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刑事弁護が社会を変える

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〇亀石倫子弁護士(法律事務所エクラうめだ 代表)

 皆さん、こんにちは。大阪から参りました弁護士の亀石倫子と申します。今日は、

土曜日にもかかわらず、すごくたくさんの皆さんにお越しいただきまして、ありが とうございます。そして、沖縄に来させていただいて、沖縄国際大学の先生方、そ して、後援をしてくださった沖縄弁護士会の先生方、本当にありがとうございます。

今日をすごく楽しみにしていました。

 私は警察のGPS捜査の違法性を争った刑事事件において、最高裁大法廷で違法判 決を得ることができました。「こんな人でもできるんだな」というふうに思っても らえて、勇気を持ってもらえたらうれしいなというのが、今日の私の目標です。難 しい話は一つも出てきませんし、お話はまず一時間、休憩後に一時間と長時間にな りますので、本当に気楽に聞いてください。

 早速、私の自己紹介からさせていただきますと、運河のある北海道小樽市で生ま れ育ちました。少し保守的な土地柄だったりして、「女の子なのに大学に行って勉 強して、どうすんの」とか言われたり、うちの両親は教育熱心ではあったのですが

「何でそんな、東京とか大阪とかに行く必要があるの」、「別に札幌の大学でいいん じゃないの」と言われました。外に出ていくということに対して消極的な土地柄で したし、「女の子なのに」という感じがありました。

資料

沖縄法政研究所 第41回講演会

刑事弁護が社会を変える

―GPS捜査違法事件を中心に―

講  師:亀石倫子

     弁護士・法律事務所エクラうめだ 代表 開催日時:2018年10月27日(土)14:30~17:00 会  場:沖縄国際大学13号館3階301教室 後  援:沖縄弁護士会

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 でも私は小さいころから「もっと広い世界を見てみたい。北海道、私の住んでい る狭い世界だけが世界の全てじゃない」というふうに思ったりしていて、何かちょっ と息苦しさを感じていました。都会に行って、もっと広い世界でいろんなものを見 てみたいということと、もう一つは、自分に何ができるのか、自分がどこまででき るのかというものを試してみたいという気持ちがすごくあり、高校生のときから、

東京の大学に行きたいと思って、勉強していました。でも当時は法律に全然興味も なかったですし、弁護士という仕事を考えたことも一回もなく、単に英語の勉強が 好きだったので英文科に進むという、すごく安易な進路を選んで、東京の大学に行 きました。

 その後、いったんUターン就職して、札幌の一般企業に入社したのですが、子ど ものころから協調性がなく、大きな組織の中で歯車の一つとなって働くというのが 性に合わない、すごくなじめないという感じがしていて、仕事に不満はなかったん ですけれども、26歳のときに、3年半で辞めてしまいました。

 そして仕事を辞めて、結婚を機に大阪に来ました。無職になって、誰も知り合い のいない大阪で、そこからまた人生を一からやり直そうというような気持ちでした。

自分が人生を懸けて、やりがいを持って働ける仕事は何だろうと、しばらくさまよっ ていたときに、本屋さんで「司法試験」と書いたパンフレットと、運命的に目が合 いました。

 法学部の出身でもないですし、それまでの人生で弁護士と出会ったことも一度も なかったのですが、「司法試験」のパンフレットに直感的に「これだ」と思い、無 職で時間ならいくらでもあるし挑戦しようと、そのときに思ったんですね。 

 私の結婚した相手も私の親も、「突然何を言い出すの、この人」という感じだっ たんですけれども、「この子はやると言ったら、なかなか聞かない子なので、やら せてみよう」、「そのうち諦めるだろう」ぐらいの感じでした。

 その頃ちょうどロースクールができ、何年か司法試験予備校で勉強をしていた私 は、大阪市立大学のロースクールに、既修者コースで入ることができ、そこで2年 間勉強をしました。でも、やはり私は法学部出身でもないので、法的なものの考え 方が身に付いていなくて、一回目の新司法試験は落ちてしまい、もう一年浪人をし て、泣きながら勉強して、二回目にやっと受かりました。

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 結局、大阪に来て、司法試験のパンフレットと目が合ってから、新司法試験に受 かるまでに8年かかりました。この8年間は地獄のような日々でしたが、人生のど こかで地獄を経験しておけば、だいたいの大変なことは乗り越えられますし、この 経験はすごく大事だったなと弁護士になってからもつくづく思います。なので、大 学生の皆さんは、まだ地獄を経験していないかもしれないけれども、早めに地獄を 経験しておいたほうがいいんじゃないかなと思っています。

 司法試験に合格後、刑事事件を中心に扱う事務所に就職し、6年間の勤務期間に 200件以上の刑事事件を担当しました。7年目に独立して、今弁護士になって9年 目になります。

 刑事事件を中心に扱う事務所に入った動機として、大阪市立大学ロースクール時 代の実務家教員の弁護士との出会いがあります。

 大学生だと知らない人もたくさんいるのではないかと思いますが、20年ほど前、

平成10年に「和歌山カレー事件」という事件が起きました。夏祭りの会場で大きな お鍋にカレーをたくさん作って、みんなに振る舞って食べるということをしていた ときに、そのカレー鍋の中に、ヒ素という毒が入っていて、カレーを食べた方が4 人も亡くなってしまうという事件でした。当時は新聞もワイドショーもニュースで も、この事件を毎日やっていたぐらいの大事件でした。被告人のおばさん、林眞須 美さんという方の弁護をした方が、大阪市立大学ロースクールで刑事訴訟法を教え ていた実務家教員で大阪弁護士会の弁護士でした。

 私はこの事件が起こった平成10年当時、もちろん自分が将来弁護士を目指して勉 強をするなんて思っていなくて、一視聴者として「この人は絶対に犯人に決まって いる」と思いながらワイドショーとかを見ていました。というのは、このおばさん は何かすごく人が良さそうで、優しそうに見えるんですけれども、旦那さんが食べ るお好み焼きにヒ素を混ぜて食べさせたりとか、自分の家に遊びに来る知り合いの 食べるうどんにヒ素を混ぜたりとか、死なない程度に毒を入れて保険金詐欺をたく さんやっているんです。わざと走ってくる車にぶつかったりして、当たり屋という んですかね、そういうものでも保険金詐欺をしていたりして、見た目とは違って、

すごく悪いことをしている人なんですよ。それでマスコミや報道陣が、この人が疑 わしいということで自宅に押し掛けるんですけれども、その報道陣に向かって、ホー

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スで水を掛けたりするんです。そういうことをするような人なんです。

 結局この人は犯人だと疑われて逮捕されるのですが、最初から一貫して「私は犯 人じゃない」と否認して、取り調べにも黙秘していました。私はテレビを見ながら、

「やっていないんだったら、なんで黙秘なんてするんだ」「やましいことがあるから、

黙秘しているんじゃないのか」なんていうふうに思っていたんです。

 だから、ロースクールで、たまたまこの人の弁護をした先生とお会いしたときに、

何でこんな人の弁護ができるのかと素朴に疑問に思って、「本当に先生はこの人の ことを無罪だと思って弁護しているんですか。それとも、お仕事だからやっている んですか」と率直に質問してみたんです。そうしたらその先生は、テレビが報じる 情報とは全然違う角度から、この事件に光を当てるような話をしてくれました。例 えば、事件が起きた地区には、シロアリがたくさん出るという事情があって、シロ アリ駆除のための薬品が普通に各家庭にある。そのシロアリ駆除のための薬品の中 にヒ素が含まれている。だから、必ずしもこの人の自宅にヒ素があったからといっ て、この人が犯人とは限らないんだよという話だったりとか。この人は、確かに保 険金詐欺を二十何件やっていて、お金のためだったら何でもする人なんだけれども、

逆にいえば、毒入りのカレーを食べさせて無差別殺人をしたところで、この人には 1円もお金が入らない。つまり、動機がないんだよという話とかをしてくれました。

加えて、例えば、無罪推定の原則とか、黙秘権の保障とか、私はロースクールに行っ て初めて学問としての法律を勉強したので、そんな基本的なこともよくわかってい なかったのですが、こういったことが、日本の憲法で保障されている意味を教えて もらいました。

 それで、このことがきっかけで、刑事弁護という仕事にすごく興味を持ちました。

私たちがマスコミを通じて知っていることというのは、本当に表面的であったり、

先入観や偏見によってフィルターをかけられた一部の情報でしかなくて、今までは、

それによって全てを知ったような気になっていたんだけれども、実際は違うんだな と思いました。こうやって、刑事被告人の側に立って弁護することで、初めて見え てくる真実というものがあるんだなということに気付き、私は弁護士になったら、

刑事弁護をやりたいというふうに思ったのです。それで、刑事弁護を中心にやって いる公設事務所に入れてもらって、6年間過ごしました。

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 今日は、その6年間で私が担当したいくつかの事件のお話をします。

 憲法の中に、自由権、国家からの自由というのがいくつか書かれています。思想・

良心の自由、表現の自由、職業選択の自由などですが、今日はそういう自由権が侵 害された事件の話をしたいと思います。

「ダンス」を問う -クラブNOON風営法違反被告事件-

 一つ目は、クラブNOON風営法違反被告事件です。ここでいう「クラブ」とい うのは、踊るほうのクラブですね。私が弁護士になって3年目に受任した事件です。

当時の風俗営業法には、「設備を設けて客にダンスをさせ、客に飲食をさせる営業 は風俗営業」だと書いてありました。設備というのは、ミラーボールとか大きなス ピーカー、ダンスホールなどです。

 ある営業が風俗営業に当たるとなると、事前に公安委員会の許可を取らないとい けません。ところが、この許可を取るのが非常に大変で、いろんな条件を満たさな いといけません。風俗営業というと、性風俗とか何かいかがわしい感じのイメージ を持つ方も多いと思うんですが、たとえば小学校から距離がどれだけ離れていない といけないとか、住宅地には作ってはいけないといった立地の条件もありますし、

ダンスフロアの面積が66㎡以上ないといけないという構造条件など、厳しい基準が 決められていました。「大箱」といわれているような広いクラブであれば、わりと 許可を取りやすいんですけれども、「小箱」といわれる、こぢんまりとしたクラブ、

本当に音楽が好きな人が集まるようなクラブは、条件を満たしていないところが多 く、許可が取れないという状況でした。なので、この事件が起こったときは、小箱 のクラブを中心に許可を取っていないクラブがほとんどだったのですが、警察のほ うもクラブを「無許可営業」で摘発することはほとんどなかったので、何事もなく 営業できていました。

 ところが、平成24年頃から京都府警や大阪府警が突然、「許可を取っていない」

として、どんどんクラブを摘発し始めました。大阪のクラブNOONの経営者であ る金光さんは逮捕までされて、20日間勾留されました。その後、正式起訴され刑事 裁判を受けることになりますが、そのとき金光さんは「僕のやっている営業は、風 俗営業なんかじゃない」と言うんですよ。「国に許可をもらわなきゃいけないような、

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いかがわしい営業をした覚えはない」と。「クラブが風俗営業に当たると言われても、

納得できない」と仰るんです。

 それで「たしかに、クラブが風俗営業にあたるという前提自体がおかしいのかも しれない」と思い、まず、このNOONというクラブがどんな場所なのかというの を見に行きました。私は、クラブとかに行って遊ぶようなタイプの人間では全然な くて、この事件を引き受けるまで、1回行ったことがあるかないかで、クラブ大好 きっ子とかでは全然ないので、まずクラブってどんな場所なのかを見に行ったわけ です。

 クラブNOONは大阪の中崎町というところの、JRの高架下にあって、倉庫街み たいな感じの、雰囲気のある場所にあります。入り口を入ると、まずカフェスペー スがあり、実際にモーニングとかランチとかもやっています。さらに奥に入ってい くと、バーカウンターがあるバースペースがあって、さらにその奥に入っていくと、

クラブとして使われている場所があります。

 すごくこぢんまりとした小さなフロアで、奥のステージでバンドのライブをやっ たりもするし、DJが朝までイベントをやったりもします。お客さんは、フロアで 音楽に合わせて踊ったり、バーカウンターでお酒を飲みながら音楽を聴いたり、思 い思いに音楽を楽しむというようなお店でした。

 私は実際にこのクラブに行ってみて、本当に音楽が好きな人たちが集まっている ことがわかったし、何でこのクラブが「風俗営業」といわれるのか違和感を覚えま した。それで、これは憲法問題だと考え、弁護士になって10年目以下の若手弁護士 ばかり20人ぐらいで弁護団をつくりました。これは単なる風営法違反の事件にとど まらない。もし、これでクラブが「風俗営業に当たる」とされ「公安委員会の許可 を取らなければならない」となると、NOONは条件を満たしていないから許可が 取れない。要は、もう営業できなくなるわけなんです。つまり、金光さんの職業選 択の自由を奪うことになるし、DJの方や、ダンサー、バンドの人やアーティスト、

いろんな人がここで自分なりの表現をする、そういう表現の自由を奪うことになる んだというふうにも思いました。だから、これは憲法問題なんだと。重鎮の弁護士 とかが入っても、「それの何が大事なの?」と共通認識が持てない感じになるかな と思ったので、ロースクール世代の若手を中心に弁護団を作りました。

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 私たち弁護団が裁判で主張したのは4点です。

 まず、「設備を設けて客にダンスをさせ、客に飲食をさせる営業」が風俗営業だ というのですが、そこでいう「ダンス」とはどんなダンスなのか、というのが最初 の疑問でした。風俗営業というからには、何かいかがわしい、性風俗秩序を乱すよ うなダンスをいうんじゃないのかと。ダンスとしか書いていないから、その解釈の 問題になるわけですけれども、クラブでみんなが踊っているのって、ダンスという ほどのものでもないんですよね。音楽に合わせて体を揺らしているというか、リズ ムを取っているというか。別に男と女がすごい入り乱れて、抱き合って踊るとか、

そんなのはクラブで見たことがないわけです。構成要件該当性といいますが、そも そもクラブで、お客さんたちが音楽を楽しんで体を動かしているのは、風営法にい う「ダンス」とはいわないんじゃないかという主張をしました。

 次に、先ほど言った、憲法上のいろんな主張、職業選択の自由(憲法22条1項)

を侵害するんじゃないかとか、クラブでイベントをプロデュースする言論や表現 の自由(憲法21条1項)を侵害するとか。あと、憲法31条は、罪刑法定主義といっ て、人に刑罰を科す法律は明確でなければいけないというルールがあるんですけれ ども、それに反するんじゃないか。「ダンス」といわれても、どんなダンスなのか 明確じゃない、ということを主張しました。

 弁護活動における私の役割は、風営法ができた昭和23年当時の日本がどんな社会 だったのか、性風俗を巡る状況、ダンスホールの営業がどういうものだったのかと いう、いわゆる立法事実というものを調べることでした。絶版になっている本を古 本屋さんで買ってきたりして、昭和初期の日本の社会や性風俗について調べ始めま した。『性の裁判記録』とか、『戦後警察史』という本もありましたし昭和の大阪市 の歴史、大阪府警の歴史など、古本屋さんを探すと思いがけない本に出会ったりし て楽しく、調べていくうちに、昭和23年当時の日本社会がどんなだったかが、だん だん分かってきました。

 当時、まだ売春防止法(昭和31年施行)ができていなくて、アメリカの兵隊さん を相手に、女性がダンスホールでチークダンスを踊って、それがきっかけとなって 売春に至るみたいなことがあったそうです。つまりダンスホールが売春の温床に なっていると考えられていた時代でした。そして、売春やそれによる感染症、病気

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などを防止するために、温床となっているダンスホールを規制しようということで できたのが、風営法のダンス規制だったわけです。

 そういう立法事実を知るために、例えば、国会の会議録はインターネットで誰で もすぐに見られますので、昭和23年当時の国会で風俗営業法を作るときにどんな議 論がされていたかについてもよく読んでいきました。そうすると、チークダンスの ように、男女が体を密着させて、性風俗秩序を乱すようなおそれのあるダンス、そ ういうものを取り締まろうとして、ダンス規制ができたというのが分かりました。

それを知ると何がよいかといえば、「じゃあ、今の時代のクラブに全然当てはまら ないじゃん」ということが言える。そういうことを私は地道に調べていました。

 もう一つ、この裁判で特徴的だったのは、この問題への世論の注目を集めよう と、たくさんの人を巻き込んでいろんな工夫をしたことです。昔、NOONで遊ん でいて今は映画監督になっている人が、クラウドファンディングでお金を集めて

「SAVE THE CLUB NOON」というドキュメンタリー映画を作りましたし、ま だ売れていないころにNOONでライブとかをやっていて、今は有名になっている EGO-WRAPPIN'が「NOONがこんなに大変なことになっているから、みんなで NOONを助けよう」ということで無償でライブに出演してくれたりしました。楽 しくていい音楽だと、自然と体が動くじゃないですか。それを「客にダンスをさせ た」と言われてもピンとこないなと思いますし、私はクラブに行ったことがなかっ たけれども、EGO-WRAPPIN'の方は「クラブはすごく大事な居場所だった」、「自 分にとって救いだった」と言っていたんですね。ある人にとっては、どうでもいい ことかもしれないけれども、別の人にとっては本当に救いになるような場所という のはあるし、人生にとって、生活にとって、絶対に欠かせないものってあるんだな と、私はすごく実感しました。

 控訴審の第一回公判のお知らせのチラシは、クラブのイベントを告知するフライ ヤーと呼ばれるものがありますが、それの裁判バージョンをクラブ関係者の方に 作ってもらいました。いろんなクラブや、美容室、カフェなどにこのフライヤーを 置いてもらって、1人でも多くの人に、この裁判に足を運んでもらい、傍聴席をいっ ぱいにしようと思ったんです。何のために傍聴席をいっぱいにするかというと、裁 判官に、「これは大事な裁判なんだ」「これは憲法訴訟だ」「これはNOONだけじゃ

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ない、日本全国のクラブに関わる、クラブを経営している人やそこで働いている人、

そこでDJをやっている人、そこに遊びに行く人たちみんなに関わる大問題なんだ」

ということを分かってもらう必要があったからです。他にも例えば、この裁判に専 門家として協力してくれた大学の先生や、被告人の金光さん、弁護人が参加して、

この裁判で問題提起していることについて、シンポジウムみたいなことを何度も NOONで開催しました。それをYouTubeで動画配信して、来られなかった人にも 見てもらったりとかしました。シンポジウムにも登壇してくれた京都大学の刑法の 髙山佳奈子先生や、広島大学の憲法の新井誠先生は、この裁判で意見書を書いてく れたり、証人として出廷してくれたりしました。フライヤーやシンポなどいろいろ 工夫したかいがあって、たくさんの人が傍聴に来てくれて、抽選になって傍聴でき ない人もでました。なので、弁護側冒頭陳述を、当日使用した資料と弁護士の朗読 で再現し、後日YouTubeで配信するということもしました1)。この裁判で弁護人が どんな主張をして、どんな立証をしようとしているのかを知ってもらえれば、初公 判に来られなかったり、抽選に外れて傍聴できなかった人も、第二回、第三回公判 に足を運んでもらえるかもしれない。そう思って、こういう工夫をしました。

 また、私たちが初公判で行った証拠調べの1つが、摘発があった時に流れていた DJミックスを、法廷で再生するというものです。摘発当日はブリティッシュロッ クのイベントが開かれていて、そのときに流れていた音楽のミックスをDJの人に 作ってもらったんです。裁判官は、私以上にクラブとかに行ったことがないだろう し、どんなところなのか知らないのではないかと思ったので、実際に流れている音 楽を聞いてもらうしかないと考えました。

(映像視聴)

 4曲をミックスした音楽が、だいたい14分間ぐらい大阪地裁の大法廷に流れまし た。最初はおとなしく聞いているんだけれども、私たちも傍聴席の人たちも、だん だん楽しくなってくる。何かだんだんリズムとか取り始めて、ずっと楽しい気分に

1)NOON風営法訴訟初公判 弁護側冒頭陳述

 https://www.youtube.com/watch?v=iWo7Tm0R8uI(最終閲覧:2019年5月30日)

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なって。それが自然じゃないですか。こんな音楽を聞いていたら、自然と体も動く し、楽しくなってくるということを、14分間やっていたんですけれども、3人の裁 判官は微動だにせず、表情一つ変えずに聞いていましたね。

 NOONがまだ営業をしていたときのイベントの様子を見てもらおうということ で、こういう映像も流しました。DJの人がいて、VJといってDJの流す音楽に合 わせて映像で演出をする人。ライブペインティングといって、そのイベントの最初 から最後までを通して、1枚の絵を完成させる、絵を描く人。さらには洋服のデザ イナーさんが自分のデザインした洋服やアクセサリーをここで販売して、どんな思 いで作ったのかなどをデザイナーとお客さんが直接対話するということもあったイ ベントだったので、これが、まさにクラブカルチャーというか、いろんな文化が融 合して、新しい文化ができていく場所というのがよく分かる映像です。

(映像視聴)

(以下、講師による映像解説)

 DJの方には、証人として出廷してもらったんですけれども、レコードで音楽を かけることに、すごくこだわりを持っているんです。何でレコードじゃなきゃいけ ないのかとか、そんなことを証人尋問で話してもらいました。

 後ろに掛かっているTシャツは、その場でデザインを決めて、その場でTシャツ に印刷するというのをやっていたところです。アクセサリーとか洋服のデザイナー さんが、自分の作品をお客さんに直接売ったり、説明したりしている様子です。

 これはライブペインティングというもので、絵を描く人が、時間をかけて絵を仕

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上げていく様子を、いろんな人が見ている。お母さんがお酒を飲んで、小学生ぐら いの子がずっとその絵を見ている。

 これは、デザイナーさんが作ったクッションなんですけれども、すごくかわいい から、私は買おうかなと思ったんですけれども、7,000円ぐらいして、すごく高い ので買えませんでした。

 という感じで、公判では証拠調べとして裁判官にこういうものを見てもらったり しました。

(映像視聴 終わり)

 また、実はいま中学校の体育でダンスは必修科目になっています。平成20年度に 改定された学習指導要領の中に「いろいろなビートで踊る」と書いてあって、「ロッ クでは全身でビートに合わせて弾む」「ビートのきいたヒップホップでは膝の上下 動に合わせて腕を動かしたりステップをするようにして踊る」などと書いてあって、

まさにクラブでみんなが踊っているようなダンスが、中学校の体育の授業で必修に なっているという時代なんです。いったいそれのどこが、性風俗秩序を乱すおそれ のあるダンスなのか、というようなこともいろいろと立証しました。

 その結果、一審の裁判では無罪となりました。理由は、弁護人の主張のはじめに 掲げた風営法2条3号の「ダンス」に該当しないという点が認められたことでした。

風俗営業法にいうダンスというのは、やはり性風俗秩序を乱すような恐れのある、

いかがわしいダンスをいうのであって、クラブでみんなが音楽を楽しんで、体を動 かしているのは、それに当たらないという判断でした。控訴審でも無罪が維持され て、2年前に最高裁で無罪が確定しました。

 この裁判の動きと並行して、ダンス規制法の見直しを求めようということで、署 名を集める活動が行われていました。例えば、いろんなフェスの会場とかでブース を設けて署名を集めたりして、何と16万筆以上の署名が集まり、それを国会に届け たんです。

 東京では、クラブ関係者の人たちが“PLAYCOOL”という、朝、みんなでごみ を拾い、街をきれいにしようという活動を行っていました。クラブに遊びにきた人 が酔っぱらって外で騒いだりとか、ごみをその辺に捨てちゃったりすることに近隣 住民からの苦情とかも実際にあるんですね。なので、クラブのイメージをもっと良

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くするために、自分たちもいろいろ努力しようという活動が始まったりしました。

 ダンス規制法の改正を求める署名に続いて、ミュージシャンのダースレイダーさ んやラッパーのZeebraさんなど有名なアーティストがスーツを着て議員会館へ行 き、国会議員の人にロビイングということもしたんですね。こんなに署名が集まっ ています。“PLAYCOOL”という活動をしています。だから、この風営法を改正 してくれ、ダンス規制法を見直してくれという活動をして、ついに平成28年(2016)

6月に法改正までたどり着きました。昭和23年に作られて、ずっとそのままになっ ていたダンス規制法が変わるということになったんです。

 こうした一連の活動の中で私が関わったのは刑事裁判だけなんですけれども、刑 事裁判というものは、何かものを盗んだとか、人を殺してしまったとか、そういう ことをした人を弁護するというイメージが自分の中にもありましたけれども、こん なふうに社会を変える、法律を変えたりとか、社会、世論を巻き込むとか、いろん な人がこの裁判に関心を持って、社会を変えていくということにつながることがあ るんだなということを初めて経験しました。そして、この刑事弁護という仕事は、

やはり非常にやりがいがある仕事だなというふうに思いました。

職業選択の自由、表現の自由を求めて -彫り師医師法違反被告事件-

 実は、このクラブの事件とちょっと似ている事件を今やっています。どんな事件 かというと、彫り師医師法違反被告事件です。これは、被告人が増田太輝さんとい うタトゥーアーティストで、ご自身の腕にも手首ぐらいまでタトゥーががっつり 入っています。増田さんは現在29歳ですが、18歳のときに、友達に誘われて音楽イ ベントに行ったら、さっきのライブペインティングじゃないですけれども、そのイ ベントの一角で、ライブでタトゥーを入れるというものがあったんだそうです。彫 り師の人がその場でタトゥーを入れていく。増田さんは子どものころから絵を描く のが大好きだったんだけれども、そのライブタトゥーを見たときに、すごい衝撃を 受けて「自分も彫り師になる」と強く思ったそうです。ライブタトゥーを見て、「格 好いい。自分もタトゥーを入れてみたいな」と思う方のほうが多いそうなのですが、

増田さんは自分が彫り師になりたいと、そのときに思ったそうです。それで、すぐ にそのライブタトゥーをしていた彫り師のところに弟子入りさせてくれって行った

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んだけれども、「未成年だから駄目だ」と言われて、20歳になるまで毎日絵の練習 をして過ごしていたそうです。

 なぜ増田さんが摘発されたのかというと、医師法という法律の17条に、「医師で なければ、医業をなしてはならない」と書いてあるんですね。この「医業」って何だ、

という話なんです。今回、警察や検察官は、この「医業」の中にタトゥーを彫る行 為も含まれるというふうに主張をしています。だから、「医師免許を持っていなかっ たら、タトゥーを彫っちゃいけない。無免許医業罪だ」と言って、平成27年の春こ ろから彫り師の人たちを摘発し始めました。

 でも、今までタトゥーの彫り師に医師免許が要るなんて、私も思っていなかった ですし、誰も思っていなかったのではないでしょうか。勾留された彫り師さんもい ますけれども、結局、最後は正式裁判ではなく、略式命令で30万円とか50万円の罰 金を科す。多くの彫り師さんは納得していなかったと思うんだけれども、やっぱり 20日間も勾留されたら大体みんなメンタルが弱りますので「早く出たい」と、罰金 を払って終わるんだったらもうその方がいいと、みんな罰金を払って終わらせてし まいました。増田さんは、逮捕、勾留されずに、在宅で捜査をされていたので、そ ういうメンタルを弱らされるということがなく、本当に彫り師に医師免許が必要な のか否かを裁判で争いたいということになりました。

 実は、過去にも、この「医業」とは何かが裁判で問題になったことがあります。

例えば、コンタクトレンズを買いにいくと、視力を測って、これで大丈夫かなとい うので、テスト用のコンタクトレンズを入れてみるということがあると思うんです けれども、それは「医業」なのかどうか。医師でなければテスト用コンタクトレン ズの着脱をしてはいけないのかどうか。あと、植毛する行為とか、断食道場に入寮 する際の問診。これらが、お医者さんじゃなければできない医業なのかどうかとい うのが、かつて裁判で争われたことがあります。答えは、これは全部医業に当たり ますという判断です。よく考えてみれば、すべて医療に関連する行為ではあります よね。植毛はちょっと微妙かもしれないですけれども。

 実は、平成13年に厚生労働省がこんな通達も出していました。「針先に色素を付 けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為は、医行為に当たる」。医業とい うのは、「医行為を業として行うこと」なので、結局、「医行為」とは何かが問題に

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なるんですけれども、厚労省が出しているこの通達を読むと、まさにこれは、入れ 墨をする行為が医行為に当たると言っているんじゃないか、となります。

 でも、この背景にはアートメイクに関する苦情が増えていたという事情がありま した。平成9年から平成15年までの7年間で、全国の消費生活センターに寄せられ た、美容医療に関する苦情の件数が3倍近くに増えているという実状があるのです が、特に苦情の中で多いのが、レーザー脱毛に関するもの、ケミカルピーリングと いって、ちょっと強い刺激のある薬品を、肌に刷り込んでお肌をきれいにするとい うもの、そして、アートメイクだったんです。

 アートメイクとは、眉毛やアイラインに墨を入れる半永久メイクというか、毎朝 お化粧をしなくても、もう墨を入れているので、顔を洗っても取れないというメイ クのことです。このアートメイクに関する苦情がものすごく増えていました。だか ら、さきほどの平成13年の通達はアートメイクを念頭に置いた通達だったのではな いかと考えられます。ものすごく苦情が増えているから、どうにかしなければいけ ないというのが行政の考えることで、国民の健康を守るというのは厚生労働省の使 命なわけですよね。なので、これは医行為に当たるからお医者さんじゃないとでき ないんだということにして、警察もアートメイク業者は無免許医業をしているとい うことで、どんどん摘発を始めました。

 これは、平成27年に警察庁が公表した資料なんですけれども、平成22年から26年 の5年間で、医師法違反の検挙数が軒並み上がっていて、平成26年に関していえば、

全体の8割がアートメイク業者の摘発なんです。なので、この流れを見ると厚労省 の通達はアートメイクを念頭に置いた

ものではないかと考えられるのです。

 では、アートメイクではなく、入れ 墨の彫り師に医師法が適用されたケー スがあるのかどうかを調べたところ、

たった3件だけでした。平成22年に2 件、平成27年の初めに1件。これらは 全部、暴力団関係でした。彫り師さん 自身が組員だったりとか、あるいは、

平成26年中における生活経済事犯に おける検挙状況等について

(H27.2 警察庁生活安全局)

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お客さんのほとんどが暴力団組員だとか、そういったケースでした。結果は、いず れも不起訴。罰金にすらなっていなかった。このことから何が分かるかというと、

結局、これらは暴力団対策の一環でしかなかったのかなということなんです。こう いう過去のケースを見てみても、やっぱり入れ墨の彫り師さんに医師法を適用する というのは、あまりにも突然だし、納得できないなという感じがするんです。

 私は、タトゥーが大好きなわけでもないですし、入れていないし、入れようと思っ たこともないんですけれども、この事件を担当することになった以上は、タトゥー のことを知らなきゃいけないといろいろ調べました。

 例えば、歴史をさかのぼると、入れ墨は江戸時代にめちゃくちゃ流行るんですね。

鳶、火消し、飛脚という、ふんどし姿になる機会の多い肉体労働の人たちが入れ墨 をするようになります。江戸の町で、職人さんたちから非常に人気が出ます。

 沖縄にはハジチ(針突)といわれる風習がありますよね。女性が通過儀礼として、

指から手の甲、肘にかけて入れ墨で文様を入れるという習慣がありました。アイヌ 民族にも、実はそういう習慣がありました。唇のところに大きく、はみ出したリッ プみたいに描いたりとか、腕にリボンを巻き付けたみたいな文様というのが特徴で す。こういうふうに地域の文化、風習として、入れ墨がされていたという歴史もあ りました。

 海外では、タトゥーはアートとして受け止められていて、2016年3月にパリで開 かれた『世界のタトゥー展』では、世界中から有名なタトゥーアーティストが集まっ て、それぞれの作品を展示したり、ブースの中では、その場でタトゥーを彫ったり しています。日本の入れ墨は、ジャパニーズスタイルといわれて、非常に外国では 人気があります。日本人の仕事は基本的に丁寧なので、日本のタトゥーの技術や図 柄は外国でとても人気があり、リスペクトされています。

 私は被告人の増田太輝さんが実際にタトゥーを施したお客さんに直接会って、何 でタトゥーを入れたのかという話を聞きました。ある女性の方は耳の後ろに「R.I.P.

February 24 2008」と、この方のお父さんが亡くなった命日を彫っていました。子 どものころからものすごくお父さん子で、お父さんが亡くなったということが、本 当にショックだったんだけれども、お父さんと一緒にこれからも生きていくという、

そういう哀悼の気持ちをここに彫ったと。何でこの場所なのかということを聞いた

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ら、髪の毛を下ろせば隠れるからというふうに言っていました。

 別の女性は、子どものころに二の腕の部分を何かけがをされて、手術の痕がみみ ず腫れみたいにずっと二の腕に残っているのがすごく嫌で、どんなに暑くても、こ の傷が隠れるような服しか着なかったそうなんです。だけど、この傷に対するネ ガティブな気持ちというものを克服したいと考えて、お気に入りのモチーフのタ トゥーを傷の上から施してもらった。それで、やっと自分の体の、この傷のある部 分に対して、ポジティブな気持ちを持てるようになったと言っていました。

 ある男性の方は、右腕と左腕のそれぞれの内側に子どもの名前を彫っていまし た。離婚をして、奥さんが親権を持つことになり、子どもと毎日会えなくなっちゃっ たんですね。だけど、毎日この両手に子どもを一人ずつ抱っこして一緒に遊んでい た、そのことを忘れないで、いつも抱き締めている気持ちでいたいからというので タトゥーを入れたと言っていました。

 また別の女性は、くるぶしの上のほうにタトゥーを入れていました。フランス語 で“comme je suis”、「自分らしく」という意味です。この方は、パティシエの修 行をしにパリに留学をしたことがあって、そのときの初心をずっと忘れないという 気持ちで、フランス語で一番好きな言葉を、ここに彫ったというふうに言っていま した。

 私は今まで、実はクラブもそうなんですけれども、タトゥーを入れている人に対 して、やっぱり少し怖いと思っていたし、タトゥーを体にたくさん入れている人が 向こうから歩いてきたら、目を合わさないようにしていたんですよね、なんとなく。

 「何でタトゥーを入れるんだろう?」ぐらいに思っていたんですけれども、こう やって自分がこの裁判を担当することになって、当事者の人に会って、どんな思い でタトゥーを入れたのかを聞くと、すごく理解できるところがあるんですよね。

 先日も、芸能人のりゅうちぇるさんがお子さんとパートナーのぺこさんの名前の タトゥーを入れて、賛否両論が巻き起こっていましたけれども、やっぱり自分の狭 い世界で生きてきた価値観だけで判断しちゃうんじゃなくて、自分の中の、もしか したら、差別とか、偏見とか、先入観というものがあるのかもしれないということ に、私は当事者の方々に出会って、よく話を聞いて、気付かされたというところが ありました。

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 この裁判の準備をしてきて、平成27年11月朝日新聞の朝刊に大きく「タトゥー、

医療か芸術か」という記事が出ました。「芸術」と言ってしまうとちょっとミスリー ドなのですが、それはともかく、増田太輝さんは18歳のころからずっと彫り師にな りたくて、毎日毎日絵が上手になれるように練習をしてこられました。増田さんの 右足も左足も真っ黒です。自分の体を練習台にして、タトゥーを彫る練習をしてき て、練習しすぎて塗りつぶされちゃって真っ黒なんですね。お金をもらって人の体 にタトゥーをする前に自分の体でものすごく練習をしてきた。そういう想いでやっ てきた仕事が突然犯罪だって言われることに対して、そう簡単には受け入れられな い、と。在宅でずっと捜査を受けていて、30万円の罰金という略式命令を受けたん ですけど、もしこれを払ってしまったら違法だと認めることになって、いずれアー トメイクみたいに医師免許がなければ違法だという既成事実がどんどん積み重なっ てしまう。だから、これははっきりさせなければならないと仰ったんです。だった らその略式命令を蹴って、正式裁判の申し立てをしようということになり、刑事裁 判に入りました。

 私はクラブの事件を担当した経験があったので、支援者の人たちに呼び掛けて

「Save Tattooing in Japan」という裁判を支援する人たちの団体を作ってもらっ て、かっこいいホームページをつくって寄付を呼び掛けたりとかしました。私自身 も、たった一人で闘えるとは思っていないんですよ。私はアイデアとか行動力はあ るんだけど、あんまり頭は良くないので、頭のいい、若手ばっかりの6人のチーム なんですけど、弁護団を結成するという、クラブの時と非常に似たチームを組みま した。

 私たち弁護団が主張したのは5点です。まず、医師法17条の「医業」にタトゥー を彫る行為は含まれないという主張。そして、もしタトゥーが含まれるとすれば、

それは彫り師さんたちの職業選択の自由を侵害する。というのも、今から医師免許 を取れと言われても6年間医学部に通わなければいけないし、研修医を経て、国家 試験資格を取らないといけない。お金もめちゃくちゃかかるし、そもそも簡単に医 学部には入れない、ほとんど無理なわけですよね。だからこれは職業選択について 行き過ぎた制約だと訴えました。そして、彼らがもし人の皮膚に彫っちゃいけない となったとき、じゃあ、明日から紙に描きますというわけにもいきません。彼らに

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とっては、人の皮膚に一生残る、世界で一つだけの、コピーすることのできない作 品を彫るというところに表現の特徴があるので、それができなくなるということは、

彼らの表現の自由を全面的に奪うことになってしまう。さらに、タトゥーを入れる ことで日本の社会ではたくさんの不利益があるわけですが、それでもタトゥーを入 れたいという人の自己決定権は尊重されるべきじゃないか、ということです。 

 この裁判では、タトゥーを施術する過程を、実際に被告人のタトゥースタジオで の写真を使ってわかりやすく説明しました。まず、最初に施術する台や照明を養生 します。ゴミ箱も足で踏めるタイプのもので、手で直接触りません。タトゥーをす る時に使うマシーン、今、手彫りでやってる人はほとんどいなくて、マシーンでや るのが通常だそうなんですけど、マシーンのグリップ部分も施術針も、もちろん全 部使い捨てです。マシーンのモーター部分は使い捨てではないんですが、滅菌をし ています。増田さんはマスクをして、髪の毛が落ちないように帽子を被り、手も全 部使い捨ての手袋で覆い、使い捨てのエプロンをしています。使い捨てにできない 器具については、病院などで使用している医療用の高音波洗浄機とか高圧滅菌機を 使って消毒、滅菌をしています。このようにタトゥーを施術する過程を写真でわか りやすく、どれだけ衛生管理に配慮してやっているかということを説明しました。

しかし、国はタトゥーの施術に関して衛生ガイドラインを作ってるわけでもないで すし、タトゥ-の彫り師に特化した資格も整備していません。日本の社会では、入 れ墨はアンダーグラウンドなものとされてきたので、国も彫り師という職業を正面 から認めていないわけなんですね。なので、衛生管理のための法整備を何もしてこ なかった。彫り師さんたちは、自主的にアメリカのやり方などを真似してやってき ているんですね。機械も、針とかグリップとかも全部アメリカから輸入しています。

施術に使うインクも、重金属が含まれていない安全なインクを外国から輸入してい るという状況です。本来は、国が何らかの衛生管理、衛生基準を作るべきだけれど も、放置してきたじゃないかと。放置してきていながら、今になって医師免許を取 れというのはいくら何でもひどいじゃないかと、私は思うわけなんです。

 この裁判でもクラブの時のように署名を集めて、国会議員に届けたりしました。

でも、集まった署名はたったの2万3千筆。たったのといっても多いんだけど、ク ラブの時の16万通に比べたら全然少ないです。音楽フェスなんかで署名ブースを置

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かせてくれといっても、タトゥーだから断られたりしたそうですし、署名をしてく れる人自体が少ないんでしょうね。クラブの時とは全然世論の感じが違いますね。

マスコミもなかなかこの事件、正面から報じてくれるところは少ないです。でも、

逆に海外からの反響がめちゃくちゃ多くて、リスペクトしている日本の彫り師がこ んな目にあってるなんてクレイジーじゃないかという感じなんですね。平成28年の 衆議院厚生労働委員会2)で当時、民進党の初鹿明博議員(現在、立憲民主党)が塩 崎恭久厚生労働大臣にこういう質問をしてくれました。「鍼、灸、鍼灸師や柔道整 復師というのは別途法律を作って、それに特化した国家資格というのをやっている じゃないですか。きちんと彫り師に関しても法整備をして衛生管理のルールを決め て、届け出をするようにしたほうがいいんじゃないですか?」と。その時の厚生労 働大臣の答弁は、「感染症などの問題があり、医師法違反との考えもありうる。」と いうものでした。結局、「ありうる」ということであり、タトゥーを彫る行為が医 行為にあたるかどうかについて、厚労省としても確定した判断は無いわけなんです。

先ほど、厚労省が通達を出しているといいましたけど、あくまで行政通達であって 法律ではない。確定した判断でないからこそ、今、裁判で争っている。また、大臣 はこういうふうにも言いました。「入れ墨には文化的側面もある。どういうニーズ があるのか把握し、社会的位置づけを議論して深める必要がある」と。私は本当に そのとおりだと思っていて、いきなり刑事裁判で有罪か無罪かということじゃなく て、まずは民主的な過程で、つまり国会で、彫り師のやっている仕事はちょっと危 ないんじゃないかとか、人の皮膚に針を刺すわけだし、血液とか体液とか介在して 感染症になる可能性もあるわけだし、だから何らかの法整備をしないといけないん じゃないか。医師法を適用するというのはちょっと行き過ぎじゃないかという議論 をしないといけないと思うんですよね。いきなり逮捕して勾留して刑事裁判という のは、ちょっとおかしいんじゃないかと。ところが、2017年9月27日、大阪地方裁 判所は被告人を有罪にしました。「タトゥーを施術する行為には保健衛生上、危険 がある。それを防止するためには医師免許を有する以外の方法はない。お客さんの

2)平成28年3月9日第190回国会厚生労働委員会http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugi in/190/0097/19003090097003a.html 

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表現の自由はあっても、彫り師に表現の自由はない。」こんなことを言ってきたん ですね。私はめちゃくちゃ腹が立ちました。「何だこれは」と思って、即日控訴し ました。医師免許を要求する以外の方法は無いと言いますが、そんなわけないだろ うと。床屋さんだってカミソリで髭とか剃ったりします。その時に、血が出ること だってある。それだって感染症の恐れがあるわけです。あと、ネイリストさんに関 しても、今、国民生活センターなんかに苦情が増えていて、つけ爪と自爪の間にカ ビが生えたとか、ケガをしたとか苦情が多い。でも、これは民間資格でやっていて 国家資格ではない。つまり、床屋さんにしてもネイリストにしても、それぞれ保健 衛生上の危険が生ずるおそれがあるけれども、その危険に見合った資格、職業に対 する制約になっているわけですよね。それがやっぱり、職業選択の自由の保障だと 思うんですよ。タトゥーの彫り師に「医師免許を要求する以外の方法は無い」とい うのは、私は全然納得できないんですね。

 例えば、海外ではどうなっているかというと、アメリカは州ごとに違うんですけ れども、ニューヨークだと許可制になっていて、カリフォルニア州では登録制です。

いずれも、例えば何時間の講習を受けるということが義務付けられていたりとか、

何年に一回更新するとか、いろんな制約はあるのですが、許可制や登録制でやって います。フランス、イギリス、ドイツもそうです。

 私はこの一審判決はおかしいと思って即日控訴して、今日までずっと控訴審を やっているんですけど、一審の有罪判決を受けて真っ先に考えたのは、「お金が足 りない」ってことだったんですよ。さっきのクラブの事件もそうなんですが、弁護 人は一円ももらってないんですね。4年間、クラブの事件に関わってきましたけど、

一円ももらってないどころか、交通費とか自腹を切っています。タトゥーの裁判も そうなんですよ。支援者たちの寄付は集まったんだけど、やっぱり裁判記録をコピー したりだとか、東京の学者の先生に会いに行ったりだとか実費に消えてしまうんで すね。私は一審の有罪判決がめちゃくちゃ悔しかったから、控訴審ではもっと憲法 上の主張、立証をして、海外での規制状況もきちんと調べて翻訳し、証拠として出 してやるんだと思ったんですが、お金が無いわけです。翻訳は費用が高く、何十万 円もかかってしまいます。一審では刑法学者や医事法の研究者、現役のお医者さん に協力してもらっていましたが、憲法学者の意見書はありませんでした。お金がな

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かったからそこまでできなかったんです。

 私は、控訴審では絶対に憲法上の主張を力強くしていかなくちゃいけないと思っ たので、やっぱり憲法学者に意見書を書いてもらう必要があると思い、そのための お金をなんとかしなきゃって思いました。いろいろ調べてみたら、外国ではクラウ ドファンディングで裁判費用を集める、ということが行われている。「社会正義の ために訴訟費用をクラウドファンディングで集めるクラウドジャスティス(Crowd Justice)が200万米ドルを調達」というニュースをネットで見つけました。「これ だ!」と思い、私もクラウドファンディングでお金を集めようと思いました。誰で も思いつきそうなことですが、日本では誰もそんなことやっていませんでした。日 本でもお金にならない裁判はいっぱいあります。弁護士は全然お金がもらえなくて、

せいぜい実費。実費すらもらえなくて弁護士が持ち出しとか、そんな事件はいっぱ いあります。社会のためにやる仕事っていうのは、どうしてもそうなってしまう傾 向があります。そうかといって、何百万円もかかる費用は被告人や裁判の当事者に

「払って」と言える金額ではありません。

 クラウドファンディングは誰でも思いつきそうなアイディアなのに、誰もやって ないのはなぜだろうと考えてみると、弁護士倫理や税法上の問題などいくつか乗り 越えなくてはならないハードルがあることがわかりました。とはいえ、いずれも簡 単に乗り越えられそうなハードルだなと思って、クラウドファンディングのプラッ トフォーム「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」の社長、家入一真さんを知っ ているという弁護士に繋いでもらい、家入さんに会いに行きました。私は弁護士で、

現在こういう裁判やっていますがお金が無いと。そして、いまは弁護士が増えすぎ て競争も激しく、食べていくのが非常に大変な業界であること、そんな中で若手の 弁護士が、社会的な意義はあってもお金にならない仕事をやるということがどんど ん難しくなっていることなどの実状を話しました。理論的に難しい裁判であり、一 審で有罪になっている、そのうえ、世間から嫌われているタトゥーの話だから、全 然お金が集まらないんじゃないかと不安でした。しかし、実際にいろいろ工夫しな がらやってみたところ、300万円の目標金額を超える3,385,500円が集まりました。

これにはすっごく励まされました。お金が集まっただけではなくて、すごく沢山の 人が、こんなやり方で職業をいきなり奪われるのはおかしいと応援してくださった

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んです。中には、タトゥーは嫌いだけど応援する、という方もいました。

 クラウドファンディングをやるにあたって、クラブの事件の時に学んだことを活 かして、フェイスブックページを作ったり、ツイッターのアカウントを作成して毎 日なにかを発信し、拡散してもらうようにして、どうにか裁判のことを知ってもら う、応援してもらうということを工夫しました。そして、こういうふうにお金を寄 付していただいたおかげで、控訴審では憲法学者の意見書も提出することができま したし、海外の規制状況に関する調査、翻訳もすることができました。控訴審は先 日第1回が終わりまして、11月14日に判決の言い渡しがあります。私は超ドキドキ です。自分が関わっている裁判の中でも特に力を入れてやってきたことなので、も し何かで結果を知ることがあれば「あ、あれのことだな」って思ってください3)

プライバシーの権利 -GPS捜査違法事件-

 この事件で行われていたGPS捜査とは、大阪府警が捜査対象者の車両に勝手に GPSを取り付けて位置情報を取得していたというものです。その捜査方法が令状を 取らなくてもいい任意処分なのか、それとも強制処分なのかということが争われま した。この事件も、ロースクール出身の6人の弁護団で取り組みました。6人中5 人が弁護士になって4年目の同期で、1人が私の後輩の弁護士になって2年目の弁 護士というほんとに若手の、この業界でいえば、ぺーぺーの6人で取り組んだ事件 でした。

 GPSが日常生活においてどのように利用されているかというと、お子さんに持た せて居場所をお母さんが把握するとか、長期で留守にするようなときに、自分のバ イクとか車につけておいて、盗難にあった場合に車やバイクの居場所を確認すると いうようなことで利用されています。私たちのスマートフォンにもGPS位置情報を 使ったアプリとかいっぱい入っているので、すごく身近なものだとは思います。

 大阪府警は、サービス提供会社、本件の場合はセコムから警察官の個人名でGPS 端末をレンタルして、それを捜査対象者の車やバイクに密かに装着していました。

3)2018年(平成30)11月14日、大阪高裁で「タトゥーは医行為にあたらない」として逆転無 罪判決が下された。11月27日大阪高検は控訴審判決を不服として最高裁に上告した。

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パソコンやスマートフォンなどでセコムのホームページにアクセスし、GPS端末の 契約番号を入れると、端末がいまどこにあるのかがわかります。現在いる場所の把 握や追跡とかに使っていました。

 私がこの事件に関わるきっかけとなったのは、ある窃盗犯との接見でした。平成 25年12月、「大阪の東警察署に、職業的な窃盗集団の主犯格の男性が逮捕されたの で、亀石さん行ってきてください」というふうに事務所の先輩に言われまして、「わ かりました」と、警察署に行きました。その時は、最高裁までいくような大事件に なるなど思ってもいませんでした。

 警察署で接見した被疑者は「僕は窃盗をしました」、そして「何件もしてるんで これからたくさん再逮捕もされるだろうし、何か月もかかると思います。僕は全部、

罪は認めるし、償うのでよろしくお願いします」と仰いました。私が「わかりまし た。長いお付き合いになりますが宜しくお願いします」という挨拶をした後、彼は、

「ところで、自分が逮捕される数か月前、共犯者が自分のバイクを修理に出したと ころ、修理工場の人がネジを外してガバっとカバーみたいなのを外したら、そこに GPSを発見した。だから、『みんなの車にも付いているかもしれないから見たほう がいいよ』って共犯者から言われて、自分の車の下に潜ってみたら、ちょうど車体 の真ん中あたりに磁石でGPSがくっつけられていた。」って言うんですね。この人 たちはいろんなところで事件を起こしていて、大阪だけじゃなくて、兵庫とか長崎 とかいろんなところへ遠征して事件を起こしていたんですけれども、行く先々に、

同じなにわナンバーの車がいたと言うわけです。「何で自分たちの居場所がわかる んだろう。もしかしたら携帯電話の基地局のデータとかで自分たちの居る位置が把 握されているんじゃないかという会話をしたことがあったんです」と。「だからこ のGPSを取り付けたのって絶対に大阪府警だと思うんですよね」と。「そんなこと 警察だからってしていいんですか?」って聞かれたんですね。「していいんですか?」

と聞かれても、警察がGPSを使って捜査しているという話はそれまで聞いたことが なかったですし、もししていたとして、それは令状を取らずにしていい捜査なのか?

ということは刑事訴訟法の授業とか、教科書にも出てきていませんでした。直感的 にはダメっぽいんだけど、どうなんだろう、わからない、と。それで彼には「次の 接見までに調べておくので、ちょっと待っていてくださいね」と言って、一旦、事

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務所に帰りました。いろいろ調べはじめて、まず出てきたのが、福岡地裁に係属し ていた覚せい剤取締法違反の事件でした。警察が被疑者の車にGPSをつけていたと いう内容で、刑事裁判で弁護人がその捜査をプライバシー侵害だとして争っている という朝日新聞の記事を見つけました。彼が言っていたことは本当なのかもしれな いと思いました。

 結論から先に申し上げると、この福岡の裁判では、令状のないGPS捜査が違法か 適法かについて、判断されることはありませんでした。というのも、この事件では、

GPS捜査によって得られた証拠は、裁判の証拠として請求されていなかったので す。そのため、GPS捜査が違法かどうかという判断を示さなくても、結論が出せる、

被告人を有罪にできるという構造になっていたので、あえて判断しなかったのです。

なので、おそらく刑事裁判で初めて令状のないGPS捜査の適法性を争ったのがこの 福岡地裁の件だと思うのですが、残念ながらここでは判断が示されませんでした。

 同時に私が見つけたのは、その一年前、2012年にアメリカの最高裁で出された ジョーンズ判決というものでした。判決では、令状を取らずにGPS捜査をするのは 憲法違反だという結論が出ていました。法廷意見は、GPS捜査は令状を取らない とできない「捜索」にあたる、という理由からでした。そして補足意見がついてい て、GPS捜査というのはプライバシーの利益を侵害したことになる、と述べていま した。私は福岡地裁の件とジョーンズ判決を知って、彼の言っていることは本当か もしれないし、もし本当だったら許されないんじゃないか。令状を取らなかったら 違法なんじゃないかと思いました。

 そして、2回目の接見に行ったときに、彼にそういうことを報告したうえで、で も、これを裁判で争うというのはものすごく難しいことだと話しました。その理由 の一つは、大阪府警が彼の車にGPSを取り付けていたという証拠が何にも無いとい うことです。彼は発見したGPSをその辺に置いてどこかへ出掛け、戻ってきたら 無くなっていたっていうんですね。GPS端末自体を保管していたわけではないし、

写真すら撮っていない。番号を控えていたわけでもなく、何の証拠も無いわけです。

そうすると、大阪府警がGPS捜査をしていた、ということ自体が裁判の俎上に乗ら ないわけです。そうすると、刑事裁判の中で証拠開示手続きという手段を使って、

検察官の手元にあるいろんな証拠を開示させ、大阪府警がGPS捜査を行っていたな

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んらかの手がかりを入手しないといけないわけです。

 しかし、そのためには裁判が始まる前に、公判前整理手続という、証拠と争点を 整理する手続きを経る必要があります。そうすると、裁判が始まるまでにどんなに 短くても一年はかかるだろうと思ったんですね。その間、通常は罪を認めて保釈請 求をし、それが通れば外に出られるわけです。でも、GPS捜査の違法性を主張した ら、罪自体は認めていても保釈請求は認められないだろうと思ったんですよね。だ から彼に「すっごい時間かかるよ」と言いました。その間、外に出られないかもし れない。そしてその期間は一年以上になるかもしれないと伝えました。

 また、もし大阪府警がGPS捜査をしていたことを明らかにできたとしても、裁判 所がどう判断するかは、全然わからないわけです。日本では先例の無い争点ですし、

もしかしたら尾行や張り込みと同じように「令状が無くても捜査はできる」、適法 であると評価する可能性も全然あるわけです。もし違法と判断されたとしても、そ んなに重大な違法ではないから証拠は排除しない、とされる可能性もある。

 それに、彼は罪を認めていたし、調書も作っているので、もしGPS捜査が違法だ ということになったとしても、彼が無罪になるわけではない。場合によっては「捜 査の違法を争うなんて、反省していないんじゃないか?」ということで量刑が重く なる可能性もある。だから彼には「捜査の違法を争おうとするといろんなリスクが ありますよ」ということを言いました。

 そして最後に言ったのは、「それなりにお金がかかります」ということでした。

弁護士費用を何百万も払ってくれとは言わないけれども、これから証拠開示請求を するうえでコピー代だけで何十万円とかかかることもあるわけですね。証拠の謄写 費用って1枚10円じゃない。手間賃のようなものが発生して、1枚40円程度になっ てしまいます。なのでコピー代だけでもかなりの金額になってしまいますし、GPS 捜査の適法性は刑事訴訟法上の新しい論点でもありますので、学者の意見書が必要 になってくるだろうということも考えました。それにはまた何十万円もかかかるだ ろうと。

 私は、「実費だけで、少なくとも100万円くらいはかかると思うけど、出せますか?」

ということを確認しました。私はこの事件をやりたくなくてこんなことを言ったの ではなく、今後の見通しをしっかりと伝えて、想定しうるリスクもすべて伝えたう

参照

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