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近年の水害とその対策

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Academic year: 2021

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- 4 - わが国の戦後の水害をふりかえってみる と、1960 年代の半ばごろまでは人的にも物 的にも甚大な被害をもたらした水害が相次 いで発生している。戦禍で荒廃した国土に 大型台風が毎年のように来襲したことが大 きい。そのうち最大の人的被害をもたらし たのが 1959 年の伊勢湾台風であり、このと きの 5,098 人という死者・行方不明者数は 阪神・淡路大震災が発生するまでは自然災 害による戦後最大の犠牲者の数であった。

一方、1960 年代の後半以降では水害によ る人的被害は激減している。その大きな要 因として、営々として努力が重ねられてき た河川改修や海岸整備などの治水施設の進 展がある。その他に大型台風の来襲数が減 ったという僥倖もあろうか。ただ、物的被害 をみると、浸水面積は着実に減少している のに被害額では人的被害の減少ほどのめざ ましい成果はなく、今に至るまで毎年数千 億円から 1 兆円を超える被害が続いている。

その一因としては浸水被害密度の上昇がい われており、われわれのもつ資産の向上や 都市化の影響が現れている。

以上はおおまかにみた動向であるが、近 年の水害の傾向として、都市型水害の多発 と中小河川での氾濫がある。

都市型水害の代表は長崎水害(1982 年)や

東海水害(2000 年)である。その特徴として、

災害現象からみると氾濫挙動に都市要素 (道路や建物など)が大きく影響すること、

下水道や市内河川が重要な役割を果たすこ と、地下空間への浸水が避けられないこと などが挙げられ、また被害の面からみると 被害が発生しやすくまたその密度が高いこ と、被害が連鎖・波及しやすいこと、公共土 木施設より一般資産の被害が大きいことな どがある。中小河川の氾濫の例として、2004 年全国で発生した水害(福島、新潟、福井、

三重、京都、兵庫、他)がある。円山川(兵庫) や由良川(京都)では本川で氾濫が生じてお り、新潟水害では信濃川の流入する支川の 刈谷田川や五十嵐川、福井水害では九頭竜 川に流入する支川の足羽川で氾濫している。

本川あるいは支川を問わずいずれにしても これらの河川の流域面積は 1,000km2程度で、

わが国を代表する利根川(流域面積 16,840k

㎡)や淀川(同 8,240k ㎡)に比べ小さい。た だ、2004 年に水害が発生した上記の河川で は、それを引き起こした豪雨域の大きさと 流域面積とがほぼ同程度であった。

結果からみれば、それぞれの流域が豪雨 域にいわばすっぽり覆われていたのである。

このような傾向は都市型水害の降雨でもみ られている。

●巻頭随想

近年の水害とその対策

井 上 和 也

京都大学名誉教授

(2)

- 5 - わが国水害の多くは、台風そのもの、台風 で活発になった前線、あるいはその両者か ら生ずる降雨によって発生している。降雨 についての近年の特徴は、空間的規模でみ れば上記のようであるが、時間的にみると きわめて集中的になっていることである。

よく知られているように、時間雨量が 75mm を超える雨(多くの都市で下水道計画の対 象となっている雨は 50mm/時間)がこの十年 では年平均 250 箇所以上で、100mm を超え る想像を絶する雨も年平均数箇所で、それ ぞれ観測されている。よく地球温暖化との 関連がいわれるが、その気象学的な検証は ともかく、われわれはこのように空間的に も時間的にも集中した豪雨に備えた対策を たてておく必要に迫られている。

水害を防ぎ被害を軽減するには、構造物 的(ハード的)手段と非構造物的(ソフト的) 手段の組み合わせが重要なことはいうまで もない。

ハード的手段の中心は、これまで進めら れてきた種々の河川整備(河川改修、ダム・

遊水地、放水路など)であるが、それらとと もに以下に述べるように、流域において雨 水を貯留する施設の整備も欠かせない。

すなわち、とくに都市やその周辺におい ては、河川整備のための用地取得が極めて 困難であり、河川の幅を拡げることはほと んど不可能なことが多い。加えて堤防の嵩 上げや河床掘削による河川断面の拡大も、

被害ポテンシャルの増大、道路や橋梁への 影響、塩水の侵入、河川環境の維持向上など の面からみた制約により、きわめてむずか しい。つまり、治水能力を河川整備のみで増 強する、いいかえれば洪水を河川だけに負

担させることはほとんど限界に達している。

したがって、流域全体として面的に治水能 力を増強しようとする流域治水の考え方が 今後一層重要になると考えられ、それを担 う有力な方法の一つが各種規模の貯留施設 とされているからである。ソフト的手段と して目下注目され各地で作成が急がれてい るのが、水害ハザードマップである。その第 1 の目的は、自分の住んでいるところに水害 のどのような危険性が潜んでいるかを住民 一人ひとりに知ってもらうことにある。こ の「知ってもらうこと」が実はそれほど容易 ではない。苦心して作成されたハザードマ ップが住民に配布されても、どのくらいの 住民にみてもらえるか、いささか心もとな い。近年の水害多発からみて関心は高まっ ているであろうが、それでも他人事のまま 廃棄されるおそれがつきまとう。ハザード マップの意義を常に住民に強く訴え続ける 努力が必要であろう。

ハザードマップの他にソフト的手段とし て、開発などの土地利用のあり方の再検討、

いざというときに行政的にどのように対応 するかという危機管理体制の確立、予報・警 報や避難情報の発令・伝達方法の整備、避難 計画の策定などがあるが、いずれにおいて も水害の発生のたびに新しい課題が見出さ れている。多くの事例に学ぶことにより、つ ねに進化することが求められているといえ る。その場合の立脚点として、流域全体で治 水を図ること、および「防御から管理へ」

(fromdefensetomanagement、あえて意訳す れば、防ぐだけではなくどう折れ合いをつ けるか)が重要になるのではないかと考え ている。

参照

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