トライアスロン宮古島大会の舞台裏
長 浜 幸 男
トライアスロンの魅力
沖縄本島から南へ300キロ離れた離島圏域、宮古広域市町村圏協議会では、昨年から県紙の琉 球新報社と共催して、ギリシャ生れでハワイ育ちの新しいタイプのスポーツ大会を開いてい る。水泳3キロ、自転車136キロ、フルマラソン42.195キロ、合せて181.195キロの長丁場のレースで ある。全日本トライアスロン宮古島大会と名付けたこの大会には、初回から予想以上の人気 が集まっている。今年の大会でも、43都道府県、8カ国から定員を大幅に上回る1800名の希 望者が殺到した。
この大会の特徴の一つは、体力と気力の限界に挑戦する実力派選手とともに、記録や順位 にこだわらないマイペース派の選手が大勢参加して、市民派スポーツの醍醐味をつくってい ることにある。国会議員、パイロット、医師、歌手、会社員、公務員、学生、主婦など、し かも老若男女の多彩な顔ぶれで、交流しながら難関にいどむのは、トライアスロン大会のも つ魅力といってよい。
従来のスポーツは、選手と観客がする側とみる側の立場でかけ離れていた。ところが、ト ライアスロン競技は、選手のおよそ10倍もの役員、ボランティアが必要である。安全なレー ス運びのために、地域住民の協力は欠かせない。その意味で、選手、役員、観衆が一体となっ た連帯のスポーツである。宮古島大会は、島ぐるみの取り組みによって、選手が安心して競 技できる、安全で楽しい大会になった。その結果、選手と地域住民の間に連帯感が芽生え、
交流やふれ合いのある大会として評価されている。
こうした島ぐるみ、手づくり大会の模様は、多くのマスコミの注目するところとなり、第 1回、第2回大会とも60社以上、300名近い取材者が来島した。第1回大会では、NHKがの べ4時間の全国生中継をしてくれた。第2回大会では、民放TVが積極的にとり上げた。全
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国紙や雑誌なども、南の島の景色のよさと、トライアスリートの奮闘ぶり、住民のワイドー 応援などを大きく扱ってくれた。こうして、トライアスロンの話題は全国にひろまり、宮古 島はトライアスロンの島として知名度を上げるようになったのである。
どういう状況から出発したか
本圏域は1市3町2村からなり、人口は6万3000人である。農漁業が主な産業で、観光は 処女地といったところだ。島の景気は公共工事に左右される状況にあり、住民所得は県内で 最下位にある。最近では頼りにしてきた公共工事も伸び悩み、何とかしなければ大変だとい う危機意識から、宮古広域市町村圏協議会では、自治省が推進している地域経済活性化対策 の地域指定を受け、宮古の活性化計画を策定したのである。
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この計画では、地場産業、観光、商業の振興を柱にかかげ、活性化への4つの心構えを前 面に打ち出した。第1が皆で協力し合うこと。つまり、広域的対応である。第2が手順を ふむこと。これは人づくり、組織づくり、基盤づくり、ものづくりという活性化対策の進行 過程を意味している。第3は、住民エネルギーの結集である。第4は、宮古の人材や資源の 活用である。
この4つの心意気を表現したのが、「ワイドー・ワイド」のキャッチフレーズである。住民 の自立、自助の意識を啓発するため、住民の共通目標となる標語をつくることにしたのであ る。「ワイドー・ワイド」の標語は、宮古方言の「頑張ろう」と英語の「広がり」を意味した もの。方言の「ワイドー」は元気、勇気、覇気、活気、根気を要約した言葉で、相手を励ま し、自分を勇気づける宮古の住民の進取の気性を表現している。
「ワイドー・ワイド」をキャッチフレーズにした宮古の活性化対策は、マスコット、ワッ ペン、ポスターなどによるムードづくりから始まった。その後、味資源調査、事業所の意識 調査、観光シンポ、物産展なども試みた。
こうしたところに、トライアスロン大会の話がもちこまれたのである。まさに天の時であ り、タイミングが良かったのである。
ど こ に ヒ ン ト が あ っ た か
私たちにとって地域活性化のために、宮古の持ち味をどう生かすか、住民のやる気と連帯 をどうつくっていくかが重要課題であった。したがって、宮古の海洋性や亜熱帯性にふさわ しいスポーツイベントの開催は、大きな関心事であった。しかも、このイベントによって地 域住民の経済自立、自助の意識を啓発することができれば「ワイドー・ワイド運動」にうっ てつけではないかと考えた。
だが、それですんなりトライアスロン大会をやることになった訳ではない。まず、私たち はこの競技について無知だった。果たして宮古になじむスポーツなのか、安全対策はどうな るか。県レベルのイベントのノウハウすらないのに、全国的規模というのは無茶ではないか。
私ども広域協議会事務局は、本来の業務だけでも人手不足なのだから、とても大会準備まで は手が回らない。こうした多くの問題をかかえていたのである。
今振り返ってみれば、その頃が「勝負」の分かれ目であったような気がする。その時、私 たちに求められていたものは、宮古の経済活性化を地域住民に呼びかけている手前、弱気で はだめだ、やれるところまで努力してみようというワイドー精神(チャレンジ精神)であっ た。トライアスロン競技については、全国組織があるようだから要請してみよう。安全面で は、スポーツ医学の専門家が東京の大学にいるようだからお願いしてみよう。イベントのノ ウハウは県紙の琉球新報社に頼んでみよう。是非、ハワイに行ってトライアスロン競技の運 営方法を勉強しよう。こうした関係者との交流や情報収集に、勇気をもってチャンレジした のである。
私たちはハワイのトライアスロン大会視察で、この競技の鍵は安全性の確保にあること、
そのために、住民の協力が不可欠だということを学んだ。さらに、これだという確信を得た のは、トライアスロンが開かれているハワイ島と宮古島は離島であること。さとうきびを基 幹作目とした農村で、条件が似ており、ハワイ島ではイベント開発で観光を盛り上げている
ということであった。私たちは大会開催への自信を深めたのである。
地域の合意づくり
トライアスロン宮古島大会の準備は、安全対策を最重点課題にして、国内外からの選手募 集、コース整備、会場設営、式典催事、役員ボランティアの講習会、スポンサー調整など多 岐にわたる。こうした取り組みをこなしていくために、住民の協力を求めるための努力をし た。
まず私たちは住民に対し、逆転の発想で島おこしをしようと呼びかけた。宮古島は山もな ければ川もない。資源もない島だから産業が伸びないと、嘆き意識をもっていた。しかし、
山がなければ平地がある。恵まれた海もあるでないか。地の利や後発の利を生かして、一大 イベントをやってみようと呼びかけたのである。いいかえれば、ハングリー精神をワイドー 精神に切りかえようという訴えでもあった。
第2は、イメージ作戦である。トライアスロン大会は、単なるスポーツ行事ではない。こ のイベントによって、島の活性化を図る狙いがある。トライアスロン大会をバネにしてスポー ツアイランド宮古をつくろうと呼びかけたのである。スポーツアイランドのイメージは、地 域住民の共通理解と連帯を高めるうえで、大きな効果を上げたともいえる。
第3は、トライアスロン宮古島大会の性格を明確にするとともに、住民の果たすべき役割 を具体的に提起したことである。大会の性格については、全国的規模のイベント、全島行事、
民活導入による活性化対策という三つの位置づけをした◎
第4は、マスコミの積極的な協力を得て、住民への宣伝啓蒙を強化したことである。
第5は、住民や島の出身者を中心にしたトライアスロン関連行事を計画的に開き、その一 つひとつを着実に成功させたことである。シンポジウム、写真展、芸能の夕べ、物産展など 住民がそれぞれ関心ある行事に参加することで、トライアスロン大会の全体像をつかみ、大 会準備に積極的に協力するようになった。
こうして、「逆転の発想で島おこしを」、「トライアスロン大会の成功でスポーツアイランド へ」という考えは、住民の中に深く浸透し、この大会に協力しない人は、宮古の人ではない
という、異変〃が起こったのである。
大会を運営する宮古トライアスロン実行委員会には、関係市町村はもとより、体協、医師 会、看護婦協会、警察、消防、経済団体、教育、青年婦人団体などの圏域のほとんどの機関、
団体が積極的に加わった。実行委員会事務局態勢も、宮古広域市町村圏協議会事務局職員を 中心に、市町村や共催団体からの派遣職員によって強化された。広域的な推進体制ができあ がったのである。
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大会の波及効果
私たちはこれまで2回にわたりトライアスロン宮古島大会を成功させた。このイベントが 地域にもたらした効果は、次の点である。
第1は、イメージ効果である。TVや新聞等を媒体にして、宮古島が全国に宣伝された効 果を広告料換算すると数十億円にのぼる。イメージ効果で見落とせないのは、地域住民や宮 古出身者が宮古のよさを見直したことである。島の特性の発見は、活性化への足がかりであ
る 。
第2の効果は、ワイドー・ワイド運動がめざす住民の自立、自助の意識が高まったこと。
関係市町村が協力体制を強め、民間の各団体と密接なつながりを深めたことである。地域の 活性化への連帯感が高まっているのである。
第3は教育、文化面にもたらした効果である。大きい目標に挑戦することや、皆で協力し 合うことがいかに大切で素晴しいことか、子供たちに与えた影響は大きい。郷土芸能や地域 に対する理解も深まり、県外や外国選手との交流によって新しい刺激を得ることができた。
第4は、経済面の効果である。選手や関係者が宮古で消費した支出額は、一人当たり8万 5000円、そのうち、みやげ品代は2万700円である。これは私どもの予想を大きく上回ってい る。思い出に残る大会は、思い出に残るみやげ品につながっているのである。このことは、
地場産品やみやげ品の開発に大きな影響を与えている。大会の効果は観光の伸びにも現われ た。昨年は県全体では横ばいの中を、宮古の観光客は20%も増加している。このような経済 効果を推定すると、この1年間で10億円を下るまい。
第5は、まちづくり効果をあげることができる。トライアスロン宮古島大会が、住民生活 に大きな影響を与えたことから、各分野で新しい島づくりへの意欲が芽生えているのである。
すなわち、「スポーツによる島おこし」への期待であり、「健康、活力、ロマンの島」への期 待である。「住民や観光客が、年中スポーツを楽しみ、健康づくりができる島づくり、スポー ツ観光地、ひいては国際観光地をめざそう。そのために、地場産業や宮古特産品の開発に力 を入れたい。スポーツの島にふさわしく、健康産業やソフト産業も育てたい」。こうしたスポー ツアイランドの構想がふくらんできたのである。
イペントを独創的な地域づくりのバネに
全日本トライアスロン宮古島大会の性格である全国的規模のスポーツ行事や全島行事とい う内容に触れることは出来なかったが、活性化の視点で、このイベントを捉えるならば第1 回大会は、ハワイからトライアスロンという活性化の木を導入して、実験を試みたことにな る。第2回大会は、この活性化の木が地域になじむのか、定着するのかをためす大会であっ た。そして、今後の大会は、活性化の木を大切に育て、開花させ、実りあるものにしなけれ ばならないのである。つまり、このイベントをバネにして、スポーツアイランド宮古を具体 的につくっていくことが求められているのである。健康、活力、ロマンの島というゴールを めざし、地場産業、観光、商業の3種目の耐久レースに私たちがチャンレジすることは、水
泳、自転車、
である。
マラソン合せて181.195キロの難関にいどむトライアスリート同様、楽しい苦しみ
〔『地域づくり』7号(1986年12月)から転載したものである。〕