SPCC鋼およびSUS304ステンレス鋼の摩擦スポット接合
日大生産工(院) ○狩野 芳光 日大生産工 加藤 数良
1.緒 言
近年,輸送機器の軽量化の目的として,ア ルミニウム合金やマグネシウム合金などの軽 金属材料への転置が注目されてきているが,
構造物には鉄鋼材料が多用されているのが現 状である.構造物の製作には接合が不可欠で あり,点接合は抵抗スポット溶接の使用が最 も多い.しかし,抵抗スポット溶接は接合時 にスパッタなどが発生し,環境負荷が小さい とは言い難い.その代替えとして著者らが提 案した摩擦スポット接合1)によれば,アルミ ニウム合金や銅合金の同種材はもとより,異 種材料を組合わせた接合にも適用可能である ことを報告してきた2).これまでの摩擦スポ ット接合に関する報告は回転工具の耐久性,
耐熱性などの点から低融点材料に適用したも のであり,鉄鋼材料に関するデータは十分で はない.
Friction Spot Welding of SPCC Steel and SUS304 Stainless Steel Yoshimitsu KANO and Kazuyoshi KATOH
本研究では,鉄鋼材料の中で,最も需用の 多いSPCC鋼およびSUS304ステンレス鋼に関す る摩擦スポット接合の基礎データを得ること を目的とし,得られた継手の組織および機械 的性質に及ぼす接合条件の影響について検討 した.
2.供試材および実験方法
供試材にはSPCC鋼およびSUS304ステンレス 鋼を用いた.その機械的性質をTable 1に示す.
供試材はJIS Z 3136に従い,SPCC鋼同種材の 接合は,板厚1.0mmのものを幅30mm,引張せん 断試験用は長さ100mm,十字引張試験用は長さ
130mmに機械加工したものを重ね代が30mmと した.SUS304ステンレス鋼同種材の接合は,
板厚0.4mmのものを幅20mm,長さ75mmに機械加 工したものを重ね代が20mmとした.それぞれ 予備実験より選定したTable 2に示す接合条 件を組合わせて接合した.いずれも接合面は 脱脂洗浄など特別な処理はしなかった.
接合には,数値制御全自動摩擦圧接機を使 用し,回転工具材質は窒化珪素製とし,SPCC 鋼同種材には,直径10mmの円柱状で先端に R10mmの加工をした.SUS304ステンレス鋼同種 材接合では,先端直径5mmの円錐台とした.
得られた継手の外観観察,組織観察,硬さ試 験,引張せん断試験,十字引張試験をいずれ も室温で行った.またSUS304ステンレス鋼は 板厚が薄いために十字引張試験は行えなかっ
Table 1 Mechanical properties of base metals.
Materials
Tensile strength
(MPa)
Elongation (%)
Hardness (HK0.05)
SPCC 343 41.6 132
SUS304 655 57.2 197
Table 2 Friction spot welding conditions.
(a) SPCC Steel
Rotational speed N
(rpm) 2500,3000, 3500 Friction pressure P
(MPa)100, 120, 140
Friction time t
(s)1
(b) SUS304 Stainless Steel
Rotational speed N
(rpm)2000, 3000, 4000 Friction pressure P
(MPa)160, 200, 240, 280
Friction time t
(s)1
た.
3.実験結果および考察 3.1 SPCC鋼同種材の組合せ
Fig.1に継手外観を示す.継手外観は回転工
具と同一径の圧痕が観察され,その表面は接 合時の摩擦熱によって黒く変色したが,本実 験の範囲内では割れや回転工具への焼付きは なかった.また,圧痕外周部にはばりの発生 が観察された.回転工具の押込み量は,工具 回転数および摩擦圧力の増加に伴い増大し,ばりの排出量も大きくなった.またその周囲 にも接合時の熱影響によると考えられる変色 した部分が観察され,これらは銅を用いた摩 擦スポット接合時と類似した状態であった2).
Fig.1 Surface appearances of SPCC joint.
Fig.2に接合部中心横断面の巨視的および
微視的組織を示す.巨視的には本実験の範囲 内では接合部外周で,アルミニウム合金や銅 合金などの接合時にみられるシートセパレー ション現象と類似の現象である上板の浮上が りは観察されなかった1),2).接合界面にナゲ ットやブローホールの生成は認められず,工 具回転数,摩擦圧力の増加に伴い接合界面は 明瞭には識別できなくなった.全接合条件で 熱影響部が観察され,工具回転数2500rpm,摩 擦圧力100MPaの接合条件を除いて全て下板裏 面まで達しており,熱影響部の範囲は工具回 転数,摩擦圧力の増加に伴い拡大した.Fig.2 Macro- and microstructures of SPCC joint.(N=3500rpm , P=140MPa)
0 2 4 6 8 10 100
125 150 175 200 225 250
2 4 6 8 10
Distance from weld center / mm
H ar dn e s s / H K 0.05
Lower plate 125
150 175 200 225 250
Upper plate
N=2500rpm,P=100MPa N=3500rpm,P=140MPa微 視 的 組 織 に お い て , 外 周 部 界 面 近 傍 (Fig.2A)では,上板と下板の境界は明瞭に識 別され,母材に比較して微細な組織が観察さ れたが,その周囲は粗大な組織を示した.接 合中心部界面近傍(Fig.2B)は上板,下板の微 細化された組織が混合した様相を呈し,上板 と下板の境界は不明瞭となった.接合部外周 部(Fig.2C)では,微細な組織とその周囲がば り排出方向への流動した状態であった.この 組織形態は全接合条件で同様であった.
Fig.3 Hardness distributions of SPCC joint.
Fig.3に継手横断面板厚中心部の硬さ分布
を示す.全接合条件で回転工具径に相当する範囲で上板,下板ともに硬化が認められた.
硬化部は下板に比較して上板が広範囲まで硬 化が認められ,工具回転数,摩擦圧力の増加
100 120 140 5.0
5.5 6.0 6.5 7.0
Friction pressure / MPa
T ens ile s hea r l oad / k N
N=2500rpm N=3000rpm N=3500rpm
に伴い硬化範囲も拡大した.Fig.4に引張せん断試験結果を示す.引張せ
ん断強さは摩擦圧力の増加に伴い向上した.工具回転数の違いよる引張せん断強さへの影 響は摩擦圧力の増加に伴い小さくなった.本 実験の範囲内では,工具回転数3500rpm,摩擦 圧力140MPaで最高値6.7kNの値が得られ十分 実用に供せられるものと考える.継手の破断 は,摩擦圧力100MPaでは接合界面ではく離,
他の接合条件ではプラグ破断であった.
Fig.4 Results of tensile shear test of SPCC joint.
100 120 140
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
Friction pressure / MPa
Cros s t ens ile l oad / k N
N=2500rpm N=3000rpm N=3500rpm Fig.5に十字引張試験結果を示す.引張せん
断強さと同様に摩擦圧力の増加に伴い十字引 張強さは向上したが,工具回転数の違いによ る十字引張強さの差は認められなくなった.
本実験の範囲内では,工具回転数3500rpm,摩 擦圧力140MPaで最高値3.1kNの値が得られた.
継手の破断は,工具回転数2500rpm,摩擦圧力 100MPaでは接合界面ではく離,他の接合条件 ではプラグ破断であった.
Fig.5 Results of cross tensile test of SPCC joint.
3.2 SUS304ステンレス鋼同種材の組合せ
Fig.6に継手外観を示す.継手外観は前述の
SPCC鋼継手と同一の傾向を示し,本実験の範 囲内では,割れや回転工具への焼付きは認め られなかった.接合部外周部にはばりが観察 され,その周辺にも変色が認められた.工具 回転数,摩擦圧力の増加に伴いばりの排出量は増加し,変色の範囲も拡大した.
Fig.6 Surface appearances of SUS304 joint.
Fig.7に接合部中心横断面の巨視的組織を
示す.接合界面は工具回転数,摩擦圧力の増 加に伴い明瞭には識別できなくなった.また,ナゲットの生成や,ブローホールなどは認め られていない.接合部外周部で摩擦圧力の増 加に伴いSPCC鋼継手ではみられなかった上板 の浮上がりが観察された.
Fig.7 Macrostructures of SUS304 joint.
(N=2000rpm)
Fig.8に接合部外周部横断面の微視的組織
を示す.回転工具の押込みにより上板のばり の排出方向と下板方向への流動が観察された.
この流動は摩擦圧力の増加に伴い明瞭となり,
下板界面近傍は上板の流動に伴い上板方向に
持ち上げられた状態であった.
Fig.9に接合部中心横断面の微視的組織を
示す.接合部上板(Fig.9A)および接合界面近 傍(Fig.9B)では,母材に比較して著しく微細 な組織が観察された.下板底部(Fig.9C)は,(
B
)Interface
(A
)Upper plate
(D)Base metal (C)Lower plate
Fig.9 Microstructures of weld center of
SUS304 joint.(N=2000rpm , P=280MPa)
0 2 4 6 8 10
180 200 220 240 260 280 300 320
2 4 6 8 10
Distance from weld center / mm
H a rd nes s / H K 0 .05
Lower plate
200
220 240 260 280 300 320
Upper plate P=160MPa P=280MPa
160 200 240 280
0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
Friction pressure / MPa
T ens ile s h ear l oa d / k N
N=2000rpm N=3000rpm N=4000rpm
Fig.11 Results of tensile shear test of SUS304 joint.
Fig.10 Hardness distributions of SUS304 joint.
(N=2000rpm)
Fig.8 Microstructure of outside of weld part of
SUS304 joint. (N=2000rpm , P=280MPa)
接合時の影響が少なく,母材と類似した様相 であった.工具回転数,摩擦圧力の増加に伴 い組織は微細化され,その範囲は拡大した.この組織形態は全接合条件とも同一であった.
Fig.10に継手横断面板厚中心部の硬さ分布
を示す.SPCC鋼継手の硬さ分布と同様に,回 転工具径に相当する範囲で上板,下板ともに 硬化した.硬化の程度は低回転数,低摩擦圧 力の接合条件で上板に顕著に認められた.こ のことは接合時の摩擦発熱量が少ないためと 考える.Fig.11に引張せん断試験結果を示す.SPCC
鋼継手の引張せん断試験結果同様に,工具回 転数,摩擦圧力の増加に伴い引張せん断強さ は向上し,工具回転数の違いが引張せん断強 さに及ぼす影響は少なくなった.本実験の範 囲内では,摩擦圧力280MPaで全工具回転数で 約2.5kNの値が得られた.継手の破断は,摩擦 圧力280MPaではプラグ破断,他の接合条件で は接合界面ではく離した.参考文献
1) 例えば,時末 光,加藤数良,変形流動接 合(3)摩擦撹拌接合・摩擦スポット接合・
摩擦シーム接合,塑性と加工(日本塑性加 工学会誌),第47巻,第548号,(2006-9),
pp.817-822.
2) 例えば,加藤数良,時末 光,摩擦スポッ ト接合によったタフピッチ銅継手の引張 せん断特性,第45回銅合金技術研究会講 演大会講演概要集,pp.119-120.