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専修人間科学論集心理学篇 Vol. 3, No. 1, pp. 33~40, 強制水泳試験によるうつ病モデルマウスの現状と課題 蔵屋鉄平 1 2 澤幸祐 Current status and issues in a mouse model of depression by the f

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薬効評価と動物モデルの必要性

Kuhn(1958)によってイミプラミンの抗うつ効果が 報告されたことにより,うつ病に対する薬物療法の時代 が幕を開けた。効果的な薬物の発見は,患者をうつ病の 苦しみから解放するばかりでなく,その発症機序を明ら かにするための手掛かりを提供し,さらには後続する抗 うつ薬の開発競争を促した。これは同時に,病態生理の 解明や新規化合物の薬効評価に用いられる動物モデルの 必要性も高めることになった。

うつ病の動物モデルを作成するため,これまでにさま ざまな手法が用いられてきた。いずれの動物モデルも,

うつ病患者が示す状態をできる限り再現することを試み ている。けれども,ヒトが示す“精神的”な症状や言語 を介して表明される苦痛を,動物モデルで再現するのは 当然のことながら不可能である。したがって,作成した 動物モデルがどの程度ヒトの臨床像に接近しているかに ついては,行動や神経系の異変など,観察可能な状態像 を指標として評価するよりほかない。動物モデルの妥当 性については,表面妥当性(face validity),構成概念妥 当性(constructive validity)および予測妥当性(predic- tive validity) に よ っ て 評 価 さ れ る(Willner,1991)。

表面妥当性とは,動物モデルと障害とが現象学的に類似 しているかどうか,構成概念妥当性とは,理論的な根拠

が適切であるかどうか,また予測妥当性とは,動物モデ ルにおける薬物の効果がヒトにおける臨床状態の改善効 果を反映しているかどうかを示す指標である。

これらの妥当性がいかに確保されようとも,ヒトの臨 床像を動物で完全に再現することは原理的に不可能であ る。うつ病に限ったことではないが,このような不可能 性を含んでいることや,障害の原因および病態生理に多 くの謎を残している状況は,うつ病の動物モデルが多様 化する理由ともなっている(Cryan, Markou & Lucki,

2002)。けれども,モノアミン仮説をはじめとする生物 学的な原因仮説の提唱や,臨床効果を発揮する薬物の開 発には,動物モデルを通じて得られた知見の蓄積が多大 な貢献を果たしてきたのも事実である。したがって,い まだ不明な点が多いうつ病の原因および病態生理を今後 さらに解明していくためには,より適切な動物モデルの 検証を重ねてゆくことも不可欠の課題である。Cryan &

Mombereau(2004)が多様化するうつ病動物モデルの 特徴をまとめている(表 1 )。一見してわかるとおり,

再現性や抗うつ薬への反応性などの点で,各モデルには ばらつきがある。これらのうち,どのモデルがより適切 なうつ病動物モデルであるかは断言できず,研究や開発 の目的によって使い分けられているのが実情である。現 在では,うつ病動物モデルによる新規抗うつ薬の薬効評 価が主要な目的となっていることから,操作の簡便性や 抗うつ薬に対する反応性の高さが知られている強制水泳 試験(Forced swim test;FST)が,もっとも頻繁に用 いられるモデルとなっている。したがって,本稿では FST によって得られている知見を概観することを通じ

受稿日2012年11月19日 受理日2012年12月14日

1  専修大学大学院文学研究科(Graduate School of the Humanities, Senshu Univercity)

2  専修大学人間科学部心理学科(Department of Psychology, Senshu University)

強制水泳試験によるうつ病モデルマウスの現状と課題

蔵屋鉄平

1

・澤 幸祐

2

Current status and issues in a mouse model of depression by the forced swimming test

Teppei Kuraya1 and Kosuke Sawa2

Abstract:抗うつ薬の薬効評価や新規抗うつ薬の開発には,適切な動物モデルの存在が欠かせない。うつ病 動物モデルの作成法は複数あるが,操作の簡便性や薬物への反応性の高さから,強制水泳試験がもっとも頻繁 に用いられるうつ病動物モデルである。強制水泳試験は,薬効評価のみならず,うつ病の病態生理の解明にも 多大な貢献を果たしてきた。しかし,頻用されるに伴い,変法が多様化し,そこから得られる知見は複雑化し ている。また,用いる系統によっても反応性は異なることが知られ,最適なモデルを特定するには至っていな い。さらに,うつ病モデル動物とヒトのうつ病との間には決定的な隔たりがあり,その問題をいかに扱ってい くかは重要な課題である。本稿では,強制水泳試験によるうつ病モデルマウスの知見を概観し,その現状と今 後の課題を検討した。

Keywords:強制水泳試験,動物モデル,うつ病

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て,うつ病動物モデルの意義および今後の課題を検討す ることにしたい。

強制水泳試験(FST)

FST は Porsolt, Le Pichon & Jalfre(1977b)によっ て,新たなうつ病動物モデルの作成法として開発され た。この方法はラットとマウスそれぞれに用いられる が,抑うつ様行動を導出する方法は両者で共通してい る。複雑な操作は必要なく,逃避不可能な水槽の中に水 を入れ,そこにラットあるいはマウスを投入するという 簡単な手続きである。ラットやマウスは水槽に投入され ると,最初のうちは水槽から逃げ出そうとしてもがき,

泳ぎ回る。しかし,次第にそのような行動は減少し,や がて水面から鼻先だけを出して水に浮いたまま動かなく なる状態(immobolity)を示す。FST うつ病モデルで は,セッション中にラットやマウスが示す無動時間(im- mobility time)を計測し,これを抑うつ様状態の指標と する。したがって,新規薬物の薬効評価には無動時間の 変動が重要な指標となる。

ラット・マウスともに無動時間を抑うつ様行動の指標 とすることに変わりはないが,それぞれの実施時間やテ スト方法がやや異なっている。ラットでは,水槽(高さ 40cm,直径18cm)に25℃の水を15cm 張り,まず15分 間の強制水泳を実施する(pretest session)。次いで,

その24時間後に 5 分間の強制水泳を実施し(test ses- sion),そこで生じる無動時間を計測する。マウスでは,

水槽(高さ25cm,直径10cm)に21º-23℃の水を 6 cm 張り, 6 分間の強制水泳を実施する。無動時間は,この 6 分間のセッションの後半 4 分間に生じる無動状態を計 測する。

FST が発表されると,この方法は瞬く間に広がった。

操作の簡便性も要因ではあったが,そればかりではな い。その当時には,うつ病に類似した状態を示し,なお かつ新規抗うつ薬の臨床効果に対する選択性をもった動 物モデルが不足していたという時代背景があったのであ る(Porsolt et al.,1977b)。しかし,その有用性が評価 される一方,当然のことながら FST によって生じる無 動時間を抑うつ様行動として扱うことへの疑義も差し挟 まれた。無動時間を抑うつ様状態と解釈することに対す る批判は,主にラットを用いた追試によって展開されて いる。

はたして無動状態は,ヒトの抑うつ状態を反映してい るといえるのだろうか。Porsolt, Bertin & Jalfre(1977a)

では,活発に動き回ったあとに逃避不可能であることを 学習し,やがて動かなくなることは動物の行動原理に基 づくと説明している。この逃避不可能であることの学習 によって生じる無動が行動的“絶望”と解釈され,つま りは抑うつ様行動だと考えられたのである。しかし,

Hawkins, Hichs, Phillips & Moore(1978) は,pretest session で水に投入されることで,test session 時の恐怖 は減じているはずであるから,test session における無 動時間は絶望ではなくストレスフルな環境への適応的な 反応であるという解釈を提出している。この解釈は,

Borisini, Volterra & Meli(1986)によって,絶望より も環境に親和的である方が,行動的に無動は増加すると いう結果が報告されたことにより支持されている。ま た,O’Neill & Valentino(1982)は,pretest session で 水槽からの逃避が可能であっても不可能であっても,

test session での無動時間に差が見られなかったことを 示し,逃避不可能な状況と無動時間は無関係であると結 論づけている。このような議論は絶え間なく繰り返され ているが,いまだに決着しているとはいえない。けれど 表 1  代表的なうつ病モデル動物の特徴

評価法/モデル 簡便性 再現性 抗うつ薬への選択性 抗うつ薬の有効性

強制水泳試験

(Forced swim test;FST) 高 高 高 急性

尾懸垂試験

(Tail suspension test;TST) 高 高 高 急性

学習性無力試験 中 中 高 3 - 4 回

慢性緩和ストレスモデル 低 低 高 慢性

嗅球摘出モデル 中 高 高 慢性

胎児期ストレスモデル 中 慢性

退薬誘発性無快感モデル 低 高 中 慢性

Cryan et al.(2004)を和訳・改変

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も,FST が抗うつ薬の評価手段として頻用されている のは事実であることから,行動への解釈はさておき,薬 物の影響による行動変容を検出する方法として一定の有 効性をもつことは間違いのないところであろう。

FST の変法

Porsolt et al.(1977b)以降,その方法にさまざまな 改変が加えられ実施されている。多数の変法による多様 な結果から,うつ病モデルマウスの状態像を総合的に検 証し,ヒトの臨床像へと応用し理解していくことは至難 の業である。

水槽の直径と水深

Sunal, Gumusel & Kayaalp(1994)は,抗うつ薬とカ フェイン,抗コリン薬,抗ヒスタミン薬の効果を区別す る方法として,直径10cm,20cm,30cm,50cm の各水 槽を用い,水深を20cm として15分間の強制水泳を実施 した。その結果,直径10cm の水槽では,その他の薬物 と比較して抗うつ薬の効果が偽陽性となり,直径20cm と30cm の水槽では抗うつ効果を検出することができた。

また,強制水泳中の活動性の評価として,水槽内での旋 回運動を指標とすることで抗うつ薬の選択的効果を検出 しうると述べている。この方法では,強制水泳の実施時 間や水深も変更されているが,ここでは水槽の直径に焦 点が当てられている。水深については,マウスの尾が水 槽の底につかないように注意を払うべきである。Por- solt et al.(1977a)では 6 cm で十分であると説明され ているが,この水深ではマウスの尾が水槽の底に付くこ とがある(Petit-Demouliere, Chenu & Bourin,2005)。

水深による行動の変化については,ラットでは水深が増 すと無動時間が減少することが報告されている(Borisi- ni & Meli,1988;Detke & Lucki,1996)。しかし,マ ウスについての明確な報告はこれまでのところない。

FST の変法手続きは研究者によってさまざまに行われ た が, も っ と も 多 く 引 用 さ れ て い る の は,Aley &

Kulkarni(1989) で あ る。 彼 ら は, 高 さ21cm, 直 径 12cm のガラス瓶に22º± 1 ℃の水を12cm 張り, 6 分間 のセッションを行なった。つまり,ここで行われている 主な改変は水深だけである。

水温

水温の変化がマウスの無動時間に影響を与えることは 明らかである。 Arai, Tsuyuki, Shiomoto, Satoh & Otomo

(1989)は水温35℃で FST を実施したところ,無動時間

が短縮したことを報告している。同様に,Taltavull, Chefer, Shippenberg & Kiyatkin(2003)は水温25℃と 37℃でマウスの無動時間を比較し,25℃の方が無動時間 が長くなることを報告している。また,その機序として 脳温度の低下が神経機能を抑制するためであると結論し て い る。Heidi, Michel, Ursula & Carsten(2007) は C57BL/ 6 J と BALB/cAnNCrl の 2 系統のマウスを用い て水温(20℃,25℃,30℃)の違いによる無動時間を比 較 し て い る。 結 果 は 両 者 で 正 反 対 の 傾 向 を 示 し,

C57BL/ 6 J は水温の上昇に伴って無動時間が増加し,

BALB/cAnNCrl では減少した。水温の変化が無動時間 に与える影響は一貫した傾向を示しているわけではない が,その影響はかなり強いものといえるだろう。FST を用いた近年の研究では,23℃から28℃程度の水温で実 施されることが多くなっている(Petit-Demouliere et al.,2005)。

薬物反応性

FST の主要な目的は薬効評価であり,上述の変法も 薬効評価をいかに効果的に実施できるかが重要である。

表 2 に,マウスへの抗うつ薬投与による無動時間の変化 の報告とその文献一覧を示した。全体的に無動時間は減 少しているが,変化の仕方にはばらつきがあり,一貫し た傾向は見られない。このような多様な結果が報告され る要因としては,薬物の種類や投与量の違いばかりでな く,それ以外の要因も考えられる。重要な要因として,

マウスの系統によって薬物反応性が異なることが知られ ている。この差は FST を実施する上でもっとも重要な 指標の一つであると考えられている(Lucki, Dalvi &

Mayorga,2001)。このことは,FST を開発した Por- solt によっても当初から述べられており,FST では無 動出現と薬効に系統間の重要な違いがあることが指摘さ れている(Porsolt, Le Pichon & Jalfre,1978)。

FST による薬効評価でもっとも用いられる系統は Swiss と NMRI であり,抗うつ薬に対する感受性が高 いことが知られている(David, Renard, Jolliet, Hascoët

& Bourin,2003)。C57BL/ 6 J も頻繁に用いられるが,

この系統はストレス刺激への感受性や活動性の高さを示 すことがその理由となっている(Otmakhova, Gurevich, Katkov, Nesterova & Bobkova,1992)。このような頻 用される系統はあるものの,実際には研究者によって任 意に系統が選択され,FST が実施されている。それぞ れのマウスでは,薬物反応性以外にも活動性などのさま ざまな側面で特徴が異なる。そのため,FST を実施す

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る際には,目的に応じてどのような系統を採用すべきか が重要な課題となる。

FST や薬物に対する反応の系統差について,Lucki et al.(2001)は11系統のマウスを用いて FST を実施した ところ,無動時間ベースラインは最大で10倍の差があ り,またベースラインと抗うつ薬の感受性に相関が見ら れないことを報告している。ノルアドレナリン再取り込 み阻害薬(noradrenaline re-uptake inhibitor;NRI)に よ る 無 動 時 間 の 減 少 は11系 統 中 7 系 統 に 見 ら れ,

DBA/ 2 J と C57BL/ 6 がもっとも高い反応性を示す系 統であった。対照的に,選択的セロトニン再取り込み阻 害 薬(selective serotonin re-uptake inhibitor;SSRI)

への反応性を示す系統は,DBA/ 2 J,BALB/cj,NIH- Swiss の 3 系統のみであった。つまり,薬物反応性がマ ウスの系統によって異なるばかりでなく,FST という 手続きそのものへの反応性,つまり無動時間のあらわれ かたも,系統によりかなりの違いが見られるのである。

そのため,抗うつ薬によって無動時間の減少が見られた 表 2  マウスの FST による抗うつ薬の効果と文献

Drug Dose(mg/kg) % of immobility time

(control=100)

Amitriptyline 4 50 DeGraaf,vanRiezen,Berendsen & vanDelft(1985)

7.5 54-67 Porsolt, Bertin & Jalfre(1977a);Wallach & Hedley(1979)

10 68 Browne(1979)

15 30-36 porsolt et al.(1977a);Wallach & Hedley(1979)

30 37-34 porsolt et al.(1977a);Wallach & Hedley(1979)

32 35 Browne(1979)

Amoxapine 6 active DeGraaf et al.(1985)

Bupropion 10 50 DeGraaf et al.(1985)

Clomipramine 5 67 Porsolt et al.(1977a)

32 43 Browne(1979)

Fluvoxamine 20 active DeGraaf et al.(1985)

Imipramine 2 100 Reny & Rips(1985)

3 50 DeGraaf et al.(1985)

3.2 65 Browne(1979)

16 67 Frances & Simon(1985)

32 37-34 Browne(1979)

60 29 Betin, DeFeudis, Blavet & Clostre(1982)

Mianserine 3 50 DeGraaf et al.(1985)

30 97 Devoize, Rigal, Eschalire,Trolese & Renoux(1984)

32 51 Browne(1979)

40 47 Porsolt et al.(1977a)

56 19 Browne(1979)

80 75 Porsolt et al.(1977a)

Nortriptyline 5 50 DeGraaf et al.(1985)

10 82 Parale & Kulkarni(1986)

15 77 Wallach & Hedley(1979)

30 36 Wallach & Hedley(1979)

Trazodone 13 50 DeGraaf et al.(1985)

Trimipramine 10 71 Parale & Kulkarni(1986)

Borisini & Meli(1988)より抜粋

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としても,その効果を評価する際にはより慎重な姿勢が 不可欠になるだろう。

系統差による薬物反応性の違いとしては,近交系と非 近交系に大別した場合でも,その差は顕著である。Pe- tit-Demouliere et al.(2005)は,代表的な近交系マウ ス 3 種と非近交系マウス 4 種の抗うつ薬の反応性をまと めている(表 3 )。抗うつ薬への反応性としては,非近 交系マウスの方が高いことがわかる。近交系では,

C57BL/ 6 Rj にドーパミン再取り込み阻害薬(dopamine re-uptake inhibitor;DRI) の 効 果 が,C57BL/ 6 J に NRI の効果がそれぞれあらわれるのみとなっている。

CD- 1 ,NMRI,Swiss といった FST に頻用される系統 は,ほとんどの抗うつ薬に対してポジティブな反応性を 有しているのである。HaM/ICR は,FST において多く の抗うつ薬に反応性を有しているように思われるが,用 いられるのはまれである。この系統を用いて抗うつ薬の 薬効評価を行っている文献は,DeGraaf et al.(1985)

程度である。

系統による抗うつ薬への反応性はさることながら,用 いられる抗うつ薬の種類によっても反応性が異なる。

David et al.(2003) は 近 交 系 マ ウ ス(DBA/ 2 , C57BL/ 6 J Rj)と非近交系マウス(Swiss,NMRI)を

2 系統ずつ用いて, 5 種類の抗うつ薬(imipramine,

desipramine,citalopram,paroxetine,bupropion) へ の反応性を比較している。その結果,無動時間のベース ラインには差がなく,系統によって抗うつ薬への反応性 が異なっていた。非近交系の Swiss は imipramine,de- sipramine,citalopram,paroxetine で無動時間が減少 し,もっとも多くの薬物に対する反応性を示した。対照

的に NMRI で無動時間の減少が見られたのは parox- etine のみであった。一方,近交系の C57BL/ 6 J Rj は 4 系統の中で唯一 bupropion によって無動時間が減少 し,DBA/ 2 は用いられた 5 種類の抗うつ薬では無動時 間の減少が観察されなかった。この結果から,非近交系 の Swiss が FST における抗うつ薬への反応性を有し,

また,DBA/ 2 を FST に用いることには限界があると 結論している。

ここに挙げた先行研究はごく一部にすぎないが,それ でもかなり混沌とした現状を窺い知ることができる。同 じ系統のマウスであったとしても,その結果が一致して いるとはいえず,これらの知見のどれが真実であるとも 言い切れない。系統差による反応性の違いが薬効評価に 与える影響は多大だが,多様化する研究結果に介在する 要因はそれだけではない。変法による FST 手続き,用 いる薬物の種類,薬物の投与量など,さまざまな要因の 影響が考えられる。このようなさまざまな影響によっ て,結果が容易に変わりうることを念頭に置き,細心の 注意を払って実験条件を統制することが不可欠である。

うつ病とうつ病動物モデル

外傷的な体験やストレスフルな環境に直面すること が,うつ病の主なきっかけの一つになることが示されて いる(Kessier,1997)。また,うつ病患者にはストレス へ の 対 処 能 力 の 低 下 が し ば し ば 見 ら れ る(Sullivan, Neale & Kendler,2000)。したがって,多くのうつ病 動物モデルが,ストレスフルな状況への暴露によって引 き起こされる抑うつ様行動をその評価の焦点としている

(Cryan & Holmes,2005)。FST ももちろんこれに即し 表 3  マウスの系統による抗うつ薬の効果の違い

近交系  非近交系

C57BL/ 6 Rj C57BL 6 J DBA/ 2 CD- 1 HaM/ICR NMRI/BC Swiss/Janier

DRI + - + + - -

NRI - + - + + - +

SNRI +

SSRI - - + + + +

MAO-I + -

TCAs - - + + + +

+,抗うつ薬による効果あり Petit-Demouliere et al.(2005)を改変

-,抗うつ薬による効果なし

DRI;Dopamine re-uptake inhibitor,NRI;Noradrenaline re-uptake inhibitor,SNRI;Serotonin and noradrenaline re-uptake inhibitor,SSRI;Selective serotonin re-uptake inhibitor,MAO-I;Monoamine oxidase inhibitor,TCAs;

Tricyclic agents

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た手続きとなっている。マウスにしてみれば突然,水に 放り込まれるというストレスフルな状況に直面するので あり,それに反応してマウスが示す抑うつ様行動(無動 状態)が評価されている。しかし,上述のとおり,これ が対処不能状態であるかどうかについては,今もなお議 論が分かれるところである。

FST によってマウスに引き起こされる行動変容を,

ヒトのうつ病へと適切に翻訳してゆく試みは,大変重要 な課題である。マウスが抗うつ薬によっていかに回復し ようとも,マウスの状態がヒトのうつ病をまったく反映 していないのであれば,FST という試み自体が意味を なさない。Cryan & Holmes(2005)は,ヒトのうつ病 を診断する際に用いられる,The Diagnostic and Statis- tical Manual(DSM- Ⅳ;American Psychiatric Associ- ation,1994)に記載されているうつ病の症状を,マウ スの行動に対応させている(表 4 )。各モデル症状につ いての研究結果は個別に積み重ねられてきた。しかし,

それらは FST による影響で生じた結果を述べたもので はない。したがって,FST によるうつ病モデル動物が,

ヒトの診断基準を満たしうるかどうかは不明である。

症状とは別に,ヒトのうつ病とうつ病動物モデルで は,回復の過程に違いが見られることも指摘されてい る。ヒトのうつ病では,一般に抗うつ薬の投与開始から 効果発現までは 2 週間程度を要する。つまり慢性投与が 必 要 で あ る。 し か し,Dulawa, Holick, Gundersen, &

Han(2004)では,慢性投与によって急性投与よりも薬 物の効果が減弱したことが報告されている。効果発現ま での期間がヒトとの間で乖離していることは,FST に

よるうつ病動物モデルにとっての主要な課題となってお り,臨床効果との相違を示す知見が次々に示されている

(Maeng, Zarate, Du, McCommon, Chen & Manji,

2008;Dhir & Kulkarmi,2008)。

おわりに

FST はその汎用性の高さから,さまざまな改良が加 えられてきた。そのような数々の取り組みは,うつ病の 発症機序や新薬の開発に多大な貢献を果たしてきたとい えるだろう。しかし,多角的な検証が可能になった反 面,うつ病に対する知見があまりに多様化し,実態の把 握をかえって複雑にしているという現状も否定できな い。近年では,遺伝子改変技術が発展したこともり,遺 伝子改変マウスを用いた FST も数多く実施されるよう になっている。したがって,今後は現状に輪をかけて複 雑さが増すことが予想される。また,FST による抗う つ薬の検出能力が確立されるに従い,ヒトのうつ病に対 する薬効を探索するという目的を逸脱し,マウスへの薬 効を示すことが抗うつ効果であるかのような転倒も起こ りかねない状況である。Deroche-Gamonet, Belin, &

Piazza(2004)は,薬物依存に関する動物実験を通じて,

DSM のⅠ軸に述べられている状態を忠実に再現しよう という考えを提唱している。Cryan & Holmes(2005)

がうつ病症状とモデル症状との対応を示したように,動 物モデルから得るべき知見は,常にヒトの臨床像との対 応を考慮に入れた上で蓄積されてゆくべきだろう。

表 4  マウスにおけるうつ病の症状モデル

うつ病症状 モデル症状

ほとんど一日中の抑うつ気分 なし

毎日の活動における興味や喜びの著しい減退 脳内自己刺激,報酬(ショ糖など)に対する反応

性の低下

食欲や体重の著しい変化 慢性ストレス刺激の負荷による異常な体重の減少

不眠や睡眠過多 異常な睡眠構築(脳波による測定)

精神運動性の焦燥や制止 ハンドリングの困難および自発運動活性の変化

易疲労性または気力の減退 ホームケージにおける活動性,回転かごなどでの

活動性,巣づくり,覚醒脳波の低下

決断困難または思考力や集中力の減退 作業記憶や空間記憶の欠如,持続的な作業の障害

些細な作業の遂行困難 慢性ストレス刺激の負荷による毛並みの低下

死についての反復的思考,または自殺企図 なし

無価値観または不適切な罪責感 なし

うつ病症状は DSM- Ⅳ(1994),モデル症状は Cryan et al.(2005)をそれぞれ和訳

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