災地に出 向き、仮設住宅の近くで小規模ライブの開催 や、ボランティア活動を行っている。海外の 歌手も来日ライブの中止が続くが、日本同様 に連名でチャリティーアルバムの作成をする。
クラシック業界では、在京オーケストラと 被災地の仙台フィルハーモニー管弦楽団、海 外オーケストラ、日本の合唱プロジェクトの 各動向について纏めた。
崩壊したホールについては、東北では主に、
宮城県・名取市文化会館について、関東では 天井が落下したミューザ川崎のリニューアル までの動向を調査した。両ホールとも損壊し たがコンサートを継続して、企画及び実行し ている。
3.11 以降、「復興支援ソング」という新しい ジャンルが確立する。スマートフォン及びイ ンターネットの普及により、容易に歌手はオ リジナル曲を公開することができるようにな った。被災地のために新しい曲が生まれ、既 出の曲の中には「復興支援」の意味が見出さ れたものも多数存在する。だが、それらは発 表時期や歌詞の内容によっては批判されるこ ともあった。
創作家の発言を纏めると、震災後、創作活 動を再開するまでにそれぞれ空白の時間があ る。「音楽の無力感」を抱えていたようだ。
4. 考 察
実際に Yahoo!の検索ワードを分析すると東 日本大震災以降、「不謹慎」「自粛」が急増し、
その後大きな災害が起こるたびにネット上で 飛び交っているが、2ちゃんねるや Twitter 批判を書き込む人は2万人に対して「わずか 0.5%」であるという。[2]
また、2018 年 9 月に、災害に関する意識調
査の結果を発表、災害支援に『娯楽』は必要 かという問いに対して、必要と回答した人は 1000 人中 85.7%だった。災害時の歌舞音曲は
「不謹慎」である、という意見は、14.3%であ ることが分かった。
様々なジャンルを時系列に重きを置いて調 査した結果、3.11 以降、日本では約1ヶ月の
「音楽の空白期間」があったことが考えられ る。
理由としては、安全性や原発事故による電 力不足など物理的な影響はもちろんだが、「被 災地への配慮」という言葉に隠された「不謹 慎」や「自粛ムード」の見えない波が強かっ たことが起因している。そのような中でも、
ライブやコンサート、新しい曲の制作、音楽 配信、プロジェクトの設立という音楽活動の ムーブメントが少しずつ広がると同時に、そ れらは「復興支援」という意味付けがなされ た。それが「音楽の力」と解釈されるように なった、のだと考える。
5. 今 後 の 展 望
今回の調査を経て、災害時の「音楽の力」
が決して無力ではないことが分かった。ただ 闇雲に音楽活動を続けるのではなく、そこに は何かの役割、意味づけが必要であることを 忘れてはならない。
6. 参考文献
[1] 中村美亜(2014)東日本大震災をめぐる「音楽の 力」の諸相 : 未来の文化政策とアートマネジメント のための研究 1, 芸術工学研究, 21, 13-29,
[2] 朝日新聞 DIGITAL(2017) 災害のたび増える「自粛」
検索ワードが語る不謹慎狩り,https://www.asahi.co m/articles/ASK383281K38UEHF003.html