平成20年度 理数教育ステップアップ研修 実践記録
問題づくりの手法を取り入れた課題構成の工夫
−中学校第2学年数学「連立方程式」の指導を通して−
(実践者 阿賀野市立水原中学校 馬場 幸義)
単に問題を与えて解かせるといった授業を繰り返していると、生徒は課題解決への興味・関心 が薄れ 「よりよい解決のアイディアを追究しよう」といったような課題意識をもって取り組む、 姿勢が弱くなる。例えば、少し複雑な文章問題では、問題を読むこともなくあきらめてしまう傾 向が強くなる。その結果、数学的な見方考え方は育たず、数学嫌いを増長させてしまう。
生徒が「既習内容を発展させて活用できた」ときや 「多面的な角度から解くことができた」、 とき、特に「面白い、楽しい」という感情が強くなり、自己効力感の高まりが次への学習意欲に なる。そこで、生徒が自分のものとして受けとめるような課題を開発することで、生徒が数学の 授業、特に文章問題の面白さや楽しさを味わうことができれば、数学への興味・関心が高まり、
自ら課題を見付け課題を追究することができるようになると考えた。
この実践では、多くの生徒が既習内容を活用しての問題づくりに、知的好奇心を高めて取り組 むことができた。また、問題づくりの過程を通して問題の構造を理解できたことが、問題を解く 過程において主体的活動を促すことにつながった。
1 「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ための構想
(1)指導構想「連立方程式の有用性を感じさせる課題設定と問題づくり」
生徒は第1学年で一元一次方程式を学習し、未知数を一つの文字で表してきた。しかし社会の 様々な事象をとらえるときに、未知数が一つとはかぎららない。そこで未知数が二つ以上の方程 式が必要になる。
本単元では二元一次方程式が連立方程式になることによって、変数になっている解が一つに決 まることを知らせることにより、連立方程式の有効性や必要性に数学の広がりを感じさせたい。
生徒にとって「問題が解ける」ことは、何よりの喜びになる。まず具体的な事象から2本の二 元一次方程式を提示して、操作していく中で 「加減法、 」、「代入法」のよさを感得させ、さらに
「 」「 」 。 、
問題によって 加減法 代入法 を適切に判断できるように導いていく 解法を理解した後に 様々な事象について、いろいろな解法でアプローチできる「問題づくりの手法」を取り入れた課 題構成を行い、連立方程式の有用性を実感させたい。問題の中には第1学年で学習した一次方程 式で解ける問題も取り上げ、一次方程式でも解ける問題ではあるが、連立方程式を使うことで楽 に立式し、解くことができることに気づかせたい。
また、生徒は文章問題を苦手としていて、何人かの生徒は文章問題を見ると、問題を読もうと もしない傾向がある。しかし、授業中では立式さえできれば解くことができる生徒が多い。そこ で最後に多くの数量の中から必要な数量を取りだして問題を作成することによって、既習内容を 確認し、文章問題に慣れさせるとともに、問題の構造を理解させる。そのことで、数学の面白さ や楽しさを味わうことができれば、数学への興味・関心が高まり、その結果、生徒は数学で、自
ら課題を見付け課題を追究することができるようになり、日常の中で進んで連立方程式を活用し ようとする生徒になると考えた。
(2)指導と評価の計画(全13時間)
次 学習内容 学習活動 評価と方法
(時間)
1 連立方程式とその解 ・数量の関係を2つの ・用語や記号を理解できたか (発言、様。
(2) 文字を用いて等式に 子)
表し、その等式から ・二元一次方程式の解の意味や、連立方程 文字の値を求めるこ 式の解の意味を理解できているか。
とができるようにな (発言、ノート)
る。
2 連立方程式の解き方 ・加減法、代入法を利 ・加減法、代入法の解法を理解できたか。
(5) 用して連立方程式が (ノート・プリント)
解けるようになる。
3 連立方程式の利用 ・連立方程式を利用し ・問題を解決するために二つの未知数を二
(3) て、問題を解決でき つの文字を用いて二元一次方程式を二本 るようになる。 つくり、連立方程式を利用して解こうと
しているか (ノート・プリント)。 4 まとめ ・問題を連立方程式や ・問題を解決するために、連立方程式や一
(3) 一次方程式または、 次方程式または、表などを利用して解い 表などを利用して解 ているか (ノート・プリント)。
くことができる。 ・既習した内容が定着しているか。
・既習内容が定着した (単元別テスト)
か確かめ、日常生活 ・定着した内容を利用して、意欲的に問題 で活用できるように づくりに取り組んでいるか。
( )
なる。 ノート・プリント
(3)評価規準
Ⅰ 数学への関心・意欲 Ⅱ 数学的な見方や考え Ⅲ 数学的な表現・処理 Ⅳ 数量、図形などに
・態度 方 ついての知識・理解
・方程式に興味・関心 ・連立方程式や一次方 ・文字に値を代入する ・二元一次方程式や連 をもち、多様な方程 程式など、今まで既 ことにより、代入し 立方程式など方程式 式を見つけようとす 習した内容を利用し た値が方程式の解で に関する用語を理解 る。 て問題を解決しよう あるかどうかを確か している。
・いろいろな事象を連 と工夫している。 めることができる。 ・等式の性質と移項の 立方程式を利用して ・問題づくりや他の生 ・加減法、代入法を使 関係について理解し 問題解決しようとす 徒の考え方を聞くこ って連立方程式を解 ている。
る。 とを通して既習した くことができる。 ・加減法、代入法の解
・方程式を利用して問 内容をさらに深めよ ・連立方程式や一次方 き方を理解する。
題を解決しようとす うとしている。 程式、または表など
る。 を利用して問題を解
くことができる。
2 授業の実際
本時の計画(13/13時間)
(1)ねらい
・既習内容を例題問題を通じて確認し、問題を自ら作成することで、連立方程式を構造的 に理解することができる。
、 。
・例題問題を通じて連立方程式の解が問題の条件に適しているか 確かめることができる
・例題を参考に、自分で条件設定を決めて問題を作成することで、実生活の場面に連立方 程式が利用できることに気付くことができる。
・自分で問題文を作成することにより、文章問題への関心・意欲を高める。
(2)本時の構想
本時の授業では、多くの数量の出てくる問題文を用意する。例題問題を解くことで既習内 容を確認する。また解が分数になる別の例題を解くことで、解の吟味の必要性について理解 させていく。そして、問題文のどこを直せば課題に適した答え・連立方程式の問題にあった 解が得られるかを考えさせ、本時の学習内容を理解させていく。このような問題づくりを通 して、数学が苦手な生徒でも文章問題に慣れさせ、苦手意識を少しでも解消させていく。そ して、例題問題を参考に自分で条件設定を変えた問題を作成したり、既習内容を活用した発 展的な問題の作成によって、問題構造を理解させ、知的好奇心を高めていく。
さらに生徒が作成した問題を解き合ったり、問題づくりのコツや、解いたときの感想を話 し合ったりする中で数学の楽しさを味わわせていく。最後に実生活の場面で連立方程式が利 用できるという有効性について気付かせていきたい。
(3)本時における「数学の面白さや楽しさなどを味わわせる」視点
生徒が問題づくりを通して今までの既習内容を確認することができ、連立方程式の問題構 造を知り、さらに発展的な課題に取り組めるようになれば、数学の面白さや楽しさを自ら味 わうことができ、数学への興味・関心をさらに高めることができる。その結果、生徒は自ら 課題を見付け課題を追究できるようになる。
(4)展開
本日の課題
あるケーキ屋さんではケーキは6種類あり、シュークリーム、プリン、イチゴの ショートケーキ、チーズケーキ、抹茶のロールケーキ、チョコレートのロールケー キを売っています。
メニューには、シュークリームが1個 180 円 、プリンが1個 200 円、抹茶のロ ールケーキが1本 3,000 円、チョコレートのロールケーキが1本 2,000 円で売って いるのですが、チーズケーキとイチゴのショートケーキの値段はメニューが破れて いてわかりません。消費税は売値に含まれています。次の問に答えなさい。
プリント配布
課題1
Aさんはチーズケーキ7個とショート ケーキ3個を買ったら2710円でした。
Bさんはチーズケーキ5個とショートケ ーキ4個買ったら2400円だったといい ます
チーズケーキとショートケーキそれぞ れ1個いくらですか。
ほとんどの生徒は既習内容を振り返り連立方程式を作成して問題を解いた。解けな い生徒を中心に全体説明をして立式の方法や、解き方を振り返りながら解答した。
答え チ−ズケーキ1個280円、ショートケーキ1個250円
課題2
チーズケーキとイチゴのショートケーキを合わせて10個買い、代金がちょうど 円になるようにしたい。できるでしょうか。
2700
S1 できない。
T なぜできないのでしょう。
S2 ちょうど2700円にならないから。
S3 (課題1をみて)あと10円あればいい。
T 2710円だったら、チーズケーキ7個とショートケーキ3個になりますね。
では、ショートケーキ10個だけだといくらになりますか。
S4 2500円!
T ショートケーキ9個で、チーズケーキ1個だったら。
S5 2530円!
T ショートケーキ8個で、チーズケーキ2個だったら。
S6 2560円!
T チーズケーキ10個だったらいくらになりますか。
S7 2800円!
課題3
このケーキ屋にケーキを買いに行く設定で、例題 を参考にして連立方程式の文章題を作り、その解答 を書きなさい。
1 1 1
ただしロールケーキは− − −でも売ることに 2、4、5
します。
※必ず解ける問題にしてください。
問題作成については28/37人(76%)しか解答まで作成することができなかった。しかし作 成できなかった生徒の中にも意欲をもって取り組んでいる生徒も多かった。
生徒の作成した主な問題
・1個180円のシュークリームと1個250円のショートケーキを全部で7個買いました、
合計は1540円でした。シュークリームをx個、ショートケーキをy個とすると、ケ−
キを何個ずつ買いましたか。
・馬場さんはケーキ屋さんに行き、プリンを6個とチョコレートのロールケーキを2本買 って 5200 円にしました。次の日、また馬場さんは同じケーキ屋さんにいき、プリンを 7個とチョコレートのロールケーキを4本買い、9400 円でした。プリンとチョコレー トのロールケーキはそれぞれ1個いくらですか。
・ケーキ屋でプリンと抹茶のロールケーキを買いました。1回目はプリン2個とロールケ ーキを半分買って 1900 円払いました。2回目に来たときはプリン5個とロールケーキ を4分の1かって、1750 円払いました。プリンと抹茶のロールケーキそれぞれ1個の 値段はいくらですか。
200 250 14 3500
・1個 円のプリンを1個 円のショートケーキを合わせて 個買ったときに 円出したらおつりが200円でした。このとき、プリンとショートケーキはそれぞれいく つ買ったでしょうか。
・今日はケーキ屋さんのセールです。賞味期限が近いので、安いです。プリンとショート ケーキが 50 % off です。プリン3個とショートケーキ4個で 800 円です。プリン5個 とショートケーキ2個で750円です。プリンとショートケーキそれぞれいくらになるで しょう。
※問題文中にいくつかの数値を示してあるが、生徒には未知数として、使用してもよいと している。
(5)2時間目の授業について
課題学習の時間としてもう1時間授業を行った。
①前時の振り返り
前時の学習内容を振り返り、生徒が作成した問題(無記名で解答までできた問題全て)
を配付して問題の種類ごとの説明を行った。
S1 俺がつくった問題だ。
S2 こんな難しいことを考えたんだ。
S3 こんな作り方でもいいんだ。
②生徒がつくった問題を解く。
生徒は意欲的に問題を解いていた が、他の生徒の問題を見てもう1回 つくりたいという声も出た。そこで、
前回の設定はそのままにしてさらに 新しい設定を増やしていいという条 件のもとでので問題をつくってもい いことにした。
生徒の約4分の1程度が問題づくりに取り組み、個人で考える生徒と、2,3人のグル ープで考える生徒がいた。
③解答する
生徒が作成した問題の解答を配って解答させた。生徒は自分が作成した問題と類似して いるため、ほとんどの問題を解くことができた。今回、作成した問題は後日問題と解答を 配布した。
後日生徒が作成した主な問題
・ケーキ屋さんでケーキ好きの人が、1個200円のプリンと新しく発売された1個420円 のホットケーキを合わせて12個買ったら合計3500円だった。それぞれいくつ買いまし たか。
・新メニュー追加で、全品 50 %引きで売っています。新メニューのホールケーキは、1 個 4000 円です (値引き前)馬場さんは、。 5000 円で、ホールケーキ2個と、プリン とシュークリーム合わせて、6個買ったらおつりが430円でした。プリンとシュークリ ームそれぞれいくつ買ったでしょう。
・Aさんは閉店セールをやっていたケーキ屋さんにケーキを買いに行きました。1個 240 円のシフォンケーキが20%offで、高級モンブランが1個1500円の40%offでした。
全部合わせて10個買ったら4044円でした。何個ずつ買ったでしょう。
3 実践の考察とまとめ 1 研究の成果
問題作成について何をしてよいのか分からなかった生徒もいて、問題が実際に作成できた生
徒は28/37人(76%)であった。しかし作成できなかった生徒の中にも、意欲をもって取り組
む生徒が多かった。授業後の感想で、24/37 人(65 %)の生徒が楽しかったと答えている。こ れは、1学期に「数学の授業に意欲的に取り組んでいますか 」というアンケート結果で。 42% であった数字を大幅に上回った。
このことから生徒の意欲が高まったことが分かった。後日生徒がつくった問題を他の生徒に 解かせたが、すでに類似問題を作成しているため、ほとんどの生徒が問題構造を理解すること ができ、問題を解くことができた。
また、生徒がつくった問題を解く時間に併行して新たな設定で問題を作成してもよいという 条件で問題を作成させると、知的好奇心を高めた数名が新たな問題作成に取り組んだ。
生徒の感想
○楽しかった。問題をつくることで解き方がわかった。
○問題をつくることが楽しかったです。また作りたいです。
○問題を自分でつくっても、答えが出せなくて難しかったけど、解くのは楽しかった。
○結構難しかった。けれど答えから作ると簡単にできた。
○自分で作ったくせに解けなくて悔しかった。だけど問題をつくるのは楽しかった。
●難しい問題をつくろうとして結局は作れなかった。
●よくわからなかったので問題作りの途中で終わった。屈辱的だった。
●もっと難しい問題をつくりたかった。だけどよくわからなかった。
今回の授業から、次のことが考察される。
( )「問題づくり」の授業は生徒の主体的活動を促す1 今回、問題づくりの授業を行ったことで、既習内 容を活用させる上で知的好奇心を高めることができ た。また、問題づくりをしたことで、類似問題の構 造を理解することができたので、2時間目の生徒が
つくった問題を解く時間には、普段は解こうとする意欲を見せなかった生徒も含めて多く
、 。 、
の生徒が意欲的に取り組み 問題を解くことができた このことから問題づくりの授業は
「類似問題の構造理解」ができ、生徒の主体的活動を促したと考えられる。
( )「問題づくり」の授業は新しい「問題づくり」へと思考の発展を促す2
通常、問題に対する解答は、正答か誤答かのいずれかであり、答えは一通りの完結した 問題を扱うことが多い。生徒は「できあい」の問題を他(教師)から与えられるのである から、解いてしまえばそれで授業は完結してしまう。あとは、くり返し訓練をすることで
解法のテクニックを身に付けていく。
しかし、今回、問題づくりの授業を行ったことによって、生徒は問題をつくることが予 想以上に難しいことであることを知った。生徒は問題をつくることができても解答をつく ることができなかったり、解答が整数にならない問題を作成したりして、試行錯誤の過程 を経験した。これによって、答えの数値を先に決定しておけば、簡単に問題が作成できる ことを発見したり、他の生徒の問題から新たな考えを得たりして、もう一度問題づくりに 自ら取り組むという、より積極的な学習態度に変わっていった。
このように、問題づくりの授業は「問題構造の理解」とともに 「つくった問題」から、
「新しい問題づくり」へと思考が発展していく課題の広がりが見られた。
( )「問題づくり」を授業で行うよりよい指導過程のあり方3
生徒は問題の仕組みが分かることで理解が増し、興味・関心が高まり、問題解決に向か って意欲的に取り組むことができたと考えられる。しかし、生徒の知的好奇心をさらに高 めるためには、一人一人が考えた問題の作成過程を全員に共有させていくことが重要であ る。生徒は他の生徒がどのようにして問題を作成したかを具体的に知ることにより、問題
。 、「 。」
づくりの方法についてより一層理解が深まった このことが もっと問題をつくりたい という生徒の知的好奇心を揺さぶり自ら進んで発展的な問題づくりの学習に挑戦するよう になった。
そこで問題づくりの授業を次のように行うことが望ましいと感じた。
①基本問題を把握し、問題を解決する。
②基本問題の類似問題を作成し、類似問題の構造を理解する。
③基本問題から自由な発想で問題を作成し、問題の構造理解をより深める。
④作成した問題の発表において、一人一人の作成過程を全員に共有させ、問題づくり の方法について理解を深める。
⑤共通理解した上で、さらに新しい発展的な問題作成に取り組む。
⑥作成した問題を解き合いながら、日常に連立方程式が活用できることを実感する。
、 、
この手順で行っていけば 生徒は問題作成にスムーズに取り組めるようになるとともに 自ら新しい問題づくりに挑戦するようになる。この挑戦する姿こそが数学の面白さや深 く追究する楽しさを実感している姿であると確信した。
2 今後の課題
、 。 、
今回の問題づくりの授業では 問題が作成できない生徒がいた 問題が作成できない生徒へは 個別支援や放課後学習の回数を増やしていく必要を感じている。また、解答までたどり着いた生 徒の問題のみプリントにして配布したが、問題の本質となる構造を理解させるためには、解答ま でたどり着けなかった問題や、解答が不可能な問題もプリントにして配布した方が他の生徒から こうすればいいという意見をもらえたのではないかと反省した。
〈参考文献〉
・澤田利夫・坂井裕 編集 『中学校 数学科〔課題学習〕問題づくりの授業』 東洋館出版社
・中野洋二郎・坪田耕三・滝井章 編者 『子どもが問題をつくる』 東洋館出版社