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地域防災実戦ノウハウ(92)
―熊本地震災害の教訓と課題 その4―
Blog 防災・危機管理トレーニング
(http://bousai-navi.air-nifty.com/training/)
主 宰
日 野 宗 門
(消防大学校 客員教授)
連 載 講 座
4.7 「死者・行方不明者の捜索・処理・埋火葬 の混乱」への対策
熊本地震では問題化しませんでしたが、阪 神・淡路大震災や東日本大震災では多数の死 者・行方不明者が発生し、その捜索(把握)、 遺体の処理・埋火葬において大きな混乱を生じ ました。
たとえば、死者(直接死)数の把握率が80%
に達したのは、阪神・淡路大震災では地震発生 から約4日後、東日本大震災では約1カ月後
(地震発生後9カ月時点の死者数を基準にした 場合)でした。また、行方不明者数が最多時の 20%以下となった時期は、阪神・淡路大震災で は地震発生から約5日後、東日本大震災では1 年半以上を経過してからとなっています(※)。 津波による死者・行方不明者が多数となった東 日本大震災で状況は特に深刻でした。
※ 本連載の第73回を参照のこと。なお、行方不 明者数については平成23年(2011年)東北地方 太平洋沖地震被害報(総務省消防庁)第146報、
第147報も参考にした。
さらに、阪神・淡路大震災では火葬が追いつ かず、実施はされませんでしたが「野焼き」が 一時選択肢にのぼりました(※1)。また、死 者数が阪神・淡路大震災の数倍にのぼった東日 本大震災では2,108人(※2)が「土葬」で仮
埋葬されました(その後、火葬で改葬)。
※1 NHKスペシャル「阪神・淡路大震災 秘 められた決断」(2009年1月17日放送)
※2 NHK NEWS WEB特集「知られざる死の記 録~仮埋葬」(2014年3月6日)
以上の事実を踏まえるならば、多数の死者・
行方不明者が発生した場合の捜索(把握)、遺 体の検案、遺体身元確認及び埋火葬の手順確認 訓練や必要資源(人的・物的・空間的)の整備 などが重要と思われます。
4.8 「震災関連死の発生」への対策
熊本地震における2017年6月22日現在の震災 関連死は182人(熊本県179人、大分県3人)と 直接死の50人を大きく上回っており、実に死 者全体の78.4%を占めています。同様の状況は 2004年新潟県中越地震でもみられ、死者68人の うちの52人(76.5%)が震災関連死でした。
これに対し、阪神・淡路大震災及び東日本大 震災では、震災関連死は死者・行方不明者全体 の15%前後(それぞれ14.3%、16.0%)となっ ています(※)
※ Wikipedia「 災 害 関 連 死 」 に よ る。 な お、 阪 神・淡路大震災の値は兵庫県内分である。
なお、熊本地震の震災関連死の年代別内訳を 熊本県内の167人(2017年4月10日現在)につ
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いてみると、70歳以上の高齢者が133人と全体 の約8割にのぼっています(表1)。
表1 熊本県内の震災関連死167人(2017年4月10日 現在)の年代別内訳
年 代 人数(%)
~69歳 34人(20.4)
70代 37人(22.2)
80代 61人(36.5)
90代 33人(19.8)
100歳以上 2人(1.2)
計 167人(100.0)
(出典)「震災関連死8割が70歳以上 県内19市町村」
(毎日新聞WEB版、2017年4月11日)
また、表2によれば、「体調が悪化したとき の生活環境」で最も多いのは「避難所や車中 泊」で、以下「病院」、「自宅」となっています。
なお、「病院」の場合、地震により医療環境が 大きく損なわれたことにより6割の方が転院を 経て亡くなっている点に留意が必要です。
さらに、表2の(注2)にあるように、震災 関連死の89%の人に既往症があった(既往症有 無の非公表を除く)とされており、熊本地震で も過去の地震災害と同様、環境の悪化に弱い高 齢者や病人等の災害弱者が震災関連死の多くを 占めています。この事実は、高齢者や持病のあ る人への特別の留意の必要性を改めて教えてい ます。
表2 震災関連死170人(注1)の「体調が悪化した ときの生活環境」
自宅 少なくとも 27 人 避難所や車中泊 少なくとも 71 人 病院 少なくとも 36 人
※少なくとも 22 人が転院 を経て亡くなっている
(注1)2017年4月10日時点の震災関連死(熊本県 167人、大分県3人)
(注2)89%に既往症があった(既往症有無の非公表
を除く)
(出所)「熊本地震から1年 ⑴災害関連死170人 な ぜ・・・」(NHKハートネットTV、2017 年4月12日放送)
以上を踏まえると、自治体職員や関係者に対 する震災関連死予防対策の啓発・研修、避難所 環境及び福祉避難所の整備・充実の強化が求め られます。さらに、HUG(避難所運営ゲー ム)などを活用して避難所や車中泊(※)にお ける震災関連死の発生予防訓練を住民と一緒に 取り組むのも効果的です。
※ HUGは「避難所」運営ゲームの性格上、車 中泊避難のシーンが少ないため、この点を補っ て実施するとよいでしょう。
4.9 「交通の混乱、渋滞の発生」、「帰宅困難者 の発生」への対策
熊本地震では高速道路や一般道が各所で被害 を受け、通行止めや交通規制の措置が取られま した。そこに各地から応援車両や家族・知人の 安否確認車両等が殺到したため、交通の混乱、
渋滞が発生し、応急・復旧対応が思うに任せな い状況がしばらく続きました。しかし、このよ うな状況は過去の地震災害でも繰り返されてお り、熊本地震に限った現象ではありません。
なお、前震・本震が夜間・深夜であった熊本 地震では、帰宅困難者は発生しましたが大きな 問題とはなりませんでした。一方、地震発生が 金曜日の昼間であった東日本大震災では、公共 交通機関の運行停止により首都圏で推定515万 人の帰宅困難者が発生しました。特に東京都心 では、帰宅困難となった家族・知人や従業員の 送迎車、帰宅を急ぐ車で大渋滞となり緊急車両 の通行に大きな支障となりました。さらに、多 数の人が徒歩で帰宅を急いだため歩道から道路 上にはみ出すという危険な状況が生じただけで
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なく、そのことが道路渋滞に拍車をかけました。
帰宅行動を生じさせる主な要因は「家族の安 否」確認欲求です。このことは、家族の安否
(安全)が確認できれば(かつ適当な滞在施設 があれば)多くの帰宅行動を抑制しうる可能性 があることを意味しています。
多数の帰宅困難者や帰宅行動者の発生が懸念 される地域では、あらゆる階層における安否確 認訓練の実施、帰宅困難者の一時滞在施設の整 備・充実及び従業員等の事業所内滞在等の対策 が必要となります。
4.10 「指定避難所以外の開設避難所の把握の遅 滞」、「避難者・安否不明者等の把握(名簿整 理)の遅滞」、「車中避難等指定避難所以外の避 難者への支援の遅滞」への対策
熊本地震では指定避難所以外の場所・施設に 多数の避難者が避難しました。
毎日新聞によれば、「熊本地震で最も避難者 が多かった本震翌日の4月17日時点で自治体の 地域防災計画で定められていない指定外避難 所が、熊本県内の少なくとも7市町村の計185 カ所にあり、約3万6000人が避難していた」
ことが明らかにされています(「指定外避難所 に3万6000人 本震翌日」、毎日新聞WEB版、
2016年5月11日)。
過去の大きな地震災害でも同様の事態が発生 しており、このような指定外避難所では、自治 体の把握が遅れ、物資の支援や情報提供などが 受けられないおそれがあります。しかし、多く の市町村は指定避難所に住民が避難してくるこ とを前提にした計画にとどまっています。これ を改め、指定外避難所への避難は大災害では
「当然に発生する」という認識のもとに、指定 外避難所の開設状況の把握と支援方法を定めて おく必要があります。
ところで、避難所の管理運営、避難者支援を 効果的に行う上で避難者名簿の作成は重要で す。このことについては、「避難所における良 好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成 25年8月(平成28年4月改定)、内閣府(防災 担当))で次のように記述されています。
3 避難所リスト及び避難者名簿の作成
⑴ (省略)
⑵ 避難者の数や状況の把握は、食料の配給 等において重要となることから、避難者一 人一人に氏名、生年月日、性別、住所、支 援の必要性の有無等を記帳してもらい、避 難者名簿を作成することが望ましいこと。
⑶ そのため、こうした個別の情報を記載で き、情報の開示先、開示する情報の範囲に ついての被災者の同意の有無についてもチ ェックできる避難者名簿の様式をあらかじ め作成し、印刷して避難所の備蓄倉庫等に 保管しておくことが望ましいこと。また、
避難所運営訓練をとおして自治体担当者と 住民がこれら様式を普段から活用できるよ うにしておくこと。
⑷ (省略)
(出典)「避難所における良好な生活環境の確保に向 けた取組指針」(平成25年8月(平成28年4 月 改 定 )、 内 閣 府( 防 災 担 当 ))。 な お、 ⑴、
⑷は省略した。
この避難者名簿に関連し、熊本地震では次のよ うな事例が報告されています。
◆ 車中泊の避難者の把握のために名簿の作成 を行おうとしたが、昼と夜の避難者数が大き く違っており、把握が困難であった。
◆ 車中泊者は、昼間は仕事に行っていて夜に 帰ってくる方も多く、把握が困難であった。
車が戻ってくる夜に状況把握のために訪ねて 名簿の作成を行おうとしたが、懐中電灯等で 照らすと驚かれるので、把握が困難だった。
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そのため、常習的に食料が余ってしまったり 足りなくなるという状況が起きていた。
◆ 名簿の作成を行った避難所においても、車 中泊や自宅から支援物資だけを取りに来る方 や、避難所内の避難者の出入りも激しく、名 簿自体が機能しなくなり、管理することがで きなくなってしまい、打開策として夜間に避 難者をカウントするなどで対応したが、名簿 の必要性について地道な呼びかけや協力のお 願いをしていくしかないと感じた。
◆ 不審者対策の事例として、避難者名簿の作 成前には、部外者との識別が容易にできるよ うに、避難者及び関係者にはリボンを目立つ ところにつけてもらった。また、ボランティ アセンターなどの信頼できる機関を介さずに 支援に来てくれる個人ボランティアには時に 不信感を感じることもあったため、「氏名」、
「資格」、「特技」などを記載してもらい、「所 属団体もしくは紹介を受けた団体名」も記載 してもらった。また、近隣の避難所などから 犯罪情報(詐欺など)が入ってくると、速や かに関係者間で積極的に共有した。
(出典)「平成28年度 熊本地震における避難所運営等 の事例(途中経過)」(平成28年10月、内閣府
(防災担当)被災者行政担当)
この中で指摘されている車中避難者の把握の困 難さについては次のような新聞記事があります。
益城町西部にある県の「グランメッセ熊本」
の駐車場(2200台収容)も16日夜、避難者の車 や緊急車両で全て埋まっていた。
指定避難所ではないが、町職員4人が避難者 の対応に尽力する。ある職員は「避難所なら宿 泊者名簿に名前や住所を書いてもらうが、車中 泊避難は熊本市内の避難者もおり、出入りも激 しい。人数の把握が難しい」と明かした。
(出典)「屋内恐れ車中泊…想定外の駐車場不足」(毎 日新聞WEB版、2016年4月18日)
前述のような困難はありますが、避難者名簿は 避難者支援の基礎資料であるだけでなく、(東日 本大震災でみられたように)大災害時には安否確 認・安否不明者の把握を行う上での重要資料とも なるとの認識のもとにその作成に取り組む必要が あります。このことを踏まえHUGなどの避難所 運営訓練に「避難者名簿の作成」を組み込めば、
より実践的なものになると考えます。
ところで、避難者名簿は単に作成すれば良いと いうものではありません。前述の取組指針が作成 された背景には、東日本大震災で避難所に避難し た要介護高齢者、障害児者、妊産婦、乳幼児、ア レルギー等の慢性疾患を有する者、外国人等のい わゆる「要配慮者」への支援が十分ではなかった という事実が存在します。この意味で取組指針の
⑵中の「支援の必要性の有無」の記載は避難者名 簿におけるポイントといえます。熊本地震の震災 関連死データが示す「避難所・車中泊で体調を悪 化させた人が最も多かった」という事実(4.8参 照)は、この項目の重要性を改めて認識させるも のとなりました。
なお、超党派地方議員連盟『避難者カード標準 化プロジェクト』が、25都道県域710自治体で調 査(2016年9月現在)したところ、避難者カード
(避難者名簿)の作成は521/710自治体(作成率 73%)という結果となり、約3割が未作成でした。
また、約8割の自治体で要配慮者に関する項目等 を設けていないことが明らかとなりました。
こ の プ ロ ジ ェ ク ト の ウ ェ ブ サ イ ト(http://
www.hinansha.com/)では参考となる優良避難者 カードを公開していますので、関心のある方は一 度アクセスしてみてください。
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